私たちは夢と同じもので形作られている   作:にえる

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アイアンマン2後(完)

 

 --9

 

 ペタワット単位のレーザーで壁を焼き切ってしまったので、ロボットアームたちを引き連れて片づける。

 機械の腕が無いだけで、俺は9割以上パワーダウンしてしまう。

 馬力がある型は完全に消失している状態だ。

 鞭男に2本ぶっ壊され死亡、1本は不良品のプリズム直下で漏れ出た熱によって死亡、最後の1本も不良品のプリズムを何とかしようと中にぶち込んで焼き切られてひっそりと死亡していた。

 俺の背には悲しみしか残っていない。

 しょうがないので、半透明の()がいい腕を使うとしよう。

 ただ、非力かつ繊細なのでパワーが足りないのが欠点なんだが、今後改善する予定ではある。

 片づけだけに集中するのも芸がない。

 片手間ではあるが用意したいつものあれをするとしよう。

 

「はい、では今日の3秒クッキングはアイアンマンのカラーにも採用されているイエロー、スイートポ……」

 

『トニー、調子はどうだ?』

 

 喋ってる途中で電話がかかってきたので、トニーが気軽に出るとイワンの馬鹿の声が響いた。

 ふざけやがって殺すぞ。

 ハワード氏の鞄の中に残っていた新聞記事には、共同研究者アントン・ヴァンコが亡命したことを書かれていたのを思い出した。

 そのアントンの息子が鞭男ことイワンだ。

 しかし、名前がイワンだと、純粋にこいつを馬鹿って言ってるのか、ロシアの民話に出てくるイワンを比喩して馬鹿って言ってるのかわからなくなる。

 民話だと愚直で純粋なイワンは最後には幸せになるって展開が多いのだが。

 愚直で純粋……?

 愚直ではあるけど、純粋とは思わない。

 

『40年の嘘が、あと40分で白日に晒される』

 

「死人からの電話だぞ、ナズ。どうやら私は天才すぎて本物の電話を発明してしまったようだな。……ナズ、死後はどこにあると思う?」

 

 トニーが視線を送ってきたので、半透明のマニピュレーター、その指先を伸ばす。

 

『……お前の父親の仕打ちを、お前に与えてやる』

 

「私は父から素晴らしい知識と発見を与えられた代わりに共に過ごせる時間はほとんどなかった。イワン、お前は父親から知識を与えられ、掛け替えの無い時間を仲良く過ごした。どうだ、私のほうが不幸だろう?」

 

『……盗人にふさわしい嘘ばかりつく』

 

 トニーとイワンが楽しく会話している間に、()をコンピューターに差し込んでおいた。

 ハマー社長激おこ技術だ。

 ジャーヴィスがトニーに指示を乞う段階をすっ飛ばして、逆探知をかけておいた。

 邪魔が入っても特化したAIに勝てるわけがない。

 特定が進んでいくので()を離しても問題ない。

 足が必要なので車を回すとしよう。

 高所恐怖症なのでマジで嫌だが、一番速いのが車なのでしょうがない。

 セグウェイでもいいけど、生身で空飛ぶセグウェイに乗るとか怖すぎて死んでも嫌……。

 

「スタークの仕打ちって言いますけど、息子からの仕打ちのほうが酷いと思うんですがそれは。貴方の父親はアーク・リアクターでお金儲けしようと企んだら共同研究から弾かれた結果、国に帰らされて強制労働に従事したってことは別に悪いことするつもり無かったみたいですし」

 

 実は研究成果は取り上げられていたかもしれないとか、暗殺に怯えてたとか、そういう可能性は無視だ。

 だって興味ないし、知らないし。

 そもそも「たられば」の話をしたら、可能性は無限大だ。

 

『……俺は、父の顔に、泥を塗っていない!』

 

「そりゃそうですよ、土の下にいる死人の顔に泥は塗れるわけないじゃないですか。あ、わかりました。掘り起こして、電気鞭を使って心臓マッサージで蘇生とかやればいいじゃないですか。「ほら見て、パパ! 教えてもらった通りにやったら電気の鞭ができたよ! これで色々なことをやったからパパには新しい顔だよ! 泥で作っておいたけどね!」みたいな。溜め込んだ40年の知識で運命の再会した男を待っていたのは息子による泥の顔……」

 

『通話が切断されました』

 

 ぷつん、つーつー。

 ジャーヴィスが、通話の終了を告げた。

 楽しく会話している途中で切るとか、コミュ障すぎるのではないだろうか。

 そもそもこっちはアーク・リアクターの感動に浸って楽しくしていたのに、上機嫌で電話してきて邪魔するとか空気が読めないにもほどがある。

 ……。

 

「ナズ、結果は?」

 

「心の底から腹立たしいですし、フィクションばかりのセリフだと思っていましたが言うしかありません。逆探知失敗しました、すみません。むかつくので軍事衛星を使って探してミサイルぶち込みます」

 

「いや、そこまで大事にしなくても大丈夫だ。……しないよな? ……そう、そもそも冷静に関連性を考えればわかることだ」

 

 トニーがディスプレイを指し示した。

 表示されているのはハマー社長がエキスポで大きな発表を予定しているというニュース記事。

 ハマー社は開発周りの評価がズタボロとなっており、かつスタークとの因縁がなんちゃらというには都合のいい舞台だ。

 まあ、それはそれとして。

 

「あー、テンションが下がりました。イワン野郎は空気を読むのが苦手って理解しました。もう寝ます」

 

「寝るよりまず走れ、だ。今からテストするぞ、ナズ」

 

「えぇー、ほんとにほんとにやるでござるかー?」

 

「スタークエキスポの集大成が見たくないなら別に仮眠していてもいいぞ。ジャーヴィス、早速リアクターを接続する」

 

「……ぐぬぬ、でもテンション下がったから寝たいしー」

 

 ちらちらと見ながら、テンションダダ下がりをアピール。

 リアクターが輝き出した辺りでガン見である。

 仕方ないね。

 

「おっと、ココナッツ味……」

 

「ココナッツ……」

 

「しかもメタル風味」

 

「メタル……!」

 

「アイアンマンの新たなバリエーションはメタルココナッツフレーバー」

 

「ほわあああああ!!! しょうがないですね!! スーツと車を用意してきます!!! べ、別にアーク・リアクターの表現があまりに斬新だったからテンション上がったってわけじゃないんだからね!!!」

 

 そこんとこ勘違いしないでよね!!!

 ね!!!!!!

 

 

 

 

 

「ヘーイ、アイアンマーン! 急ぎだろ? 乗ってけよ!」

 

 オープンカーの助手席を親指で示しながら、新しいスーツに身を通したトニーに声をかける。

 渋い顔をしながらトニーが乗り込む。

 なんて失礼な反応なのだろうか。

 セグウェイだとダサいから車にした俺の気遣いもあるというのに。

 後で俺のドライビングテクニックに酔いしれな!

 

「……ナズ、免許は」

 

「ヒーローに免許が要らないように、ヒーローを支える椅子の男(チェアマン)にも免許は不要なんですよ」

 

「やっぱり私は飛んで行こうかと思う」

 

「アイアンマンも空から行くんですか? なんと奇遇な! 私も空から行く予定なんですよ。いやー、偶然って怖い」

 

 俺とトニーを乗せた車が浮き始める。

 空飛ぶセグウェイのついでに出来上がった空飛ぶ車だ。

 名前はまだない。

 トニーが気に入ったらペッパーとかポッツとかつくかもしれない。

 

「……ちなみに運転手君、空を飛ぶ乗り物の操縦経験は?」

 

「セグウェイを嗜む程度ですかね」

 

「それは地上を走る乗り物だ」

 

「あー、見解の相違ですね。空を自由に飛ぶ鳥は免許を持っているのかって話ですよ」

 

「違う。陸上で生活する人間が飛行機などを操縦するときには資格が必要という話だ」

 

「あ、エアバッグとか安全装置の心配? 問題ないです。ほら、タイムマシン」

 

「それは未完成品だ。時間を撒き戻して解決どころか肉片をまき散らして終了だ」

 

「はい、これはトニーの分です」

 

「おい、やめろ。巻き付けるな。……くそっ、肩甲骨あたりに付けるなんてなんの嫌がらせだ! 外せない!」

 

 

 

 

 

「おい。外せないぞ」 

 

「言葉だけでは分かり合えないから戦争がなくならないんだよなあ」

 

「おい。……おい」

 

「準備も出来ましたね。じゃあ、出発しましょう。ジャーヴィス、頼むね」

 

「結局ジャーヴィス頼りか」

 

「それを言うならアイアンマンの飛行もジャーヴィス頼りじゃないですか」

 

「なるほど、不思議だな」

 

「うーん、不思議ですね」

 

 我々がジャーヴィスに依存してしまうのはなぜか、答えはわからず不思議だけが残った(すっとぼけ)

 

 

 

 

 

 

 --10

 

「見てくださいトニー。なんとこの車、クラクション付き」

 

「見なくても聞こえるんだが」

 

「ノリです」

 

 プワーと気の抜けたクラクションが鳴る空飛ぶオープンカー。

 車種?

 余ってたパーツで組んだから知らない。

 動力源は試作型のアーク・リアクターだから最新のエコカーかもしれない。

 デザインは古いアメ車だけど。

 未だにトニーが作った初代のアーク・リアクターに敵わないんだけど、技術力がどうなってるんだ。

 確か洞穴で満足に材料も用意できない環境で作ったって聞いたんだが。

 極限状態で凄まじい集中力を引き出したとかそういう話なの?

 

「安全に気を使ってるな。使いどころが限られているところが欠点だと思うのだが」

 

「え? 超使いますけど? 空を飛んでる相手に注意を促すから超使いまくりますけど?」

 

 プワー、プワー、と車から鳴り響くクラクション。

 連打することで渋滞が起きても安心して進むことができる。

 渋滞するほど空に何かが飛んでるとか嫌すぎるけど。

 

 

 

「あー、まあ、確かに最近は色々あるって話だからな。新聞に載ってた緑の、あー、なんだ」

 

「ハルク?」

 

 軽く調べただけでも色々な映像や口コミを見かけることができた。

 情報化社会の有り難いところは、証拠が何処かしらに残りやすいところだろう。

 ハルクが暴れた現場でのインタビューで、大きさを表すときに「船のように大きかった。廃船になった船みたいな」と話していて、そこからハルクという名前が付けられていた。

 おそらく表現が特に秀逸だったし、通りが良かったので選ばれて、さらに有名になったという感じか。

 

「そう、そいつだ。そいつと出会ったらクラクションを使えばいいんじゃないか」

 

「避けてくれますかね。暴れた結果、ブロードウェイとか滅茶苦茶になったらしいですけど」

 

「相手が避けなくてもその音に気付いたアイアンマンが行く。これで安心だな」

 

「やだ、カッコいい……」

 

 プワーと鳴らす。

 注意を促すだけでなく、助けを呼ぶ意味にもなったクラクション。

 

「でも実際にハルクが暴れたとき、アイアンマンは泥酔してましたよ。体調が悪いままダンスしてハッチャけた後にスーツを盗まれたり、他のアイアンマンと戦ってたんですよね。クラクション程度で駆けつけてくれるんですかね」

 

 ちなみに今のクラクションは注意を促す意味だ。

 体調を隠して勝手に弱ったり酔って何もできてなかったんだが、的な。

 

「……まずいぞナズ。レーサーのトニーが悪さしたようだ、呆れたやつだな。だが安心しろ、もう死んだ」

 

「もうレーサーのトニーはいい加減に成仏させてあげて。死からの復活とか宗教的にやばいですし」

 

 何度蘇るんだ、レーサートニー。

 そして何度死ぬのだろうか。

 そろそろ埋めよう。

 

 

 

「あ、でもハルクの話題のおかげでアイアンマンの暴走とかあんまり騒がれませんでしたね。いつものトニーのヤンチャっぽい感じで済んでましたよ」

 

「いいやつじゃないか。お礼は何がいいと思う?」

 

「えっ、お礼? ……スーツとかでいいんじゃないですか。正装とか持ってなさそうだし」

 

「なるほど、悪くない。それなら一張羅でも用意してやろう」

 

「あー、いいですね。なんか凄いのにしましょうよ」

 

「そうだな、なんか凄いのにしてやろう。そうだ、飛ぶのとかどうだ?」

 

「お、クラクションの出番が有りそうですね」

 

 プワーと鳴らす。

 体が物理的にでかすぎるから服とかどうなのっていう。

 使う機会?

 知らない。

 俺は雰囲気で喋っているし、トニーはテキトーなその場の空気を吸って生きている。

 俺たちはその瞬間を閃光のように駆け抜けていく、知らんけど。

 

「服を貰って喜ぶくらいハルクがいい人だったらトニーはどうしますか」

 

「人……? そうだな、想定だし楽観的すぎてもいいか。私の仕事が楽になる、とか」

 

「いやいや、楽になったらどうなるかって話ですよ。楽になるのは過程じゃないですか。その結果として、ですよ」

 

「とりあえずスーツは改良し続ける。特に着脱だな」

 

「わかります」

 

 深く頷く。

 わかりみが濃い味でナチュラルボーンなので自然になりつつある。

 スーツをいじるのは趣味。

 無意味に強くするし、なんなら無駄にカッコいい着脱を極めていきたい。

 超絶強いビームとか撃ちたい。

 逆に使い勝手のいいビームも積みたい。

 人間ほどの大きさだとやりたいことを全部詰めるほど容量が無いのが悩みだ。

 

「あとは……あー、何だかんだ平和になる」

 

「何だかんだ」

 

「私が増えるとかアイアンマンが増えたりして世界が平和になる、みたいな。そこはあやふやだが、そんな感じでなんかいい感じに平和になる」

 

「あやふや」

 

「ヴィジョンは定まってないが、そんな感じだ。……なんだ、文句でもあるか」

 

「いや、いいですね。超平和そうだなって」

 

「そうだろう?」

 

 事件が起きたら空を飛んでいくアイアンマンたち。

 軌道上の基地から発進するのだろうか。

 無人か有人か。

 トニーがそんなに多く信頼する人間がいなさそうだし、国に対してもそんなに信じてないので、無人かも。

 軍人が着てたらそれはそれで暴走しそうだ。

 それはそれとしてアイアンマン軍団とか強そう(純粋な感想)

 

 

 

「そしてまだそこは過程だ。本題はこれから」

 

「まさかの過程」

 

「私くらいになるとアイアンマン軍団すら過程の話になる」

 

「すごい」

 

「そうだな……そうだな。あー、うん、とりあえず平和になると私の時間が増える。そうなるとナズの時間も必然的に増える」

 

「確かにそうなりますね。それで何かしたいこととかあります?」

 

「……その結果、バーガーを食べる」

 

「トニースタークがやることにしては雑魚すぎる……」

 

「待て、ピザやドーナツも食べるぞ」

 

「別に今もやってるんだよなあ」

 

「……なかなか言ってくれるじゃないか。ならナズは何する?」

 

「俺ですか。あー、じゃああれです。……秘密基地を作ります」

 

「秘密基地か。いいじゃないか」

 

「湖畔近くとかの林か森の中に。そう、そこでいつもは機械とかいじってるので、逆に木造のログハウスとか作ります」

 

「面白そうだな。私も何か作ろう。椅子とか」

 

「もっとすごいの作りましょうよ」

 

「いや、腕力とか体力とか気力がその頃はどうなんだろうな、と思った末というか」

 

「じゃあ俺がケアロボットを作って体調とか診ます。手抜きしていたベイマックソをちゃんと作ったり。あと機械を使うのも有りにしましょう」

 

「そこまで緩めると普段と変わらなくないか?」

 

「楽してなんか良い感じにしたい。そもそも木造したいだけで苦労がしたいわけじゃないですし。はい決定」

 

 やれやれ、と首を振るトニーを横目にプワープワーとクラクションを鳴らした。

 そもそも貧弱だからロボットアームがないと作業にならないって、最強の元素を生みだすときに苦労して知ったし。

 買ってでも苦労する前に、楽するために何か作るよ俺は。

 

 

 

「あ、ちなみに今のクラクションは到着を知らせました。あと会場の救援も」

 

「……正直、音がわかりにくいな。ここでハルクに襲われたら諦めてくれ」

 

 そ、そんなー^q^

 

 

 

 

 

 --11

 

「あ、やべっ」

 

「ナズ、今やばいって言ったか?」

 

「え? 言ってませんけど?」

 

「ナズナ」

 

「歩くより走ることに念頭を置いた結果、着陸は俺の腕によります。祝え、レーサーナズナの誕生を!」

 

「良し、プランNだ。臨機応変に動くぞ」

 

「あー、それってプランHと違いとかありますかね? トニー・スタークさん」

 

「……ナズが車で低空から、私が空から。つまり挟み撃ちの形になるな」

 

「ちょっと聞いたことがない挟み撃ちですね……」

 

「リストボンバーを外したら助けることも考えよう」

 

「外しました」

 

「憂いも無くなったので私は先に行く」

 

「えっ……」

 

 プワープワー、ガシャーン、ズドンッ、みたいな。

 最初のプワーが会場に向けてクラクションで着陸をアピール。

 ガシャーンでステージになぜか置いてあった複数のロボットをブレーキにした音。

 ズドンッがアイアンマンのスーパーヒーロー着地だ、カッコいい。

 演説していたハマー社長の演出が全部食われていたようだが、知らんがな。

 

「いやあ、いい夜ですねハマー社長。これで泥船に乗ってたら死んでましたね、俺」

 

「……君は自分が何をしたかわかっているのかね? 今さら売り込みにでも来たか? 答えはノーだ。君の大好きな球場も、野球も必要が無くなったからもちろん無い。次世代を背負う兵器の紹介でこんな悪質な悪戯をしたら新聞記者たちがインクを買い求めるだろうな?」

 

「それ面白い冗談ですね。意外とユーモアがある」

 

「……意外と、は余計だ。常にある」

 

「なにそれ超面白い」

 

 額に青筋を浮かべて吊り上った口角を痙攣させながらハマー社長が言った。

 それを横目に、半透明の義手を車止めのロボットに差し込む。

 自動制御されたドローンだ、いいなあこれ。

 今度作ってみよう。

 他の会社のロボットを盗み見ていいのかって?

 いいんだよ! ばれなきゃね!

 半透明デバイスだから見えにくいし、将来的には透明にしたい。

 光学迷彩とかかっこいいよね……。

 

「泥で船は作れなかったので、スタークの空飛ぶ車に乗ってきました。あ、なんか置いてあったロボットにぶつけてしまったけど壊れてないから問題ないですよね。フレームが歪んでるかとかは知りません」

 

「問題がないだと……? 無い様に見えるのか……?」

 

「うん? うーん……? あー、見えます。アイアンマンの代わりになる次世代兵器が車にぶつけられただけで問題になるのってやばいですよ。……え、やばくない?」

 

 顔色が変わらないからやばいっしょとスラングを連呼してみた。

 ぷるぷる震えていた。

 マナーモードかな?

 

「会場を見ろ! 水を差された!」

 

 ハマー社長が指で観客席を示した。

 振り向けばスタンディングオベーションの客席、片腕を挙げて声援に応えるアイアンマン。

 そしてマナーモードのハマー社長をもう一度見る。

 空飛ぶ車、立ち並ぶドローン、この前飛んで行ったアレンジされたアイアンマンスーツ、そして洗練されたアイアンマン。

 いや、でも俺もアイアンマンが並んで手を振ってたら興奮する。

 なるほど、つまりそういうことか。

 

「……ラジコン、パチモン、アイアンマンの流れで今日一番の盛り上がり?」

 

「貴様……!!」

 

 一生懸命現場の雰囲気と空気から察したのだが、どうやら違ったらしい。

 大まかな感情とか感じ取れる俺でも、他人の考えは読めないようだ。

 奥が深いなあ。

 

「ナズ、代われ。イワンはどこだ」

 

「……誰だそれは? スターク、そもそも何しに来た? 取って代わられることへの嫉妬か?」

 

「もういい、話にならない。……ナズ、悪い知らせだ」

 

「へー、じゃあ俺は帰って寝るんで」

 

「助手の仕事があるぞ。透明の『手』でイワンを探せ」

 

「じゃあ家で探します。こういう無人機とかの演出だと、ほら、よくあるじゃないですか。アメリカ映画的なお約束が。夜は美容にも悪いんで帰って寝ます」

 

「なるほど。ちなみに私は改造された趣味の悪いスーツにロックオンされた。ドローンからも」

 

「奇遇ですね、俺も悪い知らせが。なんとこのドローン、制御は会場ではない別の場所がメインです。ジャミングしてみましたけど、そろそろダメかなって。まあ、つまりは遠隔では止められません」

 

「……」

 

「……」

 

「良し、ドローンは任せた」

 

「ドローンは任せました」

 

「ローディは私が止める」

 

「いやいや、あのスーツは俺が調整したので俺が適役ですよ? 俺が止めます」

 

 見つめ合った後に出た言葉は同じだった。

 ドローンみたいな大量の敵は普通にアイアンマンの出番だ、そうに違いない。

 ハマー社長が話の流れについていけず、疑問の表情を浮かべているが無視である。

 会場が戦場になるってだけだし、ちょっと経てば知らなくても体験できるから問題ないね。

 百聞は一見にしかずって名言を覚えて帰れるってそれ古代から言われてるから。

 

「それなら囮作戦です! 中佐は任せてトニーは先に行ってください!」

 

「それだと囮は私になるよな?」

 

 改造されたとしてもアイアンマンスーツのほうが勝手はわかっている。

 砲身もずっとアイアンマンを狙っているので楽そうだし。

 そもそも敵が開発した兵器に立ち向かう助手ってなんやねんっていう。

 悔しいけどヒーローに出番を譲るね。

 

「……えー、フラッシュに囲まれ慣れているトニーなら余裕かなって信頼しています」

 

「待て、無数のマズルフラッシュとカメラフラッシュは威力が桁違いだぞ!」

 

「どうせトラブルをすっぱ抜かれて世間に叩かれて変にダメージ受けるくらいなら、熱烈な出待ちファンの熱い弾丸でも受け止めて下さい。はい、作戦開始! 幸運を祈ります!」

 

「クソっ! 見えないところでカッコよく勝ってくるからな!」

 

「え、ずるい! 活躍は見せて!」

 

「ダメだ! よし、作戦開始!」

 

「ふぁっきゅー!!」

 

 爆音とともに飛び立つアイアンマンと操られたドローン。

 銃撃音が響き渡っている。

 戸惑っているハマー社長に中指立ててふぁっきゅーしてからローズ中佐の派手なお洒落デコレーションスーツに組み付く。

 控え目な俺の目には刺激的過ぎる。

 特に砲身とか厳つ過ぎる。

 ドックオックのバリエーションパーツである『手』を伸ばし、スーツのコネクターにぶち込む。

 あとは映画でよくある「良い子だ……よし!」(カチャカチャターン)みたいな感じの事を言ってエンターを叩いて無駄に音を出せば終わりだ。

 

「良い子だ……よ……ほわあああああああ!!」

 

 ジャミングを掻き消されて、お洒落スーツが勝手に動き出した。

 まあ、なんというか。

 そう。

 ……人間はアイアンマンスーツが有れば空を飛べるんだなって^q^

 

 

 

 スーツは着てないし、物理的に背中に捕まってるんですけどね!!

 

 

 

 

 

 

 

「ほわあああ!!」

 

『ナズナ!? 何をしている!? 目の前のディスプレイが明滅しているんだが!?』

 

「正常に起動させようと、ちょ、待って、風圧、風がすご回転はほわあああああ!!!」

 

 背中に掴まっているとぐるんぐるんと空中を振り回される。

 今使っているドックオックの『手』は細かい作業用のため、いつものと比べて非力だ。

 しかも俺は高所恐怖症。

 やめてください死んでしまいます。

 

『まずいぞ! トニー、君をロックオンしたみたいだ!』

 

 中佐の言葉に顔を前に向ける。

 飛行中のアイアンマンと、その後を追って団子状態になっているドローンを視界に捉えた。

 お洒落スーツが肩に担いでいるガトリングを撃とうとしているので、俺のスーパーパワー(思念)でちょっと邪魔する。

 し、しんどい……!

 こんなことですら苦労するとか……!

 あのクソ実験の後に爆発さえなかったら……!

 か、完全体に……完全体にさえなれていれば……!

 

『待て待て! 何故二人とも追いかけて来ているんだ! 被害を抑えるので私も手いっぱいだぞ!』

 

「そんなこと言わないでカッコよく勝ってください!」

 

『私なら余裕だがナズが見ているからダメだ!』

 

「ふぁっきゅー! ふぁっきゅふぁっきゅー!」

 

『トニー! ナズナが鳴き声を挙げ始めたんだが!』

 

『滞空時間の限界を迎えた! 足が浮いているのが苦手らしい! ナズ、電源を落とせ!』

 

『電源!? ……そうなるとどうなるんだ?』

 

『……再起動だ』

 

『すぐ起動できるのか!?』

 

『祈れ!』

 

「ふぁっきゅー!」

 

『作戦開始!』

 

『これは作戦じゃ……トニー! あ、消え』

 

 

 

 

 

 30秒間落ち続けたぞ!(嘘)

 地面すれすれで再起動したお洒落スーツが飛び立つ。

 そう、俺を背に乗せて。

 降ろして、マジで。

 

「こんな場所に居られるか! トニー! 中佐! 俺は車に戻ります! 路駐したままでした!」

 

『しかしドローンがまだ』

 

「どうせアイアンマンしか殺さない機械ですよ。じゃあ俺は戻ります。ふぁっきゅーイワンさのば……ほわあああああ!」

 

 お洒落スーツの背中から飛び降り、空を飛んでいたドローンに掴まる。

 『手』の耐久度が心配だったが、生身の俺よりはパワーがあるのでセーフだった。

 ダメだったら?

 その時はその時だし、劣化した俺の能力が覚醒するかもしれないし。

 劣化してるのに覚醒?

 新たな能力に目覚めるとかどうよ。

 

『ナズナ!? トニー、ナズナが飛び降りた!』

 

『助手の仕事をしに行った! ローディは私の指示するポイントに来てくれ! 一掃する!』

 

 

 

「良い子だ……よし!」

 

 カチャカチャ、ターン!みたいな。

 実際は有線で物静かに終わったけど。

 そんなわけで頭を捥いでドローンを乗っ取った。

 俺が有線制御するからカメラや制御諸々は飾りですらなかったから頭は外した。

 

「有線が最強なんですよ! 無線とか軟弱でこうやって乗っ取られるのがオ……ほわあああああああ!」

 

 地上に待機していた陸軍型のドローン砲台に撃たれた。

 俺は飛行が下手なんだ! 自動操縦機能とジャーヴィス入れとけカス!

 誰だよ、アイアンマンしか殺さないから狙わないって言ったの。

 このまま落下してけばちょうど車の辺りに墜ちるからちょうどいいや。

 いやあ、展示会場がめちゃくちゃですねえ!

 これはハマー社に請求しないと。

 ポッツさんが悩んでいた資金が解決かなって。

 ついでにヴィブラニウムも寄越せ(謙虚)

 

 

 

 

 

 --12

 

「ミスター・ナツメ! どうだ、気分を変えて我が社に来ないか? 時間はかかるがヴィブラニウムも好きなだけ用意しよう! そうだ、球場も貸切ろう! ドームもあるぞ?」

 

 ジャンクと化したドローンと見事な着陸を決めたら、舞台裏だった。

 で、ポッツさんに詰め寄られていたハマー社長が何故か俺のことを見て表情を輝かせた。

 変な物でも食べたんですかね……いや、現在進行形でドローンは変な物喰わされて制御不能だけども。

 

「超面白い冗談ですね」

 

「冗談ではない! ほら、あのハマー・ドローンを見ただろう? あれに君が手を加えることでもっと素晴らしい物になる! 野球だってアメリカ中の球場を借りて好き放題できる! スタークを超えられるぞ! ハマー社でどうだ!?」

 

「ジョークの天才ですね」

 

 ポッツさんに通報するように伝え、ハマー社のオペレーターから席を奪う。

 防御側が有利なので、ここから制御を奪えるわけではないが、いくらかのコードは読める。

 格闘ゲームやアクションゲームよろしく一体一体を操っているわけではないのは当然で、どんな感じの動きをするかとかが知りたかった。

 マニューバ的なのとか反復運動とか、あとイワンのクセとかも。

 

「……何が望みだ? 私の弱みに気づいて高く売りに来たんだろう?」

 

「ん? うーん? あ、これをどうぞ」

 

 とりあえず数字を書いたメモ用紙を渡す。

 途中で書いた。

 

「wifiのパスワードか?」

 

「予定されてる賠償金です。もっと増えるかも」

 

 ハマー社長がため息とともに手で目元を覆った。

 ジャーヴィスが試算したけど金額、凄いよね……。

 今からよく考えて会社の好きな部門を売るといいです。

 会社へ意思決定できるかや外に居られるかは知らないけど。

 

「……ハマー社長はいつ夢を見ると思いますか?」

 

「……寝る以外に夢は見ない。それともなんだ? 野望でもあって大統領になる夢があるのか? 開拓時代に戻ってゴールドラッシュでこの金額がちゃらになる夢でも見ろと?」

 

「違います」

 

 とりあえず、イワンにメールで「悔しいからってエキスポ会場にごみを捨てるのやめなよ。あ、パパに似てますね」ってジャンクの写真を送りつけた。

 逃げ回られて散発的なテロとか起こされても面倒だし、ちょっとした煽りで来てくれると有難いんだけど。

 俺は気が短いんだ。

 ロシアに行って墓を暴かせるようなことはやりたくないんだよね。

 

「……わかったぞ。クスリだな? メキシコ産の葉っぱはかつて……」

 

「全然違います。今後のご活躍をお祈りしております」

 

「待て。ロシア産の葉っぱは質が悪くて手足が壊死し……」

 

 用件は終わったからハマー社長は無視でいいや。

 

 

 

「ナズ、トニーと仲直りしたのね? 仲直りは3000回目くらい? トニーは?」

 

 通報を終えたポッツさんが声をかけてきた。

 表情が険しい。

 まあ会社の一大イベントでこんだけ大騒ぎになったら事ですよね。

 え? それだけじゃないって?

 それなー。

 

「たぶん600回くらいです。……トニーは新しい正装のお披露目会ですね。いつもと同じように外で元気にフラッシュ浴びてますよ。……やっぱドローンはダメですね、ここからだと操作できませんよ。言語盛りだくさん」

 

 言語弱者への嫌がらせかな???

 

「ロシア語を使ってみろ」

 

 一人でなんか喋ってたハマー社長が言ってきた。

 なるほど。

 素晴らしい発想だ。

 でもダメである。

 

「面白い冗談ですね。ロシア語わかんねーわっかんねー」

 

「ナズは日本語と英語にしか対応してないわ」

 

「……うちのオペレーターと代われ」

 

 あー判った、そういうことか……。

 ロシア語が、わかってるってやつなのかにゃ?

 しょーがないにゃあ。

 いいよ^q^

 どっこいしょ、と立ち上がると通信が入る。

 ハマー社だしイワンかな。

 煽る準備しないと。

 

『トニー、貴方と親友のほうに敵のドローンが接近中よ』

 

『ありがとうロマノフ。ローディ、ポイントに着いたら合図するからあれをやるぞ!』

 

『あれ!? あれってなんだ!?』

 

『酔っぱらって私の家を吹っ飛ばしたあれだ!』

 

『言っておくが酔っぱらってたのは君だけだぞ!』

 

 イワンじゃなくて、秘書だった。

 変わった格好してる、敵を倒したらキメ顔しそうな感じのセクシーなやつ。

 トニーと中佐の通信も入ってくるので、なんか仲の良い友達が集まってネットで会話を楽しんでるみたいだあ……いや、無いわ。

 あ、なんか嫌な予感がするから車を取りに行こう、そうしよう。

 鍵を回しながら口笛吹けば自然に抜けられないかな……。

 

 

 

『死にかけてたみたいだけど好調みたいね?』

 

『お陰様でな。私とナズがいれば問題にもならなかった』

 

「トニー? 死にかけってどういうこと? ナズ? ナターシャ?」

 

『あー、野菜ジュースが不味過ぎて喉を詰まらせた』

 

『酔って暴れたりしたのは自暴自棄になってたのよ。男ってそういうところあるから』

 

「ナターシャ、ホント? トニー? ホントなの? ホントのことを言ってくれないとナズに聞くわ」

 

「えっ」

 

 雲行きが怪しくなってきたのでこっそり逃げようとしたら、なぜか俺に矛先が向いたんだが???

 おかしくない???

 

『……オムレツを作った時に話そうとした。モナコのとき。飛行機で』

 

「……ナズ? 聞かれなかったからっていうのは無しよ。シャイだからも無し。ここには新しい秘書もいないから」

 

「あー、その、トニーがアーク・リアクターで……」

 

『ナズ? ナーズ!? ナズナ、ノーノーノー! 良い子だから、良い子だから!』

 

 トニーの語彙が死んだ!

 この人でなし!

 と、言って誤魔化したいけどポッツさんの目が笑ってないんだよなあ。

 逃げたい。

 

『喧嘩は新婚旅行のときにして。敵が接近中……』

 

『トニー! いつまで飛んでいれば……』

 

『ローディ、もうそろそろだ! ペッパー、大丈夫だから。話はあとで詳しくしよう。大丈夫だから。ナズ、任せた! なんかいい感じに平和にしておいてくれ。語った将来が来る前に酷いことになりそうだから』

 

 静かにトニーの通信画面が消えた。

 

「トニー? トニー!?」

 

『トニー、逃げたな』

 

『ええ。しかも下手な誤魔化しだったわ』

 

 なお中佐と秘書の通信は続いている模様。

 二人に俺も激しく同意する。

 逃げたい。

 

「……ナズ?」

 

「あー、はい。苺でも買ってきましょうか? 俺好きなんですよねー」

 

「アレルギーよ、私」

 

「わーお。……トニーを迎えに行ってきます、車で」

 

「必要ないわ」

 

「いや、ほら、運転手は運転がお仕事」

 

「助手でしょ。運転手はハッピー。あと運転手が必要な社長は私よ」

 

「レーサーナズがですね、車に乗らないと死んじゃう病……」

 

 青筋浮かべたポッツさんが微笑みを浮かべていた。

 ハマー社長、今なら愉快なジョーク連発してくれてもいいんですけど?

 青い顔色で硬直してる雑魚には期待できそうにない。

 それなら……

 

「いっけなーい、レポート仕上げなくちゃ! 明日の講義で大目玉! あと冷蔵庫の搬入も!」

 

 誤魔化して逃げるんだよおおお!!

 

「講義だなんて! 貴方が嫌がったから大学に入学すらしてないじゃないの!」

 

『ナズナも逃げたな』

 

『ええ。しかも下手な誤魔化しだったわ』

 

 

 

 

 

 外に出て、空飛ぶ車に乗り込む。

 着陸?

 その時の俺が冴えた考えでなんやかんやいい感じにしてくれるだろう。

 

「ジャーヴィス、二人の居場所を……」

 

『ローディ、リパルサーをその角度で空に向けろ! 3、2、1……今だ!』

 

 カーナビからトニーと中佐の通信が流れてきて、目視できる程度の少し離れた場所で光が炸裂していた。

 百聞は一見になんちゃら。

 離れていても、僅かにジャンクとなったドローンが落下していく様が見えた。

 なんて優れたナビゲーションだろうか、流石はジャーヴィスだ。

 

『強いリパルサー反応が接近中。二人とも、気を付けて』

 

 車を空に浮かべながら通信に耳を傾ける。

 カーナビに映るレーダー画面では、さっきまで無数にいたドローンが一掃された代わりに、高速で飛来する反応を捉えていた。

 その方向に目を向けると、夜空に一条の光が奔った。

 たぶんイワンじゃないかな、生身で電気鞭とか危ないって気づいてスーツ作ったとかそういう感じかなって。

 

『ドローンとは比べものにならない高エネルギー、イワンだろう。ローディ、どうする?』

 

『地の利を活かそう。この場で最強の兵器を高所に置くんだ』

 

『そうだな。よし、任せろ』

 

『待て待て、最強の兵器と言っただろう』

 

『私が最強の兵器だろ?』

 

『嫉妬するなよ。このスーツはナズナが調整したぞ』

 

『それを言ったらこのスーツもナズが手伝った』

 

『……ナズナと軍』

 

『……ハマー社だろ? それに比べてこのスーツは動力から何から合作だ。それは軍とハマー、これは私とナズ。どっちが優れているかは明白だ』

 

『わかったわかった。トニー、君が上に……手遅れだったな』

 

 レーダー画面では二人が居る場所に、イワンの反応が重なっていた。

 しかし、二人ともしょうもない話でチャンスを不意にしていたというか。

 戦場なのに男子学生の会話みたいなのはどうなのっていう。

 

『戻ってきたぞ、スターク。……そしてナズナ・ナツメ』

 

 通信に混ざる様に、イワンのロシア訛りの英語がスピーカーから流れた。

 

 

 

 

 

 --13

 

 ウィップラッシュの内部で、イワンは膝をつく二人を眺めた。二人のスーツからは火花が散っていたが、内部に投影されているディスプレイが解析したダメージ量は想定したよりも低かった。

 技術力は勝っていると考えていたが、改める必要があるだろう。

 だが、それでもイワンはウィップラッシュが負けるとは考えていなかった。

 

「感謝するよトニー。助言のおかげで鞭を長くした。こんなにも強い」

 

 フェイスディスプレイを外し、イワンは言った。外気は電気によって生み出されたオゾン臭が僅かに匂っていた。

 ウィップラッシュの両腕に装備している電磁鞭が、二人に巻き付いていた。鞭を伝って、紫電が奔った。二人のスーツから再び大きな火花が弾けた。

 色違いのアイアンマンのガトリングを受けながらも、ウィップラッシュは怯むことすらしなかった。技術力による物ではない、優れた素材による結果だった。

 スタークが着ているスーツは世界各地へと飛ぶため、長く飛行する必要があり、軽量化が図られている。反してウィップラッシュはこの場でスタークを殺すことだけが目的となっている。観察と考察を繰り返し、モナコでスーツの特性を直接見た末のアンチ的な性能。スーツとして比べれば鈍重で遥かに重く、同時に硬い。そしてアイアンマンスーツには使われていない装甲は、放たれるリパルサーのプラズマも、放たれ続けるガトリングも、表面を傷つけるには至らない。

 スタークが電気のダメージに耐えながら片膝を立て、握った拳をイワンへと向けた。外に出していた顔が狙われていることに気づき、フェイスディスプレイが展開された。遅れて、赤い閃光がウィップラッシュの電磁鞭を切り、『顔』を焼いた。

 

 

 

『一発限りだが……まさか、あまりに丈夫過ぎる』

 

 スタークのスーツからガシャン、と排莢の音がした。イワンは少しばかり短くなった鞭と、拳を軽く握っている姿勢のアイアンマンに目を向けた。高熱を宿していたカートリッジが地面へと落ちた情報が、ディスプレイに表示されていた。使いきりの大技なのだろう。

 イワンは自然と笑みを浮かべていた。声からスタークの驚きが伝わってきて、それがイワンの脳を暗い幸福で焼いていた。優れている。父の技術はスタークよりも優れている。そして息子の自身も、裏切り者のスタークより優れている。その事実が多幸感を与えていた。

 鞭から解放されたアイアンマンと、その色違いに挟まれる形になっても、イワンが焦ることは無かった。最初の形に戻っただけ。圧倒する前に戻っただけ。もう一度行えばいい。無傷のウィップラッシュと違い、二人のスーツには少なくないダメージが見て取れた。構図は最初に戻ったが、状況はあまりにも違っていた。

 

『ローディ、鞭が短くなった! これでダメージも僅かに……』

 

『僅かに、なんだ? スターク。まだまだ鞭は残っているぞ。今の技はあと何回使える?』

 

『トニー、鞭が長くなったぞ! これだとダメージも変わらないだろう!』

 

 肩に収納されていたリードが回転し、鞭が伸びた。紫電を纏った鞭を威嚇するように地面へと叩きつけた。

 それを合図に、飛行したアイアンマンが曲芸のような軌道を描きながら接近した。

 凄まじい勢いでウィップラッシュが殴られ続けたが、装甲に問題はない。色違いのアイアンマンによる重火器も、何の痛痒にも繋がらない。

 ウィップラッシュ自体は重く、自在に飛び回る二人を捉える事が出来ない。だからこその、電磁鞭だ。スーツによってアシストされた腕は、想像を絶する馬力を鞭へと伝える。力が伝達した鞭は、凄まじい速度を発揮する。ウィップラッシュが捉えられなくとも、鞭が当たればいい。

 膨大な高圧が掛かった鞭の先が僅かに触れることで、張り付くようにアイアンマンを捕えた。抵抗するように殴りかかるも、赤子が撫でるかのような無力。

 

『硬い……!』

 

『雇い主が掻き集めたヴィブラニウムだよ、スターク。加工が間に合わず、表面に張り付けるように使っているだけだ。が、お前たちが勝てる希望は無い。抵抗は無意味だが、降伏も無意味だ。スタークの罪からは逃げられない』

 

『何かはわからないが厄介なのはわかった。トニー! イワンを殺しはしたくないが仕方ない! 『別れた妻』を使う!』

 

 その言葉にイワンは意識の大半を向けた。ウィップラッシュの性能を散々見てからの物言いだ、凄まじい殺傷能力を持った兵器なのだろうと予想した。ABC兵器だろうが、リパルサー技術を上回る熱量だろうが、防ぎきれる自信があった。人道から離れているようなおぞましい兵器すらも耐えきれるだろう、ヴィブラニウムとはそれほど素晴らしい物質だ。

 鈍い音とともに発射されたそれは、ゆっくりと飛んで行った。飛来した鉛筆のような物が、仰々しく防御姿勢を取っていたウィップラッシュにこつりとぶつかり、落下した。その兵器は静かに転がって、沈黙だけを残した。それだけだった。

 

 

 

『なるほど、ハマー製か』

 

『……ああ』

 

『脅しには役立った。おかげで鞭から脱出できたからな』

 

『……それが狙い。……いや、嘘だ』

 

 イワンが感じていた優越感や多幸感が、潮が引く様に消えて行った。残ったのは虚仮にされた事実への怒りだった。圧倒的に勝っている自身が、あのスタークとその仲間に馬鹿にされたことが、イワンのプライドに傷をつけていた。スタークの助手によって薄く何度も、だが消えないように付けられた傷を刺激するようだった。

 鞭を叩きつけた。苛立ちが吐き出されるように、電気が地面を焼いた。

 

『……遊びはもう終わりか。他に無ければ、無残になったお前たちをスタークの展示物として飾ってやる』

 

『確かにハマー製は遊びかもしれないが、私の最強の兵器がまだ残っている。スターク・エキスポの最後にして最高の展示物だ』

 

 スタークの言葉に合わせる様に、遠くから警告するかのように鋭い音が響いた。

 

 

 

 スタークの言葉から、イワンがディスプレイの分析機能を切り替えた。エネルギー反応は微弱、ともすればこの場のスーツでも誤魔化されるほどに。

 プランという言葉からイワンが思い出すのは、モナコで何度も轢き逃げしていった車だ。

 動体反応と音声分析を強化したセンサーへと切り替える。イワンが空を見上げたのと、センサーに反応した物体を捉えるのはほとんど同時だった。それは加速しながら落下している車だった。遅れて、音声の分析が車のクラクションだという事実をイワンに伝えた。

 

『プランNだ!』

 

 スタークの声が聞こえた。逃げることだけは体と意思が強く拒んでいた。これを破ることで、父と自分の技術が優れている証明になるのだと、そんなことを一瞬で考えたのかはイワン自身もわからなかったが、体はその場から縫い止めらたかのように動かなかった。

 同じ手段に何度も引っかかると思っているのか、気づいてから衝突まで僅かな猶予しかなかったが、イワンには十分だった。スタークがいるはずの位置に、あの小賢しいスタークの助手が居た。赤いレインコートは強くイワンの視線を誘導した。スタークに両脇を掴まれて吊るされていた。そいつから何かが投擲された。反応できたのは偶然だったのか必然だったのか。憎い助手への殺意が、極限の反応を引き出したのかもしれない。鞭を振るって、横から放り込まれたリストバンドに酷似した何かを見事に切断していた。電磁鞭が、殺意が、妄執が、吸い込まれるようだった。

 イワンは時間がゆっくりと流れているように感じていた。鞭はリストバンドを切断したまま、スタークの助手へと伸びて、アイアンマンに防がれた。リストバンドから光が溢れていた。それに合わせる様にガトリングの弾が車を襲い、動力源が限界を迎えたのか、車の内部から青い光が漏れ出していた。

 

 イワンの視界が白く染まった。

 

 

 

 

 

 --14

 

 30秒間落ち続けたぞ!(2回目の嘘)

 作戦とはいえども車を捨てて身投げするとか、えげつない。

 えげつなくない?

 こんな落下ばっかり繰り返してるから高所恐怖症になるんだよなあ。

 というか俺なんて空から落ちる時に、隣にいたやつがミンチになったのが若干トラウマなんだよね。

 とはいえ俺じゃなかったら地の利を活かすチャンスを見逃しちゃうね。

 

 イワンが固すぎるので、とりあえず複数のアーク・リアクターを積み込んでる車の爆発でダメージを与えることにしようって作戦になった。

 乗ったままだと俺も巻き込まれるので適当なところで飛び降りてトニーにキャッチしてもらった。

 アイアンマンスーツって硬すぎる、救助に向かないのでは。

 いや、そんなに人をキャッチしないか。

 タイムマシーンも意識を逸らすのに使えるかもって話になった。

 頭部を隠されているので思考に働きかけることもできないので、とりあえず放り投げたら何故かタイムマシーンを鞭で切断してた。

 えぇ……。

 まああれだ、控え目に言ってミンチかもしれない。

 

『時間旅行はまだ人類には早かったな』

 

「ちゃんとした理論も無いですからね、なかなか悩ましいです」

 

 トニーの言葉に答えながら爆心地へと向かう。

 原型を保ったイワンの姿がそこにはあった。

 ヴィブラニウムって凄過ぎない?

 これが世界中に供給されまくったらマジでやべーよ(語彙消失)

 

「お前の……負けだ」

 

 血まみれになりながら、イワンが言う。

 なるほど。

 なんかよくわからないけど、よくわかった。

 イワンのリアクターが警告音とともに明滅を繰り返す。

 なんで警告音とか付けてるんだろうか……。

 まあどうでもいいので寄越せ、貴様のデータを。

 『手』を壊れかけのスーツにぶっ刺す。

 自爆機能があったみたいだが、テキトーに止めたので俺の勝ち。

 

「俺の勝ち。なんで負けたか明日までに考えといてください」

 

『ナズ、ドローンが自爆しそうだぞ!』

 

「あ、こいつのスーツでも遠隔すら操作が利かない設定みたいですね。まずいですよトニー」

 

『ペッパー!』

 

 アイアンマンに抱えられて急上昇。

 ついでに『手』で掴んでいたイワンも道連れ。

 血が雨みたいだあ。

 追いかけてきた中佐にイワンを放り投げる。

 治療用の冷蔵庫も手配してあるから助かるかもしれないし。

 

 空から視認すると、ポッツさんの傍には半壊したドローンが一直線に迫っていた。

 ドローンの胸元が明滅している。

 間に合わないか、と内心で焦っていると、一直線だったドローンの動きが変わってポッツさんから逸れていく。

 壊れたのなら都合が良い……あ、ちげーわ。

 アイアンマンの玩具で仮装した子供に進路を変えただけだった。

 最悪から結局最悪になっただけじゃねーか。

 しかし僅かに時間稼ぎにはなっているようだった。

 

「トニー!」

 

『残量的に一発だけ撃てる! あとは任せた!』

 

 弱弱しいリパルサー・レイがドローンの体勢を崩した。

 それで限界なのか、アイアンマンが落ちる気配を背中で感じながら滑空する。

 そう、放り投げられたのだ。

 

 ……人間はアイアンマンスーツが無くても空を飛べるんだなって^q^

 

「ふぁっきゅほわあああああ!!」

 

 ガリガリ、ガシャーン、ズドンッ、みたいな。

 ガリガリはドックオックのバリエーションの一つである『ナーブクラック』を、表面を傷つけながらも僅かにドローンに接続できた音だ。こいつは機械に対して絶対的な強さを誇り、有線でぶっ刺したらジャーヴィスがアタックしまくるので僅かにでも刺せれば機械の動きを鈍らせられるし、長く刺されば乗っ取ることができる。悲しいけど耐久力は無いので、酷使しすぎて千切れた。

 投射された勢いのまま俺は地面を凄い勢いで転がるが、レインコートのおかげで、皮膚が裂け、肉は弾け、骨が飛び出す、といったことは無かった。かすり傷で済んだのは日頃の行いに違いない。『義手』で衝撃を和らげようとしたが、強度的に耐えられなかったので悲しい終わりを迎えた。

 で、再び動き出しそうなドローンへ、なんとか復活したアイアンマンがガシャーンとスーパーヒーロー着地からのズドンッでとどめを刺した。

 アイアンマンの玩具で仮装した子供は、リパルサーの玩具を壊れたドローンに向けていた。トニーが「サンキュー、アイアンマン」と告げてから頭を撫でてポッツさんの元へと走り出した。

 俺も「さんきゅー、君は俺たちのヒーローだ」と褒めながら抱える。この子を親に預けるまでが今日の俺の仕事ですね、わかります。

 

「トニー、ちょっとこの子の親を探してきます!」

 

「任せた! 私もペッパーと大事な話があるからゆっくりで構わない!」

 

 

 

 もう疲れたあああんふぁっきゅー!!と叫びたい気持ちに駆られながらトニーを探す。

 さっきのアイアンマン坊やはなんとか保護者を見つけられた。

 避難所に行って、残った義手で坊やを抱えながら探すのは注目されまくったり、他の迷子が居たのでその親も探して届けたりで疲れた。

 もう帰って寝ようぜ、とトニーを呼びに行ったら、ポッツさんとラブロマンス(死語)してた。

 あのさあ……。

 

「どうぞ続けてくれ。私たちは構わないよな。なあ、ナズナ? オットセイみたいだ」

 

「そうですね。折角だから泊まっていけばいいと思います」

 

 中佐と呆れながらも茶化すが、疲れてしまってどうにも言葉が出てこない。

 もう帰るわ。

 

「嫉妬か? ジョークか?」

 

「超面白い」

 

「爆発で車が壊れたからスーツは借りていく。ナズナはどうする? 送ろうか?」

 

「お願いします。もうさっさと寝たい」

 

「おい、そのスーツは私のだぞ。ナズも何か言え」

 

 トニーがポッツさんの腰を抱いたまま抗議するが、もうどうでもいい。

 どうでもよくない?

 

「俺には盗まれたスーツがどこに行ったかわからないなあ。……あ、俺の車も壊れたんでお願いします。じゃあトニーとポッツさんもほどほどにしてくださいね」

 

 中佐が担ぎ上げてきた半壊した車に乗り込む。

 ほわああああああって感じで空輸される俺。

 とりあえず今回の件から、車は地上を走ればいいし、運転は運転手がやるべきだと思う。

 

 

 

 

 

 冷蔵庫に保管したイワンの脳みそからデータとか取り出せないかな……。

 

 

 

 

 

 --15

 

「これがあの捜査官も務めている組織からの評価だ。2酸化リチウムもこいつらが持ってきた」

 

「あー、悪い友達ってやつですね」

 

「そうだ。そこでちょっとしたサークルを作るのにメンバーを集めてるってわけだ」

 

「はあ、これがトニーの評価ですか。衝動性があり、自己破壊傾向を持つ。典型的なナルシスト。よくできてますね、ウケる」

 

「私は認めよう。が、次を読んで笑っていられるかな」

 

「『ナツメ・ナズナ、突発的な攻撃性と衝動性があり、自己を律する能力に疑問を抱く。また対人能力は極めて低い』……調査能力がゴミですね。これがエージェントとかウケる」

 

「笑ってないが?」

 

「心で笑って、顔はトニーの真似です。……典型的なナルシスト」

 

「……対人能力は極めて低い男が言いそうだな、それ」

 

「……自己破壊傾向」

 

「……自己を律する能力に疑問」

 

 

 

「最後の項目は……なん……だと……? トニーが適格で俺が不適格? 嘘っしょ」

 

「喜ばしいことに事実だ。というか適格だったらやりたいのか?」

 

「えっ、めんどくさい」

 

「ちなみに私も不採用」

 

「俺は採用ですよね」

 

「”も”って言ったんだが?」

 

「そんなー」

 

「ただし私は相談役になった」

 

「えっ」

 

「ナズもついでになんかやる感じだ」

 

「えっ」

 

「ただ不適格不採用だから施設に入れないかもしれない」

 

「なにそれひどくない???」

 

「ちなみにサークル名は『アベンジャーズ』だ」

 

「いいじゃないですか。リベンジじゃなくてアベンジなのが良い。自分のためじゃなくて他人のためってところが特に。ヒーローっぽいし」

 

「……アイアンマンが一番カッコいいぞ」

 

 せやな^q^

 

 

 

「そういえば勲章授与式ですよね」

 

「そうだ。カメラは持ったか」

 

「超いいやつを用意しました。あと前の公聴会か何かでディスりまくってきたスターン上院議員が授与するんですよね」

 

「私が働きかけてみた」

 

「俺も原稿文を書いたんですけどね、何故か採用されました。トニーと中佐を褒めまくるやつ。表情がマジで楽しみ過ぎて昨日から録画セットしましたよ」

 

 決定権がある地位から逆にたどっていってから、アイアンマンを好きな職員を見つけるのにちょっと苦労した。

 せっかくだから上院議員には楽しんでもらいたい。

 

「……私が人事権を持っていても、ナズをアベンジャーズには選ばないと思う」

 

「えっ」

 

 

 

 

 

 














 --16
 
「どうもナズナくん、調子はどうですか?」
 
「ああ、どうも捜査官。調子はなかなかいいですよ、面白いことが多い。申し訳ないですけど、依頼された案件はほとんど解決してませんね。地球上の物質じゃないってくらいしか判明してません」
 
 色々な物の調査を依頼されるのだが、99%が不明である。
 楽しいけど、楽しくないというのだろうか。
 知らないことを知るのは楽しいが、謎しかないままなのは不満だ。
 
「いや、そこまでわかるなら十分ですよ。実は今日訪ねたのは別の用件でして」
 
「別の?」
 
「70年ほど前に氷漬けになったヒーローを蘇生させるという計画が浮き上がりました。そこでお二人の意見も、と」
 
「なるほど。トニーに聞きに行ったら無視されたか、なんだかって感じですかね」
 
「その通りです」
 
「普通に誘うのは二流ですね。雰囲気が大事です。トニーはカッコよく仕事がしたいとか、そういうのもあるので上手く乗せるんですよ」
 
 トニーのやる気スイッチを書いたメモを渡す。
 用意できたらいい感じにやる気が入るだろうと思われる。
 
「えーっと……今日はMITで講義してますね。これはちょうどいい。捜査官、行きましょう」
 
 急な展開に捜査官もちょっと戸惑っているが、ちょうどいいので話を聞かせてしまおう。
 ノリで押し切れば行けるはず。
 あーでもいけるカナー?
 とりあえずスーツとサングラスだな。
 MIB風にすれば完璧だ。
 
 
 
 
 
「今日の講義はここまでにしよう。……そして君たちが気になっているであろう、私の話でもしようか。知っての通りアイアンマンとして活動しているが、同時に天才でもある。そんな私がどんな生活を送っているのか……」
 
 トニーが登壇しているのを確認する。
 勝ったな(慢心)
 背筋を伸ばして、ガラガラと扉を開けて真っ直ぐトニーの傍に近寄って声をかける。
 
「講義中に失礼、ミスター・スターク。貴方の力をお借りしたく」
 
「それは講義を止めてまでかな?」
 
「ええ、申し訳ないですが緊急の案件です。内容は深く話せませんが、国からの依頼です」
 
 胸ポケットから身分証っぽいのを取り出し、ちらりと見せる。
 遅れて少し後ろに控えていた捜査官も取り出し、僅かに見せる。
 大事なのはそれっぽい凄そうな見た目だ。
 そうじゃないと面白くならない。
 話を聞いていた学生がざわめく。
 いいぞ、もっと注目しろ。
 
「またアイアンマンが必要なのか」
 
「いえ、貴方の頭脳が必要なんです。この国でも有数の貴方の頭脳に頼るしかありません」
 
「……わかった、不本意だが同行しよう」
 
 トニーが深くため息を吐くが、同行の意思を示した。
 勝った、トニーフレンズ作戦は成功だ。
 あとは流れで終わり。
 
「質問に期待した諸君には申し訳ないが、ここで講義は本当に終わりだ。これから国の仕事がある。考えながら学んだ結果、私のように講義を中断してでも国に求められるか、考えずに漠然と学んで会社で働くかは各々で考えて欲しい。ただ、私の今の生活はやりがい満ちていて、貴重な体験もできるとだけ言っておこう。以上だ」
 
 
 
 講義室を出たら足早に外へと向かう。
 急かしている国のエージェントと、不本意なために急かされるのに僅かに不満を持つトニーという演出も忘れない。
 そして学生が注目している中、キャンパスに停められたヘリに乗り込む。
 結構無茶振りしたと思うけど叶えてくれるとか、捜査官ってすげーわ(真顔)
 急かすようにトニーをヘリに乗せる。
 このとき、捜査官と協力してトニーを隠すように振舞ったり、僅かにトニーのピースが出てしまったりという憎い演出も忘れてはならない。
 ちなみに俺が着ているスーツは集光するタイプで、ジャーヴィスが計算した望まない角度や場面でシャッターを切られると光が全て集まって写真が真っ黒になる。
 つまり国のエージェントに連れられたカッコいい写真だけが残る。
 よし、任務完了だ。
 やる気スイッチも押せたので、俺の仕事もまあまあ終わりだと思う。
 知らんけど。
 
「それで、相談とは?」
 
「70年前に凍結した人を蘇らせるプロジェクトだとか」
 
「……採取したDNAからクローンを作るってことか?」
 
「いえ、違います。キャプテン・アメリカことスティーブ・ロジャース、彼は生きています」
 
 差し出された資料に目を通す。
 超人的な身体能力が特徴かと思いきや、その精神力も際立っている。
 
「トニー・スターク氏の父であるハワード・スターク氏も彼と同僚でした」
 
「父が……物は試し、やってみるとしよう。ナズ、何が必要だと思う?」
 
「冷蔵庫と2酸化リチウムでも持っていきますかね」
 
「強気だな」
 
「すでにどちらも効果は検証済みですからね。少し強くてもへーきへーき」
 
「できれば確実性を持ってもらいたいのですが……」
 
 控え目に捜査官が言うのを、トニーが鼻で笑う。
 
「過去に例が無いことに確実を約束はできない。が、私たちにできないことも無い。そうだろう、ナズ?」
 
「そうなのだ! もっとも他の誰かが何を言おうとも、ぼくらには敵わないのだ!」
 
「その唐突な謎のキャラはなんだ……」
 
「トニーの相棒、ヴォルデ太郎キャットなのだワンポッター」
 
 捜査官が不安そうに頭を抱えてしまった。
 和まそうとしただけなのに。
 やっぱり考えとか感情って難しいんだなっていう。
 
「いつものほうがいいな、私は」
 
「俺もめんどくさいんで今限りですね」
 
 そういうことになった。
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