異世界で 上前はねて 生きていく (詠み人知らず)   作:岸若まみず

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大変おまたせしました。

色々長くなったので前後編です。

単行本2巻が5月末、コミカライズ1巻が6月13日に発売予定です。

なかなか更新できなくて作者が足を引っ張ってる感ありますが、なんとか時間を作ってもっと更新したいとは思っています。


第82話 人と人 繋ぐ祭りと 馬鹿兄貴 前編

ぱたりと風の止んだ晩冬のことだ。

 

魔結晶精製造魔の審議待ちのため、表向きは『物資調達中』ということで超巨大造魔建造計画は完全に停止していた。

 

完成済みの百メートル建造ドックの底にはどこからか流れてきた枯れ葉や砂が薄っすらと積もり、お役御免となった現場作業員たちは壁内の工事に精を出している。

 

この巨大なドックも作るのは大変だったが、所詮は単なる穴ぼこだ。

 

別に中には取られるようなものもないし、壊せるようなものでもないから最低限の警備だけを置いて放置しているのだが……

 

何が楽しいのか知らないが、暇を持て余したトルキイバの住人たちがそんな穴ぼこを新しい名所だとばかりに毎日毎日見物しに来るらしい。

 

街の壁の上に登っては、やれでかいなぁ、深いなぁと勝手に感心して帰っていくんだから、おめでたい限りだよ。

 

やっぱり農作業のできない冬の間ってのはみんな暇なんだよな。

 

うちの精肉工場や革工場にも短期雇いで街の人達が沢山応募してきて大忙しらしい。

 

この人手が去年までは遊んでたんだから、やっぱり安定雇用ってのは街の発展に不可欠なわけだ。

 

きちんと金が回ってるからか、今年の冬は例年よりも商店街に人が多いし、街の人達の装いもいくぶん暖かそうなものになっている。

 

そんな寒いけれども明るい雰囲気の中を、この街の暇人代表みたいな人がシェンカー通りのMSG(マジカル・シェンカー・グループ)本部へと訪ねてきたのだった。

 

 

 

「あのモグラのお祭りさぁ、今年もやらない?」

 

 

膝の上でチキンのペットの青い犬を撫でながら、シェンカー三兄弟の次男であるシシリキはそんなことを言った。

 

 

「は? モグラの祭り? なにそれ?」

 

「だからさぁ、お前が去年勝手にやった祭りあるじゃん、あのおっかないモグラの像の周りで火焚いてたやつ」

 

「ああ、去年のピクルス達の壮行会のことね」

 

 

去年の冬、遠く北の果てへと派遣されたトルキイバ・タラババラ交易隊の無事を願い、彼女たちの頭であるケンタウルスのピクルスの加護神であるモグラの神の社を作りお祭りを行ったのだ。

 

神殿はまだ残っているが、半ば悪ふざけで作られた巨大なモグラの山車は不気味すぎると大変不評で、置いておく場所もないので燃やしてしまった。

 

 

「そうそう。あれさぁ、今年もやらない? できたらうちの会の仕切りで」

 

「うちの会って……?」

 

「南町の祭り仕切ってる面子だよ、俺とかファサリナ先輩とか、嫁さんの仲間とかさぁ。みんな冬はやることなくて暇なんだよね」

 

「ふーん」

 

「頼むよ、なぁなぁ、このと〜り!」

 

 

ふにゃっと笑顔で頭を下げる兄貴だが、祭りってのは金はともかく準備に人手も時間もかかるのがなぁ……

 

去年はまだダンジョン利権にも参入してなくて、人も時間も自由に使えたんだよな。

 

 

「兄貴達は騒ぎたいだけでしょ? そんなん別に他のとこでやったっていいじゃん……」

 

「そんなん平民が勝手にお祭りやりたいって言ったって許可出るわけないじゃ〜ん。頼むよ〜お前んとこの通りでやらせてくれよ~!」

 

 

眉をハの字にして俺の上着の袖を引っ張る兄貴だが、別にうちの通りはレンタルスペースじゃないんだよ。

 

俺の一存だけで決められることじゃ……いや、逆に俺の一存でしか決められないことなのか。

 

どうしようかな……

 

 

「うちの会の面子はさぁ、色んなとこに顔効くからさぁ、繋ぎあると色々役立つと思うよ〜?」

 

「繋ぎねぇ……リナリナ義姉さんはなんて言ってんだよ」

 

「うちの嫁さんも結構お腹大きくなっちゃってさ、最近あんま家から出れなくて鬱憤溜まってるだろうから喜ぶと思うよ」

 

「うーん……どうだろ。チキン、どう思う?」

 

 

俺の後ろに控えていた筆頭奴隷のチキンに尋ねると、首まで黒のレースで覆われたドレスを着た彼女は鎖付きの金の伊達眼鏡をクイッと動かして頷いた。

 

 

「よろしいのではないかと。どうしても冬というのは楽しみの少ない時期ですから、きちんと周知すれば街への還元にもなります」

 

 

チキンがそう言うならそうなんだろう。

 

別段俺が何をしなきゃならないって話でもなさそうだしな。

 

ま、いいか。

 

 

「じゃあさ、兄貴がきちんと看板やるんなら任せてもいいよ」

 

「ほんとか!?」

 

「うん、詳しいことはイスカと話して」

 

 

こういう仕事をガンガンやらせれば、管理職の成長にもなるしな。

 

最近はイスカの下にも人がついたんだ、いい経験になるかもしれない。

 

 

「やったー!」

 

 

青い犬の前脚を掴んで万歳させながらそう言った兄貴は、「みんなに言ってくる!」と転がるようにシェンカー本部を飛び出していった。

 

ようやく開放された犬は少し疲れたような様子で立ち上がり、後ろに控えているチキンの足に巻き付くように横になってゆらゆらと尻尾を揺らしていた。

 

 

 

 

 

地面から足を這うように冷気が登ってくる日のことだ。

 

俺とローラさんの手で、ざっくりと大きく縄張りされたまっさらな工事現場に、最初のスコップがざくりと突き入れられた。

 

周りに並んだシェンカー家の面々や街の人々からは盛大な拍手が沸き起こり、俺たちはそれに手を振って応える。

 

そう、シェンカーの劇場建設予定地での本当の劇場建設が今始まったのだ。

 

 

「やれやれ、ようやくだな」

 

「いやー、ここまで来るのが長かったんですよ」

 

 

苦笑いのローラさんに、俺も苦笑いを返す。

 

本当に長かった、これでもかなり短くなったはずなんだが、元々の計画が甘かったしな。

 

 

「それは君が好き放題に寄り道をしていたからじゃないか?」

 

「しょうがないじゃないですか、色々あったんですから」

 

「さて、どうだかな」

 

 

そんな話をしている間に俺たちの前に大きな酒樽が運ばれ、パカンと音を立てて蓋が叩き割られた。

 

うちの面子や見物客にコップが配られ、大きな歓声と口笛が上がる。

 

本来は建物完成後の竣工式で行われる鏡割りだが……うちはある意味酒蔵でもあるし、今日は街の人達も沢山来てるからな、振る舞い酒だ。

 

あって嬉しいことは何回あってもいいだろう。

 

色んな人間が代わる代わる酒を汲みにやってきたが。

 

皆が満面の笑みを浮かべる中、一人だけ暗い顔をしている者がいた。

 

背中に相棒のボンゴを乗せ、浮かない顔で歩いてきたのは……

 

我が家で一番の古株、ケンタウロスのピクルスだった。

 

 

「おめでとうございます」

 

「…………お……め……」

 

 

古株の奴隷達用に作った揃いのブレザーを着た二人が挨拶をしてくれるが、やはりなんとなく暗い感じだ。

 

なんか仕事でミスでもあったのかな?

 

 

「あれ、ピクルスなんかあった?」

 

「いえ……」

 

「…………ゆ……み……」

 

「弓?」

 

「いや、実はちょうど昨日弓を引き折っちゃいまして……」

 

「あのでっかい弓を?」

 

「はあ、まあ……」

 

 

ピクルスが普段背負っていたのは豪腕で有名だった街の冒険者に貰ったっていう大弓だったはずだ。

 

あれを引き折るっていうのはちょっと尋常じゃないなぁ。

 

 

「ピクルスは背も伸びたからなぁ、今どれぐらい力あるんだ?」

 

「わかりましぇん……」

 

 

見上げるような体躯のケンタウロスは、服の上からでもわかる筋肉を縮こまらせるようにしながら首を傾げた。

 

 

「ふーむ、巌のような体だ。私と出会った頃から大きかったが、ここ最近は更に育っているな」

 

 

うちの嫁さんがピクルスの胴をポンポンと叩きながら歩くが、よく考えたら彼女は馬にしたってかなりデカいぞ。

 

前まで回ってきたローラさんがピクルスの腕をちょいと引くと、彼女は体を折り曲げるようにして人間の体部分を下におろしてきてくれた。

 

 

「腕に力を入れてみろ」

 

「はい」

 

 

周りの人達が何事かと見守る中を、ピクルスが力を込めながら腕を折り曲げると……

 

ブチブチと嫌な音を立てて丈夫そうなブレザーの腕部分がばっくりと裂け、上腕の太さが俺の太ももと同じぐらいにまで膨れ上がる。

 

破れたシャツの間から見える彼女の上腕の筋肉はバッキバキにできあがっていて、筋トレにあまり興味のない俺でもちょっとした憧れを禁じえないかっこよさだった。

 

 

「すげぇ……」

 

「何食えばあそこまで……」

 

「いい……」

 

 

周りにいる男たちも俺と同じような気持ちらしい。

 

彼女の筋肉にうっとりとした視線を送っていた。

 

 

「これは……とんでもないな……まともな弓では全力には耐えきれんだろう」

 

「はい……」

 

 

ブレザーを破ってしまってますます気持ちが落ち込んだのか、前屈した姿勢のまま項垂れてしまったピクルスの背中をボンゴが優しく撫でている。

 

嫁さんがしたこととはいえ悪い事した、後で衣装代も渡さなきゃな……

 

 

「ピクルス、トルキイバいちの弓職人に新しい弓を頼んでやるよ。前の弓は残念だったけど、今度は思いっきり力込めても折れないやつを作ってもらってやるからさ」

 

「えっ、ほんとですか?」

 

 

暗かったピクルスの顔がぱあっと明るくなった。

 

彼女はうちの冒険者組の最高戦力だしな、いくらでも金使っていいから最高の弓を用意してやろう。

 

 

「ほんとほんと、だからさ、そんなに気を落とすなよ」

 

「ありがとうございます!」

 

「…………よ……か……」

 

 

目尻に涙を浮かべて喜ぶピクルスの背中を、ボンゴがポンポンと優しく叩いている。

 

この二人は出会った時からずーっと仲良しだな。

 

仲良きことはいいことだ。

 

あ、あと聞いとこうと思っていたことを思い出した。

 

 

「ところでピクルス、あの人達って知り合い?」

 

 

俺がクイクイと肘で指した先では、他の人達から頭ひとつ抜けた背丈のケンタウロスの一群がなんだか心配そうにこちらを見つめていた。

 

そちらを見たピクルスは小指で目尻を搔きながら「あれは去年の旅で出会った人達で……」と縮こまって答える。

 

 

「へぇ~」

 

「仕事に困ってるみたいだったので、トルキイバならどうかと思って誘ったんですけど、ほんとに頼って来てくれたんです」

 

「そんなことがあったのか。そんで、みんな仕事は見つかったの?」

 

「はい、一応……」

 

「そりゃ良かった」

 

「ありがとうございます」

 

「あ、あとね、これ服破けちゃったから……」

 

「すいません、ありがとうございます」

 

 

ペコペコ頭を下げながら俺から金貨を受け取ったピクルスは、破れた袖をぱたぱたと振りながら仲間のケンタウロスたちの元へと歩いていった。

 

そのうち、ピクルスもボンゴも結婚して子供を生むんだろうか。

 

子供の頃からの夢だった俺の劇場建設だって、今こうやってきちんと始まったんだ、時間なんかあっという間だろう。

 

同い年のピクルスと二人で初めたシェンカー一家が、いつの間にやらこんなに大きくなったんだ。

 

ある意味で、彼女のおかげとも言えるのかもしれない。

 

ケンタウロスの仲間たちと楽しそうに話す、一緒に買いに行ったあの眼鏡をつけたままの彼女に無言で杯を掲げると……さっきからちらついていた時期外れの雪が、ふわりとその中に落ちてきた。

 

ふ、と笑いが溢れる。

 

冷たい雪は飲み干した。

 

あとは暖かい春を待つばかり。

 

曇り空の切れ目から、真っ青な空がちらついていた。

 




緊急事態宣言が長引いたので、再び明るいおすすめの映画なんかを紹介します。
今度はアマゾンプライムで選んでみました。


・テルマエ・ロマエ

阿部寛主演のローマと日本を繋ぐお風呂映画。

基本構成がなろうっぽいので、この小説を読んでいらっしゃる方は楽しめると思います。

阿部寛もそうですが、北村一輝がめちゃくちゃ好演しててたまりません。

顔が濃い男たちが沢山出てきて最高です。


・ジョニー・イングリッシュ アナログの逆襲

言わずとしれたMr.ビーンのローワン・アトキンソン演じる007のパロディ映画。

とにかくベタベタなコメディアクション映画なのですが、その分誰でも安心して見られると思います。

デジタル犯罪にアナログの塊のジョニー・イングリッシュが挑むというスパイ物です。


・シコふんじゃった

竹中直人が出てくるコメディ映画で、スポ根もの。

相撲なんか興味がないゆるい大学生が負けっぱなしの相撲部に入って、個性的な仲間たちと一緒に勝ちを目指していくというお話。

演技も本も、本当に素晴らしく、万人受けする内容だと思います。

後半はトンデモな展開もあるのですが、それでもいい映画です。


・怪盗グルーの月泥棒

海外アニメ映画に興味のない方もいらっしゃると思いますが、怪盗グルーシリーズはこれまでに三本作られています。

その一作目がこれで、怪盗グルーがライバルの怪盗と競い合って月を盗み出そうとするお話です。

いい子供映画は子供も大人も楽しめる作りになっていますが、この作品はむしろ大人向け。

孤独な男がひょんなことから家族を作り、親になっていくという成長ストーリー。


・スクール・オブ・ロック

本当にどうしようもない男が、身分を偽装して潜り込んだ学校のクラスでロックを教えるコメディ映画です。

ジャック・ブラックの怪演が素晴らしく、とにかく全編キャラが立ちまくり。

顔の圧がとんでもないです。

色んな事情を抱えた子どもたちがロックによって変わっていくというストーリーも最高。



次はもっと早く更新します、それでは。
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