けものフレンズR  Returning a favor   作:社畜狂戦士

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雪原へ

「よいな?雪原はアムの縄張り。…十分に気を付けるのじゃぞ」

「はい。長も、お気をつけて」

「いってきまーす!」

「あなたが一番気をつけるんですの!!」

 

 

氷と入り混じった崖の岩肌。

山頂へと延びるそこに、隠し飲んだ機械仕掛けの洞窟への入り口でユキヒョウと別れ。

 

西へ、西へ。

 

 

山頂に背を向け、尾根を伝い。

雪原を目指して、足跡を刻む。

 

 

 

…寒くは、ない。

 

刺さるような風も通さない、かちっとした灰色のコートは暖かくて動きやすいし。

縫い目やポケットの縁取りにオレンジの色ラインが入っているのもかわいくてお気に入りだ。

 

足元の冷えも紺色のタイツと、コートと同色のパンツのおかげで全然違う。

つるりとした表側と裏起毛の内側の二重構造になっていて、裾をブーツに入れ込んでしまえば、雪が隙間から入ってくることもなくなった。

 

 

どちらも『けいぶべーす』にあった借り物だけれど、登ってきた時よりも格段に過ごしやすくなっている。

 

なぜ、自分にぴったりの…すこしゆとりがあるくらいの服が、そこにあったのか。

それだけは分からないけれど。

 

 

 

動きやすく、暖かい恰好になったことで生まれた心の余裕。

それは、見ていた世界の彩りをより鮮やかに映し出す。

 

 

 

崖の岩肌にしがみつく苔にも霜が這い、絡み合って凍り付き。

半ば一体化たことで生まれた、不愛想だった岩肌を飾るほのかな色合い。

 

 

崖を離れれば背の低い茂みのような木々が増え。

春に芽吹くのだろう、葉を落とした枝先がやわらかに膨らむ。

 

その枝先を包むように、飾るように。

白く色づく氷が宝石のように輝きながら風に揺れ。

 

 

通り抜けるだけだった針葉樹の森も、目的が変われば見方が変わる。

 

 

 

誰かが通った痕跡のある茂み。

岩にもたれてトンネルのようになった倒木は、ところどころ樹皮が剥がれていて誰かがその周りで遊んでいたかのよう。

 

いずれ土に還る倒木の乾いた質感と、根を張った木々のしっとりとした質感。

その先についた葉も、倒木のそれは茶色く変色し。

 

 

―――ぱきっ。

 

乾ききった枝はともえの手でも簡単に折れ、そのちょっとした衝撃にもぱらぱらと葉を落としてしまう。

 

 

…『あの子』が、アムールトラが。

助けてくれなければ、自分も「こう」なっていたのだろうか。

 

昨日、いやと言うほど知ったゆきやまちほーの過酷さ。

 

 

そしてその過酷な大地に、たったひとりで暮らすアムールトラ。

ユキヒョウの群れにも近づかず、セルリアンの多い谷のさらに奥。

 

近づく者もほとんどいないその雪原で、何を思っているのだろう。

 

 

余裕が出て、回るようになった思考。

 

…何が、出来るわけではないけれど。

ちゃんとお礼が言いたいし。

 

 

オコジョとユキヒョウ、ふたりの言う事に「ずれ」があるような気がして。

 

それが何なのか、知りたい。

放っておいては、いけない。

 

 

そんなことを考えながら、不思議そうにこちらを振り返るオコジョとイエイヌのもとへ急ぐ。

 

 

ごうごうと音を立てる、冷えきった大気にも凍らない沢は雪を溶かしながら流れて。

溶かしきれなかった雪は沢の水と混じりあいながら、縁に溜まって凍りつく。

 

そんな沢に掛かった3本の丸太を並べた橋からは、ずらりとつららが垂れ下がり。

アーチを描くように、真ん中は短く。

根本の方は走るように流れる沢の縁まで達していて。

 

 

まるで彫像のようにがっしりと、根を張るように向こう岸とを結び付ける。

 

 

 

…不安が先に立って、見回す余裕もなかった前とは違う。

 

たぶん、ここに来なければ見られなかった風景の数々に、むずむずと。

頭を持ち上げてくるともえのお絵描き欲。

 

 

「ダメですよ?ともえさん」

「…まだ何も言ってないよ、イエイヌちゃん」

「目がきらきらしてますもの。見ればわかりますわ」

「えぇ…オコジョちゃんまで……」

 

 

降り積もった雪の白。

取り囲む木々の暗い緑。

薄茶色の樹皮や枝は存在感を残しながら、不思議なほどになじんでいて。

 

ところどころに姿を見せる氷は、透き通ったりそうじゃなかったり。

けれど一貫して寒色系の、触れれば刺さるような冷たさを主張してくる。

 

 

ゆきやまの、その奥地でしか見られない顔。

だが、ここに暮らすフレンズ達にとっては日常の一部なのだろう。

 

 

「休憩するならもっと先で、ですわ。

谷の入り口を抜ければ雪原……あの子の縄張りですもの」

「……戻ってくるまでは。そこがさいごの休憩ってことですね」

「じゃ、そこならお絵かきしていい?」

「…ちゃんと体を休めるんですのよ?」

「はぁい」

 

 

 

…それが、遠いどこかの『記憶』をかすめても。

 

 

 

湧き上がる感情が、違う。

不安はあっても、いやな感じはしないし。

 

楽しかったんだと思う、きっと。

自分でない「自分」と、初めて一致した意見。

 

 

 

「あたし」は。

どんな子だったんだろう。

 

 

 

…分からない。

思い出せない。

 

けれど。

 

 

お絵かきが好きな子、だったらいいな。

 

何となく、そう思った。

 

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