けものフレンズR Returning a favor 作:社畜狂戦士
派手な色は、注意を引くためだ。
豪奢で鮮やかな尾羽を見せ付け異性を誘う、クジャクは求愛において代表例と言えるだろう。
色の鮮明さや羽の状態を見れば、個体としての強さや栄養状態も知ることができるのだ。
往々にして、そういった求愛の色は派手ながら心惹かれるような彩りを持っている。
対して、拒むような派手な彩りも存在する。
サンゴヘビやヤドクガエルといった有毒の動物たちがこれにあたるだろう。
求愛の色とは対照的に、鮮やかながら毒々しいと思わせる妖しい彩り。
あえて目立つ色合いをまとう事で、手を出そうとする者に「ひどい目にあうぞ」という警告をしているのだ。
…そのコントラストが、一部の物好きを惹きつけていることはさておき。
色の意味は、本能に近い部分に刷り込まれている情報だ。
そう、例えば……
…赤、赤、赤。
赤い光が点滅する。
四方八方を取り囲み、矢継ぎ早に、統一性なく。
唸り声のように。
耳をつんざく金切声のように。
高く、低く。
口々に放たれるサイレン。
「警告、警告。立入禁止エリアに侵入しています。直ちに退去してください」
「警備班へ、至急警備班へ。禁止エリアへの侵入を確認。至急応答されたし」
「このエリアは一般の入場が制限されています。スタッフの誘導に従い…」
チカチカと、違うテンポで。
何度も何度でも、何重にも。
繰り返される明滅する赤。
排除の意思を隠そうとしない、警告の赤。
「なに、これ…!?」
「………っ」
困惑するともえを守るように背に隠すイエイヌ。
だが、イエイヌ自身もどうしていいか分からない。
警告を発する相手への驚きと困惑が、ふたりの対応の幅を狭め。
動けないふたりに、行く手を遮った《彼ら》は取り囲むようにじりじりと距離を詰めてくる。
…ともえの膝ほどの大きさ。
丸みをおびたつるりとしたボディに、尖った耳とふさふさな尻尾。
水色を基調とした寒色系のカラーリングに、耳の部分を赤く光らせて。
縦長のツインアイの下に締められた黒いバンド、そこに四角い縁に丸いレンズのようなパーツが下がる。
…そのレンズもせわしなく緑色に不規則に点滅し。
耳に聞こえない声で互いに相談しているようでもあった。
ひょい。
さらなる新手が茂みの中から弾むように飛び出し。
「ココハ、立入規制エリアダヨ。入ッタラダメダヨ」
良く見知った口調で、とがった耳を赤く光らせながらともえとイエイヌに語り掛ける。
…ラッキービースト。
フレンズ達からは「ボス」と親しまれる、謎多きパークの守護者。
普段はしゃべることはなく、どこからともなくジャパリまんを運んできてくれる存在。
旅する中でもたびたび世話になった、フレンズ達の隣人。
ともえの前で言葉を発し、イエイヌが仰天したのも記憶に新しい。
基本的に単独行動しているのか、同じ場所にラッキービーストが集まる事自体もかなり珍しい。
…その彼らが、見える限りではちにん。
森の奥から響くサイレンを考えれば、もっと。
一か所にこれだけの数のラッキービーストが集まるだけでも、もはや異常事態とさえ思える。
さらには、彼らは明確に意思表示をしてくることはあまりない。
…特に。
こちらを取り囲みながら威圧の意思をあらわにしてくる事など、イエイヌは見た事も聞いた事もなかった。
対して。
「……長。前よりすごいことになってません?」
「そうじゃなあ。この数はちと、想定外じゃが」
長ともうひとり…
ユキヒョウとオコジョはそれなりに予測していたようで。
やや戸惑いを隠せてないオコジョに、ユキヒョウは想定外と言いつつも普段通り、のんびりした口調で答える。
懐から何かを出しながら、一番近くにいたラッキービーストの前にしゃがみ。
「これラッキーたちよ。客人じゃ、通してくれぬか?」
…じゃらり。
差し出した手に繋がれた鎖が、騒音の嵐の中に異音を刻む。
手の平に収まる程度の、横長の四角。
角は丸められ、薄く、凹凸なく。
けれど、多少の力では割れない程度に厚みはある。
黒いベルトから下げられたレンズに灯った、先ほどとは違う緑の光。
ユキヒョウの差し出した四角の表面をなぞるように走る。
「…ID認証、完了」
ぴたり、と。
一斉に鳴りやむけたたましいサイレン。
目配せするような二拍の間。
騒音の名残が耳に残るいびつな静寂の中。
集まったラッキービースト達が、数瞬のタイムラグを刻みながら一斉に散る。
まるで何事もなかったかのように。
…いや、何事かはあったのだ。
生き物の気配のない森。
降り積もった新雪に刻まれた、複数の足跡。
残響の森に灯った赤い光が薄れかかった朝もやを彩る。
……赤は、血の色。
明滅する警告は、凄惨な幻影を浮かび上がらせるかのように。
不気味に、不吉に。
異常な何かが進行しつつある事を告げていた。
「目的地ハ《ケイブ・ベース》デイイカナ?」
…投げかけられた質問。
残ったひとり…
最後に茂みから飛び出してきたラッキービーストが問いかける。
彼もまた耳を赤く光らせ、無表情に無感情に。
四角い板を差し出したユキヒョウへ無機質な視線を向ける。
「うむ。というかそこしか知らぬのじゃが…」
異様さを漂わせるラッキービーストに怖気づく素振りさえなく。
むしろ、楽し気に。
からかうようにユキヒョウが笑う。
「他にもああいうのがあるのかの?」
「ソレハ機密事項ダヨ」
「ラッキーはつれぬのう」
そっけない彼の受け答え。
あっさりと、しかし冗談めかしてユキヒョウはそれを受け入れる。
…余裕、というのだろうか。
自分に持っていない何かを、ともえは目の当たりにした気がして。
「……もしかして。ユキヒョウ…さん、ってすごいひと?」
「あたりまえでしょ?……って、あなた今年生まれでしたわね…」
つぶやいたともえ。
たしなめようとして、軽く聞いたともえとイエイヌのなれそめを思い出したオコジョ。
「長、じゃからの♪」
屈託なくユキヒョウは笑って見せて。
「ぬしも大変じゃな、イエイヌや?」
「…あ、あはははは…」
…そう話を振られて、イエイヌは笑ってごまかすしかなかった。
「ルート検索、完了。案内ヲ開始スルヨ」
ラッキービーストはそんなよにんをよそに歩き始め。
「話は落ち着いてからじゃな。もう、そう遠くはない」
ユキヒョウも残るさんにんを促すように歩き出す。
ともえ達も後に続く。
新雪に刻む、ごにん分の足跡。
半ば氷と混じったそれは、ざくざくと音を立て。
生き物の気配の消えたゆきやまの静けさをさらに引き立て。
ちらつく赤い光が、不安と緊張感をあおる。
…木々の陰や、茂みに身を隠した散ったはずのラッキービースト達。
いまだ赤く発光する耳が、こちらを監視する彼らの存在を浮き彫りにする。
…この奥には何があるんだろう。
……このゆきやまで、一体何が起きているんだろう。
先を行くユキヒョウとラッキービーストを追いかけながら。
こみ上げてくる不安をごまかすように、ともえは頭を振って思考を追い出した。