目が覚めた。昨日とは同じ家だけど別のベッド。新しいので昨日感じたいい匂いはしない。あれはアリスお母さんの匂いなのだろう。自分の幼い身体の中に入っている男の私を自分のベッドに寝させるなんて、本当にいい人だ。
例え少女趣味の部屋で落ち着かなくても気にしない。
しかし、天井にも人形が描かれているし、上海や蓬莱達が飛び回っている。人形が好きな人じゃないとノイローゼになりそうな部屋だ。私は今のところ大丈夫だし、
「まあ、いいか。ん~~」
身体を起こしてベッドの上で伸びをする。身体が目覚めるまで、ベッドの上で軽くぼーとする。
「クスクス、オハヨウ、クスクス」
「ひっ!?」
笑い声が聞こえてビクッとなり、恐怖に身体が震えて慌ててピンク色の布団を被る。布団の中にはマザーが居たので、抱っこしてからそ~と布団を退かす。周りを見ても何もいない。周りには上海と蓬莱が飛んでいて、窓を拭いたり掃除をしたり、私の着替えを用意したりしていた。
「上海、蓬莱っ!」
魔法の糸を伸ばして、彼女達の制御権を手に入れて部屋の中を隅々まで飛ばせる。人形を操る程度の能力で私は部屋に居た五体を使えていた。その結果、ここには星の精が居ないことがわかった。
「よかった……」
ホッとしてベッドから出ようとしたら、腰が抜けてそのまま倒れて床に頭を打った。そのタイミングで部屋の扉が開いてアリスお母さんが凄い形相で入ってきた。その後ろには完全武装の人形達が並んでいる。
「どうしたのっ!?」
「なっ、なんでもないよ」
「なんでもないことはないでしょう。私の人形の制御権が奪われたのよ? それほどのことが起こったのでしょう? 違う?」
「ち、違わないけど違うの……」
「どういうことかしら?」
問い詰められて困っていると、声をききつけて魔理沙お母さんも部屋にきた。
「朝からどうしたんだ?」
「それが、人形の制御権を奪われたのよ。それで何かあったのかって急いできたのだけれど……」
「どうにもなってないな。悪戯か?」
「ち、違うの。えっとね……」
慌ててしどろもどろに説明していく。
「笑い声か……幻聴じゃないよな?」
「……わ、わからない。怖くなって上海達の制御権を取って部屋中を探してみたけど、居なかったし……」
「なら気のせいか」
「あ~それ、この子達の笑い声だと思うわ」
「笑うのか!?」
「その、楽しいことがあったら笑うように登録していてね? 普通は発動しないのよ?」
「なんでまた、そんなのが発動したんだ……?」
「発動しないのに発動した? 怖い……」
「あ~もう、白状するわよ! 昔、マリスぐらいの時に友達が居なくて人形が友達だったのよ! 上海達にいろんな声を登録して笑ったりするようにしたのよ。その時の術式が残っていて、マリスを見て起動したんでしょう。マリスに用意しているのは練習用の奴だし」
頬を真っ赤にして両手で顔を隠しながら教えてくれた。
「なんだ、星の精じゃなかったんだ」
「術式を取り除くわ」
「いや、駄目だ。むしろ、笑うようにしてやれ」
「え?」
「ハッキリ言ってやる。笑い声を聞いただけで腰が抜けるようじゃ、次に出会ったら生き残れないぜ」
「それはそうね」
「うん……確かに……」
「だろ? だから、辛いだろうがトラウマを克服するためにこれでいいだろう。戻る時にはちゃんとした戦闘用なんだろ?」
「もちろん、私の今できる最高の子達を用意しているわ」
「だったら問題ないだろう。どうだ、できそうか?」
「が、頑張る。うん、やってやる」
「よしよし」
魔理沙お母さんに頭を撫でられた。不思議と身体が温かくなってくる。
「まあ、いいわ。それじゃあ朝ご飯にしましょう。気が抜けたら眠くなってきたし……」
「そうだな。昨日はほとんど寝てないし……」
「昨日はお楽しみでしたね……?」
「ええ、楽しかったわ」
「そうか? 私は大変だったんだが……」
「貴女はまだまだコントロールが雑なのよ」
「何をしていたの?」
「スペルカードを作ってたんだ。アリスは人形の続きだな」
「なるほど」
「話は後よ。さっさと着替えて顔を洗ってきなさい」
「はーい」
靴下と靴を履いて部屋から出て洗面所に向かう。洗面所に入ると、上海達が台を用意してくれる。それに乗ると、今度は濡れたタオルで顔を拭かれる。あっという間に顔を綺麗にされたら服を脱がされ、寝汗まで綺麗にされてから新しい服を着せられる。それは大きさ以外は上海と同じ服だった。
なんだか全て全自動で人形達がやってくれる。そのままいい匂いのするリビングに行く。リビングでは二人が食事を並べていた。レタスと昨日残った鶏肉が入ったサンドイッチだ。
「今日は飛行訓練だ。食べたら外に出るからな」
「空を飛ぶの、楽しみです」
「だろうな。私も初めて飛んだときは楽しかった」
「楽しむのはいいけれど、怪我をしないようにね」
「はい」
「よし、じゃあいっちょ行くか」
急いで食べるとアリスお母さんが呆れている。魔理沙お母さんは先に食べ終えた。
「洗い物はしておくから、先に行ってきていいわよ」
「じゃあ、準備してるから外に来いよ」
「んぐっ」
「もっとゆっくりと食べなさい」
「あいたっ」
急いで食べていたら、お母さんに怒られた。確かにせっかく作ってくれたのに味わわずに食べるのは失礼だ。楽しみは後に取って置いて、ちゃんと食べる。
「ごちそうさまでした」
「はい。お粗末様でした」
食べ終えた食器を上海達に任せて、ドアを開いて急いで外に出る。外ではすでに魔理沙お母さんが準備をしていて、手には箒と木箱を持っていた。
「よし、来たな。じゃあ、飛行訓練だ。私はこの箒で飛ぶ。マリスも箒で飛ぶのがいいかと思ったが、お前の身体と力はアリスの物だ。だったら、アリスと同じように飛ぶのがいいと思う」
確かにその通りかもしれない。私の力も身体も全てアリスになっている。そのアリスと同じ方法を取るのが効率的だろう。
「そんな訳で、こいつをアリスから預かっている」
そう言いながら、魔理沙お母さんが木箱を渡してくれたので、受け取る。
「さっそく開けていい?」
「ああ、いいぞ」
地面に座って箱を開けてみると中には布が敷き詰められていて、その上に芸術品どころか美術品と言っていいほど精巧に作られた二体の人形が置かれていた。
それぞれ青色と赤色の洋装を身に纏うブロンドのロングヘアーの小さな可愛らしい人形少女。頭と腰に青い大きなリボン、胸元に小さなリボンをしていて、腰にモンスターボールを納めるだろうベルトをしている。一緒に盾と槍、両刃でできた長方形の大剣が入っているので、彼女達の装備だろう。
「これって……」
「昨日、アリスが徹夜で作ってくれたぞ。私も色々と手伝ったぜ。流石にミニ八卦炉は無いけど、魔力はたっぷり込められている」
「それって……」
「最終手段としての自爆用と動力源に私のマスタースパークを使っている。もっとも、威力はかなり低いだろうけどな」
威力は低いと言っているけれど、マスタースパークって言ってしまえば光線の奔流、ビームだ。そんなのいくら下げたとはいえ、破壊力が半端じゃないだろう。
「まあ、そんな訳でマリスの魔力をできる限り使わないように作られている。ただ、整備と充電はしないといけない」
「整備はわかりますが、充電ですか?」
「そうだ。普段は自然にある魔力を吸収するが、戦闘をすると魔力を大量に使うからな。いくら賢者の石を搭載していても、そこまでは出来なかった」
「待って、賢者の石を搭載?」
「そうだ。魔力の貯蔵庫と自己学習装置としてアリスが取り付けた。そうじゃなきゃ、アタシの魔力を蓄えることなんてできやしないからな。こいつら一つ一つがアリスの技術の結晶だ」
この子達はまるで妖精みたいにほぼ生物と変わらない。関節の部分ですら、人工の皮膚で覆われていて何でできているかわからない。こうして眠っているように機能を停止しているから、見れば人形だとわかるけれど……動き出したら多分わからない。触って判断しないと駄目だろう。
「凄い……」
「後、こいつらにはアリスの魔法が記憶されているから、マリスの魔法をサポートしてくれる。起動してみろ」
「はい。起きて、上海、蓬莱」
魔法の糸を伸ばして二人の人形に繋げる。でも、起動しない。いや、口が微かに開いたかな。
「あー血液を一滴、口に入れてやれ。それでマスター登録が完了する。」
「え?」
「お前にコントロールを奪われたのが相当悔しかったみたいで、魔力と血液の中に入っているデータを基に個人登録をするとかなんとか言ってたな。まあ、使い魔にするってことらしいから、結局血液は与えないといけないが……」
「わかりました。使い魔契約のやり方はわかりますか?」
「全部自動でやってくれるらしいぞ。自動化とか、私にはさっぱりだ」
「そういうところはアリスお母さんの得意分野でしょうし……」
「研究の年期が違うしな」
一緒に入っていた人形の二倍はある大剣を取り、それで指に傷をつけようとすると気付いた。この大剣にも魔法が付与されているし、正体不明の金属が使われている。今は気にせずに指を傷付けて血液を二体に飲ませる。
すると、彼女達の胸の中心から七色の光が放たれて複数の魔法陣が展開されていく。
それらは私と人形達を取り囲み、立体的になっていく。まるで全身を調べられているかのように感じる。
「名前はどうするんだ?」
「リボンの色こそ違いますが、もちろん上海と蓬莱です。私はアリスですから」
「そうか」
しばらくすると、白いケープに白いエプロンを付けた青いワンピースを身に纏った上海と赤い服に白いケープに白いエプロンを付けた赤いワンピースを身に纏った蓬莱がそれぞれパチリと瞼を開く。
それぞれの青い瞳と赤い瞳が私を捕らえ、驚いたことに嬉しそうな表情に変わっていく。同時に展開されていた魔法陣が全て二人の中に戻っていき、七色の光が収まった。その直後、二人の身体が重力に逆らってふわりと浮き上がってくる。
「シャンハーイ」
「ホ、ホラーイ」
二体の人形は宙に浮かびながら、スカートを掴んで頭を下げてくる。その上、喋ってきた。
「えっと、声を……」
「返事だけらしいぞ」
「なるほど……これからよろしくお願いします」
「シャンハーイ」
「ホラーイ」
二体は少し嬉しそうに頷いた後、こちらによってくる。私の左右の肩に立つと、頬ずりしてくる。こそばゆくてついつい笑ってしまう。
二体は満足したのか、入れられていた箱に戻って武器を持ってきた。上海は盾と槍で、蓬莱が大剣みたいだ。
「戦闘はまだしないから、仕舞っていていいぞ」
「仕舞えるの?」
コクコクと頷いたと思ったら、二人の武装が光って小さくなっていく。おそらく、縮小魔法だと思う。二人はそれを胸元のリボンの下に入れる。どうなっているのかはわからないので、覗いてみるとリボンの後ろにくっついていた。
「どんな感じだ?」
「ん~大丈夫だと思います」
二体は私の肩から飛び降りて、飛び回り元気に頷く。
「それじゃあ、飛行訓練だ。上海、蓬莱、二体でマリスを飛ばしてみろ」
「シャンハーイ」
「ホラーイ」
「わっ、身体が浮いていくっ!」
身体が上に浮かび、足が地面から離れる。不安になって足をバタバタさせてしまう。それでも、落ちることはなかった。どうやら、周りにバリアが展開されているみたい。それによって重力すらも反射している浮いているのかもしれない。
「んじゃ、空を飛んで散歩しようか」
「はい。でも、大丈夫かな?」
「大丈夫だって。それよりも空に居ることに慣れたら、二人との繋がりを感じて術式を自分の物にするんだぞ。アリス曰く、今みたいに分厚いバリアを張らずに必要な部分だけ張る方が効率いいからな」
「頑張ってみます。二人共、よろしくね」
「シャンハーイ」
「ホラーイ」
といっても、やっぱり無重力飛行みたいな感じで慣れない。人は空を飛ぶためにできていない。地球の重力に引っ張られているのだ。そう、私はオールドタイプ。宇宙には適応できない。というか、妖怪って宇宙に出たらどうなるのだろうか? ガンダム世界に行ったら不安だ。
「んー空中戦は無理そうだな。人形の操作はできるか?」
「二体なら問題なく操作はできるけど、それじゃあ……」
「戦いはできないな。それに動かせるだけみたいな感じだ」
二体を好きなように動かせる訳ではない。私の意思でそれぞれを別行動させることはまだできない。自動行動以外では同じ行動を取らせることしかできない。マルチタスクとか、まだまだ無理みたいだ。それに集中して一つのことをした方が、作業効率はいいらしい。
「まあ、まずは二体を完全に操ることだな。そいつらは高性能だから、ある程度は自動化できているみたいだが、その二体以外にも動かすんだから自由自在にできるようにならないといけないぜ」
「わかってます。この子達は空を飛ぶのと護衛とかに使います」
「それがいいだろうな。まあ、今日は空を飛んだり、二体がいることに慣れるといいぞ。少なくともそうだな……空中戦をするにはこれぐらいはできないと駄目だぜ」
魔理沙お母さんが急加速して、ほぼ直角で急上昇して180度ロール。そのまま螺旋軌道で落ちてくる。それからジグザグ走行で走ったり、かなり無茶な軌道をしている
「本当にそんなレベルがいるんですかっ!?」
「要るんだよな……むしろ、これがないとすぐ被弾してジ・エンドだ。弾幕を避けるのにも必要だし、マスタースパークとか、12体の人形から放たれる弾幕の嵐。まともな軌道で回避できると思うか?」
「無理ですね……」
文字通り、人形一体から放射線状に放たれる弾幕の壁ともいえるような攻撃を逃げ道を見つけて突っ切り、こちらのショット、弾幕を与えないといけない。
「特に人間の私が妖怪を相手にするには、何時もとは言わないが結構命懸けだぜ。まあ、マリスならそこまでやばいことにはなりなさそうだが……少なくとも自由自在、縦横無尽に空を超高速で飛び回って一撃必殺を叩き込む私のタイプか、アリスみたいに自分は留まって人形達による弾幕を張って相殺する砲台タイプ。どっちがいいかな?」
「い、今のところは砲台がいいです。それしか選択肢がないし……」
「とりあえず、アリスが色々と考えているみたいだから、任せる。私はその二人に空中戦の軌道を学習させる。マリスは慣れるように散歩だ。上海と蓬莱に私についてくるように言ってくれ」
「上海、蓬莱、自動でお願い」
「シャンハーイ」
「ホラーイ」
「よし、じゃあ散歩に行くぞ!」
「ちょっ、速いっ!」
急加速した魔理沙お母さんに私を挟むようにして、浮いている蓬莱と上海が同じように急加速して追っていく。軌道を教える為の散歩は私が思っている散歩じゃなかった。何度も吐きそうになる。そう、今回の空を飛ぶ訓練は私じゃなく、上海と蓬莱に教え込む方だった。残り丸二日しかないから、こんなスパルタも仕方がない。そう思おう。うぅ……気持ち悪い……
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