けものフレンズR  Returning a favor   作:社畜狂戦士

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追走

…じゃらり。

 

 

 

獣は不機嫌だった。

 

 

 

――――RRRR、GRRRRR……

 

 

 

苛立ちの隠せない唸り声。

伏してまで嗅ぎ取ろうとしていた臭いが途切れている。

 

 

横殴りの風、視界を遮る白。

本格的になり始めた吹雪が、《不届者》の痕跡を消して行く。

 

 

足跡も。

臭いも。

サンドスターの痕跡も。

 

 

覆い隠すように、塗り潰すように。

すべてが、白い闇へと消えて行く。

 

 

 

――――GRRRR…

 

 

 

ゆらり、身を起こす。

 

 

仕留め損ねた《不届者》は、上手く吹雪に身を隠したのだろう。

耳障りな甲高い風の叫びの中、雪に霞む視線を巡らせる。

 

山頂から吹き付ける疾風と雪。

長い尾を揺らめかせ、気配を探りながら。

 

 

風上の山頂方面はあり得ない。

…臭いで気付くし、何より斜面を登り逃げるならば追いついている。

 

 

なだらかに山裾へ下りてゆく斜面。

…逃げるには向く地形、足跡はそっちに伸びたが。

駆け降りた、となればこちらもどこまで走ることになるか。

 

 

開けた斜面の脇、針葉樹の森か。

…身を隠すには向くが、そこは庭も同然。

今もそこにいるなら、臭いもサンドスターの痕跡もそこにある。

 

 

だが。

襲撃を受けた場所にのこのこ戻るような間抜けとも思えない。

 

 

 

残るは、わずかな雪の起伏……

…そこにいるのなら。

 

すでに気配を捉えているだろう。

 

 

……完全に、取り逃がした。

面白くもないが、そう判断せざるを得ない。

 

 

 

じゃらり。

 

 

 

乱れた呼吸を整えながら。

左手を持ち上げ、負った手傷を確認する。

 

一撃をくれてやった爪。

代償として受けた甲から腕へ走った裂傷。

 

裂傷は繋がれた枷に阻まれてそこで止まっていた。

 

 

…浅い。

が、手傷を負ったのは何時ぶりだろうか。

 

 

 

《獲物》は、強い。

 

 

 

べろり、傷を舐める。

血の匂いと鉄臭さ。

 

金色の双眸が、妖しく紫色に輝く。

 

 

 

 

獣は、不機嫌だった。

だが、同時に嗤っていた。

 

 

 

《狩り》は失敗した。

だが、あの《獲物》ならば……

 

 

 

――――RRR、RR……

 

 

 

しゅう、と息を吐き索敵を切り上げる。

 

襲撃と追撃、追走を繰り返し、気付けば縄張りの端。

《獲物》よりも厄介な相手の縄張りにもほど近い。

 

勢いを増しつつある粉雪の乱舞にもてあそばれる長い髪。

 

 

おそらく、きっと。

この吹雪は酷くなる。

 

雪原で生き抜く為のカンが鳴らす警鐘。

 

 

…嵐をやり過ごしてから、改めて仕留める。

方針を切り替え、獣は歩き出す。

 

 

 

…じゃらり。

 

 

 

警戒は解かぬまま、ゆらり、ゆらりと。

 

吹雪く風を背負い、金色に戻った双眸で。

 

 

白い視界の奥、わずかに見える古びた山小屋へ。

 

 

じゃらり、じゃらり。

 

 

少女の姿をした獣は、歩く。

 

…肩を落とし、迷子のように。

 

 

叫ぶように、歌うような雪風の中を、歩く。

 

 

 

…じゃらり。

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