私たちは夢と同じもので形作られている   作:にえる

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アベンジャーズ2

 

 --2

 

「ナズ、邪魔になる。ちょっと退けてくれ」

 

「うぃー」

 

 作業させていたドローンタイプの『手』で、トニーの進路上に浮いてる物を回収する。

 新型ウォーマシンスーツの調整用とお着替えシステム用に使っていた物が邪魔になっていたようだ。

 新型ウォーマシンスーツは、ローズ中佐が今使っているウォーマシンと化したマーク2を素体としたスーツと交換で渡す……取られる(?)予定だ。

 お着替えシステムは、控え目なトニーに「マーク2が戻ってきたらを過度な装飾を外せるように」と指示を受けているので、分解用の機器も組み込んでいる途中だ。

 作業を中断してトニーの方へと振り向く。

 荷物でも持っているから邪魔だと言ってきたのかと思ったが、手ぶらだったので退かす必要が無かった気がするんだけど。

 

「どうだ、完璧だろう?」

 

 そんな俺の様子を察したのか、ドヤ顔で両腕を見せ付けるトニー。

 うーん、なるほどね。

 原理はわかった。

 

「そうですね、完璧すぎますね。その、シンプルすぎる……腕時計?」

 

「違う。誘導に使うセンサーだ。デザインはオーサカの健康器具」

 

「ああ、スーツの……え、健康器具? 大阪の?」

 

「ペッパーに貰ったプレゼントを元にした」

 

 ぼやーっと変な電波を感じる腕時計もどきは、最近完成したマーク7用の着脱システムに使う誘導機器だ。

 ということは、実際に可動させてみるのだろう。

 進路上の物が邪魔になるのも確かだ。

 しかしデザインが健康器具ってどうなの。

 そもそも大阪の健康器具とかちょっとパチモノ臭いんだけど。

 

「驚きで胸がいっぱいです。まさか……新しいスーツの売りが付けていれば健康になるとか」

 

「そうだ、スーツは完璧でも先に私が疲れてはどうにもならない。それを改善した結果が健康器具だ」

 

 トニーがしたり顔で頷く。

 

「じゃあその世界一高い健康器具で世界を健康にするってことですか。野菜ジュースで健康になろうとして誤魔化した人の言うことはやっぱり違いますね」

 

「……ちょっと含むところはあるが、これから試着するからその通りだと言っておこう。私が雨で濡れたとき、わざわざ自宅で着替える必要はない。この新しいスーツなら」

 

「最近は弾丸の雨ですけどね。濡れたら血まみれなんで死んでる」

 

「私が呼べば勝手に飛んできて、着ることができる。着れば強く、カッコよくなれる。誰もが羨む夢のスーツだ」

 

「え、健康は?」

 

「それは知らないな。健康じゃなくてもアイアンマンは強い」

 

「ポッツさんにチクりますね。健康に気を使わないでスーツ着てるって」

 

「待て、私は野菜を食べている。このスーツがあれば数分とかからずに買える」

 

 ドヤ顔でジャーヴィスに指示を出し、投影された地図にマーカーが描かれる。

 その店は行きつけの……そんなベタなボケいらねー^q^

 

「ピザは野菜じゃないんですがそれは」

 

「野菜が盛りだくさんのピザもある」

 

「じゃあランチの注文を予約しますけど何にします?」

 

「いつものにしといてくれ」

 

「構成してる赤、黄、茶の三色に野菜がないですけど」

 

 ピザソースにベーコン、チーズ、生地で野菜が入り込む余地は無し。

 

「照れ屋なんだろう。私がカッコ良すぎて野菜も隠れてしまった」

 

「そしたらトニーの居場所をリークするんでサイドに出待ちファンが待機しますね。もちろん緑の。何ポンドにしますか? 10くらい?」

 

「……チーズバーガーにするか? レタスが入ってる」

 

「出待ちファンはセットですよ?」

 

「……後で私が注文しておく」

 

 

 

 

 

「さて、注文も終わった。ところでアイアンマンスーツがカッコいいのは何か影響があるかもしれないとは思わないか。例えば、そう、着ている私があまりにもカッコよすぎて漏れ出すオーラを防ぎきれない、とか」

 

「え、はい、うん……。あ、俺は新しい腕時計作りました」

 

 せっかくなので俺も作ったばかりの新しい腕時計を見せる。

 

「……ま、いいだろう。で、腕時計? ああ、あの……爆弾?」

 

「あれはタイムマシーンです。誰がなんと言おうとタイムマシーン。いや、そうじゃなくて。これです、ヴィブラニウム製の腕時計です。しかも俺のAIと同期しているので作業終了になると教えてくれるタイマー付き」

 

 ワーオ、と驚くトニー。

 これは馬鹿にした驚きだ、リアクションも大きい。

 わかる。

 自分でも馬鹿な物を作ったと思う。

 

「ナズは馬鹿だな」

 

「俺もわかってることだから言わなくても良くないですかね。でも出来はいいですよ」

 

 ヴィブラニウムの加工と特性制御が上手くいかない暇つぶしに作った品物である。

 振動を吸収・放出する特性を活かし、稼働前に一回叩けばその衝撃と、利用しているときの外部刺激や自らの振動で数世紀は動いてくれる。

 利点はハイビートタイプの振動数で時間を刻むくせして世界でも類を見ないレベルで丈夫、時間も安定していてメンテナンスフリー。

 ブランド品ではないが時計マニアならコレクターズアイテムとして欲しがるかもしれない。

 欠点は死ぬほど高価で、超が付くほどの希少金属を使っているのでトニー以外に言ったらマジギレされること間違いなし。

 

「10の3乗くらい軽くいってます」

 

 浮遊している義手に持たせてトニーに渡すも、チラッと見ただけで返された。

 

「クォーツでいい」

 

「言ってはならないことを……!」

 

「そもそも腕時計を作ることで実用性に逃げようとして失敗しているから半端になっている。夢も浪漫も足りてない」

 

「マジな批評はやめてください。それは俺に効く」

 

 妥協の産物なので、反論できない。

 正論が時には間違いってことを理解した俺は世界一賢いのかもしれない。

 でもタイマー機能付けたからセーフ……。

 

「これならこの前ネットで調べながら叩いた刀のほうがまだ良かった」

 

「あれですか。まさかノリで無駄に貴重な刀を作るとは想定してませんでした」

 

「科学者は新たな発見で度々世界を驚かせるものだ」

 

「いや、もうそういう領域じゃないっていうか」

 

「私くらいになると驚かせる桁が違う」

 

「確かに世界中にいるヴィブラニウム研究者の色んな声を聞けると思いますね」

 

「私を讃える讃美歌か」

 

「悲鳴が紡ぐ怨嗟の声です」

 

 テキトーな金属と混ぜて叩いたが上手くいかず。

 ネットで見た動画を参考にした際に、テキトーな合金は手順が間違っていたため研究室内にポイ捨てされた。

 ちなみに1グラムで1万。

 円ではなくドル。

 超希少なので取引には許可も必要。

 研究者が僅かずつ試料にしている横で、何も考えずに転がっていた金属と混ぜた後にレーザーで焼きながら叩かれるヴィブラニウム。

 スラム街に居る餓えた子供たちの前で食べるチーズバーガーみたいなものか。

 そう考えるとチーズバーガーもシモフリ。

 

「カラーリングが赤をベースにしていないのもマイナス」

 

「いや、それはどうでもいいです。優先事項としてはトニーが流す音楽くらい低い」

 

「おっと、それは最優先事項じゃないか。ジャーヴィス、これからファンへのサービスタイムだ。それに合った音楽を流せ」

 

 流れ出すノリの良い音楽。

 ステップを踏むトニー。

 曲名がわかってしたり顔の俺。

 

「”Black Sabbath”大好き」

 

「全然違う。”shoot to thrill”だ」

 

「……俺は曲名の話をしていますけど?」

 

「奇遇だな、私はそうだ」

 

「……ははーん、わかりましたよ。トニーが発明した聞く人によって曲が変わる不思議ソングですね」

 

 そうでしょ、とドヤ顔をかます俺。

 可哀相な人を見る目のトニー。

 視界の端にいたベイマックスが腹部に1と描かれた光を灯す。

 

「ナズ、君は素晴らしい助手だが天才の私に敵わない点がいくつもある。その一つが芸術だ。次までにセンスを磨いておくように。さて、テスト開始といこう。ダミーは録画、ユーは緊急時に消火、バターフィンガーは私の後ろで補助、ナズはスーツの射出だ」

 

 「音楽は好きだけど、曲名が覚えられないだけだし……」と言い訳していたら、「曲名だけか……?」と言われたが、曲名だけでしょ?

 そうに違いない。

 まあそんなどうでもいい話の間に、ぞろぞろと現れていたロボットアームたちが配置につく。

 俺もベイマックスの背中を開けて操作していたのを一旦中止する。

 

「バターの代わりに『手』で支えましょうか」

 

 ドックオックのドローンタイプとして作った『手』だが、動きは大味ながらも指先は悪くない動きをするし、生身より力がある。

 慣れれば中々悪くない性能をしている。

 が、欠点ももちろんある。

 一つは操る『手』が増えると当然ながらリソースがそちらに割かれるので、俺自身の自律神経活動などが鈍くなる。

 人体を考慮すると脳は神経ネットワークの一部でしかないが、枠に深く組み込まれているし、指示を多く出す部位だ。

 その枠から外れるように肉体に結果が反映されないあまりに異なった神経活動を行っていると、人体を動かす端末から一時的にだが切り離されたと見做される。

 枠に組み込まれている端末が除去されるほどに、自律神経の出力が消失するので、『手』の数と負荷の重さを考慮しなければならない。

 とはいえ俺の脳や身体はそういった方向に適応するよう教育されているので、普通よりは遥かに負担が少ないし、有線式なら身体の一部として受け取るので負荷など無いような物だ。

 他の欠点は……

 

「……リパルサーで飛ばしてるんじゃなかったか。日焼けするのは御免だぞ」

 

 私は燃えています、とアピールするような白い光を吐きながら浮いている複数の『手』を嫌そうに見るトニー。

 推力として酸素を燃やしているので、熱が発生しているのだ。

 支えどころが悪ければ新たな日焼けになる。

 

「……偉大なトニー・スタークともなると支える『手』すらも輝いて見える」

 

 トニーが輝いているから手が輝くのか、手から燃える何かが出ているからトニーが輝くのか、永遠の謎としてこのテーマを後世に残したいくらいだ。

 話は変わるけど、アーク・リアクター内から引き出した単なるプラズマなら距離さえ置けば大して熱はないが、やはり物を浮かせるとなると色々と問題が出てくるんだよなぁ。

 

「違う。支えられたからといって私が輝くわけではなく、燃焼が起きているだけだ」

 

「星の中には燃えてるし光源になっているのもありますよね。トニーは恒星だった……?」

 

「確かに私は他の科学者が気の毒になるほど輝く功績を残している。太陽といっても過言ではないな」

 

「トニー・スターズ」

 

「綺羅星が霞むほどにカッコいいからな」

 

「トニー・ステーキ」

 

「それだと燃え尽きて輝きが消えてるんだが?」

 

「トリー・ケラトプス」

 

「もう原型を留めてないんだが?」

 

「……夜はステーキが食べたいですね」

 

「奇遇だな、私もそんな気分だ。霜降りにしよう」

 

 やっぱり最新の科学こそ最高なんだ。

 脂の塊だと見做すヴィンテージとは格が違うぜ。

 最新のヒーローは趣味嗜好流行も最新ってはっきりわかんだね。

 

「よし、今日のスペシャルも決まったことだ。前菜からきっちり仕上げていくとしよう」

 

「お腹空かせるためにトニーがバク宙しながらスーツ着るってどうです?」

 

「ならナズもお腹を空かせるために動く必要が出て来るな。座っているしタイミングを計るだけだから私より動く必要があるんじゃないか」

 

「異議あり! 立位と座位によるエネルギー消費は1時間で0.2キロカロリーもありません。よって誤差の範囲となるため不平等です!」

 

「なら落下中の着衣試験に切り替えるからナズも平等に落ちろ」

 

「さあ、ボス。早くテストしましょう。あ、俺は座ったまま動かないので立ったままでいいですよ」

 

「……もう一人で落ちてこい」

 

「メリーポピンズじゃないから嫌です」

 

 

 

 

 

「マーク7の第一次装着試験を開始します。スリーカウントで発射しますね。スリー、ツー、ワン、発射」

 

「よし、そのまま……いや、ダメだ!!」

 

 スーツが展開しないまま飛んだため、トニーが咄嗟に横へと転がって回避する。

 後ろで控えていたバターフィンガーの手を覆うようにスーツが展開していた。

 頭部パーツが腕に嵌って吊り下げられ、だらりと身体が垂れ下がっている。

 その様はまるで……

 

「アイアンマンの首吊り?」

 

「縁起でもない。これは……明日の晴れを祈っている。ちょっと展開が遅すぎだな」

 

 トニーが、昔作ったてるてる坊主風に吊られたままのスーツを弄る。

 俺も『手』を浮かせて工具を渡す。

 

「そうですね。スーツを着るたびに明日の晴れを祈ってたらアメリカは砂漠と化してポストアポカリプス。避けてアイアンバターフィンガーを誕生させたり、スーツに高速タックルされてたら健康になるどころじゃないです」

 

「タックルを受け続けた結果、健康を通り越して強靭な肉体を手に入れ、一流アメフト選手のタイトエンドトニーが誕生する可能性もある」

 

「そんな可能性はいらないですね。ところでレーサートニーは?」

 

「死んだ」

 

「また死んでる……」

 

 またレーサートニーが死んじゃったよ。

 この人でなし!

 

 

 

 

 

「第七次装着試験を開始します。スリーカウントで発射しますね。スリーツーワン発射」

 

「おい、雑だぞ! いや……だが、よし、良い子……うおっ! ……教育に失敗して悪い子になったな」

 

「いやいや、それどうなってるんですか」

 

「ハマー社が失敗した際に腰をねじ切っているのを見て、安全装置として自由度を高めた結果だ」

 

 無駄に旋回したりして滞空時間を長く取っていた以外は良かったのだが、展開してスーツ形態になってから姿勢を崩した。

 その結果、脚部だけスーツを纏ったトニーが上半身のスーツを纏ったバターフィンガーに吊り下げられるという謎の姿勢になってしまった。

 途中まではよかったのだが……。

 

「吊られ男?」

 

 トニー・ザ・ハングドマンの誕生である。

 あれ、正位置とか逆位置でなんちゃらってあるよね。

 この場合はどっちだっけか。

 

「私は吊られてもカッコいい」

 

「そうですね、普段もカッコいいです。そうなるといつもと変わらないんでそのままにしておきますね」

 

「助手は私が困っているなら何も言わなくても助けてくれる。なぜなら私が優秀で、その助手もまた同様だからだ」

 

「はいはい」

 

 

 

 

 

「第十次装着試験を開始します。スリーカウントで発射。すりーつーわん発射」

 

「もっと真面目に……よし、いいぞ! その調子……」

 

「あーいいですねーかんぺきですねー」

 

 アイアンマンがこちらを見ていた。

 上半身だけで、下半身にはカジュアルなジーンズが垂れ下がっている。

 今度は上半身だけスーツを装着し、下半身部分が後ろに控えていたバターフィンガーと連結してしまったようだ。

 負荷がかからないように俺の『手』でスーツの無い生身の足を支えておく。

 

「なんでさっきから合体しちゃうんですかね。人類が十進法を取り入れたアピールですか?」

 

「私ほどの天才となると聖人として讃えられるからな。……ま、機能を欲張りすぎていることが原因だとは思うが」

 

 両手を広げ、顔をちょっと斜め下に向けてポーズまで完璧にしたトニー。

 

「そのジョークは宗教的に大丈夫ですかね」

 

「SNSへの投稿は禁止だが、天罰でもなんでも貰ってやる。……実は天罰や神罰を観測してみたい」

 

「わかる。再現性を高めたら何か起こらないですかね。ちょっとリパルサーで燃やしてみましょうか」

 

「待て、ユーが……」

 

「あ、やべっ……」

 

 『手』の機能を実現するために酸素などを収斂(しゅうれん)させて筋肉代わりにしていたのだが、その分も拡散させたためにリパルサーが派手な光を撒く、支えていた足周りに。

 それに反応して傍に控えていたロボットアームのユーが消火剤を噴霧。

 磔の聖人、ロボットアーム、ドローンが真っ白になった。

 試験用に素組みしただけなのでドローンは即死だろう。

 モックアップだったら悲しみに沈んでいた。

 

「ナズナ、何か言うことは?」

 

「原作再現です」

 

「白いのは腰回りや顔色だけだ」

 

「あ、わかりましたよ。天才でかっこいいトニー・スタークは十字架にもなれるんですね。アメリカ中でアイアンマンが崇められそう」

 

「言い訳はそれだけか?」

 

「俺のドローンが一番致命傷を受けました。よって引き分け」

 

「ならない。神に祈る時間だ」

 

「待ってください。これはトニーが神を侮辱した天罰です。つまり運命に委ねるべき」

 

「待たない。これは助手のナズが失敗した人災だ。よって私が裁く。これも運命だ」

 

「上等ですよ、ヴィブラニウム刀のローニンで不届き者に神罰を与えてやります」

 

「なら私はこの水鉄砲で不平等条約を叩きつけてやろう」

 

 スーツを脱いでトニーが手にしたのは、細かい部品を僅かに作れたので試しに組み立ててみたヴィブラニウム製の水鉄砲『黒船』。

 その特徴はなんといっても水の威力だ。

 タンク、ポンプ、バルブなどがヴィブラニウム製なので圧力をかけ続けても問題ない構造となっている。

 加圧を頑張れば頑張った分だけ報われる仕様だ。

 アイアンマンのスーツが全力で圧縮したらウォーターカッターが出るだろう。

 

「さあ来い! この天才が叡智を試してやる!」

 

「うおおおおおお!」

 

 刀を持って突撃したが、まあ、遠距離から撃たれたら負けるよね^q^

 

 

 

 

 

 来客を知らせるベルが鳴ったので、一旦手を止める。

 入口の扉が開くとポッツさんが大きな袋を抱えて入ってきて、頭を抱えた。

 「侍が黒船に勝てるわけないだろう!」と遠距離攻撃でびちゃびちゃにされた俺と「戦争に逆転はないんですよ! ヴィブラニウムホームラン!」と鞘で水風船をぶつけられてびちゃびちゃになったトニーを見たためだろう。

 

「……二人とも何やってるの?」

 

「シビル・ウォーですね」

 

「我々は戦争状態に入った」

 

 ため息とともに、濡れていないベイマックスの後ろにある机に袋を置いた。

 

「ペッパー、それは?」

 

「ご注文の品」

 

 ポッツさんが笑みを浮かべて中身を見せてくれる。

 チーズバーガーやピザ、そしてサラダの数々。

 トニーが顔を歪めた。

 別に野菜が凄い死ぬほど嫌いってわけでもないはずだが、たぶん気分ではないのだろう。

 

「さっき頼んで贅沢にも社長に持ってきてもらいました。緑の出待ちファン付き」

 

「出待ちどころか直接来てるんだが? これは重大なマナー違反だ、帰っていただこう」

 

「何言ってるんですか。まだ若いのに熱心なファンですよ。たぶん生後一か月で会いに来るとはトニーも人気者ですね。ちゃんとファンサービスしないと、ちょっと緑で細胞壁も強い健康的なファンですけど」

 

「生まれて間もないな。スーパーヒーローとして親元に帰してやらないといけない」

 

「立派に成長しきったので不要です。自分の道を歩んでますよ。親も敷いたエスカレーターをきちんと進んで一人前になったって太鼓判を推してます」

 

「もういい加減に二人ともシャワー浴びてきなさい。あと馬鹿なことをまたしてると思ってキルスコアを一つ足してもらってきたから」

 

 停戦を解除しようとしたらポッツさんに注意されたので「はーい」と二人で武器を置く。

 やりすぎると小言を数日は言われてしまう。

 あとまたキルスコアが増えた。

 そんな気軽にスコアを追加されたらレーサートニーの死亡数並みに増えてしまうんだけどなぁ。

 そもそも足す物なのかっていう。

 

「シャワーを滝に改造したら修行できるぞ」

 

「何の修行なんです?」

 

「それは修行を終えないとわからないな」

 

「えぇ……」

 

「侍は滝で修行するらしいからな」

 

「どうして修行するんです?」

 

「それも修行を終えたらわかる」

 

「えぇ……」

 

 

 

 

 

 無線機械の飛行にはまだ発展の余地が有り余っている。

 リパルサーとローター、羽ばたきをメインにしているが、バランスを変えたらもっと良くなったりしないだろうか。

 虫サイズ以下のロボット(インセクトロンやマイクロマシン)のような超小型を理想とする機械なら音とか考慮しても数十とか百数十ヘルツくらいの羽ばたきでいいんだけど。

 個々の部品を小さくしてそれぞれがなんらかの浮力を有したりしたら問題解決ってなるんだけどな。

 流行のナノテクくらいしかないだろうか。

 これまでの成果と、吸い出して得た技術も一緒に利用したドローンの調子は上々だったので、次は見つかった欠点などを補った状態で作り直しだろう。

 バターフィンガーも消火剤を直接噴霧されたのでお休みのため、俺が補助もやることになった。

 トニーのスーツは気合入れて作ってあるので大丈夫、というかこの程度でダメだったら戦闘なんてやってられない。

 

「ナズ、やるぞ。良いところを見せてやろう」

 

 ハンバーガーを食べながら有線式の『手』を使って、消火剤で致命傷を負ったドローンをバラしていると、トニーに再開を告げられた。

 本人は既にポーズを決めている。

 デスクに腰かけたポッツさんが頬杖をついてみているので、そういうことなのだろう。

 

「いいでしょう。ここ一番でなぜ成功する人が多いのか、それは緊張で集中力が高まっているからという証明を実証とともに見せ付けてやりますよ」

 

 結論だけ言うと……ぐわああああああああ^q^

 

 

 

 

 

「頼まれていたビルの資料を届けに……あの二人は何をやっているので?」

 

「ええ、ハッピー。ありがとう。トニーたちは……反省のポーズかしら。また仲よく背中を洗っているのかも」

 

「はあ……」

 

 呆れたような、それでいて楽しそうなポッツさんの声とハロルドさんのため息が聞こえた。

 赤い装甲を獲得したテスト中のドローンを分解するベイマックス、背中を向けたベイマックスからスーツを分解して外そうとしているトニー、そのトニーの背中から『手』を取り外そうとしている俺、という奇妙な状態で二人からの視線に耐える。

 知らぬフリして口笛を吹くトニー。

 

「わあ! 俺”Institutionalized”大好き!」

 

 空気を変えようとそれに反応する俺。

 

「全然違う。”Back In Black”だ」

 

「紙一重でしたね」

 

「別次元に繋がる紙か何かか、それは」

 

 というわけで、先ほどの試験と曲当ての結果はほどほどの失敗だった。

 着衣の途中でスーツがベイマックスに絡んでしまったのだ。

 スーツの脚部がベイマックスの背中にめり込んで、そのまま突き破って内部機構と合体したらしく、イチゴ大福に進化した。

 それで終わればまだマシだったのだが、俺が咄嗟にドローンを飛ばしてしまったために、スーツの背中にも合体したからどうしてなかなか大変なことになった。

 まだ作り始めたばかりのドローンには”気遣い”が足りないようだ。

 

 

 

 

 

「今日はこんな所にしよう」

 

「そうですね。展開や飛行はうまくいってるので、あとはスイッチを作りましょう」

 

「スイッチ?」

 

「赤い発射スイッチです。有事の際に押して発射します」

 

「……必要か、それ」

 

「重要でしょうが! もうそれ以外の部分はトニーのキャッチ能力に賭けましょう」

 

「確かに私なら簡単だが、空中で着ることも考えて制御で何とかする。スイッチが欲しければやるぞ」

 

「やりますけど、制御もまた書き直しですよね……」

 

「当然。見えないなら見つける。無いなら作る。足りないなら持ってくる。それが科学者だ」

 

 どこでも着脱できるように、というコンセプトの元で開発を行っている。

 アイアンマンスーツを部位ごとに分けてバラバラで飛ばすことも考えているが、空を飛ばすにはちょっと心もとないというのが本音だ。

 そこまで発展するには幾つかの段階が必要だろう。

 胸部にアーク・リアクターを設置し、空中でエネルギーが切れる度に合体して飛ぶなり充電するなりして、また分離するとかどうだろうか。

 あとは宇宙まで打ち上げて……第二宇宙速度突破するならそもそも普通に飛ばせるっていう。

 量子テレポーテーションがもっと鮮やかに使いこなせると情報のやり取りに余裕ができて内部の圧迫感もまた違うんだが、実験段階だし無い物ねだりだ。

 

「この話はここまでにして、これからはディナーだ。だがこの部屋にはステーキがない。どうする?」

 

「見つけましょう。任せてください」

 

 トニーの問いにドヤ顔を見せる。

 ついにこの機能を使う時が来たな、と指を鳴らす。

 ベイマックスは来なかった。

 あのさあ……。

 大声でベイマックスに指示を出す。

 

「……ベイマックス!」

 

『こんにちは。私はベイマックスです』

 

 知っとるわ。

 というか普通に活動してたじゃねーか。

 こいつまた再起動したかもしれない。

 

「おいしいステーキのお店を教えて!」

 

『正しい検索手順に従って指示してください』

 

「ベイマックス! ベイマックス? ……オッケーベイマックス! おいしいステーキのお店を教えて!」

 

『学習結果を反映……検索を完了しました。トニーステーキ、0件です』

 

「そりゃそうだよね! 違うから! ステーキの店だから! そもそもそれは学習に反映しなくてよくない!?」

 

『1から10段階だとどのくらいステーキが食べたいですか』

 

「10だよ!」

 

『オッケージャーヴィス、ステーキ店を教えてください』

 

「ジャーヴィスに頼ってんじゃねーよ!」

 

 トニーもポッツさんも、ハロルドさんも爆笑していた。

 俺?

 俺は恥ずかしいだけなんだよなぁ^q^

 

 

 

 


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