けものフレンズR  Returning a favor   作:社畜狂戦士

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…なぜ、かなしいのだろう

なぜ、くるしいのだろう


おもいだせない…

…おもいだしたくない


わからない

けれどわすれていたくない


わたしは…

わたし、は……


りぐれっと
狩人


―――ォオ――オオォォォ――オオオォ――……

 

 

 

暗く、押しつぶすように暗く。

分厚い雲と吹き荒れる風。

 

高く低く、叫ぶように。

夜の山風が降り積もった雪を蹴散らして疾る。

 

横たわる岩肌を氷が這い、結びついては奇妙に折り重なり。

舞い散った雪がそれを、再び白く塗りつぶす。

 

 

針葉樹の森が途切れた先、起伏も少なくただ広く。

 

最奥を隠す霊峰の前庭のように。

…訪れる何者をも拒むかのように。

 

 

雄大に、無慈悲に、大雪原はそこにあった。

 

 

 

じゃらり。

 

 

音のある静寂に割り込んだ異音。

繋がれた金属が立てた、わずかな…

…しかし、確かな。

 

襲撃の予兆。

 

 

白い闇の中、うずもれるように身を隠していた《それ》は、己の身に迫る危機を理解した。

 

 

 

ずるり、

雪から這い出て、目を凝らす。

 

無機質な球体に眼球が一つ。

何とも言えない紫色の巨体は、この白の大地に馴染むにほど遠く。

 

けれど雪原という足場の悪い環境では、転がる事で少ない抵抗での移動を可能にする。

 

 

…そのはずだった。

 

 

ぎょろり、ぎょろり。

単眼を回して警戒を行う。

 

本来は複数体で固まり、各方位を群体で索敵警戒する。

そういう設計の巨体、そういう設計の群体。

 

 

…その設計はいまや、すべて無意味だ。

 

群体は分断され、蹴散らされ。

追い回され、追い詰められ。

 

 

一つ、ひとつ。

順番に順番に。

 

孤立した個体から脱落し。

この大雪原に入った群体は……

 

 

…白い闇に踊りだした影法師。

察知した時にはもう、襲撃者は《それ》の目の前まで迫っていた。

 

 

 

…じゃらり。

 

 

 

振り抜いた爪、振り子のように揺れた鎖がやっと動きを止めた時。

 

 

パッカーン!!

 

 

場違いなほど派手に、軽快な音を立てて《それ》は弾け散った。

 

 

 

―――GRRR……

 

 

 

唸り声とともに漏れた吐息。

獲物を仕留めても警戒を解かぬ姿は、野生の獣そのもの。

 

 

…風に乱れた、縞めいたコントラストのロングヘア。

ほつれ、擦り切れの見え隠れするベスト。

 

両腕には冷たい光沢の枷がはめられ、そこから伸びた鎖は途中で引きちぎられたかのよう。

わずかな雪明りにぼんやりと浮かぶ黄色いチェックスカート。

 

縞模様の入ったオレンジ色のタイツが、スカートからすらりと伸びた脚を包み。

雪に溶け込むような白のブーツが、凍り付いた大地に足跡を刻む。

 

 

長く、太い尾が揺れる。

まだ見ぬ敵を、狩るべき獲物を探るように。

 

 

少女の姿を取りながら。

見る者を圧倒する風格さえ備える、雪原の狩人。

 

 

 

…わずかに乱れた呼吸を整え。

ゆらりと振り返るころ。

 

 

狩の痕跡は吹き付ける雪風に消えつつあった。

 

《残骸》は虹色の揺らめきになって風に舞い。

切り裂くような風に運ばれ、どこかへ行くのだろう。

 

 

金色の双眸は、その揺らめきを追っているようで。

その実、何処も見ていないようにも見えた。

 

 

 

―――オオォオ―――ォオオォォォ―――……

 

 

 

甲高く、そして低く。

嘆くように、叫ぶように疾る風。

 

風の彼方に揺らめきが消え去るのを見届けて。

 

 

…じゃらり。

 

 

やがて少女は歩き出す。

何処へともなく、何をするでもなく。

 

 

じゃらり、じゃらり。

 

 

銀世界の白い闇へ溶けて、その姿は見えなくなった。

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