Fate/Masquerade 「偽聖杯戦争」で仮面ライダーとプリキュアが無双する 魔獣戦線特別編 作:水無月冬弥
志狼の放った渾身の突き
彼の残りの呪力を注ぎこまれた刃が、英雄王の頬をざっくりと切り裂いた。
迸る鮮血
だが、志狼は絶望に顔を歪める。
彼の放った渾身の一撃を、英雄王は首をわずかに傾けただけでかわしたのだ。
英雄王の顔に浮かんだのは愉悦
志狼は咄嗟にバックステップをするが間に合わない。
跳ね上がった黄金の靴底が志狼の胸にめり込んだ。
めきっ
肋骨の骨が軋み折れる音と激痛を感じつつ、後方に吹き飛ぶ。
「シロウよ、お前ではないか、
胸を押さえながら立ち上がる志狼を見下ろしつつ、英雄王は言葉を続けた。
「だから、慢心することはない」
志狼は霊刀を構える。
呪力も体力も尽き、胸の激痛がやむこともない。
霊刀を持つ手も震えている。
「セイバー、まだ戦えるか?」
志郎はセイバーに問い掛ける。
しかし、志狼の問いに答えるものはいなかった。
「セイバー?」
セイバーのいるはずの位置をちらりと見た志狼は絶句した。
そこには、全身に無数の剣で貫かれ絶命しているセイバーの姿があった。
銀色に輝いていた鎧は、無残に破壊され、真っ赤な血で染められていた。
その目は見開いたままであり、為す術もなく敗北したのを物語っていた。
志狼の攻撃をかわしながら、英雄王は
「マスターからの魔力供給もなく、渾身の一撃を放ち終えた状態のこやつを殺すことなど、屋台の射的の的を射るより簡単だったぞ」
絶命したセイバーの体が消えていく。
「どうした? さすがにこの状況でセイバーを失うのはつらいか」
問い掛けるギルの笑みはどこか艶めかしかった。
「他のものとは違い、闇のものと戦う力を持っているとはいえ、サーヴァントに勝てるはずもない」
英雄王の笑みがさらに深く、濃いものとなる。
「いいぞ。いいぞ、シロウ。その絶望した顔、じつにいい。その顔を見るために私は戦っているといってもいい。ああ、素敵だ。素敵だぞ、シロウ」
英雄王の顔は蕩けていた。
「さあ、敗北を認めるか? 許しをこうか? それとも……? さあ、どうする?」
英雄王の問いかけに、志狼は一旦眼を閉じ……
……再び、眼を開けた時、その顔には闘志が戻っていた。
「ほう、この状態でもまだ戦う気が……、ん?」
志狼の目は英雄王を見ていなかった。
英雄王の背後、水晶に閉じ込められていた幼馴染を見ていた。
彼、志狼は、幼馴染の彼女を救うために戦っているのだ。
そのために彼は消えかけていた闘志をかき集めたのだ。
だが、そんな志狼の態度は英雄王の不興を買うことになる。
「雑種、
魔法陣から英雄王が一振りの剣を取り出した。
いや、それは剣と呼べるのだろうか
円筒状の刃をもった黄金の柄の武器。
その銘は「乖離剣エア」
英雄王のみが所有する唯一無二、最強の武器
「私を見ないのなら……」
英雄王は怒りの表情を浮かべながら、乖離剣を振り上げる。
「死んでしま……、えっ」
乖離剣を振り下ろそうとした瞬間、宮殿内を魔力が走ったと思ったら志狼の体を包み込み……
……忽然と志狼の姿が宮殿から消え去ったのだ。
「なん……だと」
志狼のいた場所には、新たな騎士が立っていた。
セイバーではない。
紅の甲冑をまとった騎士だ。
英雄王と対峙し、ただ無言で立っている。
「今回はつくづく不測の事態が起きるとみえるな……」
英雄王は紅の騎士を見る。
「貴様、バーサーカーか」
英雄王の問いかけにも、紅の騎士は答えない。
「会話をする理性も失ったか」
サーヴァントのクラスのひとつ、
英霊の中でも、「狂気的な行動を行った伝承をもつもの」あるいは「発狂した伝承がある」ものがなるクラスであり、理性を代償にして、力を増大させるスキル「狂化」をもつ英霊であった。
「理性のない狂人風情が……」
英霊王は、乖離剣を構える。
「シロウを仕留められなかった鬱憤を晴らさせてもらうぞ」
紅の騎士は、左腕の盾を構える。
「そのような盾で
英雄王は乖離剣の邪力を解放する。
「さあ、宴をはじめるか。至高で最強の王である
英雄王が乖離剣を振り下ろした。
全力ではない。
本気をだせば、
そして、Fate/stay nightのバーサーカーであないのであれば、無尽蔵ともいえる生命力も持っていないだろう。
だから、全力ではないが、並の英霊は余裕で屠る力で振り下ろした。
対する紅の騎士はその一撃を盾で受け止めることはなかった。
なぜなら、紅の騎士は、英雄王の頭上へ一瞬で移動したのだ
「瞬間転移だと?」
乖離剣から放たれた邪力で床を破壊しながら、英雄王は頭上を見上げる。
その目が大きく見開かれる。
紅の騎士の手には英雄王と同じ乖離剣エアが握られていた。
「偽物! まさか
紅の騎士が振り下ろした乖離剣を英雄王はとっさに乖離剣で受け止める。
真の乖離剣の前に、偽の乖離剣は無力であった。
一瞬にして破壊、真の乖離剣の邪力の余波を受け、紅の騎士は天井へ吹き飛ぶ。
「そ、そうだ、
英雄王は紅の騎士を見る。
バーサーカーであることまではわかるが、真名まで読み取ることはできない。
紅の騎士は天井に激しく衝突したあと落下する。
落下しながら、紅の騎士は矢を放った。
いつの間にか、左腕の盾が弓へと変化している。
魔力を帯びた矢が英雄王を襲う。
だが、英雄王は避けなった。
黄金の鎧が創り出す邪力の障壁が、すべての矢を弾いていく。
「見事な宴会芸だな」
英雄王は余裕の笑みを浮かべ……
「だが」
乖離剣エアを振り上げる。
「
乖離剣エアの邪力が開放される。
触れたものを破壊する螺旋の邪力が紅の騎士にむかって放たれる。
紅の騎士は跳躍してかわそうとするが間に合わなかった。
下半身が螺旋の邪力に呑みこまれ、一瞬にして消滅する。
上半身のみとなった体が床に落ちてバウンドし、紅の甲冑が消滅する。
絶命したことにより、魔力が消滅したのだろう。
「……」
英雄王は空間の裂け目へと歩いて行った。
夜のためか、一般人はまだ誰も気づいていないようだった。
街路灯の下に設置された占い師の机
その机の上の水晶玉が英雄王の姿を映していた。
偽の英雄王の姿を……
英雄王は裂け目に右手をむけ、邪力を使い空間を修復する。
完全に空間が修復したのを確認すると、英雄王は紅の騎士だったモノに近づいた。
鎧は消滅したが、その上半身だけが残っていた。
カジュアルなジャケット着た短髪の男性の死体。
「消滅しないところをみると英霊ではない、ただの人間か。マスターと英霊が融合したケースか?」
死体の周りには倒された時にポケットからこぼれたのか、十数枚のカードが散らばっていた。
英雄王はその1枚を拾い上げる。
そのカードには、ギリシア数字で「XXI」と書かれており、地球のイラストが描かれている。
それはタロットカード
大アルカナ22枚のうちの1つ、「世界」のカードであった。
「なぜ、タロットを。まあ、いい。マスターであろうと英霊であろうと、これでバーサーカーは脱落……」
英雄王の口が止まる。
「これは……、バーサーカーとそのマスターとの契約が切れていないだと?」
英雄王は死体を見る。
「では、この男は何者だ?」