温かく柔らかい感触に目が覚めると、お母さん達に抱きしめられながら眠っていた。
「っ!?」
驚き、現状を理解するとドキドキしてくる。どうして、どうしてこんなことになっている! 確か、昨日は……思いだしてきた。悪夢を見て寝汗がひどくてシャワーを浴びたんだ。それから寝れないから勉強しようとしたら、お母さん達に止められて布団に入れられた。そのまま魔理沙お母さんの子守歌を聞いているとだんだんと眠ってしまった。
アリスお母さんは寝る必要もないのに私と同じように寝ている。いや、私も寝る必要はないのか。
私もお母さんも人間の時の感覚として食事して眠っている。特に私は人間を止めて
それよりも現状をどうするか、だ。私は魔理沙お母さんに抱き枕にされ、魔理沙お母さんはアリスお母さんに私越しに抱きしめられている。抜け出せない。
本当にどうしてこうなった。
無理矢理抜け出すわけにもいかないので、大人しく眠ろう。羊が……いや、こっちの方がいいか。上海が一体、蓬莱が一体……
気が付いたら寝ていたようで、お母さん達は居なくなっていた。眠気で目元を擦りながら、周りをみると上海が服を持ってきてくれる。それに着替えてから、部屋を出てリビングに入る。
そこでは魔理沙お母さんとアリスお母さんが、テーブルに置いたトランクケースに色々と入れていて、まるで旅行に出掛ける準備だ。
「なにをしているの……?」
「あら、おはよう」
「おはよう。コイツはお前の準備だ」
「私の……? そっか、今日が最後の日……」
思いだすと沈んだ気持ちになってくる。またあの部屋に行かなくちゃいけない。でも、ポケモン世界には行きたい。イエローさんと会いたいしね。
「まあ、また来週戻ってきたらいいだろ」
「ここは貴女の家よ。戻ってきたければきたらいいの」
「こんなことを言っているが、心配しているんだぞ。こんなのを用意してやがるからな」
そう言ってテーブルの上にあるトランクケースを軽く持ち上げる。それは薄い色の革が張りつけられて整えられていた。これは何だろう?
「このトランクケースは人形達のベッドにもなっているから、絶対に持ち歩きなさい」
「それだけじゃないぞ。内部は空間を拡張してあるし、縮小する魔法を入れる物にかけられるようにしてある。だから、この中にはテントも入っているぜ。それに軽量化の魔法がかかっているから、マリスのような非力ちゃんでも持てる。後、無駄に頑丈だな」
「人形達の家を軟に作るはずないもの」
確かにそうだよね。ここは蓬莱と上海達の家になるわけだし、アリスお母さんが軟に作るはずがない。
「ちなみにこいつ、いざとなれば盾になれるぞ」
「そうよ。家より中身が大切だから、盾として使いなさい。それと人形達よりも自分の身を優先しなさいよ。その、怒らないから……」
「あ、ありがとうございます……」
「着替えとかも入れておいたから、好きに着ろよ。私として三角帽子がお勧めだ」
「帽子……」
「まあ、ただの帽子だ。さて、こいつは容量が大きいから持ってきた挿物があれば持っていくといいぜ。っと、使い方を教えないとな」
「そうね。ここにダイヤルがあるから、そのダイヤルを合わせて開けばその空間に繋がるわ。スキマ妖怪にも協力させたから、結構使えるはずよ」
アイテムボックスみたいな奴か。人形達の家も兼ねてるけど、十分だと思う。
「ダイヤルの一つに人形を作る道具や宿題がてら、私が書いた人形を作るための手引書を用意したわ。これでしっかりと勉強しなさい」
「はい、ありがとうございます」
これは非常にありがたい。私が旅する上でも必要な物だし、それに人形の技術が磨ける。
「弟子の為に書き上げた奴だから、覚えたら燃やしなさいよ」
「もったいない……」
「駄目だからな。流出させるのは魔女としてありえないからな」
「あなたは特別だからあげたの。癪だけど、私でもあるのだから許せるだけ。勘違いしないように」
「はっ、はい」
「まあ、こんなことを言ってるけど心配しているのは事実だからな。ツンデレって奴だ」
「誰がツンデレよ!」
「こんなのを用意する奴だ」
そう言いながら、数枚の金属製カードを見せてくる。その全て私が見たことのあるものではない。ただ、書かれている文字には見覚えがある。
「スペルカード?」
「ああ、そうだ。こいつはアリスのスペルカードだ。特別制だから、魔力を通せばアリスの弾幕を展開できる。入ってるのはなんだっけ?」
「操符・乙女文楽よ」
確か、大玉をアリスと自機の間に配置した後、そこから人形を生み出してレーザーや弾幕をまき散らす技だった気がする。文楽が操り人形による浄瑠璃芝居を指す言葉なので、これは複数人用の操る人形を一人で扱う少女による人形劇ということだ。
弾幕ごっこ初心者のアリスにプレゼントされるスペルカードとしてはとってもあっている。人形劇の練習もしないと。
「言っておくけれど、あげるスペルカードはこれと蓬莱と上海だけよ。本来は人形も弾幕も自分で用意するものなんだから」
乙女文楽以外にも咒詛・蓬莱人形と咒符・上海人形。これは上海と蓬莱用のカードかな。
「はい。わかってます。他のカードは?」
「こいつはスペルカードを登録するための奴だな。まあ、今は要らないだろう。持っておくだけもっておけ」
「後、上海と蓬莱のカードには弾幕の設定は入っていないから、今は呼び出すだけよ。乙女文楽の方はちゃんと入れてあるわ。それとBGMというのはわからなかったから入っていないわ」
どうやら、ゲームが発展していないようだから、BGMとかがわからないのは納得できる。しかし、こうなると困った。そもそも東方に録音機とかないしな。河童が作れるかもしれないぐらいだろう。それか外の世界から持ってくるか、異世界から持ってくるしかない。
これはもう音楽系のアリスを取るのも検討する必要がある。私に音楽系の才能は無い。けれど、他のアリスには才能があるだろう。それに音楽系の技能は人形劇にも活かせるから無駄にならないし、いろんな世界でお金を稼ぐ技能に使えると思う。とっておいて損はないな。まあ、それも死ななくなったらだ。
それにしても、スキルポイントとアリスポイントは比較的、簡単に貰えたが……全部は難しいか。
「マリスのオリジナル人形か。ちょっと期待だな」
「それは少し考えていることがあるので、お任せください」
「どんなの?」
「まだ秘密です。できるかどうかわからないですから」
「わかったわ。楽しみに待ってるとしましょう」
「だな。あっ、それとコレは私が作った弁当だ」
「こっちのは私のよ」
二人がそれぞれバスケットを渡してくれる。中を見れば魔理沙お母さんのはキノコのソテーで、アリスお母さんのはサンドイッチだった。
「二つ?」
「私、キノコは使わないから」
「美味しいのになぁ~」
「いやよ。得体が知れないのが多いもの。マリスも旅をするのならキノコには気をつけなさい。死ぬわよ」
「大丈夫です。キノコを食べるぐらいなら、食べませんから」
「ひでぇな」
「死なないし……」
「食べなくても死なないなら、それも手だな」
他愛無い話しをしながら、トランクケースを受け取る。かなり軽量化されていて、全然重たくない。キャスターとかはついていないので常に手で持つのは面倒だけどそれでも充分だ。だって、これってアイテムボックスとかと同じだし、私の為に二人が用意してくれたと思うと感無量だ。
「だが、あえて言おう! キノコにはロマンがあると! 魔法薬としても有効なんだぞ! 例えばキノコ汁を飲むだけで魔力が回復したり、とっても便利だぜ!」
「でも、見分けがつきにくいじゃない。ましてや異世界に行くんだっら、常識も何もかも違うでしょう。いい? 絶対にキノコは食べちゃ駄目よ」
「なんだとっ!」
「なによっ!」
この二人、キノコでは喧嘩するみたい。今でこそ仲がいいが、最初はかなり悪かったから仕方ないね。魔理沙お母さんはキノコが大好きだし。それに魔理沙お母さんは……うん、ある悪癖があるからね。
「っと、喧嘩している暇はないな。もう時間はあまりないんだろ?」
「そうね。八雲紫に聞いた話じゃ、もうまもなくここからマリスは消えるわ」
「時間、わかっているんですね」
「レミリアに聞いたんだろうよ」
「レミリア、レミリア・スカーレット。吸血鬼で運命を操る程度の能力でしたね」
「そうだ。やっぱその辺も知っているんだな」
「観測していましたから」
「やれやれ、嫌な話だな」
「そうね。ああ、そうそう、八雲紫から伝言。モンスターボールはまだ時間がかかるそうよ。河童達でも時間がかかるみたいね」
「いや、そんなすぐには無理でしょう。まったく別の技術体系ですよ」
「アイツらならあるいは……」
まあ、しばらくはお任せということにしよう。向こうの世界で色々とやることがある。土地も欲しいし、あっ、忘れるところだった。
「八雲紫、もしくは八雲藍。どちらかが見ていますよね? すいませんが、金塊かダイヤ、なにかお金になる物をください」
「あーお金か」
「はい。土地を買ってポケモン達をそこで一時的に保管します。このトランクケースの中だと窮屈でしょうし、纏めて移動するとなると疑われます」
「なるほどね。でも、子供が金塊とか持っていたらもっと怪しいわよ」
「ええ、ですから原石が望ましいですね」
そう言うと、目の前にスキマが開いて金の鉱石が二個、落ちてきた。それを慌てて掴むと、重くてそのまま転けてテーブルに頭を打ってしまう。
「う~」
「大丈夫か?」
「大丈夫?」
「だ、大丈夫です」
「そのぐらいで死にはしないわよ」
背後から肩を掴まれて起こされる。頭の後ろに柔らかい塊が当たって、顔をあげて上を見ると背後に八雲紫が居た。彼女に抱きしめられていて、慌てて離れようとするも抜け出せない。
「無駄遣いは許さないから、そのことをしっかりと肝に銘じておくのよ。これは土地を購入する代金。管理は任せるけれど、あくまでも貸すだけ」
「わ、わかりました……」
「そこまでする必要があるのか?」
「ええ。ポケモンバトルは弾幕ごっこの難点をある程度緩和してくれるでしょ? なにせ妖力も霊力も魔力も関係なく、万民に扱えるのですから」
「確かにそうね。弾幕ごっこといっても、人間とそれ以外じゃ、かなりの差があるわ」
「そう。そこで重要なことは弾幕ごっこで決めて、些細なことはポケモンバトルといった感じにしようかと思います。もっとも、実験段階なのでどうなるかはわかりませんが……ああ、ちゃんとポケモン達の意思も確認しますわ。幻想郷に害が無い限りは何者でも受け入れますけど、来たくない者まで受け入れる必要はありませんから」
「何を考えてやがる」
「あらあら、正直に言ってますが……?」
扇子で口元を隠して怪しく笑う八雲紫。胡散臭さが溢れでている。お母さん達はジト目だ。ひょっとしたら、ご褒美?
「あいたっ!」
「変なことを考えたでしょう」
「ナンノコトカナー」
そんなわけないか。扇子で殴られた頭を押さえながら立ち上がって、トランクケースは持ち手のダイヤルで操作する。開いたトランクケースに金の鉱石を入れて、色々と開いてみる。
「とりあえず、向こうに行ったらポケモンと土地の確保ですね。人とかも雇うことになりますが、いいですよね? あと、一週間しか居れないと思いますので、優先はポケモンを捕まえることにしますが、いいですか?」
「ええ、構わないわよ。むしろ、時間をかけて精査なさい」
「はい。お母さん達からは何か有りますか?」
「私からはしっかりと勉強をしておくように。戻ってきたらテストをするからね」
「もちろんです」
「私から別にないかな。元気に戻ってこればそれでいい。といっても、まだ今日の日付がかわるまでは居るんだろ?」
「はい。このトランクケースの中身とか教えてもらわないと駄目ですし」
「いえ、それなのだけれど、今すぐ戻りなさい」
「「「え?」」」
三人で不思議がって八雲紫を見る。彼女は相変わらず扇子で口元を隠して微笑んでいるだけだ。
「理由は?」
「まず一つ目として、あくまでも一週間というのは連続滞在時間というだけなの。それにアリスポイントを入手したのだから、変化が起きるはずよ」
「ふむふむ」
「二つ目。
「帰ります! 違う、今すぐ行ってきます!」
「はやっ!」
「まったく……」
「だって、あの言い方だと多分、レミリアさんの能力のお蔭だろうし……」
「正解。そして、これも教えてあげる。まず、あちらの世界に着いたら――」
しっかりと教えてもらったことをメモしておく。とんでもない情報を頂いた。私に幸運が訪れる方角とのことだし。
「まあ、気をつけていってきなさい」
「元気でな。また戻って来いよ」
「はい。ありがとうございました。また来ます」
家の外で黄衣の外套を身に纏い、トランクケースを片手に持って挨拶を交わす。抱きしめ合ったりはせずに簡単に話すだけだ。それだけして、空いている手に呼び出した
すぐに視界が入れ替わり、私はベッドで寝ていた。目覚めたらすぐに腰からモンスターボールを取ってマザー達をだし、近くにあるトランクケースから上海と蓬莱を取り出す。全員に警戒させながら、回収する物を回収してから時計を確認する。
時計の短針は4の部分なのでまだ大丈夫。世界の扉を確認すると、ポケットモンスターの世界はまだ一日ちょっと封鎖されている。東方世界も七日間の封鎖が発生していた。どちらも扉に数字が現れていたのでわかりやすい。ここで一日は潰さないと駄目なので、書斎に籠る。あそこなら、アリスの情報があるかもしれないからだ。
私が知らないアリスの情報は入ってきたけれど、真新しい物は無かった。なので勉強して過ごすことにする。
トランクケースからアリスお母さんがくれた魔導書を取り出して、目次を見る。この魔導書はアリスお母さんが上海達を使って書いた魔導書で全部で八冊もある。まずは人形ではなく、簡単な魔法使いとしての魔法を覚えようと思う。
目次を見ると探し物を見つける魔法があった。比較的簡単な魔法だけれど、これからやることを考えるととても便利なのでしっかりと覚える。物を探す魔法と人探しの魔法。この二つを重点的に覚えた。これでキーアイテムを手に入れられるからだ。ポケモンに有効かどうかはわからないけれど、これらは便利だ。特に物探し。人探しも大事だけど、まずはダンベルとタツベイを手に入れて、次に物を探す。赤い糸とかわらずの石。この二つを手に入れないと駄目だしね。
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