最終章:誰も皆、今を受け入れて生きていくしかない(起)
夜空を飛ぶ、けたたましいヘリのローターの音。まだ現場は見えて来ない。もう他のみんなは到着しただろうか。64式は銃を手に椅子に座っている。その表情には適度な緊張が見られる。他のみんな、一〇〇式、TMP、Five‐seven、そして隣に座るFALも同様だ。ゾンビ共との最終決戦を前に、64式は自身の頬をはたき気合を入れる。
アルケミストとの会合から3日後、基地にケミカルダインからの救助要請が入った。大量のゾンビ共に本社が包囲され、攻撃を受けているとのことだった。プラントはすでに制圧され、彼らは既にゾンビの制御ができていない。ヒューマニスが飼い主の喉笛に食らいついたのだ。
指揮官は表向き救援要請を受諾し、MP5とステンを中心とした部隊を送り込んだ。ただ、彼女らに与えられた指示は、攻めるふりをしながら適当に時間を潰せ、とのことだった。直接戦闘は避けろ、とも。
彼女らはケミカルダインへの一応の申し訳と、ヒューマニスを欺瞞するために送られただけに過ぎない。指揮官は裏切り者であるケミカルダインを見捨てるつもりなのだ。
そして、ゾンビ共がケミカルダインを攻めている内に、軍と鉄血の情報を下に割り出した蟲の生産プラントに急襲をかける。そして、プラントを潰し、ヒューマニスの親玉を叩く。それが今回の作戦の趣旨だ。
鉄血も反攻を開始しており、ゾンビ共はそちらにも戦力の多くを割かざる負えない。プラントの防衛に残っている戦力はさほどの数ではないはずだ。
「さて、いよいよ決戦ね」
FALがみんなを見渡して言う。
「そうね。…あの趣味の悪い連中を今後見ないで済むようにしないとね」
Five-sevenが嫌悪感を露にした表情で言う。あの悍ましいゾンビ共には酷い目に遭わされた。二度と見たくもない連中だが、そのためにはこの決戦に勝たなくてはならない。Five-sevenは電脳の奥で闘志を燃やす。
「あ、はい。…64式さんの仇でもありますし…」
TMPが64式の方を伺うようにして見る。心配しているのかもしれない。そんな彼女に64式は穏やかに笑ってみせる。よし。自分は大丈夫だ。
「大丈夫。あいつらなんて、相手にならないわ」
64式は不敵に笑ってそう答える。弾も食料もなくして逃げていたあの頃とは違う。今なら奴らを十分に屠れる。それに、この一〇〇式隊の練度はグリフィンの中でも高い方だ。数だけを頼みにするゾンビなど、軽く蹴散らしてしまえるだろう。
『総員、準備はいいか?』
通信モジュールを通じて、指揮官の声が聞こえた。
『一〇〇式隊、問題ありません』
『AR小隊、問題ありません』
『仮設G41隊、準備よしです! いつでも行けますよ、ご主人様?』
『M590隊、配置につきました』
『同じくトンプソン隊、配置についた。…レヴァとも合流できたぜ、ボス』
『404小隊、配置完了。…また重要な役どころには当ててくれないのね』
『ネゲヴ隊、配置完了。戦闘のスペシャリストの力、見せてあげる』
一〇〇式、G41、M590、トンプソン。そして、グリフィン本部から応援として送られた404小隊とネゲヴ隊から報告が入る。それを聞いた指揮官が、了解の意を示し作戦の再確認に移る。
『今回の作戦の目的は、この工業プラントの制圧および敵の親玉の撃破だ』
晶の言葉と共に、一〇〇式の持つタブレットに画面が表示される。それは目標となる工業プラント周辺の地図だ。
『この糞共とそれと結託した屑共。こいつらのせいで何人が犠牲になったか。思い出すだけでも虫唾が走る』
炭火のような怒りを秘めた晶の言葉に64式は思い出す。基地から逃げたあの日のことを。そして、仲間たちと過ごした昔の基地での日々を。怒りはやはり湧いてこなかったが、やる気は十分だ。64式は銃を握りしめる。
『諸君。この戦いは人類の領域の保全と共に、犠牲になった同胞に捧げる戦いでもある。復讐の女神と化し、その銃弾で裁きの鉄槌をくれてやれ!』
『はい、ご主人様! この仮設G41隊の力を持って、奴らをぼこぼこにします!』
『ああ。仲間の敵討ちは俺達の鉄則だ。百倍にして借りを返してやる』
指揮官の檄に、G41及びトンプソンが応じる。他の者も胸に燻ぶる闘志に火を点ける。必ず勝つ。そんな意思が通信モジュールを満たした。
『これより作戦の再確認を行う。M590隊及びトンプソン隊は敵正面に陣取り、レーヴァティンを支援。徐々にラインを押し上げていけ』
『了解です』
『ああ、わかったよ。…しかし、レヴァがなんでまた手を貸してくれるんだ?』
了解するM590と疑問を呈するトンプソン。彼女の前には軍用戦術人形レーヴァティン型がいるのだろう。
軍は余程のことがない限り、グリフィンの行動に援助などはしない。統括地域の治安維持はグリフィンの仕事であり、政府は完全に丸投げしているのだ。
前回の事件に関しては、その余程のことに相当したため軍の戦術人形が派遣されたが、今回はそこまでの事態ではない。なのに、何故レーヴァティンが協力してくれるのか分からない。
『新装備のテスト、という名目だな。西の奴も上手い言い訳を考えたもんだ』
指揮官はその問いに苦笑しながら答えた。
最近要人警護用に開発されたレーヴァティンパック・Es。その運用をテストするために適当な相手と戦闘を行わせる必要がある。そのためにグリフィンとの共同作戦はうってつけ、ということで、戦術研究所兵器開発部は申請を通したのだ。
今回の戦いは、とにもかくにも数で押される戦いになる。戦術人形達が包囲されてしまうと危険だ。その点、レーヴァティンがいればゾンビなど物の数ではなく、包囲や防衛線を切り開いてくれるだろう。
『んふふ♪ レヴァちゃんがいれば、楽に勝利できるかも』
『油断はしないでくださいね。ちゃんと彼女を援護しないと』
『ええ。コストは抑えていきましょう』
『安心して、ダーリン。きっと大丈夫!』
M590隊のメンバーであるM14、スプリングフィールド、LWMMG、Gr mk23がそれぞれ言う。M590隊は既に実戦を多く経験している古参の面子揃いだ。今日もまた堅実に働いてくれることだろう。
『グローザ、仰せのままに』
『指揮官に…勝利を捧げて見せます…』
『やっほー、待ちに待った出撃だー!』
『やれやれ。こんな年寄りに頼るなんて、人使い荒いの』
臨時編成トンプソン隊のメンバーであるOTs-14、9A-91、スコーピオン、M1895が気勢を上げる。彼女らもまた古参の戦術人形で、指揮官と共に多くの戦場を潜ってきた。
M590隊がレーヴァティンのバックアップなのに対し、こちらは彼女と共に攻め上がりラインを押し上げる役目だ。特にOTs-14と9A-91は夜戦で高い実力を発揮する戦術人形だ。多くの敵を片づけて、道を切り開いてくれることだろう。
『G41隊は期を見て軽トラで突撃を敢行。正面突破の構えを見せろ』
『はい! ご主人様の期待を裏切らないように頑張ります!』
改造された軽トラに乗るG41が嬉しそうに言う。レーヴァティン達が切り開いた道を、トラックで突っ切り敵正面を突破するのだ。
この基地全体のエースであるG41と、それが率いる仮設G41隊は、エース部隊である一〇〇式隊とAR小隊さえも上回る実力を秘めている。彼女たちならば最も危険で難しい正面突破ができるかもしれない。
もちろん、突破そのものはできなくてもいい。その構えを見せてプレッシャーを与え、内部の敵を引きずり出すのがG41隊の目的なのだ。
『ふふふ。良いだろう、突破してやろうじゃないか』
『ふっふーん、任せて! G41隊が強いところ、理解させてあげる』
『ええ。奴らに正義の鉄槌をくれてやらないといけませんからね』
『お嬢様のために、汚物を消毒しないと…』
G41隊のメンバーであるSVD、SR-3MP、ウェルロッドMk-Ⅱ、Gr G36が意気を上げる。臨時編成とはいえ、G41を隊長とした彼女らの結束は固く、G41とSVD、ウェルロッドの3体は元々エース部隊で働いていた人形だ。指揮官の意図をよく汲み、判断を間違えることはないだろう。
『404小隊とネゲヴ隊は、それぞれ左右に展開。一撃離脱を繰り返し、敵を陽動してくれ』
『はいはい、行きますよ』
『ええ。甘ちゃん達に指導してあげる』
晶の言葉に、隊長であるUMP45とネゲヴが応える。404小隊は右翼、ネゲヴ隊は左翼から敵に襲い掛かり、敵を分散させるのが目的だ。深くは切り込まず、あくまでも陽動が目的だ。
『AR小隊は一〇〇式隊の合図で地下から侵入。その後、一〇〇式隊と合流し、親玉の撃破及び退路の確保を行え』
『はい、指揮官。全て滞りなく』
指揮官の指示にM4A1はいつものように冷静な口調で言う。彼女らの役目は敵BOSSの撃破であり、最も重要な任務だ。指揮官が知る地下からの政府関係者用の隠し通路で、一気に敵中枢を叩くのだ。
『はい。奴らにとどめを刺すのは、私達です』
『あいつらがしでかしたこと、百倍にして返してやる~!』
『突出しすぎてはダメよ、SOPⅡ。M16、早く終わらせましょう』
『よぉし、さっさとミッションをクリアして飲むぞ!』
隊員であるST AR-15、M4SOPMODⅡ、RO635、M16A1が応える。16Lab特製の人形である彼女達もまた歴戦の勇士である。敵の親玉がどのようなものかは不明だが、決して後れを取ることはないだろう。
『一〇〇式はヘリで施設屋上から侵入。コントロールルームを制圧し、セキュリティを乗っ取れ。その後、AR小隊と合流し、敵の親玉を撃破せよ』
『了解。一〇〇式隊、指揮官の命令を必ず達成します』
一〇〇式は指揮官に答え、手の中にある拳銃のようなものを握りしめる。それは指揮官の用いる銃型IFNデッキである。軍用パーツを大量に使って作られたそれは、指揮官の虎の子で、オート操作でさえあらゆる防壁を突破し、ノードをやすやすと乗っ取る力を持つ。一〇〇式隊はそれを用いて、セキュリティを乗っ取るのだ。
『FAL、Five-seven。あの策の運行及び修正はお前達に一任する。よろしく頼むぞ』
『そうこなくっちゃ。何もかも私にやらせるのはずるいもの』
『ふふ。いい知らせを待っててね?』
指揮官の言葉に、FALとFive-sevenが気楽に答える。昔、FAL隊で隊長と副長であった二人は互いを補い合う存在だ。極秘の策を授けられていても不思議ではない。そして、それをしっかりやってのけられるだろう、と指揮官は二人を信頼していた。
『64式、見つけておいで。お前の答えをな』
指揮官は慈愛に満ちた口調で64式に言う。復讐をしろ、というのではなく答えを見つけてくるように言うのは、いかにも彼らしかった。64式は思わず口元が綻んでいるのに気付いた。まだ知り合って一月も経たないのに、なんだか指揮官の気持ちが分かって、それが嬉しいのかもしれない。
『こいつが終わったら、ハロウィーンパーティだ! 食い物も飲み物もお菓子も鱈腹用意してるぞ! 大いに楽しもうじゃないか!』
指揮官の言葉に、戦術人形達は歓声を上げる。明後日はハロウィーンでみんなめいめいに準備をしている。パーティをみんな楽しみにしているのだ。
『故に最大の命令を下す。全員、生きて帰れ。以上』
指揮官がいつものようにそう締めくくる。64式達、一〇〇式隊はみんなで顔を合わせ、微笑み合う。きっと他の隊もそうしていることだろう。指揮官は戦果以上に全員の生還を望んでいる。そんな彼のために、今日も戦おう。そう思えた。
『グリフィンドール出撃!…思う存分、やってこい!』
指揮官の号令を受け、各隊は行動を開始する。M590隊及びトンプソン隊、そして404小隊とネゲヴ隊は前進を始めた。間もなく、決戦の火蓋は切って落とされる。64式は銃を握り締めて、目標地点への到着を待った。
「行きましょう。答えを探しに、ね」
「ええ!」
相棒のFALに、64式は獰猛な笑顔でそう答えた。