マスクオブアイス事件が終わり、少ししてから帰る前に育て屋さんに挨拶して叔父さんと一緒にトキワシティに帰ることにした。でも、その前に長旅になるのでウバメの森でチュチュ達を自由に遊ばせてあげようと思って行ってみた。
しばらくポケモン達を遊ばせていたら、祠の方から子供の叫び声が聞こえてきた。ポケモンに襲われているのかと思って急いでそちらに移動したら、とても可愛らしい小さな女の子が大きな本を持って泣いていた。
ボクはその子に声をかけた。彼女は片手と片足に怪我をしていて、とても動けるような恰好じゃなかったし、何より泣いている子を放置することなんてできない。
声をかけると、驚いてから安堵を抱いて、すぐに怯えた表情になった。けれど、それはなんとなく演技だと思う。
話していくと、彼女は誰かに捕まっていて、在った物で服とかを用意して逃げ出してきたようだ。その時に誘拐犯に見つかって手足を怪我しながらも必死に逃げて、扉を潜ったらここにいたらしい。彼女の服は大人用の物で、とても小さな女の子が着るような物ではない。それだけで、彼女がどんな目にあったのかボクでもなんとなくわかってしまう。
それに彼女の傷口はボクが治療するまでもなく、どんどん治っていっていた。そこからボクと同じ能力を持っているのかと思って聞いてみたら、サイキッカーのようで攻撃手段も持っていた。
そこで彼女がボクに怯えているのではなく、追手に怯えていたのだと分かり、すぐにヒワダタウンに連れていくことにした。
彼女、アリスは酷い目にあって常に怯えるように見えたけれど、ポケモンとの触れ合いで笑顔を見せたりもしていたので、なんとか大丈夫だと思った。
ジュンサーさんに話をして、詳しい内容をアリスに聞いたら、本人はわからないみたいだけれど、おそらくマスクオブアイス事件に巻き込まれたウラウラ島から来た旅行者か、それともウラウラ島から誘拐されてきたのかはわからないけど、アリスはそこに行くつもりみたい。流石にウラウラ島までボクはついていけない。アローラ地方というのはかなり距離があるから。だから、それまでの間は面倒を見てあげることにする。
そう思って彼女の服や生活用品を用意して、彼女が望んだポケモン、メタモンを捕まえるためにメタモンが生息している34番道路に向かった。34番道路には育て屋さんの夫婦が住んでいるので丁度いい。電話で連絡したら、受け入れてくれるとのことだったので、お世話になろうと思う。
34番道路にある育て屋さんに着いたボク達はお風呂の中でなにげない言葉から喧嘩をした。彼女はポケモンを厳選し、卵を産ませて強い個体を作り出すといったのだ。それはボクには信じられなかった。だから、先にお風呂を出て着替えだけを用意してあげて、外に出ておばあさんのお手伝いをした。
「そう。喧嘩しちゃったのね」
「はい……だって、そんなの間違ってる……」
「確かにそう思えるわね。でも、彼女の境遇を聞いた限り、そこまで間違ってはいないわよ」
「え?」
「よく考えてみて。アリスちゃんは命を狙われているのよ。そうなると、襲ってくる相手もポケモンを持っているわ。必然的にポケモンも命懸けの戦いになるの。弱いポケモンだと、アリスちゃんも危険だし、そのポケモンも死んじゃうでしょう?」
「それは……」
確かに言われた通りだと思う。アリスはもしかしたら、ポケモンが死んでしまうことを恐れているのかもしれない。シルバーさんから聞いた話だと、攫われた子供達はどんどん数が減っていたらしいし、それってそういうことだよね。せっかく友達となったポケモン達が死んじゃったら、悲しくなる。
アリスの能力は少なくともマスクオブアイス事件で、手下になっていたロケット団は知っているはずだし、そこから色んな所に伝わっているかもしれない。そうなると、ポケモンに強さを求めるのは仕方がないかも。
「それに産まれてきたポケモン達をどうするかによっても変わるわ。自立するまでしっかりと育ててから、野生に戻すのか、そのまま捨てるか、それとも里親を探すとか。ちゃんとその辺りは聞いた?」
「聞いて、ないです」
「なら、その辺りを聞かないといけないわね。それにポケモンブリーダーという職もあるのよ?」
「ポケモンブリーダーですか?」
「ポケモンバトルよりも、ポケモンの健康や幸せを対象とした育て方をするのが特徴よ。ポケモンの世話、タマゴの孵化、毛づくろい、健康的なポケモンフードの調合などを行うって聞いたわ」
「そうなんですね……」
話を聞いていたら、そんなに悪い事でもないように思えてくる。でも、生態系を壊すことにはなりそうだけど。
「ばあさんや」
「おじいさん、どうしましたか?」
「アリスちゃんが食事は後でいいといってきおってな」
「あらあら」
「う……」
「早めに仲直りしないといけないわね。そんなに一緒にはいられないのでしょう?」
「うん」
おばあさん達と食事をしてから、アリスに謝りに行こうと思った。何時までも喧嘩しているわけにはいかないから。部屋を覗いてみると荷物が減っていた。それもモンスターボールが無い。慌ててボクのモンスターボールを確認すると、皆が居た。せめて連れていってくれていたら良かったのに。
「おばあさん!」
「どうしたの?」
「ポケモン、減ってませんか!?」
「おじいさん?」
「今、食事をしとるが……見た限り減っておらんよ?」
「どうしたの?」
「アリスが一人でポケモンを捕まえに行ったみたいで……」
「それはいかんな。すぐに探さんと大変なことになるわい」
「コガネシティの人に応援を頼んで……」
「それは大丈夫だと思います。行き先もわかっているので、ボクが探してきます!」
おそらく、アリスは力を使うつもりだ。他の人に見られる訳にもいかない。
「それじゃあ、お願いするわね。私は残っているから、おじいさんと一緒に探しに行ってあげて」
「はい!」
「うむ。鳥ポケモンを使おうかの」
おじいさんと一緒に探しに出る。
二時間経ってもアリスが見つからない。もしかして、連れ去られたのかと思っていると、おじいさんが小さな足跡を見つけてくれた。
「イエローちゃん、アリスちゃんは森の奥に入ったようじゃ」
「ウバメの森ですか?」
「うむ。それももっと奥地じゃ。この先には森と深い山しかない」
「そんな……」
広大なウバメの森は祠がある場所と違って整備なんてされていない。軽装で入ったら、遭難して戻ってこれないかもしれない。それに森の奥には強いポケモンもでてくる。アリスが狙っていたメタモンだって、結構危険なポケモンだ。人にだって化けられるし、誤って踏むと身体を取り込んでくる。特にアリスはドジだから、こけたりしていそうだし。
「すぐに追います!」
「うむ。私も応援を呼んでこよう。森の奥に入ったとなると、大変じゃからな」
「はい!」
こればかりは仕方がない。森の奥に入ったら、ボク達だけじゃ探し切れない。アリスが力を使っているところを見られないことを祈るしかない。
森の奥地でアリスの痕跡を見つけた。やっぱり、こけたりどこかにぶつけたりしているみたい。ただ、どんどん奥に向かっていっている。ドードリオで必死に追っていったら、沼みたいなところに彼女はいた。
ボク達がみつけた足跡はアリスの物じゃなく、別の子供のだったようで、全然別の場所から森の奥地へと入っていた。おかげでかなり時間がかかった。
肝心のアリスといえば、沢山のメタモン達に囲まれていた。沼だと思っていたのが全てメタモンだった。
「みつけたぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ひゃぁっ!?」
いきなり声をかけたから、アリスがビックリして飛び上がって慌ててこちらを見てくる。ボクは怒り心頭といった感じでドドすけをアリスに近付けて飛び降りる。
「大丈夫っ! 怪我とかしていませんかっ!」
「だ、大丈夫だけど……」
周りのメタモン達は心を感じるかぎり、大丈夫そう。ひとまずアリスの身体をペタペタと触って怪我がないかを確認する。
「ご飯の時から居なくなって、皆で探してたんですよ!」
「言った通り、探しに出ても大丈夫ですよ。この通り、目的のメタモンも捕まえましたし」
助けようと思ったら、あっさりともう捕まえたので帰るという。ちょっと叱らないと駄目かも。
「……本当に? このメタモンは?」
「これは厳選した結果、必要ないと判断した子達です。あ、皆さんはもう帰っていいですよ」
手を振ってアリスが別れを告げると、みんな大人しく帰っていく。その子達は皆、楽しかったといった感じで、悪感情はなかった。ただ、色違いの子達は残って、こっちにやってきた。
「一緒に行きたいって言ってるよ」
「そうなんですか?」
「色違いの子は野生じゃ、生きづらいから……」
「でしょうね。わかりました」
アリスはその子もゲットしてあげた。
「で、どうしてこんなことをしたのか、説明してくれないかな?」
「それはイエローさん、嫌がってたので私だけで……」
「それがどれだけ危険なことかわかってる? 確かに戦えるけど、それでも危険なことにはかわりないんだよ?」
「ごめんなさい」
「まったく。でも、ボクも言い過ぎたの。確かにアリスの境遇なら、力を求めても仕方ないし……」
「こちらこそごめんなさい」
「もういいよ。それよりも、産まれた子達はどうするの? これを聞かないで判断しちゃ駄目だからね」
「生まれた子達は里親に出すか、自衛ができるようになったら自然に返す予定です」
「それなら、まあいいかな」
アリスの言葉もおばあさんの話を聞いた後なので、一応は納得できる。でも、ボクとしてはやっぱり好きになれない。
「でてきて、マザー」
アリスがモンスターボールを投げると、中から水色のメタモンがでてくる。
「マザー、ドードリオに変身」
メタモンがドドすけに変身すると、色違いのドードリオとなった。それに乗って帰るつもりみたい。大丈夫かちょっと不安だよ。
「色違いのドドすけだね」
「この子はこの子でいいですよ」
「確かにそうだね」
おばあさん達の家に戻ってから、アリスは無茶苦茶怒られた。正座させられて涙目になっていたし、捜索を頼んだコガネシティの人達にもったっぷりと怒られていたので反省したと思う。
お説教が終わり、ボクとアリスはまたお風呂に入った。今度は喧嘩せずに入った。流石にずっと探していたし、アリスも疲れているのかうつらうつらしていたので、身体を洗ってから湯船に入る。アリスは恥ずかしがっていたけれど、女の子同士なのでで大丈夫だよね。
「じゃあ、100まで数えようか」
「はっ、い……」
「まだ足が痛い?」
「痺れてるのに、イエローが酷いことをしてきました……」
「お姉ちゃんからのお仕置きだからだよ」
「それ、まだ続けるんですね……」
「嫌ならいいですけど……」
ちょっと不安になって敬語で聞いてみる。
「嫌、ではないです。恥ずかしいですけど……」
「そっか、良かった」
ほっとした。嫌われてはいないみたい。それにしても、照れて顔を赤らめているアリスは可愛い。ブルーさんがボクを可愛いがる理由がわかってきた。
「それより、数えましょう」
「そうだね」
一から百までしっかりと数えてお風呂から出る。その直前でアリスが手を握って止めてきた。
「どうしたの?」
「乾かします」
「え?」
アリスの近くに青い球体が現れて、それが私達の身体に付着している水分を全部取っていった。次に赤い球体で身体を温めてきて、もう一度青い球体で髪の毛を冷やしてきた。
「これで乾きましたし、光沢がでるはずです」
「凄い、便利だね」
「えっへん」
無い胸をはって仁王立ちするアリスにおかしくなって吹き出し、思わず頭を撫でてしまう。やっぱり、大人ぶっていても、子供の部分があるね。
「ふにゃっ!?」
アリスの髪の毛はしっかりと乾いていたし、ふわふわになっていて肌触りが良い。ちょっと嫉妬しちゃう。
「あっ……は、はやく着替えましょう」
「そうだね」
こちらを見て顔を真っ赤にしたアリスが慌てて脱衣所に移動し、パジャマに着替えていく。アリスが着ているパジャマは見つけた時に着ていた大人の男性用Yシャツで、これを寝間着にするみたい。
「なんでそれ? もっと可愛いのもあるのに」
「可愛すぎます。これでいいですよ。落ち着きますし」
「そ、そう……?」
「お姉ちゃんもレッドさんの服を着て寝てみたらわかりますよ」
どこかにやにやした笑顔でそう伝えてきたアリス。ボクはその言葉に想像して、顔を真っ赤にして身体を抱いてしまう。そんなボクを放置して、アリスはさっさと着替えてしまった。
「あっ、待ってよ」
「想像して悶えているお姉ちゃんなんか、待ちません。あ、早く上がらないとレッドさんに電話しちゃいましょう」
「待って、それは本当に待って!」
「さっさと告白しちゃってください」
「うぅ……アリスが虐める……」
「助けてくれたお礼もかねて、妹としてお姉ちゃんの恋を応援してあげてるだけですよ」
「それはありがたいけれど……って、本当に出ていった!」
慌ててパジャマに着替えて、アリスを追っていく。アリスを追った先の部屋では布団が用意されていて、寝る準備が整えられていた。アリスはくっ付けてあった布団を離して一人でさっさと入ってしまった。
「な、なんで離すの?」
「寝相とか心配なので」
「わ、悪くないよ?」
「私がわからないので。あ、でも抱き枕としてちゅ……ピカチュウを貸してくれませんか?」
「あれ、ピカチュウを持ってるって言ったかな?」
「あっ……おじいさん達が話しているのを聞きました」
何故か焦ったように答えるアリス。おかしい。だって、アリスと出会ってからは念の為にチュチュは出していない。アリスの前で出したのはドドすけだけ。それにおじいさんとは話していたみたいだけど、内容は喧嘩についてだけだったはず。明らかに誤魔化している。ひょっとしたら、ジュンサーさんに聞いたかもしれないけれど、それならそう伝えるはず。
「本当に?」
「ごめんなさい。モンスターボールを覗きました」
「そっか。そういうことならわかるよ。でも、チュチュはアリスに懐くかな?」
アリスと出会う前から、モンスターボールに入ってもらっていたチュチュを出してあげる。
「ピカッ」
チュチュは私に抱き着いて身体を擦りつけてくる。撫でてあげながら、アリスのことを考える。やっぱり、まだ何かを隠しているみたい。まあ、流石に出会って二日だから、そこまで心は開いてくれないよね。お姉ちゃんや妹というのも、妹が欲しかったのは本当だけど、心を開いてもらうための一つ。教えてもらえないと助けてあげられないし。
「チュチュはアリスと一緒に寝てあげられる?」
「ちゅ?」
「身体を撫でられたりしてもいい?」
「ピカ!」
「いいみたいだ。優しくしてあげてね?」
「ありがとう」
恐る恐る、チュチュを受け取ったアリスは膝に乗せてゆっくりと、優しく撫でていく。チュチュは気持ち良さそうに目を細める。アリスもそれを見て満面の笑顔になった。やっぱり、良い子みたいだし、警戒する必要はあまりないかも。ポケモンのことが好きだってよくわかる。
「やった、本物のピカチュウだっ。凄く可愛い!」
「本物?」
「あ、等身大のぬいぐるみを買って持ってたんです。もうどこかに行っちゃったけど……」
「そうなんだ。だったら、最初のポケモンはピカチュウでも良かったんじゃない?」
「やー可愛いですけど、種族値を考えると襲われた時に死んじゃいますから……」
やっぱり、アリスはこれからも襲われると確信しているみたい。
「種族値?」
「ポケモンにはそれぞれ、種族によって初期の能力が決まっているんですよ。普通のピカチュウなら320ぐらいですね。特殊個体だと430ぐらいですが……この子はどうでしょう?」
「ちゅ~」
もふもふされながら、アリスの言葉に不思議そうにするチュチュ。もしかして、アリスって、知識でしかポケモンを知らないのかもしれない。そういえばドドすけに会った時もそんな感じだった。
「アリスはポケモンと触れ合ったことはないの?」
「ありませんよ。ゲーム、シュミレーションや本、データでは知っています」
「もしかして、攫われたところで教えられたの?」
「いえ、もとから好きだったので知識を集めていたんです。そこで沢山の人達がポケモンを研究していて、その知識の一部を使わせてもらっています」
もしかして、その知識がアリスが攫われた原因の一つなのかな? 大事そうに何時も持っている
「ふわぁ~」
アリスがあくびをして、チュチュをぎゅっと抱きしめている。
「先に寝てていいよ。ボクはちょっと水を飲んでくるから」
「おやすみなさい……」
チュチュと一緒にアリスが布団に入って眠り出した。ボクはチュチュを見ると、彼女も頷いてくれたので、そのまま外に出てオムすけ以外の皆を出しておく。
「みんな、護衛をお願い」
頷いてくれたので、部屋に戻ってオムすけを出してボクも眠る。これで大丈夫だと思う。布団に入ると、アリスを探して駆け回っていた疲れからかすぐに眠ってしまった。
少しして、オムすけやチュチュの鳴き声で目が覚める。慌てて起きると、アリスが
「……死にたくないっ……死にたくないっ……来ないで……血を吸わないで……いやぁぁっ……」
明らかに普通じゃないことをされてきた言葉に、ボクは彼女を抱きしめる。抱きしめてあげたからか、少し安心したようだ。もしかしたら、アリスは捕まって実験体にされていたのかもしれない。それなら、彼女の魘されている理由もわかる。これはボクだけじゃ手に負えないかもしれない。明日にでもブルーさんや皆にも相談しようと思う。とりあえず、今は一緒に寝よう。
イエローちゃんはアリスのことを多少は警戒していますが、たすけるべき対象とみております。
言いくるめを失敗したりしているから仕方ないね。
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