異世界で 上前はねて 生きていく (詠み人知らず)   作:岸若まみず

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閑話 働き者通信

トルキイバ中町の壁新聞『働き者通信』秋の第四号

 

 

近頃この街はおかしくなっている。

 

昔の農夫はいつかもっと大きな畑を手に入れようとがむしゃらに働いたものだ。

 

だが今の若者はやれ綺麗な服だの美味い飯だの、流行りの店だの、ちゃらちゃらしてどうしようもない。

 

血を吐いてでも働く気概を無くし、ぬるま湯に浸かり、労働はシェンカーの奴隷達にでも任せてしまえとばかりに怠けて堕落している。

 

私は警告をする!

 

このままでは神の裁きがくだる!

 

麦は痩せ、人は病に冒され、隣人が隣人を打ち倒す末世がやって来ることになるだろう!

 

農夫達よ!目を覚まして立ち上がれ!

 

今一度贅沢を捨て!

 

神に祈り!

 

父祖や子らに恥じることのないよう、真剣に生きるのだ!

 

 

提供『神聖救貧院』

 

 

この号に書かれたいたずら書き

 

・その通り!

・救貧院に喜捨を!

・バカじゃないの?

・恋人募集中、西町のマッデン(19)

・おかしいのはお前の頭

 

 

 

トルキイバ中町の壁新聞『働き者通信』秋の第五号

 

 

近頃この街には少々彩りが足りぬようだ。

 

人々はゆとりを忘れ、遊び心を解さない。

 

時には花を愛で、恋人と愛を語らうような時間を持つべきである。

 

人は麦のみに生きるにあらず!

 

若者よ!愛を持て!

 

隣人を愛し、父母を愛し、恋人を愛せ!

 

腕一杯の花束を持って、愛する者の家の戸を叩け!

 

幸せは誰かが持ってきてくれるものではない!

 

君がその手で、誰かに送り届けるものなのだ!

 

 

提供『花屋ダムガード』

 

 

この号に書かれたいたずら書き

 

・万年独身オヤジがなんか言ってら

・ダムガードはいい花屋よ

・神聖救貧院に喜捨を!

・女の恋人募集中、西町のマッデン(19)

・母ちゃんに花渡したよ

 

 

 

トルキイバ中町の壁新聞『働き者通信』冬の第一号

 

 

近頃街が華やいでいる。

 

これはひとえに、シェンカー家の経営する華やかな喫茶店のおかげだ。

 

暗く冷たい街を明るく照らすランプのような、ほっとする暖かな店だ。

 

外の席では若人達が珈琲を片手に未来を語らい。

 

奥の席では老人達が子供たちを連れ、音楽と食事を楽しむ。

 

アストロバックスはこの街の縮図である。

 

若者には未来を!

 

老人には安寧を!

 

子どもたちには教養と食事を!

 

そこには全ての希望があり、幸せな時間がある!

 

若者よ!アストロバックスへ行け!

 

女神のように美しい店員と、美味なる料理の数々に癒やされ、明日への活力を養うのだ!

 

 

提供『アストロバックス』

 

 

この号に書かれたいたずら書き

 

・悪所に通うな!神聖救貧院に喜捨を!

・エラフは俺のもの

・↑殺すぞ

・こういうの書かれるとダサい奴がくるからやだな

・お前もダサいだろ

・年の近い女の恋人募集中、西町のマッデン(20)

・※卑猥な言葉※

・あんなとこ高くて行けねぇよ

・※卑猥な言葉※

 

 

 

トルキイバ中町の壁新聞『働き者通信』冬の第ニ号

 

 

世が乱れている!

 

借金奴隷が蔓延り!

 

その上前をはねて甘い蜜を吸おうとする、シェンカーのような悪魔も野放しになっている!

 

悪に裁きを下せるのは誰か!?

 

魔法使いが小悪人を裁かない今、頼れるのは神だけである!

 

神に祈りを!

 

そして神の実りであるパンにも祈りを!

 

人は麦のみに生きるわけではないが、生きることは食べていく事である。

 

北町のワァーブのパン屋のパンならば、きっと悪に打ち勝つ強い心を与えてくれるだろう!

 

そしてシェンカーにこれ以上哀れな奴隷たちを渡さないためにも、神聖救貧院に喜捨をせよ!

 

立ち上がれ若者よ!

 

未来は君たちの手の中だ!

 

 

提供『パン屋ワァーブ』

『神聖救貧院』

 

 

この号に書かれたいたずら書き

 

・風見鶏!反吐が出る!

・シェンカーにはみんな助けられてる

・シェンカーは悪!神聖救貧院に喜捨を!

・記事が雑だわ

・※卑猥な言葉※

・やべーんじゃないのこんなこと書いて

・おっさん終わったな

 

 

 

トルキイバ中町の壁新聞『働き者通信』冬の第三号

 

 

動物を愛でるのも悪くはない。

 

無垢な動物の愛は心を豊かにし、疲れを洗い流してくれる。

 

そんな経験を簡単にできるのが、大通りにあるシェンカー家のどうぶつ喫茶だ。

 

飲み物や軽食を頼んで席につくと、店内を放し飼いにされている動物達に触れることができる。

 

猫、犬、鳥、小さな馬やドラゴンまで。

 

触らずに見ているだけでも飽きさせない、愛らしい子ばかりだ。

 

珈琲を飲んでいた私の手に止まった鳥は青と黄色の羽で、子供の頃に飼っていたブーグー鳥を思い出した。

 

鳥はすぐに飛び立っていったが、いたずら好きのようで隣の女性の頭の上に乗っている。

 

チチチと鳴く声も美しく、私はしばらく鳥から目が離せなかった。

 

長毛の猫が膝に乗ったときは、毛がつくのではないかと少し気になったが、そんな思いは彼女の美しさの前には長く続かなかった。

 

琥珀のようなつぶらな瞳、芸術品のような毛並み、私の鼻先をくすぐる鍵しっぽ。

 

許されるならば、私は彼女をひそかにバッグに入れて持ち帰りたかった。

 

家に帰ってからズボンに毛を探したが、一本も見つからない。

 

せめて夢で逢える事を願い、ズボンを抱いて眠った。

 

若者よどうぶつ喫茶へ行け!

 

中年も行け!

 

老人もだ!

 

気分爽快!快眠快食間違いなしだ!

 

パンケーキも美味い!

 

 

提供『どうぶつ喫茶』

 

 

この号に書かれたいたずら書き

 

 

・悪所に行くな!神聖救貧院に喜捨を!

・ここ、うちの親父もこそこそ通ってる

・すげー行列できてるよな

・二号店も今みんなで作ってるよ

・猫でいいから一緒に住みたい、西町のマッデン(20)

・こないだシェンカーを悪く言ってたくせに

・だから風見鶏なんだよこの親父

 

 

 

トルキイバ中町の壁新聞『働き者通信』冬の第四号

 

 

どうぶつ喫茶で、個人的におすすめな子達を紹介する。

 

一位、猫のメリダ。

 

キツめの顔つきの長毛種ながらどこまでも愛らしい、手を出すと頭をこすりつけてくれる女神のような子だ。

 

あまりに大人気で、みんな抱いたら離したがらないのもわかる。

 

しかし私は彼女への負担が心配だ。

 

皆には深い自重を求めたい。

 

二位、犬のルイ。

 

投げられたおもちゃに全力で飛びつき、息を切らせて転げ回る彼は、一見馬鹿に見えてしまうかもしれない。

 

だが、それは我々人間が無くしてしまった愚直さなのではないだろうか?

 

動物から学ぶべきことは多いということを、彼の生き様は教えてくれる。

 

三位、馬のキアン

 

どことなく賢そうな顔をしているのに、ものすごく甘えん坊な栗毛の彼。

 

膝の上に蹄を乗せてつぶらな瞳で見つめられれば、誰だってすぐに彼の事が好きになってしまうだろう。

 

犬のようにパタパタ揺れるしっぽも可愛らしく愛らしい。

 

ちなみに彼は小さいが子馬ではなく、小さい種類の馬ということだ。

 

許されるならば、うちの庭へとお迎えしたいものだが、それは叶わぬ夢だろう。

 

トルキイバの民よ、やはりどうぶつ喫茶へ行け!

 

動物から学ぶべきことはあまりに多い!

 

彼らの無垢な心に触れ、己を見つめ直すのだ!

 

前号ではパンケーキが美味いと言ったが、最近提供されだしたプリンというのがますます美味い!

 

ぜひ食べてみてくれ!

 

神に感謝救貧院に喜捨を

 

 

提供『神聖救貧院』

 

 

この号に書かれたいたずら書き

 

 

・ちゃんと書け!救貧院に喜捨を!

・めちゃくちゃ行ってて笑う

・こないだオッサン見たぞ、小犬抱いてた

・この店行ったら隣に魔導学園の制服着たやつが座ってた!

・↑それ怖すぎ

・やばい店だな、行ってみたいけど

・魔法使いが怖くてどうぶつ喫茶に行けるか!

・動物触るぐらいで魔法使いに近づいてたら命がいくらあっても足りんわ

・プリンもいいけどお土産に買える飴がうまい

・猫飼いました、西町のマッデン(20)

 


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