異世界で 上前はねて 生きていく (詠み人知らず) 作:岸若まみず
「はじめまして、冒険者ギルドの
「はぁ」
ある日、うちの丁稚に案内されて物凄く胡散臭い男がやってきた。
「サワディ・シェンカー様ですね?ご高名はかねがね伺っております」
「はぁ」
白いローブに生成りのシャツ、おまけに薄汚れて細かいハゲのある靴。
なのに結構清潔にしているらしい身体、この時点で俺はなんとなくこいつの正体に当たりをつけていた。
「町では欠損奴隷を救って更生させておられるという慈愛のサワディ様の噂でもちきりですよ」
「へぇ」
慈愛、ね。
「実は私が
「はぁ」
やはり宗教だったか。
それもこの町で一番権威のない、ある意味俺の商売敵の神聖クソ救貧院の奴らだ。
「つきましては、サワディ様にも素晴らしい神聖救貧院の活動にぜひ参加していただきたく存じまして……」
「仕事の依頼ということですか?」
一応聞くだけ聞いてみる。
仕事を頼まれたとて、受けるとは言っていないが。
「申し訳ありませんが、救貧院は清貧を常としておりまして……心苦しいのですが喜捨というわけにはなりませんでしょうか?」
「誠に心苦しいのですが、私はこの国の保証する信仰の自由に則りまして
数多の神の実在する世界で、一神教の強要など自殺行為でしかない。
傍迷惑な神の
神は時に人を救うが、金は常に人を救う。
故に俺は金銭を信じているのだ。
「おお!それはあまりにも寂しいお考え!金があなたを救ってくれますでしょうか?金があなたを温めてくれますでしょうか?違います、真心こそが……」
「申し訳ないが、私もこれで忙しい身、このへんで」
こんな奴の相手を長々としてしまったな。
丁稚にはよく言い含めておかなければならんだろう。
「いやいや、お待ち下さい。そも、この世界は善神ウェカンが……」
「お客様がお帰りだぞ〜」
付き合うつもりはない。
ある意味サービス業な乞食達にはプライドもあるが、この手の連中にはそれもない。
あるのは善きことをしているという、裏付けなき自負だけだ。
「おお!何とご無体な態度!やはり……」
「どうした?坊っちゃん、誰だこいつ?」
裏で飯を食っていたらしい魚人族のロースがやってきた。
「冒険者ギルド職員かと思ったが、違ったようだ。お帰り願え」
「誤解です!私は……」
なにか言っていたが、ロースが襟首掴んで引きずっていったので聞き取れなかった。
「お前入ってきたのがうちで良かったなぁ、よそなら骨の2、3本は折られてたぞ。うちのご主人様は優しいだろ?二度と来るなよ」
「まっ……ああーっ!!」
最近どうもああいう手合いが増えた。
奴隷になるから自分の欠損を治してくれなんて言うオッサンとか。
自分を治してくれるなら娘を差し出しますなんてオッサンとか。
共同事業に出資しませんか?なんてオッサンとか。
オッサンばっかりだな。
どうも俺は世間からは道楽で慈善事業をやっているボンボンと誤解されているらしい。
おかしな話だ。
これで欠損奴隷を治してから解放してるのならまだしも、俺はしっかり仕事させてるわけだからな。
間違った印象が独り歩きしているように思える。
無力な市民達からはいまいちウケの悪い冒険者だが……
うちの都市は立地もいいし、手軽な投資先としては結構アツいんだが……
現に今だってだいたい月に金貨50枚ぐらいの収入にはなっている。
これは4人組で暴れ鳥竜が倒せるパーティとして見れば明らかに少ないが、普通の冒険者はこの収入からあるだけ全部使うからな。
結果こわれた武具を修理できずにギルドの等級が下がる……なんてのは結構よくある笑い話だ。
その点うちのパーティは、まず収入から武器防具の修理買い替え積立金を引き。
奴隷購入用積立金を引き。
設備工事積立金を引き。
生活費、雑費を引き。
奴隷達に日に銅貨2枚の小遣いを引き。
それだけ引いても俺の月の利益は金貨10枚だ。
1日3万円ちょいの小遣いと思えば、そう馬鹿にした儲けではないよな?
やはり、給料がないのとポーション他の回復用品代がいらないのがでかいな。
利益率は低いが、堅実に儲かってる。
まぁ実家の商会に比べたらまだまだか。
なんせ?
しがないとはいえ?
政商ですからね?
俺が事業始める前に、何もせずにもらってた小遣いは月に金貨1枚だったしな。
よく考えたら10歳児に10万も渡すなよな。
全部使い切ってたけど。
金貨=10万円
銀貨=1万円
銅貨=1千円
ぐらいの価値です。
さわDくんの金銭感覚は庶民とはかけ離れてます。
生きてる世界が違うと言ってしまえばそれまでですが、庶民は月に銀貨15枚程度で生きています。
家賃は集合住宅で銀貨5枚ぐらいです。
だいたい県庁所在地からちょい離れたとこぐらいの感覚でいてもらえれば間違いないです。