残穢ー触れてはいけない敵   作:手打うどんさん

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プロローグ

 超常黎明期。ある1人の少女が凄惨な虐待の末に自宅で父親に殺害された。生きていたその当時は個性が無いと思われていた少女。

 しかし、少女には1つの個性があった。

 その個性に名前を付けるなら【穢れ】

 死んだ筈の少女は、自分を見殺しにした者たちに自分のような子供を生み出す社会に、到底成仏出来ない程に強い恨みを抱く。

 それまでの少女への仕打ちを考えれば、どんな良識ある者も仕方ないと言ってしまう程の恨みは、最終的に少女の個性と混ざり合った。

 

 少女の個性はこの世の穢れを操る個性。

 少女は死に際に、個性を無意識に発動させ穢れを集め成仏出来ない恨みを重ねてこの世に留まった。

 死人でありながら実体化も出来る少女は、悲惨な最期から幾数年。

 社会に穢れを撒き散らし続ける。

 

 この世には、幽霊やお化けは存在しない。

 だが、穢れと言うモノは確かに存在するのだ。

 良識ある大人は知っている。

 その存在を見たとしても祟られるし、話しても祟られる。そんな触れてはいけない穢れが、この世の中には在るのだと。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 「幽霊を信じるか?どう言う事だ先生」

 「言葉通りの意味さ。弔は幽霊という存在が実在すると思うかい?」

 

 都内某所の薄暗いバー。敵連合という敵の組織のアジトが其処には在る。

 敵連合のリーダーを務める男【死柄木弔】は自身を地獄から救ってくれた先生【AFO】と画面越しに話をしていた。その最中、AFOから突如として切り出された話題は幽霊が実在するか。

 裏社会の王と畏怖されるAFOが、ある意味幼稚な質問をした事に弔は驚く。

 その数瞬後、小馬鹿にしたように笑いながら弔はその質問に自信満々で答えた。

 

 「幽霊なんて居る訳ない。そんなの信じてるのはガキか馬鹿だけだろ。人間死んだらお終いだ」

 

 その弔の答えは、ある意味当然の答え。AFOもその答えは予想していたようで話を続けた。

 

 「僕みたいに長く生きてると、世の中の疑問の殆どの答えを知っている。そう言う意味で、僕の質問への弔の答えは半分正解さ」

 「……半分?満点の答えだろ」

 

 弔のその返答へ、子供に勉強を教える大人のようにAFOは優しく解説を加える。

 

 「確かにステレオタイプな幽霊は存在しない。だけどね弔、人間は死して尚この世に影響を与え続ける事も時にはあるんだよ」

 「冗談キツイぞ先生」

 「冗談ではないさ。本当に限られた者のみだけが理解している。この世には幽霊より遥かに恐ろしい穢れというモノが実在するんだ」

 

 そうしてAFOの口から語られたこの世の真実の一端は、弔には到底信じ難い事実。

 しかし、あの先生が本気で語るのだから、穢れは確かに実在するらしいと弔はAFOの口調から容易に察し感じる事が出来た。

 穢れとは、死などによって生じる不浄。

 穢れに触れた者は、その者がまた新たな穢れを死に絶えて生み出す。感染力の高いウイルスも顔負けの文字通りの最悪で災厄。

 1度触れてしまえば最期。回避は出来ない。

 

 「それで、先生が態々俺に穢れの存在を話したって事は何か有るんだろ?」

 「……成長したね。その通りだよ」

 

 これまでの環境から、幼稚さが抜け切らない弔。しかし、実際は頭がキレる彼は話の中で先生が何か言いたいのだと察する。

 そんな弔の成長を感じさせる態度に、能面の顔に笑みを浮かべてAFOは結論を語った。

 

 「日本には穢れを操る個性を持つ少女が居る。その少女は大昔に穢れそのモノとなり、今でも世の中に穢れを撒き散らし続けている」

 「……まさか」

 「そのまさかさ。僕はその少女と知己でね、弔の為に敵連合へ勧誘したんだ」

 

 これまで弔とAFOの話を静かに聞いていた、敵連合の現状唯一のメンバー【黒霧】は此処に来て漸く口を開いた。

 

 「新メンバーですか。些か危険な気もしますが」

 「彼女は見境無しではないから、その点は心配いらないよ。けれどくれぐれも粗相の無いように。本気の彼女は僕よりも強いから」

 

 弔と黒霧は敵としてAFOの強さを理解している。その本人が例え全盛期でも自分より強いと語るのだから、2人は冷や汗を流す。

 その少女は一体どんな化け物なのだと。

 その時だ。バーの入口の扉が開かれた。

 反射的に扉の方を向いた2人は、其処に1人の可愛らしい少女が立っているのに気がついた。

 冷たい印象すら感じる美少女と呼ぶに相応しいその少女は、2人を見て笑みを浮かべながら自己紹介をする。

 

 「初めまして敵連合さん。AFOに勧誘されて此処に来ました」

 

 見た目も雰囲気も普通の少女。だがこの少女の言葉が真実なら、AFOの言う穢れを操る個性を持つ災厄の少女という事になる。

 弔は冷や汗を誤魔化すように、そして目の前の少女を必死に見極めようと返答する。

 

 「……死柄木弔だ。よろしく」

 「黒霧と言います。よろしくお願いします」

 

 返答し少女の目を見た2人はその瞬間に思わず絶句した。その少女のこの世全ての負のエネルギーを凝縮した様な瞳に。

 そんな2人の心の内を全て見透かした少女は、可愛らしいモノを見るような笑みだ。

 

 「よろしくお願いします……と言いたい所だけど。私まだ敵連合に入るかどうか決めてないんだ。AFOに言われたから来ただけで」

 

 その少女の言葉に、弔は若干イラッとした。

 既に話がついていると思い込んでいたからだ。

 見た目が自分の嫌いなガキだと言う事もあり、少女を睨みつけようとしたその瞬間。

 

 「私に敵意を向けない方が良いよ、思わず殺しちゃうから。……それで死柄木弔くん、貴方にはどんな意志があるのかな?」

 

 バー全体に、少女を中心として想像を絶する負のエネルギーが放出された。

 粘ついた重たい圧倒的な負の感覚。

 まるで心臓を掴まれ、今にも握り潰される感覚に陥る弔と黒霧。一瞬にしてこの場の絶対的な主導権を目の前の少女に握られた。

 その間にも、負のエネルギーは強まる。

 これが穢れなのか。と冷静に思考する間もなく命の危険すらも感じ始める2人。

 

 「……意志だと?何でそんな事を聞く」

 「意志の無い木偶人形には何も為し得ない。それは私が長く世の中を見てきて実感した事。これはただの確認だよ、貴方には何かを為せるだけの意志があるのかって言うね。……もう1度質問するよ、貴方にはどんな意志がある?」

 

 辛うじて問い返した弔。

 少女はそれまでの笑みから一転。極めて真面目な顔で弔にそう問いただす。

 この質問に答えなければ、此処で自分たちは殺されるだろう。そう感じさせられた弔は、怯えるでもなく怒るでもなく笑みを浮かべた。

 ゾッとする狂気的な笑みを。

 

 「意志なんて大仰なモノ考えた事もないね。だけど俺は兎に角全てを壊したい。救えなかった奴なんて居ないとばかりにヘラヘラ笑ってるヒーローを社会を何もかも全部」

 

 極限まで追い詰められて出た答え。

 その答えは、少女を満足させるに十分だった。

 放出されていた負のエネルギーは次第に霧散し、少女は優しい笑顔で呟いた。

 

 「カッコイイよ弔くん。……決めた!私も敵連合に入るよ。これで敵デビューだね」

 

 先程までの調子が嘘の様に楽し気な少女。

 毒気を抜かれた弔と黒霧は、新しくメンバーに加入した少女を改めて歓迎した。

 

 「アンタの事は何て呼べばいい?」

 「ふふふ。名前かあ……本当の名前は忘れたけど、私はこの世に残る穢れだから残穢とでも呼んでよ。よろしくね弔くんに黒霧くん」

 

 この日。敵連合に核となる新たなメンバーが加入した。その少女【残穢】は新天地でこの世の中に穢れを撒き散らす。

 AFOすら超える災厄が動き出した。

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