最近全く時間取れずにこんなに遅くの投稿となってしまいました。申し訳ございません。
アランが自分のことをグレンに話した次の日。
アランはいつものようにシスティーナとルミアと一緒に登校していた。
「………またあいつの授業とも言えないものを受けなきゃいけないのね………。」
憂鬱そうにそうこぼすシスティーナ。
真面目な彼女にとって、授業をサボるという選択肢は初めから存在しない。
だから、行くしかないのだ。
しかし、どう考えてもグレンのあの授業は苦痛でしかないはずなのに、横を歩く2人は全然そうは見えなかった。
「ま、多分大丈夫だぞ。」
「うん。きっと大丈夫。」
それどころか、信頼したように安全を保証する始末。
なにか知っていそうな雰囲気出す2人を見たシスティーナは少し考え、とりあえずは信じることにしたのだろう。
「………はぁ。2人がそう言うなら今日は見てやろうじゃないの。」
そう言って観念したかのようにため息を吐いた。
「なんだかんだ言って仲良いくせに。」
「仲良くなんか無いわよ!あんなやつ!」
フンッと鼻を鳴らし、そっぽをむくシスティーナ。
「悪かったって。」
「でも先生と1番話してるのってシスティだよ?」
「大半お説教だがな。」
アランが茶々を入れるが、実際そうである。
他の生徒は完全に無視を決め込んで授業中に自習をしているので、誰も話さないのだ。
グレンが学院で話すのはここにいる3人とセリカくらいであろう。
「それはあいつがしっかりしてくれないからよ。してくれるんなら説教もしなくてすむし。清々するわ。」
「やれやれ。素直じゃねえなぁ。」
「何か言った?」
「何も。ほら、教室ついたぞ。」
そう言って教室に入ってそれぞれが席につく。
アランはいつものように睡眠に………入らず、教科書とノートを机に準備していた。
「………どうしたの?頭でも打った?」
「なわけあるか。授業の準備だよ。今日は授業あるだろうし。」
「ふん。あいつに限ってそれはないね。」
「お、なんだギイブル。お前もそう思っちゃうか?」
鼻で笑い、冷静に言うギイブル。
「あいつはやる気がないんだ。アランだって今までの態度を見てただろ?なら、期待するだけ無駄だよ。どうせ授業にも遅れてくるさ。」
この教室にいる殆どの生徒の気持ちを代弁した発言に、アランは笑って答えた。
「ま、多分大丈夫だ。なんせあいつは、『先生』だからな。」
ガラガラガラ!
アランが言い終わったタイミングを図っていたのだろうか。
初日に吹っ飛ばされたが後に直されたドアが音を立てて開く。
はて、まだ来てない生徒は居ただろうか?
みんながそう思ってドアの方を見ると……グレンがいた。
しかも、授業開始前に。
どうしたのだろうかとみんなが小声で話していると、ツカツカと靴の音を鳴らしてグレンが歩き、システィーナの前に立つ。
「………なによ。まだ魔術はくだらないと言うのかしら?」
システィーナは喧嘩も辞さないという覚悟でそう問いかける。
だが、グレンは一切なにも余計なことは喋らず、腰を折り、頭を下げた。
「………昨日は悪かった。」
それは一般的にいう謝罪の意を示す行動。つまり、謝ったのだ。
「………え?」
謝られた本人も驚きを隠せず、きょとんとしている。
それどころかクラス全員がその行動に驚き、目を丸くしていた。
「ほら、なんだ。俺は魔術なんて大っ嫌いだが……それを押し付けるのは子供っぽいっていうか大人気ないっていうか………。とにかく、悪かった。すまない。」
そう言って答えを聞かずに移動し、腕を組んで黒板に寄りかかって目を閉じた。
クラス全員。いや、アランとルミアを除いた全員が今までのグレンからは考えられないような行動に度肝を抜かれて小声で騒ぐ。
ちなみにルミアは期待の目でグレンを見つめ、アランはニヤニヤしながら事の顛末を見守っていた。
そして刻々と時間は過ぎていき、授業開始のチャイムが鳴った。
「さて、授業を始める。」
驚く生徒を尻目に時間ぴったりにそう宣言したグレンは教卓にある教科書を手に取り、パラパラとページを捲っていく。
だが、捲る度にどんどん顔が苦くなって行き、額から汗が流れ、限界が来たのか教科書を閉じた。
「なんじゃこれ!そりゃぁ!」
そう言って窓の外へ教科書をぶん投げた。
ああ、なんだ。いつも通りだったか。
各々そう思い、自習の準備をしようとすると
「さて、お前らに言っとくことがある。」
そう、声を出した。
そして口角を釣り上げ、心底バカにしたような声音でこう言った。
「お前ら、本っ当に馬鹿だな?」
と。
そう言い出し、グレンは「本当の授業」を開始した。
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「こんな授業があったのか」
授業を受けている生徒は全員こう思った。
最初に扱った呪文は「ショック・ボルト」。
基礎中の基礎の魔術で、あんまり魔術が得意でない俺だって使える魔術だ。
普通の講師ならば「これはこう唱えたら出てくる」くらいしか説明しないこの魔術。
だが、グレンは違った。
この魔術の威力調整やら射程の変え方を実際に見せてくれた。
そしてなによりもわかりやすい。
魔術が得意でない者はわかるように。
得意な者はより理解が深まるように。
そんな授業だった。
当然こんなハイレベルな授業をしたのだから数日もしないうちに評判になった。
日を追う事にグレンの授業に参加する人が増え、教室が少々窮屈に感じるほど参加者が増えていったが、当の本人は全く気にせず授業を続けていた。
だが………
「じゃぁこの呪文のここを変えたらどうなるか?アラン。答えろ。」
「あの、俺に当てる回数多くないっすかね?」
「ふっ。俺はお前の為を思ってだな」
「嘘つけ。てか俺以外にも当てろよ。不公平だろ?」
「ぶっちゃけお前くらいしかこれを初見でわかるやつ居ねぇよ。」
俺ばかりに当ててくるのだ。
別にそれだけなら構わないのだ。実際わかってるのは事実だし。
だが、いちいち当てられると地味に面倒臭い。ノートも取る時間減っちまうしな。まあそこはシスティとルミアが見せてくれるからなんとかなるのだが。
と、そうこうしているうちに本日も授業が終わり、下校となった。
「やれやれ。今日も疲れたなぁ……。お前ら明日ちゃんと来いよ?」
明日は休日だが、授業がある日だ。
例のヒューイ先生が辞めた分の埋め合わせである。
「貴方こそ遅れないようにしなさいよ?」
「けっ。分かってるよ『白猫』。」
白猫というのはグレンがシスティにつけたあだ名だ。
なんでも髪の色といつも着いてる猫耳みたいなのからつけたらしい。本人曰く、ふっと思いついたとか言っていた。正直賛同できる。怒った様子とかもどこか威嚇してるネコを連想させるしな。
「私は猫じゃないって何度言えば分かるんですか!だいたいさっきの授業だって魔術に対する敬意が」
だが本人はあまり納得していないようで、言われる度にああなっている。正直諦めて受け入れた方が良いのではなかろうか?
「だ〜もうやかましいわ!ほら、さっさ帰れ!じゃあな!」
そう言い残してダッシュで教室を後にするグレン。
「あっコラ!………もう。いつもこうなんだから。」
「あ、あはははは。まあ、先生だしね?」
「ま、さすがに遅れはしないだろ。遅れたら流石にベストオブアホエストの称号をくれてやるわ。」
「それもそうね。見てなさいよ〜!明日こそ魔術についての敬意を……!」
そう意気込むシスティをみて、クラス全員「ああ、いつも通りだな。」と思ったそうな。
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そして次の日。
本来ならばこの曜日はゆっくりと起床し、遅めの朝飯を取っているはずの休日。
だがアランは朝起きてから人生最速とも言えるスピードで制服に着替え、通学路をダッシュしていた。
「やっべ!完全に寝坊じゃい!」
そういいながらダッシュするアラン。
今日からシロウが食材調達で釣りに出かけるということをすっかり忘れ、グースカと授業開始時刻まで寝こけていたのだ。
昨日アホの称号をくれてやるといった発言が完全にブーメラン発言となっていた。
「うおぉぉぉぉぉ!間に合わねえってか間に合ってねえ!」
授業開始から20分程過ぎてから学校に着き正門を潜ったアランは、自身に『フィジカル・バースト』を掛け、思いっきり地面を蹴る。
「セイハァアアーーーー!」
蹴った勢いで教室よりちょっと上まで飛び上がり空中で回転。体制を整え、慣性に従ってそのまま窓に突っ込んだ。
ガッシャーン!
大きな音を立てて割れて飛び散るガラスと共にアランは教室へ到着した。
が、様子がおかしい。いやどう考えてもおかしいのは彼なのだがそれは置いておくとして。
普段ならば授業が始まっているか喋りながらも自習なりなんなりをしている時間なのだが今日は違った。
クラス全員ロープと札でぐるぐる巻きにされていたのだ。
「………そういうプレイか?変態だな。」
「「この状況でそれを言うお前には言われたくねえよ!」」
遅刻、器物破損、変態のレッテル貼り。
この3つを器用に同時にやってのけたベストオブバカエストは、クラスメイトに盛大に突っ込まれた。
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なぜこんなことになったか。
それは遡ること10分前。
「………遅い!」
授業開始のチャイムが鳴ってしばらくした教室で、額に青筋を立てたシスティーナが叫んだ。
昨日注意をしておいたグレンがまだ来てないのだ。
それに、「アホの称号をくれてやる」とか言っていたアランも来ていない。
「折角改善されてきてちょっと見直したのに……!あいつったら!しかもアランまで!」
「でも最近頑張ってたのに急に来ないっていうのも変じゃない?きっとなにか事情があったんだよ。」
「……あいつらならただの寝坊ってこともありそうだけどね。」
実際グレンもアランも寝坊であるのだが、それを知る者はここには居なかった。
「あ、あははは。そんなことない……よ。きっと。」
ルミアが即座に断定できないあたり、なかなか信用されてないようである。
ガラララララッ!
そうやって話していると、教室のドアが開き、2人の人が入ってきた。
「きっと先生とアランね。もう!遅刻は厳禁って昨日あれほ…ど……。………え?」
語尾が小さくなるシスティ。
それもそのはず。
なんせ教室に入ってきたのはアランでもグレンでもなく、
「は〜い。みんな授業お疲れ様〜。」
そう言いながら入ってきた見知らぬ人達だったからだ。
「あなた達誰なの。見たところこの学園の関係者には見えませんが。」
「おいおい!誰って聞かれたぜ!」
「ったく。この状況でわからんのか?おじさん達は所謂テロリストってやつなの。入口にいた門番ぶっ殺して中に入ってきたってわけ。あ、ちなみに俺はジンって言うんだ。」
「俺はブラッドだ。よろしく…っつってもまぁすぐ居なくなるけどな!」
「う、嘘……。だってあの門番は派遣された優秀な……!」
突然言われたことに混乱するシスティを尻目に、勝手に自己紹介をするジンとブラッド。
「いやいやあれが優秀ってw」
「あんな弱いのが門番じゃテロリストに侵入されちゃうぞ?」
「まぁ俺らがテロリストなんだがな!」
「「ギャッハッハッハ!」」
自分たちがテロリストだと豪語し、そのうえで大笑いする2人。
「な、何よあんた達!あんた達なんか先生にかかればあっという間に!」
「ん?ああ。グレンだっけ?あいつなら多分今頃俺らの仲間が殺してるぞ?」
「え……?そんなはず…」
唐突にカミングアウトされた衝撃の事実にザワつく教室。
そんな空気を意に介さずヘラヘラと笑う2人は、学生の身に過ぎない彼らにとってはまるで悪魔のように感じられた。
「そーそー。だから君たちは安心して死ねるってこと。よかったな〜大好きな先生と三途の川の向こう側で会えるぜ?」
ギャハハハハハと下品に笑う男二人の後からもう1人男が現れた。
「お喋りもいい加減死しろ。さっさとこいつらに『スペル・シール』をかけて無力化しろ。」
「えー。レイクさんマジでやるんすか?どうせこんな弱っちいやつらなんかほっといても大丈夫な気がしますがねぇ。」
「そうそう。魔力もったいないっすよ?」
「いいからさっさとやれ。」
「へいへい。」
渋々と言った様子で『スペル・シール』をかけるジンとブラッド。
だがそんな態度とは裏腹に、きっちりと強力に術をかけていく。
全員に『スペル・シール』をかけ終わり、縄でがっちりと縛ると、レイクと呼ばれていた男が指示を出す。
「次だ。ルミアという少女を連れていけ。そこの金髪の娘だ。」
「ちょ、ちょっと!ルミアに何する気なのよ!」
「あ?お前にゃ関係ねえよ。」
親友であるシスティーナが縛られていながらも抗議するが、冷たい態度で一蹴される。
その冷たい目はシスティーナを凍り付けるように居抜き、反抗心を削ぐ。
「くっ。せめて魔術が使えれば……!」
「……?お前、なんか勘違いしてねえか?」
「な、何の話よ?」
「お前らと俺らとじゃ魔術の力量が違いすぎんだよ。んーと、【ほいっ】っと。」
会話の中に組み込まれていた、たった一単語から魔術が起動する。
システィーナに向けられていた指先からでた閃光は細く真っ直ぐに直進し、システィーナの目の前の床を貫通した。
「そ、そんな!まさかこれは『ライトニングピアス』……!?」
「ライトニングピアス」は軍用のB級魔術である。
その名前の如く、雷の様な速さで直進した光が対象を貫くという、シンプルかつ恐ろしい魔術だ。
殺傷力が高い魔術。つまり、「人を簡単に殺められる」魔術だ。
そんな強力な魔術を一節どころか一単語で発動できるのだ。学生がどうこうできるレベルではない。
「だから言ったろ?無理だって。」
「無駄な抵抗はしないほうがいいぞ?んで、こいつがルミアだっけ?」
そう言ってルミアを抱えあげる。
「おいカリス。すまんがその銀髪の女も連れてってくれ。ちょっと『味見』したくてよ。」
「へっ。ロリコンかよお前。まあいいけどよっと。」
そう言ってカリスはシスティーナを抱えあげる。
2人はニヤニヤと卑下た目をしており、今からなにをしようとしているか等、容易に想像出来た。
「きゃぁっ!ちょ、ちょっと!離しなさい!」
「あーもううっせえな。【眠れ】。」
魔術を発動させてシスティーナを眠らせ、ジンとレイクとともに廊下へと移動して行った。
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「ってことがあったんだ。」
俺が全員に解呪し、代表してカッシュに状況を聞くと、相当やばいということがわかった。
学園にテロリストとか中学生の妄想かっての。まぁいざ実際にそんなシチュエーションになれば分かるが、ぶっちゃけ怖い。遅刻してなけりゃ俺もこうなってたと考えると、足が震える。
「そうか……。んじゃ、ちょっと行ってくるわ。」
「ちょっと!どこに行くんですの!」
ウィンディに止められる。
だが、俺は足を止めない。ガックガクでコケそうだがな。
「あ?んなもんそのロリコン共のとこに決まってんだろ。トイレはさっきいったしな。ばったり遭遇してビビって漏らす心配はない。」
「そういうことじゃないんですの!危険すぎますわ!」
「まぁ、確かにな。」
確かに状況は危険すぎる。
テロリストがどこにいるかもわからないような状況で動くのは大変危険だ。罠だって仕掛けられてるかも知れない。
でも。
「でも、動かない理由にはならない。」
アイツらは俺にとって大事な友人だ。
当然助けたい。
俺に出来ることをやりたい。
「それに、そんな馬鹿どもに好きにさせてたまるかよ。」
そう言って廊下に出る。
ウィンディがまだ何か言っているが、無視を決め込むことにした。
「さて………どこにいるんかね?」
そう言って廊下を走り始めた。
不思議と足の震えは止まっており、俺は難なく走れた。
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「ふう。」
一方グレンは、絡め手を使う陰キャ魔術師に襲われていたが返り討ちにし、
「これでよしっと。」
魔術師を裸にひん剥いてどこからか取り出した紙に「不能」と書いて股間に貼り、ケツ穴に薔薇(棘あり)をぶっ刺し、縄で縛っていた。
そしてその作業(嫌がらせ)を終え、やりきった顔をした。
「ふぅ。………急ぐか。」
学園への道のりを全力で走り始めた。
完全不定期ですが、待ってくださるとありがたいです。
では、次の投稿まで!