私たちは夢と同じもので形作られている   作:にえる

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アイアンマン2前

 

 --1

 

 技術の進歩とは恐るべきもので、アイアンマンスーツの開発がトニーにとってのブレイクスルーとなったのか、他を寄せ付けることのない速度で発展を続けていた。

 元からトニーにそういった能力や才能があったのはわかっていたが、それでも尋常ではない速さだった。

 もしかすると以前までは片手間に全てを終わらせているだけで、今はアイアンマンに全力を注いでいるからの速さなのだろうか。

 そう考えると、トニーが本気を出せば俺の3秒クッキングも-1秒クッキングへと変貌するのではないだろうか。

 世界初の調理中ですら邪魔ができない蒸着クッキング、かがくってすげー。

 

 俺? 俺のことはどうでもいいんで(棚上げ)

 

 それはそれとして、トニーが凄い技術でアイアンマンとなってさらに進化を続けるので、俺も対抗して凄い物を本腰入れて作ることにした。

 腕時計のような見た目で、手の甲に巻き付ける道具だ。

 そう、誰もが知っているあれだ。

 

「ターイム・マ・シーン、それは人知れず完成を迎えようとしていた。世紀の天才トニー・スタークが関わることのない歴史の裏側で……」

 

 ドヤ顔とともに、奇妙なアクセントとともにアイアンマンとなっていたトニーに見せつける。

 製作期間は10年……いや、もっと長いかも。

 暇つぶしの産物である。

 

「で、その腕時計がなんだって」

 

 リストウォッチじゃないです。

 

「さらっと否定するのはやめてください。これはタイムマシーンです。誰がなんと言おうとタイムマシーンなんだ……!」

 

 フェイスカバーが開き、中から「上空で頭がおかしくなったのか、大丈夫かこいつ……」というトニーの視線を受けるとちょっと不安になる。

 このままだと腕時計をタイムマシーンだと言い張る精神異常者になってしまう。

 

「わかったわかった。それで、その腕時計はどれくらい時間を操れるんだ」

 

「タイムマシーンです。見くびらないでください。3年です」

 

 ドヤ顔を見せながら右手の人差し指、中指、薬指を立てる俺。

 驚愕に顔を歪めるトニー。

 

「3年後くらいにちょっと完成させている自信があります」

 

 俺の言葉に、ため息を吐いたトニーが呆れたとばかりに肩を竦めた。

 しかし待ってほしい。

 タイムマシンがあとちょっとでちょっとだけ完成するという事実は驚くべきことなのではないだろうか。

 時間的『ちょっと』と作業的『ちょっと』の加算で、全体的には『ちょっと』だけど。

 『ちょっと』とはいえ仕事量だから乗算なのかもしれないから……いや結局『ちょっと』だわ。

 

「なるほど。で、あー、その時間が3年後にちょっと操れるかもしれない腕時計は今は何ができるんだ」

 

「50分の1秒速く動けます」

 

 ワーオ、と驚くトニー。

 これは馬鹿にした驚きではないのが伝わってくる。

 それはそうである。

 宇宙船で地球から脱出して凄い速さで2年くらい動いたら達成できる値なのだ。

 

「見栄を張りました。100分の1秒です」

 

「あ、ああ……。それでも凄いな」

 

「その結果死にます」

 

「は?」

 

「爆発して死にます」

 

 爆発炎上は試作品の運命……!

 

「……そのリストボンバーの使用は禁止する」

 

「えっ!? スタークエキスポを彩る大発明なのに!?」

 

「腕時計式自爆装置の展覧も禁止だ」

 

 「歴史の裏側で完成という口上はなんだったんだ」と頭痛を堪えるように眉間を抑えながらトニーは呟いた。

 科学の発展に実利度外視は付き物デース。

 いつの時代も世紀の発明は理解されないんだなぁ。

 

 

 

「そろそろ時間だ。私は行くからな」

 

 トニーの顔がアイアンマンのフェイスカバーで覆われる。

 今までは会話するために顔を出していたので、シュールだった。

 

「ヘーイ、アイアンマーン! 忘れものだぜ! なんと今ならもう一つ付けちゃいます! スーパーヒーロー着地とともに、観衆に見せつけるだけで君も今日からタイムジャンパー!」

 

 小物っぽく呼びかけ、ドヤ顔でタイムマシーンを見せ付ける。

 しかも二つ。

 実験で一個ぶっ飛ばそうと思って作った物だ。

 

『空を飛んで届けにきたら使ってもいいぞ』

 

「ごめんなさい、私は傘を持ってないから空から降りられないわ。ここでお別れね……」

 

『ナズがメリー・ポピンズになれないのなら、私も予定通りアイアンマンとして登場するとしよう』

 

 輸送機後部の貨物扉が開き、赤と黄色のメタリックスーツが夜景の中へと飛び込んでいった。

 俺?

 俺は高所恐怖症だから一緒に降りず、このまま乗っていくことにする。

 明日は軍事公聴会があるけど、エキスポに顔を出す余裕はあるのだろうか。

 まあ遅刻しそうになったらアイアンマンになればすぐだから。

 「いっけなーい、遅刻するー☆」とパンを咥えたアイアンマンが急いで上空を飛んでいると、空気の塊の角から現れた他のアーク・リアクター所持者のスーツとぶつかって始まるラブロマンス……うーんシュール。

 遅刻のためにアイアンマンスーツを使うってあたりがとてもスーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャスでなんてファビュラスなの……。(意味不明)

 

 

 

 翌日、トニーが寝不足のまま軍事公聴会に出席するので一緒に会場まで来た。

 寝不足なのは俺も同じで、理由は深夜に起こされて呑みに行くことになったためだ。

 エキスポ会場のニューヨークからワシントンD.C.まで車を飛ばして来たとのことで、そこから遊びに行ったらそりゃあ寝不足になるって話である。

 

 軍事公聴会は一部を除いて、終始別に面白くもない話が続いていた。

 上院議員が挑発したり、トニーが皮肉で返したり、クソとクソの二重奏って感じの空気だった。

 見てる人は楽しそうだけど、俺は英語が難しいから好きじゃないですね(言語弱者)

 

 途中でトニーが振り返ってポッツさんに余裕をアピールしたり、俺に向かって口笛を吹いて指示を出したりした。

 政府にスーツを預けるべきだという主張を、スーツは肉体だから渡せないというトニーが皮肉で返したり。

 確かに今はまだスーツという形式に収まっているが、すぐにでもその枠から外れるだろう。

 今はちょっとした皮肉だが、将来的には本当にもう一つの体にでもなるかもしれない。

 トニーの親友のローズ中佐が参考に呼ばれ、意図的に報告書から危険性の部分だけ抜き出して証言させられたり。

 あとはペンタゴンと契約予定のハマー・インダストリーズのCEOが批判して、その証拠を挙げようと用意したディスプレイで映像を流し始めた。

 事前に口笛で指示されたようにディスプレイをトニーが操作できるようにしたら、開発中のパワードスーツもどきの欠陥品の映像を流されたりしていた。

 欠陥品の記録映像内で、どうも人間に着せたらしく、腰から180度回転して着用者が悲鳴を上げて、会場がざわめいた。

 そこでハマー社長がディスプレイの電源を引き抜いて「搭乗者は生きている!」と主張したのだが、観衆が聞きたいことはそうじゃないんだよなぁ。

 

 トニーが口笛を吹いたので、隙間から接続させておいた半透明の万能型医療用マニピュレーター『ドクター・オクトパス』を操作する。

 反射を抑えるために弄った結果生み出されたバリエーションの一つである。

 俺は蛸先生とかたこせんって呼ぶけど日本語の単語だから伝わらなくて、ドック・オックの愛称をポッツさんに与えられてしまった。

 指示通り電気を供給すると、愉快な背景としてハマー・インダストリーズの実験結果が流れることになった。

 これはトニーが飛行試験の際に10%で失敗したり、飛行に成功して俺と追いかけっこしたときのホームビデオの映像を流されるよりも酷いことだ。

 だって日付と時間が明確に表示されていて、それがつい最近のことだとわかる。

 そんな失敗映像が延々とテレビ中継に乗って流されるのだ。

 こんな玩具を作らせるために契約しているのかと批判されてもおかしくない。

 焦ったハマー社長がコードを引き千切っているが、残念だけど止まらない。

 まるで機械音痴の中年が止め方わからなくてテンパってるみたいだぁ。

 国が予算を預ける予定の相手の姿がこれである、映像とこの姿で株価が落ちそう。

 安くなっても買わないけど。

 

「この調子ではハマー社では20年はかかる。このままでは、先に葬儀が上手くなってしまうかもしれない」

 

 と、トニーが言って、ハマー社長を赤面させたところだけが面白かった一部である。

 

 結局、運用実験の失敗を暴露され続けることを危惧して公聴会は閉会。

 最初から挑発的な姿勢を崩さなかった上院議員は放送禁止用語を連呼して幕引きである。

 聴衆に勝利をアピールしながら退出するトニーに拍手を送り、そのついでに上院議員のMAD素材を作ってみた。

 素材として放送禁止用語を連呼する上院議員を用意し、利用法の一つとしてラバーチキン(腹を押すとオアアアア!と叫ぶ鳥の玩具)の声を上院議員の放送禁止用語にしてみたり。

 せっかくなので空を覆い尽くすサメとラバーチキン、それと放送禁止用語を連呼しながら戦う上院議員のクソMADまで作った。

 数時間後にはハマー社長の失敗映像を叱る上院議員とか、アイアンマンスーツを手に入れて喜び180度回転する上院議員の映像まで作られていた。

 うーん次の選挙では大人気ですね。

 

 

 

 

 

「なんというか、確かに私が召喚されて証言したが、トニーの不利になるような発言をしたかったわけではなくて。だが軍人にも誇りを持っていて……」

 

「わかってますわかってます。十二分にトニーはわかってます。そして貴方は充分なくらい自分の仕事を行っていますよ」

 

「そうだろうか……」

 

「そうですよ。自信過剰で尊大ですけど、意外と繊細で人の機微にも聡いですし」

 

「そうかも……」

 

 ローズ中佐も公聴会に呼ばれていたので、ちょうどいいとばかりに宿泊しているホテルに来てもらった。

 先ほどの証言では自身の報告書からトニーがスーツを所持するのを反対するために引用されたからか少し引きずっている様だ。

 トニーはマスコミのフラッシュに包まれているか、ポッツさんとなんやかんやしているかだろうし、上手くいったから機嫌も良いから無かったことにしてくれるだろう。

 

「負けず嫌いですからね。こちらから無理に手を出されることを嫌いますから、知らないフリをしたほうがいいこともあるんです」

 

 つま先立ちで両手を開いて、とローズ中佐に指示する。

 もやもやとした気持ちを抱いている様だが、社会的地位を考えると仕方のないことでもあった。

 俺の着ているレインコートがぼんやりと緑に発光し、やがてローズ中佐の頭から足の先まで緑のレーザー光を照射する。

 

「前の測定値とほとんど変わりませんね、ばっちりです」

 

「体を動かすのも仕事のうちだ」

 

「いいことですよ。トニーはほら、不適切で不健康な生活を送るじゃないですか。誤魔化すために野菜ジュース(・・・・・・)を飲んでますけど」

 

「ジャンクフードか。いつも食べてる」

 

「そうそう。まあ、嫌いな物を食べて生きるより、好きな物を食べて死にたいって人ですからね。まあ、そんなわけで体型が崩れてしまって。そのせいでスーツを新調する必要があるんですよね。半年でさらに2つも作りました」

 

 ワーオ……、と感嘆を漏らす中佐。

 

「体型の部分は、まあ、冗談です。あまりに変化するので、調整はしますけど」

 

「しかし、実際に作っているんだろう? 信じられないな……」

 

「より洗練されたスーツと持ち運び用ですけどね」

 

 世界でただ一つのあらゆる全てが特注品で出来た贅沢な上着だ。

 それが短い期間で2着もコーディネートされるという事実は驚きに値するのだろう。

 先ほどのハマー社の失敗が拍車を掛ける。

 

「軍も欲しがっているわけだ」

 

「中佐は?」

 

「欲しくないわけがない。誰もが欲しがるだろ」

 

「ハマー社も?」

 

「ハマー社が1番欲しいに決まっている」

 

「違いありませんね。手に入れたら、色を塗り替えて、新しく開発したスーツだってエキスポに出してくれそうですね」

 

 ははは、とつい笑いが漏れた。

 作業は終わったのでフードを下ろす。

 他人の感情に鋭くなっても面倒なだけだ、共感するわけでもないのに引きずられる。

 鈍いくらいがちょうどいい。

 

「渡したシミュレーションの慣熟訓練は順調ですか」

 

「終わっている。朝は仕事に出る前、晩は寝る前に、そして休日に時間を作って熟してきた」

 

「いいですね。次のシミュレーションに移りましょう」

 

「これは私にスーツを……?」

 

「さあ? トニーに聞いて……あー、トニーは口に出さないでしょうから、身を以って教えてくれるときが来ますよ」

 

 

 

 

 

 --2

 

 トニーが下の作業場でポッツさんの相手をするとかで、持って帰ってきた情報を元にアイアンマン(マークⅡ)のアップデートを一人で行う。

 ゆっくりと地道に弄っていたので、やることもそう多くは無いのだが。

 ジャーヴィスの補助無しで動かせる未成熟な人工知能を搭載(気遣い(・・・)は微妙)、ゲロ重い装甲も軽量化に成功(結局クソ重い)、胸部にリアクター装備(コアのパラジウムは定期的に取り替えが必要)など、独立したパワードスーツとして運用が可能だ。

 マニピュレーターでマークⅡを持ち上げ、下へと戻る。

 ちょっと騒いでいると思ったが、言い争いに発展しそうだったので、こっそり戻ろうとしたらトニーとポッツさんと目が合った。

 

「ナズ! いいところにきた!」

 

「ナズ! トニーに言い聞かせて!」

 

 おっふ^q^

 

 

 

「選手交代だペッパー。ゆけ! ナズ! 資本主義の女帝を論破しろ!」

 

「ポッツさんが女帝だとトニーは帝王になるんですがそれは」

 

「ナズ! 彼が”私たち”のコレクションを寄付してしまったのよ! 10年かけて集めたのに!」

 

「あー、うん。まあ、一応まともな団体に寄付しています。ヒーローと名乗るのは傲慢だと主張していた人たちの中には、手のひらを反して持て囃している層もいます。財産を持っていることが妬みに繋がることもあるのだから、悪くないことではありますよ」

 

 俺の認識では遊び終わった『玩具』なのでどうでもいいのだが、ポッツさん的には2人の物を勝手に処分されたのが嫌だったのかもしれない。

 が、そういうところを指摘するのは俺の仕事でもないし、性分でもないので諦めてほしい。

 客観的に見たらトニーは破天荒な行いが多く、『アイアンマン』は立派な行いが多い。

 地球上の各地で起こる紛争を力技ではあるが解決し続けている間で、孤児院に顔を出してプレゼントを送って陰で寄付したり、アイアンマンのファンだという少年に義手を直接飛んで届けたり、正しく運営している美術館に貴重品を寄付したり。

 正しいことをしているのだから、俺はアイアンマンを正しいヒーローであると持て囃すのだ。

 

「そうだ、もっと言ってやれ」

 

「でもエキスポだって時間の無駄でしょう?」

 

「あれだって別に道楽だけでやっているわけではないです。技術者同士の能力を高め合う場であったり、日の当たらない研究者が自らをアピールする場であったり。スターク・インダストリーズ全体の技術力を幅広い分野で見せつける場にもなりますよ。アイアンマンが注目されている今だから、それに釣られる人たちも背景に興味を持つでしょう」

 

「でも結局はトニーのエゴの産物でしょ」

 

「科学は全部エゴの産物で、科学者はエゴの塊ですよ。見たい、聞きたい、知りたい。何かをしたい。複雑な論文を剥いて、大層な要旨を端折ってしまえば、その果てにあるのが単純な動機だけですよ。逆を言えば、トニーという我の強さで、他の我が強い連中も無理を言わなくても誘われるのだから都合のいい機会ですよ」

 

 まあそれだけではないだろうが。

 エキスポはトニーの父が行った1974年に行われたっきりであった。

 好きな人はその優れた技術と発明でより好きになるだろうし、嫌いな人は科学分野について口を噤むだろう。

 競合会社も無視できるイベントではなく、膝を屈するか対抗するかはわからないが、いい刺激になる。

 そもそも軍事産業と決別し、自らの道であると胸を張れる『アイアンマン』を持つことによって、再びエキスポを開いた。

 それはトニーが父と向き合うことを決めたのかもしれないし、何かを残したいと思った結果なのかもしれない。

 

「電力発電の基地とも契約したのよ? 資金を出さないといけないのに、この時期にエキスポだなんて」

 

「ナズ、言ってやれ。もうどうでもいいとな」

 

「イメージ払拭にはちょうどいいかもしれませんね。どうせ影口叩く人はいるのだから、手のひらを反す人には反させてやりましょう」

 

「違う。そうじゃない」

 

 ポッツさんが笑みを浮かべる。

 反してトニーは望んだ言葉を得られなかったからか、首を振っている。

 

 

 

「ナズ、もう一度言ってやれ。エコ事業など退屈だとな」

 

「はっはー、俺たちはエコなんて嫌いだぜ! 手のひらがドリルでしかない目を閉じた凡人どもに都合のいい映像を見せ付けてやるのさ! トニーが積み重ねた特許とライセンス契約はスターク・インダストリーズの見えない歯車だ! どこかの誰かが戦えば会社は潤う! それは敵味方関係なしだ! テロを起こす? その瞬間にそいつは兵器を作るにしろ、買うにしろ、部品は必要となる! どれだけ掻い潜ろうとも最低限は支払うことになる! 無人機だろうと医療品だろうと! それらは程度の差はあれどもスターク・インダストリーズの血肉となる! 自分で金を払ってアイアンマンを強くしてから挑むんだぜ! なんて滑稽でいじましいんだ! 俺たちは最低のクズだぜぇ! ワクワクするよなあ!?」

 

 小悪党っぽく言ったが、実際何をするにもスターク・インダストリーズに関わる要素が出てくる。

 特に軍事産業において、スターク・インダストリーズの影響は強い。

 ハマー・インダストリーズがパワードスーツに20年掛かるとトニーが言ったのもただの皮肉なだけではない。

 トニーに頭を下げ、技術を使えるようになって10年、傘下に近い扱いで提携してもらって5年が最短の道であり、大幅な短縮だ。

 それらが無理ならば、言葉通り20年先でやっと形になるだろう。

 だって1から作らないといけないし。

 

 

 

「だからペッパー、今から君をスターク・インダストリーズの最高経営責任者とする」

 

「嘘、そんな、ほんと……?」

 

「よく考えた結果だ。これで決定だ、いいな? 法的な手続きは面倒だが……ナズ、何している? 祝いの席だぞ」

 

 俺に散々話させておいて放置し、勝手に二人で解決したようだ。

 そしてダミーから受け取ったシャンパンで乾杯の準備をしている。

 貴方たちって最高のクズだわ!

 

 

 

 

 

 --3

 

 モナコでレースがあるのでVIPとして参加することになった、トニーとポッツさんが。

 俺は「特等席で私がレースに勝つ姿を見ていろ」という話なので付いて行った。

 運営やスタッフにトニーが飛び入り参加することを伝えたりするのが今日の俺の仕事なんですね、わかります。

 ポッツさんがイライラしていて、原因はトニーが勝手にナタリーという女性を秘書にしたことらしい、それはわかりません。

 トニーがテレビカメラや観客に手を振っているのを見ていたら、ポッツさんから通話が入った。

 

「ナズ、知ってたの!?」

 

「知ってました」

 

「なんで教えてくれないの!?」

 

「教えようとしたのですが、秘書が新しい人になったじゃないですか。俺って人見知りなので、そういうちょっとしたイベントの開催をお知らせできるようになるには時間がかかりそうです」

 

「それなら私に伝えて!」

 

「え!? 社長にそんな雑事を!?」

 

「ああもう! 白々しい!」

 

 一方的に怒鳴られて、電話を切られてしまった。

 俺は控え目な性格だから受け身に甘んじてしまうので、こうやってトニーやポッツさんに巻き込まれるんだ。

 なんて悲劇のヒロインなのかしら……。

 俺もなー伝えたかったけどなートニーがなー教えるなって言ったしなー。

 あとナタリーとかいう人が信頼できないというか。

 俺に対して表面上はなんとも思ってない感じなのに、警戒している雰囲気を感じてしまう。

 女性の二面性とかめっちゃこっわ、近寄らないでおこう。

 

 明日の朝食の候補を考えながら、ダイアモンドビジョンを眺めていた。

 映像には白熱するレース展開が映し出されていて、トニーもかなり順調に順位を上げていた。

 シリアルは味が無いのが多いし、あってもゲロ甘いからなぁ。

 後でカリカリポッツさんがトニーを叱るのだろう、巻き添えの可能性もある。

 嫌だなー、ポッツさんの愛称ってペッパーなんだよなぁ。

 カリカリベーコンにペッパーとか、明日の朝ご飯はベーコンエッグに決めた。

 

 ……邪気がきたか!?

 

 嫌な感じがしたので探ると、半裸の男が鞭で地面をばしんばしんと叩きながら歩いていた。

 これで鞭が電気を纏っていなかったらHENTAIが単に混ざってしまっただけだと納得したのだが。

 男の傍を避けて通りすぎようとしたフォーミュラカーが、鞭で真っ二つにされた。

 いや、車体は炭素複合材などとは言えどもすんなりと切断とかどんだけやべー鞭なんだよ……。

 なんとかサーキット内に入ろうとしていると、トニーの車が!

 これはまずいやつですよ、トニースタークさん!

 

 ……トニーはアイアンマンスーツが無くても空を飛べるんだなって^q^

 

 

 

 空を飛ぶというか、宙を舞ったトニーを回収。

 鞭男が鞭を振り回して徐々に距離を狭めて来ていた。

 よく見れば鳩尾のあたりにはよく見る光が灯った機械があった。

 

「トニー! あれは一体!?」

 

「アーク・リアクターだ」

 

「見ればわかるんですがそれは」

 

「じゃあ何で聞いたんだ。で、わかるか」

 

「わかります。ここでよくあるあれです。良いニュースと悪いニュースがあります」

 

 目線を送られたので頷く。

 トニーもわかっているだろうが、落ち着くためにちょっと思考へ意識を送るだけの作業みたいなものだ。

 

「良いニュースは」

 

「おそらく基礎は同じ設計図を元にしていますね。そして形状は作成した人の好みが出ます。確かにトニーの物に似ていますが、明らかに癖や造形が違いますから何かしらの理由で流れた、というのは無いですね。外装を弄ったとなれば不備や歪さが外観に出ますから。で、そうなると悪いニュースはあれがオリジナルってことです」

 

「流石アーク・リアクター博士だ。一目で外装がどうとか言われても困るが、まあ、小型化も、出来なくはないだろう。それくらいの能力を持つ敵が現れることは想定はしていた。……もちろん私が一番天才だが」

 

 アーク・リアクターに対する深い知識を持ち、小型化に成功するほどの知能を有している。

 それから導き出される答えはただ一つ。

 

「アーク・リアクターを持つ三人が集まった。これは選ばれし者の戦いということになりますね」

 

「なるほど。つまり本物のアイアンマンを決める戦いってことでいいんだな?」

 

「……っ! 盲点でした」

 

 俺がドヤ顔でアーク・リアクターを取り出すと、したり顔でトニーが言った。

 なるほど、俺の上司はやはり出来る男だ。

 

「ならばここで決めましょう、真のアイアンマンを。戦わなければ生き残れない! ヘンシン!」

 

 右手に持ったアーク・リアクターを見せ付けるようなポーズを決めて静止。

 トニーもとりあえず胸元の光をアピールしていた。

 鞭が飛んできたのでひょいっと避ける。

 頭部を守らない人間の思惑などスケスケだぜ!

 しかし常識を知らないのは困る。

 普通は変身中に攻撃しないで待つのが常識だし、そもそもお前は変身しないのか。

 クソほども空気が読めない敵だ、最低のクズだよこいつ。

 ちなみに敵は半裸で両手に持った鞭を振り回しているし、当然のごとく俺は変身できないし、何故かトニーも変身していない。

 

「……? 変身してもいいですよ?」

 

「悪いがスーツは置いてきた。レースに荷物は不要だ」

 

「それじゃあただのトニーじゃないですか」

 

「勘違いしないでもらいたい。今日の私は天才レーサーことトニー・スタークだ。戦いよりも速さに身を捧げることで優勝していたはずだった」

 

「いや、車も吹っ飛んだのでレーサーですらないです。屁理屈こねてるただのおっさんですよ」

 

「待て! 天才は合ってるぞ!」

 

 胸元全開でだらしなく肩にかけるように着ていたレインコートのフードを被る。

 丈と袖、フードのすべてが長いために尺余りを起こしている。

 ポケットに持っていたアーク・リアクターをセットすれば準備完了。

 視界にはAIによる補助データが広がり、背部から4本の機械義手が姿を現す。

 動体反応に合わせて、飛来した鞭を叩き落とす。

 

「これはまずいですよトニー!」

 

「何がだ!」

 

「申し訳ないのですが、この場で1番の無能がトニー・スタークという事実が浮上しました。今後のご活躍をお祈りいたします」

 

「ハッピー! ペッパー! スーツを持ってきてくれ! こいつらに本物のヒーローを教えてやる!」

 

 

 

 4本に勝てるわけないだろ!

 いい加減にしろ!

 と、四方から攻め立てる。

 万能で医療用だからね、伊達じゃない。

 電気にも強いし、火にも凍結にも強い。

 

 こんな素晴らしい義手が今ならなんと2億ドル! 脳波が強いお客様は是非!

 え!? 脳波が弱い!? ご安心を!

 今なら脳みそや脊椎に電極をたくさん刺して、ジャブジャブ薬漬けにすることで最低限の動きを保証します!

 幻聴や情緒不安定、脳への負荷、身体の不随、神経の燃焼、人間性の消失など不具合については保証いたしかねますので頑張ってください!

 

 ってわけで俺の判定勝ちで終わりそう。

 エネルギー切れまで粘れば判定が始まるのだ。

 わざと鞭に機械義手を絡ませ、負荷をかけて無駄に放電させる。

 力負けもありえない。

 どうせ筋力アシストも見た目通りだろう、大リーガー強制ギプスみたいでしょうもない補助しか……あああああ!

 

「あああああ! こいつずるいですよ! 三味線弾いてました!」

 

 鞭から伝わる電気が増す。

 パワードスーツと呼ぶにはあまりに簡素で最低限アシスト装置でありながらも、鞭を使うには最大限の補助を得られている。

 つまりエネルギー切れを狙うには頭が悪かった、俺の。

 絶縁破壊されかけた機械腕をパージする。

 医療用の義手が明らかに戦闘用として作られている鞭に勝てるわけないだろ!

 いい加減にしろ!

 不利になってしまったので別の手段が必要だ。

 

「ほわああああああ!!!! こうなったらプランHです!!!!」

 

「プランH!? 私は聞いたことが無いぞ!?」

 

 残っている2本の腕を無茶苦茶に振り回し、プランHの発動を宣言。

 自暴自棄っぽい俺。

 なんだそれ、と目を見開くトニー。

 チャンスだと思ったのかにやりと笑う鞭男。

 

「俺が焦ったフリしてハロルドさんが車で轢きます」

 

 ズドン、と十分に加速した高級車に轢かれて宙を舞う鞭男。

 人が吹っ飛ぶときはやたらとスローモーションに感じられる。

 目と目が合ったので、ばちこーん☆とウインクしておく。

 魅力的な男は嘘も似合うのだ。

 

 ……人間はアイアンマンスーツが無くても空を飛べるんだなって^q^

 

 

 

「これはまずいですよトニー!」

 

「何がだ!」

 

「電池が切れそうです。いや、実際に普通の人がイメージする電池を使ってるわけじゃないですけど、そういう表現というか。でもまあ、アーク・リアクターも電池か……」

 

「なら問題はないな。今のトニー・スタークは皆に必要とされ、愛される本物のヒーロー」

 

 スーツケース状の携帯型アイアンマンスーツを着用したトニーが言う。

 

『私がアイアンマンだ』

 

 やっぱスーツの着用時が1番かっこいいのではないだろうか。

 一日中見ていたい機構だ。

 開発した苦労も報われる感じがする。

 着脱の順序やカッコよさについてはトニーといつも論争する。

 ぶっちゃけ新型開発の9割は着脱の論争してる。

 

『選手交代だ。……これはまずいぞ、ナズ』

 

「え、何がですか」

 

『この場で1番の無能がナズだ』

 

「いや、俺は応急処置ならできるんでセーフ。1番の無能はレーサートニーなのは揺るがない事実です」

 

 専属運転手のハロルドさんは鞭男を轢く役だし、ポッツさんはスーツを準備して運搬した役、トニーはスーツを手にしてヒーロー役に躍り出た。

 敵は鞭を持っているし、敵役という不可欠の要素だ。

 義手を2本失った俺が仕事を持っていないかのように見えるが、実際の本業は衛生兵役だ。

 無理に前衛を張っていたのが、後衛に戻っただけ。

 暫定1位、レーサートニー。

 

『天才レーサーのトニーは実はアイアンマンだったからセーフだ。そして何故かレーサートニーは死んだから汚名は抹消された』

 

 謎の打ち消し理論を残して鞭男を、余裕の歩みで迎え撃つトニー。

 ついでに殺されたレーサートニーには涙が出る。

 と思ったらぼこぼこに鞭ではたかれ始めた。

 

「これはまずいですよトニー! マーク5は装甲が薄いです!」

 

『それな! 実は無能脱却の喜びからレーサーのトニーが出てきてしまっていた! 車とともにレーサーは召されることを望んでいたのに!』

 

「頼むからレーサーは成仏して! というかそれってつまり忘れてたってことですよね!」

 

『天才にだって忘れることはある! とりあえず仕切り直しのプランHだ!』

 

「オッケー!」

 

 ズドン!

 ちなみにズドン!というのは鞭で拘束されていたトニーが叫ぶのを合図に、残った義手の片腕で鞭男を抑え、もう片方の腕で高級車を正面からぶつけたために発生した音だ。

 運転手のハロルドさんが驚きのあまりアクセルを全力で踏んだらしく、轢き逃げしてフェンスにぶつかって止まった。

 鞭男がまた轢かれちゃったーこの人でなしー。

 

『よし、ヒーローのトニー・スタークが来てくれたぞ』

 

「いやもうわかんないですって」

 

『まあ見ていろ』

 

 詳細は省くが、めっちゃボロボロになってアイアンマンが勝った。

 途中で鞭男が車から漏れ出たガソリン液に鞭を叩きつけて吹っ飛んだりとドジっ子アピールがあったことは秘密だ。

 あ、テレビで放送されてたわ。

 

 

 

「負け犬め! スターク! おまえは負けたんだ!」

 

 口を切ったのか、血を噴き出しながら叫ぶ鞭男。

 その名前の由来となった鞭はその手にないし、アーク・リアクターは俺の手にある。

 大リーガー強制ギプスよりも粗雑な筋力アシスト用のフレームに包まれた半裸の男が引きずられる姿は、なかなかにシュールだった。

 その姿を目で追っていると、脳内で上院議員の放送禁止用語がBGMで流れてしまった。

 

「レーサートニー、言われてますよ。レースに負けたって」

 

「今はヒーロートニーだから聞こえないな。そもそもレースも中止だ」

 

「確かに」

 

 レーサートニーの名誉は守られた……!

 

 

 

 

「というかレーサートニーって死んだのでは」

 

「何故か死んでいたが、さっき何故だか生き返った。きっとどこかのレースで優勝してくれるだろう」

 

「雑すぎる……!」

 

 

 

 

 

 とりあえず留置所にぶち込まれた半裸鞭男にトニーが尋問するというので付いていく。

 偽名で入国、背景になんらかの組織の影は無し。

 個人の行動の末が今回の事件だ。

 

 拘束されている部屋に入ると、ほとんど下着1枚の姿になった臭そうな姿の男が座っていた。

 武器は強いが使いにくいし性能もいまいちだ、とトニーが採点し、中国や北朝鮮に売るにはちょうどいいと煽った。

 お前のアーク・リアクターのほうが粗悪品だから闇市場が似合ってんだよっていう挑発である。

 

「すべての悪人と同様に歴史を書き換え、闇に葬ろうとしている。父の設計図からアーク・リアクターを作った。お前の一族は盗賊で人殺しだ。全ての悪人と同様に……」

 

「トニーの一族が悪人だとしても、トニーはヒーローとして活躍(・・)しました。そして貴方の一族が善人の一族だとして、貴方は悪人として活躍(・・)した」

 

「……」

 

 俺に一切視線を寄越さなかった鞭男が、睨みつけてきた。

 洗ってない鳥の臭いがするぞこいつ。

 

「貴方の一族が、まあ、もしもの話ですが。貴方の信じる様に、スタークに奪われた無辜の、ふふ、いえ、失礼。哀れな善人の人々の一人だとしても、誰も興味なんてありませんよ。貴方が暴れたということと、貴方という人間を生み出した一族はなんて野蛮なんだろうという評価を与えられて終わりです」

 

「父は奪われた」

 

「それは事実ではありませんね。あまりにも貴方の主観に依りすぎる。事実だとしても何の意味も無くなってしまった。ここでの事実は、貴方が受け継いだ知識と才能を使って無責任に暴力を振りかざしたことです。それとも設計図に書いてありましたか? 開発した物で好きなだけ暴れなさい、と。貴方の父は言ったのですか、好きなだけ暴れなさいと。ちなみにハワード・スタークの設計図にはそんなこと何処にも書いてありませんし、トニーにそんなことを伝えたことはありません。貴方が貴方の意思と思考で、貴方の父と、連なる一族の顔に泥を塗ったのです。それは貴方の活躍(・・)と、その活躍(・・)によって怯えた観衆が証明しています。貴方は父のためだと言い訳をして、貴方の溜飲を下げるために与えられた物を利用した。それが真実だ」

 

 それっぽいことを言って、反論を許さず退出する。

 会話の内容はぶっちゃけどうでもいいのだ。

 断言すればそれっぽいじゃん。

 というか釣りの餌に何かを思うのって間違いじゃん。

 もしくは鳥の餌。

 

 そもそもアイアンマン使ってるだろうって言われたら、それなって開き直るしかないし。

 基本的に会話の中身はゼロだろうと、言葉数と勢いで押し込んでみれば真実っぽいのだ。

 罵って僅かばかりでも傷さえ付けばそれでいい。

 悪意や怒りは感情を鈍くさせるが、心に傷がつくと鈍っていた心が目覚めることもある。

 その目覚めた心の善悪に興味は無いし、どうなろうとも知ったことではない。

 すべてに責任を持つことはできない。

 冷静になれば目的を思い出し、はっきりと向かってくれればいい。

 個人で活動した結果が今回のようにある意味で衝動的だったのだから自分の手で決着を付けたいはずだ、地下に潜って逃げ続けることは無いだろう。

 次も来るはず。

 トニー以外にもアーク・リアクターを作ることができると周知することは小目標だったのか、それ以上だったのか。

 どちらにしても、わかりやすい魚が釣れるはずだ。

 次いで隠れた主でも出てくるだろうが、それはまた別の機会になるかもしれない。

 今回で横入りされる要素を減らし、その先で禍根を断ち切ればいい。

 

 まあ、勝手にトニーが問題を作るんですけどね^q^

 

 

 

 留置所が爆破されて、鞭男は死んだらしい。

 

 

 

 

 

 --4

 

「中佐、どうかしましたか。随分と怖い顔ですね」

 

「……上の騒ぎは?」

 

「知っていますよ。今日は上中下と全体的に忙しそうで退屈しなくて済みますね」

 

 「退屈したことありませんけど」と付け加えると、ローズ中佐は険しい顔をした。

 上層はアイアンマンのテクノロジーを使った鞭男のせいで起きた会社の信用問題への対処に追われているらしい。

 中層はトニーが開いたパーティーが行われていて、中佐が看過できない問題を起こしているらしい。

 そして下層とはここだ、騒がしすぎるので俺はここで過ごしていたが、中佐が何かを決心した顔で飾ってあるアイアンマンスーツへと近寄っていく。

 俺からすれば問題ではないのだけれど、中佐にとっては大問題のようだ。

 価値観の違いというのは難しい。

 

「……その騒ぎを知っているのに君は何をしてるんだ?」

 

「体内に留まる重金属を取り出すにはどうしたものか、という自由研究に集中しています。濃縮とか起こさせて体外に排出する感じかなって。人体は異物を排出することができるので、調整できれば解決できたも同然ですよ。今なら何が起きても気づかないくらい集中していますね」

 

 これは直接体内に入れるのではなく、透析に近い形で利用したほうが人体に優しいだろうか。

 一度取り出した血液に反応させ、重金属を濾し出すイメージ。

 悪くないかも。

 

「……止めないのか?」

 

「何を? やせ我慢している相手に「大丈夫ですか」とか「野菜ジュースより別のいいものを作りましょう」とか「スーツを着たら義務に縛られますよ」と声をかけるのは機械がやればいいんですよ。素知らぬフリをして接するのが人間の気遣い(・・・)です。だから俺はいつもと同じことを言うだけですね」

 

 どちらを、と聞くのが正しかったのかもしれない。

 マークⅡを着込んだ中佐が歩き出す。

 わかったら知らないフリできないのが機械で、わかっても知らないフリをして機械のように普段通り接するのが大事って話だ。

 

「前の測定値とほとんど変わりませんね、ばっちりです」

 

「……トニーには相応しくない」

 

「中佐は相応しいのですか?」

 

 結局は権利なんてどこにもなくて、運とか気分で決まるんですよ。

 俺の呟きを無視して中佐は上へと昇って行った、トニーのレクチャーを受けるのだろう。

 誰もが相応しいと認めるのは形骸化したヒーロー、そしてその復刻版だけだ。

 そうなると残念ながら誰にもなれない。

 わかりやすい完璧な正しさはどこにもない。

 

 まあいいか、と作業に戻る。

 口笛を吹きながらドックオックや手を動かす。

 手荷物の準備は出来た。

 気遣いできる人間はこっそりと準備しておくのも重要だ。

 気乗りしないが口笛を吹きながら上の階へと向かう。

 試しにセグウェイを改造したが、改良点は星の数ほどありそうだ。

 

 

 

 親方! 天井からアイアンマンが降ってきた!

 

 

 

 アイアンマンとアイアンマン(仮)の殴り合いを背景に、観客に死にたくないなら帰る様に伝える。

 逃げ出した者もいたが、物珍しげに写真撮ってる馬鹿も多い。

 一般人への照準誘導は外しているとは思うが、何が起こるかわからない。

 リパルサー・レイなんて当たると死ぬほど痛いぞ(痛いでは済まない)

 アイアンマン(仮)を下の作業場に落としたアイアンマンが、残っていた観客に吠えると、急いで散って行った。

 その後も乱闘は継続していたので、見守る。

 ばかっつらー! やれやれー! やれやれー! ルール無用目つぶし急所狙いあり! と内心で煽りながら見守る。

 あ、今の俺って流行りのやれやれ系ってやつじゃなかった?

 

『手を下ろせ!』

 

『断る!』

 

 互いに手を翳し、リパルサー・レイをチャージし出す。

 ローズ中佐の静止を拒否するトニー。

 リパルサー同士の衝突は非常にまずいので、ベイマックソの後継機である『ベイマックス』の中に隠れる。

 最近はヘリウムや水素の同位体元素も混ぜてるから、なんと言うか。

 核融合の失敗が起きつつ小さな爆発が起きるかもしれない。

 まあ普通に失敗したら爆発する要素なんて無いから問題は無い……ことも無いが爆発よりは大したことではない。

 この場にいるのは全員善人だ、日ごろの行いも完璧で爆発なんて起きるわけがないんだ!

 

 起きた^q^

 

 

 

「これはトニーの普段の行いのせいですね」

 

 アイアンマン(仮)が無言で飛んでいく姿を見送っていたトニーに、ベイマックスから出て話しかける。

 俺が言ったことが指しているのは爆発についてか、飛んで行ってしまった親友についてか、それとも逃げてしまった秘書や社長についてだろうか。

 暗闇の中、瓦礫に身を預けて佇むアイアンマンスーツとか哀愁が漂ってる。

 写真を撮って売りに出したら高値が付きそうだ。

 誰が買うって?

 上院議員とハマー社でしょ。

 

『……スーツが盗まれたぞ』

 

「なんと、気づきませんでした。スターク、ヴァンコに続く抹消された共同研究者による技術で開発された新型かと思っていましたよ。もしかしたらハマー社かな。タイムマシンが完成して20年後から来たのかも」

 

『……何をしていた』

 

「ラボでセグウェイの調子を見ていましたが、集中しすぎたのかも。ただパーティーが騒がしかったので、盗まれるときの物音も聞こえなかったのかもしれません。不注意でしたね、すみません」

 

『……責任問題だ』

 

「警備は俺の仕事ではないです。果たす責任はありません。そもそもハマー社じゃなくて、トニーの親友が持っていったじゃないですか。ギリギリセーフですよ」

 

『……そうか、そうだな。……いや、違うな。……いなくなるのはダメだ。ハマーに行ってしまうか……? うん、ああ……』

 

 トニーはスーツのフェイスカバーを開かないまま、俺はレインコートのフードを被ったままだった。

 呟きが、アイアンマンの音声として変換されて漏れ出ていた。

 俺たちは僅かでも余裕があれば『顔』を見合わせる仲だ。

 スーツを着ていようともそれは変わらない。

 

『ナズ。これから君には長期の休暇を取ってもらう。私が呼ぶまで好きにしていて構わない。ただ、家から出て行くことでスーツが盗まれたことを不問とする』

 

「わかりました」

 

 口笛を吹いてアイアンマンの前を通り過ぎようとして思い出す。

 

「あ、コーヒーは何が飲みたいですか」

 

『……いつもので構わない』

 

「ドーナツも?」

 

『……ドーナツも』

 

「冷えない内に持ってきますね」

 

 

 

 吹きさらしとなった豪邸を出ていく。

 俺の後を自走するセグウェイが付いてくる。

 試しに無線式の物を作ってみたが、微妙すぎる。

 セグウェイというよりも俺が慣れてないのがしんどい。

 口笛で意識を誘導しないと、セグウェイがあらぬ方向へ行ってしまう。

 要訓練だ。

 

「どうして残っていたか気になるんですね。何も言わずにいなくなっては関係の修復は面倒です。望んでいたとしても寂しいじゃないですか。自分から遠ざければ、再び理由を付けて近づくのは何も言わないよりも容易ですからね。少し言葉で誘導したのは否めませんが。スーツを着ていても完璧に防げるわけではないですからね。ところで近くの街まで車で乗せて行って貰ってもいいですか。あ、もしかして喋りたかったのでしょうか。すみませんね、人見知りなので話すのが苦手なんですよ。綺麗な女性と話すのも緊張してしまって口数が多くなってしまうんです。ロシアからですか、ああ、違ったみたいですね。これはとんだ失礼を。嘘つきすぎなんじゃないですか。俺もちょっとわからないくらいで、ふふ、嘘です。魅力的な男は嘘もつくし、魅力的な女性も嘘をつくんです。褒め言葉ですよ? それで……乗せてくれるんですね、ありがとうございます。そんなにイライラして仕事になるんですか? まあ表面上に出さなければ大丈夫ですよね。すごいすごい。……ところで、俺を乗せることを決めたのは貴女の意思でしょうか。俺が誘導したかもしれませんよ。どちらの可能性もありますよね。そんなに深く考えなくて結構です。冗談ですから。ほら、俺は心に棚を作って厳格なルールを納めてますから。善人は悪いことはやらず、悪人が悪いことをやるべきって。棚上げして無視したりもしますけど。あ、調べた通りでしたか? 違ったみたいですね。そういうものです。スーツは素晴らしいけれど、中身はユニークじゃないですか。俺にとってはとても興味深くて魅力的です。それでは改めてお願いしますね。あ、そういえば名前はなんでしたっけ。自分が気に入ってるやつでいいですよ」

 

 トニーが新しく雇った秘書の女性が居たので楽しく会話した。

 相手は口を開いてないけど。

 会話のドッジボールなんて寂しいとウィットに富んだジョークも交えたら警戒されてしまった。

 

 フード外し忘れて癖が出ただけなのになんでー^q^

 

 

 

 

 

 --5

 

 空き缶をセグウェイに乗せ、口笛を吹きながら拾ってきた石を両手に持つ。

 手ごろな大きさの石が俺のパフォーマンスには欠かせない。

 ぶつけ合うことで破片が飛び散る。

 周囲からは立てている音への抗議や、怪しいアジア人への偏見の視線を向けられる。

 チラッとこちらを見て走り去るランニング中の男性もいた。

 時々来ているので、常連客もいるからいきなり警察を呼ばれることもないはずだ。

 

 自然公園のベンチでやることではないかもしれないが、暇なので許してほしい。

 時には強く、時には繊細に、時には空中で無駄にぶつけ合う。

 出来たと罅の入った石を地面に強く叩きつけるように置く。

 そうすると、破片がぼろぼろと零れ落ちて無駄な部分が無くなるのだ。

 はい、数分でアイアンマンとアイアンマン(仮)の彫像の完成です。

 不審者を見張っていた子供連れの主婦連中や、何も考えずにぼーっとこちらを見ていた学生、ランニングしていた男性が「マジで!?」という顔で見てきた。

 マジやぞ。

 特にランニングしていた男性は、最初に石をぶつけあわせていたところを見た後に走り去って、また戻ってきたら彫像ができていた感じだから驚きも増したかも。

 

 口笛を吹いて、空き缶が乗っているセグウェイをアピールする。

 俺の印象は怪しいアジア人からストリートパフォーマーにランクアップできたようで、空気が柔らかくなった。

 母親に小銭を受け取った子供が走り寄ってきたので、セグウェイが迎える。

 ちゃりんちゃりんと小気味の良い音を鳴らしながらセグウェイがゆっくりと走る。

 学生がテキトーに投げて明後日の方へと飛んだ小銭も、見事にキャッチできる。

 そう、無線で動くセグウェイならね。

 

 口笛を吹きながら、ポケットから長さ5cmほどの細い棒を取り出す。

 全部で4本用意したら、セグウェイに取り付けた鞄から粘土を取り出す。

 粘土をこねて、形を作り、中央に小さなビー玉のようなコアを入れ、手足に棒を差し込み、セグウェイに積まれたリパルサーで炙れば完成。

 はい、アイアンマン。

 アイアンマンをセグウェイに置き、小銭の入った缶を持たせる。

 口笛を吹いて、セグウェイで再びアピールするも、さっきのを見たからなぁ、という鈍い反応。

 それでもランニング中の男性が小銭を放ってくれたのでセーフ。

 見当違いの方向へ飛ぶそれを、アイアンマンが缶でキャッチした。

 驚く観客に、ドヤ顔でアピール。

 実はこの粘土細工、飛べるし動ける。

 関節をきちんと作ったし、中央には姿勢などの安定化装置、手足には細い棒状のリパルサーを積んでいるので飛べる。

 繊細な微調整が必要なので、俺にしかできない(たぶん)

 

 鞄から新聞と水あめを取り出す。

 セグウェイに取り付けてあるリパルサーで水あめを加熱し、とろみを出す。

 広げた新聞の一面だけを取り出し、匙で掬った水あめでササッと絵を描き、ちょっと斜めにして太陽に透かすと水あめの影がアイアンマンになる。

 ちなみに水あめの枠組みの顔部分は、パーティーで観客を驚かせたアイアンマンのフェイスカバーだ。

 その新聞を束の表紙に戻す。

 そしてぺらぺらと捲りながら水あめを何か所かに張り付けていく。

 最後に、さっき作った小型の空飛ぶアイアンマンを手に取って、スラスターで不要な部分を焼いて切り抜けば完成。

 子供サイズのアイアンマンスーツ(新聞)である。

 いくつかのパーツに分かれていて、顔の部分がアイアンマンになっている。

 さらにところどころアイアンマンの不祥事で彩られて視覚的にも情報的にも無駄に赤い。

 切り取られて残った新聞の記事や文字を繋ぎあわあせて「アレルギーある?」と表記したチラシを一枚作る。

 手前の子供に被せながら、口笛で観客の前をチラシが張り付いたセグウェイが走る。

 

 放り込まれる小銭の音や、新聞でできたアイアンマンスーツを着ている子供の写真を撮る音を聞きながら、水あめを匙で掬う。

 背中から展開したマニピュレーターに串を掴ませ、水あめを絡ませる。

 ぐるんぐるんと動かせば、アイアンマンを象った飴が完成する。

 アレルギーが無さそうなので、テキトーに飴を配ってサービス終了だ。

 握手に応じたり、一緒に写真を撮ったり、新聞スーツのアイアンマンとポーズを取ったりしてお開きとなった。

 

 人気すぎるぜ俺ぇ^q^

 

 

 

 缶を持ち上げればドル札や小銭で溢れている。

 いい感じに小銭が溜まった重さだ、コーヒーとドーナツを買うだけではなくて食事も楽しめそうだ。

 セグウェイで街中を移動して、どこかで朝ご飯を摘まもうかなと。

 ただし、ここで注意点。

 俺はチップという文化が苦手である。

 

 チップは支払いと一緒にほとんどトニーが済ませてくれるし、そうでなくともそこらへんはポッツさんが大体やってくれる。

 おっと、俺の他人に依存しきった雑魚の部分が露呈してしまった。

 苦手といっても出来ないわけじゃない。

 コックさんにもチップを渡したいときとかがあって、華麗にできないだけだから勘違いしないでほしい。

 確かにウェイターは給料が少なく、サービスする場を提供されて働いているだけだからチップを払うのはわかる。

 経営者的にはそもそもサービスの満足度じゃなくて金を渡しておけよオラァンって意思もあるけど。

 まあ、それだけじゃなくてこの料理うまいなぁ、俺には作れないなぁ、作った人に渡したいなぁってだけだ。

 トニーだったら気に入った料理を食べたら指ぱっちんして「シェフを呼んでくれ」みたいな感じでドラマっぽく呼びつけて、「素晴らしかった、これで研究して次はもっと美味しい物を頼む」とか言ってサインとチップを押し付けて心づけするスタイリッシュさ。

 まあ、帰りにハンバーガー食べるからカッコよさを打ち消すけど。

 俺だと「これおいしい! これもおいしい! みずまでおいしい! おいし……おいし……^q^」って感じで、「チップうへへへチップチップ^q^」とチップを添えることしかできない。

 

 そういうわけで、壮年の夫婦が半ば趣味でやっている喫茶店で朝と昼の合いの子の食事を済ませることにした。

 メインは家賃収入らしいので、部屋が空いていれば1日単位で泊めてくれたりする。

 チミチャンガが置いてある近隣の店の中で一番美味しく、雰囲気も穏やかな隠れ家だ。

 まあ、チミチャンガ食べてると毒電波受け取りそうだからブリトーを食べるけど^q^

 ワンプレートでお腹いっぱいになれる素敵な料理と一緒に飲むのはもちろんコーラなんだよなぁ。

 

 新聞を読んで待つ。

 ニューヨークで2体の巨人が争ったとか、映画かアニメみたいな記事が書かれていた。

 緑の巨人らしい、植物が知性を持ったとかだろうか。

 ……ないな。

 変なことを考えていたらサラダとスープが置かれる。

 サラダは大き目の深皿、スープはほどほど。

 それを食べているとブリトーがやや大きめの皿で置かれる。

 ブリトーは通常時だとさらに大きいらしいのだが、俺にアメリカンサイズは無理だ。

 偶にしか店に寄らない俺だが、好みを把握してくれている老夫婦のサービスは細やかだ。

 時々娘が手伝っていることもあるが、これだってチップをテキトーにやっても問題ないので落ち着く。

 

 皿を空にして、残ったコーラを飲みながら次の予定を立てる。

 ドーナツ買って、コーヒー買えばいいか。

 必要なお金を取り出して、レジに空き缶を置く。

 釣りは要らねえぜ。

 「また追い出されたのか」って店主のお爺ちゃんに言われた。

 長期休暇なんですけど?

 ため息吐いた店主が、何も言わずに指で示した壁際には空き缶の山とトニーのサイン入りの写真が……!

 写真の下には無駄に高そうなネームプレートに『キルスコア』と刻まれていた。

 ネームプレートは余ったおつりとチップで買った物だ。

 俺はまだ死んでないんですがそれは^q^

 

 「またストリートか。泊まっていくか?」と誘われたので断る。

 深夜に誘ってほしかった。

 美女とドライブして街で放り出されたからな。

 やっぱり女ってクソだわ(偏見)

 そういえばトニーにも突然の休暇で放り出されていた。

 やっぱり男ってクソだわ(偏見)

 よし、平等になった。

 

 それよりも今は既に迎えが来ているんだ。

 店を出れば高級な車が待っていて、後部座席の窓を開けてハマー社の社長が出迎えてくれた。

 俺くらい日頃の行いが良ければ足が向こうから来るってはっきりわかんだね。

 

 

 

「最初にドーナツ店でお願いします」

 

「ドーナツと言えば私がよく行くホテル、そこに併設された店におススメがあってだね……」

 

「いや、チェーン店で結構です」

 

 ハマー社長が色々と話しかけてくるが、変な表現が多くてわからねぇ!

 教養が無くてすまない!

 アイアンマンスーツしか作れなくてほんとに申し訳ない!

 ベイマックスのほうがハマー社のパワードスーツよりも優れているとトニーに言われてマジすまねぇ!

 

「君も」

 

「はあ」

 

「あの、スタークのスーツは作れるのか」

 

「どのくらいで満足できるかによりますが」

 

 とりあえず俺もスーツを作れるってことが知りたかったようだ。

 変な比喩表現は分かりにくい。

 特に外国を絡められると無理だ。

 

「それで、いくら欲しいんだ? ん?」

 

「え、何がですか?」

 

「給料だ。我が社ではいくらで働く? スタークの2倍、いや、3倍は約束しよう」

 

「給……料……?」

 

「他にも要望があれば叶えて見せよう」

 

 そもそも俺いくらもらってただろうか問題が発生する。

 そしてトニーも俺にいくら払っているかわからない問題が発生するかもしれない。

 深淵を覗いたら深淵も覗き返してくるのと同じように、俺が給料を知らないからトニーも知らないだろうってなる。

 税金も払ってるからセーフ、たぶんトニーが。

 

「そうですね……高いですし、要望も難しいですよ?」

 

「構わない。言ってみろ」

 

「簡単なんですけどね。ヴィブラニウムを100キロくれたら考えます」

 

 超希少な金属で市場にもほとんど出回らず、1グラムあたり1万ドルで取引されているとかいう頭のおかしさだ。

 アイアンマンスーツをその金額で買えるとなったら諸手を挙げる大企業が後を絶たないだろう。

 しかし、金額もそうだが、まずまとまった量を手に入れることが困難だ。

 流通量が絞られていて、厳しい基準をクリアしないと僅かな量すらも手に入れることが叶わない。

 この金属を使い捨てにするという頭ヴィブラニウムなことを何時かはしたい。

 

「100……!? ……分割でも?」

 

「まあ、いいでしょう。ただし20キロごとでお願いします」

 

「掻き集めればなんとか……。いや、しかし、そこまでする必要が……」

 

 ハマー社に使い道なんて見つからないだろうから、ホントに集めてたら後で買い叩こう。

 兵器に使うにはもったいない希少な金属だ。

 精密機器に使うかもしれないが、それだって量産性を持たせられないことに気づく。

 気づいても気づかなくても、使って作れば会社のディスプレイ用に飾る高価な置物の完成である。

 アーク・リアクターと同じで30年ほどで使い方を見出すかもしれない。

 うーん、トニーに買ってもらうしかないなこれは。

 

「あとは野球ですね。パワードスーツで野球」

 

「野球か、それは簡単だな。完成させた暁には選手に着せて、スタジアムを借り切ってプレイさせることで宣伝させよう」

 

「そうではありません」

 

「何……? 記念に球場を作れとでも? それともメジャーリーガーに着せるルールを制定しろと?」

 

「違います」

 

 そうじゃねーよ。

 なんでそうなるんだこいつ。

 折角苦労して作ったのを見知らぬ他人に使わせるとか愉快すぎるだろ。

 身内で遊ばないとか、心に遊びがなさすぎじゃない?

 トニーは凄いぞ。

 「現代兵器最強のアーマーが完成した」からの「よし飛ぼう」という謎の行動。

 俺でもびっくりする凄さ。

 そもそも「現代兵器最強のアーマーの設計図書いた」からの「実は飛ぶ」という謎の機能。

 凄い男だ……。

 そして「現代兵器最強のアーマーが完成した。アップグレードも済んだ」からの「紛争を止めよう」とか言い出して自ら飛んでいく。

 俺が言葉も出ない発想力と、他人に任せない行動力。

 凄過ぎない???

 

「……さて、送っていただきありがとうございます。野球についてわかったか、ヴィブラニウムが用意できましたらご連絡ください」

 

「まあ待て」

 

「まだ何か?」

 

 車から降りたら、窓が開いて引き留められた。

 そんなに引き留めたいならブレーキランプでも光らせたらいいのではないだろうか。

 5回くらい。

 そしたら俺は無視してドーナツ買う。

 

「スタークは泥船だ、わかっているのか? 確かに豪華客船に乗れる恰好ではないが、遠慮することはない。恥ずかしがらずにすぐにでも乗っていいんだぞ?」

 

「お誘いありがとうございます、ですがやはり結構です。社長はスタークが泥船とわかっていて水に浮かべると思いますか?」

 

「……」

 

「サモトラケのニケが最も美しい理由はなんだと思いますか? わからないから素晴らしいのです。俺の主観ですけどね」

 

 もちろん知恵や知能だけの話ではないですよ、キメ顔で俺はそう言った。

 「後悔するなよ」という言葉と舌打ちを残して走り去った。

 ヴィブラニウムは期待できそうにないと思いながら俺はドーナツ店へと入っていった。

 

 

 

 

 

 --6

 

「ミスター、少しよろしいでしょうか」

 

「はい、ええっと……コールソン捜査官でしたか。もちろんです。その前に、事件の折は大変お世話になりました。尽力していただいたのに、我々が大変迷惑をかけてしまって申し訳なく思っています」

 

「いえ、それが私の仕事でしたので」

 

 ドーナツ店で強盗に遭っていたら声を掛けられたので、振り返ると「私がアイアンマンだ」の奔走に一役買ってくれたコールソン捜査官が微笑みを浮かべていた。

 事件についても軟着陸できるように準備してくれていたのに、横紙を破って迷惑を掛けっ放しという失礼をしても穏やかに対応してくれる紳士だ。

 こめかみに銃を突きつけられているが、構えている人間は至近距離なので問題はない。

 事前になんらかの挙動を感じたら避ければいいだけだ。

 

「立て込んでますので、少しお待ちいただけますか。いえ、時間は有り余っているのですが」

 

 店員にも銃を向けようとしていたので、犯人への軽い挑発も兼ねて喋っている。

 人質になったのも他の人だと危ないためだ。

 

「買い物はもう?」

 

「はい、後は外に出るだけです」

 

 なるほど、と頷きながら歩くコールソン捜査官。

 無造作に近づいて、俺を人質にしていた強盗を一瞬で気絶させた。

 やっぱ紳士って凄い、俺はそう思った。

 

「ありがとうございます、助かりました」

 

「仕事ですから。お話を聞かせていただいてもよろしいでしょうか。車も用意してありますよ」

 

「何から何まで。重ね重ね申し訳ないのですが、近くのコーヒーショップに寄っていただいても?」

 

 何処かに連絡をしているコールソン捜査官の提案に甘えることにした。

 セグウェイの荷物も増えてきたし。

 黒いスーツの男たちが強盗を連れて行ったのを横目に、コールソン捜査官の誘導に従って歩き始めた。

 

 

 

「スターク氏の体調についてご存知で?」

 

「知っていますが、本人が隠しているのでなるべくは関わらないようにと。重金属が脳にまで達さないように気を付けてはいましたが」

 

「それでは今回の『強奪』や『長期休暇』に至った経緯も?」

 

「触り程度ですけどね」

 

 注文したコーヒーが淹れ終わるのを待っている間にコールソン捜査官と会話をしていると、真剣な顔で聞かれたそれに答えた。

 俺のそういった行動や考えを理解できない人もいる。

 たぶん俺は変わっているのだろうが、治そうとも迎合しようとも思わない。

 

 BBBがあるので大丈夫だろうが、電磁波などで重金属が浸透しやすくなる可能性もある。

 また透過しやすいアルコール類もなるべく飲まないように、さりげなく助言はしておいた。

 とはいえ体が蝕まれてしまっているのでおまけ程度でしかない。

 それでも俺より優れた研究結果を出すからね、なんやあのおっさん(驚愕)

 

「それは、『能力』というか。『才能』によるもので?」

 

「トニーの前では使ってませんよ。そもそも普段は全く使いません。普通に接していれば誰にでもわかりますよ、あからさまですから。万が一でも重金属が上ったら()ですから」

 

「なるほど。いや、そうですか。興味深い……」

 

 コールソン捜査官は考える様に額に手を当てていた。

 

「そうか……。普通に接することができるから故の。……逆だった、普通に接することができるのは彼だけだった」

 

「捜査官?」

 

「いえ、失礼しました。我々は少し曇っていたのだと。改めて考え直す必要が出てきたことを頭で纏めていました」

 

「はあ」

 

 よくわからずに首を傾げると、なぜかコールソン捜査官は穏やかに笑った。

 

「そうそう、スターク氏がアーク・リアクターの新調を行う様ですよ」

 

「本当ですか? でも、それに関してはあまり力になれていないのが現状です。マイナーアップデートなら出来てますが、それ以上となると全く。アーク・リアクターを改良する前に体調を相談してほしかったというのが本音ですね。俺に隠しているんですけど、パラジウムが入ったアーク・リアクターをまさかそのまま胸に入れて半年以上も生活するとは思わなくて健康面への対処が間に合っていないのです」

 

 何か隠しているのはわかっていたが、まさかアーク・リアクターで生きながらえていることを隠しているとは思わなかった。

 変な技術で胸元に収納していると思ったら、胸の中に入れるポケットを作っていたとかいう古典的な方法だった。

 しかも四六時中体内に入れているとか。

 いや、これには参った。

 気づいてからまだ2か月も経っていない。

 俺の頭が固すぎた。

 どう考えてもトニーも頭がカチカチだけど。

 

「急いで出かけていたので、これから助手が必要になるかもしれません。乗せて行きましょうか?」

 

「有り難い申し出ですが断らせていただいても? それはそれ、これはこれ、というやつです。トニーと話すことですから」

 

「ああ、いや、私も差し出がましい提案をしてしまって申し訳ありませんでした」

 

「いえ、俺たちのことを考えてくれた提案だってわかりますから。とても嬉しかったです。ただ、それを上回るくらい俺たちが面倒な人種ってだけで」

 

 俺は事情をわかっていない、という体である。

 トニーもどのくらい察しているかはわからないが、いくらかは気づいているだろう。

 コーヒーを受け取って店を出る。

 

「折角なので帰りも送りましょうか。今はどちらに滞在しているので?」

 

「そうですね……。これから決まるので少し待ってもらってもいいですか」

 

 俺の奇妙な物言いに首を傾げたコールソン捜査官に、路上に駐車しているオープンカーを指し示す。

 運転席にはサングラスしたトニーの姿が……!

 助手席に乗せている荷物はでかすぎないですかね、それ。

 

 

 

「やあ、私は……あー、私を知っているか? 知らないはずないだろう?」

 

「それはもちろん。トニー・スタークですよね。御高名はかねがね承っております」

 

「そうか、そうだろうな。私は有名人だからな。テレビで知ったかな。それとも以前撮影したときの雑誌の表紙とか」

 

「学術誌の表紙で。あとはハワード・スタークの論文のついでで」

 

「ついで、か。……まあ、よろしく」

 

「ナズナです、よろしくお願いします」

 

 変なノリで話しかけてきたトニーと名前を交換し、握手も交わす。

 サングラスを外したが、そっぽを向いていた。

 

「ナズナ……ナズと呼ぶが、君の論文を読んだ。着眼点は良かったが、甘い部分が多い。それに、どうも兵器開発に乗り気でないように感じるのだが? いや、乗り切れないというか、誤魔化しているというか」

 

「そうですね、スターク・インダストリーズに近づくなら兵器かと思って書いた面があります」

 

「やはり。確かに我が社は軍事産業に力を入れているが、だからといって迎合する必要はない。素晴らしい発想も垣間見れたが、もちろん私の方が素晴らしいのだが、あー、それを望んでいないことに使うのは間違いだと私は思う。例えば、そう、興味がある物もあるんじゃないか?」

 

「そうですね。お見通しかもしれませんがアーク・リアクターに興味があります」

 

「やはりか。熱意は感じられた。兵器と比べれば既存の考えから脱していないし、向いているとは思わないが。いや、私と比べたらほとんどが向いていないのだが」

 

「はあ」

 

「私は天才だから為になるというか。あー、今のままではナズは危険な兵器を作るだけの人間になってしまう。社会の混乱を招くだろう。成すべきことを学び、成せることを知るべきだ。そこで私の下で色々と試してみないか」

 

「とても喜ばしいことなのですが、良いのですか?」

 

「ああ、いいとも。ちょうどロボットアームの代わりを探していたんだ」

 

「よろしくお願いします。勉強させてもらいます」

 

「よし、今日から私の助手だ。ナズは私の天才的な頭脳に感動するだろう。ついで、と言っていたがやがては父を超え、父こそがついでとなるその時を間近で見れるよう頑張ってくれ。早速乗ると良い」

 

 というわけで助手に復帰した。

 それはそれとして模型で助手席がいっぱいなんですがそれは。

 

 

 

「私が運んでおきます。どうやら助手が無事見つかったようで作業に戻るでしょうから」

 

 コールソン捜査官がそう提案してくれた。

 危うくスポーツカーに紐でセグウェイを括りつけて、凧のごとく飛んでいくところだった。

 飛行機能を付けてみたら便利だが、便利じゃなくていいところもあるんだなって。

 

「これがヘッド・ハンティングだ」

 

 ドヤ顔でトニーが言った。

 それは俺に言っているのか、コールソン捜査官に言っているのかで意味が変わりまくる。

 俺だと普通に「助手を手に入れたぜいえーい」だけど、困った顔をしているコールソン捜査官の場合は「お前は雑用だぜいえーい」になる。

 そんな失礼なことじゃないよな……?

 

「あー、この勢いで言っておくことが1つ。私の心臓には金属の破片が入っていて、電磁石で死なないように引き上げている。その動力にアーク・リアクターを使っているのだが、パラジウム中毒で死にかけていた」

 

「そうでしたか」

 

 マジかよ知ってた(腹パン)

 言うのが遅いし、勢いでチャラにしようとしてんじゃねーぞオラァ^q^

 油断していたボディに俺の拳が入ってぷるぷると震えるトニー。

 

「それは仲直りの握手の代わりですよ、トニー」

 

「あ、ああ。サ、サンキュー、ナズ……ぐっ」

 

 次は凄いですからね、とシュッシュッと拳を振る。

 ホントどいつもこいつも好き勝手しやがって、ばかっつらですよ。

 10歳でマフィアとドンパチしていた俺の拳は剃刀なのだ……嘘だけど。

 俺自身はドンパチしていないし、そもそも拳は剃刀ではない。

 義手でもない。

 電極と薬品漬けはあった。

 

 

 

「色々と引っ張りまわして何度も都合よく使うようでコールソン捜査官には本当に申し訳ないのですが、荷物をトニーの家まで運んでもらっていいですか? トニーはオープンカーで来てしまったので」

 

「ええ、任せてください。とは言っても仕事があるので部下に頼むことになりますが」

 

 にこにことしているコールソン捜査官に荷物などを頼む。

 そんなにトニーが殴られたことが嬉しかったのだろうか、苦労が偲ばれる。

 トニーも世話になっているのだからもうちょっと当たりの強さを引っ込めればいいのにと思わなくもない。

 謙虚なトニーとかパチモンすぎるからやっぱ無しで。

 

「ほら、トニー。早く行きましょうよ。あ、イチゴもらいますね。俺は好きなんですよ」

 

「わかったわかった。……イチゴは特別だって覚えていたから買ったんだが」

 

「ポッツさんはアレルギーだから気を付けてくださいね」

 

「……ああ」

 

 あっ(察し)

 

「これはまずいですよトニー」

 

「……何だ」

 

「申し訳ないのですが、この場で1番の無能がトニー・スタークという事実が浮上しました。今後のご活躍をお祈りいたします」

 

「……レーサートニーはまた死んだ。死因はナズによるあまりにも惨い尋問」

 

「勝手に自爆したんだよなぁ……。あと残念なことにレーサーじゃないトニーが根本的な問題なんですがそれは」

 

 走り出した車から身を乗り出して、見送ってくれているコールソン捜査官に手を振る。

 素直じゃないトニーも手を上げて挨拶したが、素直じゃないのでわかりにくい。

 

 

 

 トニーは自分で運転するのが好き。

 俺は乗せてもらうのが楽で好き。

 win-winやね!

 ほどほどに風を切って走る車。

 紐を括りつけてセグウェイで走ったら絶対酔うとこだった。

 

「手術して金属の欠片を取ったら簡単に終わることだったのでは」

 

「他人に命を委ねるのは怖い。……そうだ、ナズがドックオックを改良して私の手術をしろ。この冴えはやはり天才だな」

 

「えぇ……」

 

 そういうのは専門外なんで他を当たって。

 

「ああ、そういえば中毒はどうしたんですか?」

 

「コールソンやナタリーの上官で仲良くない友達に2酸化リチウムを打ち込まれた」

 

「わーお……」

 

 日本語と英語の混ざったド下手な発音で思わず漏れた。

 劇薬を体内の恒常性に任せて劇薬で流そうって発想なのではないだろうか。

 人体は侵入した毒物を体外に排出しようとするし、まとめて流そうって魂胆だろうか。

 

「結構入れられた。注射でこれくらいだ。ダースでくれと頼んだが断られた。どうだ、作れるか?」

 

 指でシリンジの大きさなどを示すのだが、これがまた多い。

 なんで生きてるんだろうかってくらいの量だ。

 普通は頭がおかしくなって死ぬ。

 リチウムで死ぬ。

 パラジウム中毒が酷かったのもあるだろうが、それを想定して作られているとは思えない。

 もっと凄まじい何かに対して用意した物ではないだろうか。

 それが何かまでは想像できないけど。

 ミュータントみたいなのにも効くはずだ、死ぬって意味で。

 

「うーん? 作れるかどうかはちょっと……。いや、使った結果が死亡でいい毒物みたいなのならすぐ作れますけど。よく生きてるなって感想しか出てきません。それ実用段階だったんですかね」

 

「……わからないな。応急処置とは言われた気がする」

 

「えぇ……? 電解質を刺激して脳みそハイにして神経伝達物質をドバドバ出して毒物に対する反応を強くして外に流すって感じでしょうかね。サンプルが無いとちょっと手を出せないです。どう頑張っても想像ができない。ケンタッキーを歓喜にむせび泣かせてやっとスタートラインですかね」

 

「ケンタッキーに毒物で死んだ鶏を送ろうとするのは禁止だ」

 

「当たり前じゃないですか。俺も嫌ですよ。怪しい液体を注入された鶏の揚げ物なんて」

 

 ぶっちゃけトニーが死にかけたら似たようなことをしようとは思っていたけど。

 ホントに苦肉の策って感じだが。

 因果が逆転してトニーが鶏の実験台になっていたところだった。

 だって鶏を使っている時間ないし。

 人間という複雑な生物から鶏へと逆走する発達した科学への挑戦。

 いや、冒涜だわこれ。

 

「そうなると体内に残ったパラジウムは時間をかけることになるか……」

 

「負担かけるほど切羽詰まってないならゆっくりと治したほうがいいと思うんですよね。透析みたいに循環させてパラジウムだけ質量分離じゃないですけど、引っ張ればいいんじゃないですか。脱獄するために、守衛の体内の鉄分を超強い磁力で抜いて道具にした爺さんが居たって聞いたことありますよ」

 

「守衛はどうなったんだ」

 

「え、死んだんじゃないですか」

 

「……治療法の話でなぜ死人が出てきたケースを話すのか。頼むから私には慎重にやってくれ」

 

 痛くなければ覚えませぬ。

 怖かったら忘れませぬ。

 

 

 

「私の父は冷たい人だった。愛情を伝えてくれたことも無く、そして私にあまり期待していなかった」

 

 風を切って走っていた車が減速し始めた。

 ゆっくりと海辺を走らせながら、トニーは思い出すように言った。

 あまり接することも無いまま亡くなってしまった父親との思い出を繋ぎ合わせているように見えた。

 

「そんな父が遺したのがエキスポだった。ただの展示会ではないというメッセージも残して。……いや、エキスポの模型かもしれないが」

 

 俺に話しかけているかのようで、どこか自分への独白のようにも感じた。

 空も海も遠かった。

 雲がゆっくりと流れていた。

 

「私になら実現できると、父が残した最も素晴らしいものだと、そう言っていた」

 

 海を見ながら埃を払ってイチゴを摘まむ。

 見た目にこだわらないアメリカらしい大振りで、甘みと酸味がダイナミックなイチゴだ。

 うめぇ。

 

「そうですね、実現できます。ハワード氏と比べると恵まれていますからね。共同研究者がいなくなったハワード氏とは違い、なんとそんな素敵なトニーには優秀な助手が1人います。これが大きな違いだというのは確定的に明らか」

 

「だが、アーク・リアクターの開発にはあまり役に立たなそうな助手だ」

 

「アーク・リアクター関連は後進に徹してますが、コーヒーとドーナツを買ってくるくらいには優秀なんだよなあ」

 

「確かに。それは大きな働きだ。それに……」

 

 前を見据えたトニーがアクセルを強く踏み込んだ。

 エンジンが大きく唸る。

 

「成功を純粋に分かち合える。父と違って」

 

 再び車は風を切って走り出した。

 

 

 

 

  

 --7

 

『未来に必要な物はここにある』

 

 レトロな映写機を使って映し出された映像の中で、生前のハワード・スタークがエキスポの模型を背に動き、喋っていた。

 初めて見る映像だった。

 繰り返し撮影し、試行錯誤しているその姿が残されていた。

 

「……驚きました。こんな映像が残っているとは」

 

「そうか……。そうだろうな。私も父の知人から貰わなければ知らないままだった」

 

「知人、そうか。頭が回らなかった、失われた物を掘り起こしただけだったから」

 

 映像に集中して、少しばかり俺は呆けていた。

 それだけ映像が珍しかった。

 権威の場で研究について登壇しているわけでもなく、メディアへと露出する姿でもなく。

 ただ、1人の父親として、子に託すためだけに映像を残している姿が。

 

『私が残した最も素晴らしいものは――お前だ』

 

 天才でありながら、ベタでチープだと思った。

 そして、だからこそいいのだとも。

 根底の人間らしさがこの上なく大切なのだと俺に教えてくれる。

 

 

 

「映像もノートも素晴らしかったですね」

 

「それほどでもない。普通だ。ジャーヴィス、モデルを3Dにしろ」

 

 薄暗い部屋で、四つに分解されていた巨大な展示会の模型が分析されていく。

 操作できるように、トニーがそう付け加えると、ブレるように青いフレームの3D映像が浮かび上がった。

 道や店の配置が無駄なく綺麗に配置された会場だ。

 

「確かに大半は基礎的なことが書いてあるだけでした。面白いのは遡って研究していることです。最後に書かれた四次元キューブとやらに至るまでがとても」

 

 下からわかりやすく階段状に積みあがっていくのが普通の研究だ。

 他の媒体で補足したり、既知の部分を省いて欠落ができたとしても変わらない。

 しかしこのノートは違う。

 アーク・リアクターまでは普通に、既知の部分を省いて、積み上げている。

 そしてまた詳細を詰めていくのだが、転がるようにアーク・リアクターから元素までの構成物質の分析と特性を箇条書きにし、そこからまた積み重ねのアプローチが始まっているのだが、筋道が異なった方向へと進む。

 四次元キューブと、その考察が始まっている。

 惜しいことに途中で終わっているので、俺には欠片しかわからないが、凄まじい物質だとわかる。

 

「そう、そこだ。父が残したそれが重要なのかもしれない。店の数は?」

 

「わかります」

 

「いや、今のは独り言だ。ジャーヴィス、店を出せ。……ナズ、どうだ。何かわかるか?」

 

「いや、さっぱり。クッソつまらない施設ばっかだなって。ワッフル店もありますね。実は映像を解析して四次元に翻訳するとか。ワッフルと合わせるとか」

 

 正面、横、見下ろし、見上げて。

 わからないのでお手上げ。

 やはり四次元が関係あるのだろうか。

 

「視点も考えも固まりすぎたな。そして拘りすぎている。いいか、科学者は常に柔軟な発想が求められる。そして成すべきこと、成せるべきことを成していく。こういうのは視点を変えると見える物が変わる。わからなければ回せ」

 

 トニーが指を鳴らし、映像を回転させる。

 中央にある地球儀の模型を中心に、綺麗な軌道を描いている。

 完全な対称性を持っているわけではないが、何か意味がありそうな配置はしている。

 

「原子に見えないか? だとするならば原子核を大きくして……歩道を消せ」

 

「おけ」

 

 ぶん、と横から映像を叩くようにして指定した領域の歩道を消す。

 随分と見やすい形となった。

 

「まず会場を作るとしたら何が必要だ」

 

「展示物ですか?」

 

「そう、それだ。後から空白を埋める植え込み、樹木、駐車場、出入り口も消せ。パビリオンを元に陽子、中性子も含めて構成」

 

 トニーが指示する数値を補完しながらジャーヴィスが計算を進める。

 これは……

 

「ヴィブラニウムの同位体……ではないですね」

 

「確かに似ている。だがもっと複雑だ」

 

 トニーが手を叩き、音を鳴らした。

 構成した原子の映像が広がり、新たな物質を内部から見せてくれる。

 

「はは、父は私に今も教えてくれている……。どうだ、まだつまらない展示会か? アーク・リアクターのための発見、いや、新しい元素を再発見する瞬間だぞ。20年前から続く、ハワード・スタークのワークショップ付きで。世界、では収まらないな。宇宙でも唯一だ」

 

「いいえ、いいえ。つまらないなんて、まさかそんなことあるはずないです。……今のままでも地球上で最も、このまま進めば、宇宙で最も興奮する展示会かと」

 

「そうだろう」

 

 「まあ、父の未完成だった作品を私が完成させるまでが展示物だから当然だな」とトニーは悪戯っぽく笑った。

 この展示会を最初から最後まで見ることができるのは俺だけだ。

 それはまるで現実で見る夢のようで、俺にとって何よりも素晴らしいことだ。

 

 

 

「すごい……。こんなにもオービタルが……エネルギーが、いや、最も低いだけのわけではないのですね。安定しているのにこれでは奇妙だ。ハワードのノートを参考にすると仮の名称ですが四次元の先から受け取っている……? これならエネルギーを供給し続けられますね」

 

 トニーが持っていた3Dグラフィックを投げ渡されたので、拡大縮小しながら舐める様に見る。

 ただしこれには大きな欠点がある。

 

『これならばパラジウムの代わりにはなります。が、実現は不可能です。合成できません』

 

 そう、そこだ。

 ジャーヴィスが指摘した通り、合成できるとは思えない。

 とはいえ俺から見た場合の欠点であって、トニーにとっては欠点ではないのかもしれない。

 流石に俺も理論だけの物質を持て囃すわけではない。

 自信に満ちていた様子からトニーは可能だと考えたのだろう。

 

「ナズはどう思う」

 

「俺も同意見ですね。このままだとスタークが考えた最強の元素で終わります」

 

「それは何故だ?」

 

「俺が実際に計算したらばらばらになったからです」

 

 俺のAIに計算させた結果、空中分解しているモデルを見せる。

 美しさの欠片もないクソ雑魚モデルだ。

 ここには悲しみしかない。

 トニーが軽く回転させながら眺めていた。

 

「既存の関数を使うからだ」

 

「権威ある基底関数ですよ。足りないので延長線上の未発達なのも使いましたけど」

 

「何処にも無い物を作るのに何故自分から条件を狭めるんだ? 我々は権威で発明するのか、違う。世に理解されるために作るのか、違う。既に用意された物で不可能だから諦めるのか、違う。新しいということは自由だ、自分で作って使え」

 

 ハンマーを片手に、トニーが言う。

 俺が雑魚モデルをゴミ箱へ投げると、何故かハンマーで打ち返した。

 空中に浮かんでいた的のど真ん中に当たり、100点のファンファーレが鳴り響く。

 

「捨てる前にどこが悪いか考えて、そして作り直せ。私の素晴らしい再発見に刺激されて出来たモデルだ、きっとうまくいく。さあ、私もナズも大幅なモデルチェンジだぞ」

 

「スーツを?」

 

「スーツだけじゃない。高さ、広さも足りない。この家もモデルチェンジだ」

 

 ハンマーでトニーが壁を突き破り始めた。

 配線を剥き出しにするために、俺も倣ってマニピュレーターを展開して剥がし始める。

 

「我がままコーディネートですね。匠の技が光ります」

 

「違う。お洒落デコレーションだ。私のセンスが光る」

 

『お二人とも控え目ですから。上手くいくか心配です』

 

 ジャーヴィスの言葉に、控え目な俺は照れるなぁ^q^

 

 

 

 

 

 --8

 

 電気は任せろーバリバリーと配線をいじる。

 コードを圧着端子で束ねたり、ダクトテープで固定したりと禁忌の技を連発する。

 危険だけど、この家でそう何度もやることではない。

 トニーなんてノリノリでぶっ壊している。

 今のうちに遊びつくすんだ。

 一瞬……!!

 だけど閃光のように!!

 まぶしく燃えて遊ぶんだ!!

 ……燃えるのは家じゃないよな?

 

 

 

「調子は?」

 

「あ、どうも捜査官。ばっちりですよ。これから調整して加速器を運転させます。そちらは?」

 

「私も、まあ、悪くはありません。任務で少し出ていたくらいで」

 

「お疲れ様です。俺も全然寝てません。なんと1日6時間」

 

「え、あ、そうですか」

 

 どう反応していいか困っているコールソン捜査官。

 そんな変なことを言っただろうか。

 作業場に張り巡らされたコイルを見渡した後、ハワード氏が残した鞄の中を覗いていた。

 空間に投影されているディスプレイでリパルサーの調子を確認しつつ、コイルの水平性などを調整する。

 突貫作業で組み立てているので、歪みが凄まじいことになっている。

 真空計とガスモニタを見比べる。

 うーん、いまいち。

 

「トニー、ちょっと隙間があります! 真空の質はどうしますか!?」

 

「計算とレーザーの調整が難しくなるからなるべく高めだ! 今回だけだから無理して繋げて構わない!」

 

「おっけー!」

 

 反対側のコイルで作業しているトニーの返事を受け取り、ドックオックを使って人力では不可能な強さでネジをめり込ませていく。

 経路の途中にあるプリズムの角度以外は雑でも問題ない。

 数値も安定したので、次のコイルへと移動する。

 

「これは?」

 

「キャプテン・アメリカの盾で、ハワード氏が手掛けた試作品ですね」

 

 

 コールソン捜査官が興味深そうに鞄から取り出したのは、未完成の盾だった。

 確かキャプテン・アメリカという昔のヒーローが愛用している盾の試作品の1つだ。

 ハワード氏が手掛けた作品らしい。

 トニー的には特に必要のない物で、俺もあまり興味が湧く物ではない。

 

 

「キャップの? 実はファンなんですよ。トレーディングカードも持っています」

 

「やっぱ人気なんですね」

 

「ええ、もちろん」

 

 どうやらコールソン捜査官もファンらしい。

 アメリカではキャプテン・アメリカは大人気の存在で、よくトニーを批判する人が持ち上げるヒーローだ。

 昔の存在なのだから、限界いっぱいまで美化されている気がしないでもない。

 寝ずに人を助け続けるヒーロー説とか持ち上がるくらいには尊敬と羨望を一身に受けている。

 ホントにそんなヒーローがいるのだろうか。

 

「アイアンマンは?」

 

「そうですね……。うーん、ほどほどくらいには人気ですかね?」

 

 芳しくない反応にちょっと笑ってしまった。

 やっぱりアメリカ人はパワードスーツよりもピチピチとした全身スーツが好きなのだろうか。

 アメリカの感性ってよくわからない。

 機能美に溢れた機械とかいいと思うんだけど。

 科学って戦うって浪漫じゃん。

 

 

 

「ナズ、こっちが下がってる!」

 

「今噛ませます!」

 

 盾に目が行く。

 コールソン捜査官と目が合う。

 悲しそうな顔をされた。

 いや、流石にファンの前でヒーローの象徴を土台には使わないってば。

 ドックオックを滑り込ませ、高さを調整して固定する。

 

「ちょっと足りないな」

 

「ドックオックで持ち上げ続けますか?」

 

「いや、その()は切り離して置いてくれ。……そうだな、そこのヒーローの一部を噛ませれば良さそうだ」

 

「わかりました! 流石は天才、完全に水平ですね」

 

 ばきばき、と音がしてコイルが安定した。

 着ているレインコートからレーザーを照射して条件を計測しながら、かつ水平器で大げさに完全に水平であることを告げる。

 ちなみに下敷きにしたのは自然公園でストリートパフォーマンスしたときに作った彫刻のアイアンマン(仮)だ。

 今や頭が下敷きでア/イアンマン(仮)だけど。

 

「……まだ怒ってるのか」

 

「全然怒ってません。しかし、ポッツさんが処理していた外からの雑事を躱す仕事があるわけで。それを無能のトニーが喧嘩したことで俺に流れてきているという事実は粘土細工の崩壊を招いたことと否定はできませんね。不思議ですね」

 

「……最近はレースが無かったからトニー・スタークに心当たりはないから不思議だが、一応聞いておこう。……つまり?」

 

「ペッパーの苺です」

 

「やっぱり怒ってるじゃないか! レーサートニーが全部悪いと言っただろう!」

 

「都合よく作った便利な人格に押し付けて解決を図ろうとするとか子供だってやりませんよ!」

 

「助手は頭が固いな。私は天才だからなんだって出来る」

 

「ボス、開き直るのずるくない?」

 

 トニーが口笛を吹きながら、加速器のコンソールへと逃げる。

 「ポッツさんと後で仲直りしといてくださいよ!」と声をかけると、手をひらひらと振ってきた。

 周辺に散らばる余ったパーツやごみを避ける。

 加速器の稼働中に足を引っ掛けて断ち切られて死にました、とかだと笑うに笑えないし。

 

 

 

「あ、そうだ。捜査官、今日のご用件は?」

 

 なぜか微笑んでいたコールソン捜査官に訊ねる。

 盾が守られたことが嬉しかったのだろうか。

 ファンだからそういうものかもしれない。

 

「君たちに別れを言いに。これからニューメキシコ州に転勤となりました」

 

「それはそれは。栄転ですか」

 

「そうなれば、とは思っています」

 

 「何かありましたら最大限協力します」と手を差し出し、握手を交わす。

 随分と迷惑をかけたが、何も返せなかったのが残念で堪らない。

 何か協力できると嬉しいのだが、一般人には難しいところだろう。

 

「トニー! 捜査官がニューメキシコ州に転勤になるそうですよ! お礼を言ってください!」

 

「わかった! あー、私が必要か!?」

 

「そんなには! どちらか選ぶならミスターナツメのほうが必要です!」

 

「トニー、優秀でごめん!」

 

「私のコーヒーとドーナツ運搬係だぞ!」

 

 コールソン捜査官が無慈悲な言葉を突きつけた。

 断られたうえで俺は必要と言われてトニーは内心でちょっとしょんぼりしているだろう。

 珍しい状況でちょっと面白かった。

 トニーの返事に笑みを浮かべながらコールソン捜査官は「これがヘッド・ハンティングです」と俺に言った。

 

「それだけじゃないです! ファストフードも用意できます!」

 

「それは私のほうが多いぞ! 良くてブリトーを食べる機会を用意するくらいだ!」

 

「コーヒーとドーナツを用意させるには贅沢すぎる人材ですね! あとミスタースターク、冗談です!」

 

「そうでないと困る! あー、魅惑の地ニューメキシコで、いや……幸運を!」

 

 顔をちらっと出し、サムズアップしてコールソン捜査官に言うとまた引っ込んでしまった。

 

「恥ずかしがってますけど最大限の褒め言葉です。大抵はそれっぽいことを聞き心地よく言いますけど、顔も名前も立場も考慮しませんから。……男性相手だと特に。あと嫌ってたら何も言わないか、近寄るなって言います」

 

「わかっています。君たちは控え目ですからね」

 

「そうですね。奥ゆかしさしか似てないのが瑕です。一緒にいる時間はとても長いのに噛み合わな過ぎますね。息が揃わなくて困っています」

 

 コールソン捜査官が吹き出した。

 ちょっとしたジョークなのだが、そんなに面白くもないはずだ。

 まあ、笑ってくれたのなら良しとしよう。

 あまり面白くない仕事だっただろうし、それなのに苦労は多かったはずだ。

 そうだ、と思いつく。

 

「トニー! 盾ってもらっていいですか!」

 

 口笛で返事される。

 

「良いみたいです。捜査官、お土産にいかがでしょうか。いえ、今までの仕事の大変さに比べたら微々たる物でしょうけど」

 

「……大変嬉しいのですが、あまり物を持っていけそうに無くて。なんというか、不明瞭な仕事が待っていまして」

 

 眉間に皺を寄せ、苦しげにコールソン捜査官が断りの言葉を吐いた。

 本当に残念でたまらないといった顔だった。

 

「あ、そうですか。それは残念です。それなら余裕が出来たときに渡しますね。俺も未完成とは言えハワード氏の作品に手を加える予定は無いので、このまま保存しておきます」

 

 未完成のため、断面などを見ることができる。

 後でちょっと勉強させてもらおう。

 今でも語り継がれるヒーローが使った盾の試作品だ、知識の糧になるだろう。

 

「それでは幸運を」

 

「ありがとうございます。それではコールソン捜査官も幸運を。今回の問題はすぐに解決できると思いますので、捜査官も急いで駆け付けなくても大丈夫な状態で収まると思います」

 

 「たぶん、きっと、おそらく……」と段々自信が無くなりながら俺が言う。

 コールソン捜査官は笑いながら部屋を出て行った。

 

 

 

 トニーがコイル各所にプリズムを設置し、細かく角度を調整していく。

 リパルサー・レイによって生成したプラズマを磁場で集束させるのだが、それでも足りないのでプリズムでさらに一点へと集中させるのだ。

 スタークが考えた最強の元素を生み出すには膨大なエネルギーを必要とする。

 装置の強度が足りなくて漏れ出て、レーザーに当たれば体に穴が増えて、運が悪ければ死ぬ。

 まあ、銃弾だって体のどこに当たっても大きな血管を破られたら致命傷になるのだからあまり変わらないだろう。

 むしろレーザーなら熱で焼かれるから穴の側面を塞いでくれるまでありえる。

 

「ポンプはどうしますか?」

 

「軽く中の空気を引いたら一気にやってしまおう。そして内部でレーザーを走らせて熱で一気に吐き出させる。リパルサーの加減を決めるのに、内部の空気が邪魔なだけだから安定すれば不要になる。どうせこれは今回限りだ」

 

「まあ微々たる要素ですからね。失敗したときにもう一回使えないってなったら萎えますけどいいですかね」

 

「私なら失敗しない。何か問題でも?」

 

「あっはい、無いですね。じゃあやっちゃいましょう」

 

 トニーが安全装置のマスターキーを回し、加速器を稼働する。

 青白い光がコイル内を満たす。

 ボン、と空気が破裂するような音がして、各所に付けていたポンプが止まる。

 振動でコイルがズレたかと思ったが、トニーは問題ないと俺に視線を送ってプリズムを調整し始めた。

 安定してきたので、コイルを切り替える。

 切り替えた先のプリズムに当てることで、スタークが考えた最強の元素を生み出すのだ。

 

「トニー! レーザーがコイルを突き抜けて壁際が焼けてます!」

 

「何!?」

 

「最後のプリズムが割れてます! 粗悪品なのか振動で壊れたかはわかりません! 止めますか!?」

 

「いや、もう構わない! 手前のプリズムを無理やり動かして照射する! 手伝え!」

 

 ハンドルを掴んでいるトニーの傍に向かう。

 このハンドルが内部のプリズムと繋がっていて、角度を調整するのだが、予定以上の角度を求められているので無茶苦茶硬い。

 普段科学の恩恵を一身に受けていることを理解させられてしまう。

 

「もっと力を入れろ!」

 

「これが俺の素の限界です!」

 

「これだからマニピュレーターに頼りっぱなしは!」

 

「アイアンマンの中身だって役に立ってないじゃないですか!」

 

 ぐぬぬぬ、と二人で回すが全然動かない。

 作業時間ばかり優先した結果がこれである。

 ただ、ここで止めると作り直しが待っている。

 リパルサーの条件が変わるので、壊れたまま加速器を稼働しても満足な結果は得られない。

 

「発想の転換だ!」

 

「どうするんです!?」

 

「ちょっと離れて辺りを見回せ!」

 

 そう言うと、手を放して少し離れるので俺も倣う。

 壁が焼けているがまだ大丈夫だ。

 使える物は何か……。

 

「あったよ! モンキーレンチ!」

 

「でかした!」

 

 床に置いてあった巨大なモンキーレンチをトニーに手渡す。

 モンキーレンチでハンドルを固定するのを見て、すぐに二人で回す。

 下半身に力を入れるんだ!

 筋肉量は下半身のほうが圧倒的に多い!

 壁を焼き切り、棚や薬品箱、配電盤を切断しながらレーザーが進む。

 やがて眩い光にスタークが考えた最強の元素の元が包まれた。

 

「これ大丈夫ですか!」

 

「タイミングが重要だが私以外なら無理だ!」

 

「最初からかなり条件が変わっていますよ!」

 

「……今計算したから問題ない!」

 

「今!?」

 

 ここだ、とトニーが停止を押す。

 レーザーが消える。

 目的としたアーク・リアクターのコアには青白い光は残ったままだった。

 

「簡単だった」

 

「ええ、全くです」

 

 肩を上下させて、汗だくになりながらトニーが言うので俺も答える。

 いやーマジ簡単だったわー。

 次からは予備のドックオックを用意しようと思うし、トニーはアイアンマンスーツを着たほうがいいと思う。

 いや、簡単だったけど一応。

 一応ね、何があるかわからないし。

 

 

 

 

 

「……見てみろ、ナズ。展示物の完成だ。スタークが生み出した最強の元素だ」

 

「……ええ、そうですね」

 

「……どうだ、まだついでか」

 

「……まさか、そんなわけがない。ありえませんよ。決して」

 

「……ワークショップは大成功だな」

 

「……言葉が見つからないです」

 

「……宇宙一だろう」

 

「……ええ、ええ。……宇宙で唯一です。……プロメテウスの火です。……いや、もうこれは「光あれ」です。……ダメだ、讃える言葉が見つからない」

 

『リアクターがコアとの適合を確認。……コンディションも良好。おめでとうございます、新元素を生み出しました』

 

 ジャーヴィスの言葉に応える様に、アーク・リアクターが見惚れるほどに輝いていた。

 言葉が上手く出てこない。

 目を奪われるのは、その光があまりに素晴らしかったから。

 呼吸を忘れるほどに美しい。

 ただ、目に焼き付けておきたかった。

 

「……素晴らしい人物が残した最も素晴らしいものは、ここにありましたね」

 

「……父が残し、私が見つけた」

 

 思わず呟くと、トニーが噛み締めるように言った。

 涙は出なかった。

 胸にずっと残っていて欲しかった。

 生み出される背景を知って、その結果を見ているからこその感動だった。

 この素晴らしさは不変なのに、きっとわからない人にはわからないのだろう。

 

「……だから当然のことだ」

 

「……そうでしたね、当然のことでした」

 

 だけどそれでいいと思った。

 この感動はきっとトニーと俺だけの物だった。

 

 

 

 

 





みんな、着いたで。

ここがおまえらの本部となるガースー黒光りアベンジャービルや。

みてみぃ、立派な来年更新予定の知らせが置いてあるやろ。

今日はお前達に、来年までここで待機してもらうで。
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