けものフレンズR Returning a favor 作:社畜狂戦士
「さ。改めて名乗らせてもらうかのう。
わらわはユキヒョウ。島の長じゃ」
……じゃらり。
丸めるように、柔らかく。
軽く握った右手、手首だけをふにゃりと曲げる。
…まねきねこのような、気さくでフレンドリーなポーズなのだが。
右手に繋がれた枷の鎖が揺れ、調度品が揃っていながらどこか殺風景な部屋に金属音を響かせる。
ともえ達が通された『げすとるーむ』。
小綺麗に掃除された室内に、黒く、何だが高級感のあるローテーブルとふたり掛けのソファーが二つ。
手前側のソファーに、ともえとイエイヌが。
ローテーブルを挟んで奥側に、オコジョとユキヒョウが向き合うように腰を下ろす。
視線だけで見回した部屋の中。
カーテンで閉ざされた窓枠が一つ。
暖色系の壁紙はどこか古びて、時間の経過を感じさせる少し浮いてしまっている継ぎ目。
火の気もなく、灰もない赤レンガの暖炉はおそらく飾りなのだろう。
冬のゆきやまちほーの山々を描いた絵が、暖炉の上に掛けられた額縁の中で埃をかぶっていて。
誰かが描いたその絵も、雄大な雪に覆われた山々が何となく黄色みがかっているように見える。
奥の部屋に備えられた大きめのベッドから察するに、来訪者が宿泊する施設だったのだろうか。
…手の届くところだけ綺麗に掃除され、そのまま古びてしまった。
そんな印象を受ける、今も誰かが手入れをし続ける部屋。
何となく感じてしまったもの悲しさを、思考の隅に追いやって。
改めて名乗ったユキヒョウに促され、ともえとイエイヌも背筋を伸ばし。
「あの……ともえ、です」
「イエイヌです」
イエイヌが軽く一礼するのを見て、ともえもそれに続く。
「あの、あたし達……!」
「…ゴリラの遣い、であろ?」
分かっておる、と頷きながら……ユキヒョウがちらりと隣に座るフレンズに向けた視線。
…気まずくて、まっすぐ見れなかったともえの視線もそちらに移る。
真っ白い、まるで雪のようにつややかなセミロングの髪。
輪郭に沿うように分けた前髪、一房だけ額を隠すようにおろし、そこの毛先だけが墨のように黒い。
髪からのぞく大きな耳は丸くふわふわとしていて、ともえの触ってみたい欲求を駆り立てるものの。
…膝を抱え、ちょっと涙ぐんじゃってるなんとも言えない視線が八つ当たりのようにともえに刺さる。
白のカッターシャツに白のネクタイ、さらに上に着込んだ長袖のセーターまで白く。
これまた白のスカートと、その下から伸びるふっさふさの大きな尻尾もまた白い。
白のハイソックスとスカートの隙間を隠すように尻尾を巻き付け。
墨を吸った筆のような尾の先が、気まずさともどかしさを表すように、所在無げに揺れた。
…まるで、ゆきやまに生きるために生まれたような、溶け込むような純白のフレンズ。
前髪の一部と尻尾の先だけが黒いのもアクセントになっており、愛らしさを違和感なく際立たせているのだが。
……どーにも、非常に、オコジョは気分を害しているようで。
「……で。このぶーたれておるのが…」
「…くびだけおばけのオコジョですわ…」
「これ、オコジョ」
たしなめるユキヒョウ、だがオコジョはぷいとそっぽを向いてしまう。
はあ、ため息が一つ。
「…すまぬのう、気が強くてのう」
「ああああああああ……ごめんねぇ、オコジョちゃんごめんねぇ…」
「…………、……」
謝るユキヒョウ。
取り乱すともえ。
さらにしあさっての方へ視線をそらしたオコジョ。
(……どーしましょう、これ……?)
…本格的に、どうしていいのか分からなくなり。
イエイヌには苦笑半分の乾いた笑いでごまかすのがやっとだった。
(……えーっと…)
…問題解決の糸口を求めて、イエイヌは記憶をさかのぼる。
遠くない過去。
『けいぶべーす』の入り口にたどり着いた辺りに焦点を絞り。
…己の心に問う。
何故、と。
(…どうして、こんなことに……)
…ゴリラからの「にんむ」とゴマちゃんさん。
ゆきやまの異変と謎のフレンズ。
長・ユキヒョウとオコジョ、そしてともえ。
聞きたい事。
知りたい事。
やるべき事は、たっぷりとある。
……時間は少し、巻き戻る。