けものフレンズR  Returning a favor   作:社畜狂戦士

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山小屋の一夜  4

「…しゃべれないフレンズちゃん、、なのかなぁ……?」

 

 

 

自分達の分のじゃぱりまんを食べ終えて、ともえがつぶやく。

 

 

視線の先には、やはり『あの子』。

 

 

…お腹が減ってるはずなのに。

ジャパリまんに手をつけてくれないのが、やっぱり気になるし。

 

目を引く、両手のあの枷。

あれは、なんなのだろう。

 

 

 

…なんで、あんなものが付いているのだろう。

 

 

 

…真正面から怖い目にあっても、好奇心は薄れないらしい。

そこはとても、ともえらしいのだが。

 

 

 

(…ちょっと、はんせいして欲しい気もしますー…)

 

…危機感的な意味で心配の種が増えたイエイヌ。

 

 

 

「…ふつうのフレンズ、じゃないと思います」

 

言葉を選んで。

首元のネックウォーマーに、きゅっと手を当てて。

 

 

 

「たまに…『ああいう子』がいるって、長がいってました」

「…ああいう子?」

 

 

問い返すともえ。

小さく…ためらいながら頷く。

 

 

「フレンズみたいに見えても、動物にちかい……

…そんな子が、生まれてくるみたいなんです」

 

なんでそうなるかはわからないですけど、

そう続けて。

 

 

「長なら……なにか、知ってるかもしれないですね」

「………おはなし、できないのかなぁ…」

 

 

おはなし、してみたいなぁ…

ぽつり、こぼれるつぶやき。

 

 

 

「…えいっ」

「うにゃっ」

 

 

 

…イエイヌは、そんなともえを抱き寄せて。

ひざ枕する形で横にさせる。

 

 

「…寝てください、ともえさん。つかれてるんですから」

「……でも」

「だいじょうぶです」

 

 

くしゃっ、と。

上げようとする頭を優しく撫でながら。

何を言いたいのか汲み取って、柔らかく即答する。

 

 

「まき?を入れるだけなら、わたしでもできます」

「………」

 

 

火は……やっぱりこわいですけど、

困ったように笑うイエイヌ。

 

 

 

いたわってくれる、ありがたさ。

横になったとたんに押し寄せた、自覚していた以上の疲労にともえは反論を見失う。

 

 

…たき火と体温のぬくもり、毛布の肌触りがさらなる眠気を誘い。

 

…まぶたが、、、重い………

 

 

 

「…ごめんね……おや、す……」

 

 

 

言い終わる前に遠のいた意識。

すぐに寝息をたて始めたともえを、丁寧に毛布でくるみながら。

 

 

 

「……おやすみなさい、ともえさん」

 

 

 

若葉色の髪を、もう一度優しく撫で。

イエイヌはゆっくりと顔を上げた。

 

 

…背中を預けた、横倒しのテーブル。

肩口に引っ掛ける形で、毛布で身を包み。

ひざの上には、ともえ。

 

 

自由に動くのは、毛布から出た右手だけ。

手元に集めておいた、薪のひとつを手に取って。

 

慎重に、慎重に。

重さを、確かめる。

 

 

 

赤く、赤く。

光と熱を散らして、炎が揺れる。

 

燃え行く薪。

焼け崩れる炭。

燃え尽きた灰。

 

弾けた火の粉の音が、イエイヌの恐怖心を煽る。

 

 

 

…慎重に、慎重に、慎重に。

手を伸ばす距離を、、、

 

 

 

……からん、

投げ込まれた薪。

 

 

 

揺れた影。

波打つように。

 

長く太い、縞模様が視界の端を滑る。

 

 

……目が、あった。

 

 

新たな薪に絡み付く、炎の先。

金の瞳と半月の瞳孔が、面倒くさそうに。

 

けれど。

先程とは打って変わった、見守るような柔らかな眼光。

…眼力は変わらず、刺さるようだけど。

 

 

後押しするような視線に、イエイヌはためらいながらさらに手を伸ばして。

 

 

……からん。

たき火へ転がって行く薪。

 

 

 

「……できた…」

 

思わずこぼれた言葉。

 

拍子抜けするほど、あっさりと。

…小さな充実感をともなって。

 

 

 

気まぐれな金色が、笑う。

…笑うように細くなり。

 

くあ、と。

 

大きなあくびをひとつ残して。

まぶたの下に隠れてしまった。

 

 

 

「………」

 

 

 

…見届けて、もらった。

見守って、くれた。

 

 

長から聞いていた話とのギャップ。

動物に近い、のかもしれないけれど。

 

 

 

「ふつうの……フレンズ、みたいですねぇ」

 

 

 

それが、そのことが。

ただただ、嬉しかった。

 

…やっぱり、ちょっと怖い気持ちも残っているけど。

 

 

それでも。

ともえが気にかけていたように。

 

 

「…どんな子、なんでしょうか…」

 

 

 

…そして、なぜ。

そんな風になってしまったのか。

 

考えても出ない答え。

少なすぎる、情報。

 

 

知っていることを思い出そうとしていくうちに。

 

 

…いつしかイエイヌも、眠りへと落ちて行った……

 

 

 

――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ―――

 

 

 

静かに、静かに。

日は登り、闇を追い払う。

 

去っていった吹雪の向こう、顔を出した太陽が真っ白に笑う。

 

揺らめく朝もやはゆるやかに風に流され。

静寂に沈んだ山小屋にも、光が差し始めた。

 

 

 

「……ん…、………こほっ」

 

 

 

山小屋の中にも訪れた朝日の輝き。

軽いのどの痛みに、ともえがうっすらと目を開く。

 

 

「ともえさん、おはようございますー」

 

 

最初に視界に入った、イエイヌの笑顔。

 

…よく知った顔。

旅を始めてから毎朝、この笑顔と一緒に一日が始まる。

 

 

冷え切った空気に遠ざかっていく眠気。

 

 

「…おはよ、イエイヌちゃん」

 

 

挨拶を返しながら、ゆっくりと身を起こす。

乾いた空気にのどに広がる違和感。

また、軽いせきが出て。

 

「……ひどい声」

「のど、がらがらですねぇ」

 

ふたりで、困ったように笑った。

 

 

毛布で身を包んだまま、もう一度視線を巡らせる。

木組みの隙間から差し込んだ光で明るくなった山小屋は、昨夜よりマシではあっても…毛布を手放したくないくらいには寒い。

 

 

囲炉裏の火は燃え尽き、くすぶる煙ももはやなく。

燃える炭の存在を隠した灰の下から伝わってくる、ぼんやりとした熱。

 

 

 

…たき火を起こせなかったら、今頃どうなってたんだろう。

 

 

 

昨夜の騒ぎを思い返し。

助けてくれた恩人の事を、ようやく思い出した。

 

 

「……『あの子』は?」

 

 

…囲炉裏の先。

『あの子』が陣取っていた場所には、もう誰もいない。

 

最初から、誰もいなかったかのように。

 

 

「……行っちゃいました」

 

 

静かに、残念そうに。

自分も立ち上がりながら、イエイヌは告げる。

 

 

「おひさまが出てくるまえに……まるで吹雪がいつやむのか、しってたみたいでした」

「……そっかぁ」

 

 

…何となく分かっていた。

『あの子』なら、そうする。

 

イエイヌや今まで出会ってきたフレンズ達と、距離感が違う。

 

 

 

…でも。

 

 

 

「…もらってくれたみたい。ジャパリまん」

「…ですね♪」

 

 

 

見向きもしてくれなかった、焼き目のついたジャパリまん。

それがふたつともなくなっている。

 

昨日の大きなお腹の音を思い出してしまい。

くすっと、イエイヌが笑った。

 

 

 

…耳が、音を拾う。

小屋の外…たぶん、ふたり。

 

 

 

急に表情を険しくし、背もたれ代わりにしたテーブルの先…

入ってきた、山小屋のドアに向き直るイエイヌ。

ともえも半歩、身構え。

 

 

「……きます」

「うん…っ」

 

 

 

っぎいいいぃぃぃ……

 

 

 

内から、外へ。

軋みながら開く、重みのある木製のドア。

 

 

 

「……すから、長!わたくしもたたかえますわ!!」

「気持ちだけで十分じゃ、オコジョ。それより、ほれ」

 

 

 

開いたドアの先から、流れ込む光の奔流。

昇った朝日が逆光となって、シルエットと影法師だけを小屋の中のふたりに見せつける。

 

 

 

「無事なようじゃな、お客人……あの吹雪をよくしのいだのう」

 

 

 

のんびりとした口調、しかし裏腹に威厳のある立ち振る舞い。

 

 

青みのかかったグレーのロングヘアの先を、黄色い布で一つに束ね。

突き出た耳はやや丸く、アイスグリーンの瞳が人懐っこそうに笑う。

 

髪と同じ色の丈の短い着物風の衣装に、落ち着きのある青の帯を黄色い飾り紐でくくり。

水玉のような縞模様の入った袖や裾、アクセントのようにフリルがのぞく。

 

白いタイツと短い丈をカバーする淡い藍色のミニスカートが素足を隠し。

スカートの下から伸びる長く太い尾にもまた、水玉めいた縞模様。

 

首元に巻いた白いケープはもこもことして。

防寒性だけでなく、見た目にやわらかな印象を与えるのに一役買っている。

 

 

…可憐なようで。

見た目にそぐわない圧力に似た存在感に、ともえがすこしたじろぐ。

 

 

 

「…まあ。ここで立ち話もなんじゃな。場所を変えぬか?」

 

 

 

気さくにそう提案し、差し出された手のひら。

 

 

 

………じゃらり。

 

 

 

その手首の枷から伸びる鎖が、重々しい音を立てた

 

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