私たちは夢と同じもので形作られている   作:にえる

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あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!(ブリブリブリブリュリュリュリュリュリュ!!!!!!ブツチチブブブチチチチブリリイリブブブブゥゥゥゥッッッ!!!!!!! )
Ah ah ah ah ah ah ah ah ah ah ah ah ah ah Aa! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! (Buriburi Buriburi ~Yu Ryu Ryuryu Ryuryu !!!!!! thingy Chichi Bububu Chichi Chichibu Lily rib Bububu c c c c ~Tsu ~Tsu ~Tsu !!!!!!!)
Ах, ах ах ах ах ах ах ах ах ах ах ах ах ах Аа! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! (Buriburi Buriburi ~ Ю. Рю Ryuryu Ryuryu !!!!!! штуковина Чичи Чичи Бубубу Чичибу Лили ребра Бубубу c c c c ~ Цу ~ Цу ~ Цу !!!!!!!)
ど゛う゛し゛て゛な゛ん゛だ゛よ゛お゛お゛ぉ゛お゛!゛!゛!゛ん゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛!゛!゛!゛!゛


アイアンマン(完)

 

 --1

 

 プラズマ技術の極みとも表現できるアーク・リアクター。

 マニアの中ではアイドルみたいなものである。

 HENTAI寄りのオタクともなると人間よりアーク・リアクターに興奮するのだとか。

 何言ってんだって感じだろう。

 俺もそう思う。

 プラズマは色があまりにも美しいのは当然だ。

 美しいの概念とも言える。

 美しさで人間が敵うわけない。

 引き合いに出す対象は人間ではなく、プラズマの中身とその結果の色だけ。

 なぜ人間と引き合いに出したのか、そこがわからない。

 神を人間と比べるのか。

 比べないだろう。

 つまり、そういうことだ。

 わからんけど。

 

 そんなわけでアーク・リアクターの研究がしたくて海を渡り、彫刻で生活費を稼ぎながらスターク・インダストリーズに半ば無理やり押し入って、論文をぶち込みまくった。

 その結果なのかわからないが、社長であるトニー・スタークの私設的な助手として働くことになった。

 世界でも有数の大企業を操る天才のお膝元で仕事とか成功者でごめんね!!!(アヘ顔ダブルピース)

 ちなみに論文はトニー直々に赤ペン先生が成され、「君には全く才能が無いねあは~ん」って感じで手渡しされ続けた。

 あは~んとは言ってもないし、書いてもなかった気がするけど。

 

 普段の仕事は脳波で動く機械をテキトーにでっちあげることで、かなり不本意であるし本業でもない。

 それとボスのトニーが行っている研究で出てくる雑用を片付けて、円滑に作業が進む様にする。

 ボスが女遊びでパパラッチが湧きそうなときにライバル会社の不祥事を流して相殺させることもあるが、結構ほっといている。

 あと一番めんどくさいのが、ボスがいないときに副社長に「君の腕を買ってるが医療では不十分だ。兵器も作ろう」と誘われるので「邪気が来た!!! 全身をセンシングして簡易検査できる装置をつくりゅ!!!! 微弱な電気に反応するセンサーもつくりゅ!!! バイオセンサーもつくりゅ! 万能マニピュレーターもつくりゅ! 脳波で動かせる機械もつくりゅ!!! アーク・リアクターもがんばりゅ!!!! 自動でうんうんでりゅ!!!! 終わりがねえ!!!」と絶頂して華麗に躱す仕事もある。

 

 個人的に自動でうんうんでりゅ!!!が最難関だと思っている。

 人工的に作る消化管があまりにも難しく、その最後である肛門の凄さには人体の神秘を見せ付けられた気分だ。

 たぶんあらゆる研究を終えてたどり着く技術の極みな気がする。

 そもそも機械化のみで臓器を作ろうとしている俺は狂気の科学者すぎる。

 完成させたら好きなだけアーク・リアクターの研究してもいいぞって言われたが、おまえ頭トニーなの????

 俺に指示出してるのがトニー・スタークだから頭トニーなの当たり前でしたね。

 まあ研究の方針を決めてるのは俺だけど。

 俺が好きでやってるから仕方ないけどしんどいジレンマ^q^

 

 この研究が終わったら俺、アーク・リアクターを小型化させる研究に取り掛かるんだ……。

 

 

 

 ジェリコを完成させたぞいえーい、とノリノリなトニー。

 ミュージックをかけて踊り出した。

 ジェリコとは超凄いミサイルだ。

 どのくらい凄いかというとわからんが超凄いらしい。

 俺は全く触ってないからわっかんねーわっかんねー。

 エネルギーを空中に発射する的な感じである。

 俺もマニピュレーターを作った。

 操作の関係で俺しか使えないけど、画期的な発明である。

 見せたい相手が行方不明だけどな!

 

 はぁ……^q^

 

 

 

 

 

 --2

 

 ジェリコをアフガニスタンに披露しに行く予定だとか。

 ちなみに出発時間は1時間前。

 出発時間の1時間前ではなく、出発時間が1時間前なのが要。

 そういう大味なところ、悪くないと思う。

 2人で車をいじってたら女秘書のポッツさんがカリカリしてるんだか上機嫌なんだか期待してるんだかわからない感情とともに現れた。

 出発時間すぎてるから早く行ってねトニーってことらしい。

 それな。

 ちなみにポッツさんの誕生日だけど、忘れてたっぽい。

 俺? 俺はプレゼント渡したぜ!

 久しぶりに彫刻した、マニピュレーターで。

 伊達に彫刻で生活してたわけじゃない出来だった。

 そんなわけで「さあ、行くぞ」と助手席に乗せられて出発した。

 

 俺関係ないやんけ! 財布すら持ってないんやぞ!

 

 トニーが運転手とカーチェイスを楽しんでた。

 俺は車酔いでぐったりしながら、治安とか悪いから気を付けるようにとだけ伝えた。

 トニーはささっとジェットに乗り込んで飛んで行ってしまった。

 俺は帰国予定日まで宿泊施設で待機である。

 どんな扱いなの……。

 

 

 

 敬愛すべきトニー・スターク、行方不明。

 新兵器を披露しにアフガニスタンに出張に行って、予定日を過ぎても帰ってこない。

 いや、まあ、よく女性と遊んでて帰ってこなかったりするわけだが、家出ではないと思う。

 今回は違う、たぶん。

 向こうの女性と過激な一夜を過ごすぜ、下半身のテロリストだぜ、みたいな展開ではないはずだ。

 大人のジェリコ(意味深)とかでは流石にないはずだ。

 治安悪いからさっさと帰って来るように言い含めているし。

 宿泊予定が過ぎたので締め出された俺は悲しみを背負ってホームレス。

 高級車で十分な時間カーチェイスした距離を歩いて帰るとか、死ねますねこいつは。

 

 這う這うの体で帰宅。

 生体認証でカギを開けて中に入るも、トニー製の超凄い人工知能ジャーヴィスくんが絶賛機能停止中である。

 トニーがいないからセキュリティが万全って確認できて良かった(白目)

 完全に停止はしていないが権限がないから立ち上げができない、動かせない、何もできない、と悲しみの連鎖。

 何が問題って、家の機能が死んでるってことになる。

 電気点けるのすら手間でつらいです……。

 

 

 

 

 超凄い兵器を直接売りに行ったらテロリストに攫われたらしい。

 らしい、というのが俺の権限だと全然情報が手に入らない状態になっているからだ。

 まだニュースにはなっていないが、予定日に帰ってこないし、人工知能のジャーヴィスが使えないし、マスコミも動いてるし、秘書のペッパーが挙動不審だし、副社長が「兵器作りたくなった???」って誘ってくるから、まあ、そういう事態なのだろう。

 俺も「はあー? おまえら頭オバディアなの???」とキレそうになるが、押しとどめる。

 ここで怒ったら俺こそ頭オバディアになる。

 頭オバディア?

 ハゲってことさ。

 テンパって眠れない日々が続くけどボクは元気です^q^

 

 

 

 仕事にならないから本社に行っても「社長は仕事で留守です、帰ってください」みたいな。

 いやいや、そんなこと知らんがな。

 あ、知ってるけどそういう事情は知らんっていうか。

 そもそもお前は俺のこと知らんのか。

 あ、知らないんですか。

 なんと奇遇な。

 俺はお前を知らない、そしてお前は俺を知らない。

 ふふ、初対面で意気投合したね……(トゥンク)という感じで情報がシャットダウン!!!

 これはあれだろうか、相互理解が深まってないから信頼も無く、互いに触れ合える距離にいるのに分かり合えない状態。

 わかりやすくすると「深淵を覗く時、暗くてよく見えないのだ。そしてまた深淵側からも逆光であなたの事がよく見えてないのだ」という状態だろうか。

 スタークインダストリーズ、それは権力の魔窟、暗すぎて見えない深淵、まぶしすぎるアーク・リアクター、押しかけすぎて立ち入り禁止になりかけた施設……。

 

 「会社の衛星とか軍事衛星をちょっと使うだけだしいいっしょ?」と妥協案を出しながら抗議していたら、それを見かねた副社長が「あまり大きな声では言えないが、トニーは気の毒なことになった」と言ってきた。

 まだ気の毒になどなっていない。

 事実確認も済んでない。

 つまり死んでいない。

 確かに生きてるかもわからない。

 そもそも死んでたら生き返らせればいいのでは。

 というかアフガニスタンという箱の中でシュレディンガーしてるだけだ。

 トニーは猫だった……?

 そしてオバディアはタチだった……?

 「箱を覗く時、トニーは猫に見えるのだ。そしてオバディアからもスタークはよく猫に見えるのだ」ということだ。

 つまりお尻オバディア。

 はあーこっわ。

 辞めたら兵器開発。

 もしかして兵器は日本語のひらがなにすると『へいき』だ、そして変換すると『平気』となる。

 だからなんだっていう。

 お尻平気にする薬でも作れって言うのかああん!!!??

 お前のでかいお尻こそ兵器だぞおるぁぁぁん!!!???

 

 トニー生存説に重みを持たせようとしたらお尻オバディア説になった元凶から「彼の跡を継がないか?」と言われた。

 トニーの意思……そう言われて思い出した。

 秘書のポッツさんにはお尻オバディア理論は語らないようにして封印しないとな。

 あ、そうじゃなくてトニーの意思だ。

 トニーは兵器に反対していなかったが、立派な人だった。

 毎食ご飯をご馳走してくれたし、ドライブも趣味だから車に乗せてくれたし、自分もやるからってゲームもめちゃくちゃ買ってくれたし、TRPGに付き合ってくれるし、線香花火我慢比べもやってくれるし、大人の遊びを教えてやろうと言って家を二軒も買って自然エネルギーで発電するようにしたのと通常の家を比べて自然発電の微妙さを感じた後に新兵器で吹っ飛ばしたり、よく考えると身の回りの品とか全部買ってもらっていたし、そもそも支払い用のカードを渡されていて全部クレジットを出してくれていた。

 俺は代わりにジャーヴィスの劣化コピーみたいな人工知能で作ったバターフィンガーというロボットアームを送ったくらいしか記憶にない。

 それのお返しなのか、俺が好きだったけど潰れた駄菓子会社を誕生日プレゼントとして復活させてくれたりした。

 ……なんやトニー、良いところだけ列挙すればめっちゃいい人やんけ!!!

 

 僕が考えた超強い兵器を用意すれば戦意が無くなるから平和でVやねん! と星になって草葉の陰から見守ってくれているだろう。

 Vやねん! と言ってたのは俺が暇つぶしに見てたネットかもしれないし、星になっているのと草葉の陰にいるダブルトニー理論。

 兵器開発を肯定するトニーは前門、中央にオバディア、後門にトニー、つまり挟み撃ちの形になるな……。

 そんな現状が嫌で俺は否定派だった、というか何も考えていなかったが、死に易い科学者は基本的に兵器に手を出してる気がするから近づくのを辞めていてた。

 そうだ、トニーは兵器に関して肯定派で、俺は否定派だった。

 

 「兵器部門に来ないか?」と誘う副社長の言葉を無視し、アーク・リアクターをちらっと見る。

 プラズマに関しての超絶技巧の極致とも言える、半永久的に発電できる動力的なサムシングで、水素を供給しとけばガンガン発電してくれる熱プラズマ反応炉という凄いやつだ。

 水素なんて空気中から取り出せるくらい安価なもので、凄まじい発電量を得られるのだから半端ねえぜ!

 まあぶっちゃけ巨大だし色々とお金がかかるから小型化したいけど上手くいってない凄いやつだ。

 見ての通り、会社のみならず近隣の街に電気を供給している。

 

 アーク・リアクターの開発理由としては「好き勝手研究してんじゃねーぞ女好きが!」という罵倒があったかはわからないが、そういう批判を抑えるために、トニーのパッパであるハワード氏が「ちっ、うっせーな、こんな完璧なもん出来たんだから黙ってろダボが! そんなんだからヒステリックな女としか結婚できねーんだよ!」という返事があったかはわからないが、そういう感じで反論するために作った物だ、しゅごい。

 作った後は「頼まれた仕事があるから急がしくて質疑応答には答えられません、雑魚ども」と言ったかは知らないが、表舞台から徐々にフェードアウトしていってお隠れになった。

 

 まあ、そういうわけで、それはあまりにも巨大で、あまりにも美しく、そしてあまりにも巨大だった。

 技術関連の諸事情でここまで巨大になったというドジっ子みたいなところも花丸をあげましょう。

 小型化できたら超凄い。

 世界のパワーバランスとか握れるというくっそどうでもいい事象を起こせるくらい凄い。

 あとプラズマのマニアが大興奮。

 「誰が開発しても一緒や。誰が、開発しても。じゃあ、俺がぁ! プラズマでぇ! アークリアクターをォンフンフンッハ、コノ、コノスタァアアアアアアアアアァン!!!!!!  アゥッアゥオゥウア゛アアアアアアアアアアアアアーーーゥアン! コノリアクタァァァァ……ア゛ー! コノリアクターヲ…ウッ…チイサクシタイ!」と最新ロボット、先行者君に代弁させる。

 俺を仲間にしたいなら「あたりまえだあああああ!!!(どんっ!!!)」というくらいには熱い勧誘が必要だ。

 オバディアの反応を伺ってみたが、こいつはダメですね(諦め)

 先行者君にしか興味がないようだ。

 シンプルな骨組みと超シンプルな動力しか中身に入ってないのを誤魔化すために、風船のようなボディで覆っているハイパーロボだ。

 このロボットはベイマックソです、私の心と健康を守るために(誤魔化しを)サポートします。

 

 日本語でベイマックソなんてとんでもない名称だが、英語だからセーフ。

 俺が作ったしょうもないアーク・リアクターもどきを動力としているのでホントは暴発させて、その騒ぎに押し入って衛星を使うつもりだったが流石に無茶がすぎるので中止とした。

 

 ベイマックソ(先行者君)を俺が開発した新たな(対トニー腹筋破壊)兵器のサンプルとしてオバディアに渡すと、興味はそちらに移ったようだった。

 「私はこういった物しか副社長には作りませんが、よろしければ今後も協力しますよ」と握手すると、満面の笑みと褒め言葉を尽くされた。

 「君の能力なら絶対に向いている、いつでも我々は手を取りあえるだろう。これは部下に見せても?」みたいな感じだったので「もちろん、好きにしてもらっても全く問題はありませんよ。私たちの仲みたいにね」と返答した。

 俺の能力ならベイマックソ in 先行者君くらいしか作れないというか、兵器を作るくらいならアーク・リアクターを小型にするほうが優先というか。

 

 そういうわけで、俺も一応実績があるからね、ゴミを兵器って言って渡したら凄い物のように思ってしまうかもしれない。

 先入観は怖いっていう実例になるというか。

 フランス料理のシェフが前菜として加工したチキンラーメンを出して来たら高級料理だと信じてしまう、そんな現象だ。

 レッテルってこっわ。

 俺が兵器部門で働いててベイマックソ feat.先行者君を渡されたらブチ切れると思う、カレーを突いたらうんこが出てきたカレー味のうんこというかうんこ味のカレーみたいなものだし。

 それはそれとして満足したので帰ろう。

 じゃあの。

 

 他人が作ったカレーに擬態したうんこ味のうんこを、味を盗んでくれと自分の料理人に見せる姿……ちょっと見てみたかったので最後まで付いていけばよかったかもしれん。

 

 

 

 

 

 アフガニスタンに行くことを決めたのはいいが、何をすればいいかを考えていなかった。

 なので準備のために予定を立てようとした。

 観光に行くわけではないのでまずアフガニスタンの軍に出向き、トニーの友人に助けてもらう。

 そうなると、そもそもアフガニスタンのどこ空港に行けばいいのかってことになった。

 トニーの行方不明地点や捜索する軍の拠点がわからない。

 本社に行って調べようとしたら部外者扱いで何もわからなかった。

 まあ部外者ですけど。

 それなら手段を変えるだけだ。

 いつだって俺はクールでスマート。

 喰らえ、先行者スパイ!!!

 (ナレーション「説明しよう! 先行者スパイとは! 先行者内部に搭載されたスパイロボットを発進させることでいい感じに情報を集めるのだ! また先行者を基地局として脳波コントロールができる! これは脳波が特別に強い俺にのみ許された必殺技である! ぶっちゃけ無茶苦茶高価なのでブルジョアのトニーの下でしか使えない! 稼働範囲もクソ狭い! 未完成の技術!」この間約10秒)

 オバディアが手を回していて、俺には全然情報を回さないようにしていて本社では何もわからないってことがわかった。

 オレ、アイツ、キライ。

 情けは人のためならずって言葉を知らないのだろうか。

 他人に優しくしたら巡り巡って自分のためになるという古からのルールだ。

 私生活や性格はクズっぽい上司はテロ、うんこ味のうんこを渡す俺は情報封鎖、うっ、頭が……昔からの言葉とか現代は色々変わってて宛にならないってはっきりわかんだね。

 

 

 

 

 

 軍の会見やニュースでトニーが拉致られた情報が垂れ流され、徐々に消極的になっていく。

 武装勢力によって襲撃され、その後は行方不明という情報が更新されることもない。

 遺体も無し。

 生きているに違いない。

 映像などから襲撃された場所を割り出すことは出来たが、それだけで膨大な時間を浪費してしまった。

 結局、軍が捜索しているのだから場所を割り出すのではなく、実行犯を探すべきだった。

 ぐおおおお、思考が乱れる!!

 ぶっちゃけ寝てなさ過ぎてまとまんねえ!

 ダメだ、考えられない!

 もういいや!

 思いついたことをやってゴールを目指す……!

 一番の近道は遠回りだった、遠回りこそが俺の最短の道になるんだ……!

 俺は止まらねえからよ……!

 

 

 

 

 

 --3

 

 巨大なアーク・リアクターに3秒クッキング用のマシンを接続していたら、トニーが出社した。

 「君は行方不明になっていたトニーじゃないか!?」って感じだった。

 本社かアフガニスタンをクッキングして無人機をぶち込んでなんやかんやいい感じの流れにしようと思っていたが、無駄になったようだ。

 俺はまだ一般人でいられる……! ヴィランにならないで済むだなんて、こんなに嬉しいことはない……!

 

 料理を受け止める緩衝剤しか完成してないので危険物と呼べる部分は一切なし。

 材料を飛ばす砲台をアーク・リアクターから外すの手伝って☆と、アフガニスタンから帰国しこれから会見に向かうトニーに頼む。

 自分で言うのもなんだけどやり過ぎてしまった感じが凄い。

 人間だけを殺す機械ってやつだ。

 アーク・リアクターを利用したおぞましい推進力と威力を発揮しながら、成人男性を狙って、ジェリコ内部の小型ミサイルが飛んでいく予定だった。

 まだエネルギーチャージしてなくて良かった。

 

 取り外しに成功したので、苛立ちながら用途を聞いてきたトニーに「テロリストを3秒クッキングしようとした」と答えると辞める様に言われた。

 俺だって殺戮したいわけじゃないのでトニーが帰ってきたからやめるってばよ。

 緊急の会見があるのだとかで「絶対に見ろ」と言い残し、忙しそうにトニーが車に乗り込んでいった。

 眠いけどしゃーない。

 ああーアーク・リアクターの光に包まれて横になっちゃうとか頭がフットーしそうだぜおらぁ。

 

 ……横になるのとか超久しぶりすぎる^q^

 

 泥に塗れたように重い身体のまま手持の端末を持ち上げてテレビを見る。

 うごご、全身が痛い……。

 とりあえずボスが「兵器製造を中止する」と宣言したのだとわかった。

 うん。

 ……うん?

 拉致られた時のショックが大きくて頭がおかしくなったとか……?

 それとも、インドに旅行に行くと世界観が変わるって聞くが、それの亜種とか?

 実際危ないし、自国にだけ兵器が流れるってのもあり得ないからそういうものか。

 アメリカの兵士を守るための兵器で、逆に殺されるのを見たのだとか。

 

 その後は戻ってきたトニーに起こされ、チーズバーガーを渡された。

 冷たいし肉もめっちゃ硬いんですがこれ。

 会見前に買って食べた残りらしい、お腹こわさないよね……?

 オバディアがめっちゃ見てくる。

 チーズバーガーがそんなに食べたかったん?

 

 チーズバーガーを齧りながら二人の会話を聞く。

 株価が下がるらしい。

 ふーん、なるほどね(←わかってない)

 原理だけわかった(←わかってない)

 後で株を買っておこう(←わかってる)

 

 要約するとテロリストが会社の兵器を使っていて、危ないから兵器製造を中止するのだとか。

 まあ、試しにやってみてダメなら方向転換するから問題ないと思うけど。

 

 ……ダメならするだろうけど、上手くいったらどうなるのか全然わからん。

 それはそれとしてオバディアの反応が悪いと言うか悪感情すら感じる。

 反応が渋いオバディアを見かねて、トニーが胸元を開いた。

 色仕掛けか? 残念だけど俺はヘテロだから女の子のおっぱいじゃないと満足できねえぜ?

 やれやれ、とため息を吐きながら目線を向ける。

 もしや……。

 目線で問いかければ、意味深な笑みと頷きが返ってきた。

 

 嘘だトニー! こんな、こんな、凄すぎるけど残酷だぜ!!!!

 俺が作りたかったぁあああああ!!!

 でもしゅごい!!!!!

 身体は正直になっちゃううううううう!!!!

 目が離せないいいいいいい!!!!

 

 どう見てもトニーが……色っぽい!

 この社長……すけべ過ぎる!!

 上を脱がせろ、いや…全部だッ全部脱がせろッ!

 ちょっと見ない間に急に……いい男になったな?

 

 Fuooooooooooo↑

 

 あ、あのどう考えても小型化できなかったアーク・リアクターが小型化してるうううううううう!!!!!

 しゅげええええええ!!!!

 勝てない……!

 巨大なアーク・リアクターを背にしながら、胸には小型のアーク・リアクター。

 おいおいおい、神は死んだわ。

 むしろ神が誕生したのか。

 俺は生まれて初めて心の底から震えあがった……。

 真の恐怖と決定的な美しさに……。

 感動と悔恨に涙すら流した……。

 ぶっちゃけトニーの開発した技術は凄すぎてよく感動する……。

 リパルサーもマジキチってた。

 頭痛がする……。

 は……吐き気もだ……くっ……ぐう……。

 な……なんてことだ……この俺が……気分が悪いだと?

 この俺があのアーク・リアクターに思考を破壊されて……立つことが……立つことができないだと!?

 ぶっちゃけそろそろ寝ていいですかね。

 

 そろそろマジやべーよ眠気と興奮で脳みそ吹っ飛びそう^q^

 

 

 

 

 

 --4

 

 (お好みで選べるBGM:プロジェクトX、プロフェッショナルの流儀、大改造ビフォーアフター、情熱大陸、キューピー3分クッキング、サザエさん、UC)

 

 

 

 ――総勢二名と愉快な仲間たち(内訳:演説するトニー、よく寝たため元気な助手、人工知能、ロボットアーム3本)の世紀のプロジェクトが幕を開けた……!

 

「アーク・リアクターを動力源にしたスーツを作るつもりだ。すぐにでも改良に取り掛かる予定だが、参考として今の発電能力は3ギガジュール毎秒だ」

 

「毎秒3ギガ! 原子炉が2機、古いのなら3機は必要ですね! プラズマ源には何を使ってますか?」

 

「ジェリコから取り出したパラジウムだ。見てくれ、これが脱出の際に急造したアーク・リアクターとパワードスーツ。分解した兵器などから組み合わせた。15分の稼働を予定していた」

 

 トニーが作業机に似たコンピュータを操作すると、緑のラインフレームで描かれた設計図が立体ホログラムで投影された。それを横から回転させながら眺めながら質問する。

 ざっと思いついたことを聞き終えると、自然とため息を吐いていた。驚愕と感嘆の念が入り混じったため息だ。

 よくもまあ手作りできて、しかも使えた物だと思うくらいには、とてつもなく雑だった。だが内部に組まれた技術の素晴らしさは結果が示している。

 

「うーん、これで変換効率がほぼ4割というか、3ギガだと4割超えですね。はっきり言って頭おかしいです」

 

「天才だからとしか言えないな」

 

「あ、そっすね。稼働時間はもっと長そうですけど、もしかして着心地が? 熱がスゴいとか」

 

 設計図から想像するしかないが、十分な部品が無い中で組んだパワードスーツだ。どうもスタークインダストリー製の兵器を元にしているようだ。他社製だったらパーツに粗品が混ざりすぎて爆発してたかもしれない。兵器をばらした不揃いの道具に、人類の叡智とも言える供給源は過剰すぎる。

 排熱よりも兵器を焼いたときに炎に塗れて死にかけたらしい。何やってんだ……。

 

「普段着にするには硬すぎたし、私という中身を焼くのに効率的過ぎた。とてもじゃないが脱出以外には使おうとは思えない。最後には空を飛べたが着地とともに分解だぞ」

 

 未来を先取りしたハイテク技術と、世界の隅っこの洞穴で雑に管理されたローテク技術の融合。ハイテク技術のアーク・リアクターが比較できないほどに凄まじすぎた。取り出すエネルギーも莫大で、調整するにも環境が許さない。結果はエネルギーロスを垂れ流しながら動ける超凄いオーブントースター。

 あ、違うか。パラジウムが限界を迎えるのかな。水素を出し切ってしまうためか、パラジウムが脆化してしまうのか。曝され続けるからかってのはわからないけど。供給量とかどうやって調整してるんだこれやっぱ理解できない……。

 トニーは飛んで逃げたと気軽に言うが、どう考えてもロケットを背中に括るか、ひっついて飛んだ精度だ。姿勢制御も気休めにしかならない程度だろう。飛ぶというより射出だ。

 何か重大な物事が起きたらトニーに全賭けしてもいいくらいには強運というか奇跡的というか。

 

「私はリアクターを作る。ナズにはインターフェースを作って欲しい」

 

「あー、ロボットみたいな操縦するやつですかね。レバーとボタンは何個にしますか」

 

「いや、もっとシンプルな形があるだろう。脳波だか感応波だかで動かしていたじゃないか」

 

 トニーの視線の先にはベイマックソの姿が……!

 いや、ベイマックソではなく、内部の先行者だろうけど。

 

「ちょっと考えてみます。ところで、なぜ胸にアーク・リアクターを?」

 

「……宗教上の理由だ」

 

「宗……教……?」

 

 信仰宗教や趣味嗜好の関係でプラズマボールを肌身離さないとかいう人がいたような、いなかったような。

 いや、毛色が違うか。

 実はカラータイマーとか?

 

 

 

 

 

 ――助手にリアクターはまだ早い……!

 

「ところで、俺もアーク・リアクターの作成に関わりたいんですが」

 

「材料をガラクタから洗練させるだけだぞ。私の手足の代わりに雑用してリアクターを作りたいなら構わないが。……嫌そうな顔をするくらいなら任せた仕事をするんだな」

 

 諦めた。

 アカデミックなドリンクバーのミックスがしたいんだ。

 だが、今だけだ。

 俺は何度でもリアクターに挑むだろう。

 そう、何があろうとも!

 何度でも!

 

「それはそれとして、これって完成させて大丈夫なんですかね」

 

「何がだ」

 

「悪用されたらチョーヤバーイ」

 

「使うのは私だけ。そして私なら上手く使える。何か問題でも?」

 

「あっはい、無いですね。じゃあやっちゃいましょう」

 

「私はリアクターを作ったら空軍基地に行って話してくる。後は任せた」

 

 

 

 

 

 ――気遣いのできるAI……!

 

「どうだ? 完成したか?」

 

「まだです。無理です」

 

 表情には出さないがしょんぼりしたトニーが帰ってきた。しょにーだ。

 理想は直観的なUIというよりも、マジで直感で動かすUIということで、難所が多すぎる。

 俺だけでスパコン何個使っているのかってレベルでジャーヴィスに演算させまくってる。

 

「私は完成させたぞ、どうだこの輝き」

 

「悔しいけどマジでしゅごい」

 

 トニーが此れ見よがしに、胸元で輝く新型のアーク・リアクターを見せた。

 あらゆる面で洗練されてる。

 研究は努力とセンス。

 努力は研究として世に公開する理論だとかを組み立てるときにデータとして積算する。

 逆に言えば残す気が無いのならばメモ程度でいい。

 自分がわかればいい程度にジャーヴィスに残しているのだろう、かなり省略しても構わない点だ。

 そしてセンスは見ただけではっきりわかる。

 繰り返すことで見える職人的なさじ加減などが必要となる部分を膨大な知識と天才的な頭脳、有り余るセンスで解決している。

 マジでしゅごい。

 スパコンで計算する部分とかジャーヴィスで補助させているとは言え、脳内で解決している節がある。

 ぶっちゃけ頭おかしすぎる。

 

「それで? 問題点は?」

 

「星の数ほど。トニー・スタークのスキャンダルよりは少ないですが」

 

「それなら全くないな」

 

「あ、はい。解決できそうに無いのが大きく2つほどで、それらが絡み過ぎています。思考を読みとるには脳から出る信号が弱すぎるし、読み取れても判断するにはAIが幼いので気遣い(・・・)できない。残念ながら技術が一切追いついてませんね」

 

 現状までの報告を流し読みながら、トニーが時折ドヤ顔でアーク・リアクターを見せ付けてくる。

 ぶ、ぶっ殺してぇ……。

 

「解決策は考えていると思うが、実現できそうなのは?」

 

「脳に電極ぶっ刺して薬品漬けにして脳波を強くしたら幾らかは解決しますよ」

 

「私を拘束していた連中より酷……酷くもないのか?」

 

 苦い顔をしているトニーに、どんな環境にいたのか微妙に気になる。

 微妙なので聞かなくてもいいか。

 

「いきなり人間だと奇跡が起きない限り成功しないので、動物をたくさん使わないといけませんね。明日からケンタッキーが材料に悩まなくてもよくなりますね。もしくは小動物を呼び出すハーメルンの笛みたいなのでネズミを呼んで試すとか。ひとっ跳びに猿でもいいですが、山からいなくなってパパラッチが駆けつけますね。パパラッチは見た、噂のスタークはやはり気を違えていたのだ、みたいな。動物を用意しているうちにプラズマ焼却炉でも作っときますか」

 

「ダメだ。狂気に狩り立てられる予定はないぞ」

 

「冗談です。最善なのはジャーヴィスに補助してもらいます。これはあらゆる問題を解決する冴えたやり方ですよ、ただ一つを除いてですが」

 

 ジャーヴィスによる補助で想定される報告を空間に投影する。

 トニーが凄まじい早さで読み込んでいる。

 見た様子では問題が無さそうだ。

 

「私としては問題は無いと判断する。で、解決できないただ一つとは?」

 

 ジャーヴィスに問題はない。

 トニーと過ごし、成長したAIだ。

 その積もり積もった情報を元にした気遣い(・・・)は尋常ではない。

 ジョークに存在するブロンドヘアーを置き去りにし、大して仲の良くない人間程度では太刀打ちできないレベル。

 微弱な脳波パターンからも生まれたてのAIには出来ない、繊細な補助などを判断できるだろう。

 最初は難しいだろうから経験値を積ませる必要があるけれど。

 

 

 

 そこで生じたたった1つの問題とは……

 

「俺の費やした時間が霧散します。結構寝てない。1日6時間しか」

 

 致命的な問題だ。

 それだけ削った時間が無駄になる。

 許されるだろうか。

 いや、許されない。

 

「ジャーヴィスを使おう」

 

「えっ……。実は俺はロングスリーパー、10時間寝たいところです。今からジャーヴィス用にするとまた徹夜が待ってます」

 

「もうスーツを作る段階に入るがいいのか。アーク・リアクターが動力だぞ?」

 

 結局俺の睡眠時間が犠牲になったぞぬわー^q^

 

 

 

 

 

 ――男の浪漫!

 

「とりあえず設計図を描いた」

 

「これ、もしかして空を飛ぶのでは……」

 

「当たり前じゃないか。男の浪漫だろう?」

 

「いや、俺は高所恐怖症なんで」

 

 パワードスーツを着るのはいいけど、緊急時以外では空を飛びたくない……。

 技術面よりも精神面の意味で怖い……。

 「そうか……」としょんぼりしたが、わかりあえないのでしょうがないね。

 

「ところで、リパルサーを積むんですね」

 

「それで空を飛ぶ推力を生むからな」

 

「あー。酸素混ぜてぶっ飛ぶ感じですか」

 

「言い方は悪いがそうだ。同じように手からは反応させてプラズマを出す」

 

 それなら高温の炎とかに近いかもしれない。

 アーク・リアクターから直接引いたエネルギーを収束させればビームにもなるだろうけど、1センチの鉄板抜くのに2ギガジュールくらい必要だろうか。

 今の段階だと先に手が焼けるから無理か。

 

 

 

 

 

 ――数万ピースのパズル!

 

「各地の工場から取り寄せたパーツを組み合わせたり、足りないパーツを手作りだなんて、まるでパワードスーツのパズルみたいで素敵! 頭おかしくなる!」

 

 なんと初回ならパワードスーツのネジが380円!

 全数万回の購入で君もパワードスーツを手に入れろ!

 みたいな。

 アーク・リアクターもジャーヴィスもないからガラクタだけど。

 

「実際に機能することを確かめたらジャーヴィスに任せるから安心しろ。設計図を引けばすぐだ」

 

「部品を作る装置や装置を作る装置を生み出せる超贅沢な3Dプリンターみたいだぁ……」

 

「作業はそんなにかからないだろう。……ほら、違う、もっと上だ」

 

 疲労を抱えながらも頑張る健気な俺。

 ロボットアームと遊ぶ上司。

 

「俺なんて腕をさらに4本分動かしてますからね……」

 

 4本のマニピュレーターを見せ付ける。

 疲労も4倍(ゆで計算)

 

「手が多いのに私とほとんど作業速度は変わらないように見えるが」

 

 ソフトウェアの違いをハードウェアで補っているだけだから、そうやって現実をまざまざと見せつけるのやめて!

 しかも動きの悪いロボットアームとコンビで作業して同じ速度とか死んでしまいます……。

 

「補助輪でもつければいいじゃないか。AIとか」

 

「今育ててる途中なんで……」

 

「そうか。なら頑張るか辞めるかだ。辞めたら作業していないのに共著してやろう。……いや論文などは出さないが」

 

「それは情けなさすぎるんで頑張ります(震え声)」

 

 俺の戦いはこれからだ……!

 ブドウ糖ください^q^

 

 

 

 

 

 ――見よ! これがピザハンドだ!

 

 玩具で遊んでいた俺たちに冷ややかな視線の女秘書ポッツさん!

 そこに苛立ったオバディアがニューヨークからエントリー!

 感覚的に役員会がこじれたらしい!

 そして俺は3秒クッキングマシーンを作っていた!

 

「ピザ食べるか?」

 

「食べます。あ、うまいですねコレ。冷えてますけど」

 

「ニューヨークから来てくれたアイドルだからな」

 

 3秒クッキング装置にリパルサーの砲台を設置し、後は材料をそろえるだけだ。

 苛立ったトニーが砲台の角度を調整している。

 話したいことがあるらしい。

 目で促す。

 

「今の方針を気に入らない役員会が私の解任を要求してきた。軍事産業に戻すべきだと。オビーにアーク・リアクターの提供も。考えられるか? 株価が40ポイント下がった程度で。……いや56ポイントだが」

 

「あ、俺は株を買いましたよ」

 

 アーク・リアクターへの発言権が欲しかったし、割引セールがちょうど始まって良かった。

 小型化できたので、巨大な方にも注目が集まる。

 解体だなんて言いだされたら困る。

 手作りしろ。

 

「やるじゃないか」

 

 握手を求められたので応える。

 喰らえ! ピザハンド!

 説明しよう!

 ピザハンドとは、ピザを無造作に掴んだがために脂やソースの付いた手で握手する行為である!

 

「……やるじゃないか」

 

「……やりますね」

 

「……ボスをなめるなよ」

 

 カウンターピザハンドで迎えられたので、二人で手を洗いに行く羽目になった。

 

 

 

 

 

 ――Great power !

 

「よし、飛行訓練だ。ダミーは消火、ナズは緊急停止。推力は10%だ」

 

「いや、ちょ、10%は強すぎ」

 

「いくぞ」

 

 緊急停止、ゴン、ガン、ぷしゅーってね。

 ちなみにゴンはトニーが後ろ斜めに投射されて頭を打った音。

 ガンが外れて飛んできた脚部スラスターが俺を打ちつけた音。

 ぷしゅーはダミーがトニーに、ユーが俺に消火剤を撒いた音。

 

 

 

 

 

「よし、1%だ。ダミーは消火、ナズは緊急停止」

 

「俺に被害が及びそうならトニーが骨折してでも緊急停止します」

 

「おい、今度は計算しただろう」

 

「計算だけで空は飛べねぇんだ!(どんっ!!!)」

 

「いいぞ、その調子だ。次は2.5%」

 

 俺のことを無視して勝手にフラフラと飛行し始めるトニー。

 ぶっちゃけ手足にスラスターを付けただけで安定して飛ぶとは思わなかった。

 トニーが空中で観覧車よろしく大回転して落下してねずみ花火するのがオチかと。

 

「おい、そっちじゃない!」

 

「いやあああああ! 私のガンダムがあああああああ!」

 

「違う。私のコブラだ」

 

「それな。あ、俺のセグウェイには傷つけないでくださいよ」

 

「善処する。で、セグウェイは何処に?」

 

「リビングルームでぇす。ここで焼けるのは車だけでぇす」

 

「人間も焼けるぞ」

 

 いえーい、と寝不足のテンションで煽ったら飛行しながら追いかけられた。

 こんなしょうもない装備で狭い室内を飛ぶとかなんなんやこのおっさん(驚愕)

 

「なかなか飛べるな」

 

「じゃ、じゃあもう完成ですね……」

 

「飛行機はエンジンと翼だけで飛ぶのか? ん?」

 

 肩で息をする俺を宙から見下ろしながら、さらなる残業が決まった……!

 

「隙を見せたな喰らえっ! 緊急停止!」

 

「させるか!」

 

「ぐえええぇぇ!」

 

「ぐあああああ!」

 

 親方! 空からトニー・スタークが俺を押し潰した!

 

 

 

 ダミー、スラスターは精密機械だから追撃の消火剤はやめてくりー^q^

 

 

 

 

 

「補助翼をチェックしろ」

 

 メタリックなスーツに身を包んだトニーが告げると、各所に搭載された補助翼が動き始めた。

 

「か、かっこよすぎる……」

 

 空を飛ぶよりも浪漫溢れる。

 こういう色々な部品が動き出す瞬間は感動するし作って良かったと思える。

 完成を見て疲労が押し寄せるのを感じる。

 二人で作業したが、大して時間を有効に使えた記憶はない。

 作業の途中で遊んでばっかりだからかもしれない。

 今のところの大きな欠点は一人では着れないところだろうか。

 各機能の確認が終わったのか、補助翼が収納された。

 システムチェックを行う予定なのだが、それはキャンセルしたらしい。

 天候や航空状況を確認している。

 

「ジャーヴィス。歩くより、まず走れだ」

 

 ジャーヴィスに止められたらしいが、それを無視するようだ。

 よくあるよくある。

 

「撃つよりまず狙えって言葉もありますけど」

 

「それは私の父だ。私はまず撃つ」

 

「わかりましたよ。じゃあ俺は寝ます」

 

「確かに眠れば夢を見ることができる。だが、私が単独で空を飛ぶ姿も目を開けたまま見る夢だとは思わないか」

 

 なるほど。

 空を飛ぶことは人類の夢だった的な。

 そもそももう一回飛んだでしょ、砂漠で。

 どっちかというと打ち上げだったけど。

 

「じゃ、おやすみ」

 

 それはそれとして眠いんで。

 

「確かに眠れば万人が夢を見ることができる。しかし、私が飛び立つ姿を最初に見られるのは唯一だ」

 

 結局バルコニーから飛び立つ姿を見送ったが、数秒でいなくなった。

 俺やっぱいらないやんけ^q^

 

 

 うとうとしてたら轟音が響いたので飛び起きる。

 音の出どころへ向かうと粉塵舞うリビング、穴の空いた天井と床。

 隕石? 隕石なの?

 穴を覗きこんで下を見れば、様々な破片に彩られたスーツを着たトニーが車と同化していた。

 

「いくら無塗装が気に入らないからって、そんな我がままコーディネートを急にされても困るっていうか」

 

「……そうだな、ピアノとセグウェイと車のお洒落デコレーションでは派手過ぎた」

 

「セグ……いやあぁぁぁ! 私のセグウェイがあああああ!」

 

「私のコブラも壊れたから引き分けだ」

 

「生きてきた中でもちょっと聞いたことのない暴論ですね……」

 

 

 

「悪かった。後で買ってやるから好きなの選んでおけ」

 

 片づけていると、スーツを脱いで、氷嚢で頭を冷やしながらトニーが現れた。

 衝撃が重すぎたようだ。

 まあ、メタリックな見た目通り内部もあんなんだし。

 

「いや、別にいいです。10台くらいあるし」

 

「それならなぜ文句を言ったんだ……」

 

「あれは特別製なんですよ。M.A.R.I.A.を参考にしたので空を飛べます」

 

「高所恐怖症って言ってた気がしたが?」

 

「俺は飛ばないんで。リアクターと接続することで、トニーがセグウェイで空を飛ぶのです」

 

「デコレーションして正解だった」

 

 えーそんなぁー^q^

 そんなクソどうでもいいことは脇に置いて、トニーにかかる重力加速度が半端無さそう。

 これはベイマックソくんの出番だな。

 実は最新の衝撃吸収材だ、名前とは裏腹にとんでもなく凄い性能をしているのだ、兵器としては使えないけど。

 

 

 

 

 

 

 ――人類の叡智! 3秒クッキング!

 

「はい、では今日の3秒クッキングは独身の心強い味方である炒飯です。こちらがレシピです」

 

 ・料理研究家 ナズナ・ナツメ … 1人

 ・動力源   トニー・スターク… 1人

 ・飛行用スラスター      …両足

 ・リパルサー・レイ      …両手

 ・ユニ・ビーム        … 1機

 ・卵             … 1個

 ・米             … 150g

 ・具材            …お好み

 

「はい、ではスイッチを押します。完成しました。スローモーションで見てみましょう。ジャーヴィスくん、お願い」

 

 映像が始まりました。

 トニーから供給されたエネルギーでクッキング開始です。

 スイッチを押すことで炊いたお米がスラスターによって発射されます。

 お米は途中で、右手のリパルサーによって浮かされた溶き卵と具材と混ざり合います。

 さらに、左手のリパルサーで浮かせた油のベールを纏います。

 最後に、照射されるユニビームを潜らせて完成です。

 

「はい、最後に動力源のトニーに感想をもらいましょう」

 

 咀嚼していたトニーに視線を送る。

 

「チーズバーガーのほうが好みだ。ジャーヴィス、これは派手過ぎじゃないか?」

 

『貴方は控え目な方でしたね』

 

「はい、大変おいしいようですね。次回はスイートポテトを予定しています」

 

「あの車の色みたいにしてくれ」

 

『それなら目立ちませんね。では車の赤に、炒飯の黄色を混ぜました』

 

「おい……おい」

 

『おっと失礼。スイートポテトの黄色でした』

 

「いい色合いですね。自動組み立て開始しましょう」

 

 トニーが脱力しながら「スイートポテト……」と呟いた。

 ネットで炎上のレッド、株価下落のブルー、健康ドリンクのグリーンよりはかっこいいと思うけども。

 

「あれ、トニーって野菜ジュース飲んでましたっけ」

 

「健康のために飲む様にしたんだ」

 

「ふーん?」

 

 ジトっと見つめれば、トニーはスーツ用のフェイスディスプレイで顔を隠してテレビへと視線を向けた。

 これで顔を隠されると脳波や感情を感知しにくい。

 サイバネティックインターフェースとかいう強そうな技術のせいだ。

 ぐぬぬ、あとちょっとで打ち破れそう。

 

「ジャーヴィス、完成までは」

 

『5時間ほどです』

 

「イベントに出てくる。寝てていいぞ」

 

「やったぜ」

 

「ジャーヴィスに言ったんだ」

 

「ちょっと何言ってんのかわかんないですね……」

 

 ブォォォォォォォォォンwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwイイィィィイイヤッヒィィィィイイイwwwwwwwwwwwwwwwwwwwって感じでトニーは高級車で出かけた。

 よし、寝る。

 

 

 

 帰ってきたらしいトニーが作業場でパリンパリンとガラスを割っていた。

 とんでもねえ目覚ましなんだが。

 グルミラでテロリストが暴れていて、それに怒りを覚えたらしい。

 心配だな。

 グルミラと言えばインセン博士だ。

 温厚でめっちゃ優しい。

 トニーの真似して兵器を作ろうとした俺に助言してくれた凄い博士だった。

 俺が尊敬する人はいつも亡くなってしまう。

 

 新しく完成したスーツを着たトニーが、何か言いたそうにしていた。

 トニーもインセン博士を知っているらしい。

 俺の記憶が正しければ、トニーが博士と会ったのは一緒に国際会議に出たときの一回だけだ。

 物理の博士だし、生前は話す機会があったのかもしれない。

 

 素晴らしい人が残念な結果になってしまった。

 亡くなってしまったのだからそれで終わりなんだ。

 終わりなんだよ。

 

 

 

 

 

 ――Super power !

 

 断崖に建つ大豪邸の中、男は立ち上がった……!

 

「諸君が知っての通り、私は愛国者だ。しかし、政府を盲信しているわけではない。むしろ疑ってすらいる。他人を蹴落として得た地位に座る者は、大衆に、利権に、富に弱い。脆い屋台骨に力を委ねることは歪みを作り、やがて歪みは間違いを孕み、争いへと育つ可能性が高い!」

 

「トニー! トニー! トニー! トニー! トニー! トニー!」

 

「だから私自身が脅威に立ち向かう!」

 

「キェェェェェェアァァァァァァリアクターカガヤイテルァァァァァァァ!!!」

 

 総勢二名と愉快な仲間たち(内訳:演説するトニー、よく寝たため元気な助手、人工知能、互いを叩きあって拍手するロボットアーム3本)の苦労が報われる時がきた……!

 

 まあバルコニーで飛んでく飛行物体を見送るだけで俺の仕事は終わりなんですけどね^q^

 

 飛行記録や録画映像、トニーのバイタルデータ、脳波パターンから改善点を洗っていると、軍人のローズ中佐から電話があった。

 彼自身については特にどうでもいい情報なので省くがトニーの親友である。

 アフガニスタンに未確認飛行物体やステルス機を飛ばしていないか、という用件だった。

 いや、(会社も俺も)飛ばしていないです。

 そもそも会社から締め出しがきつくなってきたし、空気椅子程度にはあったはずの俺の席がもう無いから……。

 不明ならいっそ訓練で押し通せばいいのでは、と伝えると「無理言うな」と切られた。

 

 

 

 翌日、グルミラから武装勢力が排除されたというニュースを見た。

 あと近くを飛んでいた戦闘機が墜落したが、飛行訓練の結果らしい。

 なんやそれこっわ。

 不思議なことが起こったんやな、怖いから戸締りしとこ。

 ローズ中佐から電話がかかってきているらしいが、ジャーヴィスに俺は寝るんで後にしてくれと伝えた。

 

 二度寝の準備をしていたら、トニーが本社に無人機で忍び込めないか聞いてきた。

 最近は会社に入れてないから設置できてないし、使ってないから充電しないと使えない。

 ポッツさんに本社で充電しておいてくれたら使えるようになると伝えて寝る。

 ぶっちゃけマニピュレーターを使う作業ばかりで脳が疲れてるんや……。

 

 

 

 オバディアから電話があった。

 なんと役員会でアーク・リアクターの撤去が決まりかけているらしい。

 はあああああ!? おまえ何言ってんの!? 頭オバディアなの!?

 参考に反対意見を貰いたいだとか。

 はよ、車はよ回せ。

 え? もう来てる?

 やるじゃねーか!!!

 俺は風になる!

 

 テメー、神経麻痺はズル……うごごごご^q^

 

 

 

 

 

 --5

 

 説明しよう!

 俺を麻痺させた神経麻痺誘発装置とは、政府に認可されなかったクソアイテムである!

 耳の裏あたりで使うと文字通り神経麻痺を起して動きを奪えるぞ!

 

 猿ぐつわを噛まされ、目隠しされ、手足を縛られて連行される俺は出荷されるボンレスハムみたいだぁ……。

 面倒だからって神経麻痺誘発装置を連射されなくて良かった。

 データは無いが連射されたらヤバいのは確定的に明らか。

 電磁波だって悪影響が無いとされているのはデータが無いから、無ければ大丈夫理論である。

 

 引きずられて放り出されたのはアスファルトの地面、つめたぁい!

 猿ぐつわと目隠しが外され、俺の視界に巨大なパワードスーツの姿が!

 砂漠でトニーが自身ごとロケットに見立てて発射したやつが巨大化してた。

 テロリストに奪われて良かった……良かったのか?

 いや、一応アメリカで完結してるからセーフみたいな。

 

 オバディアが俺を横に転がしたまま、巨大なパワードスーツにアーク・リアクターをはめ込んでいる。

 どう見てもトニーのです。

 ひとの ものを とったら どろぼう!

 最初は俺のベイマックソから取り出したリアクターを使うつもりだったとかオバディアが語り出したので、話半分に聞きながら這いずる。

 マグネシウムを使ってみたが不安定化に成功せずいまいちな出来で、発電量は微々たるものだからしょうがないね。

 そして俺から上着を奪わなかったのが運の尽きだぞハゲぇ! ルシファーだったら奪ってたからテメーは悪魔以下だぞハゲぇ!

 

 オバディアがスーツを着込む。

 大きすぎて着るというか乗り込む形になっている。

 わざわざ俺のリアクターを背負っているのは予備電源のつもりなのか、当初の予定のせいなのか。

 ハゲは準備完了のようだ。

 俺? 俺は祈るだけだ。

 ポッツさんが充電してることを。

 

 

 

 さすがペッパーだ! 完璧すぎる!(命の恩人)

 

 

 

 

 

 --6

 

「トニーほどではないが、リアクターの小型化に成功している。これはとてつもなく素晴らしいことだ。私が雇っている技術者でも成し得ていない偉業だ。我々の名前が歴史に残るほどに」

 

 オバディアが技術者に開発させたパワードスーツの内部から見下ろしながら、男に話しかける。男の名前はナズナ・ナツメ。オバディアが着ているスーツの背部に積み込まれたアーク・リアクターを作った男だった。完成には程遠いが、不可能と言われていた小型化に成功させていた。日本人だと自己申告しているが、実際のところは不明だった。男の証言する住所は日本には無く、家も無い。通っていた学校も知り合いもいない。遡ってもこの世界の何処にも生きていた痕跡が無かった。オバディアには、突然世界に放り出されたと言われた方がまだ信じられるほどだった。

 ナズナがよく着ているパーカーのフードで顔が隠れているので表情はわからないが、恐怖で震えているか、不安で歪んでいるかもしれない。もしかすると、昔のように無表情かもしれない。この男と出会ったのはトニー・スタークが会社を継いで数年ばかり経った頃だった。

 襤褸を着ていたのを覚えている。いや、思い出した。何度も会社に押しかける面倒なストリートチルドレンだった。会社の繁栄に不満を持ったか、媚を売りに来たのか、どちらにしても浅薄で知能のない餓鬼だと思っていた。パスポートを持たない、渡米記録も無い、言葉も喋れない、何も持たないティーンエイジャーだった。ガードに命じて何度も連れ出したが、その度に無表情だったのを思い出した。

 

「巨大なロボットで背負うほどの大きさなのに?」

 

 ナズナが言う。気楽ないつもの声だ。震えている様子は無い。ならばこの会話もいつものように終わるのだろう。それが惜しい。

 オバディアは何もかもが惜しいと思った。十年近く惜しいと思い続けている。スタークの連中と同じ、何故持っている能力を存分に振るわないのか。

 素晴らしい発想を持っていた。誰もが持つような良心が咎めることもなく、えげつない性能を兵器に自然と与えることができる才能だった。それを伸ばすためにベルンでの技術会議に送り込んで、何を血迷ったか医療の道へと進んでしまった。オバディアは今でも覚えている。ホー・インセン、忌々しい名前だ。

 ホー・インセンが死んでからも変わることは無い。トニー・スタークに付き合って穴倉に潜るだけになってしまった。才能を腐らせることを何とも思わなくなってしまっている姿が惜しいのだと、オバディアは思い続けている。

 

「今は、だ。やがてはトニーのリアクターすらも超えるだろう。君を見出した私にはわかる」

 

「見出した、ね」

 

「君ならトニーの跡を継いで今までにない兵器を作ることができる」

 

 オバディアの脳裏には、あの輝くような兵器の数々が思い起こされていた。コフィン、ストーンヘンジ、アークバード、グレイプニル、メソン・カノン、シャンデリア……。提出された兵器の数々は、夢物語だと笑うには現実的で、あまりにもおぞましく、美しかった。世界そのものを操る力すら秘めているように感じられた。いずれもアーク・リアクターを転用した超兵器だった。膨大なコストと遠大な時間を要するそれらは、技術の進歩とともにやがては日の目を浴びるはずだった。今頃は軍事バランスを操る程度の力では済まなかったはずだった。何もかもが、オバディアの夢すらも、はずだったという言葉で片づけられた。

 散々兵器を作り、売っておきながらも人道的ではないとトニー・スタークが却下した。それらは機密として葬り去られた。その輝きは終わりを迎えた。医療に傾いて、その輝きは曇っていった。

 

「私と手を組め。世界の軍事バランスを操る楽しさを教えてやろう。好きなだけ研究させてやろう。やがて兵器で我々で世界そのものを操ろう。誰にも見えない光景だ、素晴らしいぞ。どうだ?」

 

「断ります。俺は人見知りでストレスに弱い。環境が変わったら死んでしまう。そもそも軍事バランスよりも、貴方の言う兵器をピッチングマシーン代わりに野球してたほうが楽しいですから」

 

 ハワード、トニー、インセン。オバディアからすればナズナは他人に委ねすぎている。才能を縛らせている。

 もっと開放されるべきだった。

 もっと考えずにあのまま生きるべきだった。

 

「トニーは死んでいる、と言ってもか?」

 

「驚きもしませんよ。なんとなくそうだろうと思ってました。 確認は?」

 

「……やがて死ぬ」

 

「最期を確認していない、と。じゃあ生きてますよ。俺にはわかります。生きているままなのか、生き返るのかはわかりませんけど」

 

「トニーのせいでホー・インセンが死んだと言ってもか」

 

 ナズナの顔を隠すフードが僅かばかり緑に発光したようだった。

 勘の良さを支える道具。

 感情を読み取る手品のタネ。

 飛び交う脳波を受け取るために、増幅させるバイオセンサー。

 解析のためにナズナを調べ、そしてバイオセンサーを利用してその精神性と特性を調べ、深淵を覗き込むことに酷似した危険性を垣間見たがために中止となった、吐き気を催す技術の一つ。

 それがオバディアの知るフードの正体だ。

 必死にこちらの精神を探り、言葉の正確さを知ろうとしているのだろう。

 フードが一つなら安全だ、スーツを着ていれば問題はない。

 

「だから貴方はダメなんだ。最後まで自分がやったと認めない。自分の手でやれない。なんと情けないことか。そんな小物が世界をどうできるって言うんだ」

 

「ふん、私が見出したからこそ生きていられるというのに」

 

「言葉を飾らないでくださいよ。貴方が俺に声をかけ始めたのは、俺がトニーに拾われてからだ。それまでは面倒そうに俺を外に連れ出す指示を出していただけだ」

 

「お前には何もかも与えたが、その答えがこれか」

 

「貴方から与えられた物なんてありませんし、あったとしてもどうでもいい物だけです。ハワードに憧れた。トニーが認めてくれた。インセンが示してくれた。だが、貴方は何も俺の欲しい物をわかっていない、持っていない、与えられない。」

 

 フードの内部が爛々と緑に光っていた。ナズナの感情が高ぶっているときの、奇妙な現象だ。

 オバディアの視界に映るディスプレイが、動体反応を感知した。スーツの情報を抜き取ったペッパーが警察か何かを連れてきたのだろう。

 ここを凌げばどうせ有耶無耶になる。力と金とはそういうものだ。

 

「金の卵を生む鶏になれたのに、残念だ」

 

「最後には引裂くって言ってるのと同じですよね」

 

「鶏のように、腹を引裂くまでは好きに生きさせてやるって意味だ」

 

「それは貴方の思うような『好き』でしょう。鶏のように囲いの中で、与えられる餌を啄ばんで。俺は自分の好きに生きて、俺が成せることを成すのです。俺はトニーの代わりにはなるつもりはない。残念な結果となりますが、謹んでお断りを申し上げます。更なるご活躍を期待しておりますので、さっさと帰らせてもらえませんかね」

 

 惜しかった。昔のままならば、きっと手を組んでいただろう。

 

「残念ながら帰ることはできない。お前はここで腹を裂かれて、金を出し続けることになるからな」

 

 だから一方的に掴むのだ。

 逃げる足を切り裂いて、払う手を捨てて。

 あの兵器にオバディアは魅せられていた。

 

「手足を千切って、アイデアだけを吐きだせるようにしてやろう。お前が作った医療設備で延命させながら。巨大な冷蔵庫に酷似した生命維持装置に繋がれながら。かつて作った道具で自分の命を生かし、これから作る道具で他人を殺し続けるんだな」

 

 話は終わりだと、スーツの両手で包み込む。

 締め上げて、死なない程度に幾本も骨を折って、後で連れて行けばいい。

 

「いつでもギブアップを認めてやるぞ。私は優しいからな。トニーのリアクターの作り方と交換だがな。聞いてるのだろう?」

 

 ぎちぎちと締め上げるが、オバディアの予想以上の抵抗と負荷だった。

 スーツが未完成だったか、エネルギーの供給に問題があったか。

 内部でアラートが鳴る。

 

「聞いてませんよ。ちょっとだけしか。俺のアーク・リアクターは自分で作る主義なんです」

 

 ナズナの背部から伸びた四本の腕を模した機械がスーツを押し返していた。

 オバディアがスーツを操作し、検索する。

 すぐにそれは見つかった。

 スタークインダストリー内の最先端医療、その集大成。

 万能型医療用マニピュレーター。

 

「ドクター・オクトパス! 完成していたのか!」

 

「まだ試作機です。永遠に続く、人類の発展のための第一歩」

 

 火花を散らせ、機械がぶつかり合う。

 純粋な馬力は圧倒的にオバディアのスーツが上だった。

 だが、技量はドクター・オクトパスを操るナズナが圧倒的に上だった。

 力を受け流し、重火器の射線から逃れている。

 

「貴方はなぜ兵器を作らないのかって何度も聞きましたね。前になぜ兵器を作りたいのかって聞かれたことがありました。思うように答えたら、そんなのつまらないじゃないかって。生物の始まりは化学反応に過ぎず、活動はただの電気信号に由り、死してはタンパク質の塊となり、魂の影はどこにも見えず。人は放っておいてもやがて死ぬ。それを早めることに意味を見いだせず、伸ばすことに興味を持つことになった。それだけですよ。死んだら終わりって考えてましたけど、そうじゃないのかもしれません」

 

 ナズナが背負っている事故現場でも活躍できるよう設計された機械の腕。バックパックを変更することで、あらゆる環境にも適応できるように期待されている。

 そのエネルギーの供給源は、とオバディアは考えた。バックパックごとに分かれているのか、共通なのか。

 違う、ナズナの好みはリアクターだ。

 

「有線か」

 

「掃除機みたいでしたね」

 

 バックパックからコードが伸びていた。その先は、まるで風船のように膨れ、マシュマロのように球体に近いフォルムをしたケアロボットの腹の中。

 以前渡され、解析されてジャンクとなった物とは違う、完全な姿で。

 

「二台目か」

 

「マスコットは何台あってもいいのです。トニーの優秀な秘書が用意してくれました。まあ、夜食のマシュマロみたいなものですけどね」

 

 

 

 

 

 --7

 

 ぐえーやられたンゴー^q^

 やめてよね、医療用補助腕が軍事用パワードスーツに勝てるわけないじゃないか。

 なんかバトルする雰囲気だったけど、無理でしょ(冷静)

 電源を狙いに行ったオバディアのために、夜食のマシュマロを用意してやった。

 「戦うわけねーだろハーゲ!」って感じに至近距離でベイマックソに積まれている粗製のアーク・リアクター内にあるプラズマ源のマグネシウムをブッ飛ばしてバックれた。

 万能型医療用マニピュレーター、略称は蛸先生だが結構な力の代わりに電気をやたらと食う腹ペコマシーンだ。

 4本ある内の2本で駆け抜けたり、残りの2本で鉄骨や壁を掴んで逃げると速い(粉みかん)

 

 

 

 途中で命の恩人であるポッツさんと戦略国土なんたらかんたらの捜査官と合流。

 やべーの来てるから逃げようと提案するが、捜査官たちが銃を構えた。

 銃なんて効かないって説明するよりも、まず掴まれたら真っ二つになって死ぬことを告げる。

 馬力が半端ないのだ。

 数千馬力は伊達じゃない、捕まって引っ張られたらマジで逃れられない。

 移動や精度の関係でパンチや張り手は静止した状態からの直撃じゃなければ無駄が多いのでギリギリでセーフ判定。

 車の事故みたいなものだから当たり所が悪くなければ生きられる、正面衝突に近いけど。

 そういうわけで、やべーからポッツさんを機械で掴んで外に出る。

 後ろからは銃弾が弾かれる音や内部が壊れる音が響いていたが、逃げないと閉所はやばい。

 

 どうやって逃げればいいかと足を探そうとしたら地面が隆起した。

 これはあれですね。

 地面から出てきたじゃねーか糞が!

 レーダーを誤魔化すの忘れてたぜ畜生め!

 もうエネルギーがカツカツなんで、せめてアーク・リアクターに接続を……ダメ?

 あ、そう。

 

 もうトニーが来たからいいです。

 やっぱ無駄にでかいゴリラロボットよりシュッとしたトニーのスーツの方がかっこいい。

 かっこよくない?

 ハァイ、トーニィ。ちゃんとアーク・リアクターは用意した? 旧式? Oh、それ飛ぶの想定してないんだよね。

 

 

 

 街中でバトルした後、2人は空へと飛んで行った。

 オバディアが着ているスーツのスラスターを見ていると、推進剤を積んでいるとしか思えない噴射の仕方だった。

 そりゃあでかいし重いから俺の粗製リアクターじゃ動かないのも当然ですね(言い訳)

 

 見えなくなったと思ったら、すぐに二人とも落下してきた。

 オバディアのほうはギリギリのタイミングでスラスターを噴かせていたので、かなりの勢いで本社へと落下した。

 トニーもエネルギーが足りないのか、不安定に飛んだり下がったりして結局落ちた。

 その後は肉弾戦が始まるも、旧型のリアクターでは不十分のようで、トニーがボコられた。

 それでもトニーは負けない! だってトニーは天才なんだから! というわけでオバディアのスーツに手を突っ込んで配線をぶち抜いてディスプレイを殺したようだ。

 トニーを褒めながら、中身を露出するオバディア。

 頭の部分だけ取ればいいのでは、と思ったけどどうでもいいか。

 うーん乗り込む形式もいいよね……。

 いい……。

 

 あとはポッツさんが旧型のアーク・リアクターのマスターバイパスをポチッとやった。

 天に上るプラズマの美しさ、いいよね……いい……。

 まあ雷も先行放電が地面から昇るし、太い先行放電みたいなもんよ。

 空が曇ってるからヤバいレベルの雷が降るかと思ったが分散したみたいで良かった。

 接地している俺たちは下手したら死んでたし、スーツ着てても露出してるからトニーとオバディアも感電死を迎える情けないエンドの可能性もあった。

 感電死しなくてもリアクターのとこに入ってアースで逃がすよりも破壊されて水素でブッ飛ばすとかもあったから良かった。

 

 リアクターが放出した電気で感電しながらもゾンビよろしく這いずるオバディア。

 トニーがトドメに、背中に背負っていた粗製のリアクターをリパルサーで撃ちぬく。

 爆発とともに落ちてくオバディア。

 やったか!?

 やったよね!?

 

 

 

 長く苦しい戦いだった……。

 いやマジで。

 

 

 

 眠いのにオバディア爆散事件の会見を開くから連れ出された。

 俺は寝たいだけなんだけど、仕方ねえな!(ちょっと来たかった)

 あの事件にトニーは関わってないですよっていう証言をするようにって昨日世話に……世話になった気がしないでもない捜査官のコールソン氏にカンペを渡されていた。

 彼は戦略国防……あ、略称はS.H.I.E.L.D.ですか。

 うーん100点!

 いい名前ですね!

 英語が長くないってところが俺的に高得点。

 まあそのS.H.I.E.L.D.でなんやかんやで補助してくれたらしい。

 サンキューコール。

 

 じゃあ会見は裏で見てるんで、と別れる。

 トニーは関わってないと証言。

 アリバイもある。

 オバディアは勝手に事故で死んだ。

 完璧だな。

 さっさと終わらせるだろうか、帰って寝よう。

 

「私がアイアンマンだ」

 

 うん。

 うん……?

 質疑応答やインタビューが始まってしまった。

 

 かっこいいから名乗っちゃうのもしかたないね^q^

 

 

 


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