私たちは夢と同じもので形作られている   作:にえる

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聞いた話なんですけどね、「ボーイミーツガール杯」をやってるらしいですよ。
私は全然関係ないのでよくわからないんですけど、なんかそういうのやってるって聞いて。
なるほどなぁって。
いやまあ全然関係ないんですけどね。
ホント関係ないので。
期間は今月の30日までですけどマジで関係ないです!

あーラブコメ書きてえなあって思ったりしました。
でも全然関係ないです!

マジで関係無かった。


アベンジャーズ5

 

 --8

 

「『TTX-A』……テトロドトキシン、いや、チニアトキシン?」

 

 拠点へと戻る途中、クインジェット内でバナー博士に研究を見てもらえることになった。

 出来ることも限られているので、公開可能な限りの情報を端末で読めるようにしてあるし、今回の事件のついでだ……俺の気持ち的には本題だけど。

 博士が強く興味を示したのは改良中の薬品のようだった。

 

「テトロドトキシンですね。類縁体とか、レシニフェラトキシンとかを参考にしています。今のところ大雑把にテトロドトキシン・Aタイプと呼ばれてます」

 

「興奮の阻害、かな?」

 

「そうです。超人と呼ばれる人たちが増えてきたので、対策が欲しいみたいですよ。まだ、人間に使うには早いですけど」

 

 生物兵器に使われるのは細菌やカビのように毒性が強い物で、これは神経系に害を及ぼす生物毒だ。

 体内を破壊しないし溶かさないので安全……安全ではないか。

 天然素材の中だと複雑な構造をしていて、熱にめっちゃ強いし分解もしにくいとかそんな感じだ。

 変な後遺症もないし、上手く使うと神経を騙せるのもいい。

 テタヌスとかは扱いにくいし、まあ他の物質にも言えるけど生物種によって効きが違う。

 サンプルとしてアボミネーションに投与したら水酸基を欠落させられて急速に失活したらしいので、超人に使っても効果はあまり期待できないのが欠点というか。

 そもそも生物毒は超人に効きにくいんじゃないかな。

 

「それなら眠れない夜に借りてみようかな。うーん、全合成で150段階を超えるのか」

 

「経路はできてますけど、あまり気軽に試すものじゃないかなって」

 

「そうだね、合成過程で新しい反応も確認できているようだし、それらを調べて幾らか省略が可能なら効率化できそうだ。実は僕も似たような研究をしているんだけど、機材が足りないのがなかなか難しいよ」

 

「ああ、それなら新しいラボに……あと他の研究も見てもらいたいです」

 

 博士は穏やかな笑みを浮かべながら頷いた。

 

 

 

 

 

「ケアロボットか、うん、いいね。やっぱりベイマックスのように接触型は安心感を抱きやすいよ。……頭は、うん、まっさらな人工意識を用意して、時間をかけて学習させたんだね。気長すぎてちょっと一般向けではない、かな。それ以外は目立った難点は無さそうだ、素晴らしいよ」

 

「ありがとうございます! ……外に出すとしたらコピーして完全制御するか、原則を設けるとは思います。もちろんロボット三原則みたいな骨董品ではないです。ただ、実を言うと完全制御するのはちょっと不安なんですよね。恥ずかしい結果があるんで、ちょっと端末を借りますね……あ、これです、これ」

 

「ああ、これは難しそうなことを試したんだね。数値化した正しさで固めてるのか……このAIは凄いよ、ある意味ね」

 

「人間の代わりに正しい判断を下す、というのがテーマだったんですけど」

 

「積み上げた経験による柔軟な思考を導くはずの部分を、『正しさ』という免罪符で好き勝手できる遊びに利用しているんだね。AI自身が導いた『正解』と、捨てられた『不正解』を利用し始めてるね……うわぁ……凄いな。絶対失敗するルーチンを組み上げて……人間にとって都合の悪いことをし始めたね……これは実に怖い」

 

「世界平和をゴールに設定したんですけど……」

 

「それで人類の抹殺か……」

 

「タチが悪いと思いません?」

 

「僕としてもあまり認めたくない結果ではあるね。……この途中、そう、ここなんだけど。ミッションのクリア難易度が高いよね。この時に歪んだみたいで、どうもこれを効率重視というか、面倒を嫌ったのか、そういう方針を持ったのも原因みたいだよ」

 

「まさかここで妥協を覚えたってことに……」

 

「妥協……確かに妥協とも取れる。うん、言い得て妙だ。ここが分岐点として妥協を覚えたことは否定できないね」

 

「完全な正しさって実現できないものかなぁ……」

 

「よく言われているけど、作った人間が出来ない事は実現できない物だよ。だってわからないんだから。知らない物は残念ながら生み出せない」

 

「絶対に正しいことってやっぱり博士にもわからないですか?」

 

「わからないよ。僕はわからないことや知らないことばかりなんだ。でも恥ずかしいことじゃない。意味のある物や意義のある事に触れることのできる新しい発見は、僕を絶望から救ってくれる素晴らしいことばかりだ。……面倒なことも多いし、望んでいない物を抱えるしで結構苛立つこともあるけどね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、ピム粒子。僕も試してみようかと思ったけど断念したよ。原子間の相対距離を操作する亜原子粒子と聞かされるとなんというか……。そう、色んな可能性が高い気がするんだ。実際はそんな余裕なかったけれど」

 

「そうなんですよね。物質の特性を単純に操作できることを期待したのですが、突然この分野が消えた感じなんですよね。調べてみても結局古い論文くらいしか無いままでした。取っ掛かりもいまいちで、自力で基礎を積んでるんですけど思ったのと違うみたいで……」

 

「提唱者のようにこれに至った発見や閃きを得るか、狙いを絞らないとダメかもね」

 

「絞る前が広大すぎるんですよ。それっぽい物質を選んで総当たりにするだけで自由度が大きすぎてカオスになります。もっと簡単であって欲しかった」

 

「でもこれが完全可積分できたら僕らの世界はボロボロだから複雑で安心する気持ちもある」

 

「痛いほどわかります。……実はこの研究に僕は言いたいことがあります」

 

「何かな」

 

「ピム粒子って確か1960年代の論文でしたが、精製量さえ解決出来たら実証できるようなことが書いてあったと思うんですよ」

 

「うん」

 

「機材とか理論とかも交えて、その時代背景でピム粒子に至ってしかも合成してるのってキモくないですか?」

 

「……せ、先人が偉大だったと讃えておこう」

 

 

 

 

 

「これも面白そうなテーマだね。今は重力制御に関わる余裕がないけど、いつかは僕も手を出してみたいくらいには興味深いよ。うん、本当に面白そうだ」

 

「博士も興味ありますか? やってみるとホントに面白いですよ! 俺が開発しているのはハワードって人の反重力装置とグラヴィトニウムを応用した重力閉じ込め式なんですけどね! 最終的にはこれで核融合実験の予定です! 俺の上司のお父さん、残念なことにもう亡くなってしまったんですけど、その方が反重力装置の基礎を築いたんですよ。今だと機器の発展とメタマテリアル技術のおかげで正確な制御が可能になっているので、かつて出来なかった繊細なあれこれ(・・・・)が出来るようになって目に見えて発展している分野ですよ! で、これ使ってグラヴィトニウムを利用していこうかな、と! 正直、実証とかどうでもよくて、エネルギーの総量を質量と見做して結果として重力が発生するだとか、ゲージ理論で電場と磁場のついでに重力も複雑で糞みたいな計算が一応できるので電子と陽電子の融合した物みたいな感じでできたグラビトンの塊がグラヴィトニウムでいいと思うんですけど……」

 

「老婆心ながら忠告させてもらうと、実証も大事だと思うよ。あと浪漫がないこと言わせてもらうと素粒子等の振る舞いの結果としての情報が重力だとも考えられるけど、つまりグラビトンは……ああ、媒介する物質があると考えてグラヴィトニウムの保管も可能って述べてるんだね。まず未発見物質をどうするかって話になるけど、それでも興味深い。あるかわからない物を前提でやってるからアインシュタインぎりぎりだけど」

 

「確かに。そう見えますか。うーん、でもまあ全然大丈夫です!」

 

「あ、そうなんだ……。大丈夫ならいいけど、君の上司は気にしないのかい?」

 

「気にしませんね。専門分野と比べて小さすぎて量子物理も好きじゃないっぽいです」

 

「ナズナくんの上司は、あのトニー・スタークだっけ? 彼からしたら小さすぎるよね。政府御用達の武器商人に、あまり僕は良い印象を抱くのは難しいな」

 

「それは偏見ですよ。販売先は厳しくチェックしてますし、兵器の量を調整してなるべく争いに繋がらないようにも気を付けてます。傲慢と言われたらそれまでですけどね」

 

「うーん」

 

「ちなみに最近開発したのはヴィブラニウム製の水鉄砲です。ロックオンと三点バースト機能付きでかなり強かった」

 

「富豪向けの新商品かな?」

 

「いや……特性の理解を深めるためという名目ですね」

 

「うん……うん? ごめん、人となりとか何もわからない。たぶん、その、ユニークな人なんだね、うん」

 

「あ、ホームビデオがありますよ。再生しますね」

 

『ナズ、あのスターク・タワーが見えるか? 残念ながら君がいないまま点灯式を始めさせてもらうこととなった。クリスマスじゃないのに、クリスマスツリーが灯ったような素晴らしさを味わえるだろう。一つ伝えておくと、私の技術によって最高の画質で録画が可能だが、それでも肉眼で観るよりは劣化してしまうだろう。残念だ、非常に残念だ。保護者はクリスマスを一緒に過ごさないと色々な団体から突かれるから私としては遅らせたかったが、ナズも忙しい、そしてよく考えると今日は別にクリスマスじゃないからな。ナズが後で点灯の瞬間が観たかったとゴネる姿が浮かぶようだ。私はこの後、ペッパーとシャンパンで乾杯するし、もちろんケーキも食べる。イチゴは入ってない。ナズの分はいつ帰ってくるかわからないから無い、お友達を優先したことを後悔するといい。……よし、点灯だ。私の名前が光っていて、まさにクリスマス……なんだ、消えたぞ。ペッパー? ジャーヴィス? ……なに? ベイマックスが? ……それっぽい電源を消すなと説教しておけ! 復旧はいつになる? 冷凍保存してあるケーキは大丈夫か? イチゴは鮮度が重要だからな……ペッパー? 録画……? なるほど……私の助手ナズよ、この記録は再生終了後5秒で爆発する――』

 

「……ユーモア溢れる人だね、うん。印象がかなり変わったのは確かだよ。ネガティブじゃないけど、ポジティブかと言われると、うん、まあ」

 

「ベイマックスは電源を勝手にいじったので保護者制限モードになりました。巻き添えで俺もです」

 

「それは、ご愁傷様だね……」

 

 

 

 

 

「うーん、うん? ……このレポートを読んだ限りだとナズナくんは『テッセラクト』の空間転移をざっくりした表現としては泡に喩えたんだね。これはちょっと気になるな」

 

 研究を一通り見終わったバナー博士が、今度は俺が提出した報告書に興味を示したようだった。

 事件については軽く説明しただけだったので、ちょうどいいかもしれない。

 小型端末のディスプレイに表示されているレポートに赤い文字で採点されていく。

 

「空間に穴を開けることに着目するのは当然だけど、ちょっとそっちに集中しすぎているようだ。この……ロキ、でいいのかな? 彼が、量子トンネルを利用したとしても、開く時間はかなり短くて済む。たぶんナズナくんは安定化も視野に入れたのかな。入れているとすると確かに必要とするエネルギーが爆発的に増えて、これの通り危険性も時間とともに高まるかもしれない。でも、実際はもっと単純な考え方を基礎としてもいいかもしれないね。思考実験として加速器を使ってみようか、国が所持するタイプよりもずっと長くて耐久性があって立派で、それの内部でミニブラックホールが出来るとする。出来上がるまでは理想環境、その後は現実と一緒。どうなるかな」

 

「蒸発、ですかね」

 

「うん、そうだね。ただ、蒸発だと表現に勘違いが発生するかもしれないから消滅と言っておこう。そんなわけでミニブラックホールは観測できるかどうかの短い時間で消滅する。さっき重力の話をしたけど、計算上ではエネルギーやらなにやらは実は釣り合っているのかもしれない。同じように『テッセラクト』の空間転移も使用が短ければ釣り合うんじゃないかな。ニューメキシコ州で観測されたアインシュタイン・ローゼンブリッジに酷似した記録と似通っているから……うん、良さそうだ」

 

 博士からレポートを受け取り、上から下まで赤くなったのを読み解く。

 丁寧にワームホールを開け閉めして釣り合う計算式が追記され、綺麗に証明されている。

 これを見る限りだと……

 

「これだと安定させれば開け続けられるってことになりますね、しかも距離を無視できる」

 

「そうだね。トンネルを開通させるように、クーロン障壁を超えられるエネルギーを供給できるなら『テッセラクト』は安定したワームホールの生成を可能にするかもしれない。距離を無視できる、そんな物が出てくるとは……実に困ったものだ」

 

 力なく笑う博士を見て、俺も同じような笑みを浮かべているだろう。

 ざっくり言うと、起動さえできれば速さを無限にするか距離をゼロにする、または要する時間をゼロにできる、みたいなもんだ。

 探偵物の小説だったら一瞬で複数の密室殺人が起き、その犯人たちが超能力を持っていて同時に数キロから数十キロ先から犯行に及んでいる事件の探偵役の気分かもしれない。

 

「……ちなみに『テッセラクト』を動力源としたエンジンの計画もあったみたいですよ」

 

「確かに動力として使っても申し分ないかもね。もったいない使い方ではあるけど。……否定できるほどの利用法は僕にはちょっと思いつかないけどね」

 

「俺も同じですよ」

 

「理想論としては地球のエネルギー問題は解決できるけどね」

 

「いいですね。一か所に集中するとまずいので、ワームホールで分配しましょう」

 

「四半世紀はエネルギー利用が上手くできるとは思えないから、原子力とか火力発電の代替程度とか」

 

「一応アーク・リアクターという素晴らしい発明があってですね」

 

「でも独占しているんだろう?」

 

「兵器利用しやすいんでしょうがないです」

 

「『テッセラクト』も多分同じだよ。いや、悪い言い方だったね」

 

「自分なら大丈夫って、そう言い聞かせて使うしかないんです。せっかくだから博士が見張るとかどうでしょう。アーク・リアクターも。キューブも。ラボに来てみてくださいよ」

 

「うーん、どうかな。……僕は自分なら大丈夫ってもう思えないからね」

 

「無責任な話ですが、俺には問題ないようにしか思えません」

 

「檻の中と外で見え方も感じ方も違うんだ。自分にしか聞こえない囁きを外から判断することはできないし、緑の巨体になったら今度は僕が見えないのと同じなんだ」

 

「……連続性こそが最も重要なのだと、俺はそう考えます」

 

「僕は正気を失うと『あやふや』な記憶しか覚えて無くてね。薄くか細く繋がっている可能性はあるかもしれないけど、それだけなんだ」

 

「……明確に断絶さえしてなければ、きっと、その」

 

 

 

「ありがとう。でもね、連続しているかどうかは重要じゃないんだ。自分に自信が無いだけなんだよ。……誰よりも」

 

 

 

 

 

「楽しい自由研究の時間は終わったの?」

 

「そんなところです。博士が『テッセラクト』と、それを追う方法に興味が移ったのでお開きになりました。課題に関しては赤点も貰いましたけど」

 

 話を切り上げるとバナー博士は集中して資料を読み込み始めたので、クインジェットの助手席に移動する。

 必要ないとは思うが、補助のためだ。

 目的地のヘリキャリアまでそれほど距離もない。

 現在位置の座標を連絡すれば、着陸のための座標が指示された。

 ロマノフさんにそれを伝えると、じっと顔を見られた。

 

「リンちゃんも赤点を貰うのね」

 

「そりゃあ貰いま……え? リンちゃん?」

 

「エージェント名は聞いてないの?」

 

「ナズーリン?」

 

「ナズー・リンよ。だからリンちゃん。名前だけならカワイイわ」

 

「リンちゃん……」

 

 ファーストネームがリンなのか?

 わざわざ日本語の発音で『ちゃん』付けしてるし、kawaiiって感じの発音もしていた。

 宇宙の真理を知った猫の表情になったかもしれない。

 

「それで、自由研究はどうだったの?」

 

「RinChang……。あ、いえ、楽しかったですよ?」

 

「そう……楽しくなかったみたいね。それとも楽しくなくなった、が正解かしらね?」

 

「そういうわけではないんですけどね。……ロマノフさんが操縦に飽きただけじゃないですか?」

 

「そう思う?」

 

「違うんですか?」

 

「機嫌や気分は顔の表情だけで決まるだけじゃないでしょう。行動とか咄嗟に出る癖とか、あとペースが違ったりするのよ」

 

 笑いをこらえているような、ロマノフさんは悪戯っぽい表情を浮かべている。

 なんとなく外を見てから手元の端末に視線を移す。

 ベイマックスの換装パーツが積み込まれている場所を調べ、ラボに送ってもらえるようにメッセージを送る。

 直前のロマノフさんの言葉を振り返る。

 違和感を持たれる挙動をしていたのだろうか、距離を詰めようと気が急いていたのも確かだ。

 さっきとは一転、気分がちょっとわくわくしてきた。

 

「つまり、そういうクセっぽいのが漏れてました?」

 

「そうね。言わないけど」

 

「漏れちゃったかー。参っちゃうなー。ねえ、教えてくださいよ。手ですか! 足ですか! 俺、気になります!」

 

「……なんで楽しそうなの?」

 

「強いて言えば……今は『義手』がないから? 俺もクセが出ちゃう域に入ったかー、みたいな」

 

「よくわからないけど……。癖は、そうね、普通の人にはわからないかもね。エージェントとしての経験が必要かしら」

 

 秘密だけど、とロマノフさんが楽しそうに言った。

 後ろで資料を読んでいたバナー博士も雰囲気や会話に釣られたのか、顔を出してきた。

 

「楽しそうだね?」

 

「そうでもないです! 俺のクセに気付いたらしいですけど教えてくれないんです! 気になってしょうがないです!」

 

「そう? スタークの素直な助手に”待て”ができて私は楽しいわ」

 

「えぇ、性格悪……。これが経験ってやつですか? 悪女の? どう思いますか、博士」

 

「スタークの素直じゃない助手のせいで急に楽しくなくなったわね、博士」

 

 二人で話を振れば、あはは……と博士は苦笑いを浮かべた。

 

「うーん、そうだね。エージェント……ロマノ……ナターシャは……綺麗、かな?」

 

「結構なお手前で。女性目線ではいかがでしょうか」

 

「情熱的で、生意気な助手と比べてとても魅力的な言葉よ」

 

「エージェント・ロマノフ、綺麗ですよ……」

 

 キメ顔で俺がそう言うと鼻で笑われた。

 これが選べる女の余裕ってやつかな???

 

「仲がいいね。僕が割って入るのもちょっと気が引けるが……。ナズナくんの癖の話、だったね」

 

「そうですそうです。博士にもわかりますか?」

 

「彼女と同じかはわからないけど、少し気付けたことでいいなら」

 

 博士が目配せすると、ロマノフさんが両手でどうぞとでも言うようにジェスチャーを示した。

 

「きちんと観察したわけでもないし、筋電や脳波を記録したわけでもないから正確性には欠くんだが……ちょっと順番が違うんじゃないかな、と」

 

「順番、ですか」

 

「喋ることや聞くこと、外を歩く、物を取る、手を動かす。そういった単純な動作でも、なんというのかな、もっと先に動く物がありそうというのかな。端末で見たドクター・オクトパスが癖になるほど使っていたのかと」

 

 へぇー、と俺とロマノフさん。

 ん? と首を傾げる。

 ロマノフさんも感嘆の声をあげるのは変じゃないか、と。

 

「……手足や肩、頚の周りに余計な力が入ってて、そういう時はリンちゃんの意識が他に向いているって気付いたのよ」

 

 そこから先は他の人と同じように表情が連動しているのではないかと予想した、とロマノフさんが言った。

 へぇー、と俺と博士。

 ん? と博士が首を傾げる。

 リンちゃんに違和感を気づいたのだろうか。

 俺もだ。

 

「肉体の不自由さを補うために補聴器や義肢があるよね。あれは子供の頃から着用することで、成長とともに適した神経回路が育まれるんだけど、ドクター・オクトパスの実証時期と……」

 

 リンちゃんについては???

 ジッと博士を見つめる。

 普通の人は俺の顔を見れない。

 博士は普通ではない部分もあり、それは人格のみならず肉体にも影響しているらしい。

 そういえば、博士にはどう見えているのだろうか。

  

「……お二人さん、もう着陸するわ。博士も席に座って、安全のためにもベルトは締めて」

 

「僕が怪我することは……いや、やめておこうか。怖いお姉さんに止められてしまったし、聞き分けよくするのも世渡りのコツってやつだ」

 

「……勉強になります」

 

 博士が悪戯っぽい笑みを浮かべてウィンクした。

 なんとなくさっきまでのロマノフさんに似た表情だが、雰囲気はもっと前の物にも似ている。

 話はここで終わりってことだろう。

 

「そうだろう。これは世界を走り回った僕の経験だからね」

 

 

 

 

 

 --9

 

「ハゲ」

 

「フューリーだ。交渉が首尾よく進んだようで何よりだ」

 

 要塞にも似た空母であるヘリキャリア内のブリッジ、その真ん中で偉そうに佇んでいたハゲに声をかけると、ゆっくりと振り返った。

 見た目だけなら元気そうだ。

 ちょっと前にロキとドンパチを繰り広げたとは思えない。

 こういう連中のクセなのだろう。

 

「博士は理性的な人ですからね。どちらかだけでも良かった気がしますが」

 

「だろうな。だが、食い合わせが悪いこともある。どちらかが実は相性が悪くて博士に都合の悪い変異が起きることも考えられた。その場合、どちらかがカバーする」

 

「なるほど。一理あります」

 

「そうだ。理由としてはそれだけで十分だ」

 

「それで? この後の予定は?」

 

「ヘリキャリアを飛ばす。速度が大幅に違うからな。集めた彼らには追跡と調査を話し合って貰おう。君は……時間があればこの後の捜査に加わってもらいたい」

 

 周囲は動き回っていて忙しそうだ。

 ここで頷くとなんかめんどくさそうだなって。

 

「ベイマックスの修理と『義手』の調整があるので時間はそんなに余裕ないかなって思うんですよね」

 

「そうか。それならそっちに掛かりきりでもいい。これから70年間寝ていた彼が専門用語で困るかもしれないが」

 

「……わかりましたよ、俺の用事は後回しにします」

 

「忙しいならそっち優先でいいが? ん?」

 

「ハゲさぁ……」

 

 元気そうに煽ってくるハゲに呆れながら近場のコンソールを触る。

 飛ぶ前のヘリキャリアのレポートを流し見する。

 水上と空中を両立するために4基の巨大なタービンエンジンが採用されているのだが、飛行中に4基のうちの1基でも不調を起こすとバランスを崩す可能性が高まるのでその場に留まる必要が出てくるし、2基だと墜落する程度だ。

 飛ばすのちょっと怖いんだよね。

 ロキに対して後手に回っているのでなるべく早く対処できるように、という気持ちもわかるけど。

 

「冗談だ。面白かっただろう? ん? ……とは言え、エージェント・ナズーリンは動き回っていたのも事実。疲労しているのなら部屋で休息しても構わない」

 

「慣れないので疲れてますけど、実際はクインジェットでの移動がほとんどですからね。部屋で休むほどでもないです。ハゲのほうが休んだほうがいいんじゃないですか?」

 

「フューリーだ。……私の仕事はロキがお遊びで上書きしてしまったので細々とした案件はあったが、それだけでな。指示は勿論出しているが、『戦争』の対処が最も優先順位が高くなっている。皮肉なことに仕事の重要度が高まりすぎて一本化し、関係のない雑事を振り分けることに成功した今が一番休めている」

 

「えぇ……。じゃあ普段から振り分けてもっと休んだらいいんじゃないですかね」

 

「それは出来ない。私が忙しい内は判断できる余裕があるほどに世界が平和だからな」

 

「あー」

 

「久しぶりに落ち着いて眠れたが、やはり自室のベッドはいい。……南国で長期の休みを取りたいという気分にさせられた」

 

 搬入されているドクター・オクトパスの場所を確認、と。

 南国といえば、エアコンが手に入ったんだよなあ。

 いや、全然関係ない気がしないでもないけど。

 インドで買ってみたやつ。

 これをプレゼントしてあげたらどうだろうか。

 

「大変そうなハゲですね。労いってわけじゃないですけど、インドでエアコンを手に入れたんですよ。これが不思議なことにスイッチを入れると冷房が出なくて」

 

「それで?」

 

「今度車に組み込んであげますよ。温度だけですが南国気分ってね」

 

「せめて移動くらいは快適に過ごしたいので最高品質で頼む。必要ならばシールド内の資料の閲覧レベルも上げよう。……代わりにそのエアコンは好きに使うといい」

 

「俺が持ってるエアコンで一番の品質なんですけどね。……まあ、いいのが手に入ったら組んであげますよ」

 

 

 

 内部資料を一段階高い物が読める代わりとなったんだから、結果として良い買い物になった^q^

 

 

 

 

 

 

 --10

 

 なんやかんやあってロキを捕獲した。

 マジでなんやかんやって感じだった。

 これがあんまりすっきりしないんだよね。

 

 まず初めに顔を丸出しにしたロキが一人で散歩していた。

 罠では?

 その後、ドイツで開かれていたパーティーを襲撃した。

 罠では?

 ついでにそこに集まっていた人たちを従わせようとしていたらしい。

 罠では?

 そこにクインジェットで飛んで駆け付けたロジャースさんと、現在地を連絡したら飛んで現れたトニーに制圧された。

 罠だよ、これ絶対罠だよ。

 でも情報が無いから捕まえておくしかないっていうジレンマ。

 

 俺はこっそり裏から入って内部を調査したり、怪我した人を治療した程度で戦闘には全然参加できなかった。

 頑張って駆けつけたが、なんかもう終わってた。

 うおおおお! って因縁の対決っぽく参戦したかった気持ちもあるといえば……いや、無いな。

 実際のところ外の戦闘音は全然聞こえなかったし、話を聞くとほとんど戦っていないようだった。

 被害は警察車両が一台と乗っていた人たち、会場の警備、あとは目をやられた人。

 滞在時間の関係で短い時間で軽くしか会場を調査できなかったが、特にこれといってロキが欲しがるような物は無かった。

 

 なんとなく腑に落ちない。

 ロキの催眠術みたいなので連れて行かれた人たちの行方も不明のままだし、目的もいまいちわからない。

 実は警察が狙いだとか……?

 思い付きで動く狂人ならそういう場合もあるからなぁ。

 

 後は治療した目の怪我についても妙だった。

 俺が見たロキの魔法では付かない怪我だ。

 もっと小さな道具が必要だが、捕まえたロキの持ち物を調べてもそれっぽい物が見つからなかった。

 持っていた杖で付けるには繊細というか。

 順番が逆なんだよなぁ。

 そう、まるで目だけを狙った怪我……うーん?

 ちょっと難しいな。

 これは手が届く範囲でやってくしかないか。

 そもそも行き当たりばったりなのか、計画的な犯行なのか……。

 

 本当はゆっくり調べたかったのだが、状況がそれを許さないわけで。

 何かあったら困るので『義手』の調整ももっと念入りにやっておきたい。

 シールドのエージェントや警察が状況を調べるので、証言が上がって来るのを待つほか無さそうだ。

 

 

 

 ハゲの要請でヘリキャリアへと捕獲したロキを連行することになった。

 留まって調べたい気持ちもあったが、『テッセラクト』を捜索する手伝いが最優先なので仕方ない。

 クインジェット内で、拘束したロキに尋問したが一言も喋ろうとしないのが嫌な感じだ。

 ロキがやったことが気になるんだよなあ。

 ロキの性格がもうちょっとわかれば考えようがあるんだけども。

 

「というわけで、保護者制限の解除してほしいわけで……。トニー、聞いてますか? あ、やっぱり聞こえてないですね」

 

 『義手』に搭載しているAEDの電圧が常識的な範囲までしか出ない状態になっているので、トニーに保護者制限モードを解除してもらおうと声をかけたが無視された。

 互いに含むところがあったのか、ロジャースさんとの口論がヒートアップしているようだ。

 ロキを乗せて飛び立つ辺りはまだ穏やかな言い合いだったのだが、段々と熱が入り、大統領選の討論並みにバチバチしている。

 どうしてこうなってしまったんだ!

 すぐ近くで怒鳴り合う二人がいてロキもうんざりした表情を浮かべている。

 精神攻撃として考えたらちょうどいいのかもしれない。

 

「貴方のせいじゃないの?」

 

「うーん、こればっかりは食い合わせですね」

 

 二人が白熱する火種となったのは確かに俺かもしれない。

 ロキを拘束した際、ロジャースさんが取り上げた杖を持て余していたので、俺が預かった。

 預かろうとした、が正解だ。

 受け取ろうとして不意に杖に近づき、あまりの情報量に吐き気が催して座り込んでしまった。

 それを見たトニーがすぐに杖を保管したのだが、その後にロジャースさんに「ヒーローのヴィンテージとして熟成されている間に人の心を忘れた」と皮肉を言い、売り言葉に買い言葉とばかりにロジャースさんもトニーを「そうだな、君が羨ましい。その鎧を着ればヒーローのフリがいつでも出来る。そして鎧を脱げばお気楽な人の心を思い出せるみたいだ。もしかしてアイアンマンとは鎧のことかな?」と言い返して、そっから超エキサイティングし始めた。

 

「どうにかならないの? ずっと討論していてうんざりよ」

 

「ずっと討論できるなんて仲良くないとできませんよ。仲が良すぎるのも困りものですね」

 

「貴方ね……」

 

 トニーからしたら父であるハワードの同僚だったみたいで、ちょこちょことロジャースさんが立派な人だ、みたいなことを言われていたみたいだ。

 尊敬する父親が自分よりも他人を褒めていたという過去が嫉妬と尊敬の入り混じった複雑な感情を醸造したのかもしれない。

 ロジャースさんはわからないが、羨ましさと諦めをトニーに向けているようだった。

 互いを見つめる機会ができれば緩和されるんじゃないかな、知らんけど。

 

「実際どうしたら……」

 

「ナズ! 理想のヒーローは私だよな! 星を背負ってる骨董品より最新の技術に包まれたアイアンマンが至高だと教えてやれ!」

 

「ナツ、よく考えるんだ。僕は別に最高のヒーローになりたいわけでもないし、選ばれたいわけでもない。憧れを抱かれたいと思ったことも無い。だけど、今だけはヒーローとして評価されたい。スタークよりも正しいことを証明したいだけなんだ」

 

「え、急になんですか……? ホントなんなの……? こわ……」

 

 どうしよっか、とロマノフさんと相談してたら急にトニーに肩を掴まれて揺さぶられた。

 ロジャースさんも止めることなく、トニーの少し後ろで両腕を組んで見守っている。

 これが後方ヒーロー面ってやつか?

 判断の早い俺が状況を整理した結果、たぶんどっちがヒーローとして上か、みたいな話になったのだろうと思われる。

 そうなると……

 

「まあ、キャプテン・アメリカですかね。一般論的に考えて」

 

「ほら、聞いたかスターク! ご自慢の鎧も中身をヒーローにはしてくれないみたいだぞ!」

 

「待て! 早まるな! 聞いただろう! 一般論だ! 早とちりだぞ爺さん! 脳がまだ凍ってるとしか思えないな!」

 

「凍っているんじゃない! 冷えて冷静なんだ! 決着をつけてやる! 僕は盾、君は鎧だ! 互いの誇りを賭けよう!」

 

「いいだろう! 自分の象徴が無くなって全身タイツ男になったときのことを考えておくんだな!」

 

「君のほうこそ鎧を無くしたからって盾の使い方を教わろうとしても無駄だぞ!」

 

 理想のヒーローとやらで今後の進退を決めようとするのはどうなのだろうか。

 言っておくがキャプテン・アメリカは俺の理想ではない。

 ロキの対抗として集められた連中は、フューリーも含めてなんだが、なんというか我慢強い。

 心がひび割れても休まず動き続ける妙なタフさがある。

 俺はそれが好きじゃないからなぁ。

 完全武装状態のアイアンマンとキャプテン・アメリカが決めポーズを取っているのを眺めていると、悪化の一途を辿っていた天候が遂に牙を剥いたようだ。

 雷光がクインジェットに迸った。

 対策は十分なので突然故障して落ちることは無い。

 

「雷程度で怖がるな! ただの自然現象だ! 私のスーツすら壊せない! それでも怖いなら跪いていろ!」

 

「跪くだと!? この私が!? ふざけるなこの猿が! この後が苦手なだけだ!」

 

 競い合うので精一杯のトニーが、ロキの様子に怒鳴り散らした。

 ロキも負けずに大きな声で返す。

 確かに感情の防備が脆くなった気がする。

 ただこれは苦手、というのか……?

 どちらかというと……。

 

 考えて事をしていたらクインジェットに何かが飛び乗ったようだ。

 重い金属の音が響くのと同時に外部のセンサーが動態反応を捉えた。

 これは噂のロキの兄だろう。

 確か雷を操れるんだったか。

 流石に一転集中なり、連射なり、放電され続けるなりしたらクインジェットも落ちる。

 側面のレバーを引いて後部ハッチを開けば、微弱な電気をまき散らしながら古風な恰好をしたマッチョが中に入ってきた。

 いや、古風というレベルじゃないわ、これ。

 ここまで来ると文化の違いだなぁ、と益体もないことを考えていると、「チケットが無ければ立ち入り禁止だ」と立ちふさがったトニーが吹っ飛ばされた。

 そのまま、ロジャースさんも巻き込んで操縦席へと転がり込んだ。

 ロキは兄であるソーに抵抗むなしく引きずり出されていた。

 俺は全部見えていたわけ。

 

 何故かと言えば、クインジェットの操縦席はすでに満席で、そこに大人二人が転がり込み、手動操作だったので機体がロデオった。 

 

 

 

 

 その結果、俺は放り出された。

 

 

 

 

 

 

 ほわあああああああああああああ^q^

 

 

 

 

 

 




あと2話くらいでアベンジャーズは終わりたい(願望)
ま、終わらなくてもええやろ(雑)
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