64式戦記   作:カール・ロビンソン

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最終章:誰も皆、今を受け入れて生きていくしかない(承)

 夜の静寂をホイールの駆動音が、そして銃撃の音が切り裂く。

 雑多な銃器を持つ人間の形をした何かであるゾンビ共は、闇夜を駆ける小さなそれに容赦ない銃撃を加える。だが、それは空しく痩せた大地を抉るのみだ。高速で無尽に走り回る小柄な物体を、FCSさえ持たないゾンビ共が捉えられるはずもない。

 

 闇の中に銃声が響く。3点バーストで放たれた5.7mmの弾丸がゾンビの内の一体の頭部をぶち抜いたのだ。

 頭部を破壊され、倒れるゾンビ。それは一体、また一体と増えていく。対するゾンビ共の攻撃は小さな人影を捉えることさえできない。

 

 約時速60kmで大地を駆け、冷徹な射撃を続けるまるで小学生のような姿の人形、甲型軍用戦術人形、通称レーヴァティンモデルは徐々に距離を詰めていく。ちまちまと射撃で倒していてもキリがない。弾も無駄である。炎の禍杖の異名を持つ自身の得意とするクロスレンジで一気に敵を殲滅するのだ。

 

 ゾンビ共の持つ粗悪なAK47のような小銃が放つ弾丸がレーヴァティンの胴をかすめる。しかし、それは彼女の身に纏うダッフルコートのような装束に易々と弾かれる。単相金属繊維モノクリスで作られた防護服は、従来のケブラーとは比較にならない耐久性を持っている。小銃程度ではとても傷を与えることはできない。

 

 敵の攻撃をものともせずにレーヴァティンはついに敵の懐に到達する。同時にPDWをマガジンをパージしつつ、前上方に投げ捨て、背負うランドセルのようなバックパックの横に付いた縦笛のようなものを手に取る。それは彼女の身長程に伸び、光の刃を展開した。

 

 彼女が袈裟懸けにそれを振るうと、目の前のゾンビが斜めに裂けた。血さえ流さず両断されるゾンビを尻目に返し刃を振るう。もう一体のゾンビが胴一文字に切り裂かれた。

 まるで舞うように、光の剣を振るうレーヴァティンに10体いたゾンビは全て切り払われ、地に伏せる。この間、約2秒。レーヴァティンは縦笛を元の長さに戻す。バックパックのサイドに付いたサブアームに渡し、PDWのマガジンを受け取る。約5秒。

 

 そして、更に走り、上から降ってきたPWDをキャッチし、マガジンを装填しつつ構え、再び銃撃に移る。精密な射撃を受け、ゾンビ共はますます数を減らしていった。

 

「…なんかさ、あたしたち余分じゃない?」

 

「言うな。…分かってたことだ」

 

 その様子を後方で見ていたスコーピオンがボヤき、トンプソンがそれを窘める。

 レーヴァティンの後塵を拝して敵の中を駆けるトンプソン隊。だが、彼女らはほとんど銃弾さえ発していない。前方の敵はレーヴァティンが目にもとまらぬ速度で潰していくからだ。

 最も、トンプソンにしてみればこれは目に見えていたことだった。最新鋭の軍用戦術人形であるレーヴァティンは民間の戦術人形など比較にならない戦闘力を持つ。今彼女が身に纏う装備は、普段のものに比べ半分程度の性能しか発揮できないらしいが、それでも民間戦術人形と比べれば猫と虎程の差があったのだ。例え正真正銘の一体しかいなくても、民間戦術人形100体にも勝る実力が彼女にはあるのだ。

 

「腐るな、お主ら。我々は我々のできることを成すだけじゃ」

 

 M1895が苦笑しながら言う。軍用戦術人形が強いのは先刻承知である。自分たちは自分達にできることをするしかない。そんな彼女のセンサーが敵影を探知した。右手に200体ほどの群れだ。

 

「へぇ。まだ反抗したい奴が居るの?」

 

「もっと…もっと速く…!」

 

 OTs-14と9A-91がその一団に銃を向ける。闇を切り裂く弾丸がゾンビ共を捉え、バタバタと打倒していく。ゾンビ共からの反撃はない。ただ、狂ったように突進して来るだけだ。二人の戦術人形はそれを冷徹に撃ち続ける。

 

「なんか、銃を持ってる敵が少なくなってきたね」

 

 スコーピオンが倒れていく敵を観察して言う。彼らは銃を持っていない。手に鉄パイプなどの鈍器を持っているだけだ。彼らの手にした武器は粗末なもので、カラシニコフの出来損ないを持つ者はもう僅か。鉄パイプ型ショットガンや拳銃を持つ者さえ疎らで、多くは鈍器やナイフを手に万歳突撃してくるありさまだった。

 

「補給が尽きたんじゃろうな」

 

 M1895が状況を分析して言う。それはトンプソンやOTs-14も同意見だった。

 テロリストの補給線は貧弱で、スポンサーを得なければ兵器の調達もままならない。そして彼らはスポンサーに噛みつく、という愚行を働いた。補給線を絶たれた彼らが、粗悪品のカラシニコフとはいえ十分な銃や弾薬を補充できるわけがないのだ。

 

「愚かな連中。当然の報いね」

 

「ああ、全くだよ」

 

 OTs-14が吐き捨てるように言うのに、トンプソンが同意する。

 とはいえ、と思う。この状況を作り出したのは、間違いなく我らが指揮官であった。彼が動かなければ未だケミカルダインは彼らのスポンサーを続けていただろう。そうであれば、今のように楽に戦闘を進められることはなかった。

 

「ったく、恐ろしい奴だな、うちのボスは」

 

「じゃな。まっこと、腕の立つ情報員は恐ろしい」

 

 トンプソンの言葉に、M1895が同意する。ペンは剣よりも強し。銃を手にすることさえなく、万余の敵を手玉に取る。我らが指揮官はまさに悪魔と呼ぶにふさわしい化け物だ、と思った

 

「あらかた片付いたみたいですね」

 

 後方から追いついてきたM590がトンプソンに声をかける。ラインを確保しつつ、G41隊の軽トラを守ってきた彼女らが前に来た、ということはそろそろ期が迫っているのかもしれない。

 

「ああ。ほとんど、レヴァの独壇場だがな」

 

『トンプソンさん達の援護あってのことです。一人ではラインを維持し続けられませんし』

 

 トンプソンの言葉に、レーヴァティンが通信モジュールを通じて言う。それは謙遜でもなく、本当のことである。

 レーヴァティンは確かに無敵の存在だが、単騎でラインを維持できはしない。彼女は言わばドリルの先端で、それを押し広げる軸は必要なのだ。

 

「レヴァって本当にいい子だよねー。クリスマスにはうちに来るんでしょ? 一緒に遊ぼうよ」

 

 スコーピオンが笑ってレーヴァティンに言う。素直で謙虚な彼女にみんな好感を抱いていた。指揮官の話では、ハロウィーンは無理でも、翌月のクリスマスパーティには出られるらしい。ぜひとも一緒に楽しみたい、と思っていた。昔の指揮官の話も聞きたいし、とも。

 

『はい、スコーピオンさん。よろしくお願いします』

 

「うん。野球盤とかやって遊ぼうね~」

 

 ボコボコにされて不貞腐れるのがオチだからやめとけ。二人の会話を聞いたトンプソンが苦笑しながらそう思う。彼女のセンサーはG41をも遥かに上回る。まともに戦えるはずがないのだ。

 

「お前が上げてきた、ってことは」

 

「ええ。…G41隊が行きますよ」

 

 そう言って、M590はトンプソンに背負っていた大きなリュックを投げて寄越す。それを受けとったトンプソンは口を開けてひっくり返した。中からは弾薬が缶詰が転がり出た。トラックに積まれていた補給物資の最後のものだ。それはつまり、G41隊が突撃をしかける頃合い、ということだ。

 

『G41隊、出ます!』

 

 G41の号令と同時に、トラックが砂煙を上げながら走って行く。大地でのたうつゾンビを踏みつぶしながら。

 同時に補給を終えたトンプソン隊とM590隊が突進を敢行する。G41隊を援護するためだ。レーヴァティンも銃を持っている敵のグループに突進し、それを切り裂いて無力化していく。

 

「外さないんだから!」

 

「消えろ、蟲共が!」

 

「汚物は消毒よ!」

 

 荷台の上に乗るG41とSVD、そしてG36の放つ弾丸が、寄せ来るゾンビをバッタバッタと撃ち倒していく。

 

「チッ! そこまでよ!」

 

「誰にでも救われる価値があるとは限りません!」

 

 取りつきかけた敵も、運転席のウェルロッドと助手席のSR-3MPが窓から乗り出して放つ弾丸に倒される。もはや邪魔するものはない、そう思えた。

 

『!? G41さん、警戒を!』

 

 レーヴァティンが注意喚起を促す。雑兵に紛れて、重火器を持った敵が姿を現したのだ。獲物はRPG-7。数は10数体。

 

『G41さんをやらせはしない』

 

 レーヴァティンがランドセル横の縦笛をホップアップする。その先端から高出力のレーザーが放たれ、敵数体の首を撥ねた。

 

「邪魔だ!」

 

「用意…撃て!」

 

「民間用の武器の威力、思い知らせてあげるわ!」

 

 OTs-14、スプリングフィールド、M14の放った弾丸が、敵の頭部を捉え、風穴を開けて撃ち倒していく。

 

「黙ってろ!」

 

「外さないんだから!」

 

 SVDとG41が精密射撃で更に2体の敵をうちのめした。

 だが、それでも数体残った敵がロケットランチャーを放とうとする。ウェルロッドが舌打ちをしながら、ハンドルを切る。当たれば一巻の終わりだ。避けられるか。G41隊の背筋に冷や汗が流れる。

 

 だが、次の瞬間ランチャーを構えた敵が尽く撃ち倒されていく。何者かが高速戦闘を仕掛け、銃弾で撃ち倒したようだ。

 

「ふん。面白くもない」

 

 そう呟いて、ジャマハダル状の武器を最後に残ったRPGを構えたゾンビに突き立てたモノが言う。鉄血のBOSS級人形、アルケミストだった。

 

『よう。呉越同舟だな、鉄血の屑』

 

『そうだな、トンプソン。お前みたいな面白くない奴を助けたいわけではないのだけどな』

 

 憎まれ口をたたき合うトンプソンとアルケミスト。だが、その言葉の内に憎しみや軽蔑はない。お互いが目的のためにやるべきことはやる。その間背中を預けていられる。その程度にはお互いのことを理解していた。

 

『せいぜい足を引っ張るなよ、グリフィンドール』

 

『ほざくなよ、鉄血の屑。レヴァ、せいぜい屑の度肝を抜いてやれ』

 

『了解です。トンプソンさん。まあ、淡々と処理すれば済むだけの話です』

 

 声を掛け合う鉄血の機械人形。グリフィンの戦術人形。そして、軍戦術人形。所属はそれぞれ別々なれど、目的の一点は共通している。ゾンビ共を駆逐し、蟲の悲劇を終わらせる。そのために、彼女らは同じ方向に向いて、歩いて行くのだ。

 

 G41隊が敵陣を突破し、敵施設に到達した、という通信が流れたのはそれから数分後のことであった。

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