けものフレンズR  Returning a favor   作:社畜狂戦士

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ユキヒョウとオコジョ  4

「すまぬのう、血の気が多くてのう」

「い、いえ。……こちらこそ、ともえさんがすみません」

 

 

頭を下げるユキヒョウ、イエイヌも改めて頭を下げ。

微妙になってしまった空気を仕切りなおそうとしてみるものの。

 

さすがに三度目となると、仕切りなおす口実も当たり障りのないモノを見つけるのはちょっと難しい。

ともえもオコジョも、しょんぼりして小さくなってしまっている。

 

続く言葉を探し始めたところで。

 

 

 

……ふと。

甘い香りが鼻をくすぐる。

 

花の蜜、とまでは行かないが。

野に咲く花のような、やわらかく、優しい匂い。

 

 

香りを追って、イエイヌが『げすとるーむ』の入り口を振り返るのとほぼ同時。

機械仕掛けのドアが滑らかにスライドする。

 

 

「オ茶デモドウカナ?気分転換ニナルヨ」

 

 

姿を見せたのは、ラッキービースト。

 

『げすとるーむ』に通されて以来、見かけなかった丸いボディ。

尖った耳の上に、不可思議なほど平然と丸いお盆を乗せて。

 

お盆の上に乗った四つのカップと、判別がつくくらいに強くなった匂い。

 

 

これは、知ってる。

自分のは、花の匂いはしないけれど。

 

 

…こく、喉が鳴る。

そういえば朝から何も食べてなかったなぁ。

 

そうぼんやりと考えた、まさにその時。

 

 

 

―――ぐぐううぅ………、ぐぅう。

 

 

 

大きな音を立てて空腹を主張する、誰かのお腹。

みるみるうちに顔を赤くするともえ。

 

…我慢、しようとして。

無理だったユキヒョウが吹き出して。

 

 

「…そうじゃなあ。あさげがまだじゃものなぁ」

 

のどの奥でくつくつ笑いながら、

 

 

「のう、オコジョや?」

「わ、わたくしは、何も…」

「しっかり聞こえておる。恰好つけずともよいのじゃ」

「あう…」

 

 

今度は、話を振られたオコジョが真っ赤になった。

…どうやら最後のは、オコジョの、らしい。

 

顔を赤くしたふたり、気まずそうな視線を交差して。

 

「…何ですの?」

「ううん、なんでもないよ」

「……もうっ」

 

困ったように笑った。

 

 

空気が、緩む。

変な緊張感も、意地の張り合いも、もう終わり。

 

なるほど、ちゃんと気分転換になってる。

…まだ飲んでないけど。

 

 

 

「ボス、ありがとうございますー」

 

運んでくれたお盆をローテーブルに乗せなおし、白磁のカップをひとりひとりの前に配るイエイヌ。

 

 

自分の分のカップを手に取って、そっとのぞき込んでみれば。

 

赤みがかった明るい茶色をしたお湯。

湯気の先に映り込んだ顔、しかし飾り気のないカップの底を見通せる透明さもあわせ持つ。

 

ふわり、

揺らめく湯気に乗って、鼻をくすぐる甘くさわやかな香り。

 

やはり、花の匂いはここからする。

 

 

「いいにおい……お湯に葉っぱをいれたやつですよね、これ?」

 

明るくなった場の空気に、疑問を口にしてみると。

 

 

「紅茶ト言ウヨ。オ茶ノ葉を発酵サセタ後デ乾燥シ、オ湯ヲ注イダ物ダヨ。

今回ノハ、カモミールノ花ト合ワセタモノダネ」

「あ、それでお花のにおいがするんですね」

 

返ってきた解説に、普通に納得してしまって。

 

 

「カモミールティーハ、リラックス効果ガアルトイウヨ。気ニ入ッテクレタカナ?」

「…やさしくって、なんだか落ち着く気がしますー。ボス、ありがとうござ……?」

 

 

……言いかけて、はたと気付く。

 

わたしは。

だれと、お話を……?

 

 

「え…?わたし、ボスとお話しして……へ…?」

 

ひとりで取り乱す自分と、きょとんとするさんにん。

みんなの反応の薄さに、違う意味で広がる混乱。

 

 

 

「…ああ。そうじゃった、そうじゃったのう。

当たり前になっておったなあ、ボスと話すのも」

 

 

やっと理解した、というようにユキヒョウがしみじみと口を開いた。

 

 

「ラッキーや。すまぬが、ジャパリまんも頼めるかの?

食いしん坊めらにしっかり食べてもらわねばならぬのじゃ」

「マカセテ」

 

 

軽いフットワークでまた退出するラッキービースト。

 

…さっきとは違う感じで、空気が引き締まる。

 

 

 

「…堅苦しいのも、説教くさいいのも嫌いじゃ。

じゃが。それも含めて話をせんとのう……」

 

 

面倒くさそうに。

…せっかく明るくなった空気を壊さないように。

 

冗談めかしながらユキヒョウは言う。

 

 

まじめな話が、始まる。

イエイヌもオコジョも、少し姿勢を正し。

 

 

 

「あ、あの…」

 

 

ともえだけはおずおずと、発言の許可を求めるように手を挙げて。

 

 

 

「…昨日の夜に、フレンズちゃんに会ったんです。

その子…すごく、お腹を空かせてて……あの…」

 

 

つっかえながら、言葉を探しながら。

なんとか説明しようとするともえ。

 

山小屋で出会った…ちょっと怖い、不思議なフレンズ。

…その子にも、食べさせてあげたい。

 

 

「そなたは優しい子じゃな、ともえや。

……会っておったか、『あの子』に」

 

 

その思いは、ユキヒョウにちゃんと伝わったようで。

 

 

ちらり、

イエイヌに飛んできた確認の視線。

 

こくり、

肯定の頷きをイエイヌがするのを見届けて。

 

 

 

「『あの子』の話にもなるじゃろう。じゃが、まずはわらわ達が食べねば。

…食べれるときに食べておかねば、動きたいときに動けぬ。

 

じゃから……まずは、食べるのじゃ」

 

 

噛みしめるように、絞り出すように。

…自分に言い聞かせるような響きさえある言葉。

 

その重みに、ともえは頷いて。

 

 

……ゆっくりと、ユキヒョウが口を開く。

やわらかく、微笑みながら。

 

 

 

「あの子は、アム。

アムールトラ。

 

……わらわの、ともだちじゃ」

 

 

 

昔を懐かしむように。

思い出に浸るように。

 

そして、何かを諦めるように。

 

 

……じゃらり。

 

 

右手に繋がれた鎖が、重く音を響かせた。

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