けものフレンズR Returning a favor 作:社畜狂戦士
(……んーーーー……?)
思い出せば、思い出すほど。
考えれば、考えた分だけ。
首を傾げたい気持ちが強くなり、イエイヌは煮詰まった思考を頭から追い出した。
…足りない情報が、多すぎる。
ともえが何を『思い出した』のか。
それにどう、オコジョが関係あるのか。
……そもそも「くびだけおばけ」って何だろうとか。
分からないことが、多すぎる。
「ううぅ……」
…どうしていいのか、分からないのだろう。
イエイヌの隣でソファーから立ったり座ったり、そわそわと落ち着きのない半べそのともえと。
「………」
膝を抱えて、もはや背中を向けてしまったオコジョ。
…戸惑うように揺れている尻尾を見るに、意固地になりすぎてると思ってる……のかもしれない。
「くびだけおばけ、のう……?」
ユキヒョウも、首をひねりながらつぶやき。
ちらり、とイエイヌに心当たりを問いかけるように視線を投げかけた。
「…えーと、そのー……」
整理が追い付いていない頭、話を振られても言葉がまとまらない。
改めてじっくりと、オコジョを観察しながら。
「オコジョさんはまっ白なので……あの。雪があると、ですね……?」
何故か一緒にわたわた動く手。
変な緊張だけが高まり、自分でもうまく説明できてないのが分かる。
「ふぅむ……のう、オコジョや」
それでも、ユキヒョウは何か糸口をつかんだようで。
いつも通りの、のんびりとした口調。
いつもよりすこしだけ、柔らかい口調。
「前の夏を覚えておるかの?」
オコジョが、視線だけユキヒョウに向けたのを見届けて。
穏やかに続ける。
「昼寝してたわらわを踏んづけた…そう、アレじゃ」
「あ!あれは、その……岩のかげで、長が見えなかったからで……」
慌ててユキヒョウに向き直るオコジョ。
…だんだんと尻すぼみに小さくなる声。
そのまま、バツが悪そうに。
口をつぐんでしまうが、ユキヒョウはゆっくりと首を振って。
「よいのじゃ」
…じゃらり。
優しく、梳かすように。
オコジョの髪を撫でる、枷の繋がれた右手。
「岩場のわらわと同じように、雪あるところでそなたをはっきり見据えられる者がどれほどおるかの?
こたびは、アレと同じじゃ」
「………、…」
諭すように。
噛んで含めるように。
オコジョの尻尾がユキヒョウの言葉に揺れ。
「のう、オコジョよ。
…わらわのマネをしても、わらわにはなれぬぞ?」
続く言葉に、ぴたり、と。
オコジョの尻尾が動きを止めた。
内心を見透かした言葉。
けれど、それは。
「わらわはわらわで、そなたはそなた、じゃ」
戸惑い、焦り、恐れ、不安。
オコジョの抱えているモノを言い当て、それを肯定する言葉。
こわばった尻尾から、力が抜けていくのが分かる。
「…そも、わらわのマネをするには修行が足りぬぞ?」
最後は、ちょっと冗談めかして。
少しだけ恥ずかしそうに、ユキヒョウは笑う。
……もう、大丈夫だろう。
「…ともえさん、ほら」
「……うん」
促されて、おずおずと。
歩み寄るともえと、向き直るオコジョ。
…お互いにちょっと涙目で。
気まずさが数拍の間を作った後。
「……ごめんね、オコジョちゃん」
「わたくしの方こそ…その、ごめんなさい、ね?」
ぺこり、
お互いに下げた頭。
それがちょっと、気恥ずかしくて。
なんだか、照れくさくって。
くすっと、何故か笑ってしまう。
「…ね、オコジョちゃん。耳、さわってみていい?」
「えっ…その……優しく、お願いしますわ…」
まだぎこちないけれど。
じゃれ合いはじめたともえとオコジョ。
少し打ち解けたふたりに、イエイヌはほっと息を吐く。
「すまぬのう、イエイヌや。気が短くてのう」
「あ、いえ。…まじめな子ですねぇ」
「うむ。わらわよりしっかりしておるかもしれぬ」
長のとりなしとねぎらいが、嬉しくて。
……懐かしい。
おうちに引きこもりがちな自分を気にかけてくれて。
色々な話をしてくれたのも、岬の遺跡に行ってみる事になったのも。
「うわあ……ふわっふわだぁ…」
「んっ…もう少していねいに、んんっそこ、は……」
…思えば。
ともえに出会ったのは、長が遠いどこかできっかけを作ってくれていたのかもしれない。
「なんだか…なつかしいですね。こうして長とお話しするのもひさしぶりです」
「そうじゃなぁ…ここしばらく、ゆきやまを離れられなくて、の。
そなたは少し……変わったの、イエイヌや?」
「…あっ、やっ、やめ……っ」
「…そうですか?」
「そうじゃとも。顔つきが」
「…やめろっつってんだろがァっ!!………あ」
とどろいた怒声。
思わず振り返れば、固まったともえと慌てるオコジョ。
「…いえ、違うんですの。そう、じゃなくて、その……」
…原因になったとはいえ。
至近距離で怒号を浴びて半べそのともえを、なんとかなだめようとするオコジョ。
「……オコジョや」
ユキヒョウは、ゆっくりと首を振って。
「じゃから。修行が足りぬと言っておるのじゃ…」
「…ともえさんも。調子にのるの、ほどほどにしましょうね?」
もう一度、長とふたりで仲裁に入り。
…少し、変わった。
長にそう言われた意味が、イエイヌはちょっとだけ分かった気がした。