けものフレンズR Returning a favor 作:社畜狂戦士
「…しゃべれないフレンズちゃん、、なのかなぁ……?」
自分達の分のじゃぱりまんを食べ終えて、ともえがつぶやく。
視線の先には、やはり『あの子』。
…お腹が減ってるはずなのに。
ジャパリまんに手をつけてくれないのが、やっぱり気になるし。
目を引く、両手のあの枷。
あれは、なんなのだろう。
…なんで、あんなものが付いているのだろう。
…真正面から怖い目にあっても、好奇心は薄れないらしい。
そこはとても、ともえらしいのだが。
(…ちょっと、はんせいして欲しい気もしますー…)
…危機感的な意味で心配の種が増えたイエイヌ。
「…ふつうのフレンズ、じゃないと思います」
言葉を選んで。
首元のネックウォーマーに、きゅっと手を当てて。
「たまに…『ああいう子』がいるって、長がいってました」
「…ああいう子?」
問い返すともえ。
小さく…ためらいながら頷く。
「フレンズみたいに見えても、動物にちかい……
…そんな子が、生まれてくるみたいなんです」
なんでそうなるかはわからないですけど、
そう続けて。
「長なら……なにか、知ってるかもしれないですね」
「………おはなし、できないのかなぁ…」
おはなし、してみたいなぁ…
ぽつり、こぼれるつぶやき。
「…えいっ」
「うにゃっ」
…イエイヌは、そんなともえを抱き寄せて。
ひざ枕する形で横にさせる。
「…寝てください、ともえさん。つかれてるんですから」
「……でも」
「だいじょうぶです」
くしゃっ、と。
上げようとする頭を優しく撫でながら。
何を言いたいのか汲み取って、柔らかく即答する。
「まき?を入れるだけなら、わたしでもできます」
「………」
火は……やっぱりこわいですけど、
困ったように笑うイエイヌ。
いたわってくれる、ありがたさ。
横になったとたんに押し寄せた、自覚していた以上の疲労にともえは反論を見失う。
…たき火と体温のぬくもり、毛布の肌触りがさらなる眠気を誘い。
…まぶたが、、、重い………
「…ごめんね……おや、す……」
言い終わる前に遠のいた意識。
すぐに寝息をたて始めたともえを、丁寧に毛布でくるみながら。
「……おやすみなさい、ともえさん」
若葉色の髪を、もう一度優しく撫で。
イエイヌはゆっくりと顔を上げた。
…背中を預けた、横倒しのテーブル。
肩口に引っ掛ける形で、毛布で身を包み。
ひざの上には、ともえ。
自由に動くのは、毛布から出た右手だけ。
手元に集めておいた、薪のひとつを手に取って。
慎重に、慎重に。
重さを、確かめる。
赤く、赤く。
光と熱を散らして、炎が揺れる。
燃え行く薪。
焼け崩れる炭。
燃え尽きた灰。
弾けた火の粉の音が、イエイヌの恐怖心を煽る。
…慎重に、慎重に、慎重に。
手を伸ばす距離を、、、
……からん、
投げ込まれた薪。
揺れた影。
波打つように。
長く太い、縞模様が視界の端を滑る。
……目が、あった。
新たな薪に絡み付く、炎の先。
金の瞳と半月の瞳孔が、面倒くさそうに。
けれど。
先程とは打って変わった、見守るような柔らかな眼光。
…眼力は変わらず、刺さるようだけど。
後押しするような視線に、イエイヌはためらいながらさらに手を伸ばして。
……からん。
たき火へ転がって行く薪。
「……できた…」
思わずこぼれた言葉。
拍子抜けするほど、あっさりと。
…小さな充実感をともなって。
気まぐれな金色が、笑う。
…笑うように細くなり。
くあ、と。
大きなあくびをひとつ残して。
まぶたの下に隠れてしまった。
「………」
…見届けて、もらった。
見守って、くれた。
長から聞いていた話とのギャップ。
動物に近い、のかもしれないけれど。
「ふつうの……フレンズ、みたいですねぇ」
それが、そのことが。
ただただ、嬉しかった。
…やっぱり、ちょっと怖い気持ちも残っているけど。
それでも。
ともえが気にかけていたように。
「…どんな子、なんでしょうか…」
…そして、なぜ。
そんな風になってしまったのか。
考えても出ない答え。
少なすぎる、情報。
知っていることを思い出そうとしていくうちに。
…いつしかイエイヌも、眠りへと落ちて行った……
――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ―――
静かに、静かに。
日は登り、闇を追い払う。
去っていった吹雪の向こう、顔を出した太陽が真っ白に笑う。
揺らめく朝もやはゆるやかに風に流され。
静寂に沈んだ山小屋にも、光が差し始めた。
「……ん…、………こほっ」
山小屋の中にも訪れた朝日の輝き。
軽いのどの痛みに、ともえがうっすらと目を開く。
「ともえさん、おはようございますー」
最初に視界に入った、イエイヌの笑顔。
…よく知った顔。
旅を始めてから毎朝、この笑顔と一緒に一日が始まる。
冷え切った空気に遠ざかっていく眠気。
「…おはよ、イエイヌちゃん」
挨拶を返しながら、ゆっくりと身を起こす。
乾いた空気にのどに広がる違和感。
また、軽いせきが出て。
「……ひどい声」
「のど、がらがらですねぇ」
ふたりで、困ったように笑った。
毛布で身を包んだまま、もう一度視線を巡らせる。
木組みの隙間から差し込んだ光で明るくなった山小屋は、昨夜よりマシではあっても…毛布を手放したくないくらいには寒い。
囲炉裏の火は燃え尽き、くすぶる煙ももはやなく。
燃える炭の存在を隠した灰の下から伝わってくる、ぼんやりとした熱。
…たき火を起こせなかったら、今頃どうなってたんだろう。
昨夜の騒ぎを思い返し。
助けてくれた恩人の事を、ようやく思い出した。
「……『あの子』は?」
…囲炉裏の先。
『あの子』が陣取っていた場所には、もう誰もいない。
最初から、誰もいなかったかのように。
「……行っちゃいました」
静かに、残念そうに。
自分も立ち上がりながら、イエイヌは告げる。
「おひさまが出てくるまえに……まるで吹雪がいつやむのか、しってたみたいでした」
「……そっかぁ」
…何となく分かっていた。
『あの子』なら、そうする。
イエイヌや今まで出会ってきたフレンズ達と、距離感が違う。
…でも。
「…もらってくれたみたい。ジャパリまん」
「…ですね♪」
見向きもしてくれなかった、焼き目のついたジャパリまん。
それがふたつともなくなっている。
昨日の大きなお腹の音を思い出してしまい。
くすっと、イエイヌが笑った。
…耳が、音を拾う。
小屋の外…たぶん、ふたり。
急に表情を険しくし、背もたれ代わりにしたテーブルの先…
入ってきた、山小屋のドアに向き直るイエイヌ。
ともえも半歩、身構え。
「……きます」
「うん…っ」
っぎいいいぃぃぃ……
内から、外へ。
軋みながら開く、重みのある木製のドア。
「……すから、長!わたくしもたたかえますわ!!」
「気持ちだけで十分じゃ、オコジョ。それより、ほれ」
開いたドアの先から、流れ込む光の奔流。
昇った朝日が逆光となって、シルエットと影法師だけを小屋の中のふたりに見せつける。
「無事なようじゃな、お客人……あの吹雪をよくしのいだのう」
のんびりとした口調、しかし裏腹に威厳のある立ち振る舞い。
青みのかかったグレーのロングヘアの先を、黄色い布で一つに束ね。
突き出た耳はやや丸く、アイスグリーンの瞳が人懐っこそうに笑う。
髪と同じ色の丈の短い着物風の衣装に、落ち着きのある青の帯を黄色い飾り紐でくくり。
水玉のような縞模様の入った袖や裾、アクセントのようにフリルがのぞく。
白いタイツと短い丈をカバーする淡い藍色のミニスカートが素足を隠し。
スカートの下から伸びる長く太い尾にもまた、水玉めいた縞模様。
首元に巻いた白いケープはもこもことして。
防寒性だけでなく、見た目にやわらかな印象を与えるのに一役買っている。
…可憐なようで。
見た目にそぐわない圧力に似た存在感に、ともえがすこしたじろぐ。
「…まあ。ここで立ち話もなんじゃな。場所を変えぬか?」
気さくにそう提案し、差し出された手のひら。
………じゃらり。
その手首の枷から伸びる鎖が、重々しい音を立てた