G41隊の突入と共に、ヘリが屋上に接近していく。屋上にはいくらかのゾンビが待機していたが、FALが叩き込んだグレネードであっけなく吹っ飛ばされた。
そして、先に一〇〇式が屋上に降下し、安全を確保する。屋上の上空約20mの高さから無造作に飛び降りた一〇〇式は屋上に激突する直前で、まるで綿毛が落ちるかのようにふわり、と落下した。新型ナノマシンとやらの力であろうが、もはや何でもありだな、と思う。
一〇〇式が屋上に出てこようとするゾンビ共を抑え込んでいる隙に、ヘリは屋上に降下する。そして、手早く64式達を下ろすと同時に離脱していった。
退路はない。だが、引くつもりはない。戦いに決着をつけ、答えを得る。そのために自分はここに立っているのだ、と64式は銃を握り締める。そして、FALの方を見て、頷き合い一〇〇式の後方に付き、バックアップの態勢をとる。TPMとFive-sevenもそれに倣った。
だが、すでに一〇〇式は戦闘を終えていた。階段の下に転がるゾンビはほんの数体で、それらは一〇〇式のみで片づけられたのだ。後続が来る気配もない。
「G41ちゃん達が突入に成功したみたいね。敵はほぼ全部そちらに向かってるんじゃないかしら」
「ふふ。やるわね、あの娘」
Five-sevenの言葉に、FALが表情を綻ばせる。G41の活躍が嬉しいようだ。
「…それにしても数が少ないのね」
「指揮官の策が図に当たったのよ。おまけにG41に突破されたんじゃ、戦力なんて残しようがないわ」
64式の言葉にFALが言う。指揮官の策のせいで、主力はケミカルダイン襲撃及び鉄血との交戦に用いているだろうヒューマニス。数少ない戦力もレーヴァティンにあらかた蹴散らされ、残りはG41隊を食い止めるために使わないといけないのだ。コントロールルームもまた恐らく手薄であろう。そして、数の圧力のないゾンビなど、戦術人形の敵ではなかった。
「急ぎましょう。コントロールルームはすぐよ!」
FALの言葉に64式達は頷いて階段を降り、廊下を駆けていく。途中で散発的なゾンビの抵抗に遭ったが、粗悪な拳銃のみしか持っておらず、64式とFALが出会う度に即殺するのみであった。まとまった行動が見られないことを見ると、もう指揮系統もズタズタなのだろう。
更に階段を降り、廊下を数分駆けると分厚い金属の扉が見えてきた。そここそがコントロールルーム。この施設全体を司るメインノードがある場所である。
扉には鍵がかかっていたが、一〇〇式が銃剣を数度振ると、特殊合金製の分厚い扉はまるで紙切れのように切り裂かれ、扉が崩壊した。
扉の割に小ぢんまりとした部屋の中は、稼働中のサーバーで埋め尽くされていた。一〇〇式は端末を見つけてディスプレイを起動させる。パスコードを要求されるが、もちろんそんなもの一〇〇式には付与されていない。
「
「はい」
FALの言葉に頷いて、一〇〇式が鞄から大型拳銃のような何かを取り出す。
一〇〇式がその引き金を引くと、銃身の部分が二つに分かれ、ディスプレイとコンソールが現れる。これは指揮官の持つ拳銃型IFNデッキであり、彼の切り札だ。
小型ながらも軍用のパーツで構成されたそれは、民間のデッキを遥かに上回る代物で、大概のシステムならプログラムに任せておいても、処理速度に物を言わせた一斉攻撃で乗っ取ることができるのだ。
一〇〇式はすぐにそれを端末に繋げる。すると、自動でハッキングプログラムが起動した。凄まじい勢いでディスプレイの表示が移り変わる。そして、数秒の後プログラムは自動的に終了した。メインノードの乗っ取りが完了したのだ。
「後は私の方でやるわ」
Five-sevenがそう言って、首の後ろに繋げたケーブルを伸ばして、端末に接続する。すでに乗っ取られたシステムはもはやFive-sevenの意のままであった。
監視システムに目を通すと、地下の隠し通路からAR小隊がすでに侵入を開始していた。地下にもほとんど敵は居らず、彼女らもまた無人の野を進むかのごとき速度で進撃している。
その様子を見て、64式は首を傾げる。指揮官の見立てでは、事件の首謀者は地下にいるという。このままではAR小隊が敵親玉を討ち果たして事件は終わってしまうのではないか、と思ったのだ。
「慌てないの。何もかも指揮官の筋書き通りよ」
FALが64式の心を見透かしたように言う。もうこんなやり取りにも慣れてしまった。64式は苦笑して、彼女の言葉を待った。
「この階には地下直通のエレベーターがあってね。それを使って、彼女らと合流できるのよ。具体的にはM16とM4とAR-15が退路の確保に努めて、その穴を合流した私と貴女、それにTMPで埋めるのよ。以後の作戦指揮は私が執るわ」
FALは作戦を立て板に水を流すかの如く言う。それは指揮官と既に詰めていた作戦だったのだろう。確かに全て指揮官とFALの思惑通りに進んでいるようだ。
「でも、一〇〇式さん達は…」
「Five-sevenはメインノードの維持。
64式の問いに、FALがすぐに答える。確かにメインノードのコントロールを奪い返されると、警備システムを使われてしまうことになる。それは避けなければならない。そして、敵が万一逆ハッキングを仕掛けてきた場合、指揮官の拳銃型デッキのプログラムに頼るしかないが、あのデッキは何故か一〇〇式以外が触ることを固く禁じているという。この場に二人が残るのは妥当な判断なのだ。
「防火扉も下したし、システムは完全に把握しているわ。安全に地下まで行けるはずよ」
「64式さん、行ってきてください。答えを見つけに」
部屋に残るFive-sevenと一〇〇式が励ましてくれる。64式はそれにただ莞爾と笑って答えるだけ。指揮官もFALもそして、この二人も自分が答えを見つけることを願っている。その思いに応えたい、と思った。
「行きましょう。これが最後の決戦よ!」
「は、はい! 頑張ります!」
「ええ! これでおしまいね!」
FALの号令にTMPと64式が応え、部屋を出て駆け出していく。地下へと続くエレベーターにはすぐに辿り着いた。
すぐにエレベータに乗り込み、地下6階のスイッチを押す。エレベーターは順調に下りていき、やがて扉が開いた。
「よう、遅かったじゃないか」
薄暗い地下通路に出て一番に、M16が不敵に笑顔で迎えてくれた。他のAR小隊の面子も揃っている。
「では、FALさん。私達は退路の確保に移ります」
「チャンスをものにしなさいよ」
M4A1とAR-15がそう言って廊下の右手側に消える。
「えへへへ。BOSSとの決戦かぁ。ねぇ、早くいこ?」
「ええ。以降の指揮はよろしくね、FAL?」
隊列に加わったSOPMODとROがFALに言う。二人とも強力な戦術人形であり、一〇〇式とFive-sevenの穴を埋めて余りある力を持つ。この戦力で決着をつけるのだ。
「ええ。任せておきなさい。行くわよ!」
FALの号令と共に、ROを先頭にした隊が廊下を駆けていく。目指すはこの階のさらに下にある、最深部の得体のしれない巨大な部屋であった。指揮官も使用用途が掴めず、システムで管理されていないのかFive-sevenがメインノードから確認しようとしてもできないのだ。
だが、それ故に恐らくそこに首謀者はいる。そう確信できた。
廊下のさらに先にあった地下に続く階段を、FAL達は警戒しながら降りていく。だが、ゾンビの気配は一切なかった。戦力を完全に使い果たしたのか。あるいは…
緊張の面持ちで、64式は仲間と共に進む。階段を下りた先には分厚い金属の扉があった。それはFAL達を迎えるかのように開いていた。
「罠…なの?」
「そうね。そのつもりなのかもね」
ROの言葉に、FALが不敵に笑って言う。いずれにせよ、前に進まなくては敵の親玉を倒すことはできない。64式はFALの顔を見る。彼女は自信に溢れた獰猛な笑顔で64式に応えた。わが胸中に策あり。そう言いたげな様子だった。
「大丈夫よ。罠があっても踏みつぶすだけ」
「…そうですね。貴女と指揮官を信じます」
FALの言葉に、ROが頷く。そして、FAL達は部屋の中に足を踏み入れた。
そこに広がっていたのは、地下とは思えないほどの広い空間だった。
部屋にずらりと並ぶ、金属の棚に所狭しと置かれた物資の箱。それはまるで大型の倉庫のようであった。だが、部屋の隅には居住施設らしき建物が確認できる。
「避難用のシェルターなのかもね」
FALは自身の推測を述べる。生物兵器を扱うプラントであるからには、それらが暴走した時の対策も必要だ。そうした緊急事態の時、救援を待つ間立てこもるために用意されたシェルターなのかもしれない、と思ったのだ。
「…ねえ、何か聞こえるよ」
SOPMODが警戒の面持ちで言う。64式も耳を澄ましてみた。
ガン、ガン、ガン、ガン… 巨大な金属の塊が床を叩くような音が聞こえる。それは徐々に大きくなっているように思えた。
「…おいでなすったわね」
そう言ってFALが銃を構える。64式及びSOPMODもそれに倣った。同時に、ROとTMPが棚の陰に隠れる。FAL達の制圧射撃の後、突撃を敢行する構えだ。
曲がり角からついにそれは姿を現した。敵と思われる物体。それは全高3mほどの鉄の巨人であった。
「…ミツケタゾ、ニンギョウ」
そいつは歪な機械音声で確かにそう言った。