私たちは夢と同じもので形作られている   作:にえる

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くぅ~疲れましたw これにてアベンジャーズ編完結です!
実は、マーベル映画観たら書きたくなったのが始まりでした
本当は話のネタがあふれるほどあって困ってるのですが←
貰った評価を無駄にするわけには行かないのでゆっくり更新で挑んでみた所存ですw
以下、キャプテン達のみんなへのメッセジをどぞ




そんなものないよ。
あとがきだけ先に書いときました。
読者のみなさんもこの一区切りまでお疲れさまでした。
マーベル・ワンショット3はちょっと間に合わなかったのでまた今度にしますね。


アベンジャーズ8(完)

 --19

 

 あちら(宇宙)から大量の何かが飛び出して、こちら(地球)に降りてくるのが見えた。

 あれがチタウリという軍なのだろう。

 その集団に向かってアイアンマンが飛び込むのが見えた。

 撃ち漏らしたチタウリが街を破壊し始めている。

 

 ほわあああああああああああああ^q^

 とテンパって混乱していると、ベイマックスに担がれた。

 逆側の肩には気絶しているセルヴィグ博士の姿。

 

『一度落ち着きましょう。優先順位を決めて出来ることからやっていきましょう。不安なら隠れていてもいいんです。大丈夫、ベイマックスが付いてますよ』

 

 セルヴィグ博士を部屋のソファに寝せたベイマックスがそう言った。

 俺は大丈夫だと伝える。

 初めて着た白衣の感度設定が高くなりすぎていたが、ベイマックスが設定変更してくれたようだ。

 

「セルヴィグ博士の容態は?」

 

『安定しています。脳震とうでしょう。目覚めるのに時間が必要です』

 

「それならこのまま寝させておこう。キューブを使ってゲートを開いたんだから、ロキやチタウリも建物を刺激しようとは思わないはず」

 

 連れて行く余裕がないし、言った通りここのほうが安全性は高いと思う。

 隠れていたら全てが円満に解決されるなら俺もここに居たいところなんだけども。

 死人を壊れた機械みたいに直せるなら全然隠れてやり過ごしたいところなんだけど、そういうわけにもいかないんだよな。

 生きてるからやらないといけないこともある。

 死んだ人がやりたかったことを、代わりにやったり……やらなかったり。

 出来ることは限られているからすべきことをやれるだけやるってくらいだ。

 ふぅふぅ、と息を整えつつ水を飲む。

 俺には空飛ぶ車がある。

 小回りが利かないけど、無駄に丈夫で轢き逃げアタックもできるからな。

 ベイマックスに指示を出そうとして権限が取り上げられていることを思い出し、ジャーヴィスに車を起動するように頼む。

 

「ベイマックスは救助を最優先で活動。空飛べるからね。俺はみんなを手伝いながら余裕があれば街をセンシングして情報を送る」

 

 窓の外、バルコニーにソーとロキが殴り合っていた。

 バチバチと帯電していて、魔法が飛び交っている。

 横やりは……ちょっときつい。きつくない?

 

 片翼から僅かに煙が上がっているクインジェットが旋回してきた。

 ロキを狙っているっぽいが、そう上手くはいかないわけで。

 魔法で元々煙が出ていた片翼を撃ち抜かれてしまった。

 1秒未満の溜めでクインジェットほどの合金の塊(軽量化はしているとはいえ)を軽々と破壊するのずるい。ずるくない?

 

 それはそうとクインジェットの状態がまずい。

 どのくらいまずいかと言うと、滞空姿勢制御できなくてくるくる回り始めてる。

 クインジェットは両翼にタービンとウイングレットが付いてて、垂直に離着陸できるVTOL機能や滞空するためのホバリング機能が発揮できるんですねぇ。そういうオシャンティーな機能を積んでるせいで通常時は荷物になっちゃって攻撃は機銃でしかできないんだけども。

 チタウリの攻撃で下には逃げまどった人々、建物には状況が飲み込めない人々がいることがわかっている。

 どうせ全取り換えだからと窓ガラスを突き破り、杖とハンマーでガツンガツンと殴り合ってる神の横を通り過ぎ、クインジェット目掛けて跳ぶ。

 大丈夫、大丈夫。

 こういう時は思い切りが大事なんだぜ、知らんけど。

 

 ほわあああああ!^q^ ってノリでなんとかクインジェットに張り付けた。

 空飛ぶ車は全く間に合わないので諦めた。

 実際は戦闘用でもなんでもないからな、あれ。

 左翼が見事に火を噴いているし、揚力を生み出せる感じではなくなってしまっている。

 後方にジェットエンジンがあるのでそれをぶっ放せばちょっとだけなんとなることも無くはないかもしれないが、高度も落ちてしまってビル群に突っ込みつつあるからそういうわけにもいかない。

 このままだとクインジェットミサイルという大質量兵器になってしまう。

 

「補助するのでなんとか機体の姿勢を維持してください!」

 

 外から操縦席の窓をコンコンと叩き、補助を行うことを知らせる。

 聞こえているかはわからん。

 ロマノフさんが珍しく目を見開いて驚いてるし、ロジャースさんも駆けつけてきたのでそれほど広くない操縦席でわちゃわちゃしていて面白かった。

 洗脳から回復した様子のエージェント・バートンが苛立った様子で二人に声をかけ、操縦桿を必死に握って機体を安定させようとしている。

 何故か後を追って付いてきたベイマックスに指示を出しながら、ドクター・オクトパスの重力制御を全開にする。

 建物に突っ込みかけたらちょっと機体を弾けたらいいなぁって気持ちだ。

 たぶん着陸時に機首を無理やり上げるのがやっとだとは思う。

 見知らぬ建物の屋上のフェンスに掠った。

 

 ほわああああ!!

 エージェント・バートン!!

 もうバートンでいいや!!

 バートンもっと頑張って!!

 ビルに突っ込んだら笑えないって!!

 

 ベイマックスと2人でなんとかフォローしながら僅かに開けた場所へと着陸のアプローチを開始した。

 俺が無理やり機首を浮かせようと『義手』で支えていると、『いい考えがあります』とベイマックスが機体の下へと回り込んだ。

 ランディングギアが折れたり地形にも被害を出しながら、クインジェットは着陸を成功させた。

 させたのだが……。

 

 うわあああああ!!

 俺のベイマックスが!!

 ベイマックスがクインジェットに轢かれた!!

 

 

 

 

 

「ナツ! 生きてたんだな!」

 

「そう簡単に死ぬわけないじゃないですか! 俺はベイマックスを探すので、先に進んでください!」

 

「僕も手伝える!」

 

「『手』は足りてますよ!」

 

 ロジャースさんにドクター・オクトパスを見せながら先に行くよう告げる。

 ベイマックスから送られてきたダメージ報告は軽微で済んでいる。

 すぐに俺が活動するよりもベイマックスが居たほうが効果が高い、しかし、ここで他の人に頼んだり引き連れるのは無駄が大きい。

 適材適所ってやつだ。

 あと俺は保護者制限のせいで殺傷攻撃できないから戦力としては数えられないし。

 ロジャースさんは渋々ながら俺の言葉を理解したようで「何かあれば知らせてくれ!」と言い残してくれた。

 なお他2人のエージェントはさっさと移動していた、プロだから仕方ないけどもっと情緒というか余韻というか、そういうのが欲しいよね。

 クインジェットに張り付くことで地上に降りる馬鹿をしたためビビりすぎた、手足が震えて上手に動かないので『義手』を使って移動する。

 

 すぐに地面にめり込んでいるベイマックスを発見した。

 良かった。

 思った以上に違法パーツが丈夫なのと、内部の空気を操る技術をベイマックス自身が上手になっていることでダメージを減らしたのが功を奏したようだ。

 引っ張ったら簡単に助けられるだろうかと思ったが、力尽くだと剥いたロブスターみたいになったベイマックスが頭を過ぎる。

 仕方なく『義手』でガンガンと地面を砕く。

 剥きエビから型抜きになってしまった。

 

 なんとか発掘できた違法改造ベイマックスを連れ、僅かな火花が散っているクインジェットに戻る。

 建物に突撃したり、爆発とかしなくて良かった。

 搭載されている機銃が目当てなのでここまでダメージが無いのはかなり有難い。

 生身の人間が当たれば発射速度の関係で死んだことも気づかない火力を持ってる癖に、かなりシンプルな構造をしている。

 うまく取り外せば手動操作も可能なんだわ。

 

 着陸のために機首を無理やり上げながら庇ったのが良かったようで、細かくスキャンしたがドクター・オクトパスでちょっと手直しすれば大丈夫そうだ。

 重量や反動がヤバすぎて生身の人間が持って使うのは不可能だが、俺にはドクター・オクトパスがあるので大丈夫。

 他の重火器と違って給電する必要があるのだが、これもドクター・オクトパスを稼働させているアーク・リアクターで大丈夫。

 ベイマックスも、頼んでいた弾倉を機内から運んできてくれた。

 吸血鬼が眠る棺桶かってくらいのサイズなんだけどもこれですら最速でぶっ放すと数分で無くなるからとんでもない。

 それはそうと完璧だ。

 自分の手際の良さにびっくりしちゃうね。

 よくやった、とベイマックスから弾を受け取ろうとしたが渡してくれない。

 なんでぇ……^q^

 

『ナズナは保護者制限モードなので、これはベイマックスが使います』

 

 やだああああああああああああああ!!!!!^q^

 

 

 

 

 

『ナズナは保護者制限モードです。ベイマックスに任せると言ってください』

 

「やだ。そもそもそれは機能の制限であって火器の使用は禁止してないし」

 

『使用マニュアル及び動作最適化ダウンロード済みです。安心してください』

 

「やだ。ケアロボットだから何も安心できない。ジャーヴィスに制限されてるじゃん」

 

『スターク邸とタワーの制御権限が取り上げられているだけです』

 

「外部に影響を及ぼせる全部の権限が実質的に取り上げられてるんだよなぁ」

 

 ベイマックスがミニガンぶっ放すところとか見たくないから俺が使うって言ってるのに全く弾を渡してくれない。

 何のアピールか不明だが、ベイマックスは謎の格闘技とビームで襲い掛かってくるチタウリをぶっ飛ばし始めた。

 素手で倒せるならミニガン要らないじゃん。

 ドクター・オクトパスの電気ショック機能で近づいてきたチタウリを倒す。

 外部から電気エネルギーを受け取って強くなる、みたいなゲームに出てくるタイプの敵じゃなくて良かった(小並感)

 ベイマックスにそれがあるならミニガンは不要とか言われたが、500ジュール程度のAEDだし火縄銃は2000ジュールくらいだからセーフ。

 近接医療行為過ぎてミニガン使いたい。

 

 早く弾を寄越せベイマックス!

 受け取る前に、集合場所に着いてしまうぞ!

 渡すと言え!

 これじゃなし崩し的に使えなくなってしまう!

 

 

 

 

 電気ショックによる蘇生に失敗してご臨終となったチタウリを調べながらベイマックスの後ろを付いていくと、みんなもう集まっていた。

 俺とベイマックスがビル群から通りに顔を出すと、建物の影からアイアンマンが頭上を過ぎ去っていった。

 ロジャースさんとかロマノフさん、バートンがこっちに手を振っている。

 バナー博士も間に合ったらしく、手を振ると驚いていた。

 イェーイと手を振り返して、轟音に顔を顰める。

 またチタウリか?

 

 超でかい魚っぽい敵が空を泳いでいた。

 

 ピンチだ!

 これかなりピンチだよ!

 どうにかなるとは思わないけどミニガンが俺には必要だよね!!

 受け取ったらビルにバックレるけど!

 

 駆け付けてくれたハルクが目の前でワンパンしちゃったぁ……。

 

 追撃でアイアンマンが魚にマイクロミサイルをぶち込むことで粉砕した。

 爆風をベイマックスの背中に隠れることでやり過ごす。

 勢いで誤魔化したらミニガン使えないかな……使えるかもしれない。

 いや、使えるはずだ。

 まだ勢いで誤魔化せるよな!

 いえーい! とハルクにハイタッチを求めるが、反応が薄いのでドクター・オクトパスで高さを調整して勝手に手を合わせる。

 そのまま「元から自分の装備ですが何か?」と何食わぬ感じかつ自然にミニガンを近くに停まっていた車の屋根に乗せる。

 これで自在に動き回りながら弾をばら撒くのだあああ^q^

 

 

 

『ナズ、ドクター・オクトパスでそれを使うのは禁止したからな』

 

 やだああああああああああああああ!!!!!^q^

 

 

 

 

 

 --20

 

 ロジャースさんの指示でみんな行動を開始してしまった。

 俺はチタウリを解剖してたら出遅れてしまったが、新しい知見は得られたから良し。

 ロマノフさんに呼ばれたので、もう動くことのないチタウリは放置する。

 

 緊急事態の時はなんちゃらかんちゃら法で道路の車を勝手に使って良かった気がしたので、『義手』でちょっと力を込めてエンジンをかけようとしたら、革ジャンを着たサングラスのおじいちゃんに止められた。

 それから「ヒッチハイクなら後ろに乗りな、坊や」と言われてしまった。

 ロジャースさんの静止の言葉を無視したおじいちゃんはエンジンをかけ、バスからバッテリーを借りてきたベイマックスが屋根のミニガンと接続していた。

 

 ……メインウェポンが弓矢のバートンは弾が切れたらどうやって戦うんだろうか。

 ミニガンの準備を終えたベイマックスにヴィブラニウム刀を託し、バートンに渡すよう伝える。

 その後は救助活動をメインに。

 俺の言葉を聞いた違法改造ベイマックスが飛び立ったので、俺はもう考えるのやめた。

 

 へーい、そこのお兄さんお姉さん乗ってかなーい? と車内からロジャースさんとロマノフさんの二人に声をかける。

 二人が相手していたチタウリは交通事故に遭った。

 ヴィブラニウム刀が4本あれば全ての『義手』に持たせて高速回転させることでジェダイ殺しの技術をチタウリに見せつけられたんだが?

 おじいちゃんのキルスコアが順調に加算されていくんだが?

 というか俺より好調なんだが?

 

 

 

「調べた結果ですが、チタウリは機械化されてますが生体部分も多いです! また人間に酷似しているので急所っぽい場所を撃てばそのうち死にます! 連射しすぎると砲身が焼け付くので気を付けてください! 人に当たったら痛みを感じる前に消し飛びます! 供給する速度を落としてますけど、それでも弾がすぐに無くなりますからね!」

 

 ロマノフさんがミニガンを使うというので助手席から身を乗り出しながら注意を述べる。

 街中で使う物じゃないが、敵が急に来た宇宙人なのでしょうがないね。

 テキトーにミニガンを貼り付けただけの屋根だが、何故かロマノフさん、ロジャースさんはそこで戦うと言い出した。

 タンクデサントがいれば視野が広く取れるから生存率が上がるね!

 あまりにも完璧な布陣……!

 完璧か?

 しょうがないのでドクター・オクトパスで二人を支える。

 

「他にも注意点がいっぱいあってですね……!」

 

「講義は必要ないわ! いつも使ってるから得意よ!」

 

「そりゃクインジェットなら自動だからお手軽ですもんね! でも今日は手動ですよ!」

 

「ナツ! 前方にバスが倒れてるぞ!」

 

「見ればわかりますよ! そのままアクセル踏んで!」

 

 ドクター・オクトパスで車体を跳ね上げ、横倒しになっていたバスを回避する。

 マズルフラッシュどころか火を吹いているようにしか見えないミニガン。

 それで空飛ぶチタウリを上手くミンチにしているから器用な物だ、と思いながら反動でふらつく車体を『義手』で支える。

 支えるというか、道路を叩いた反発力でカウンターしてるだけ。

 敵からの攻撃は盾や俺の『義手』で防ぎながら、通りを行ったり来たり爆走してチタウリを蹴散らしつつ防衛網を維持する。

 いやぁ、終わりが見えないわ。

 

「リンちゃん! ゲートを閉じないと終わらない可能性が高いから現地集合しましょう! 私は空から行くわ!」

 

「え!? どいうことですか!? 現地集合!?」

 

 ロマノフさんが屋根から身を屈め、車内の俺にそう告げた。

 唐突に言葉を投げつけられたためになんだなんだと身を乗り出す。

 ロジャースさんの盾を足場にし、大きな跳躍をして見せた後チタウリの飛行ユニットに取り付いたロマノフさんはそのまま何処かに飛んで行ってしまった。

 ロジャースさんに視線を向けると力強く頷かれた。

 

「ナターシャの言う通りで頼む」

 

「……い、行けたら行きます」

 

 『ドクター・オクトパス』で車体を持ち上げ、強制的に方向転換しながら言った。

 

 

 

 

 最初の集合場所に戻る頃には、おじいちゃんの車はボロボロになっていた。

 ドクター・オクトパスによる補助でかなり保ったが、やはりチタウリ専用クリスティーンは寿命のようだ。

 おじいちゃんを抱えて地下の避難所に連れて行く。

 深くお礼を告げつつ、愛車を壊してしまったことを謝った。

 「ばあさんに車で空飛んだことを自慢する!」と大興奮だった。

 これ俺の話を聞いてねぇわ。

 

 とりあえずおじいちゃんを避難所に送り届け、地上に戻るとロジャースさんがミニガンを普通に使ってた。

 反動とか全然気にしてないのゴリラすぎる。

 手荒に使っていたので弾詰まりを起こしたみたいで、そのままチタウリを殴る鈍器にし始めた。

 チタウリを撲殺し始めた。

 

 Oh......Captain Gorilla :)))

 

 

 

 チタウリを撲殺しているキャプテンゴリラと合流。

 かなり手荒に扱ったのにここまで弾詰まりを起こさなかったのは幸運だったが、最終的には鈍器に生まれ変わり、とうとうジャンクと化したミニガンがゴリラによってポイ捨てされた。

 チタウリが攻めてきてる時点で不幸だよな。

 

 『ドクター・オクトパス』の腕に電気をチャージし、チタウリに触れて麻痺させていく。

 腕の内の1本は自分で言うのもあれだが、貧弱な身体能力しか持ってない俺を支える仕事があるので攻撃は3本で行う。

 最初は格闘していたキャプテン・ゴリラも、そのうち俺のほうにチタウリを投げてくるようになった。

 俺が痺れさせたチタウリの頚を盾で刎ねるほうが楽だと気づいたようだ。

 しかしだねぇ、これでは俺の負担が増えてしまうのだから……。

 

 いやこれマジで負担がでかい!

 

 なんかよくわからない雄たけびでチタウリが体当たりしてきたが、文字通り対処できる『手』が足りなくなってきた。

 僅かな抵抗が塵も積もればってわけで、考えなしで連射できるほどチャージできない。

 補助を任せている腕を支えにし、身体を宙に持ち上げて一回転しながら体当たりを避けつつ宇宙人属タックル科チタウリ星人に、電気待ちしていたチタウリを掴んでぶつける。

 反動で飛んできたチタウリに対し、盾を構えて器用に頚だけ刎ねていくキャプテン・ゴリラ。

 ドヤ顔にイラっとしたので転がっているチタウリの頭を投げつければ、転がっていたチタウリの胴体で打ち返された。

 ヒット性の当たりをしたチタウリの頭部は、他のチタウリとぶつかって謎の液体や機械を四散させた。

 キャプテン・ゴリラから投擲された頭を、俺も真似するようにじたばたしているチタウリで打ち返す。

 ドクター・オクトパスをフル稼働させてチタウリやチタウリの頭を投げつければ、華麗に全てを打ち返される始末。

 もう戦ってるのかわからなくなってきたんだが。

 

 ビルに跳びつき、チタウリを回収して投げつける。

 空から現れたアイアンマンのビームを盾で上手く反射することで掃討されてしまった。

 ホームランダービーだったら全部ホームランされているようなものだ。

 これが敗北感……?

 

 俺は現地集合らしいので、そろそろ上に行っておきたいんだよな。

 壁に張り付いているチタウリを落とそうするアイアンマンを見つけたので、飛び跳ねて掴む。

 トニーが文句を言っているが日本人の99.999999%は英語わかんねんだわ。

 これで一気に上へと昇れ……いや、速すぎるんだが?

 パッと手放せば一瞬の浮遊感、そして迫りくる落下の恐怖。

 

 いつもなら「ほわあああああああああああああ」とか言って間抜けに落下するところだが、俺は賢いので近くに来るであろう飛行ユニットを掴む。

 こいつらの乗り物は好き放題飛び回れる代わりに、動きが大雑把なので読みやすい。

 人は学び、成長することができるんだ。

 つまり俺も学んだってことだ。

 ロマノフさんみたくこいつの操縦を奪えば俺も空に……他のチタウリが飛行ユニットで体当たりしてきたんですけど。

 

 鬱陶しいな! と周りのチタウリをドクター・オクトパスで振り払い、操縦していたチタウリも引きずり落とす。

 俺が上! お前が下!

 ヒッチハイクしたので運転手も落としたら、泳いでいた魚に轢かれたので処分の手間が省けてちょうどよかった。

 そして同時に問題が発生した。

 このユニットの使い方がわからん。

 一応俺もセグウェイくらいなら乗れるんだけどね?

 

 錐揉み回転しながら空を飛ぶ。

 げんりはわかった。

 コツがわからないだけだ。

 自転車と一緒。

 走り出せたら自由自在らしいじゃん。

 俺は自転車乗ったことないから知らんけど。

 

 それはそれとして、ふらふらして飛行するの怖すぎるんだが。

 とりあえず飛行しているチタウリに『義手』を伸ばしまくってバランスを取る。

 何かを掴むことで不安定を伝え、俺は安定を得る。

 代わりにチタウリが落ちていったけど飛べない俺が空を駆けるための代償だ、仕方のない犠牲だった。

 お、ロキじゃーん。

 操縦がいまいちわかってないがとにかく体当たりを食らえ!

 

 

 

 あ、違う違う!

 上昇したいわけじゃないんだわ!

 なんだこの糞デバイス!

 操作性がうんこ!

 うんこ!

 

 うわあああ!!

 ロキが魔法をぴゅんぴゅんさせながら追いかけてきた!

 俺は空を上手く飛べないからやめろや!

 というか魔法にチタウリ巻き込まれてんじゃん!

 笑ってられるのも今の内だからな、ロキ!

 

 ……そうだ!

 空飛ぶチタウリを使い捨てにすればいいんだ!

 

 降下の仕方がわからないから乗り捨てて、落下中に次のチタウリを掴んで乗り移る。

 ジャンクと化した落下物が危ないけど、それもうまく他のチタウリや魚にぶつけることで危険性を下げればいいんだ。

 空を飛ぶチタウリや壁に張り付いているチタウリを上手く使いながらロキから逃げるが、余裕を見せながら俺にギリギリ追いつかない速度と位置で迫ってくる。

 ロキが指示を出しているのか、俺の妨害をしにチタウリも追いかけてくる。

 チタウリはちょっと頭がよろしくないみたいで俺の足場以上の活躍はできていない。

 現場に余裕がなくて責任者が率先して動かないといけないのはロキも地球も一緒なんだなぁ。

 

 うわっ、魔法が掠った!

 

『リンちゃん、聞こえる?』

 

「ロマノフさん!? 今ちょっとロキに追いかけられてて忙しいので後に……」

 

『ロキが近くにいるの? ちょうどよかったわ。博士がロキの杖を安全装置にしたらしいからお願いね。じゃ、現地集合だから』

 

「いや、そんな近所におつかい行って、みたいなノリで頼むことじゃ……切られた!」

 

 一方的に通信で無茶振りされてしまった。

 今魔法から逃げるのにかなり忙しいからどうにもできそうにないんだけど。

 誰か助けてくれないかな……。

 

『エージェント、聞こえるか? こちらフューリーだ』

 

「フューリー!? 今ちょっと無茶振りとロキに追いかけられてて忙しいので後に……」

 

『ヘリキャリアが間もなく到着する』

 

「フューリー長官、よくやりました! 流石! 今ちょっと出待ちしてたファンに囲まれてるんで助けを……」

 

『悪いが委員会に権限をはく奪され、核ミサイルが発射されかけている』

 

「何やってんだハゲ!」

 

『ハゲじゃない。ニック・フューリーだ』

 

 使えないハゲだよおまえは!

 委員会ってなんだよ!

 核ミサイルとか馬鹿でしょ!

 うわああああ言いたいことが山ほどあるぅぅぅ!

 

『こちらも出来る限りで動くが、事態が収拾できないことには解決しない』

 

「ロキの杖でゲートを閉じられそうなんで、それまで頑張ってください! ロキは今目の前にいるんで!」

 

『それならこちらも持ちこたえることが出来る。ゲートさえ閉じれば……』

 

「あとそっちは核を使わないように抑えつつ街に戦力を派遣して守りつつチタウリを攻撃しまくって救助を行いながら打ち上げ会場を予約して俺を助けに来てください!」

 

『待て、そんなには無……』

 

 おら、通信切断を食らえ!

 言い訳は後でしろ!

 

「楽しそうだな、尋問官」

 

「そりゃあね! 遊園地でもこんなアトラクション無いからね!」

 

 通信を切ったらニヤニヤ笑いながらロキが話しかけてきた。

 会話したいなら一回俺を地上に降ろしてくれ。

 それなら喜んで相手してやるのに。

 未だにチタウリに飛び移ったり壁を掴んで跳んだり、ロキの周りをくるくると移動している。

 

「そろそろ降参したいんじゃないか?」

 

「それは絶対にないね! なぜなら……こちらには核を使用する準備ができている!」

 

「何っ!? 正気か貴様……!」

 

 てきとーぶっこいたらロキが目を見開いて正気を確かめてきた。

 マンハッタンは消し飛ぶから、そりゃあね。

 ニューヨークの中心部は島だから使ったら地図の書き換えも念頭に入れておかないとな、使わんけど。

 

「胸をツンツンして友達料払って仲良くしたお友達に聞いたのかな! わかってるなら話が早い! 空飛ぶチタウリの移動速度だと今から逃げきれない範囲を焼き尽くせる! 助かりたいならゲートを通って宇宙に逃げるか……」

 

「キューブを使え、というわけか。いいだろう」

 

「逃げるなよ、ロキ!」

 

「逃げていたのはお前だろう。安心しろ、焦土になる前に支配してやる」

 

「そう簡単に行くかな! ちなみに核程度だとハルクは死なないからな!」

 

「あんな化け物、どうとでもなる。私は神だ」

 

 内心でロキがどうにかできるレベルなのかと疑問を抱いたが、そんなに余裕も無いので切り捨てる。

 杖を寄越せうおおおおお! と空中に沢山いるチタウリを足場にぴょんぴょん跳ねて攪乱する。

 うおおおお!

 うおおおおおおお!

 うおおお……おおおおお?

 

 下にハルク居たわ。

 俺が頻繁に飛び移ってたチタウリたちが、下に落下してたわけで。

 それが埃のようにパラパラとハルクにぶつかりまくってたようなんだよなぁ。

 

 ごめんね?

 許して?

 ケーキあげるから……。

 

 

 

 

 

 ほわあああああああああああああ^q^

 

 

 

 

 

 --21

 

 激おこのハルクに放り投げられた。

 殴られなかった。

 優しい子に育ってて感動しそう。

 それはそれとして人はアイアンマンスーツが無くても飛ばされるから困ったもんだ。

 

 放物線を強制的に描かされて流れゆく景色を横目に、ドクター・オクトパスの状態に眉を顰める。

 投げられる直前にロキが撃ってきた魔法の弾は防げたけど、咄嗟に構えたせいで『義手』が半壊してしまった。

 あの杖マジで反則だからナーフしてくれないかな。

 ぶちギレたハルクにロキは追いかけられていったけど。

 

 落下中、すぐ傍にはバートンの姿。

 なんと奇遇な!

 ちょっと上から見てたけど、群がるチタウリに追い立てられてビルから飛び降りてきたようだ。

 ちなみにバートンはトリックアローで外壁に矢を噛ませ、そこから伸びたワイヤーでターザンの如くビル内部に転がり込んでいった。

 ……ターザンってもしかして死語?

 

 お迎えの車にボロボロのドクター・オクトパスで着地する。

 タワーに居た時に起動させておいた空飛ぶ車がやっと到着してくれたようだ。

 オープンカーにしといて良かったが、これがあれば空を跳びまわらなくて済んだんだよなぁ。

 クラクションを鳴らせば、傷だらけのバートンが顔を出してきた。

 補充用のトリックアローも荷物として積んである後部座席を親指で示す。

 

 へーい、ホークアイ、乗ってけよ!

 

 

 

 空から車でロキを追いかける。

 何処にいるかは一目瞭然だ。

 そう、ハルクが色々とぶっ壊しながらロキを追いかけているからね。

 チタウリに囲まれてじゃんじゃか撃たれてるのに、それでもロキを追いかけているの怖すぎない?

 流石にハルクの追撃がヤバすぎたのか、魚が大漁に集まってきたようだ。

 

 巨大な魚はちょっと俺には対応できない。

 というか出来るのが限られている。

 対応できない組みでこっちは頑張っておこうってわけ。

 ちなみにバートンはそこらへんに置いてきた。

 ハルクにぶん投げられたロキがビルへと突っ込んだのを見て、車のクラクションを鳴らしてから俺も地上に降りる。

 怒りで肩を揺らしているハルクに話しかける。

 

「ハルク、こっちは俺がやるから交代して。それからあっちの魚をお願い。ちまちまとロキを追うよりもあっちで暴れたほうがいいでしょ」

 

 物凄い勢いで顔を近づけて威嚇してきた。

 ハルクの腕をぺしぺしと叩く。

 ほら、行って行って。

 

「俺だと轢かれるだけで終わっちゃうからね。任せたよ。折角だから車もあげるよ。……好きじゃない?」

 

 俺を見て、魚を見て、威嚇しながら浮いてる車に近づく。

 そして真っ二つにした、車を。

 

「反重力の車を両手で……。素晴らしく賢いな。後で花丸をあげないとね」

 

 俺の言葉を聞いたのかはわからないが、真っ二つにした車をグローブのように両手で持ったハルクは魚に突撃していった。

 いい子だ。

 ハルクだと強すぎてロキが魔法で逃げる可能性もあったので、ちょっと別の場所に行ってもらった。

 後は建物の中からとチラチラと確認しているロキを相手するだけだ。

 

 

 

 

 

「クソっ……。野蛮な化け物め……」

 

「やあ、ロキ。”頭まで筋肉が詰まった野蛮なアスガルド流”のおもてなしはどうだったかな」

 

「兄上に迫る糞みたいなおもてなしで”懐かしきアスガルド”を思い出させてくれたよ。……次はどうする? 私はまだ元気だぞ?」

 

 エントランスから出てきたので声をかければ、傷つきながらもハルクが離れたことでロキはまだ不敵な笑みを浮かべることができたようだ。

 まだ杖はある。

 まだチタウリもいる。

 まだハルクはここに来そうにない。

 まだ元気なのは確かだろう。

 

「そりゃあもう、ここからやることは一つでしょ」

 

「一つ? 私はもっと選べるとも」

 

「ロキはここで逃げて満たされる程度の神なんだ?」

 

「……ふん、私がいつ逃げると言った。負けを認めて跪くだけでお前は助かり、すぐにでも正しい栄光を得ることができる。何が不満なのだ」

 

「何がって。全部だよ。ロキの想像する物だと何も満たされない」

 

「……生まれによって座るべき椅子は取られ、気づけば陰に追いやられ、慈悲をただ与えられる。それでお前は満足か?」

 

「満足だよ。俺の欲しい物はこの先にある」

 

「私のために使えばお前の名は宇宙にも轟くのに!」

 

「……神は何も知らないんだな。科学は今を生きる人のためにあるんだよ。そして俺は、正しいことをしたいんだ」

 

「……私には理解できない。そんな愚かな選択を。生き方を」

 

「俺には理解できるよ。ロキは負けるのが不安なんだな」

 

「……戯言を。私は神だぞ」

 

「俺は人間だよ。……神と人間が争ったらやることはやっぱり一つだよな」

 

「どうせ核とやらも脅しなのだろう? お前たちが使えるとは思えん。だが、お前の思惑に乗ってやる。……ここでの再戦を認めようじゃないか」

 

 頭上には宇宙へと繋がる穴。

 光の柱が昇っている。

 対峙したロキの顔に、笑みはもう無い。

 

「悪いけど殺す気で挑ませてもらう。……遊びとは違うから」

 

「下等な人間が神に挑むなら当然のことだ。せいぜい神殺しを夢見るのだな」

 

 今日は運がいい。

 チタウリが攻めてきてるからやっぱり悪いか。

 個人的な運だけを言えば、俺はずっと幸運だと思う。

 ここは”集合場所”でもあるし、ラボもある。

 少しだけど睡眠も取れている。

 タワーの最上階から黒い塊が降り注ぎ、俺を飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 --22

 

 偉大なはずの愚かな父、聡明で美しい母、そして飾る言葉の見つからないほど憎いと思い込んでいる兄。あらゆる名誉、あらゆる栄光が遮られていた。ロキはそう思っている。だから邪魔な父や兄を、ロキは殺そうとした。

 結果として失敗したが紆余曲折を経て、この星に来た。栄光で自分を満たすために。

 

 ミッドガルドに侵入を果たし、敵地から『四次元キューブ』を奪った。『(セプター)』を貸し与えられたロキにとって大して難しいことではない。夢想するのはこの星を支配する自分の姿。

 満たされるはずだった。

 新たに得た駒から情報を得る。ロキからすればミッドガルドにいる全ての人間が駒だった。

 射撃を得意とする駒は詳しい情報を多々持っていた。最大の脅威となるであろう組織でも腕利きの駒だったらしい。計画を果たすのに役立つ駒、役立たない駒、そして……興味を持ってしまった駒。

 

 ロキが興味を示したそれは、心を読む駒だという。また、科学技術にも優れた知性を併せ持つとも。それはロキをして欲しくなる、いや、ロキだからこそ欲しい力だった。知性溢れる自らの駒はやはり賢い方が望ましいと考えたのか、身に付けた魔法との相性が良いためか、それとも……その特性をただ求めたのかはロキ自身をして分からない。分かろうとしたくなかった。

 

 計画の準備が進むのを待つ他ないロキは、暇つぶしとばかりに興味を持った駒の話を集めた。それは『杖』を貸し与えた連中による圧力から目を背けるためでもあった。

 話を聞けば聞くほど、ロキの興味は大きくなっていった。兄に似た優れた目上の者との、血の繋がりを持たない者との生活。好き勝手動いた目上の者の後始末を押し付けられ、それでも人望は得られない。誰も見ていない。優れているのに、優れているからこそ、陰に追いやられている。

 翳りある人生の歩みは、ロキが自身に似ていると僅かな共感を抱くのに時間はそう掛からなかった。

 

 兄と久方ぶりに顔を合わせたあの日から、ロキは尋問官と顔を合わせる日々が続いた。

 自分と似た溢れる知性、富んだ感性による軽い皮肉の応酬、純朴で天邪鬼な性質。それだけでなく、ロキが持っていない離れた相手の思考を読む能力。

 似ていると興味を持っていたが、実際に会うと想像以上だった。

 幻影を見せる術を持つ自身と、思考や記憶を操る能力の相性はこれ以上ないほどの相性に思えた。

 自分大好きなロキが、自身にとても似ていながら、そして決定的に自身と異なっているがために穴を塞いでくれる能力を持つ者と交流した。ロキが親近感以上を強く抱くのは当然だった。

 その感情は全く負に傾くことはなく、交流を重ねるほどに尋問官と呼ぶ人間に投射し、跳ね返されることを繰り返された。

 いつしか駒として欲したことも忘れていた。そもそも出会った瞬間に理想の役職を授けようとして呼んでるので、頭ロキだった。

 

 結果的に、潜入したがためにちょろいロキとなった。 

 

 

 

 

 

「……死んでしまったか?」

 

 キューブによって開いた彼方への扉を支える光の柱、その源となった建造物から黒い塊が降り注ぐと、運悪く真下に居た尋問官を圧し潰した。チタウリの攻撃に曝されたとはいえ、建物があまりにも脆すぎる。アスガルドとあまりにもかけ離れた技術格差は、ロキに少しの呆れを与えていた。こんな星を支配して本当に満たされるのか。浴びせられ続けた言葉は、かつて自問自答していた言葉だったことを思い出す。

 本当に死んでいたとしたら、執着の無くなったロキはキューブを手にしてすぐさま逃げていた。どうなっても構わないくらいには、見切りをつけ始めていた。ふと見上げれば、新たなチタウリの侵入を、兄が雷で防いでいた。あれでは飛んで逃げることも叶わないだろう。

 尋問官を飲み込んだ黒い塊から、こもった声を聞いた。辛うじて男だとわかるほどの無機質な声だった。

 

「そんなわけないでしょ。『セレブロ』起動、と」

 

 塊の表面が液体のように波打ち、そしてサラサラと砂のように崩れていく。地面に広がった黒い水たまりにも似たそれの上で、白衣を着た尋問官の姿が露になった。

 顔の見えない男は、やはりロキが自身に似ていると思わせる奇妙な空気を纏っていた。

 黒い水たまりから黒い水が跳ねた。いや、伸びた。それは縄のように一瞬でロキの持つ『杖』に巻きついた。振り払おうとするが伸び縮みを繰り返すだけだった。魔法で作ったダガーを叩きつけるが、黒く細い縄から硬質な音が響くだけで終わる。

 

「……これは何だ?」

 

「何だと思う?」

 

 黒い縄が絡みついて『杖』を引き寄せようとしていた。ロキの力が上回っているためか、微動だにしないがそれでも力を弱めれば持っていかれそうだった。絡みつかれた場所からじわじわと黒く濁っていく。

 

「何だと聞いている!」

 

 思わず怒鳴り声が出ていたのは、自らの力を象徴するはずの『杖』に干渉してくることがひどく不快だったために違いない。

 

「しょうがないなぁ。それはナノボールだよ、カーボン由来のやつ。衝撃で綺麗に炭素とかが移動して、ちょっと黒く汚れるだけ。大量に肺に入ったら危ないけど、微量なら体内に入っても流れ出るよ。ふふふ、良かったね」

 

 ロキが求めた答えを話す気は無いようだった。尋問官の言葉に舌打ちしながら、黒い水たまりから伸びた縄に狙いを定める。『杖』を汚した物と、絡みついている物は明確に違うことがロキには理解できていた。

 『杖』から魔法を放てば、巻きついていた何かがバラバラと細かく地面に散らばった。黒い砂のようだが、粒は指先ほどの大きさだった。

 

「これもか?」

 

「それ? それはね、ちょっと凄い磁石だ。極性が若干複雑だからねじれ双角錐の形にするのが一番安定したんだよね。高価だからあんまり壊されると困るんだけど」

 

「そんなに大事なら宝物庫にでも放り込んでおくんだな」

 

「大事な消耗品ってだけだからそこまでする物でもないんだよ。この『ドクター・オクトパス』はまだ偽物だけど、小さな太陽ならちょっとだけ抑え込むことができる『義肢』なんだ。……手間取ったけど、俺の優勢で始めさせてもらおうかな!」

 

 音もなく、黒い水たまりが尋問官の背に集まっていた。

 

 

 

 尋問官の背から黒い何かが伸びた。濡れたように艶のある表面は、よく見れば双五角錐に似た小さな結晶で構成されていた。それは先ほど魔法で撃ち落とした砂の粒に似ていた。本人が『義肢』と呼んだのだから腕や手、または足といった部位と代替できる物だとロキは考えた。人の手と大きくかけ離れた形状をしているが、やはり人体を模した機能を持つのだろうか。人間の手とは不釣り合いな、しかしこの黒い腕には似合っている鋭利な三つの爪がロキの『杖』に迫っていた。

 ロキは自らの純粋な身体能力が、人間や地球の文明が発揮できる大半の物よりも遥かに優れていると確信していた。兄ほどではないが、とロキからすれば忌々しい飾りの言葉は付くが。つまり、その迫りくる『腕』はロキからすればあくびをしている余裕があるほどに遅く、『杖』で軽く打ち払う程度の脅威でしかない。

 横から獣のように飛び込んできたチタウリが、果実のように握りつぶされていなければ、だが。無感動に投げ捨てられた、もう二度と動くことのないチタウリの残骸。

 ロキの脳裏に浮かんだのは、”虫かご”から解放された直後、死にゆく男によって撃たれたあの兵器。痛い目を見たのは確かだ。一度ならいいが、あれが幾度となく襲ってくるのならロキをして考えを改めなければならない。

 

「隠していた兵器か!」

 

「『義肢』だよ」

 

「なんと野蛮な兵器だ! だが殊更に欲しくなったぞ!」

 

「だから『義肢』だってば」

 

 再び迫る『腕』を、跳ねるよう横に避けた。尋問官がしつこく『義肢』だと主張するその兵器は、気づけば三本に増えていた。今のロキに嫌いな物を訊ねれば、雷以外が返ってきたかもしれない。

 チタウリを呼び出しながら回避に徹する。空と地の両方から現れるチタウリの対処に尋問官が時間を割くことはわかりきっていた。幻影によって自身の身体を透過させ、かつ保険として少し離れた場所にいくつも増殖させた像を投影する。力だけ強くても、あのハルク(化け物)以下でしかないのなら、どうにでもなる。

 

「見えているのか!?」

 

「見えないけど場所はわかる。よくできてるけど、暗号の模写が甘いよね。完璧に写すか、素因数分解で解読できるからもっと頑張ってみて。秒単位で変換しまくるけど」

 

 チタウリや、”増えたロキ”を軽々と破壊しながらも、必ずどれかしらの『腕』がロキに狙いを定めていた。いや、もっと正確に言えばロキの『杖』を狙っている。思い当たるのは、最初の黒い汚れ。今となっては『杖』を握る手までもが黒く汚れていた。

 

「あの汚れか!」

 

「逃げる相手にマーキングは常套手段だよね。ちゃんと洗わないといつまでも俺たちを呼び寄せるよ。家に帰って手洗いうがいしてきたら?」

 

「支配してからここに私の城でも建てて、ゆっくり湯浴みでもしてやる!」

 

 無駄になってしまった透過を解除する。確かに『腕』の力は脅威だが、対抗手段がない程ではない。『杖』による魔法を受けるとどうなったのか、ロキは知っている。砂のように地に落ち、そのまま動かなくなった。

 大まかな動きに誘導された『腕』を避け、空にいるチタウリを払い落とそうとした他の『腕』に魔法を当てる。予想通りだ。『腕』は半ばから断ち切れて、チタウリを飲み込んだまま黒い砂が地面に飛び散った。

 迅速に駆け出したロキは、たった今落とされたチタウリのチャリオットに乗り込んだ。確かに近ければ厄介だが、距離と速ささえ勝れば怖い相手ではない。

 

「あー、ホント魔法はずるいなー」

 

「悪いが地の利を得たぞ。これが神の力だ」

 

「絶対に神は関係ないでしょ、神は」

 

 チャリオットで宙から『杖』を向ける。崩れ去った粒が再び『腕』を形成し、尋問官を守るよう射線を塞いだ。地面に落ちたままの粒もあり、魔法が直撃した部分だけ破壊できているようだった。

 ゆっくりと旋回しながら観察してみると、尋問官の『義肢』が直接人体と繋がっているよう感じられた。首の後ろ、脊椎辺りから黒い粘ついた液状の物が、さらに背部に浮かぶ黒い水たまりに繋がっている。生き物の神経を明確に太くした物のようでもあった。

 黒い水たまりから、頭部、両肩を覆うように三本の『腕』が伸びている。『腕』を破壊し尽くすよりも、背部に漂っている水たまりを断った方がロキにはより効率的に思えた。

 

「これ以上疲れるのは良くないから地上戦で一気に片を付けたかったんだけどなぁ……」

 

 ぼやいている尋問官の身体を、『腕』が浮き上がらせた。『腕』がしなるように縮み、チャリオットに乗ったロキを超える高さまで跳躍して見せた。

 硝子窓が貼り巡らされた塔の壁面に爪を立て、落下を防いでいるようだった。

 

「それで? 虫のように這いずり回るのが精々だろう? それならすぐにでも『キューブ』を手にできる私の勝ちだが……」

 

 見上げながらもそう言い捨てて、チャリオットを大きく旋回させる。援軍で呼んだチタウリが追い立てるように迫っていた。

 近くにいるチタウリを払いながらも尋問官は静かにロキを目で追っていた。壁を掴んでいる『腕』とは違う、他の『腕』が黒い蜘蛛の巣のように変形し、援軍で呼んだはずのチタウリを絡め取っていた。

 壁を掴むことも、絡め取ることもしていない余った『腕』が大きな動作でロキに振り下ろされた。舌打ちしながら急降下させれば、空気を裂く音が遅れて聞こえた。地面にはチタウリだった物が突き刺さっていた。

 

「なんて野蛮な投石機器だ!」

 

「『手』だよ」

 

 尋問官はそう言うと、チタウリを投擲し始めた。地上と空中のチタウリを上手く駆逐しながら、忌々しいことにロキをも正確に狙って見せていた。あまりにも正確なので動きに虚を混ぜると容易く避けることが可能だった。

 ただし、チタウリがロキ同様に回避できるかは別だったが。

 

「チタウリども……何っ! バートンか!」

 

 チタウリを壁に、接近しようと声を挙げたが叶わなかった。投げ捨てられるチタウリと、援護のために飛んで来るチタウリに混ざって、矢が飛来したのを見逃した。ロキの駆るチャリオット、その動力付近に矢が突き刺さった。

 虚を突かれた形だった。

 『杖』が宙を舞っていた。

 

 

 

 呼び出したチタウリの軍勢が、チャリオットで建造物目掛けて攻撃を仕掛けていた。黒い『腕』と矢がチタウリを落としている僅かな隙に、ロキは新たなチャリオットに乗り込んで態勢を立て直すことに成功した。

 気を緩める余裕はまだない。操縦しているチタウリに怒鳴りつける。

 重力に従って落ちるはずの『(セプター)』が、緩やかに宙を漂っていた。

 塔の防衛とチタウリの妨害、更に壁を這う移動の性質によって速度の出ない尋問官と、一直線に飛んでいけるロキ。どちらが先に『杖』に近づけるか。

 

「人間にしては惜しかったな! だが私は神……」

 

 矢が、ロキの目の前で『杖』を弾いた。

 重力に逆らって尋問官の元へと引き寄せられていた。

 黒い『腕』に、絡みつくように握られていた。遅れて、ロキも『杖』を掴んだ。

 

 

 

 

 

 その手に『杖』を得た尋問官は、ロキの予想に反して攻撃してくることも屋上へと向かう素振りも見せなかった。ロキが力を込めるが、『杖』は動かない。

 疑問を抱くこともなかったが、それまで見えなかったはずの尋問官の顔を覆うように、首の裏から黒い粘液が広がっていた。

 粘液は形状を保てていないのか、滴るように落ちては白衣に吸い込まれていく。

 黒ずんで爛れた皮膚で押し固めたような眼球の一つとして存在しないそれに見つめられていた。ロキは視線を感じていたし、間違っていないだろうと断言できた。『(セプター)』の先端が相手側に向いていなければ、咄嗟に手放しただろう不快感が伝わってきていた。

 

「ロキ、ロキ、ロキ……。アスガルドのロキ……。我々はお前を知っている……」

 

 顔のない男がロキを呼ぶ。声帯を用いない音だった。機械のような、耳障りな声だった。違う。ロキの黒く汚れた手を伝って、互いに握り合っている『杖』を介して、思考を伝えてきている。

 

「……貴様は、何だ?」

 

 爛れた顔に、口のあるはずの部位に、無理やり作り出された裂け目が弧を描く。それは笑っていた。

 

「なんでもいいじゃないか……」

 

 笑いながら喋るそれに、ロキは酷く不快さを感じていた。言葉が伝わってくる度に、喘鳴音にも似たノイズが混ざる。何処か疲れだとか、痛みだとかを抱えている声だった。

 不安定な、形も持たない何か。

 

「良いわけが無いだろう。貴様は馬鹿か? 見た目通り脳が無いのか?」

 

 ロキの言葉につまらなそうな感情を返してきたそれは、背から伸びる黒い『腕』で、空を飛んでいるチタウリを圧し潰した。潰されたチタウリが、『腕』から滲み出た液体に咀嚼されていた。

 

「いいから話をきけ……。協力してやる……」

 

「……ほう?」

 

「地球がほしいのだろう……。我々の利害は、一致する……。アスガルドのロキが勝つことは我々の望むこと……」

 

「協力者になりたいのだな? このロキの威光に畏れたか。……貴様、名前は?」

 

「我々はセレブロの管理者、『ハイヴ・マインド』……」

 

 その名乗りと同時に飛来した矢が、顔の無い男の眉間に突き刺さった。

 巨大な矢じりのそれが、凄まじい高音を発していた。

 耳障りな悲鳴を挙げて、ドロドロと粘液が溶けていく。

 

「ロキぃ!! 助けろぉ!!」

 

「急に言われてもな。今度から事前に予約してくれ。私が予定を空けてやるほど欲しいのはお前じゃない」

 

「……頭を一つ切り落としてもそこから二つ生えてくる。我々は滅びない。覚えておけ、ロキ。お前もやがては宇宙で殺される。後悔することだ」

 

 醜い何かに向けて冷めた気持ちを吐き出した。

 ロキは『(セプター)』から、青いエネルギーボルトを撃ち出した。

 顔面に向けて飛ばしたエネルギーが、黒い粘液を蒸発させた。

 

「……刹那で忘れたよ。興味もない」

 

 

 

 

 

 

「どうした? 調子が悪そうだぞ。そこで横にでもなったらどうだ。素直なことがお前の美徳だろう?」

 

 ロキは硝子窓の一室を指差しながら言った。取り繕った声だったが、相手には気づかれていない様だった。

 目の前で必死に張り付いて落ちないよう姿勢を保っている男が、先ほどまでの意味不明な何かではないことはわかっていた。

 

「そんな魅力的な提案しないでほしい。マジで寝てぇよ……。ここで神経麻痺はきついから……」

 

 耳の裏に機械を翳しながら、草臥れた様子で男が言った。

 

「降参するか? 寝たいだろう」

 

「それは絶対しない」

 

 声はひどく疲れ切って弱弱しかったが、ロキの言葉に反抗するように顔を上げた姿には力があった。相変わらず顔は見えなかったが、それでこそといった気持ちがロキにはあった。

 あの黒い液体が尋問官の本心であったとしても、認めずに殺していただろう。簡単にはへりくだらない、迎合しない、だからこそ高貴な心を持てるのだ。その時、だまし討ちを仕掛けるからこそ輝く。

 ロキは何故満たされなかったのか。自分の輝きを客観視できなかったためだ。今、自分に迫るとも劣らない輝きを持った相手と競っている。

 これを乗り越えた時、ロキは満たされるに違いないと思った。実際はそんなわけない。

 

「ならば、再戦だな!」

 

 弾かれるようにチャリオットを加速させる。大量破壊兵器の核が放たれる前に『キューブ』を手にすることが勝利条件だが、厄介なことに屋上にある装置付近は安全とは言えない。バートンの矢、兄の雷、尋問官の追撃……。

 『キューブ』を取り出すまでに必要な時間が、ロキにはわからない。装置を組み上げたセルヴィグは優秀だったが、止める動作も同様かわからない。

 つまり、ロキはなるべく矢を無駄撃ちさせて枯らし、尋問官を昏倒させるのが最低条件だ。ソーの雷を相手しながら、他の攻撃を凌げるほど楽観はしていない。

 

「尋問官! 一つだけ聞かせてもらうが、お前が倒れたら黒い液体はまた出てくるのか?」

 

「勝負の腰を折るなよな……。いや、俺のせいか。まあ、当然出てくるよ。……俺も望むところじゃないからな。勝ったら使いなよ」

「これは……」

 

「ソニック・テイザー、耳の裏に近づけて使えば神経麻痺を誘発する。俺の安全装置代わりに使える」

 

 手のひらほどの大きさをした機械を投げ渡された。ロキの見間違いで無ければ矢じりに付いていた機械で、先ほど尋問官が自分に使っていた物だ。

 

「人間にも、か?」

 

 問いに答えないが、嫌悪感にも似た雰囲気を醸し出していた。

 魔法や当身の必要なく人間の動きを止める利便性に思わずロキは「これも素晴らしい」と呟いた。

 『腕』を必死に動かしながら付いてくる尋問官を見下ろしながら、チャリオットで塔の裏側へと移動する。これまでのやり取りで、狙撃の位置は大体割れた。

 狙撃を防ぐ遮蔽物代わりにこの塔を壁にする。

 

「貰っても?」

 

「逃げたら核で消し飛ぶから好きにしていいよ」

 

「……それは困るな。お前に勝って、ゆっくりと使わせてもらうとしよう」

 

 

 

 屋上への道はチャリオットならば一直線に上昇すれば、ほんの数十秒で済む距離だった。それが叶わない。塔の硝子窓を突き破って、進路を阻むよう的確に矢が飛んでくるためだ。これのせいで、ロキはチタウリを何度か捨て、チャリオットを何度も乗り換えた。その度に落下させられるのだから溜まったものではない。

 

 更に、面倒なのは尋問官の『腕』だった。凄まじい速さで壁を這いながら、チャリオットの挙動や軌道を僅かに狂わせる。狂った動きをしたチャリオットは、ロキを守る壁になるよりも、邪魔な動く障害物と化した。

 

 一番最悪なのは、自分を”虫かご”で嵌めて情報を盗って逃げた女が、屋上から物を落下させてくることだった。酒瓶や食器、家具、見知らぬ機械、終いには砂利を落としてきた。これにはロキも腹が立ってしょうがなかった。自分は必死に避けているのに、矢は好き勝手飛んできて、尋問官は意に介さず追撃してくるためだ。ロキが避けている姿を馬鹿にしたチタウリは、酒が飾ってあった見覚えのある棚に潰されて落ちていった。食器を甘く見たチタウリが首を裂かれて落ちていった。謎の機械に潰されたチタウリを見た尋問官が「あぁーセグウェイがー」と気の抜ける声を発していた。

 

「貴様ら!」

 

 顔を真っ赤にしたロキが屋上へとたどり着いた。女は悪びれもせずに「ああ、もう来ちゃったのね」と手に持っていた腕時計を置いた。

 

「予定とは違ったが、先に『キューブ』を回収させてもらう……。いや、待て! 女! セルヴィグをどこにやった!」

 

「休ませてあげて。死ぬほど疲れてるのよ」

 

「何しているか聞いたんじゃない! 何処にいるかを聞いたんだ!」

 

 『キューブ』を手にするのに手間取ったロキに遅れて、尋問官も飛び跳ねながら屋上に着地した。

 

「現地集合に成功! お待たせ!」

 

「私も今来たところよ」

 

「やだ……。いい女過ぎる……。きゅんってきた……」

 

 尋問官が「ときめきを隠せない」と呟いた。

 

「貴様ら!」

 

 ロキが再び吠えた。

 

 

 

「認めよう……。貴様はゲームが私よりも得意だということを。私も、覚悟を決めた」

 

 苛立ちを抑えるために深い呼吸を繰り返しながらロキが言った。予定と随分異なる状況への怒りのせいか、同じ土俵に立つことになったせいか、目が血走っていた。

 

「私は神だ! 私が勝つ! お前は神のためにその力を使えばいい!」

 

 空を覆う雷から逃れたチタウリの軍勢が殺到する。

 その苛烈さを縫うように女を狙い、魔法を放つ。

 『腕』がチタウリを蹴散らし、魔法を防いだ。バラバラと砂粒のように、壊れた『腕』だった物が屋上に散っていく。

 

「そうだ! お前ならそうする!」

 

 チタウリの攻撃で傷を作りながらも限界まで耐え忍びながら、それでも残してあった『腕』が『杖』を持つロキに伸びる。

 そして、『腕』はチタウリを貫いた。

 そこにいたロキは本物の『杖』を持たせた、増殖して幻覚の皮を被せただけのチタウリだった。

 『杖』がコツンと、音を立てて落ちた。

 

「私ならこうする!」

 

「俺もこうするよ」

 

 透明化を解いて姿を現したロキが、ダガーを胸に突き立てる。初めて『腕』に当てた時と同じ、硬質な音が響く。見えない『腕』がそこにあった。

 見えないはずの『腕』が煌めくと、一瞬の間を置いて爆ぜた。

 ロキが居たはずだった場所に、小さなクレーターを生み出して。

 隠された『腕』に閉じ込められていた硝子の破片が、きらきらと舞っていた。

 

 

 

「見事だ。だが、私も馬鹿じゃない。ナズナ・ナツメ、お前が四本の『義肢』にこだわっていることくらい知っている。……あれもチタウリだ」

 

 声を発する暇も与えず、尋問官に麻痺誘導の機器を押し当てる。音を立てて倒れた姿を見て、僅かばかり安堵の気持ちが広がる。

 まだ終わりじゃない。女や博士を操って、『キューブ』を取り出す準備を整える。チタウリによる波状攻撃を続ければ、やがて勝てるだろうが、尋問官の言った通り核を撃つ可能性もある。

 勝利の高揚感が、ロキの頭脳を刺激していた。心が満たされたような万能感は、あらゆる苦難を乗り越えさせるためにある。

 だから……ロキに油断は、ない。

 飛来した矢を頭部に刺さる寸前で掴む。

 

「随分と遅い矢だ。タイミングも、速度も。尻込みでもしていたか? ……おい、まさか尋問官、これは」

 

 ゆったりと優雅に視線を矢に向けている間に、矢じりに取り付けられた二つ目のソニック・テイザーがロキを麻痺させた。

 先に倒れた尋問官に折り重なるように、ロキも遅れて倒れた。

 痺れて動けなくなったロキの視線の先で、女が『杖』を使い、装置を止めていた。

 

 

 

 

 

 

 --22

 

 んあああああああああ!!!

 疲れたぁぁぁぁぁぁぁぁぁんんんんん!!!!

 

 空は晴天!

 宇宙は見えず!

 屋上にロキ!

 晴れ時々チタウリ!

 空に宇宙はねぇんだわ!

 

 というわけで、機能停止したチタウリがボロボロと空から降っている。

 魚は建物に突っ込んだりもしたが、もうそれはこっちでは無理。

 ホントに限界だよ。

 ヘリキャリも到着してるからそっちで頑張らせて。

 麻痺してるから立ち上がれない。

 強化版喰らっても生きてるんだからロキって凄いね。

 ところで、なぜかロキとおねんねさせられてるんだが?

 

 

 

 途中でベイマックスに預けたバートンも屋上に到着。

 やっぱりプロってすげぇよな。

 雑な作戦伝えたら完遂してくれんだもん。

 飛行での援護中もチタウリとバトルしてたらしく、ベイマックスもバートンもボロボロだ。

 刀はバートンにあげるよ、もうこういうの懲り懲りなんで。

 他の装備はベイマックスに積んでしまおう。

 こんなこともあろうかと……は考えてないけど、お腹に収納機能を持たせた。

 膨らんでるだけじゃスペースもったいないからな。

 

 終わり!

 解散!

 さあ、打ち上げだ!

 ハイタッチ!

 俺を背負ってくれ!

 

 

 

 

 

『エージェント、聞こえるか? フューリーだ。こちらでも雨漏りの修理を確認した。よくやった……と言いたいところだが』

 

 

 

 

 

 

『核ミサイルが発射された』

 

 

 

 

 

 ほわあああああああああああああ^q^

 

 

 

 

 

 

 --23

 

『ナズ、聞こえるか?』

 

「聞こえます」

 

『作戦は簡単だ。もちろん私たちなら、と付くが。既に私は核と接触に成功したが止めるには至らなかった。このままギリギリまで軌道を修正する。作戦名はゴミポイ捨て作戦』

 

「ダサいですね」

 

「もっとまともなのは無いのかよ」

 

「男ってこうなの?」

 

『バートンもナターシャも黙れ、天才のネーミングセンスだぞ。だがナズの言うことも一理ある。ゴミ捨て場泥棒作戦だ』

 

「それだとゴミを盗んでる人みたいなんですけど」

 

「もっとまともなのは無いのかよ」

 

「男ってこうなの?」

 

『バートンもナターシャも黙れ、罵倒するならもっと語彙を豊かにしろ。作戦名なんてどうでもいい。ナズ、私が合図したら扉を開けろ。悪いが宇宙旅行の下見は私が貰う』

 

「おっけーです。作戦名は『おーいどこだー』か『ゴミ捨てへの航海』でお願いします。……定年退職したら宇宙開発とか良くないですか? トニーステーキ宇宙店とかやりましょうよ」

 

「キューブでパッと行って、パッと捨てるとかできないのかよ」

 

『私の今の速度を考えろ。血煙になるぞ。ロキでも掴める矢とは違うんだ。どうせならレーザーを掴ませてみろ』

 

「ロキにキューブ使わせて、成功したらバートンが一番凄いってことにします?」

 

『却下』

 

「却下」

 

「却下」

 

「大人って汚い。汚くない?」

 

 

 

 

 

「この『イミテーションモデル』はこういう核融合とかに使うためのドクター・オクトパスでして。まあ、まだ全然なんですけど」

 

『よし! 開け! ナズ! 開け!』

 

「まだ早いって! エネルギーが足りてないんですよ! 点灯式並みのカウントダウンはどこいったんですか!」

 

『何っ! どうにかして開け! 死ぬ! 死んでしまう! 私が最初に、距離的に空に近いナズが次に死ぬからワンツーフィニッシュしてしまうぞ!』

 

「どうにかって……どうしましょう!」

 

「わかるよ、ナツ。扉を開くのも大変だ」

 

『黙れキャプテン!』

 

「ハルクはちょっと足りない! 雷もちょっと足りない! 俺のリアクターも、ベイマックスも限界だし……。そう、時計! 俺の部屋にある腕時計なら足ります!」

 

「俺のは? 立体映像が見られる」

 

「それは硬いだけ!」

 

「これは? さっきロキにぶつけようとしたんだけど」

 

「それです! 背に腹は代えられないので断腸の思いで使います! みんな俺に感謝するように!」

 

「感謝はもちろんするが、ソーのやつとは違うのか? ……この軍用のヴィンテージ品とも?」

 

「違います! これはタイムマシンなんです! 使うと屋上が消し飛ぶ威力です!」

 

「ソー、君の弟が凄く驚いているみたいだが」

 

「さっき私がぶつけようとしたからよ」

 

『ナズ! なんでもいいから早くしてくれ!』

 

「これオリジナルだから別れを惜しませてくださいよ!」

 

 

 

 

 

「この三本の『義手』で重力制御、見えない隠し『腕』で調整です。こうやってやれば、ほら、扉が開いた……おろろろろろろrrrrrrrrr^q^」

 

「スターク! ナツが倒れたぞ! 義手が壊れたせいでバナー……ハルクもびっくりしてる!」

 

『落ち着け! 死にはしない! 負荷が掛かりすぎてるんだ! 横にしてやれ! ……おっと、私のエネルギーも不安だな』

 

 

 

 

 

「ソー! 何をやった! ナツの首から黒い液体が垂れてきてる!」

 

「いや、ロキがこうしたほうがいいと……」

 

「ロキを信じたの!? 信じられない! 頭まで筋肉なの!?」

 

「大丈夫だ、本人もそうしてくれと言っている。何年も前からだ」

 

「バートンがそう言うならそうなんだろう。良かった」

 

「クリントがそう言うならそうなのね。安心した」

 

「納得いかないんだが」

 

「うるさいですねぇ……」

 

「り、リンちゃん! 大丈夫なの!」

 

「内臓がちょっと止まりかけてるくらいで大丈夫、だいじょうぶ。エネルギー切れで帰れないだろうから、トニーを迎えにいかないと……」

 

「ナツは寝てないと! 僕が盾に乗り、ハルクに投げて貰ってソーのハンマーで引っ張てもらうのはどうだろうか。バートンに投げる角度とか予測してもらえばなんとか……」

 

『ベイマックスに任せてください。ナズナのアーク・リアクターも合わせれば、救援できます。救助を優先、ナズナのお願いです』

 

 

 

 

 

 

『ベイマックスなら大丈夫です』

 

「やだ……」

 

『トニーステーキ店の下見を先にするだけです。ベイマックスなら大丈夫だよって言って欲しいです』

 

「……」

 

『科学は生きる人のためにありますよ、ナズナ。正しいことをさせてください』

 

「……ベイマックスなら大丈夫だよ」

 

『はい、ありがとうございます』

 

「またね、ベイマックス」

 

『……またね、ナズナ』

 

 

 

 

 

「お前! 脳まで筋肉が詰まってるのか! 雷で心臓マッサージとかふざけるなよ! ナズの骨や内臓は金属で……」

 

「みんな! スタークを止めろ!」

 

「うるさいですねぇ……」

 

「り、リンちゃん! 大丈夫なの!」

 

「よくやったぞソー! 私は信じてたぞ! 心臓マッサージはやっぱり雷だな!」

 

「ジェーンに会いたい……」

 

「それで、ナズ……。ベイマックスのことだが、チタウリを足止めするために……」

 

「いいんです、いいんですよ。いつか探しにいけばいいだけなんです。ベイマックスは先に宇宙を見に行っただけのずるいやつなんです」

 

 

 

 

 

 --24

 

 事態が解決したことをハゲに連絡し、S.H.I.E.L.D.のメンバーを呼び出した。

 『杖』で精神をガンガン揺らされまくったから疲労がとんでもない。

 みんな俺の背を撫でたり、ちょっと叩いて思い思いに散らばってしまった。

 近くにいるのはハルクとソー、両手を前側で拘束されたロキだ。

 ちょっと離れた場所から「私のコレクションが無くなってるんだが!?」「ごめん、私」「ナターシャ、キミはまだやっていいことと悪いことくらいわからないのかい?」「リンちゃんとの作戦で使ってロキを捕まえたけど」「やっていいことだ。よくやった。もっとやっても良かったぞ」という会話が聞こえる。

 逆側からはトリックショットに利用した柱や家具を観察しながら、まだ使えるかどうかを議論しているロジャースさんとバートンの話も。

 

「ロキは最後になんかやりたいことある? どうせアスガルドで地獄の責め苦でしょ」

 

「尋問官、アスガルドをなんだと思っている。父上が公正に……たぶん公正にロキを罰する。いや、やっぱりわからん。俺がいるから安心してくれないだろうか」

 

 ソーが言い直したのがちょっと気になるが、他の国のことを気にしてもしょうがない。

 結局なるようにしかならないのも確かなんだ。

 ひらひらと手を振る。

 

「酒を一杯貰おうか。……呑めるかわからなくなるからな」

 

 ハルクが、戦闘の余波で倒れて割れた酒瓶を指差した。

 喉を潤せるくらいには残っているようだ。

 なるほど。

 もったいない精神か、やはり賢いな。

 

「……裏にあるいいやつで頼む」

 

 俺が割れた瓶を見ながら頷いたことに気付いたようで、ロキが絞り出すようにそう言った。

 

 

 

 しょうがないにゃあ、と裏からお酒を持ってきた。

 人数分のグラスを持ってくれば、みんなが何だなんだと集まって来た。

 グラスに酒を注いで、献杯しとこう。

 こっちに献杯なかったわ。

 乾杯しとこう。

 俺も酒をちょっとだけ舐める。

 うーん、わからん!

 ベイマックスに止めら……ジャーヴィスに怒られちゃうな、これ。

 

「美味い! もう一杯!」

 

 ロキが叫びとともに、グラスを床に叩きつけて割った。

 トニーが俺とロマノフさんにチラリと視線を向けるが、二人で首を横に振ると「ナズが加工したやつだぞ!」と吠えた。

 ハルクがロキを殴り、床にめり込ませた。

 

「すまない……。弟は、地球をよく知らないんだ……」

 

 顔を真っ赤にしたソーが、震えている声を必死に絞り出した。

 呆れた様子のバートンは静かにカウンターに腰かけて、手酌しながら酒を呑み始めた。

 その様子に、俺はちょっとだけ笑ってしまった。

 

 

 

「ナズ! そういえば勝手にセレブロを起動しただろう! 後で説教だからな!」

 

「……ニューヨークを救ったのでチャラにしてください」

 

「私も救ったからプラスマイナスゼロだ。しかもプレイボーイだから強い」

 

「ちょっと聞いたことない計算ですね。……良かれと思ったら怒られるんだもん。ロキと俺は似てるかもね」

 

 床に埋まったままのロキにそう言うと、驚いたように目を見開いて俺を見た。

 

 

 

 あと俺のベッドでセルヴィグ博士が寝てるのを発見してしまった。

 

 

 

 

 

「あれ、ハルクは残ったの? 慌ただしいよね、全く」

 

 S.H.I.E.L.D.の連中がロキと『杖』を見るや否や、急かすように動き始めた。

 みんなエレベーターで下に向かったが、流石に俺は疲れすぎていたのでちょっと休憩しようかと。

 寝起きの博士も送り出した。

 まだ使ってないベッドだったけど、なんか気分があれなので変えようかな。

 エレベーターから戻って来た様子のハルクに話しかければ、その巨体をびくりと振るわせたのがおかしかった。

 

「電気系統もちょっとよくないみたいだけど、エレベーターは動いて良かったね。俺も生身で歩くのしんどい系だからよかったよ」

 

 そういえば、と投擲武器にされなかった冷蔵庫の冷凍室を漁る。

 電気の通りが悪いのか、半解凍状態になっているケーキを見つけた。

 切り分けて……ロキの手続きとかで時間かかるだろうし、もう食べちゃっていいか。

 一人分だけ切って……面倒だから手づかみでいいか。フォークより得意だ。

 

「ハルクは戦いのときも賢い閃きとか見せてくれたからね、良い子には花丸をあげないとね。その前にケーキを食べよう。ほら、約束してたやつ。ハルク……ハルク?」

 

 一人分だけ切り取ったケーキを渡せば、顔を汚しながら一口でケーキを食べたハルクは叫びながら階段に向かっていった。

 元気に走って行ってしまった。

 ここはガラクタばっかりだからつまらんよな。

 まだいるかな。

 

「ハルクー! ついでにベッド持って行ってほしいんだけど! 博士にあげて!」

 

 叫びながら戻って来たハルクが、また凄まじい速さでベッドを抱えて階段で下に行った。

 イチゴ付いてるってことも言いたかったんだけど。

 まあ、いいよね。

 

 

 

 

 

 --25

 

「みんなはシャワルマで打ち上げです。……その裏で俺たちは公園のベンチですけど」

 

「こういうのが一番目立たないんだ」

 

「目立ちまくりですよ。みんな事後処理に駆け回ってるのに、黒いハゲと同席とか最悪すぎる組み合わせです」

 

「そうぼやくな、すぐ終わる。私もシャワルマでギャラガのスコアを祝うからな」

 

「他のエージェントと一緒にラスベガス行きなさいよ」

 

「私が落ち着けないだろうが」

 

「えぇ……」

 

「おっと、そんなことよりさっさと本筋に入ろう。……ロキは核を撃たせていたか?」

 

「いや、そんなつもりは無かったようですね。チタウリで勝つつもりでした。防衛施設が一か所で、ユニットが強化できないタワーディフェンスってプレイヤー側からはどう見えるんですかね」

 

「さあな。私なら不安定でも強いユニットが欲しいよ」

 

「なるほど。聞きたいことは終わりでしょう。じゃ、解散で」

 

「まあ、待て。今回の核ミサイル発射タイミングが明らかに扉が閉じて……」

 

「解散! 解散です!」

 

「委員会への不信がだな……」

 

「かーいーさーんー!」

 

 

 

 

 

 -26

 

 この前ベッドを運んできたあとにハルクが拾ってきたくれたタワーに貼り付けていた装飾品を、折角だからトニーと補修する。

 高い所は嫌だが、高すぎるところはもっと嫌だ。

 ドクター・オクトパスが無かったら絶対近寄らない。

 

「ナズ、嫌になったか?」

 

「何がですか?」

 

「ここにいることが。私がヒーローを続ければ誰かの死に繋がるかもしれない」

 

「生きてたって誰かと関わるんですから、そんなこと気にしてられませんよ。それなら関わる相手を自分で選びたい」

 

「いい事だ。嫌になったと言われたら、私もそれっぽいことを言って誤魔化すしか出来なそうだったからな」

 

「それっぽいこと?」

 

「いいか、ナズ。科学は今を生きる人のためにあるんだぞ」

 

「トニー……」

 

「感動したか?」

 

「知ってました。前から知ってました。ベイマックスもそうだと言ってましたから」

 

「……そうか、ベイマックスも言っていたのなら正しいに違いない。間違いなく、な」

 

 ハルクが拾ってきた『A』のマークを固定するために、俺の『義手』で支えて、トニーが金槌で打ち付けていた。

 鉄を叩く音が響きわたる。

 何度も、何度も。

 

 

 

 

 

 --27

 

「トニー! デートに行ってきます!」

 

「ああ、行ってら……何だって!? 相手は誰だ!」

 

「綺麗な年上の女性です! 花束も用意しました!」

 

「待て! 私も……ペッパー! 邪魔をしないでくれ! ナズがデートに行くのはまだ早い!」

 

「いってらっしゃい、ナズ。ちゃんと挨拶するのよ。ささやかな気遣いも大切よ」

 

「はい!」

 

 今日はワンさんと実験する日だった。

 試作品のポケベルも持ったので、調子がいいと嬉しいのだけれど。

 

 

 

 

 

 




 
 『ドクター・オクトパス』
 ブレイン・マシン・インターフェースまたはブレイン・コンピュータ・インタフェースの一種。
 『義手』として扱おうとしているが、二足歩行が可能となった時から使用しているため、こちらの使用のほうが早く、自然な動作となる。
 本来の手足の活動を忘れることが多かったため、生身で行ってしまう『癖』と呼ばれる動作が少ない。というよりも動かさないのが『癖』になってしまっている節がある。
 『手』などと表現している場合は管理AIに処理領域を少し乗っ取られている。
 
 『ダミーモデル』
 生活行動の補助を目的とした半自立思考多機能腕。
 シルバーグレイの色合い。
 自重を支えるために重力制御に頼っている。
 使用者の背部にメインユニットが浮遊する形で寄り添い、ユニットから4本のメインアームである『義手』が展開されている。
 『義手』は通常時三本の指または爪が待機しており、補助用の指または爪が3本内部に格納されている。
 極微量のグラヴィトニウムを関節部の材質に混合することで駆動力を得た。
 活動に莫大なエネルギーを要するので、屋内以外での使用ではアーク・リアクターの発展が急務。
 
 『イミテーションモデル』
 神経インターフェイス式全制御重力閉じ込め機器。
 センチメートル単位機械『センチボット』を任意で配置することで機能する。
 1本の主腕、2本の補助腕、1本の仮想腕から構成され、仮想腕を展開することで負または虚数の性質等を排除し実現不可能だった起動を可能とし、『センチボット』を採用することで従来の問題点であったメインユニットの省略に成功した。
 動作制御はイマジナリー・キューブを参考に、全ての『センチボット』に指示を出すことで不安定性を解決した。
 主腕部品の1割を構成する『センチボット』群をヴィブラニウムで作成しており、機器の特性上流動的に配置を変更できるため耐久性の飛躍的な高まりを実現した。
 使用者の特異能力を流用し、仮想腕に不明のパラメータや演算の邪魔となる障害を圧縮することを想定している。
 機器を構成する最小単位である『センチボット』にグラヴィトニウムを組み込み、あらゆる状況下でも使用可能な万能性を実現しつつある。
 想定する動作があまりにも複雑な演算を必要とするがソフトが完成していないので使用者の全自動計算によって稼働する。
 本物は人工の太陽を掴むためにあった。

 『ハイヴ・マインド』
 『セレブロ』を管理するためのAI。
 寄生生物を模したナノマシンによって構成されている。
 脳幹を構成し、頭頂葉を中心に包み込むように脳を始めとした骨格や内臓に絡みついている。
 また、活動に不要かつ都合よく操るため、生身の内臓を食べる。
 「頭を一つ切り落としてもそこから二つ生えてくる」が信条。
 
 『セレブロ』
 『ハイヴ・マインド』による演算と管理された現実改変などによる洗脳装置の総称、またその名残り。
 単純に言えば記憶を植え付けることを目的としていた。
 起動すると凄まじい処理性能を誇る。
 綴りは「Cerebro」ではなく、脳を寄生生物で管理するので「Serebro」となっている。
 正式名称はSymbiote……なんちゃらかんちゃら。
 複数ユニットが連携するはずなのだが、単機のみとなっていて連携も不可能となっている。
 
 『ベイマックス』
 『ハイヴ・マインド』のスペアボディを作る誘導で生まれた『ベイマックソ』の後継機……と見せかけてナンバリングのみ引き継いでいる。
 レインコートや白衣と連携することで健康を管理し、抑制するのが目的。
 人類が半分になっても、戻っても、変わることのない最高傑作。

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