私たちは夢と同じもので形作られている   作:にえる

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450連で星5鯖無しです。


アベンジャーズ6

 

 --9

 

 

 

 

 

 ロキの追跡に際して戦闘に巻き込まれることも考慮していたので、予備の『義手』も当然用意していた。

 が、『杖』を回収した際に俺の体調と一緒に、AI制御も狂ったのでクインジェット内で取り外すことにした。

 簡易型は持ち運び易いので、取り外しも楽々……そもそもドクター・オクトパスは着脱がかなり容易なんだよね。

 レインコートも停止寸前レベルの不具合を吐いているので脱ぎたいところだったが、これが無いと俺もしんどいので無理やり起動を維持している。

 つまり、落下中の俺に『義手』であるドクター・オクトパスは無いが、レインコートはある。

 俺の超能力が万全なら……。

 いや、今更上手に扱える自信もないし、どっちにしろ無理か。

 これが片手落ちってやつか^q^

 

「ほわあああああああああああああ!!!!」

 

 あまりの悪天候に錐揉み回転したため変な悲鳴が出たが、こういうときに一番大事なのは焦らないこと。

 落下直前にトニーが俺を拾う可能性も低くない。

 天候が悪く、レインコートも不具合を起こしているので、位置情報等をトニーが得られないのを考慮して自力で解決する方法を模索すべきでもある。

 まず低酸素症とか低体温症とか気にするかもしれないけど、そこまで高高度を飛んでいたわけでもないし、そもそも酸素濃度が極端に低くなければ経験上問題ない……いや、でもこの経験は冷蔵庫もどき内で能力も万全だったから大丈夫だったって話だから……まあ、今も意識がしっかりしているのでオッケー。

 あとは転落した人が、その下を歩いていた通行人にぶつかって生きていたって話もあるのでクッションも必須なのでロキが連れ去られた方向を目指す。

 うおおおお! とムササビのごとく両手でレインコートを広げ、両足も開き、腹を地上に向けて空気抵抗を増やし、滑空する気持ちを抱く。

 着地の際は普通なら頭を守るが、俺の場合は頭部が一番丈夫なので頭部から……いや、衝撃で頚から下がポーンと千切れるかもしれないからやっぱり五点着地を基本に頭に一番衝撃が来るようにオリジナルアレンジしよう。

 他には、体が柔らかいとか、皮下脂肪が多いとか、体重が軽いと落下速度がちょっとだけ下がるかもしれないとかあるけど、結構重い俺には関係ないんだよなぁ。

 やるべきことをやりつつ、あとはレインコート内で待機していた『インセクトロン』を取り出す。

 シールドの基地内で資料や人員を運び出したドローンで、内部には『センチボット』同様にグラヴィトニウムが搭載されているため、複数機あれば俺を安全に着地させることくらい出来るほどの浮力を持つ。

 

 そもそもこの『インセクトロン』があれば無駄に動く必要も焦る必要も無かった!

 勝ちが確定してんだ!

 トニーはゆっくり飛んで来たまえ!

 俺は優雅に待って……うわっ、これ制御がおかしい!

 これも全部『杖』のせいだ、ロキの野郎なんて策士なんだ畜生!

 

 トニーはやくきて~はやくきて~!

 

 

 

 ……わかってたけど来ねえ!

 まあ、泣きついてもダメなときはダメだからしょうがない。

 街中ではないので流石にバスに轢かれたり、ヘリコプターのプロペラに巻き込まれたり、粉砕機でミンチになったり、ゲロで顔面を溶かされたり、電線に引っかかって感電死なんて無いだろう。

 俺も普通に怖いってレベルだし、そもそも高所からの落下って誰でも怖いもんでしょ。

 

 そんなことはどうでもよくて、今は『インセクトロン』を思念制御に切り替えて……あ、だめだ。

 他のドローンと比べて遥かに扱いにくい『インセクトロン』を、今のレインコートと俺の状態だと、着地まで正しく制御できる自信がない。

 単機なら問題ないが、写真すら満足にない葬儀を開かれて喜ぶ趣味はない。

 一応太陽に打ち出す宇宙葬の希望を伝えてあるけど、サービスで火葬されたら変なものが残るからなあ。

 そういう話じゃなくて……確実に生きて着地するなら複数の機体を同時に制御しなければならない。

 『インセクトロン』内部にあるグラヴィトニウムがとても不安定な物質であることが制御不安の最大理由だ。

 計算をミスって制御を誤れば重力異常で地面を待たずに俺がねじ切れるか、でたらめな方角に投射されて突然の死を迎える。

 

 

 

 もうだめだ……ロキがいなければな!

 

 

 

 俺にはロキクッションがあるので着地に関しては問題ない、たぶん。

 体表が人間より遥かに硬く、地面並みとかだとお手上げだけど。

 ソーとロキの兄弟は人間じゃないからか、情報量が多く感知しやすい。

 居場所はわかるので正しい方位に進むことが出来るが、距離は近づかないとわからない。

 手持ちの『インセクトロン』の数から最高効率で進める計算を大雑把に導く。

 計算の結果だが、全然問題ない。

 問題があっても大丈夫。

 だって計算が雑だからなんらかの要素が加わることで成功することもあるから。

 逆に失敗することもあるけど。

 何が言いたいかと言えば、科学の発展は人類が空を飛ぶことを可能とした。

 つまるところそれっぽい機械があれば人は空を飛べるというわけだ。

 

 俺の手元には幸運なことにその機械があり、今その機会が訪れた!!!

 スーツが無くても人は空を飛べるんだ!!!

 そう、この『インセクトロン』があればね!!!

 

 というわけで、手放した『インセクトロン』を正しい制御のまま自爆させた。

 

 

 

 重力異常を無理やり引き起こし、生じる力に身を任せて風を切る。

 落下に逆らいつつも距離を稼ぐため、ほとんど真横に自分を投射している状態だ。

 空を飛んでいる感想ですが。

 

 たぶんこれ、飛行じゃなくて人間大砲ですね^q^

 

 

 

 

 

 タイムマシン然り、空飛ぶ車然り、『インセクトロン』然り、俺の研究品は爆発する運命なの????

 

 

 

 

 

 『インセクトロン』の数があと一個足りない。

 でももう尺を十分に取りすぎているので巻き展開で結果だけ伝えるけど。

 当然、着地成功です。

 

 

 

 

 

 --10

 

 

 

 

 

 『インセクトロン』の数が残り僅かになった。

 貴重品なのだが、命には代えられない。

 でもホントにグラヴィトニウムは貴重なんだ……。

 どのくらい貴重かと言えば地中深くで希少鉱石やレアメタルと重力素が混ざって奇跡的な確率で安定した物質なので、ヴィブラニウム並みに数が少なくて発見も難しい。

 集まったら集まったで不安定な重力場を形成し、オレゴンヴォーテックスみたいな環境をマジで誕生させてしまう……観光地のパチモンと違って写真で遊ぶ余裕がない危険地帯だが。

 かき集めたグラヴィトニウムはすぐに特性観察や、ドクター・オクトパスに積み込むので常にかつかつ。

 つれーわ……。

 

 落下速度を殺し切るにはたくさんの、ロキクッションに死なずに衝突するにはあと数機は必要って状態なので、足りないのは明らかだ。

 運に頼るしかない状態だが、落下していることからわかる通り、俺の運は多分使い切っているから期待できない。

 どうにか足掻けないかと空を見まわした。

 

 超長い木でもすぐ近くに生えてこないかな、と希望を胸に空を見上げたら、遠くから星マークの付いたUFOが飛んできた。

 色合いからして有名なあの盾だろうし、そうなるとヴィブラニウム製であることもわかる。

 手元に盾があるなら角度さえ間違わなければ衝撃を吸収してくれるので無事着地できるに違いない。

 

 最大の問題は俺が絶対にキャッチできないほど速いってことだ。

 いや、マジで速すぎる。

 ははーん、これトニーがスーツで投げたんだな。

 俺が移動してきた軌道の座標を沿うように飛んできてるのはまさにトニーって感じの計算精度なんだけど、そのままいたら真っ二つなわけで……このままいたら致命傷なんだなよなぁ。

 運よく持っていた『インセクトロン』を爆発させてなんとかその場から移動する。

 重力の影響で盾の軌道が変化し、その裏から……。

 え……?

 ???

 ????????

 

 ドクター・オクトパスの制御ユニットが俺の背部に貼り付いた。

 

 あ、なるほど。

 ドクター・オクトパスはその3つの爪で盾を掴んで一緒に飛んできたってわけですねぇ。

 これがあれば無事着地が……『義手』が盾を掴んだままなんですがそれは。

 制御も不調のままなんだが。

 ドクター・オクトパスはグラヴィトニウムによって俺の背中に浮遊して追従するよう調整されているだけで、実際のところ物理的に貼り付いているわけではない。

 が、重力による力場で俺を包み込んでいるため、一度セットすると簡単に離れることもない。

 そして『義手』の伸縮性はかなりのものだが限界があり、当然伸び切ると背部ユニットを引っ張る形になり、そのユニットと密接に連携している俺の肉体も引き寄せられる。

 つまり……。

 

 

 ほわあああああああああああああ^q^

 

 

 

 なんとか盾を手放せば、勢いそのままに盾は岩へと突き刺さり、四本の機械義手が地面を砕き、片手・片足・片膝・つま先でロキへとスーパーヒーロー着地を成功させた。

 俺が無事に着地できた代わりに義手に無理させすぎたようだ、幾多ものエラーを吐いている。

 あ、はじめまして。

 お噂はかねがね聞いておりますとも。

 ソーさんですよね。

 ソーでいい?

 ソーなんですか。

 実はソー談がありましてね。

 

 

 

 

 

 --11

 

「いいか、よく聞け尋問官。……お前だ、お前。振り返るな、探すな、私の指先にいる無礼なお前だ。そもそも私と兄上、お前しかこの場にはいない。違う、アスガルド人にしか見えない第三者などいない。突然私に着地した無礼なお前だ。そもそも私はアスガルド人では……違う、私にしか見えない存在がいるわけでもない。だから憐れむな。私に言わせれば頭がおかしいのはお前だ。……お前のせいで話が逸れた。いいか、よく聞け。兄上は私を殺しにきた。アスガルドの王になるはずの私が邪魔だからだ! だが、そうさせるわけにはいかない。私が死ねばどうなる? キューブの在り処はわからなくなるだろう。この星の破滅だ。有り得てはならないことだ。それが嫌なら……おい、よく聞けと言っただろう。無視するな! 遊ぶな! よく聞け! 跪け! まずその遊びをやめろ! ハンマーが持ち上がらないことで興奮するな!」

 

 ニューメキシコ州の資料で読んだときに出てきた『ハンマー』の実物が目の前にあったので、持ち主のソーに少し話を聞くことができた。

 最も興味深いのは資格がないと持てない点だろう。

 当然俺は持てなかったが、これが結構楽しい。

 重いというよりも動かない、という表現が正しいだろうか。

 舐めまわすように全方向から観察しているとロキが騒いでいた。

 

「このままキューブが失われれば同様にこの星の命も失われるぞ! お前がそいつと戦うなら私も手を貸してやろう! ……無視をするな! 私は王だぞ!」

 

 『義手』のスペックもフル稼働してみたが全く動かず、それなのにハンマーの接地面に影響はない。

 逆に足元の岩に積もっていた埃で滑ったり、それでも負けじと力を込めると俺の身体が浮いたくらいだった。

 持てないほどに重力が増えるのではなく、座標が固定されている感じだ。

 実に神秘的だ。

 これ以外にもまだまだ未知の現象で溢れているというのだからアスガルドには心底惹かれる物がある……。

 

 

 

「ロキ……」

 

「尋問官……。ふん、やっと話を聞く気になったか? ならば聞く姿勢というものが」

 

「あなたは王じゃないよ」

 

「は?」

 

「今いいところだからちょっと静かにして」

 

「……は?」

 

 なぜかちょっと嬉しそうにしたロキに注意する。

 今はソーがハンマーを持ち上げる重要なところなので真剣なんだわ。

 

「ふざけるな! またも兄上ばかりか! 私は影か!? 違う! 私は神だ!」

 

「ロキ……」

 

 なぜかキレ始めたロキに、気の毒そうにソーが声をかけた。

 好き放題している弟相手にも気を遣うとか優しい。

 これが本物の神か。

 例のハンマーを持ち上げる資格がこの人格と考えると、人間にとって善神で良かったなぁって。

 でも早くハンマーを持ち上げるところ見せてくれない?

 

「オーディンの息子が! 私を憐れむ気か! やめろ! 虫唾が走る!」

 

「いいや、憐れみなどではない。神を名乗るならお前にはやはりアスガルド人としての自覚が残っているんだな。早く帰って来い、みんな心配している。もちろん父上も同じ気持ちだ」

 

「話を聞け! 私のじゃない! お前の父親だ! 私を心配など誰も……」

 

「母上も心配している」

 

「ぉん……」

 

 ロキ、それ何語なん?

 アスガルド語?

 それはさておき、テンションが燃え上がりまくりだったのが鎮火した。

 母親が好きなんだな。

 いいことだが羨ましい。

 ロキの感情が奇妙な揺れを描いたが、それはそれとして俺は若干の嫉妬も抱いたので冷やかすことにした。

 

「いい家族だ。お前は悪いやつじゃないって俺にはわかっていたよ、ロキ。故郷に帰りなよ。今なら謝って済む……のかはわからないけど」

 

「後ろで腕組んで見守るのはやめろ」

 

「お前も家族だよ、ロキ」

 

「馴れ馴れしく背中に触れるのもやめろ」

 

「お前も家族にしてやる、ロキ」

 

「雑に言葉を吐くのもやめろ。もうお前は黙っていろ」

 

 後方理解者面したら怒られたので、近づいて背中を撫でても、話しかけても怒られた。

 神話によくあることだが、神は理不尽なものだ。

 ソーもハンマーを持ち上げないみたいなので、静かにロキに注目する。

 よく考えると兄弟喧嘩に挟まるのは空気が読めていないようにも思えた。

 

 

 

「いいか、よく聞け。家族はもういない」

 

「共に学び、共に遊んだ俺がいるだろう。故郷には父上も、母上もいる。家族がいて、仲間たちだっている。何が不満だ、言ってみろ」

 

「不満? 不満しかないさ。いつもお前の栄光の影にいて、どうやって満たされるんだ!」

 

「みんなお前を恃みにしていたじゃないか。もちろん俺も」

 

「違う! 私は貴様のついででしかなかった。醜い氷の巨人から生まれた私を、オーディンは王にする気など無かった。そして、お前を頼るついでに私がいただけだ。お前だって私の言葉を聞きはしなかった!」

 

「……俺は成長した。昔とは違う」

 

「私だってそうだ、成長した。見くびるなよ。家族など、元から必要なかった。ソー、貴様が愛する星を支配する王が、この私なのだ」

 

「違う。お前は王じゃない。慕う民もおらず、信用できる臣下も、信頼する仲間もいない支配者が何処にいる。誰も好きになれず、誰からも好かれない統治者が何処にいる。見知らぬ土地で独り、毒の夢で成した在りもしない玉座に座ろうとする王など、何処にもいない。そんなもの、王に相応しくない。道化だ」

 

 その言葉を発したソーは、しかし、苦虫を噛み潰したように顔を歪めた。

 たぶん俺も。

 言葉は時に目に見えない何かを鋭く抉る。

 ハンマーを持つための資格を顧みれば簡単にわかることだ。

 彼らもまた人とあまりにも似た心を持つことが。

 

「……違う、違う、違う! 夢などではない! 時間の問題だ! 私はキューブが持つ真の力を見た!」

 

 ロキが叫んだ。

 それは追い詰められた獣が吠えた姿に似ていた。

 実際、王ではないと断定したソーの言葉には相応の重みがあった。

 重すぎた。

 

「真の力、だと?」

 

「そうだ! 私は追放されてから成長したんだ! 新たな世界を私は見たんだ! お前の知らぬ世界を! この私が!」

 

 ロキが絞り出した言葉は、同時に穏やかに説得しようとしていたソーの本質を引き出した。

 バチバチと音がする。

 ソーの身体が弱く帯電を始めていた。

 

「誰がそれを見せた! 誰がそんな物をお前に見せたんだ! 言え!」

 

 咆哮だった。

 ロキの弱いそれとは全く違う、本物の咆哮。

 怒りに歪んだソーの言葉と、胸倉を掴んで引き寄せる力強さはロキに一瞬だけ言葉を飲み込ませていた。

 

「私は王だ!」

 

 それでもロキは引かなかった。

 半ば声が裏返っていたとしても。

 

「違う!」

 

「私は王だ! お前より優秀だと証明できる! 私が王に相応しかったと見せつけてやる!」

 

「その毒された夢を捨てろ! キューブを渡せ!」

 

「……捨てろ? いつもそうだ。貴様は私の上に立とうとする」

 

 鬼気迫ったとばかりに激昂しているソーに胸倉を掴まれたロキは、それでも止まらなかった。

 その表情は今や能面のようだった。

 

「さっきも言っただろう。私もキューブの場所は知らない。そして、王になることは私が選んだ。……よく聞け。私が、私の意志で、選んだんだ」

 

 沈黙がこの場の時間を停滞させた。

 同時に神経を刺すような緊張感が漂っていた。

 一般人の俺には、激おこのソーが発する怒気がしんどかった。

 

「……ロキ、お前は決して王にはなれない」

 

「……ソー、そんな錆びた古臭い玩具を持ち上げられるからって何も凄くないぞ。それとも……王に必要なその”資格”とやらで、王になれなかった愚かな弟に”ご教授”してくれるつもりですか、兄上」

 

「……よく聞け、弟よ」

 

 ハンマーを振り上げたソーは、身体から雷光が漏れ出していた。

 これはまずい、と兄弟喧嘩の間に挟まる。

 互いに止まれなくなっていた。

 ソーが振り下ろしてしまうかという間一髪のところで、空飛ぶ赤い影にソーは攫われていった。

 

「聞いていますとも。なあ? 尋問官?」

 

 トニーにタックルされたため、言葉の途中で消えたソーがいた場所を追うように、ロキが遠くへ声を投げかけ、肩を竦めた。

 なるほど。

 人の手では持ち上がらないハンマーも、持ち上げられる者ごとなら移動できるんだな。

 そういえばクインジェットも別に高度が下がるとか無かったから当然か。

 トニーは賢いな。

 新たな知見を得られるとともに、最悪の事態が起きなくてよかった。

 

 

 

 崖から下を見降ろせば、ソーが天から降り注ぐ雷をハンマーに纏わせているところだった。

 余裕といった姿でトニーがそれを待つ。

 確かに雷の直撃程度ならスーツで耐えられるけど、収束してるのはちょっと無理じゃないかなぁ。

 まるで真昼間になったかのように森が照らされ、ソーの雷によって弾けるようにトニーの身体が後方へと吹っ飛ばされた。

 うん、まあ、踏みとどまれないのはわかってた。

 

『ナズ、想定の300%を超えたダメージを受けた!』

 

 動きが未だに不調のレインコートにトニーから通信が入った。

 そりゃ雷っぽい何かを食らったらそうだよ。

 とりあえずそれっぽいことを返事しておこう。

 

「300%を超えても動けるってことはスーツが凄いってことになりませんかね」

 

『だよな! やはり私は凄い!』

 

 背中のリパルサージェットを吹かせ、ソーを掴むと森の奥へと

 離れた場所で断続的に輝く雷と人工の光が森の一角を照らしていた。

 僅かな光の後、金属がぶつかり合う音が響いて聞こえた。

 ロキはその方角に目を向けながら、手ごろな大きさの岩に腰を下ろした。

 

「……ふん、何か言いたいようだな」

 

「今ならまだ間に合うよ」

 

「またそれか。……うんざりだ。それしか言えないのか」

 

 両手で顔を覆い隠しながらロキがため息をついた。

 怒りよりも苛立ちが、苛立ちよりも鬱屈した暗い欲求がロキを支配しているようだった。

 『義手』の動きの悪さや身体能力の差から、ロキは逃げようと思えば簡単に逃げられるはずだ。

 それなのに行動に移さない。

 

「お母さまが好きなんだ?」

 

「……違う」

 

「厳しい? それとも優しいのかな」

 

「……やめろ」

 

「戦争を仕掛けて王になったあなたに、よく頑張ったと優しく囁いてくれる人なのかな」

 

「やめろ」

 

 睨みつけてきたロキにこれ見よがしに肩を竦める。

 舌打ちを返されたが、それだけだった。

 存外に気が長い……というわけではないか。

 

「……非常に不愉快な話だが、お前の能力は有用だ。私は蟻の中でも特に評価している」

 

「へぇ? やっぱり天才的な俺の科学力が魅力的すぎたのかな」

 

「誤魔化すな。私の仲間(・・)から聞いたぞ、お前の能力を」

 

「なにっ!」

 

「洗脳と記憶を読むのだろう? 随分と生きるのに苦労しそうじゃないか」

 

「……っ!」

 

 それっぽく言葉に詰まって驚いて見せるが、実はもう(その能力)ないです。

 どこか気だるげにロキは笑った。

 年齢を重ねたら能力を使う余裕も無くなったけど、俺はそんな自分が好きなんだ。

 

「私なら最も上手く活かせることができるぞ」

 

「活かせたとしても、もう失われてますよ」

 

 両手を挙げて、ひらひらと手のひらを見せびらかす。

 ロキは俺の言葉に「そうか、そうだろうな。わかっていたさ」と小さく呟いた。

 その視線はソーとトニーが戦っている方向に向けられていた。

 その姿に覇気は無い。

 疲れているのか、それとも。

 

「だが完全に無くなったわけではないのだろう。何が不満だ? 世界の全てが思いのままになるぞ」

 

「強いて言えば順番かな」

 

「順番……?」

 

「最初に出会っていて、尊敬できる人だったら共に歩んでもよかった。それだけなんだ」

 

 残念ながらその未来は有り得ない。

 有り得ないことが重なった時以外で有り得てはならない。

 

 

 

「ロキ、あなたの気持ちもわかるよ」

 

「安い同情はやめろ」

 

「俺も似たようなものだからさ。なんやかんやあって悔しくてなんやかんやしたいんだろ? ごめんな、その気持ちは全然わからんち」

 

「下手すぎる同情もやめろ。せめて正しい言葉を使え。私は神だぞ」

 

 『義手』をロキの肩に回せば、勢いよく弾かれた。

 詳しい話はわからないが、俺と似たような境遇なのかもしれない。

 操ったエージェントから俺の情報を得て、部下にできると思った可能性もあるし、全く関係ない気まぐれかもしれない。

 確かなのはロキにだって欲しい物くらいあるってことだ。

 

「無理だよ。憐れな神を見て優越感に浸るための同情くらいしかできない」

 

「憐れ、憐れか……」

 

「俺から見たら憐れでしかないよ。俺は、俺の知らないことを知っている人々がいる世界が好きなんだ。だから平行線のまま交わることは無いんだ」

 

 ロキには家族がいて、父と母、兄がいる。

 仲間だっているはずだった。

 羨ましいが、それだけだ。

 捨ててしまえるならロキに憧れも抱かない。

 巨大な冷蔵庫に似た培養液の中で生まれた俺にだって、今も昔も家族と仲間くらいいる。

 ロキが抱く不信感は可哀そうだと思うが、恵まれた俺に出来るのは優越感に浸って煽るくらいだ。

 俺は望まれて生まれた。

 ロキはどうかな。

 

「ロキ、あなたはとても可哀そうだ。あなたを満たす物を俺が与えることはできないし、満たされることをあなた自身が認めない。だから王を目指すこともきっと無駄なんだと思う」

 

「……試してみなければわからないことだ」

 

「あなたと笑い合う兄がいない、あなたを咎める父もいない、あなたを思う母もいない。そんな世界の王になって、最初は達成感を得るかもしれない。でもその先もずっと幸せでいられるのかな」

 

 消えるほどの声で呟くロキに、俺は言葉を続けた。

 折れてくれたら楽だけど、燻った感情を沸々と感じる。

 ここまでやっても動かないのだから、この場でロキが行動を移すことはないのだろう。

 この場の暴力や逃走ではない何かを狙っている。

 

「あなたは自分を一番に思ってくれて、あなたが一番に思う友人を求めるべきだった。可能ならば俺がなってあげたかった。でも、もう遅いんだ」

 

 半分は本音だ。

 叶わない夢になっている。

 毒に塗れた空想が現実になりつつある。

 

 

 

 

 

「……お前は私が可哀そうだと思うのだろう。だが、私からすればお前のほうが憐れだよ」

 

 

 

 

 

 

 --11

 

 

 

 

 

「状況は?」

 

 落下傘で俺がいる崖の真上までアプローチをかけ、そこから一気に落下してスーパーヒーロー着地を決めたロジャースさんの第一声だった。

 俺も一度頷いて、逃げる気のないロキを、次いで雷光とプラズマ光でバチバチの森の一角を指差した。

 

「異文化コミュニケーションです。……もちろん、アスガルド流」

 

 そう言った俺に、「待て」と呟いた。

 俺とロジャースさんの視線を受けて、ロキが咳ばらいを一度。

 

「”頭まで筋肉が詰まった野蛮なアスガルド流”だ。勘違いするな。知的で品位ある者もいる、もちろん慈愛溢れる者も。……まあ、あれが大半なので恥ずかしい限りだが」

 

 ロキの言葉に頷いて、もう一度改めて言う。

 

「”頭まで筋肉が詰まった野蛮なアスガルド流”でおもてなしをしてます。……スターク・インダストリーズは異文化に理解があるので」

 

 このおもてなしだが、一般人の俺視点からしたらマイナス評価だ。

 あまりに蛮族すぎる。

 トニーが”頭まで筋肉が詰まった野蛮なアスガルド流”を採用してアイアンマンの正式な挨拶となった場合、レイブンクロフトにぶち込まれることになると思う。

 流石にそうなったら俺も頭を抱える。

 『義手』で盾を引き抜き、手渡しながらロジャースさんに声をかける。

 

「助かりましたよ。いやあ、良い盾でした」

 

「ああ、良い盾なのは同感だ。……僕は何もできなかったが」

 

「俺には『手』がいっぱいあるし、どっかテキトーなところで掴まれるんで気にしなくていいんですけどね」

 

 俺が勝手にクインジェットから落ちた後、ドローンを爆発させて高速で吹っ飛んで移動しまくったせいだからしょんぼりされても困る。

 でも気持ちはわかるよ、なんとなく。

 

「……実はつかみ合って言い争いもちょっとしていたんだ」

 

 えっ。

 それは、まあ、うん。

 ……こういうのは言葉ではなく行動で相殺すべきだろう。

 骨の髄まで”頭まで筋肉が詰まった野蛮なアスガルド流”に染まる前に、二人を止めるなりなんなりしてきてもらってチャラってことで。

 

「……”頭まで筋肉が詰まった野蛮なアスガルド流”を止めてきてもらっていいですかね。それでお互いに解決ってことで」

 

「あ、ああ。もちろんだとも。……ところで何故僕を機械の手で掴んでいるのか聞いても?」

 

「それはですね、これが一番速いと思うからですよ」

 

 『義手』が空気を切り裂く音を立てながらロジャースさんを投射した。

 角度と速度は惚れ惚れするくらいに完璧だ。

 人間大砲への感想ですが……キャプテンアメリカは盾があれば空を飛べるんだなって^q^

 

 

 

 

 

 --12

 

 

 

 

 

 ヘリキャリアまでロキを移送し、無事に引き渡した。

 後で破棄することをハゲに伝えて血を抜いたが、ロキはちょっとキレてた。

 いっぱい殺したんだから血くらい我慢しろよ。

 冷凍保存状態のロジャースさんの血も抜いて調べたことがあったからノウハウはばっちり。

 

 超人血清を投与されたロジャースさんの血液を応用して万能薬となる血清作りもやってみたかったけど、トニーと相談した結果先人に倣ってロジャースさんの血液はきちんと破棄しておいた。

 ハワード氏もかつて研究のために血液を確保したが、結局は処分したことがわかったためだ。

 国が推進するプロジェクトで血清を研究しているようだけど(凍結されたり再開されたりで迷走してるっぽい)、だから自分たちも、というのはちょっと違うんだよね。

 夜寝る前とか、朝起きる時に思い返して後悔しないよう生きるのが大事なんだわ。

 それにしても超人血清って凄いよね。

 技術は時間とともに進歩するはずなのに、過去に出来た物が未だに最も優れている。

 万が一俺が作るとしたら参考にしつつも新しい技術を転用すると思う。

 今となっては未知の機械となったヴァイタレイやガンマ線照射等による能力の発現は安定しないようだし。

 そんな暇ないし、やる気も全くないけど。

 

 色々と考え事をしながら新しいボディに換装したベイマックスを起動しつつ、スペアのドローンを準備する。

 地下施設で酷使したドローンは負荷が掛かりすぎてちゃんとした修理が必要、落下時で爆散させまくった小型ドローンはこの世から去った、というわけでドローンの残りも数えるほどしかない。

 それに、装備していた予備のドクター・オクトパスは隅から隅までボロボロで、分解修理が必要なので取り外すことになった。

 地下でロキの謎魔法とやりあってダメになったのが1機、杖と落下の負荷で耐えきれなかったのが1機……。

 素材が極めて高価なのもそうだが、希少価値の高さが半端じゃない。

 補填の時間を考えると、これ以降にやりたかった実験も多くあるが後に回すしかない。

 ドクター・オクトパスならタワーに予備機と試作機があるけど、無視できる損害でもないのだ。

 徐々に膨らんでいくベイマックスをドローンで吊り下げて艦内を移動しながら、今回の損失にしょんぼりする。

 

『おはようございます、ナズナ』

 

「おはよう。でも、もう夜なんだ」

 

『私は今起きました』

 

「なるほど。ベイマックスは賢いなあ」

 

 十分に膨らんだところで、目覚めたベイマックスが挨拶してきた。

 思考は問題ない感じかな。

 ドローンをレインコートの内側に戻し、ベイマックスに自分で歩くよう告げる。

 自立歩行にも問題が無さそうだ。

 

『調子が悪そうですね』

 

「色々と立て続けに起きて疲れてるんだよね」

 

『そうですか。お手伝いしますよ』

 

「いや、手伝わなくても……」

 

 待てよ。

 手伝ってもらったらどうなるんだ。

 そもそも疲れてる時の手伝うってなんだ。

 

「そうだね。ベイマックス、手伝ってもらっていいかな」

 

『もちろんです』

 

 そういって、目の前でベイマックスが大福となった。

 いや、違う。

 これは膝をつき、俺に背中を向けて……まさかおんぶか?

 

 

 

 

 

 ベイマックスのなで肩に担がれながらブリッジにたどり着くと、トニーを除く4人が集まっていた。

 それぞれモニターで、特別製のケージに入れられたロキを見守っていたようだ。

 少し離れた位置でソーが周りを見ながら手持無沙汰にしていた。

 珍しいのだろうか。

 

『預かりましょうか』

 

 疲れていたのでベイマックスの好きにさせたら、片手を差し出しながらソーに声をかけた。

 

「あ、ああ。……お前は?」

 

『私はベイマックスです』

 

「……ソーだ」

 

 突然現れた白いもっちりした何かに困惑したソー。

 俺に目配せしてきたので、頷いて答える。

 

「ベイマックスです。俺を運んでます」

 

「……なるほど、確かにその通りだ」

 

『はい。私は歩行のサポートも可能です』

 

 眉間に皺を寄せたソーがロジャースさんに視線を向けた。

 ああ、とロジャースさんは納得したように頷いて答えた。

 

「ベイマックスだ。長官を包み込める」

 

「……なるほど、出来そうだ」

 

『はい。私は保温機能も搭載されています。また、クッション性による高いリラクゼーション効果を約束します』

 

 ソーが少しばかり目を瞑り、こめかみを軽く揉んでからロマノフさんに助けを求めた。

 助けを求める相手が間違ってるぞ。

 その証拠に、ロマノフさんはにやにやと笑っている。

 

「ベイマックスよ。インドでエアコンを発見したわ」

 

「……なるほど? エアコン?」

 

『はい。私は空調管理も完全にサポートできます……権限が取り上げられたままなので出来ませんでした』

 

 たぶんずっと取り上げられたままなんだろうなぁ、とベイマックスに担がれながら思った。

 ソーは理解しがたい何かに直面した顔をしていた。

 バナー博士にも助けを求めるのかと思ったが……。

 

「ベイマックスはケアロボットでね。自主的に学習してここまでとは興味深い成長だ……強化学習はなるべく行わず、人間に近い学びを経ている。いや、報告を読むのと実際目にするのとでは全然違う。以前よりもバランスがよくなったのかな。なるほど、空圧を強化したんだね。この体にとって骨格や筋肉とも言える空気を扱える技術が向上することで全体的な……」

 

 博士はベイマックスのお腹をぶよんぶよん掴んで早口で喋ってた。

 これでは助けを求めたところでって感じだろう。

 

「バナー博士、バナー博士。ソーが持っているハンマーは王の資格を持つ者にしか持てないんですよ」

 

「本当かい? 資格がないと持てないのか……それは、実に大雑把だ。不思議だね」

 

 なるほど。

 ソーは収納というか、ハンガーというか、荷物持ちの従者というか、とりあえずそういうのを探していたようだ。

 で、ベイマックスが気づいたと。

 俺とバナー博士を他所に、納得したのか、ソーはベイマックスにハンマーを渡した。

 

『緊急着地モード、起動。対ショック体勢に移行します』

 

「ちょっ、ベイ、えっ」

 

 ハンマーを受け取った瞬間、ベイマックスがスーパーヒーロー着地スタイルを披露した。

 それに巻き込まれるようにソーがベイマックスに包みこまれ、俺は投げ出された。

 巴投げだ。

 

「一つわかったことは、ベイマックスに王の資格はないってことだね」

 

 意外と機敏な動きでベイマックスのスーパーヒーロー着地から逃れたバナー博士が、笑みを浮かべながらそう言った。

 博士は格闘技やってたからな……。

 

 

 

 

 

「週末にでもポートランドにジェットを……。おいおい、私を差し置いて楽しそうなことやってるじゃないか。なんだ? ベイマックスでサーファー君の冷えた身体でも温めてやってるのか? 言っておくが空調の権限は凍結させたままだからな」

 

「空調が使えないための地球流おもてなし、ってやつですかね」

 

 途中まで捜査官と話しながらブリッジに入ってきたトニーが、ソーの姿を見て呆れたようだった。

 

「ベイマックスは筋肉を優しく包み込む……」

 

 柔らかいソファーに身を預けるかのようにベイマックスに包まれたソーが満足気に頷いた。

 

 

 

 

 

 --13

 

 

 

 

 

「とにかく、今話した通りロキは『キューブ』の力を安定させることが可能になった。ある種の安定剤であるイリジウムを手にしたからな。バナー博士の言葉にもあったが、後は起動用のエネルギーを必要としている。とてつもない高密度のエネルギー源のための、な」

 

 トニーが言った通り、ハゲ専用っぽいコンソールをぽちぽちしながらロキが手に入れたイリジウムについての話を終えた。

 イリジウムを使うことで『テッセラクト』が安定するらしい。

 俺にはわからん。

 ぶっちゃけバナー博士が話したことはわかるけどそこに至る道筋がわからん。

 

「さて、ナズ。イリジウムでどうやったら『キューブ』を安定させられるかわかるか?」

 

「わかりません」

 

 ソーの席に座った俺が手でバッテンを作る。

 物質として安定していることとか、素子として優秀なのはわかるけど。

 物質って3種類とか4種類くらい複合したら特性が良くなったりするけど、単体だとあんまり注目しないなぁ。

 よし、とトニーが頷いた。

 「具体的にイリジウムをどうするかと言うとだな……」と話し始めたトニーを遮るように、ロジャースさんが手を挙げた。

 

「僕も一緒だ。わからない。英語で言ってくれ」

 

「最初から最後まで英語だ。それに勘違いするなよ。ナズは話の大筋を理解している」

 

 二人がバチバチとメンチを切り合っている背景で、ソーがベイマックスのマッサージモードで「おぉぉ……」と声を漏らした。

 バナー博士が「否定できない」と呟き、ロマノフさんは「またそれやるの……」と天井を仰ぎ見た。

 ハゲは職員に混ざってギャラガをやっていた。

 

「ナズならイリジウムをどう利用する?」

 

「量子スピン液体……とか?」

 

「キャプテンは?」

 

「わからないな」

 

「ナズ、高密度のエネルギー源は必要になるか?」

 

「バナー博士が話した通りの事を前提とするなら必要ないですね。ドクター・オクトパスやタイムマシンと違ってクーロン障壁を乗り越える必要性がないです」

 

「そうだ。だが惜しいところまで行ってるからセルヴィグ博士のメモやノートの写しを送っておくから読むといい。……それで、キャプテンは高密度のエネルギー源を……必要としないよな。ああ、その点は確かに一緒だった」

 

 「流石はキャプテン・アメリカだ」とトニーが小さな拍手を送り、ロジャースさんはそれを受けて「どうも」と返しながら肩を竦めた。

 ブルース博士に目を向ければ「確かに」と頷いていた。

 なんだこの空気……。

 関わりたくないから口笛を吹きながら手元のPDAでセルヴィグ博士の研究でも目を通しておこうかな。

 

「みんながナズと同じスタートラインに立っていることがわかったので話を進めさせてもらう。さっきのサーファー君の言葉からロキは『チタウリ』とやらを、団体のお客さんを地球で観光させようとしていることがわかっている。実にマナーが悪そうだ。落書きどころか器物破損は簡単にするだろう。そして手元には地球最強の電池である『キューブ』。それらを持っている悪戯好きの神とやらが流れ星に願いをするために隕石を使うわけがない。持ってて嬉しいコレクションとは違うからな。ではイリジウムをどう使うのか、その答えだが……反陽子の生成だ」

 

 wwwww!!!!!!????????wwww!?!!!!!!!????!!!!!!^q^

 

 

 

 

 

 トニーに「私とバナー博士はラボで予定通り解析を進めるがナズはどうする?」と聞かれたので、ロキの杖が気持ち悪いからと断った。

 なんかダメなんだよ、あれ。

 「そのほうがいい。さっきの話をみんなに英語で教えておいてやれ」と言い残してトニーはバナー博士を連れてラボへと向かった。

 しかし、セルヴィグ博士も大概頭おかしいわ。

 僕の考えた最強の研究にガチの理想条件を叩き出せる道具を追加したらワームホールを作れそうとか凄い。

 『テッセラクト』を俺が手にしても再現できるものは無さそうなんだよな。

 

「結局ロキは何をしようとしているのか聞いても?」

 

「いいですよ。英語で大丈夫ですかね」

 

 ロマノフさんの言葉に頷きながらPDAを操作する。

 ちょっと専門的な単語が並ぶので、ロシアとかあっちっぽい出身のロマノフさんや、神の国から来たソーに確認も取る。

 いつの間にかベイマックスから抜け出したようで、俺の斜め後ろで腕組みして立っていた。

 小声でロジャースさんが「わかる言葉で頼む」と呟いた。

 難しい話をするつもりもないし、討論とかも面倒だからやらないので安心してほしい。

 でもわかりやすい言葉ってのはちょっと難しいかもしれない……。

 

「光でも到達するのに数百年や数千年、数万年は必要になる物凄い距離で溢れてるくらいに宇宙ってめっちゃ広いですよね。そんな宇宙にあるアスガルドは地球よりも遥かに文明が発展していて、星々を気軽に行き来できるみたいです。それでも地球はあまりにも遠い場所にあるようです。ソーが知ってるってことはアスガルドと近いかどうかは知らないですけど、全く知らないほど離れているわけでもない距離に『チタウリ』がいるんでしょうね。つまり、待つには遠すぎるくらいめっちゃ遠いところにロキの主力がいるわけです。そんなロキの悩みを解決できてすぐに主力を呼べるシンプルな方法が3つあって、その中の1つは地球で頑張れば達成できる物みたいですね」

 

 PDAの画面に簡素な地球としょぼい宇宙船のCGアニメーションが表示され、二点間を”超遠い距離”と表記する。

 

「まず速さを無限にする」

 

 PDAからびゅんっと間抜けな音が出て、一瞬で地球の近くに宇宙船が現れる。

 俺の宇宙では音が鳴るんだ。

 これなら宇宙戦争もできちゃうね。

 巻き戻して初期位置に戻る地球と宇宙船。

 

「次に、必要な時間をゼロにする」

 

 のろのろと進んでいく宇宙船。

 右上に早送りのマークとともに、×で速度倍率を表記。

 宇宙船が加速度的に加速し、最後には一瞬でまた地球の隣へ。

 

「最後に距離をゼロにする。セルヴィグ博士が主導していて、かつ奪取したイリジウムを使うならロキはこの方法を選んでいると思われます。地球へ一瞬で移動できる扉を作るだけですから、みんなで一斉に入ってくるだけで済みます。必要な道具さえ揃えればロキが軍を待つ必要は無くなりますね」

 

 地球と宇宙船の横に穴が空き、動き出した宇宙船が穴に入ると、その直後に地球の穴から出てきた。

 いわゆるワームホールというやつだ。

 これなら他の方法と違って船体にも負荷が掛からないし、同時に大量の軍を送り込める。

 今のところ数学のモデルしかない。

 ワームホールは発生したとしてもプランクスケールとあまりにも小さいために観測領域の宇宙空間では発見できない。

 

「色々と議論の余地はありますが、結論だけ言うとこれまで装置がなかったから発見できなかっただけで、実現はおそらく可能です。なぜなら神が使って地球に降りたことが何度もありますから」

 

「ビフレストの橋か」

 

「そう、それそれ。ソーと交流があった人たちはアインシュタイン-ローゼンブリッジ、つまりワームホールを観測できたようです。記録によると不可逆でもないので、条件さえ整えれば地球から宇宙に向けて開くことも可能なのでしょう。高エネルギーの橋が”架かる”みたいですが、地表を僅か数センチ単位で焼くだけでワームホールを開けることから凄まじく精密な制御とも言えますね。ぶっちゃけ凄すぎる。ホントに神なんですねぇ」

 

 俺の言葉を聞いて、PDAのアニメーションに釘付けだったソーがドヤ顔を向けてきた。

 実際ドヤ顔が許されるくらいには凄い技術だ。

 攻撃に転用したら大地を余裕で砕けるエネルギーを完全に制御してるって考えれば凄さがわかる。

 「ああ、ヘイムダルは凄いぞ。その場に立っていても宇宙の星々が見え、そこにいる者と交信できる」とソーが言ったが、つまり個人が制御してるってことなのでは。

 え、大丈夫だよね?

 長年培った職人の技術でミリ単位まで調整、みたいな話じゃないよね?

 くしゃみしたら地殻まで砕いたとかされたら半端ない地震が起きて国が終わるんだけど?

 ちょっと不安になっちゃったなあ!

 あ、でも交信できるらしいからもしかして俺の言葉が聞こえてたりする……?

 うーん、なんとなく宇宙に向けて交信してみるか……どうやって???

 どうでもいいや、後にしよ。

 ロジャースさんが挙手したので頷く。

 

「イリジウムがなぜ必要か聞いても? イリジウムでワームホールを生み出せるなら、今までに誰か実験していたんじゃないかと思うんだが。それとも僕が知らないだけ?」

 

「いや、良い質問ですよ。まず理論はありますが、イリジウムがあればワームホールができるわけではないです。『テッセラクト』があるからイリジウムに意味が出てきます。実験をしているかという話ですが、もちろんしてます。加速器を利用して新しい物質を作るだとか、新しい素子を発見するだとか、そういった実験の中にはイリジウムを使って反陽子の観察を試みるとかもあるんですね。ただ、これは研究機関で行える実験の規模なので、一瞬にも満たない時間だけなんですよ。セルヴィグ博士……というかロキが扱うであろう装置のエネルギーはそれらを遥かに超えると考えられます」

 

 研究機関の実験ではエネルギーの規模が小さいので結果も当然ながら小さい。

 だがロキの手にしている『テッセラクト』は比較にならないほどだ。

 そのポテンシャルを引き出すことができれば、結果も自ずと付いてくる。

 PDAで論文をパラっと見せるが、首をかしげていた。

 そうなるよね。

 

「これまで集めた結果から『テッセラクト』に与える刺激が強いほど、力は増幅されていくことがわかっています。七十年くらい前にはちょっとしたエネルギーで大型の飛翔体を軽々と高速で飛ばした記録がありますので。その時よりも遥かに高密度のエネルギーがあれば、想像を絶する力を発揮できるのでしょうね。ロキが現れたことから『テッセラクト』にはワームホールを生み出しやすいのかもしれません」

 

 ロジャースさんが強く頷いていた。

 

 危険性などを考慮してこれまで踏み込んだ研究をしてこなかったため電池としての性能しかわからないし、その性能だって青天井だろうという見通しのみだ。

 『テッセラクト』は辺鄙な村に秘匿されていたらしいが、それに纏わる情報は一握りの村人のみが知っていて、ヒドラに奪われたときにほぼ断絶したと言ってもいい。

 主神オーディンが託したルーツを顧みれば、ロキのように宇宙から来た連中のほうが使い方は詳しいのだろうかと思い、ソーに『テッセラクト』の使い方を聞いてみたが、わからないらしい。

 ソーがロキと口論した際に言っていた、裏にいるであろう夢に毒を染み込ませた者とやらが詳しいのかもしれない。

 ロキが『テッセラクト』で転移してきたことから、宇宙の向こうから『杖』で干渉できた、つまりこの二つが連動している可能性も浮上している。

 『杖』から破壊光線を出して破壊の限りを尽くしていないのは、王にこだわっているから制圧したいためか、できないためか。

 

「集めた道具で何がしたいのか、ざっくり言うと核融合とかそういうのです。『テッセラクト』を物凄い電池とすると、物凄い電気が欲しいわけですね。地球で作られたこれまでの装置とは異なるかもしれないので断定はできませんが、コレクションとなったイリジウムから十分な量の反陽子を取り出せるのかもしれない。それを使って『テッセラクト』を活性化させて安定的にワームホールを開けるんでしょうね。それ以外には使い道がない物ばかりを集めています。カレー粉があるのにカレーを作らないくらい限定的で、バナー博士がクーロン障壁、トニーがトンネル効果だとか言っていたのは核融合という料理を作るためのレシピです。……制御はビフレストの橋が架けられるくらいなので、容易なのかもしれませんね」

 

 イリジウムから反陽子を生成できるのなら核融合は前菜でしかない。

 質量欠損だけを見れば反物質はウランの1400倍、水素の250倍は効率よくエネルギーを得られる。

 『テッセラクト』の活性化には手軽なサイズの装置でも可能になる。

 凄まじいエネルギーなのに、ある意味で省エネ。

 流石に反物質で爆弾を作って地表をぶっ飛ばすとかはしないはず。

 何度でも言うがロキは王にこだわってるし。

 あれ、でもこれってもしかして一回開いたら閉じないのでは……?

 

「なるほど、軍が呼び出せる秒読み段階なんだな。……装置を作れないようにすればいいんじゃないか? 先回りするとか、妨害して後を追うことで根元から断ち切れないか」

 

 ロジャースさんの言う通り、それが最善なのだが叶うことはない。

 知識の面で後手に回っているのだからしょうがない。

 しかし悪い事ばかりではない。

 ロキが尖兵の代わりを果たさないと軍が来ない、つまり宇宙の果てから地球に進軍するコストは敵からしても高いってことだ。

 楽観的だが宇宙戦争の心配はしなくて良い。

 

「残念ながらこちらが狙いを定められるほど入手が難しい材料は集めきってますね。最難関のはずだった『テッセラクト』は一番最初に、次いで必要なイリジウムも既に確保されてます。騒いで捕まる不手際の裏ではひどく円滑に計画を進めています。イリジウムに関しては代替品があるので、隕石の所持者だったシェーファー博士は不運でしたね。わざわざ狙われて……手際がこんなにいいのに……?」

 

 違和感を感じるが、やっぱりわからないな。

 イリジウムを得るためとはいえあからさまに騒ぎすぎだ。

 『テッセラクト』はロキにとって最重要のため、敵軍のど真ん中というリスクを飲み込んででも奪取したい気持ちはわかる。

 

「他に必要な物はないの? それとも準備ができてるからどこにいても装置を使えるのかしら」

 

「装置は何とも言えませんね。俺が作ろうと思ってるサイズだと五メートルほどあれば起動できるので、それに準じているとは思います。加速させる必要は無いので大きさは要らず、閉じ込める空間だけあればいいので。場所は完全に自由ってわけではないでしょうけど、比較的選べると思います。必要な物は装置を起動するエネルギーなので。大電流であればどんな条件も満たせるでしょうけど、それだって数か所の原発をバイパスするだけでも構わないんですよ。全ての発電所をピックアップして張るしかないかな……」

 

「厄介ね」

 

「とても厄介です。どうにかして出現場所を絞りたいのですけど」

 

 色々と考えてみるがこれといって良い案は浮かばない。

 ロマノフさんも一緒に腕を組んでうーん、と考えている。

 

「ソー、君は心当たりとか無いだろうか。ロキが軍を呼びそうな場所や、思い入れのある場所について」

 

「……無いな。ロキが地球を攻めるのも俺に見せつけるためだろう」

 

「そうか。見せつける……」

 

 ロマノフさんも腕を組んで考え始める。

 ソーは最初から腕を組んで仁王立ちしているのでよくわからない。

 ロキが王になるために、王位継承者のソーを意識しているのははっきりしているので、狙いはもっと単調な気がする。

 ハゲがギャラガでハイスコアを叩き出したのか、艦橋が盛り上がっていた。

 

「ソーって前に来たときはニューメキシコに降りてますよね。アメリカ以外の他国に行ったことはあります?」

 

「以前世話になった街からほとんど移動しなかった。ハンマーや家庭で色々あって、一度アスガルドを追放された。……今は問題ないが」

 

「面白そうな話なんでかなり聞いてみたいですけど、今は戦場の予測をしておきます。地球の支配とソーへ見せつけるのならアメリカなのは確かでしょう。ヘリキャリアが防御として一番役に立つので、滞空させたいのですが国単位ではあまりに広すぎるからせめてどこの州なのかは絞りたい……」

 

 ヘリキャリアでニューメキシコ上空を陣取るとか。

 やっと完成したのを飛ばしているけど、こうなると何機か欲しくなるな。

 もしくは衛星軌道上から落下できるのなら色々と速いのだけど。

 国以上の規模でカバーするとなると衛星だけでなく色々と浮かべたい気持ちになってくるな。

 そうなると宇宙についても詳しいほうがいいかもしれない。

 天文に手を出してみようかな。

 それにしても宇宙か。

 

「わかった! ……かもしれない」

 

 俺が宇宙のことを考えていたら、ロジャースさんが大声を出した。

 全員の視線を浴びて尻すぼみになったけど。

 ロマノフさんに微笑みながら「聞かせて」と言われ、ロジャースさんが咳ばらいして目配せしてきたので頷いておく。

 

「ロキはスポットライトを浴びたいんだ。味気ない発電施設では満足できない。ドイツの騒ぎも、その性根がきっと許さなかったんだ。パーティー会場はダンスのできる煌びやかな場所に違いない。……僕はダンスが苦手だが」

 

 「わかったのはオズの魔法使いだけじゃないぞ」とロジャースさんがドヤ顔で言った。

 そうかもしれないな。

 意見を聞こうかとソーにちらっと視線を向けると、「あるかもしれん」と目を瞑って天を仰いでいた。

 

「ならべガスだな。私のハイスコアを祝いつつ、ロキを警戒できる」

 

 ギャラガに満足したのかハゲが戻ってきた。

 ラスベガスか。

 夜が無いと言われるくらいには四六時中騒がしく、明るい。

 ただ、俺の考えとは違う。

 というかハゲが言うべきなのでは。

 ハゲの視線を受けて、しょうがなく口にする。

 

「……俺は東海岸を推します。首都があり、それに原発も多い。というかダメージの重さを考えると東を重点的にするしかない」

 

 飛んでいるから障害物や環境を無視して一直線に向かえるが、アメリカの両端は流石にカバーできない。

 そうなるとどこを中心に布陣するか、そういう話になってくる。

 首都が落ちる事態は避けたい。

 普通は仕掛けられない王手を、ワームホールというクソみたいな手で可能となっている。

 

「キャプテンはどう思う?」

 

「そうだな。僕だったら悪趣味の……いや、なんでもない。東でいいと思う」

 

「ソー、君はどうだ」

 

「どこでも構わない。ミッドガルドには詳しくないからな。必要なら一人で飛んでいける」

 

「エージェント・ロマノフ」

 

「異議はないわ。クインジェットもあるし」

 

 会議していたそれぞれの意見を聞いたハゲがゆっくりと頷き、トニーが弄っていたコンソールの前に構えた。

 

「なら決定だ。我々は東海岸に向けて進路を取る」

 

 

 

 

 

『それなら戦勝会はラスベガスですね。トニーステーキはどうでしょう』

 

「スタークが我々の知らない店をラスベガスに……?」

 

 ハゲがこっちを見ているが、そんな店は開いてないです。

 ベイマックスに惑わされるな。

 

 

 

 

 

 --14

 

 

 

 

 

 実はヘリキャリアの共有用休憩室には気合を入れていてね。

 コーヒーや紅茶のマシンとドーナツは当然のこと、軽食やサラダバー、フルーツバー、ソフトクリームマシンを用意してある。

 俺の我が儘が形になったかのような匠の技術によるこの部屋、トニーがやってくれました。

 戦いに使う乗り物の中にある、ちょっとした安息のひと時っていいよね。

 今のところ重ねたドーナツが隠れるくらいソフトクリームをこれでもか!ってくらい盛って、つぶつぶのカラースプレーとコーヒーをかけるのが人気らしい。

 実際にやってるのを見るとすげぇって言葉しか出ないな……。

 

「ああ、ナズ。暇ならこっちで一緒にギャラガでもやるか?」

 

 他の人がソフトクリームウルトラスーパーデラックスを作っているのを凝視してたら声をかけられた。

 トニーとバナー博士がコーヒーを飲みながら駄弁るようだ。

 確かに暇なので混ぜてもらうことにする。

 

「いいですね。二人とも休憩ですか?」

 

「そんなところだ。ロキの持っていた杖やら何やらの解析に少し時間がかかりそうだからな」

 

「『セレブロ』を使って手伝いますか?」

 

「そこまでしなくていい。解析が終われば使うかもしれないが。『キューブ』と杖が連動しているのは確かだから、その先で必要になりそうだ」

 

 ふんふん、と頷きながらソフトクリームをつつく。

 

「『セレブロ』?」

 

「ん? ああ、『セレブロ』はナズを補助する演算装置みたいなものだ」

 

「主目的は夢を見せるって感じの機械です。植物状態の人が目覚めたときに外部の状況を理解できないと思うので、夢として情報を送り込んで見せるイメージですね。ベイマックスにも模倣した物が積んであるので、スリープしている際には外部の情報を集積して夢として見ているかもしれません」

 

 バナー博士が聞きなれない単語に反応したので、ざっくりとした説明をする。

 それだけではないけど、それだけにしか使えないというか。

 使いすぎると体調も悪くなるからなぁ。

 「そうだ」と呟いたトニーが指を鳴らした。

 

「バナー博士、やっぱり私のラボに来ないか。最新設備を揃えてあるし、助手も優秀だぞ」

 

「いや、僕に何かあって暴れたりしたら悪いから……」

 

「大丈夫だ。スーツもあるし、ナズが何とかする」

 

 えぇ……。

 無茶ぶりなのでは?

 

「ナズにはストレスを軽減させる能力がある。セラピストとしても優秀だ、たぶん」

 

「そうなんだ。……議論に付き合ってくれるからってことかな?」

 

「いや、普通に自前の超能力ですかね」

 

「そういえばそんな話も聞いたような、レポートで読んだような……。まあ、僕も変身してしまうから有り得るよね」

 

 博士は納得したようだが、トニーが言うほどセラピーとして活躍してないと思う。

 イワンのときとかトニーは暴れてたし。

 緩和が精々っていうか。

 

「例えば我々が何らかの強い感情を抱いた場合、近くにいるナズには簡単に伝わる。表情も言葉もいらない。どうやら量子テレポーテーションによって転写されることで、ほぼ同時にナズは感情という情報を受け取ることが可能らしい。受け取った際に、情報をそのまま返して増幅させるのか、波を打ち消すように逆の感情を送るのかは本人次第だが、セラピーとしてはダイレクトに効果があると言えるだろう。アジテーターとしても。……感情はただ消えるだけの情報なのか。その答えだが、何処かに残っているようだ」

 

「……極端な話だけどブラックホールに飲まれた情報も取り出せる?」

 

「可能性はあるな。ナズの能力が現代の物理を僅かに保証してくれているのは確かだ」

 

 ブラックホールに飲み込まれて知覚できない情報が、実際に消失してたら現代の物理学全般が成り立たないけど、俺が感情という知覚できないはずの情報を受け取っているから、そういう技術や数式の根拠に波及していって証明できるからセーフだよねっていう会話だ。

 ブラックホールに飲み込まれた情報は最終的には別の宇宙に行っちゃってるからセーフ、みたいな理論もあるけど。

 アウトだったら一個一個新しく公式とか組み直すだけ。

 

「あとバナー博士にはナズの研究を見てもらいたいというのが私の本音だ。私も忙しい身なので、ナズが変な方向に舵を切っていたら困る。割と切実な問題なんだ」

 

「そこまで言われると気になるな……。ナズナくん、僕が聞いていない研究は何があるのか聞いてもいいかな?」

 

「タイムマシンと核融合炉、重力制御ですね。イリジウムも使ってみたいです」

 

 表情は見えないだろうが、ドヤ顔で答える。

 やりたいことはたくさんあるんだ。

 長々と語りたいくらい。

 

「ああ、なるほど。見せてもらったのも混ざってるんだね。AI制御による重力閉じ込め式核融合炉……莫大なエネルギーで時間を歪める……更にここに反陽子が加わるのか。ドクター・オクトパスの本質はこれ用なのかな」

 

 バナー博士は眉間を揉んでいた。

 普通に看破されたので、えへへ、と誤魔化す。

 昔出して没になったシャンデリアなどの兵器はこれの隠れ蓑だ。

 だって失敗したらやばいもん。

 成功したら制御できる、失敗したら制御できない。

 つまりそういうことだ。

 

「それだけじゃなくて、この前見て貰ったAIに、絶対に間違えるルーチンを組み込むことで妥協を解決させるのはどうかなってことも考えてます」

 

「確かに僕も以前ハーレムを壊したけど……失敗して州を消し飛ばす実験を無視することは流石にできない……」

 

 「この事件が終わったらラボに行かせてもらうよ」と絞り出したかのような声でバナー博士が言った。

 トニーは肩の荷が軽くなったと言いながら笑顔で歓迎する旨を伝えた。

 でもバナー博士が来てもトニーのところに研究持って突撃するけど。

 アーク・リアクターだってぶっ飛んだらヤバいんだから、俺と違わないって。

 

 

 

 

 

--15

 

 

 

 

 

 時間があったのでソーの話を聞いてみたが、かなり面白かった。

 UFOとかUMAの話に思いを馳せてわくわくする気持ちというか、新鮮すぎる見解に知識欲が刺激されるというか。

 アスガルドの都市は春の気候が維持されていて、花の開花と収穫期が同時に訪れて盛り上がるらしい。

 技術や文化一つ聞くだけでも、次から次へと面白い話に繋がるので無敵すぎる。

 話を聞くにソーの両親は大変聡明なようで、それだけで惹かれる。

 特にロキすら「ぐぬぬ……」したソーの母君は賢者らしく、その美しさも魅力の一つなのだとか。

 魔法とか神秘的な物事っていいよね。

 アスガルド、行ってみたいな。

 

 それにしても宇宙か。

 宇宙いいな。

 行ってみたいな。

 

「この雑魚が」

 

「貴様っ!」

 

 そんなわけでアスガルドに浪漫を感じながら、片手間でロキとボードゲームをしてボコり、両手の中指を突き立ててロキを煽る。

 一緒にケージ内でゲームするのではなく、外側から指示を聞いて駒を動かしたりするのだが。

 

「イカサマしただろう!」

 

「してないんだなぁ、これが。というかちょっとイカサマされただけで悪戯の神って負けるの? 雑魚じゃん。そんなよわよわな神で恥ずかしくないの?」

 

「言うに事を欠いて貴様っ!」

 

 これで閉じ込められているケージを叩いて、真っ逆さまに落下していったら笑うんだけど、流石に無いようだ。

 結局煽られるのに、翌日には持って行ったゲームを興味津々にやってるからな。

 暇なのもあるだろうけど。

 ソーも艦内を案内したら楽しそうに見て回ってたし、訓練に混ざったり地球の知識を吸収してた。

 アスガルド人は何処か純粋で妙に可愛げがあるようで、ソーは他の兵から人気のようだ。

 雷纏うのがかっこいいのもわかる。

 

 イカサマは……なんのことかわからないな!

 

 

 

 

 

「そろそろ交代してもらっても?」

 

「あ、ロマノフさん。この坊やに用事ですか? おっけーです」

 

 ゲームで煽った後に精神年齢テストで「お子ちゃまじゃん……10才の神とかマジ? 戦争より初恋を探したほうがいいんじゃないの?」って煽ってたら、ロマノフさんが交代を告げに来た。

 これまで収集した情報は渡してあるので、今の情報を引き継ぐ。

 坊や……? と疑問を浮かべていたロマノフさんも、今日の記録を見て笑いを浮かべていた。

 

「こんな女が尋問官の代わりになるのか?」

 

 ロキがせせら笑うが、今のお前は10才扱いだから……。

 

「リンちゃんと違って私は優しいから大丈夫よ、キッドロキ」

 

「テキトーにやらされてる俺と違って本職だから大丈夫ですよ。お姉さんが怖いから泣かないようにね、キッドロキ」

 

「貴様らっ!!」

 

 キッドロキはキレた。

 子供は沸点が低いからしょうがないね。

 

 

 

 

 

 ロキの精神分析を終えたので、ロジャースさんを探しながら歩き回っていると捜査官を見つけた。

 俺がやるよりいいか、と持っていた盾のレプリカを渡すことにした。

 めっちゃ凝視してたからね。

 

「捜査官にあげますね。以前話したキャプテン・アメリカの盾の試作品です。……半分ですけど」

 

「いや、そんな悪いですよ。こんな貴重品を……」

 

 と言いながら視線は盾に釘付けだった。

 重度のファンすぎる……。

 

「むしろ返されても邪魔なんで受け取ってもらえると有難いです」

 

 どうぞ、とぐいぐい押し付ける。

 俺には価値があまりわからないが、ガチファン勢の捜査官には貴重なのだろう。

 俺はやろうと思えば自分で作れる……というのはちょっと意味合いが違うか。

 

「こんな凄い物を頂いてしまって……ホントにいいんですか?」

 

 捜査官は震える手で慎重に盾を支えながら言ったが、全然オッケーだ。

 オークションに出されたら腹が立つけど、この様子だと大事にしそうだし。

 どうしても手放す場合は博物館に寄贈するかもしれない。

 

「もちろん。普段からお世話になっているお礼なんで」

 

 思い起こされるのはアイアンマンの姿だ。

 空を自由に飛び回り、悪党を倒す姿。

 勝手に戦地へと飛んでいく姿。

 軍用機をやっちゃった姿。

 街中で騒ぎ出した姿。

 などなど。

 問題ばっかり起こしてて、世話になりまくってる……。

 

「なんかもうこれくらいしか用意できないのが心苦しいくらいです……」

 

「我々も仕事なので気にしないでください。……ところで長官に盾を受け取ったことを黙ってもらえますか。怒られてしまうかもしれませんので」

 

 捜査官は茶目っ気たっぷりにウインクしてみせた。

 

 

 

「そういえば次の休みにポートランドに行くんでしたっけ」

 

「恐縮なことにスターク氏がジェットを出してくれるらしいので」

 

「いいんじゃないですか? トニーからしたらポッツさんに男の影がある不安を解消できるなら安いもんですよ」

 

「そういうものですかね」

 

「そういうもんです。意外と嫉妬深いんですよ」

 

「女遊びが激しいのに?」

 

「トニーはポッツさん大好きマンだけど、それはそれとして趣味なんでしょうね。感覚的にはポッツさんと世の女性で二分してると思います」

 

 「えぇ……」と引いた様子のコールソン捜査官。

 でもそうとしか言えないんだからしょうがないんだわ。

 

「そういうわけなんで、ジェットも喜んで出してくれますよ。サービスもかなりいいと思います。滞在するならホテルも良い所を取りましょうか。……ああ、でも恋人と会うんでしたっけ。一緒に過ごすならホテルは不要ですかね」

 

「彼女はコンサートを控えていますし、なるべく集中力を乱さないようにしたいですね。あとは観光もするのでホテルに泊まろうかと」

 

「ならホテルは良い所にしましょう。どうせトニーからしたら誤差です。金額見ないマンは伊達じゃないのです。……でも州を跨いで恋人に会いに行くのって大人ですよね。いいなぁ」

 

「いやぁ、どうでしょうね。……そういう相手はいないので?」

 

「いませんね。トニーによる保護者ガードが発動します」

 

 「私の誘いに乗る尻軽はダメだ」みたいな感じで。

 気軽に誘いに乗ってくれないと俺はデートすら出来そうにないんですがそれは。

 俺にはよくわからないけど、トニーとポッツさんの関係はいいなって思う。

 別に女好きになって甘えて諫められたいわけではないけど。

 

「一緒にポートランドで観光しますか? スターク氏のいない場所で遊んでみるとか」

 

「……迷惑じゃないですかね?」

 

「いえ、全く迷惑になりませんとも。コンサートの日取りが近くなるとチケットが送られて来るのですが、友人も誘えるようにと気を利かせてくれるのか余分に何枚か貰えるんですよ。来てくれるなら今回は恥をかかなくて済むので私としても嬉しいのですが」

 

「それなら少しばかりお邪魔させてもらいますね。……トニーもバナー博士をかつてないほど気に入ってるみたいなんで、二人で仲良く遊ぶでしょうし」

 

「ええ、歓迎しますよ。プライベートジェットに乗せられそうで不安でしたが、経験者が一緒にいれば安心ですからね」

 

 日付や日時を後で知らせてくれるとのことなので、楽しみに待つことにする。

 事前にどこを観光するかとか予定を立てようかな。

 ……そういえばポートランドっていっぱいある気がするんけど、どこのポートランドなんだろう。

 

 

 

「コールソン捜査官、さっき許可を取ったので盾を持っていけばロジャースさんがサインを書いてくれるらしいですよ」

 

「本当ですか! おっと、失礼。次の仕事が始まる前にサインをもらってきますね」

 

 テンションが上がっているのか、小走りで駆けていく捜査官の背を見送って、俺も作業に戻ることにする。

 そろそろ杖から『テッセラクト』の場所を逆探知するかもしれないので準備が必要だ。

 ……?

 なんだろう。

 杖のことを考えたからか、気持ちがざわつく……。

 すぐ近くに杖があるかのようだ……。

 

 

 

 

 

 --16

 

 

 

 

 

 

 結果だけ言うと、俺はヘリキャリアから落ちた。

 この高度だと確定で助からない。

 下から見上げるヘリキャリアは黒い煙を吹いていて、なんとか高度を維持するので精一杯といった様子だった。

 なるほど、なるほど。

 やるじゃん、ロキ。

 俺の完敗だ。

 

 

 

 

 

 ほわあああああああああああああ^q^

 

 

 

 

 

 ほわああああ……?

 ……?

 ????

 し、死んでない……!

 まさか土壇場で能力が……?

 

 あ、違うようだ。

 剃髪の女性が助けてくれたらしい。

 チベット僧侶っぽい外観の、綺麗な女性だ。

 

 貴女は命の恩人です!

 言い表せないくらい深く感謝しています!

 何でもします!

 

 ストレンジという両手が不自由な医者が来たら義手を渡さないように?

 それは無理なんで戻してもらっていいですかね。

 たぶんお医者さんが求めている物とは違うので、医者として復帰できないとは思うけども。

 精密性が段違いになるので、元の手とは別物になるだろうし相手は納得しないだろう。

 それでも渡さないってことはできないと思うので。

 申し訳ないけど俺は死を選びます。

 

 他の条件でいいんですか!

 言い表せないくらい深く感謝しています!

 何でもします!

 

 

 

 

 




オリ主進化派生

・クインジェットから落下→重症を負う→より精密な義肢を作るようになる→ドクターストレンジが魔法を覚えない世界

・ヘリキャリアから落下→死亡→トニースタークらがウルトロンとして蘇らせる(?)→半端なウルトロン化→エイジオブウルトロン→ヴィジョンがとどめを刺さないので逃亡→どろどろしたシビルウォー勃発

・ヘリキャリアから落下→死亡→マジカルプレイス入り→エージェント・オブ・シールドルート→グラヴィトン化

・TVA入り→ミセスたくあんルート(ロキ)
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