ぜぇ……ぜぇ……。」
教室を飛び出した俺は校舎内を走り回り、テロリストを探す。
廊下を駆け抜けドアをぶち破り、階段を駆け上がって周囲を見渡す。だが、行く先々の教室全部に人影は無く、とうとう最後の二部屋となった。
「………俺運悪すぎないか?」
そう思ってしまったのも不思議じゃないだろう。
だってさんざん走り回って最後の二部屋まで見つかんなかったし。
ていうかいるならいるって言ってくれればいいのにな。まぁ仮に言われても怪しくて絶対近づかないけど。
「んで?どっちから行くよ?」
そう問うのは無論、我らが講師のグレン先生だ。
どうやら先生も道中テロリストに襲撃されたらしく、そいつをぶっ倒したあとに『公開処刑』(恥辱ver)を施し、急いでこっちまで走ってきたようだ。
で、俺が廊下を走ってる時にばったり出会い、以後一緒に行動してるってわけだ。出会い頭におもっくそ殴りかかられたがな!
俺が殺気を感じられていなかったら死んでた。
「さぁ?ってか、二手に別れません?どうせ残り二部屋ですし。」
「まぁどっちかにしか居ないだろうしな。いいぜ。んじゃ、俺は奥の部屋で。」
「じゃあ俺はこっちで。」
グレンが選んだのは廊下の突き当たりの部屋。
俺はその1個手前の部屋だ。
ガラララララッと言う音を伴って空いたドアの向こうに居たのは、
「ん?お前誰よ?」
自らの上半身──特に鍛えられて盛り上がった筋肉を見せつけるようなポージングを取り、鏡越しにそれを見つめて角度を調節する人がいた。
全身はまるで鋼のように黒光りしており、ボディービルでもやってるんではないかと思わせられた。
端的に言うと────────変態である。
「………お邪魔しました。」
そう言って廊下に出る。
すると、ちょうど同じタイミングでグレンが奥の部屋から出てきた。どこかしょんぼりしながらもイラついている。そんな様子だった。
まるで年末の赤服髭面のクルシミマスの日のような顔をしている。なにがあった。
「どうしたんすか?」
「いや、なんかお邪魔しちゃったかなって。」
「奇遇っすね。俺もなんすよ。」
どうやらあっちにも変態、もしくはそれに近いなにかがいたのだろう。お互い、変な奴に出会ってしまったもんだ。
さて………残りは屋上だな(現実逃避)
「ちょ!助けなさいよ!」
奥の部屋からシスティーナの声が聞こえる。
ってシスティおったんかい。
「え〜……やっぱそういう感じだったの?お互い合意の上でやってるリア充爆破しろ案件じゃなく?」
なんて言いながら部屋に戻っていくグレン。一体何があったと言うのだ………?
「……俺はどうしようか。」
悩んだが、結局もう一回部屋に入ることにした。
できれば目を瞑りたかったんだがね。
────────────────────────
「よう。よくここまで来れたな。俺はブラッドだ。どうやって抜け出してきたかは知らんがここで素直に死んでもら……」
「いや、取り繕えてないから。思いっきりさっき見ちゃったから。」
部屋に入るとしっかりと戦闘用の魔防具を着込んだ男、ブラッドが仁王立ちしていた。
なんかいい感じに仕切り直そうとしてるが、どう頑張っても最初の出会いが半裸の状態だったのだ。
第一印象が「変態」で次の印象が「仕切り直そうとして失敗した変態」なので、総合的に考えてこいつへの印象は「変態」しかない。ここから持ち直そうとするのは些か厳しいものがある。
「……………」
「……………」
お互いの間に、気まずい沈黙が流れる。
「……なぁ、お前、名前なんていうんだ?」
「はぁ、アランですが。」
「アラン、か。なぁアラン。俺は今超恥ずかしい。」
「でしょうね。」
初対面が半裸で恥ずかしがらん人がいたらそいつは恐らく変態だろう。まぁこいつ変態なんだろうが、羞恥心を覚えるタイプの変態だったのか。
「だからよ、お前は口封じのために死んでもらう。いいな?」
「嫌ですよ?」
即答する。
なんでこいつの半裸見たからって死なにゃならんのだ。せめて死ぬなら女の裸見てから死にたい。何が悲しくて強制的に野郎の半裸みて死ななきゃならんのだ。
ここは丁重にお断りさせていただこう。
「まぁ、お前に決定権はねえ。だからよ、死ねやぁ!」
いきなりブチ切れて殴りかかってくる。
だが、怒りに身を任せているにしては鮮やかで無駄のない最短距離の突進。
「っとあっぶね!」
目視で間に合うかは分からなかったが、慌てて横に避ける。
だが、やはり咄嗟の回避では間に合わなかったようで、腕を少し掠ってしまった。
「ッ!」
重く、鈍い痛みが腕を走る。
骨にまで届くようなこの鈍い痛みは、鈍器で殴られた時の衝撃と大差なかった。
(グッ!掠っただけでこの威力とかふざけんなよ!?まともに近接戦闘しても勝ち目はないじゃねえか!)
状況を分析するために後ろへ跳躍。一旦下がることで開けた視界を一瞬で見渡し、現状の不可思議な点を炙り出す。そしてよく注意してブラッドを見ると、1つ不自然な点があることがわかった。
「………腕が、光ってる?」
「なんだ。もう気づいたのか?俺の腕は金属の義手でな。これを錬金術でちょちょっと弄れば思った以上に応用が効くんだよ。」
なるほど。錬金術と義手か。
今まで見たことがないような組み合わせで驚いたが、良く考えればわざわざ金属とかを持っていく必要も無くなるから便利なのかもしれない。
とりあえず状況は分かったが…………困った。
相手は恐らく近距離のエキスパート。学生に毛が生えた程度の腕前しかない俺が接近戦を挑んだところで勝ち目は薄いだろう。
「だったら遠距離しかないよな───『雷精よ・紫電の衝撃をもって・撃ちすえよ』!」
「なんだショック・ボルトかよ。『霧散せり』っと。」
だが結果はご覧の有様だ。
学生に毛が生えた程度はおろか、学生から毛も皮膚もむしり取ったくらいの実力しかない魔術では相手にすらならないだろう。
そもそも俺は攻撃魔術どころか普通の魔術すらも一節詠唱で出せないしね。
学院のセキュリティを突破できた輩共に撃っても一瞬で魔力に戻るだけだし、その分の隙を晒すのがオチだ。つくづく俺の魔術適正の無さに嫌気がさすが、今はそんなことは言ってられない。
ならばどうするか……!
「うっすい勝ち目を死ぬ気で拾いに行くしかないよなッ!【投影】!」
そう言って投影したのは、朱槍『ゲイ・ボルグ』。
平行世界の英霊「クーフーリン」の持つ魔槍であるこれは、それだけで一騎当千の力を持つ。
「はっ!なんだ投影魔術か。」
だが相手は驚きはすれど、驚異には思っていない。
投影魔術投影したものは脆く、直ぐに魔力へ帰る効率の悪い魔術としか認識されていないからだ。
「学生がそんな魔術を使えるのは驚きだが、ハッタリにすぎんな。そら行くぜ!」
轟速で迫る腕を槍で打ち据え、交わす。
それで出来た隙を逃すまいと槍で突くが、いとも簡単にいなされ、蹴られる。慌てて防御姿勢を取るが、槍はたったそれだけで砕け散り、魔力へ帰った。
「ちっ。【投影】──!」
砕けた槍の代わりにもう一本投影し、投げつける。
だがそれは、半身をずらされて柄の部分に拳を入れられ、また砕かれた。
「やっぱりな。所詮は紛い物か──何?」
魔力をそのまま解放し、ジェットの様にして強引に体制を建て直し、力を込めて一直線に鋭く突く。
相手が驚いている隙に、呼吸の隙間に差し込むようにして疾く進む槍。
狙うは心臓ではなく、腹。
心臓は狙われやすいと相手も承知のはずだから、あえて腹を狙った。
「わかりやすいな。そらっ!」
だが、いとも簡単にいなされる。
素人目線では攻撃を通すにはまだまだ甘かったか。
「チッ……。さすがに獲物が長すぎたか。」
遠くから狙えるのはいいのだが、直線的すぎて避けられたようだ。
だが、これでいい。
「ならば何度も突くのみ!」
一撃が当たらないのは百も承知。
ならば当たるまで次の攻撃を放つまで!
さっきよりも勢いを付けて何度も何度も違う場所に叩き込む。
頭、心臓、足先、腰、腕。
不規則に何度も叩き込む。リズムも呼吸も変えてひたすらに腕を振る。
しかし、相手はいとも簡単に軌道を逸らし、槍を叩き折る。掠らせるのが限界だ。
「はっ。こんなもんか。急に槍が出たのにゃ驚いたが本人がこの程度じゃな。それじゃぁ、死んでもらおうか!」
そう言って俺の槍を掴む。
ミシリと音を立て、通算何本目かも分からない槍───わざと脆く作った槍を破壊する。
「オラァ!」
そしてその残骸を後ろに放り投げ、跳躍。
「死ねぇ!」
勢いを付けるために飛び上がり、俺へと落下してくるブラッド。
そのまま殴られれば、俺はもろに食らってしまい、死なないにせよ重傷を負うだろう。
だが、そんな未来はありえない。
なぜなら………
「【投影】!」
ゲイ・ボルグを「本来の強さ」で投影させればいいだけの話だからだ。
そしてこの機会を狙っていた。
相手が確実に俺を仕留められる。
そう思って油断し、大きな隙を晒してしまうしまうその瞬間を。
「かかったな阿呆が!行くぜ我が固有魔術!
【真名部分解放・刺し穿つ死棘の槍】!」
これこそが俺の固有魔術の、【真名部分解放】だ。
例えば俺の今投影しているこの「ゲイ・ボルグ」。
これは元々、平行世界の英霊「クーフーリン」の宝具だ。
それを投影し、ただ槍として使うだけなら普通に誰でも出来る。この槍を知っていれば、の話にはなるが。
だが、真名解放。つまり「宝具として発動させせる」ことはできない。
なぜなら使っているのが英霊本人でないからだ。
だが俺の使う投影魔術はちょっと特殊で、真名解放をすることが出来る。勿論、英霊本人が使うよりは劣るし、技量も威力も完全にコピーすることもできない。
だが、英霊とは人知を超えた存在。その力の一端でも俺のような矮小な人間には過ぎた力となり得る。
そしてこのゲイ・ボルグは端的に言えば「心臓必中」。当たりさえすれば対象の心臓を漏れなく破壊する呪いの朱槍。
「ガッ………!」
呪いの朱槍は大ぶりに振りかぶっていたせいでガラ空きになっていた腹に吸い込まれるように突き刺る。
そして、一瞬の間もなく胸元が爆散。
花のような血飛沫を滝のように撒き散らしながら慣性にしたがって串刺しのまま飛んでいき、壁に刺さる。
ゴフッという空気を押し出す音が聞こえた。
俺は今、和紙1枚分も無さそうな薄い勝ち目を拾うことが出来た。
「……………はぁ。終わったか。」
一応槍を構えて警戒状態で近づき、脈を確認すると既に事切れていた。まぁ、流石に心臓を木っ端微塵にされたんじゃ生きてるやつもそうそういない。
緊張状態から抜け出したせいで疲れが一気に出てきて、思わず座り込む。
「なんなんだろうなぁ……この感覚は。」
だが、全身にのしかかるこの重さは、決して疲れとかそういった簡単なもののせいだけではない。
───俺は今、確かに人を殺した。
その事実は俺を蝕んでいる。だが。
──────あぁ。死ななくてよかった。
だが、それ以上に重く感じるのはこの感情。
「生きられた」以上に感じてしまうこの「安堵」の感情。
無論、罪悪感は存在する。だが、安堵がそれを上回るのだ。
「………どうしたんだろうなぁ。俺。」
わからないままに廊下を出るが、上手く足に力が入らない。
よろよろとした足取りではそう遠くへ行くことも出来ずに足がもつれ、壁にへたり込む。
廊下の窓から差し込む日光が俺の網膜を焼き、思わず手をかざす。かざした手は返り血で濡れていた。
その事実で更に俺の心は混沌の渦に巻き込まれ、思わず深いため息が漏れた。
ため息の音は存外に、いやに静かな廊下に響いた。
というわけで固有魔術のお披露目です。
詳しいことは次回のあとがきに引っつけようと思います。
では、次回の投稿まで!