「残穢、お前は間違いなく強い。その上で敵連合のリーダーとして聞きたいんだが、お前の個性は一体何処まで出来る?」
黒霧と弔が2人で居る事が殆どだった敵連合のアジトに、残穢が住み着くようになり幾日。
バーに備え付けられた椅子に座りながら、弔は隣に座る残穢にそう尋ねた。
突然の質問に間延びした声を出しながら改めて自分の個性を問われた残穢は、顎に手を置きながら個性について考える。
そもそも、彼女は穢れを操る個性を持つ少女である以前に穢れそのモノだ。余り個性を使うという感覚を感じた事が無いのである。
「そうだね。敢えて答えるとすらなら本当に何でも出来る……かな」
残穢がそう言うならばそうなのだろう。
リーダーとして従えるべき残穢をどう使うか考えていた弔は、ある考えを思い浮かべる。
「……なら俺が此処で平和の象徴ーオールマイトを殺せと言ったら殺せるのか?」
「オールマイトの本名と顔さえ分かれば、此処に座りながら簡単に殺せるよ。実際に会えば親類縁者に大切な人全員も惨たらしく殺せる」
本気を出せばね、と何て事のないように答える残穢に弔と話を聞いていた黒霧は絶句した。
今ならば、先生が勝てないと話したのも理解できると思う2人。
弔は絶句した後思わず笑ってしまう。
「ハハ。何だそれ最凶だな」
「一応釘を刺しておくけど、今はオールマイトを殺すべき時じゃないよ。社会に影響を与えられるように然るべき時に殺そう」
「ああ。そんなの分かってるよ」
首をボリボリと掻きながら答える弔。
弔の返答に満足しながら、残穢は突然の弔の質問の意図を尋ねた。
「それにしても、どうしてそんな事今更聞くのさ。もしかして何か始めるつもりなの?チンピラたちも集めてるみたいだし」
「お前って頭良いよな。……その通りさ」
そう言いながら、弔は残穢にも改めてこれから起こす敵連合の行動について話した。
今のヒーロー社会に於ける正義の脆弱さを世間に知らしめる為。弔が考えた計画は、ヒーローの本丸である雄英高校への襲撃だ。
ヒーローの最高学府である事もあり、そのセキュリティは厳重どころの話ではない。
しかし、敵連合には黒霧が居る。
黒霧の個性は【ワープゲート】
制約が多いイメージの転移系個性の中で、座標さえ分かれば一瞬で転移出来る。
「成程ね。黒霧くん様々だ。私も敵デビューの初戦だから久し振りに頑張ろう!」
「ああ……派手に暴れろ。それに俺たちは先生から秘密兵器を貰う予定だからな」
弔の秘密兵器という言葉に、残穢が首を傾げているとバーに置かれているモニターからその疑問に対する返答があった。
そのモニターに映るのはAFO。
「改造人間の脳無さ」
「久し振りAFO!成程ね、改造人間か。貴方たちが創ったのなら相当強いんだろう」
「ああ久し振りだね残穢。そうさ、今回弔に渡す脳無は傑作の1つだ。力が減退しているオールマイトを打倒し得る程のね」
AFOのその言葉に弔は上機嫌だ。残穢は口には出さないが、彼が余程オールマイトが嫌いなのだろうと勝手に推測していた。
残穢もまた、平和の象徴はこの肥溜め未満の社会を体現しているようで当然嫌いだ。
だが、弔ほど個人に固執している訳ではない。
それは兎も角として。
AFOはモニター越しに残穢を見ながら呟く。同じ超常黎明期から存在する者同士何かあるのだろう。
「それにしても残穢。また穢れの力が強まっているみたいだね。君が本当にその気なら既に世界は滅んでいるだろう」
クツクツと笑うAFO。
そんな彼の言葉を残穢は訂正する。
「嫌だなAFO。私はいつでも本気だよ」
「そうだったね。君は弔を更に成長させ得る。敵連合でその力を存分に振るってくれ」
そう言い残してモニターの画面は切れた。
雄英高校襲撃まであと数日。
その日まで敵は爪を研ぎ続ける。世の中が、今の平和が如何に脆弱で仮初のモノかを理解するまで、残された日数は少ない。
◇◆◇◆
弔と残穢が席を外した後。バーには黒霧1人が残る形となった所で、黒霧はAFOと改めて話をする。
内容は弔と新メンバーの残穢について。
黒霧はAFOの手腕を賞賛した。
「初めて彼女が此処に来た時は、殺されるかと思いましたが安心しました。彼女が加入した事で弔は成長し、単純に敵連合の力も増大した。先生は此処までを見通していたのでしょう?」
黒霧のその言葉に、AFOは特別に否定もせず肯定もしない。だが笑みは浮かべていた。
「そうだね。見通すなんて言うつもりはないけど、僕の期待通りに事は動いてくれた」
「破壊衝動のみだった弔が、彼女の影響で明確な意志を自覚するようになった。弔は王としての素質がある。先生の目に狂いはなかった」
AFOの慧眼に黒霧が畏怖する。
暫く2人が弔の今や未来について話した後、黒霧は残穢についてAFOに質問した。
自分が先生と同格である事を認識し、同時に内心で畏怖している残穢の本質について、その答えを知るであろうAFOに尋ねる。
残穢が此処に来る直前。
弔とAFOの会話を聞いていた黒霧だが、その本質については依然知らないまま。
恐ろしくて残穢本人には聞けない。
「そうだね。彼女は本来なら既に死んでいる。そんな彼女が死に際に個性を発動させ、この世の穢れを集めて恨みと共に留まった」
「相当強い恨みという事ですか?」
「彼女によると、生前の彼女の環境は本当の地獄だったらしい。話して面白いモノでもないし、詳しくは言わないけど想像を絶する」
裏社会の王として、社会の暗部を山程見てきたAFOが其処まで言うのだから、自分では想像も出来ない恨みなのだろうと黒霧は思う。
「それで彼女は穢れそのモノになったのですか」
「そう言う事だね。今まで彼女が穢れに触れさせた人間は数千を軽く超える」
「私たちにはそんな雰囲気は見せませんが」
「この前も言ったけど、彼女は見境無しではない。特に救われない者なんかには意外と優しい」
こうして、黒霧とAFOの会話は進む。
AFOは自分の期待通りに事が進み、弔が予定よりも早く成長してくれた事に喜んでいた。