クオン
ご主人様に言われてシルバースピアを持って、ジュカと一緒にボスを目指す。木々の隙間を縫うように進んでいると、左右から襲ってくる。それを速度をできるだけ落とさずに槍をしならせるように振るって切断する。反動で身体を回転させて、近くの木を蹴って速度を戻す。もう一体はジュカが腕から伸ばした黒い爪で切断してくれたから大丈夫。
私の背後には亜人や獣人の人達が続いてくる。あの市場で一緒に居た人達がほとんどで、私のことを恨んでいる人もいると思う。でも、今の私達にはやらなければいけないことがある。私達は協力して皆の為に波を終わらせて世界を救う。それが何よりも最優先されることだから、恨みつらみはおいておくことにしている。
「見つけた」
臭いを嗅ぎながら走っていると、ここを抜けた先にいるボスをみつけた。相手は獅子の頭と山羊の頭、竜の頭を持ち、尻尾に双頭の蛇をつけている。
「援護する」
「お願い」
「「「神よ、我等が願いを叶えたまえ。ツヴァイト・パワー」」」
ツヴァイト・パワーの次はスピードもかけてもらう。これで更に加速して突撃する。でも、前からの攻撃には対応されてしまう。だから、槍を地面にさして反動で上に飛びながら、相手の上を取る。腰に留めたベルトからナイフを取り出して投擲して、蛇の頭を串刺しにする。そのまま背中に降りる時に首の付け根に槍を突き刺す。
「GURAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
竜の頭がこちらに向いてくる。ブレスが放たれるので、即座に槍を手放して逃げる。ジュカが黒い球体を口に叩き込んで爆発させる。飛び降りていたおかげで、爆風で転がって軽い切り傷だけですんだ。起き上がって口元を拭うと、少し血がでている。でも、この程度は気にしない。残りは獅子の頭と蛇だけ。
「そこまでですわ! 亜人共は下がっていなさい! 勇者様が──」
後ろを見ると、女や他の連中がやってきていた。でも、関係ない。突撃していく。
「ん、ちょうだい」
「どうぞ」
魔法を付与されて投擲された無数の槍が相手を串刺しにしていく。彼等の背中にはいっぱいの槍がある。獅子が前足で弾く。その内の一本を取って突撃する。振るわれる前足に身体を滑り込ませて槍の反対側を地面について固定して振るわれた腕に合わせる。相手の力も合わさって串刺しになった。
「何をしていますの! さっさと攻撃してくださいませ!」
「だが、あの子が接近していて、手を出せない」
「だな。これはマナー違反だ」
「先に取られましたしね」
仲間から支援魔法をもらい、抜け出して下がる。今度は蛇から毒のブレスが吐かれた。
「もう良いか?」
「ん、ここまで。やっちゃって」
「心得た。うおぉおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉっ!」
仲間の一部が服を吹き飛ばしながら巨大化する。熊の獣人の人が持つのは巨大な槍。それから、皆で囲んで串刺しにしていく。そうしていると、後ろから火の魔法が飛んできた。ジュカが黒い玉で迎撃して爆発する。
「何をするんですか!」
「ふん。私はアイツに攻撃しただけですわ。亜人共が邪魔をするのが……ぎゃああぁああああああああああああぁぁぁぁっ!」
視線をやると、女の顔の半分が黒くなって変な文様が浮かんでいる。更に腕や足まで黒くなって動かなくなったみたいで倒れこんだ。
「じゅぺぺ」
ジュカが楽しそうに笑っている。怖い。多分、呪いをかけてから祟り目をしたのだと思う。
「何をしている。無視してこいつを倒すぞ」
「ん、了解」
皆で囲んで確実に串刺しにする。事前の準備で毒のブレスを吐く事もわかっていたから、それの対策もしてある。
「お前、女の子の顔になんてことしやがる!」
「じゅぺ」
手足や尻尾を槍で串刺しにして地面に固定し、頭も動かないようにする。それから、私は串刺しにする。
「じゅぺ」
ジュカがご苦労様といった感じで鳴いてから私の上に乗ってくる。槍の勇者様は私達に槍を向けてくる。
「攻撃されたから反撃しただけ。この子は私の護衛。仕事を果たしただけで何も悪くない。むしろ、なんでソイツがまだ生きてるのかわからないって、言ってる」
「言葉がわかるのか?」
「なんとなく」
そんな話をしていると、そらが真っ赤に染まった。不思議に思うと、町の中に火の魔法が放たれていっている。
「私は行く。それを持ってきて」
「わかった。気をつけろ」
「ん」
すぐに町の方に走りだす。ご主人様達の無事を信じて。
上から映像を録画していると、騎士団の人達が味方ごと村を攻撃している。すでにモンスターが討伐し終わっていて、攻撃する必要もないのに執拗に攻撃している。
「ああ、なんて愚かなのでしょうか。シロもそう思いますよね? フィトリアさんはどう思いますか?」
「……気付いていたの……?」
声をかけると後ろから滲み出るように霧と馬車が現れ、そこから出てくるのは先程帰ったと思ったフィロリアルの女王、フィトリア。銀色の髪の毛を持つショートヘアの小さな女の子。まあ、私よりは大きいけどね!
「貴女は私や四聖勇者の監視をする。この場で姿を消しても、どこかで見ていると思っていましたよ」
「そう。それで貴女はどうするつもりなの?」
「波に参加しますよ。沢山。だから、貴女には場所を案内して欲しいです」
「……わかった。他の勇者達はどうするの? 勇者は仲良くしないといけないのに……」
「はい、その通りです。ですから、その勇者の一人を味方に引き込むためにお願いがあります」
「何? 勇者達が仲良くするのなら、少しは聞いてあげる」
「フィロリアルのアリア種が欲しいです。できれば卵。まあ、あなた自身でもいいですが……」
「なっ、何をさせる気?」
「槍の勇者がフィロリアルの人間形態が好きなんですよね。ですから、こちらの陣営に率いれるためにアリア種が欲しいんですよ」
「な、なるほど……」
「だから、こんなふうにして抱き着いて上目遣いでお願いしたらいちころです」
「きゃっ!? な、なにするっ」
抱き着いてスリスリし、頭を撫でていく。
「や、やめてっ」
「これも世界の為ですよ?」
「絶対に嘘! これは貴女がしたいだけ!」
「正解です。私はフィトリアが好きですから」
「うっ、うぅぅ~~」
「で、どうですか? 用意できますか? できれば金髪で青い瞳、白い翼がいいのですが……」
「……ある。でも、本当に大事にしてくれるか、わからないと渡せない」
「わかりました。その辺は調整しましょう」
「お願い。勇者の仲違いは最悪の結果を生む」
「弓の勇者だけ再召喚というのは……」
「できない。やるなら四つ全部」
「なるほど……やっかいですね」
フィトリアの協力は取り付けられた。彼を説得するには……まず、やらかしてもらう。必要な犠牲ということで可哀想ですが、犠牲になった方は諦める。クーデターに参加したはずだから、その後の状態を確認してから彼を連れていって、自分がやったことを直視させる。影の人達も協力してもらって……映像を記憶させていけばいい。それが無理なら……心を壊してしまおう。おそらく勇者は奴隷紋が効かないのかもしれない。でも、それはあくまでもこちらの世界の理。異世界の理を利用して、クトゥルフ神話の魔術で心を壊して作り変える。こんなこと、したくないけど一人の命と数百を超える命ではどちらが重いかなどわかりきっている。私が対象だったら抵抗するけど、私と私の大切な人達の命がかかっているのだから、赤の他人、嫌いな奴の命で助かるのなら、躊躇も後悔もするけれど構わない。
「邪悪な気配がする」
「うん。強制的に四聖勇者を仲良くさせようと思ってるだけですよ」
「そう、それならいいか。世界の為になら、個より全を優先するのが当然」
「ですよね。っと、それじゃあ私は鎮火しにいってきます」
「行ってらっしゃい。貴方にも監視の為にフィロリアルを一体、渡すわ」
「私、ドラゴンも育てますよ? 竜帝の知識が欲しいですし」
「……ドラゴンは駄目」
「あれ、世界の為なら個よりも全を優先するんですよね? 世界の為にこの世界の全戦力を集めるのは当然じゃないですか」
「…………わかった…………嫌だけど、本当に嫌だけど我慢する…………」
「よろしくお願いいたします。ルクスっ!」
呼ぶとこちらにやってくる。私はルクスに飛び乗って町の上空まで移動し、水の弾幕を展開して爆発させる。それによって雨のようになって火が鎮火していく。尚文おにーさんも無事で、ラフタリアさんと一緒に騎士の人達と睨み合っている。一触即発の感じだ。そこに私が思いっきり水をぶっかけたことになる。どうしようか考えながら、ふとフィトリアの方に視線をやると、そこでシロと何かを話していた。
「アリス、降りてこい!」
降りてこいと言われたから、浮遊魔法で光の魔弾を展開して降りてくる。背後に虹を背負って。太陽の光と合わさって後光がさしていることでしょう。
「さて、兵士の皆さん。貴方達の愚かな蛮行は全て録画してあります。これを世界中に公開させていただきます。おめでとうございます。皆さんも世界の敵になりました。これからまともな人生が送れるとは思わないことです」
「そんなっ」
「俺達は悪くない!」
「そうだそうだ! 盾の悪魔を攻撃して何が悪い!」
「三勇教ではそうでしょうね。ですが、この国の外は四聖教です。たかだか、マイナーの国の宗教に神が殺されかけたとなると、この国の運命は決まりでしょう。おめでとうございます。貴方達はこの国の終わりの引き金を引きました」
「やめてやれ」
泣き崩れた人達や顔を青くしている人達。怒り心頭な人達。そんな彼等を見ていい気味だと思う。だって、味方のはずの私の仲間達を攻撃したんだ。私だって、まさか終わってるのに攻撃するなんて思わなかった。
「それで、尚文おにーさんの用はなんですか?」
「この町の再建をさせるから、ゴーレムを貸してくれ」
「わかりました。それでこの人達をどうするかですね」
録画した映像はしっかりと保存と複製をしておきます。むしろ、これは勇者さん達の説得に使えますからね。
「ふえ、あんまり酷いことは……」
「わかっている。とりあえず、コイツラはこのまま復興支援を手伝わせる。壊した物を直すのは当たり前だよな?」
「もちろん、サボりは許しません」
「ききき、貴様等、こんなことをしてただで済むと……」
「済むと思っていますが」
「だな」
「ふえええ、来るところ間違えたかもしれません……」
こんな話をしていると、クオンが走ってやってきた。彼女は私に抱き着いて無事を確認すると嬉しそうに尻尾をふっている。顔は無表情だけど、可愛い。こちらも身体をペタペタと触って怪我がないことをしっかりと確認する。その間にクオンの頭にいたジュカが私の頭に移る。
「これは何事だ?」
「兵士の人が捕まっていますね」
「反乱ですわ!」
「あれ、ビッチ姫。随分とお似合いになりましたね」
「そうだな。良い顔になったじゃねえか」
「このっ! そこの気持ち悪い人形がしたんでしょ! 責任取って死刑よ!」
どうやら呪いみたい……まて、コイツ今、ナンテイッタ?
「ナンテイッタノカナ? カナ?」
「お、おい……」
「ひっ!?」
「気持ち悪い人形っていったのよ! アンタごと燃やして塵屑にしてやるわ!」
私の魔導書が黄色い魔導書に変わる。同時に聖印も輝き出す。
「よし、殺します。今すぐ殺します。皮を剥いで中身を入れ替えて人形の素晴らしさを教えてあげましょう。いえ、ソノマエニ、イカニニンギョウガスバラシイカ、オシエテサシアゲマショウ」
「待て待てまてぇぇぇぇっ!」
私は黄色い魔導書、黄衣の王を開き内容を歌っていく。自動で世界が劇場に書き換わり、人形が現れる。演奏も始まり、今上映が始まった。
「邪悪な気配!」
「ちっ」
思いっきり蹴られて、その場を下がる。相手は6メートルはある大きな鳥。飛び退りながら、歌は続ける。
「この歌詞を聞いては駄目」
結界を張られたけれど、壊れるのは時間の問題。
「ぐっ、頭が痛いっ! なんだこれはっ!」
「あっ、ああぁあああっ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁっ!」
「樹、どうした! しっかりしろ!」
「元康、お前はなんともないのか?」
「ただの歌がどうしたんだ?」
「理解できていないのが幸せ。それよりも馬車に乗って。ここから逃げる。このままじゃ全滅する」
「あ、あの、アリスちゃんはどうしたんでしょう?」
「あの糞女が特大の地雷を踏み抜きやがっただけだ! これは歌詞を理解したら狂って死ぬような呪歌だ! おい、何か知ってるなら教えろ! どうすればいい!」
「あの本が原因で暴走してる! カースシリーズ!」
さあ、もうすぐ第一幕が終わる。第二幕にまいりましょう──
「駄目」
「シャァァァァッ!」
クオンが抱き着いてきて、そのままシロに飲み込まれた。
「それ、駄目。ご主人様がご主人様じゃなくなっちゃう。それは私達は望んでない。それにジュカは気持ち悪い人形じゃない。可愛くて頼りになる子。このまま全部を壊すと、認めた事になるよ? いいの?」
「駄目ッ!」
「ね?」
「でも、でも、詠いたい。詠って滅茶苦茶にしてやりたい!」
「シャァァァァッ」
シロの声で身体から黒い物が消えていく。それにシロの身体の中も大きくなっていっていっている。まるで誰かに干渉されているみたいに。
「私の力、分けた」
気がつくと目の前にフィトリアがいて、私の魔導書に触れてきた。すると黄衣の王が普通の
「封印した。これでしばらくは大丈夫なはず。気を付けた方が良い。この邪悪な魔導書達からかなり浸食を受けている。それに碌に寝ていない。人間らしい行動をしないと、心が浸食されていくのは当然のこと。気を付けて」
「ありがとう」
「世界を守ってくれるのなら、それでいい」
「……ん……」
だんだんと意識が途切れて、そのまま倒れてクオンに抱きしめられてしっかりと眠ることに‥‥なった‥‥。
「私、気持ち悪い‥‥?」
「そんなこと、ない。マスターが、そう言ってる」
「ご主人様以外の有象無象など気にする必要はないです」
「……それもそう……」
誰かの話し声が聞こえたきがした。
クトゥルフ神話の魔導書は読むだけで狂うのが大半です。アリスちゃんはその知識を全部もっています。つまり、それだけ発狂し、影響を受けているということで、廃人になってもおかしくはありません。
でも、アリスになっているので廃人にはなりません。アリスは人形をばかにしたら激怒します。沸点が低かったのは相手がビッチだからです。他の人なら精々無視されるぐらい?
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