64式戦記   作:カール・ロビンソン

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第3章:人は善意に満ちているとは限らない(中)

 来た。あまり趣味の良いと言えない迷彩柄の軽自動車の後ろを、軽装甲車だの黒塗りのセダンだの白いバンだのの雑多な車が着いてくる。指揮官の私物であるキャンピングクルーザーと追って達だ。

 

 64式は脚を下ろして伏せ撃ちの姿勢で狙いを定める。安全装置はレの位置。マガジン一つを丸々使って足を止めるつもりだ。

 後続の車両との距離が300m。今だ。64式は引き金を引く。7.62mm×51弾が轟音とともに銃口から吐き出された。強い反動も、戦術人形の膂力と頑丈さ。そして、生体FCSが解消してくれる。

 大口径の弾丸が車の薄い鋼板を貫通し、タイヤをバーストさせる。スピンして足を止めた車に、後続の車両がぶち当たる。10数量いるうちの3分の1は足を止めた。

 

「FAL!」

 

「任せなさい!」

 

 そこにめがけて、FALが容赦なく榴弾を叩き込む。大型の対戦車榴弾だ。それは狙いを違えず各坐した車両の下に飛び込み、派手な音を鳴らして爆発した。車両がまるで子供の玩具の様に吹っ飛んで宙を舞った。

 

 やったか。64式とFALはマガジンを交換しながらひっくり返ったり、横転したりしている車を見る。そして、そこから這い出てきた奴等を見て眉をしかめる。奴らは粗末な服を身に纏う人間だが、身体中に傷を負っていたり、手がおかしな方向に曲がっていたりしても一様にこちらに向かってくる。嫌な光景だ。

 

『指揮官、一撃目はまずまず成功よ』

 

『了解。FAL達は直ちに退け。M590隊は直ちにフォローに向かえ』

 

『了解です、指揮官』

 

 FALの言葉に晶はそう答え、M590が号令に従う。全ては作戦通りだ。

 指揮官の作戦。それはケミカルダインの追っ手を64式とFAL、SOPMODとM16、M4とZas M21の三段階の伏兵で徐々に数を減らしていく、というものであった。一撃を与えたらすぐに退くようにとも。予備隊にはM590隊と臨時編成G41隊とRO隊が用意されている。

 

「さて、さっさと退きましょう」

 

「…あの程度の数なら、私達で倒せるんじゃない?」

 

 FALの言葉を聞いた64式は敵を睨んだまま言った。車から這い出てのろのろとこちらに向かってきているのは、ほとんどがすでに重傷を負ったゾンビ共だ。手に持つ銃も粗製乱造されたカラシニコフのような小銃だ。これならFALと自分だけでも十分だと思ったのだ。

 

「駄目よ。あんな銃でも、当たり所が悪ければ死ぬわよ?」

 

 FALに背を摘まれて促される。仕方なく、64式は立ち上がって脚を畳む。そして、ゆるゆると退き始めた。

 

「…なんだか、よくわからないわね」

 

「何が?」

 

 64式がぼやく様にいった言葉に、FALが反応した。

 

「なんだか、慎重すぎるというか… 噂の天野指揮官らしくないですね」

 

「うちの指揮官は概ねこんな感じよ。私達を危険に晒すよりも、非効率的でも戦力を大量に投入するのよ」

 

 64式の言葉にFALは笑う。軍においては悪魔と呼ばれたこともある指揮官。そして、重要な作戦における独断専行や大胆な作戦。それらから大きな誤解を生んでいるようだが、彼は決して非道な指揮を執る指揮官ではない。

 

「あの人はね、私達の生還を第一とした戦術を立てるの。もちろん、ここ一番には命をくれ、ということもあるけどね」

 

 FALは彼と共に歩んできた数年間を思い出して笑う。彼は時に盛大にリソースを消耗し、戦場を破棄してでも配下の戦術人形達の安全を重視してきた。効率、という言葉からは程遠い泥臭い戦いをやったこともいくらでもある。

 

「だからこそ、私達も彼に命を預けられる。彼を信頼して戦場を駆けることができるのよ」

 

 FALの言葉には指揮官に対する信頼に満ちていた。どんな無茶に見える作戦でも、彼はきっと自分達の生存を第一に考えてくれるだろう。そう信じられればこそ、兵士である戦術人形は迷わず死地に向かえるのだ。そうした信頼は何物にも換えがたい。信頼の積み重ねがあってこそ、彼の指揮に間違いはない、とFALは胸を張って言えるのだ。

 

「…私達は兵器なのに?」

 

「兵器だからこそ、よ」

 

 64式の言葉に、FALは彼女の肩を軽く叩いて言った。

 兵の生存に努める意味はある。兵の経験は何物にも変えがたい財産になる。戦術人形の生存に注力すればするほど、それらは蓄積されていく。彼が生存を重視しているのはそうした事情もある。何も戦術人形可愛さだけではないのだ。

 

「死んだ英雄よりも生きる卑怯者になりなさい。それがこの隊のモットーよ」

 

「…肝に銘じておくわ」

 

 FALの言葉に、64式は笑ってそう言った。確かにある意味で効率的なのかもしれない。少なくとも配下に死を強いる指揮官よりはずっといい姿勢だ。そう思えた。それにそれを裏打ちする実績もあるのだし。

 

 やがて、走る先に停まっているバンを見つけた。64式とFALが近づくと、ドアが開いて中から人形たちが飛び出してきた。それは、M590隊の面々。一〇〇式隊と並ぶ、この基地の常設部隊だ。

 

「ご苦労様です。後は私達に任せてください」

 

 そう言って、腰部のサブアームに接続されたFRP装甲を展開させるのは、M590。この隊の隊長だ。彼女の視線はFAL達の背中から追ってくる人影に注がれている。それは僅か10数人。数が減ったのは、負傷による出血で脱落したのだろう。

 

「では、お願いします」

 

「さぁ、張り切っていきましょう。勝利を手に入れるのです!」

 

「この弾で、全て終わらせましょう」

 

 M590の言葉と共にM14とスプリングフィールドが銃を構える。彼女らの放つ銃弾が愚直に近寄ってくるゾンビ共の頭部を打ち抜いて、倒していく。数分の後追手は全て倒れた。一応警戒をするが、後続の気配はない。

 

『指揮官、聞こえますか!? 勝利の鐘がなってます~!』

 

『ああ。よくやった、M14。スプリングフィールドもお疲れ様』

 

『はい、指揮官。私、頑張りました』

 

 M14と指揮官、それにスプリングフィールドが言葉を交わす。戦場であるというのに妙に暖かい雰囲気に64式は苦笑した。でも、こういうのも悪くない。そう思えた。

 

『指揮官、ごめん! 一台逃がした!』

 

『軽装甲車だ! そいつが本命だぞ、指揮官!』

 

 SOPMODとM16の通信が聞こえる。彼女らが最後の伏兵だ。流石に対人榴弾しか用意していないSOPMODでは装甲車を倒すには至らなかったらしい。

 

『了解。SOPMODとM16はすぐに退却。…一〇〇式(モモ)、いけるか?』

 

 だが、指揮官は冷静にそう言う。64式は首を傾げた。一〇〇式はSMGであり、装甲車に対抗する能力など持ち合わせていない。そう思ったのだ。

 

一〇〇式(モモ)、もう一度視覚を頂戴。…後輩にカッコいい所を見せてあげなさい』

 

『分かりました。指揮官、FALさん』

 

 一〇〇式がそう言う共に彼女の視界が64式の脳裏に流れ込んでくる。彼女は今車の後部にいて、後ろのハッチを空けて装甲車と対峙している。隣にはトンプソンが立っている。電磁フィールドで敵の攻撃に対応するためだろう。運転はFive-sevenが代わったようだ。

 一〇〇式の銃の先端を見る。そこに取り付けられた銃剣。それは短い日本刀のような形状だった。64式の知らないそれは亡き友から受け継いだ刃。最強の剣にして、人類に残された、たった一つの希望であった。

 

(千鳥ちゃん…貴女はきっとこの人を許せないよね…? でも…)

 

 一〇〇式の心の声が聞こえる。視覚と共に64式にも流れ込んできた。それはとても悲しく、そして強い決意に思えた。

 

(私は…! 人を守りたいから!!)

 

 ワンサード力学格子形成。一〇〇式の周囲に桜の花びらのようなナノマシンで形成された力学格子が舞い散る。銃剣を振りかぶる。超電磁フィールド収束。それを力学格子が包み込んで磁場で固定する。

 

「はあああああ!」

 

 裂帛の気合と共に振り下ろされた銃と共に、撃ち出された透空の刃。それは大地を引き裂きながら、軽装甲車に殺到する。接触する。次の瞬間、装甲車は綺麗に真っ二つになり、少し進んでやがて道路の両脇に倒れた。中に乗っていた連中は超電磁の刃が消滅させたようだ。

 

『…指揮官、終わりました』

 

『…了解。よくやった、一〇〇式(モモ)

 

 報告する一〇〇式とそれを受ける指揮官。彼の声に悲しみなのか恐れなのか。その複雑な何かは64式には分からなかった。

 

『作戦は概ね完了。G41隊は護衛を継続。他は基地に撤収せよ』

 

『了解』

 

『はい! ご主人様!』

 

 FALとG41が指揮官の指示に反応する。FALに促されて、64式はバンに乗る。作戦は終わった。思ったよりもずっとあっけなく。でも、何か釈然としない。64式の胸には何か蟠りが残っていた。

 

「…大丈夫よ。心配することはないわ」

 

 隣のFALが肩を抱いてそう言う。彼女には何もかもお見通しなのかもしれない。でも、それを疎ましく思う余裕もなく、心に整理もつけられず、64式は人形が詰め込まれた狭いバンに揺られて基地へと帰還した。

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