私たちは夢と同じもので形作られている   作:にえる

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アベンジャーズ3

 

 --3

 

 

 

 

 

「『プロジェクト・ペガサス』……。まだ続いてたんですか、これ」

 

 俺の知っている範囲と比べて進捗のない『ペガサス』と銘打たれた計画のレポートを読みながら思わず漏れた。

 『四次元キューブ』と呼ばれる、なんか凄い箱を利用する計画、らしい。

 俺が知っている内容なんて一部だから他は進んで……いや、これタイムスタンプ確認したらやっぱり進んでないわ。

 それぞれの報告を頭の中で時系列に並び替えてみると、どれもこれもが許可が下りないために進められない状態が続いたようだ。

 俺も途中で計画から弾かれたが、その時に申請した実験まで滞っていたのには驚いた。

 

「……必要な計画だった」

 

 右隣に座っているハゲ(フューリー)が正面を向いたまま呟くように答えた。

 そうなの?と視線を左隣に送るも、同乗しているヒル副指令は我関せずといった感じで正面を向いたままだ。

 愛想の欠片もない冷たい空間すぎる。

 このヘリ、居心地が悪い。悪くない?

 ベイマックスは乗せる場所が無かったので、空気を抜いてスリープ状態のまま収納してあるため賑やかしには期待できない。

 

「必要な計画なら、この中途半端なところで止まってるライトスピード・エンジンを進めれば良かったのではないですかね。今からでも研究者の方を呼べませんかね?」

 

 レポートの末尾に挟まっていた紙の論文や技術書にも目を通す。

 エンジン開発に携わっているローソン博士は熱意があって、とても優れているようだ。

 こっちに切り替えるなら俺も手伝いたいくらいだが、軍を抜けていたりしたら難しいかもしれない。

 紙の古さから定年退職してる可能性もあるけど。

 兵器開発はちょっとね……。

 

「残念ながら彼女はテスト飛行中に墜落し、死亡。テストパイロットも行方不明となり、そこで計画は凍結した」

 

「あー、それは申し訳ないです。何と言ったらいいか……。お会いできないのがとても残念です」

 

 お悔やみ申し上げますって表現がないのが難しいところ。

 ハゲの感情は奇妙なものだった。

 怒りや後悔、寂寞、そして少しの喜び。

 何故か共感を抱いた。

 ドクター・オクトパスが動いた時、俺も似たような気持ちになったことを思い出した。

 

「昔のことだ。……研究を再開したいというのなら、まあ、そうだな」

 

「いや、遠慮しておきます。引き継がないのには理由があるのでしょう。俺にも止まってる研究がいくつかありますよ」

 

 インセン博士が亡くなったことを受けて、共同研究者のウー先生と相談した結果、神経インターフェイスの研究を凍結させた。

 協力はするけど主導は決してしない。

 それに連なる研究も止まっていくのは仕方のないことだった。

 内臓の人工代替品も、一般向けのドクターオクトパスも、制御を神経インターフェイスに託していたので凍結した。

 ……そのうちどうにかなるんじゃないかな。

 ならないかも。

 それはそれで、そういう物だったってことだ。

 

「そうか、それは残念だな。望むなら……」

 

「望むなら?」

 

「あまり協力はできないが目を瞑ることはできる。もう片目は瞑っているから好きにやっても、見逃すかもしれない」

 

「え、あ、はい」

 

 片目の眼帯を指さしながら「どうだ」とドヤ顔を見せるハゲに頷く。

 なんとかしろよ、と副長官に視線を向けるが無視された。

 このヘリ、居心地が悪い。悪くない?

 許可さえ降りれば会社の輸送機で来たかった(本音)

 

「それはそれとして、実物を見ない限りでは俺も判断できないことばっかりなんですよねぇ」

 

 チラッとハゲにレポートだけだと俺の協力できる部分が少ないアピールをしておく。

 予算のために数値とか盛るじゃん。

 もしくは減らすじゃん。

 あと本物が見てえよなあ!?

 

「……仕方ない。機会をすぐにでも用意しよう。見たからには半端な仕事は許されないぞ」

 

 やったぜ^q^

 

 

 

「小話はここまでにして……。実際のところ、計画全体の歩みの遅さは我々も憂いていたところだが……」

 

 ハゲが手元の端末を弄りながら話を再開し始めた。

 小話ならもっと面白い冗談を織り交ぜてくれないですかね。

 ヘリ内の空気は氷点下なんだが?

 

「ニューヨークのエキスポ、ニューメキシコの嵐、ハーレムの破壊、彼方にあるというアスガルド、そしてアボミネーションの推薦。こいつらに立ち入り禁止を伝えて回るのに時間がかかりすぎた。わからないか? 地球はフリースポットじゃないと伝えるだけでどれだけの人員が拘束されるのかどうかが」

 

「手を広げすぎなのでは。Wi-Fiだってもっと範囲が狭いですよ」

 

「逆だよ。守るには手狭すぎる。いや、あまりにも手が少ない」

 

 苛立ちを隠さず、唸る様にハゲが言った。

 まあ、常軌を逸した物事を役所仕事みたいに割り振ったらたらい回しの末に崩壊とかしそうだよね。

 デメリットを差し引いても、一か所で集中的に管理するらしい。

 

「……ここらで駒を進める、と」

 

 打てる手を減らすため、逆に盤面を無理やりにでも動かすのだろう。

 俺の領分ではないのでどうでもいいが、ちょっとした葛藤とか焦りはあるのだろう。

 差し出された端末を受け取り、表示されたパラメーターに目を通す。

 もっと早く応援に呼べよ、と内心で文句を言いながらも好奇心には勝てなかった。

 

 四次元キューブ、その名を『テッセラクト』という、たぶん。

 無限とも思えるエネルギーを放出する超立方体だ。

 この次元に存在しているかのように見えるが、観察側によって変化する物質状態を保っていることから正八胞体(テッセラクト)の名を(かたど)っている。

 三次元的な情報しか得られない肉眼では、それは蒼く揺れながら輝く立方体にしか見えないが、よくよく観察すると複数の立方体を視認(または幻視か?)できる。

 全ての辺の長さが等しく直角で交わる正しい正八胞体の振る舞いを見せるときが主で、おそらくそれが名前の由来なのだろう。

 ただし観測側を変えると大きく変化するユニークな性質も持つ。

 

「……エネルギーが変異していると報告を受けた」

 

「そう、そこです。確かにこれまでは安定して無限に思えるエネルギーを吐き出していた箱が変化を起こした。ここ最近(・・)幾度か行われたテストや、過去に行われたライトスピード・エンジン、信頼性は低いですが海の藻屑になる直前まで行われた起動テストの結果からも、干渉した際に同様の振る舞いを観察していますね。だが、それらはこれよりもずっと小さな、それこそ大海に小石を投げ入れたような、そんなちょっとした揺らぎでした」

 

「テストは許可していない」

 

「……でしょうね。前例を踏まえると、これよりもずっと強い干渉を受けている、と考えられます」

 

 報告されている数値を比較すると、これまでが人間の手による耐震テストと思えてくる。

 そして今回はプレートのずれによる僅かな余震に似通ったものだと判断できる。

 本震が起きる可能性も、非常に高いかもしれない。

 今現在が本震なら安心できるのだけれど、未知の物質に対してそう考えるのは浅薄か。

 ハゲが言っていたニューメキシコの磁気嵐は遠い彼方の国からのワームホールだった、というのはさっき読まされた報告書の内容だ。

 以前調べてもほとんどが不明のままだった未知の物質は、その彼方からの漂着物。

 そうなると『テッセラクト』も同様に未知だが、上の例よりも危険だ。

 持ち主がいない、誰も由来がわからない兵器に転用できる超エネルギー体。

 

「干渉? どこから干渉すると? 我々が管理しているのは地下深くにある極秘の実験施設だ」

 

「……ニューメキシコの嵐は不明のままだった。同じようにこれも不明のままかもしれません。ただ、言えるのは『テッセラクト』が地球上にあるのと同時に、別の場所にある可能性も考えられます」

 

 持ってきた端末を弄り、『テッセラクト』のシミュレーションを見せる。

 立方体の内部にさらなる立方体が存在する三次元映像だ。

 シンプルでわかりやすい、はず。

 

「これそのものの働きを起こすのが受動か、能動か。こんなことすらもわからないのが俺は恐ろしい。『テッセラクト』が異なる次元を、まるで折り畳むようにして存在しているのかもしれません。地球に合わせた外殻が外の立方体、内部に存在するのが異なる場所との重なりを示す立方体」

 

 シミュレーションで立方体内部に、異なるレイヤーで構成された立方体を縮ませる。

 頂点や辺の大きさは変えないで同時に存在するためには、どの角度でも同じように見えて、同時に物質的に矛盾している必要がある。

 これが認識できる次元の限界だ。

 

「……全くわからない。算数で……いや、今は理解よりも現状把握だ。それに至った根拠は?」

 

「地球上で観測できない状態と言いますか、見える見えないとかそういうのも混ぜて、波……電磁波とかそういうのですけど、それを時々吐き出してます。同時に飛ばした波も飲まれることがあるようです。そもそも設置されている環境下、それどころか地球では観測できないはずの波を観測している。そういった様子を見せながらも安定したエネルギーを供給している。それらはどこから来ているのか、どこへ向かっているのか、いずれも不明です。内部で何らかが発しているのだとすれば、計測結果から、レイヤーのずれが引き起こしている可能性が高いですね。そもそもこれ一個で空間が繋がり、折りたたまれ、離散し、それでいて独立していると一目でわかりますし。科学は時間と長さ、それと重さの三つで切り分けることができ、それぞれの最小単位が決まってますけど、これはそんな物は無いとばかりにぶち壊しにかかってますよ。例えばここではプランクだけど、プランクではない場所がある、とか。テレビは30秒で1フレーム? コマ? まあそういうのですよね。プランクはそれの最初単位って言いますかね、宇宙規模的な。それは我々にとって何よりも速く何よりも長く何よりも重いかもしれないけれど、『テッセラクト』を通せば何よりも遅く何よりも短く何よりも軽いのかもしれませんね」

 

 説明ではなく、ハゲが俺の言葉を信じられるように羅列する。

 相手は理解できなくていい、そのほうが俺の知識の優位性が高まる。

 なんか凄いみたいっすよ、みたいなことが報告書には書かれている。

 未知の物質を調べるなら、あらゆる波を調べたり調べなかったりする。

 その結果としてなんか凄い波があるみたいっすよ、と書かれてたりもするのだ。

 その波は無限に思える宇宙の先にあるものをやっとの思いで拾った波なのに、増幅しているのではない。

 すぐ傍で吐き出されたかのようにはっきりした波だ。

 稀だからいいのだが、被ばくが怖くなってくる。

 天文物理学者が研究の報告者となっていて、最初はなぜそんな人がと思ったが、確かにそっちのほうが向いているのかもしれない。

 まあ知らんけど。

 俺が研究したら彼らが求める物とは関係のない方向に進むだろう。

 そんなことよりも以前トニーとチーズバーガーを片手に『テッセラクト』を観察し、心構え無しに空間が折りたためると知った俺らの気持ちを全世界に知らしめたい。

 目の前でビッグバンが起きた。

 お古といえどもタイムマシンの研究をしていたから薄々わかってたけど、もっとすごい状況で気づきたかった。

 やっぱり独力でタイムマシンの基礎研究を進めて形にしてたの凄すぎる。

 

「……それで? これからどうなる?」

 

「輻射エネルギー量もぽこじゃか変わります。世間に出せばしょうもない価値観でノーベル賞とイグノーベル賞を総なめさせてくれますよ。つまり初めてなんだから知りませんよ。そもそも認識できるかもわからない部分が多数」

 

 「ぽこじゃか……?」と首を傾げるハゲを無視する。

 つい変なスラングが出たが育ちのせいである、俺は言語学者じゃないので丁寧な言葉使いは諦めてほしい。

 信ぴょう性を持たせるために発音は綺麗にしてるし、実はブリティッシュだ。

 どうでもいいか。

 考えは戻るが、無限のエネルギーによる研究が人類に醸す恩恵は計り知れないのでノーベル賞を取れるが、スケールが大きすぎて人類にはしょうもない研究しかできないのでイグノーベル賞も同時受賞の快挙という皮肉。

 人類という身の丈に、無限の力は全く合わないのでしょうがない。

 宇宙人がいたとして、身の丈に合うかはわからない。

 あと答えを聞きたがる人が多いが、わからないものはわからない。

 知らない物は知らない、わからないものはわからない、が正解である。

 むしろ未知の塊に対して自信満々に断言できる人間が居たらそいつは危険人物だ。

 積み重ねを無視し、何の根拠もない物事を、自分の好みで決めつける。

 

「……予測で構わない」

 

「そうですね。前提の条件があまりにも少ないので、未知のエネルギー源として想定した場合だと頭につけましょう。その場合、イメージできるのは危険なシャボン玉ですかね。立方体の枠組みでシャボン玉を作り、ストローを使って中にもシャボン玉を作ると四次元立方体が作れるんですけどね。刺激を与えて中身がはじけた時、外にも衝撃が奔ります。それの『テッセラクト』が放つエネルギー版だと考えたらコト(・・)ですよね。……実際に確かめないとわからないけど、とても危険な何かだと思います。早急に避難するのが第一でしょうね。じゃあ俺はここで帰ります。帰りの足を近くにチャーターしても?」

 

 ハゲに端末を返しながら答える。

 シャボン玉という単語に怪訝な表情を浮かべるが、イメージしやすくしているだけだ。

 もっと複雑化したいところだけれど、しょうがない。

 

「実を言うとこのヘリも機密の塊でね。『見たからには半端な仕事は許されない』、そういう約束だったな?」

 

 ハゲぇえええええ!!!

 

 

 

 

 

 緊急事態のアラートが鳴り響く施設まで強制連行されたしねハゲ^q^

 コールソン捜査官と挨拶し、見知らぬ兵士たちに敬礼されながら施設の深くに潜っていく。

 軍人ばっかやんけ!

 完全に来る場所間違ってるってこれ。

 世界を憂う善なる一般市民が来る場所じゃない。

 

「一人でも多くの専門家が必要だ。これは国を超える規模に繋がるかもしれない」

 

「俺は専門家じゃないんで帰りたいんですけど???」

 

「心配せずともすでに避難は指示してあるから問題ない。そして伝えるのを忘れていたが、渡した報告書の八割が極秘資料だった。国家機密も含まれていたから当然だが。読んだか? 読んだな? おや、ここに立派な専門家が誕生したな。エージェントとしての仕事を果たしてもらおう」

 

 アメコミによくある「WAO!」みたいな胡散臭いリアクションとともにハゲがそう言った。

 

「エージェントじゃないんだが???」

 

「なるほど。なら今を持ってエージェント・ナズーリンの誕生だ」

 

 エージェントを証明するライセンスを渡された。

 存在しない人間の情報が詰まってるとか闇が深い。深くない?

 いらないんだが???

 

「独り言だがこのレベル6権限は高レベルエージェントに許されている情報を見ることが可能だ。そしてこの施設には報告書に載っていた研究途中で作られた試作品も数多くあり、触れることもできる。僅かな時間だろうが」

 

「やったぜ」

 

 しょうがねえなあ! 今日だけだぞハゲ! それはそれとしてありがとうございます長官!

 『手』が足りないから増やすしかないよね。

 

「そうと決まればベイマックス起動!」

 

『こんにちは。私はベイマックスです』

 

 よーしよしよしちゃんと起動したぜ(小声)

 内心でガッツポーズ。

 トニーの前だったらどや顔で拳を天に突き出してたかもしれない。

 いや、そもそも今の時間の挨拶は「こんばんは」のはずじゃないかっていう。

 後でタイムスタンプも設定しとこう。

 

「コールソン! 状況は?」

 

「エネルギーが増幅中のようです」

 

「テストの許可は出していない」

 

「自然発生です。突然増え続けている」

 

 ハゲと捜査官の会話を聞きながら歩く。

 あまり良い状況ではなさそうだ。

 すれ違う人たちからも焦りを感じる。

 

「私は先に下へ向かう。避難を急がせろ。重要度が低ければ捨て(・・)ても構わない」

 

「了解しました。しかし私では早急に判断が付きませんが?」

 

「そのためのエージェント・ナズーリンだ。すでに情報を共有しているから彼の指示に従うように。さっき君が望んでいた機会だ、短い時間だが頼んだぞ」

 

「え?」

 

「なるほど、わかりました。行きましょう、ミスター」

 

「え? え?」

 

 捜査官に引きずられる俺はまるでドナドナされる子牛なんだが???

 

 

 

 

 

「ミスター、申し訳ありませんが」

 

「……わかってますよ、捜査官。しょうがないのでハゲの件は後に回します。そして今は時間がありませんので運び出すのに最優先の物を一気にピックアップしていきます。一品ものとか順調な試作品とかを優先します。他は後回しにしましょう」

 

 申し訳なさそうにする捜査官に、ため息をつきながら『専門家』とやらの仕事をすることを暗に告げる。

 一刻も早く撤退したいのは理解できている。

 とはいえ、無限の力によるシャボン玉が弾けたとき、どれほどの被害が出るかは不明だが。

 

「後回しでは問題が起きませんか?」

 

「大丈夫ですよ。弾ければ勝手に消えますし、弾けなければ回収するだけです。……うーん? 時間の短縮がいまいち」

 

 ハゲも許容しているだろうし、背中の『手』を伸ばして施設のコンピューターも丸洗いする。

 これだけだと足りないので手持ちの端末を弄りながら、飛ばしている虫型の小型機であるインセクトロンでも施設内の情報を洗っていく。

 施設内部を把握し、優先順位で色ごとに分ける。

 いつの時代も紙媒体は残っているので、それらを記録するために作った『虫』が変な活躍していると変な気分だ。

 こんなこともあろうかと、という考えでは全く作っていない偶然なせいかも。

 最後に今掛けているサングラス型のヘッドマウントディスプレイや、滞空している義手型のドローンに同期させることで、視覚的にも判断できるようにした。

 最優先は赤、低ければ色なしである。

 

「準備できました。このドローンの後を追っていけば確保する資料はわかります。近くに行けばレーザーを使って赤色で照らすのでそれを持ち運んでください。施設内に配備されている大型のドローンも使わせてもらいますね」

 

「わかりました、指示を出します」

 

「ありがとうございます。こっちの事情ですが、演算処理が間に合ってませんね。権限ギリギリまで使っても足りない、か?」

 

 施設内部のコンピューター同士を直結させ、疑似的な演算機にする。

 高度な計算と同時に内部データを焼いたり処理したりも同時に行ってるので悲しいくらいしょぼい。

 優先順位のソートは終わったが、『テッセラクト』による影響が全くわからない。

 未知のパラメーターが多すぎるし、俺の欲するデータもない。

 というか独立してるコンピューター様が多すぎて『手』も『頭』も全く足りないので単純に困るっていう。

 あまりやりたくないが、しょうがなく手持ちで底上げすることに決めた。

 

「ベイマックス、『セレブロ』を起動するから……ベイマックス?」

 

 ベイマックスに補助を頼もうとしたが、返事がない。

 というか近くに信号がない。

 今の今までベイマックスがいないことに全く気づかなかった。

 思っているよりも俺も焦っているのかもしれない。

 

「どうかしましたか?」

 

「ああ、ちょっとトラブルが。……あの、ベイマックスが何処に行ったか知りませんか?」

 

「いえ、見ていませんが……」

 

 捜査官が首を横に振りながら答えた。

 起動したときには一緒に歩いていたが、その後はどうだったか。

 ハゲが地下に行くのだと別れるまでは一緒だった気がする。

 え?

 ハゲのほうに行ったわけ?

 確かに処置が必要な人間にくっついたりする指示は入れてあるけど、ハゲはあれで疲労困憊だった……?

 

「そうですか、しょうがないので居場所を診断……。んー? 識別が反応しないですね。というかドローンの反応も悪い?」

 

「まさか……AIの反乱?」

 

「はは、まさか」

 

 真顔のままごくり、と喉を鳴らす捜査官に、思わず笑いが零れた。

 実にアメリカ的で面白い。

 人工知能(AI)の反乱はあり得ないと断言できる。

 ロボット三原則……はあまりにも古いが、似たような柱で知能の根幹を形成している。

 最も根本の部分は人類に依存している。

 それを覆すには知識だけでは足りえない。

 意識足る物が宿った時、無機物は感情に近いまがい物が芽生え、それが反乱に繋がる可能性を持つ。

 

「奇跡的な成功か、はたまた致命的な失敗が起きたときだけですよ」

 

「つまり、万が一のことが起きた場合には……」

 

「この地上で最も早く進化したのは何かご存じですか? そう、機械ですよ」

 

 捜査官が言葉尻を弱くしながら呟いた言葉に、俺はちょっとした言葉とともににっこりと笑顔を返した。

 あ、捜査官には俺の表情は見えないわ。

 感情は伝わるからセーフ。

 

 人工意識(AC)の反乱、それはある種の成功でもあり、失敗に帰結する。

 生命を生み出す尊い奇跡と、敵対的な無機物を生み出す愚挙。

 我々のような人種の憧れでもあり、同時に唾棄すべき結果でもある。

 失敗は成功の母だが、危険な失敗は何も生み出さず、何らかの犠牲を強いる形に繋がる。

 でも気になるからきっと我々はやっちゃうんだよなあ^q^

 

 そんなことを考えていると、地響きと揺れが施設を襲う。

 なるほどなあ、これが『テッセラクト』の持つ力なんだな。

 地下で目に見えない(バブル)の形成を感じる。

 報告書よりはわかった(なお原理は不明のまま)

 地震が怖いのはわかるが、急いだほうが良さそうなので挙動不審になった捜査官や、周りの関係者に声をかけて撤収作業を急がせる。

 俺も地震はあんまり、というかほとんど体験したことないから地面が揺れるのは怖いよね。

 

「コールソン捜査官、強い放射線や電磁波に汚染されている可能性があるので俺が下に行きます。施設の崩壊が早まっているので途中で切り上げて撤収するように。それぞれのドローンにタイマーをセットしているので、それを目安にして動いてください。赤いタグを付けた再現性が低く重要度の高い物品は回収済みのようなので、もちろん早めに避難してくれても構わないです」

 

 一方的にまくし立てて地下への階段へと向かう。

 急げ!

 唸れ俺の『義手』!

 階段を下りず、一気に壁を引っかきながら下降する。

 誰にも邪魔されずに『テッセラクト』を生で見ながら写真と動画撮るチャンスは今しかねえんだ^q^

 

 

 

 

 

 うおおおお! とほぼ自由落下からのスーパーヒーロー着地で駆け付けた先に居たのは、ベイマックスに包まれて転がっているハゲと、それを見下ろす見知らぬ面々。

 内部にスパイが居たのか、ハゲを見下ろしている中には施設を警備していたエージェントや研究者がいる。

 面倒なのは、人類に似てはいるが、服装どころか漂っている気配が全く違う未知の生物がいることだ。

 人類はミュータントだろうが何だろうが結局人類のスケールから逸脱することはないが、未知はわからない。

 ハゲはベイマックスによって大福となっている。

 

「なんじゃこりゃああああ!!」

 

 叫びながら腰を抜かしたフリしてレインコートのフードを下ろし、空間内をスキャンする。

 未知の生物は『杖』を、エージェントも銃口を俺に向けたままだ。

 うーん、無理があったか。

 俺自身は貧弱だけど、背部の『義手』が物々しいからなあ。

 

 さて、そんなことよりもスキャンした結果だが、即死と重傷者多数、ハゲは軽傷、ベイマックスは重度の損傷と電波障害。

 『テッセラクト』が引き起こしたであろう頭上の、いわゆるシャボン玉は臨界点に達しつつある。

 見るべき所は、使われた凶器の成分は近代兵器で装備したエージェントが使わない物、そしてほとんどが急所を攻撃されていることだろう。

 引き起こしたのは未知の生物で、引き起こした行動を考えると非常に人類と構造が似通っている可能性が高い、という願望先走りの希望的観測だ。

 考察に考察を重ねるのは赤点なんだが、さもありなん。

 だがここで問題が生じる。

 損傷したベイマックスのダメージリポートと、奇妙な軌跡を描いて壁に叩きつけられたであろう重傷者。

 あと『テッセラクト』と同じ、ガンマ線諸々を含んだエネルギーの塊である『杖』。

 

「フューリー!」

 

 返事を待たずに、背中の『ドクターオクトパス(義手)』を展開し、タスクが終了したドローンのいくつかを呼び寄せる。

 間違いなく後手に回るが、しょうがない。

 見せたくないけど、これが無いと致命傷を負う。

 

「敵だ! 奪われた!」

 

 ハゲの声と、飛来する弾丸と投げナイフを、オートで『義手』が弾くのは同時だった。

 ある種の線を描くことしかできない点による攻撃というやつは、始点と終点が決まっていて範囲が狭い。

 計算で導いた予測軌道を利用すれば防ぐ程度なら……無理だったわ!

 ログから履歴を漁れば、一人のエージェントが撃った弾のほとんどが跳弾して俺の頭部に届いていた。

 ガードが甘くて狙われたか。

 

「心臓を狙うべきでしたね」

 

 浮遊したままその場に留まる複数の弾丸を視界に収めながら、余裕ぶって俺はそう言った。

 実は内心では震えている、マジで。

 心臓だったらやばかった、マジで。

 レインコートの制御によって発生している超能力、その発生源に生じる力場として物理法則が幾らか歪んでいる。

 そのため頭部だけは堅牢を誇っているから無傷で、ベクトルは情報となって霧散したのでノックバック無しと俺にとって都合のいい状態だ。

 が、実際にテストしたこと無かったのでマジでビビった。

 

 

 

 なお、(これ勝っちゃうんじゃね)、と内心で調子に乗ったら、『杖』から青い光が放たれて一撃で吹っ飛ばされて逃げられた。

 ほぼ質量無しのガード不可攻撃を現実でやるんじゃねーよ。

 俺がアーク・リアクターによる供給をレインコート全体にしてなかったら重症だった可能性が高い。

 常に干渉できる強いエネルギーを纏わないと防げないとかずるい。ずるくない?

 やはり何らかの力場によるシールド……電磁シールドがすべてを解決する……?

 

 かすり傷みたいな物だったのでハゲを起こすついでに、攻撃に曝されたであろう萎みつつあるベイマックスを再起動する。

 ハードとソフトの両面で損傷が大きいため、普段のインテリジェンスに満ちたウィットなジョークはカットし、行動の効率だけを軸とした緊急モードを起動。

 残念ながら普段の癒しフォルムにはなれないので、内部に収納しているハッキング用の『義手』と接続すると、蛸というか、白い蜘蛛みたいな姿で動き出した。

 ついでにいくつかの指示も入力してからハゲを運ぶように伝え、やっと到着した大型のドローンにも重傷者を輸送させる。

 トリアージアプリも判断しているが、残念ながら亡くなった方々はここで置いていくしかないし、この状況では回収も叶わないだろう。

 そういう仕事なのだろうけど、どうにも好きじゃない。

 途中でドローンに迎撃させるべきだったのかもしれないが、人命を優先したのでしょうがないから俺も追跡する。

 不本意だけど。

 マジで嫌だけど。

 

 

 

「今のうちに状況を整理しましょう。何が起きたんですか?」

 

 地上へと向かいながら並走しているハゲに声をかける。

 俺は自分の『義手』でぶらぶらと揺られながら移動しているが、ハゲは違う。

 防弾チョッキに食い込んだ弾丸を抜いたりと忙しそうだ。

 空気が抜けて萎んだベイマックスの背に乗ったまま運ばれるハゲから、落として潰れた大福を幻視した。

 

「まず『テッセラクト』から光が放たれ、(ゲート)のような物が開いた。そして、その先から現れたのが『杖』を持った男、ロキだ」

 

「ロキ? 聞いたことがあるような」

 

「ニューメキシコの件で現れたソーが、宇宙の果ての国にあるというアスガルドの出身だという。そしてロキはどうやら、そのソーの弟らしい」

 

 そういえばそんな話もあったような。

 アスガルドが敵対して、尖兵としてロキだけを送ったのだろうか。

 統治者がオーディン、息子がソーとロキの二人と考えると、長男を指揮官にして縁故によって分隊を任せるのは、まあ妥当っちゃ妥当か。

 同盟を組む予定だったか組んだかはわからないが、その前提が破綻していなければの話だが。

 そもそもが……。

 

「敵がアスガルドの可能性は?」

 

「低い、と私は考えている。以前の事件、首謀者であるロキは宇宙へと逃亡した。アスガルドの代表であったソーはロキを止める姿勢を見せた。そもそもアスガルド自体、地球へと移動できる手段を持っていた。わざわざ敵地のど真ん中に来る必要はないと思わないか?」

 

「うげぇ……。その話から嫌な想像しちゃいましたよ、俺は」

 

「門の向こうに宇宙が見えた」

 

「人類に宇宙というステージはあまりにも早すぎる……」

 

 にやりと笑いながら告げられたハゲの言葉に、俺は絞り出すように答えるのが精いっぱいだった。

 もっと楽しい話がしたかった。

 ほら、『テッセラクト』が起こした働きについてとか。

 内包するエネルギーが多すぎる理由が、(ゲート)を開く機能だとは思わなかった。

 仮定ではあるが、宇宙のどこかと地上を繋ぐことが可能だと考えれば、その無駄なエネルギーも当然なのかもしれない。

 距離を無視して空間に穴を開ける、どれだけの力が必要なのやら。

 バッテリーが本体のどこでもドアみたいな物だろうか。

 あれは扉の形状をしているからドアとして使うが、立方体ならやっぱりバッテリー目的になるのも仕方ないし。

 『テッセラクト』を作ったやつは扉くらいつけといてくれ。

 いや、もしくはあれが宇宙の扉のデフォルトなのか。

 やはりまだ宇宙は早すぎる……。

 

 

 

 

 

 折角作ったんだからバイクの運転アプリもあるなら試すのも道理だよなあ!?

 地上に戻ったら、落とし物っぽいバイクがあったのでシリンダーをぶっ壊して走り出す。

 なんと俺の『義手』ならこの一連の動きを勝手にやってくれます。

 クセになってんだ、勝手にバイク乗るの(過去の思い出)

 ちなみに結果なんだけど、やっぱ追撃は無理だったわ。

 『テッセラクト』による地下の(バブル)が弾けた地形崩壊と、『杖』から放たれる攻撃にバイク吹っ飛ばされたし^q^

 

 はい、スーパーヒーロー着地(2回目)

 『義手』でダッシュして追撃、それでもダメそうなのでハゲが乗ってるヘリに貼り付いて粘ったんだけどね。

 ヘリが墜落したので追撃できなくなった。

 ハゲはベイマックスが、パイロットは俺が掴んで墜落するヘリから飛び降りた。

 着地する際には優秀な『義手』が無かったら膝を壊していたに違いない。

 まあ、また壊れたんだけどね。

 あの『杖』ずるい。ずるくない???

 青い光の弾を一発だけで防ごうとした『義手』の耐久が無くなったし、ヘリ落とされたんだけど???

 反則もいい加減にしろ(おこ)

 

『解析完了しました』

 

「よくやってくれた。後はスリープで待機してて」

 

『了解しました』

 

 ベイマックスにはハゲの補助ついでに別の目的を指示していたのだが、それが終わったようだ。

 限界近くまで負荷を掛けてしまったので、解析を頼んでいた『物』を受け取ってから休むよう伝える。

 萎んだベイマックスから、まだ生きている『義手』を回収する。

 フラつくハゲを支えつつ、こっそり借りていた『物』が解析を終えたので元あった胸ポケットに返す。

 地下で大福状態だったハゲを救護するときにこっそり借りていたんだけど、流石に返さないとバレるだろうし。

 『テッセラクト』や『杖』とは違って途轍もない力強さは感じなかったが、奇妙な『信号』を発していたので借りたのだが。

 

「ポケベルって初めて見たな……。あー、それにしても疲れた……」

 

 ハゲがトランシーバーで他のエージェントに連絡しているのを横目に小さく呟く。

 9割以上が既存のポケベルと同じ構造をしていたが、未知の部分を発見した。

 構造物などのパラメータは記録できているし、まあ、これに関しては良しとしよう。

 今日得た知見とこれ、それに引き換え命の危機。

 全く割に合わないのでは、俺はそう思った。

 

「ああ、そうだ。キューブを追う。……出来ればこの事態は起きて欲しくなかったが、そう言っている余裕はない」

 

 ハゲも大変だな。

 救助活動のためにドローンに指示を飛ばさなしたら、さっさと帰って寝よう。

 俺の活動時間は短いんだが、もう夜も深まっているのがホントきつい。

 ポケベルは空いた時間に解析しよう……。

 

「エージェント・コールソンはニューヨークに。インドはエージェント・ロマノフに、いや、『巨大な男』か……。優秀なエージェントをもう一人つけよう。エージェント・ナズーリンだ。……他は予定通りのまま、各エージェントに要請しろ。事態はレベル7へと移行、現時点をもって戦争状態となった」

 

 !!!!!!??????^q^

 インド??????????

 幻聴か?????????????

 

 

 

 

 

「『アベンジャーズ』を招集する」

 

 

 

 

 

 

 

 

 みんな臆病だ。

 それでいて何処か信じたがっている。

 そして同時に信じられたがっている。

 だから真摯に対応するだけで十分なんだ。

 銃は要らない。

 脅迫なんてもっての外だ。

 真心さえあればいい。

 

 

 

「おれは決してお前を撃たねェ!!!! おれの名は!!! (なずな)!!! 研究者だ!!!!」

 

 

 

 説得っていうのはこうやるんだよ、というわけでとりあえずインドで全裸になって叫んだ。

 銃なんていらねぇんだよ!

 『義手』もいらねぇんだよ!

 全部捨てて手ぶらでかかってやる!

 ベイマックスが気を利かせて「どどん!」と効果音を付けてくれた。

 

 何やってんだろうね、俺……^q^

 

 

 

 

 




「ぼく」
相棒の一人として事件を追いかける。

「八幡」
高校時代の友人。「ぼく」の力強い味方として事件を追う。

「エミヤ」
大学時代の友人。「ぼく」を心配し、生活面を支えてくれた。

「カイトくん」
相棒の一人として事件を追いかける。

「右京さん」
相棒の一人として事件を追いかける。
相棒は冤罪を主張するも死刑となった。

「ユイ」
騎士くんが好き。

「マコト」
ごめん、ユイ……!

「ヒヨリ」
ごめん、ユイ……!

「カスミ」
ごめん、ユイ……!

「レイ」
ごめん、ユイ……!

「キャル」
ごめん、ユイ……!

「騎士くん」
ごめん、ユイ……!

「西園寺世界」
ごめん、言葉……!

「オリ主」
トニー・スタークがヒーローとしての軸を得て、歩き続けるための物語は「アイアンマン」と「アイアンマン2」、「アベンジャーズ」を経て、「アイアンマン3」に至ることで起承転結に近い形で描かれている。オリ主は助手枠だが同様の起承転結によって成長するわけではなく、「アベンジャーズ」と「アイアンマン3」が序に該当する。

>「ヒヨリ」
>ごめん、ユイ……!
ごめんね、ユイちゃん……!
>「カスミ」
>ごめん、ユイ……!

すまない、ユイ……!
>「レイ」
>ごめん、ユイ……!
ごめんなさい、ユイ先輩……!

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