けものフレンズR  Returning a favor   作:社畜狂戦士

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山小屋の一夜  3

―――ぱち、ぱち、、、、

 

 

 

火の粉が、散る。

薪の中に含んでいた空気が温まり、炎に触れて、火の粉に変わる。

 

完全に夜になってしまった避難小屋の囲炉裏に灯る、たき火の明かり。

木組みの小屋のすきま風に揺れながら、煌々と、ぼんやりと。

 

陽の光とはまた違う、橙色の光と暖かさで照らしてくれる。

 

 

 

 

「…あのー、イエイヌちゃん?」

 

 

 

恐る恐る声を掛ける、ともえ。

 

 

「動きにくいんだけど……?」

「ともえさんは無茶するので。だめですー」

「えー……?」

 

 

耳元で聞こえる声。

不満を伝えてみたが、却下されてしまった。

 

 

…風よけに横倒しにしたテーブルに、背中を預け。

毛布に包まれながら、ともえを後ろから抱きしめて離さないイエイヌ。

 

 

(…ちょっと、怒ってる?)

 

 

顔の見えないお友達の声に、ちょっぴりトゲを感じる。

 

……まあ、仕方ないのかもしれないけれど。

 

 

 

ただちょっと…

 

  

 

「…………」

 

 

 

囲炉裏の、向こう。

二つの木箱の陰にいる、名前も知らない『あの子』の様子を見たいだけなんだけど…

 

 

 

……

………?

 

 

……ふと、気付く。

 

 

 

(…さっきより、ちょっと、近づいてきてる……?)

 

 

 

気のせい、なのだろうか?

位置が悪くてよく見えない。

 

  

ぎゅっ、と。

ともえを抱きしめる力が強くなる。

 

 

 

「…ダメですよ、ともえさん」

 

耳元でイエイヌがささやく。

 

 

 

「刺激しちゃ、ダメです。

…その気がないみたいですから…そのままにしておきましょ?」

 

 

 

穏やかな声音。

けれど、緊張と真剣さをにじませながら、わずかに震える。

 

 

顔が見えなくても理解出来る。

 

 

『あの子』の事だ。

もし、『あの子』がその気になったら…

 

 

…ともえには、その覚悟と決意が少し悲しかった。

 

 

 

「…わかったよ、イエイヌちゃん」

 

 

首だけ振り返り、お友達の目を見て。

安心してもらえるように、ともえもささやく。

 

 

 

…短い、見つめ合い。

 

ゆっくりと、抱きしめる力が抜けて行き。

 

 

 

「…ほんと、ダメですからね?」

「わかったってばぁ」

 

 

 

念押しされながら解放され、ともえは苦笑した。

 

 

 

…ちらり、と。

囲炉裏を向こう、木箱の辺りを…

 

  

 

「…わお」

「…ほら。刺激しちゃダメですって」

 

 

 

…覗きこむ必要は、もうなくなっていた。

 

 

四角い囲炉裏の、すぐ反対側。

たき火のすぐそばに、堂々と。

 

音も気配も感じさせず、『あの子』はうずくまるように陣取っていた。

 

 

 

…こちらを気にする風はなく。

 

けれど、ぴん、と。

気配を探るような緊張感を漂わせて。

 

 

 

…じろり。

 

片目でこっちを牽制すると、また目を閉じる。

 

 

うるさくするな、そう言うように。

 

 

 

 

「…寒かったのかな?」

「…ともえさん?」

 

 

 

くいっ。

疑問を口にしたともえの背中を、イエイヌが引っ張って抗議する。

 

 

 

刺激、しちゃ、ダメ。

無言の圧力。

 

 

再度念押しされて、ともえも無言で頷いた。

 

 

 

 

……とは言え。

 

実際問題、やる事も出来る事も少ないわけで。

 

 

…やりたいやりたいと思っていたお絵かきも、もしかしたら『あの子』の気に障るかもしれないし。

 

 

たき火を絶やさないように、薪をくべる。

 

 

「………」

「………」

 

 

自然と、『あの子』に行ってしまう視線。

…その度にイエイヌから圧が掛かるけども。

 

それでもやっぱり、気になって仕方ない。

 

 

「…何の、フレンズちゃんなのかな?」

 

 

イエイヌを振り返り、小声で聞いてみる。

 

 

「…わかりません。でも…」

 

 

イエイヌが言葉を濁す。

迷うように、ためらうように。

 

 

…が。

 

 

 

「そうだ。図鑑。図鑑見たら分かるかな?」

「……ゴマちゃんさんにあずけてませんでした、それ?」

「…そーでした」

 

 

 

…折れる、話の腰。

ごそごそとバッグを引っ張り出すともえに、なんとかツッコミを入れて。

 

それでも一応、バッグを確認。

 

 

「うわぁ。ジャパリまん冷たぁい…」

「おなか痛くなりそうですねぇ…」

 

 

かわりに出てきた、かっちかちに冷えたジャパリまんにふたりで肩を落とす。

 

 

…そういえば、お昼から何も食べていない。

 

 

……

………

 

 

「…火のそばに置いといたらもとに戻るかな?」

「あ、あぶなくないですか、ともえさん?」

 

 

火も、だけれど。

たき火のそばの『あの子』を刺激しそう。

 

けれど思い出してしまった空腹は、どうにも我慢できそうにない。

 

 

 

…反応をうかがいながら、そっと。

 

ともえのとイエイヌのと。

濃い緑色のジャパリまんを並べて置く。

 

 

…『あの子』は片目を開けてこっちを見たが、それ以上は動く気はなさそうだった。

 

ほっと息を吐くイエイヌ。

 

 

遠火で、じっくり。

少しずつ、少しずつ、回しながら温めていく。

 

 

…やがて、鼻をくすぐるように広がり出した香り。

 

ふわりと、甘く。

薪の煙とはまた違う食欲を誘う香ばしさ。

 

 

 

――くう、きゅう。

 

ふたりのお腹が仲良く鳴って。

 

 

 

―――ぐぎゅるるおおおぁぉうぅぅおお。

 

 

 

…続いた豪快な腹の虫の声に、見合わせた顔が真顔になる。

 

 

 

(…………イエイヌちゃん?)

(ちがいますー!!)

 

 

視線と、ジェスチャー。

分かっていても、取ってしまった確認。

 

 

あたしでも、イエイヌちゃんでもない。

ということは。

 

…ふたり揃って、視線を向ける。

 

 

視線の先。

たき火のそばの『あの子』は。

 

 

「自分ではない」、そう言うように。

顔を伏せたまま、そっぽを向いていた。

 

 

 

…先に動いたのは、ともえだった。

 

 

 

たき火のそばのジャパリまんを、そっと確かめる。

 

…温かい、まではいかないけど。

食べれるくらいまでは戻ってる。

 

 

表面に、焼き目のついたそれを。

両方手に取って。

 

一歩、前へ。

 

 

 

「あ…あの……っ」

 

 

 

…刹那、

 

 

 

暖まっていた空気が、凍るような。

 

 

伸ばしかけたイエイヌの手を、拒むような圧力が押し留める。

 

 

 

…それでも。

 

 

 

「……さっきは、、ありがとうございまし、たっ」

 

 

 

ともえは、言葉を続ける。

圧力に気圧され、詰まりながら。

 

 

 

「よ、かったら…、こ……れ……っ」

 

 

 

おそるおそる差し出したジャパリまん。

 

 

 

――ぐるり、

 

 

そっぽを向いていた顔が、金の双眸が。

もう一度、明確に、ともえの視線と交錯した。

 

 

 

―――KAAAHHR……

 

 

 

鈍く光った、鋭い八重歯。

威嚇の意思を込めた声なき呼気。

 

 

 

……青と、金色。

重い重い、わずかな数瞬。

 

 

………

……

 

 

圧が、消える。

 

「好きにしろ」、とでも言うように。

 

 

『あの子』はもう一度、そっぽを向き。

追い払うように、不機嫌そうに長い尾を波打たせた。

 

 

 

…ゆっくり、と。

ジャパリまんを、『あの子』の方へ並べて置いて。

 

 

「こ…こわかったぁ………」

 

 

わずか一歩の距離を半べそで戻ってきた、ともえ。

イエイヌは無言で胸に受け入れて。

 

 

「……だから。刺激しちゃダメですって。ともえさん」

 

 

…優しさを、誉めるべきか。

向こう見ずを、叱るべきか。

 

ちょっと複雑な心境で、イエイヌはともえの背をさすっていた。

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