愛里寿とアセロラはルビー君の病室に入る。ベッドの上に居るルビー君は全身に包帯が巻かれていて、痛々しい。無事なのは顔くらい。思っていたよりもかなり酷い怪我みたいだ。今も点滴をつけられていて、食事もそれでとっているのだろう。
「あらためて、ルビーを助けてくれてありがとう」
「うぅ……」
愛里寿達にルビー君のお母さんがお礼を言ってくれたけれど、罪悪感が湧き上がってくる。アセロラも同じようで、愛里寿達は互いに顔を見合わせてから、頷いてから二人で並んで頭を下げる。
「「ごめんなさい!」」
「え?」
「どうしたの?」
「その、ルビー君の怪我……アセロラ達のせいなの」
「どういうことだ?」
「あうあう」
センリさんから殺気のようなものが発せられて、愛里寿達を睨み付けてくる。それによってアセロラは慌てだして震えてだす。愛里寿としてはこれぐらいの殺気なら、普通に耐えられる。正直、もっと怖い者に会ったことなんていっぱいあるしね。
「責任者は愛里寿ですので、愛里寿がお話しますね。ですが、その前に……」
ルビー君に近付き、彼に触れようと進むと、センリさんが身体を入れて邪魔をしようと愛里寿の腕を掴んでくる。だけど、その前にシロが愛里寿の前に出てきて、逆にシロに腕を掴まれた。これは仕方がない。順番を間違ったのがいけなかった。
「あなた……?」
「父さん……?」
「何をしようとしている」
「……治療。でも、信じられないよね。だから証拠を見せる」
炎の魔法を使って愛里寿の腕を燃やそうとして恐怖が襲ってくる。駄目、怖くてできない。
「……シロ、そのまま止めてて……」
「はい。お任せください」
「っ!」
センリさんの手がモンスターボールに触れるけれど、その前に遠距離から治療魔法を行使する。魔法陣を作ってルビー君の身体を鑑定し、彼に合わせて調整した魔法を発動する。
「なにこれ……っ、つぅ~~~痛い、いたいいいいっ!」
魔法の光がルビー君を包み込んで身体中を覆って、身体の中に浸透していく。麻酔とかも切れるけれど、そこは頑張れ男の子。
「ルビーっ!」
「我慢して。今、傷を治して肌を作っている。次に痒みが来るけれど、かいちゃ駄目。一分耐えて」
「る、ルビーっ!」
「くっ……」
センリさんはこちらを睨み付けているけれど、待ってもらおう。それとマッドスィートケークも使ってさらに回復する用意をする。
「アリス、だ、大丈夫なの?」
「治療しているだけだよ。今のままだと、死にはしないけど少しでも動くだけで激痛が襲ってくる。今は麻酔をしているみたいだけど、これだと歩けないし、座ることも眠ることもきついはず。ましてや彼の夢であるコンテストなんて不可能。だから、綺麗に元の身体に戻す」
ルビー君の身体は生きているのが不思議なくらいの酷い状況。あと少し肌が焼けていたらショック死していたと思われる。また、拷問を受けたのか、指は折れていたし、爪もあれだった。もはや一生、ベッドの上は確実だと思えるぐらい。見ただけで交渉とか言っている状況じゃない。諦めた。
「そっか、そうなんだね……」
「ほ、本当に治るんですか?」
「治せる。最悪、死んでも蘇らせてあげられる。でも、この方法はお勧めしない」
ルビー君のお母さんの質問に答えながら、シロがセンリさんを押さえるために床に置いたトランクケースから、ティーセットなどの食器を取り出してケーキを切っていく。
「かゆっ、かゆいっ!」
「かいちゃだめ」
ルビー君を上海と蓬莱達を呼び出して押さえつける。
「なんだこれっ、人形っ!」
「ジュペッタか? いや、それにしては……」
「はい、これで治療完了。後は老廃物の処理。上海、蓬莱。お願い」
「シャンハーイ!」
「ホラーイ!」
蓬莱と上海が彼の包帯をほどく。すると皮がへばりついている。それを剥がすと綺麗な肌がでてくる。前の肌は火傷でドロドロのジュルを塗りつけていたからかもしれない。とりあえず、裸にして全身を綺麗に布で拭って新しい服……というか、もう浄化の魔法で全てを綺麗に掃除した。その後、愛里寿達は病室から出てから服を着てもらう。
病室の中ではルビー君達の家族が喜び合うまで待ってから、中に入る。ルビー君は奥さんに抱き着かれていて、ルビー君の方も喜んでいた。そして、センリさんはこちらを見詰めている。
「ルビーを治療してくれたことは感謝する。だが、お前達は何者なんだ?」
椅子に座った愛里寿達にセンリさんがさっそく聞いてきた。
何者かと聞かれたら答えてあげるのが世の情け……っていったら、本当に出そうだからやめる。
「愛里寿。デボンコーポレーションの社員。マグマ団とアクア団の目的を防止するために動いている。彼女はアセロラ。協力者」
名刺を渡す。それとバッジも見せる。前のジムリーダーを倒したから、センリさんは知らないと思う。
「そうか。それで何故、お前達のせいだと? 先程の言葉から、マグマ団というわけでもないのだろう?」
「違う。愛里寿達は単に、彼を見捨てることになったことを謝った……」
「見捨てる?」
「あ、あの、攫われるところを見ていたの。助けられたはずなのに……」
「助けられたはず?」
「愛里寿はしばらく離れることになった。だから、マグマ団とアクア団が狙っている潜水艇を守るためにアセロラと愛里寿の友達を護衛につけた。だから、アセロラは悪くはない。それに今回の事に関しては後悔はしても間違っているとは思わない」
「アリス?」
「そういうことか。あくまでも潜水艇を守ることが優先だということだな?」
「そう。潜水艇を守らなければ数人の被害ではなく、数十、数百人の被害に繋がる可能性がある。だから、命令通りに守った彼女も間違いじゃない。もっとも、彼女が臨機応変に対応できたのなら、アセロラを造船所に置いて、彼女がいけば助けられる可能性があった。ただ、それは最大戦力を守るべき物から離すことでもある。実際、あの時も陽動の可能性があったし、今も狙われている」
ルクスからの報告では現状では少数のマグマ団と沢山のアクア団が確認されている。
「なるほど、理解した。そして、お前が何者かということをちゃんと答えるつもりがないこともな」
「答えてもいいけど、理解できないと思う。不思議な力を使うサイキッカーとだけ覚えておけばいいかと」
「……サイキッカー、なるほど。そういうことなら納得しておこう」
さて、こちらの事情はある程度は教えられた。ルビー君の方をみれば、自分の足で立ち上がろうとしてふらふらしてお母さんに支えられている。
「どちらにせよ、息子を助けてもらったことには代わりはない。ありがとう」
「いえ、本当はルビー君と交渉をして代価をもらうつもりだったの……」
「代価? ボクに何か支払えるものがあったかな?」
「ルビーのためならいくらでも出すけれど……」
「いや、ルビーに限定している時点でお金じゃないだろう。おそらく……考えられるのはルビーのポケモンか」
「正解。愛里寿はルビー君の持っているセレビィが欲しい」
「っ!?」
愛里寿がそう告げると、ルビー君の顔が変化した。まだまだポーカーフェイスは甘いみたい。
「セレビィだと?」
「そう、時渡りポケモンのセレビィ。幻と呼ばれている。彼がそれを持っているという情報は手に入れていた。先程の反応でそれは確信した」
「そっか、アリスの目的って幻のポケモンや伝説のポケモンを集めることだっけ」
「そう。それらを捕獲して回収してデータを取ること。そして、それらの力を守るために使う。それが愛里寿の目的」
愛里寿の目的は変わっていない。生き残る事。これがまず大前提。そして、もう一つは傲慢で愚かな事だろうけれど、助けたい人を助けるという事。出来る限り、ハッピーエンドを目指す。どうせ、世界から世界へと渡り歩くのだから、自らの
「ルビー、本当に持っているのか?」
「嘘は無駄。その気になれば魅了して、愛里寿の都合のいいように支配だって可能」
「そうなの? まさか、アセロラ達に……」
「アセロラ達にはしていない。愛里寿が使う対象は敵対対象と、愛里寿達の命が脅かされる時、後は荒ぶっているポケモン達に使うくらい」
「敵対対象か」
「だから、こんなこともできる。シロ、ホウエン地方の地図を用意して」
「かしこまりました。こちらです」
テーブルの上にシロがトランクケースからホウエン地方の地図を取り出して広げてくれる。それを見ながらポケギアを操作してある電話番号に連絡をいれる。
『誰だ?』
「愛里寿です」
『愛里寿様っ! 申し訳ございません!』
「聞きたいことがあります。
『もちろんです』
それから、彼等のアジトと人質が監禁されている場所や配置、ポケモンの数や種類、計画などを教えてもらって、それをメモに書いていく。メモとペンはシロが用意してくれた。
「はい、ご苦労でした。これからもよろしくお願いします」
『もちろんでせす、はい』
ポケギアを切ってから、今度は付箋に書き込んで駒に這っていく。続いて次はアクア団に連絡をする。そちらからも情報をもらった物をすぐに同じようにする。これによって、地図の上に様々な駒が置かれていく。
「その情報、事実なのか?」
「はい。両方に襲撃された時に魅了してスパイを作った。彼等はそのことを知らずにいるから、楽に情報が手に入るの。後はこれを基にして人質奪還作戦を立案して実行するだけ。ただ、アクア団のこともあるから、造船所にも戦力を置かないといけない」
「アリス、アセロラも助けにいきたい」
「わかった。センリさんは協力してくれる?」
「人質の奪還か……」
「子供達で助けに行くのは危険よ! それこそ、センリさんやポケモン協会の人達に協力してもらったらいいじゃない」
「はい。最初はそう思っていたの。だから、図鑑所有者のポケモントレーナーを通してポケモン協会には伝えた。でも、信じてくれなかった。だから、愛里寿達は愛里寿達で行動している」
「それは……」
「でも、センリさんなら動かせる。といっても人質の救助は難しいから、これは愛里寿達でやる。センリさんには煙突山のことを対処して欲しい」
「アクア団か。いいだろう。そちらはこちらで対処する。だが、そちらも任せてもらえないか?」
「人質の確保はこちらでさせてもらうのが条件。それ以外なら好きにしてくれていい」
透明になれば侵入は容易い。それに人質を確保したら一気に戦力を出して内部から制圧すればいい。なんなら、彼等が飲んでいる物に眠り粉でも混ぜたらいいのだし。
「ご主人様、紅茶です」
「ありがとう」
シロが淹れてくれた紅茶を飲みながら、話を戻す。
「さて、ルビー君……セレビィ、交換してほしい……」
「それは……」
「これはルビー君のためでもある」
「え?」
「貴方はマグマ団の幹部に敗北した。アセロラから聞いたマグマ団の幹部であろう一人はメガ進化まで使いこなすかなり強い人だった。そんな人達がいるのにルビー君がセレビィを持っているのを知ったら、襲われて今度こそ死ぬ」
「確かにあの人、凄く強かったよ」
「それほどか」
「他の地方を含めてジムリーダーを倒してきたアセロラが言うんですから、間違いない。アセロラ、バッジを見せてあげて」
「うん。これだよ~」
アセロラが大量にあるバッジをみせる。愛里寿も一緒にみせてあげる。
「なるほど。確かに実力はあるようだ。だが、ジム戦はあくまでもトレーナーを成長させるためのものだ。それがジムリーダーの実力だと思わない方がいい」
「わかってる。それでも、すくなくともジムリーダーより彼女は強い」
「なら、後でバトルしてみよう」
「アリス、いいよね?」
「うん、いいよ。それとルビー君は知らないだろうけれど、時間渡航者って狙われるの」
「え?」
「いい、まず時間を作り変えるということは、決められた過去を消して好きなように未来を作り変えるということになる。これは神の領域。なぜなら、それまで積み上げられてきた歴史や生物達の営みがリセットさせられるということにほかならい。そんな力を持つ者をこの世界の神様は許してくれる? 答えは否。絶対に潰しにかかる。だからこそ、セレビィは世界中の時間を逃げ回っている。それに、まだ
ティンダロスの猟犬はセレビィを感知したら、絶対に襲い掛かってくるだろう。この世界にアリスが来たということは、下手をしたら奴等もくるかもしれない。どちらにせよ、この世界の神々は容赦しないだろう。
「そんな連中からルビー君はセレビィを守りきれる? また、セレビィを狙ってくる人達に友達や家族が人質にされたり、殺されたりしても耐えられる?」
「そ、そんなこと……」
「普通にする人はいるよ。例えば友達の家族を人質にして、見せしめに何人か殺して残りの人を助けてやるから、ルビー君からセレビィを奪ってこいっていう人」
「もしかして、ルビー君をこんな目に合わせた人も?」
「それぐらいはすると思う。それほどにセレビィの力は強い。だから、その覚悟があるかどうかはっきりさせて欲しい」
「ルビー」
「ぼ、ボクは……」
「セレビィにもこれは言える。貴女はどうするの?」
そう言うと、ルビー君の荷物から勝手にセレビィがでてきた。
「セレビィ……」
「びぃ……」
「まあ、愛里寿としては実験に協力してくれればそれでいいの。愛里寿としてはセレビィのデータが欲しいだけだから、後は二人で決めたらいい。危険性をしっかりと理解した上でだけど」
「それはその通りだな。力を持つ者にはそれ相応の責任がある。ルビー、しっかりと考えるがいい」
「うん、わかった。それで、実験って?」
「ああ、はい。愛里寿の力の一つに伝説や幻のポケモンのデータを力に変える方法があるの。だから、それが得られるのなら、セレビィがどうしようが、ルビー君達なら変な事はしないだろうから、関与しなくていい」
「データを取るだけなら、問題ないの?」
「うん。捕まえたルギアをすぐに友達の神様にあげても問題なかったから、その辺りは大丈夫」
「か、神様と知り合いなの?」
「土地神様だから、位としては下だしね。強さは別だけど」
「それなら、実験は協力してもいい。いいよね、セレビィ……」
「びぃ」
どうやら、協力してくれるみたいで助かる。早速、
「さて、ではまずセレビィをモンスターボールに入れて貸してください」
「うん、わかった」
預かってみるけれど、
「では返します。続いて、交換しましょう。後で返すので同じく幻のポケモンと交換させてもらいます」
「わかった」
そう言って、二人で交換する。こちらが用意するのはメロエッタなので、セレビィと交換してそれぞれの所有権を主張したら、今度は増えた。
「交換しなおしてみます」
「いいけど、何をしているの?」
「ポイント形式なんですよ。だから、それがどうなるかを試しています」
「そっか」
「まだ時間かかりそうだから、アセロラはセンリさんとポケモンバトルをしてくるね」
「いってらっしゃい」
「は~い」
「いってくる」
「ええ」
アセロラとセンリさんがでていった後も実験を繰り返す。そこでわかったのは、愛里寿が捕まえずに捕獲すると、交換するしかない。この交換も、貰っていたら大丈夫だけれど交換しなおすとアリスポイントもまた消えてしまった。なので、使って返せばいいと思って実行してみることにした。その時、どのアリスにするか、悩んでいたらルビー君が聞いてきたので説明する。
「つまり、アリスって名前ならなんでもいいんだね」
「そうね、一つ気になったのだけれど……アリスって男性名でもあるわよね。なんで男の人を取ってないのかしら? 女の子だから納得できるけれど」
「あっ!?」
目から鱗だった。確かに有栖川とか、アリストテレスとかいる。アリスは男性名でもいける。ルビー君のお母さんの言葉でどうにか女性化を防ぐ手立ができたかもしれない。さっそく試してみよう。
男性アリス、どうしようかと考え中ですが、コメントにあった人から選ばせてもらいます。
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