どうしてこうなった! 我が愛しの娘であるマルティの身体中に浸食していくおぞましい黒い紋様。呪いによって冒された我が娘は教会に運び込まれ、浄化されて一命を取り留めた。浸食を放置すると今日中に死に至ったそうだ。命は助かったが、娘の顔から太股に至るまで、呪いの跡が残り、とても可哀想な姿となってしまった。
「お父様っ、あの憎き小娘を血祭りにあげてください!」
マルティが包帯が巻かれた顔を押さえながら、必死に告げてくる。顔は包帯の上からでもわかるほど、醜く変形しており、これでは嫁の貰い手もいないだろう。ましてや子宮も呪いでやられているため、子供を生むことすらできない。女の幸せを永遠に受け入れることができない身体にされてしまったのだ。
「うむ、任せよ。あの小娘は盾の悪魔と同じく、我が国の騎士団と三勇教の司祭達が滅ぼしてくれるはずだ」
「そうよ、そうね」
「それよりも、宴はどうする?」
「参加します。勇者様達にもお願いをしないといけませんもの」
「わかった。辛いだろうが、頼むぞ」
「必ずやり遂げてみせますわ」
愛しい娘の手を取って会場に向かう。現在、わしは宴を二つ開いておる。一つは、剣と槍の勇者を招いている本当の宴。ここには本来なら弓の勇者も呼ぶはずだったのだが、弓の勇者は魔女によって負傷し、治療を受けている。回復できるかどうかはわからぬが、呪いみたいな症状らしいからな、三勇教に治療させればよい。
宴が始まり、槍の勇者である元康殿と剣の勇者である練殿を招き、他にも様々な貴族が集まっている。楽しい宴をしており、ワインを片手に談笑している。
元康殿は我が娘のことを気にかけて世話をしてくれている。メルティは心配ないが、マルティはこの先が心配だ。このまま元康殿とくっついてくれればよいのだが……
練殿は壁に凭れながら、料理を楽しんでいる。その周りに女達がいるが、興味がないようだ。しかし、弓は残念だったが、これで盾とあの意味のわからんクソガキは殺せるだろう。
そう思っていると地面が揺れる。どうやら、始まったようだな。
「なんだこれは?」
「凄い揺れだな」
「なんでもありませんわ」
「いや、断続的に凄い音がしているが……」
勇者達がテラスに出て外を見る。ここから少し離れた場所に大きな穴がでてきる。砂煙が発生してよくみえない。すこし待つと砂煙が晴れて、そこに盾と魔女が健在なのが見て取れる。裁きですら、倒し切れないとは、驚きだ。だが、甘い。
わしは手で指示を出して三勇教徒の兵士達を向かわせる。我が兵士と神官達が協力すれば成長しきっていない二人の勇者など容易く倒せるだろう。
「あれは尚文とアリスちゃんか?」
「そうだな。微かに見えるが間違いない」
「あ、あの者達は攻めてきたのですわ! 私や弓の勇者様を亡き者としようとして……」
「うむ。奴等は民を扇動して反乱を起こそうとしておった。説得をしたのだが、聞いてくれぬ」
「本当なのか?」
「はい。現に私達は殺されかけたじゃありませんか!」
「そうだな。よくわかってないが、二人が大怪我をしたのは事実だ」
「確かにそれはそうだが……」
「どちらにせよ、すぐに鎮圧されるでしょう」
そう告げた瞬間。魔女が箒に乗りにながら魔導書になにかすると、無数の金属でできたゴーレムが現れ、蹂躙していく。なんだあれは……モンスターを召喚したというのか? いや、それにしては召喚で使われる魔力の消費量が明らかに少ない。それにあれだけのゴーレムを操るなど、できるはずがない。これではまるで波ではないか!
「アレは召喚魔法か?」
「だろうな。魔導書の勇者……それはつまり、魔法そのものを扱うということなのだろう」
「やばいぞ、アレ! ゴーレムの奴、騎士の人達を殴り殺してやがる!」
「っ!?」
「勇者様っ、どうかあの二人をお止めください! このままでは大変なことになります!」
「ど、どうかお願いしますわ!」
「止めに行くぞ」
「おう!」
勇者の二人が飛び出していく。わしはマルティを見る。
「これであの二人は確実に敵対致しますわね」
「うむ。わしらが殺したら問題だが、勇者が殺したのなら話は別だ」
「私の顔を、身体をこんなにしてくれたんだから、その報いは受けてもらわないとね」
「そうじゃな。吉報が届くまで宴を続けるとしようか」
「ええ、そうですわね」
「皆の物。今宵は憎き悪魔共を殺せるのだから、大いに飲んで騒ごうじゃないか!」
玉座に座り、酒を飲む。マルティも隣にあるミレリアの席に座って飲んでいく。これで我等は安泰じゃ。
三十分ほど飲んで騒いでいると、轟音がして窓が吹き飛んだ。
「なんじゃ!?」
吹き飛んだ窓の場所にできた穴から見えたのは四つの腕のような足のような物がある金属の空飛ぶゴーレム。その上に乗っている盾と魔女。四つの足には勇者二人と教皇が掴まれていた。
「くそっ、使えない勇者ね!」
「まったくじゃ!」
見たこともないゴーレムに乗って入ってきた魔女達は、すぐに飛び降りて黄色の外套をはためかせながらこちらに歩いてくる。魔女は魔導書を開き、盾の悪魔は盾を構えて戦う準備をしている。盾の悪魔は楽しそうに笑ってこちらをみていた。わしは怒りに顔が真っ赤になって叫ぶ。
「何をしている! 盾の悪魔を殺せ!」
「そうよ、確実に殺しなさい!」
残っていた近衛騎士団に命令し、わしらの前に立たせる。わたしも魔法を準備して何時でも攻撃できるようにする。近衛騎士が突撃し、剣で斬りかかっていく。だが、盾の悪魔に防がれる。他の近衛騎士達も連携していくが、全て弾かれる。攻撃力が足りないようだ。
「力の根源たる王が命ずる。真理を今一度紐解き、かの者達に我が国の怨敵を撃ち滅ぼす力を──アル・ドライファ・パワー」
「無駄な足掻きだな」
「そうですね」
開かれた本から白い大蛇が飛び出してきて近衛騎士達の上半身を数人纏めて鎧ごと食い千切る。千切れたた身体が床に落ち、噴き出した血が絨毯を染めていく。
「シロ、そんな汚物を食べてはいけませんよ。ぺっ、してください」
「シャっ」
「良い子です」
白蛇は口に咥えていた近衛騎士の上半身を頭を振って吐き出し、他の近衛騎士や貴族達にぶつけていく。それだけで騎士は吹き飛び、貴族は死に絶えていく。
「おのれっ、悪魔めっ!」
「こんなことをしてただで済むと思っているの!」
「それはこちらの台詞なんだがな……」
「~♪ ~~♪」
魔女は楽しそうに歌いながら、魔導書を片手にして手に持つを箒を振っていく。すると死んだ者達の身体から青白い光がでてきて箒に集まっていく。それを魔導書に叩くと中に入り込んでいくように光は消えた。
「止めるんだアリスちゃん! 君はこんなことをする子じゃないだろう! 尚文の言う事なんか聞かないで、今すぐ止めるんだ!」
「そうだぞ! こんなことをするなんて、勇者として、人として恥ずかしくないのか!」
「そうよ! 何を考えているのよ!」
「そうじゃそうじゃ! この様な行い、勇者として認められぬ! 大方盾に洗脳されているんだろ!」
「くそっ、放せっ、放せ」
「うぉおぉぉぉぉっ!」
「おのれっ、盾の悪魔めぇえええええええええぇぇぇっ!」
捕まっている三人が必死に抵抗する。剣と槍の二人が互いに武器で押さえつけているモンスターを攻撃するが、弾かれている。
「鉄壁とリフレクター中のメタグロスにそんな強化もちゃんとできていない武器など効きません」
「防御力を2ランク上げて、ダメージは2/3カットか」
「はい。これで攻撃はほぼ通りません」
言っていることはわからぬが、特殊な魔法でも使ったのだろう。これは騎士達にかけるよりも勇者にかけるべきだったか。
「力の根源たる王が命ずる。真理を今一度紐解き、かの者達に力を与えよ。アル・ドライファ・パワー」
「力の根源たるアリスが命ずる。真理を今一度紐解き、かの者の魔力を封じてください。アル・アンチ・パワー」
「むぅっ!」
こちらの魔法が発動したタイミングで消された。前と同じ魔法を唱えたのは失敗だったか。くそっ、杖さえまともに動けば……
「こっちも忘れるな」
「ぐっ!」
「お父様っ!」
盾の悪魔に蹴り飛ばされ、壁に叩きつけらる。衝撃で一瞬だけ意識を失ってしまった。気が付くと、見た事がない鉄足のモンスターが空いた手でわしを持ち上げて、盾の悪魔の所まで運んでいった。
「離せっ、離せぇぇぇっ!!」
「悪魔めぇぇっ!」
「くそっ、動けねえ!」
「な、尚文っ」
「あはははは、良いざまじゃねえか!」
盾の悪魔は床に押さえつけられた儂の頭を踏みつけて高笑いをしてくる。せめてマルティだけでも逃がそうと視線をやると、そこには死体になった近衛騎士達が起き上がり、マルティを押さえつけていく。
「なっ、何をしているんだアリスちゃん!」
「? 何って実験ですよ。死霊魔術って使ったことがなかったので、ちょうど試しているのです。それに死者蘇生を使ってあげたい人がいまして……えい♪」
魔女が聞いた事もない言語で呪文を唱えると、近衛騎士の死体が塩になる。それをもう一度唱えると今度は元の身体に戻った。
「お、俺はこ、殺されたはず……」
「なるほど、成功ですね。しかし、完全な蘇生には至っていない。再生させた魂の量は同じですが、身体は欠損部分があるとその分が皺くちゃになる。このままでは使えませんね。なら、あるところから持って来て、後はもう一度唱えたら塩に戻るはずですから、それを防ぐ補強と……」
「おい、普通にクトゥルフ神話の魔術を使って実験するな。俺までおかしくなるだろう」
「あ、すいません。ちょっと生き返らせたい子が居たので……まあ、概ねわかりました。それより、尚文おにーさん」
「なんだ?」
「私、貸しがありますよね?」
「ああ、そうだな。誠に遺憾だがな」
「でしたら、これからする私のお願いに“はい”か“イエス”でお答えください」
「選択肢がないじゃないか」
「そうですけれど、メリットがありますよ。この人を苦しめられます」
「なるほど。いいだろう。具体的には何をするんだ?」
「この世界の為の生贄になってもらいます。この王女様は特別なんですよ」
「そうよ! 私は特別なの! だから、助けなさい! 私だけは絶対に!」
「はい、助けてあげます。王女様」
「おい」
マルティが助かる? 魔女は魔導書を開きながら、何をかを唱えていく。嫌な気配しかしない。
「な、なんだ?」
「こ、これは……まさか!」
「やばい気配しかしないぞ」
「な、何をする気よ!」
「尚文おにーさん。この世界の波の秘密って知ってますか?」
「そんなの知る訳ないだろう」
「ですよね。この世界の波は神を自称する不老不死の存在によって巻き起こされています。彼女の目的は酷く身勝手なものです。しかし、彼女のような力ある存在が世界に現れるには土台が必要です。そうでないと世界に入ることができません。入口が小さいからです」
こいつは何を言っている。まるで波の全てを知っているかのように……
「では、入口が小さければどうすればいいか……わかりますよね?」
「広げるか、小さくなればいい」
「はい。でも、彼女は小さくなる気なんてありません。ですから、広げることにしました。彼女が通ることのできる穴は一つの世界では足りません。そこで考えました。彼女は世界を融合させ、広げてしまおうと。さて、世界からしたらみすみす侵入されて好き勝手されるわけには行きません。そこで世界は自らの分身となる精霊を宿らせた武器を作成します。これが伝説の武器です。世界一つの力を内包するその武器はまさしく切り札と呼べます。しかし、これだけでは足りないので眷属の武器を二つ作りました。これが世界の限界だったのです」
「まて、その話は俺達が持っている四聖武器の話か?」
「だが、それだと数が少なくないか? 三つあるぞ? それに眷属器?」
「待て、その話だと一つだけしか四聖武器がないはずだ……そうか、広げる。つまり、世界をくっつけたのか」
「そうです。波とは世界と世界が融合する現象。これによって遥か昔にこの世界は別の世界と一つの世界となります。続いて千年前でしたか? よくわかりませんが、また波が起こりました。この時、二つの世界が融合した世界同士が波により融合されます。この証拠にこの国がある場所には過去に遡ると剣と槍の伝説が詳しく載っています。ですが、その反面、盾と弓についてはほとんどありません。これがシルトヴェルトなら逆に弓と盾のことが詳しく載っています」
「元々別の世界だと? そんなことが信じられるはずが……」
「調べてみないとわからないが、どうなんだよ、教皇さんよ」
「それは……」
「どちらにせよ、そいつがやってくるのは八つの世界が融合した時です。つまり、今回の波ですね。四聖武器八星武器。一つは失われているようですが、場所は知っています。簡単に言えばこれが終末の波。そして、それを手助けするために相手は自らの尖兵を送り込んできます。転生者や転移者。また、自らの分身を権力者の娘にします。それがこのマルティ王女です」
「ふざけないで!」
「馬鹿な! そんなこと……」
マルティが波の主犯だと? そんなことあるはずがない!
「まあ、どちらでも構いません。私としては主犯と繋がっていればよいだけです。違っても別に問題はありませんから」
「お前、何をする気だ?」
「相手は神様ですよ。神様。ですから、神様には神様の相手をしてもらいます。空間とか平行世界、概念を操る存在には勝てません。ですから、同じ存在をぶつけます。ここでやったら、危ないのでこっちでやりますが」
「俺へのお願いってなんだ?」
「ああ、それはまた別です」
このままではまずい。そう思っていると、扉が開かれてここにはいないはずのミレリアとメルティが入ってくる。二人は外交の為にでていたはずだ。帰還なんて聞いてない。
「お父様っ!」
「誰だ? お父様ってことは娘か」
「お二人が盾の勇者様と魔導書の勇者様ですね。そちらに居るのは剣の勇者様と槍の勇者様。そして、我が夫と娘ですね。私はこの国の女王、ミレリア=Q=メルロマルクです。こちらが娘のメルティ=メルロマルク」
「お、お父様を離しなさい!」
「嫌だね」
「なっ!」
「ミレリア! 助けてくれ! いや、今すぐこいつらを殺すんじゃ!」
「お断りします。そのままで構いませんので話を聞いてください」
「断る。俺達になんの得がある?」
「あります。なぜなら、この国はもうすぐ無くなりますから」
「なんじゃと!」
「シルトヴェルトが国境を越えて攻めてきました」
おのれ、亜人めっ! 今度こそ根絶やしにしてくれる! 我が妹の仇、必ず取らせてもらう!
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