新島真は鳴上悠と出会う。   作:ローファイト

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真視点で話が進みます。


真と悠の出会い。

東都大学法学部に入学し二年の春。

皆と出会ってからもう2年になるかしら。

当時は心の怪盗団の一員として世の裏に隠れて悪事を働く人達と戦い、私自身様々な経験をして、色々と成長したと思う。

人々の心を歪ませ支配しようとした神を名乗るあの聖杯にも勝つ事が出来た。

あんな出来事があったのだけど、その時の記憶は人々から消え、世の中は何事もなかったかのように代り映えもせず日常が進んでいる。

私達のペルソナ能力も消え、怪盗団は解散し、皆はそれぞれの思いを抱き、自分の道を歩み始めた。皆との絆という一番大切な物を残して………

 

 

蓮は国立大学に進学。

将来はお姉ちゃんと同じで法律の道へ、最終的には裁判官を目指すとか、冤罪に苦しむ人々を見逃せないと……蓮らしいと言えば蓮らしい。お姉ちゃんと法廷で顔を合わす日もそう遠くはないかもね。

 

モルガナは蓮と一緒に住んでいるわ。ネコの生活も随分と板について来たようね。

 

杏はそのままモデルの世界へ。

大手芸能プロダクションに所属して、本格的にモデルの世界に入り、一から勉強中だと言っていたわ。さっそく映画で女優デビューの話も来てるらしいのだけど、今はモデルの仕事に集中したいからと断ってるとか。杏なら女優としてもやって行けると思うんだけどね。

 

竜司は私立大学へ何とか進学。

教師を目指すらしいの。自分の過去の経験を活かして、自分みたいな奴らの面倒を見たいって言っていたわ。意外と似合ってると思うわ。

 

祐介はそのまま美の道へ。

スポンサーが付いたらしく、念願の海外留学にむけ、準備の真っ最中。

 

双葉は定時制高校、要するに夜間学校に入学。

同じような境遇の子も結構いるらしくて、何とかコミュニケーションは取れてるみたい。

今は蓮と同じ大学に行くんだと言って、猛勉強中。

 

春は某有名私立大学経済学部に通いながら、仕事もしてるわ。

父親の会社は部下の人に社長業を引き継いでもらい、子会社の都内に3店舗ある純喫茶チェーンのオーナーに就任。実質のやりくりは各店長に任せて、喫茶店について一から勉強したいからと、自分の会社なのに、従業員見習い扱いでアルバイトしてる。実に春らしい。

 

お姉ちゃん(新島冴)は検察官から弁護士に転職。

外から法の秩序を守って見せると言ってたわ。

伝手で有名な法律事務所に所属してるけど、近い将来には自分の事務所を持つと、もう決めてる。やりがいがあると、今のお姉ちゃんの顔はどこか楽しげ。

そろそろ恋人の一人でも作っても良いかなと思うけど。浮いた話が一切ないのが心配。

 

皆、夢に向かって邁進中、私も頑張らないと。

 

私はもちろん尊敬する父と同じ警察の道へ。警察官僚を目指して勉強中。

あの腐敗しきってる警察内部を私の手で変えて見せるわ。

 

 

 

 

「昼からの講義は民俗伝承学と……」

今年から出来た学科で、法学関連以外の選択科目で特に興味がある学科が無くて、定員も少ないし息抜きには丁度いいかもって 何となく選んだ学科で、今日がその初日。

学科選択時には教授や講師は未定って書いてあったわ。大丈夫なのかしら?

 

「この講義室ね……人が多いわね」

講義室前には人だかりが……しかも女性ばかり。

何かしら?

見知った顔の子も何人も…

 

「あっ真!真ってもしかしてこの学科を選択したの!?」

 

「そうだけど」

 

「えーー、いいな!講師があの人だって知ったら私も入ったのに!」

 

「誰が講師なの?」

 

「鳴上さんだよ!ほら!去年卒業しちゃった!超イケメンだよね!」

 

「ええ?」

鳴上さんってもしかして三つ上の学年の先輩。学内で何かと有名な人で私も知ってる人物だった……実際会って話した事はないけれど。でも卒業していきなり講師なんて……

私は女子学生をかき分けて、講義室に何とか入る事が出来た。

 

そこには、温和そうな優し気な感じの青年が、少々困り顔で壇上に立っていた。

この人が鳴上さん。確か校内広報とかにも写真が載っていたのを見たことがあるわ。

私は興味は無かったのだけど、去年の恋人にしたいランキング学内一位だったとか……

こうして本人を目の前にするのは初めてだけど、確かに整った顔。ちょっと蓮に似てるかしら。

 

ドクン

……え?……なに?……頭痛?眩暈?急に……頭の奥の何かが……?

……止まった。

何かしら、初めてペルソナを発現した時に少し似てる感じが……。

いいえ、あの事件でメメントスが崩壊し認知世界は消えた。もうペルソナは使えなくなったはず。

 

私は講義が始まってからも、何故か鳴上さんが気になって仕方がなかった。

 

 

30人も満たない小さな講義。

やはり参加してる生徒は9割以上男性。民俗伝承学なんてマニアックな学問は本来興味がある人しか受けないわよね。

講義の内容はその……よく覚えてない。

講義が終わった後、研究会を近々立ち上がるそうでゼミ生募集と呼びかけていたわ。

鳴上さんいえ、鳴上准教授。大学卒業したてで准教授とかありえるのだろうか?

 

 

 

私は家に帰り、夕食の用意をしお姉ちゃんを待つ。

メールではあと30分ぐらいで帰って来ると連絡があった。

待ってる間に何となくリビングでノートパソコンを開く。

大学のホームページを開き、自然と今日会ったばかりの鳴上さんの経歴を調べていた。

 

【3年時オーストラリアへ留学、現地大学の卒業資格を得る】

たった一年で海外の大学卒業資格を取得とは、そうとう勉強ができるのか、その分野で飛びぬけた能力を持っているかだわ。一昨年という事は私達が怪盗団として活動していた期間ね。

 

【大学在籍中に難事件の幾つかの解決に警察に協力】

【〇〇町と○○村、○○市の難題に貢献。市町村からの感謝状】

え?なにこれ?

民族伝承学と関係あるの?

風習とか慣わしとかの調査とか研究をする学問じゃないの?

それとは別に、彼個人が協力してる?いえ、それならば学内のホームぺージには載せないわ。

一体どういう事かしら?

 

いつの間にやら鳴上さんについて、次々と興味がわいてきていた。

 

今度は鳴上さん個人について、ネット上で情報を集めようとサイトを検索していた。

ある電子新聞記事を見つけることができた。

【お手柄、東都大学2年生鳴上悠さん(20)斬新な切り口で迷宮入り難事件解決。行方不明者4名無事救助】

え?……なにこれ?

 

 

「ただいま真……ん?真?」

 

「あっ、おかえりお姉ちゃん」

つい記事を見入ってしまって、お姉ちゃんが帰って来た事に気が付かなくて返事が遅れる。

 

「ぼーっとして、何を見てるのかしら?……その記事は……ああ、本庁の刑事の先輩が恥をかいた事件ね。なぜそんな記事を見ているのかしら」

お姉ちゃんは私の後ろからノートパソコンを一瞥してから、何かに気が付き覗き込む。

 

「知ってるの?おねえちゃん」

 

「あの獅童の事件の二年前ね。私も聞いた話なのだけど、その村では不審死が二人発見され、その後も行方不明者が立て続けに発生したのよ。誘拐・殺人事件の疑いで本庁が乗りだしたのはいいのだけど、捜査は難航、結局手がかりもまったく見つからず時間ばかり過ぎたらしいわ。しばらくして、この青年がふらりと現れて、その行方不明者全員を救出したらしいのよ。最初はこの青年こそが犯人だと先輩達は決めつけてかかったのだけど、証拠も集められない上に、本人に見事論破され、拳の置きどころをなくしたって話。後に先輩に会ってその話を聞いたら、その悔しそうな顔は傑作だったわ」

 

「犯人は見つかったの?」

 

「そうね。その犯人も彼の証言通りの場所に居たわ。犯人自身精神を病んでいて自供からは不明な点が多かったらしいけど、犯人の行動と状況証拠で犯人確定で事件解決というわけよ。……で、その彼がなにか?」

 

「うちの大学の講師なの。私が選択した二年時選択科目で受ける授業のね。しかもまだ卒業したてなのに准教授の肩書だったから、そんなに早くなれるものなのかと思って、ちょっと調べてたの」

 

「へえ、海外ではそういう事はあるらしいけど、日本では珍しいわね。そう、丁度いいじゃない。気になるならこの事件の事を聞いてみなさい。本庁のエリート達の鼻を明かした話、私も話の種として聞いてみたいわ」

お姉ちゃんはそう言いながら、少し悪戯っぽい顔をしていた。

そのネタを使って何か悪だくみ(情報協力という名の情報搾取)をするつもりね。

 

鳴上さん……蓮とどことなく似た感じがした。顔もちょっと似てるところもあるけどそうじゃない。雰囲気かしら?……よくわからないわ。

 

 

 

一度、話しかけて見ようかな。

お姉ちゃんもああ言ってたし。

 

 

 

 

そうこうしてる内に4月も末。

結局、鳴上さんとは一度も話をできずじまい。

民俗伝承学の講義は週1度で、しかも鳴上さんにひっきりなしに女子生徒が話しかけるものだから、なかなか機会が得られない。

講義が無い日は本人は外出してる事が多いみたいだし。

 

もうゴールデンウィークか……

杏の提案で一泊旅行に行く事になってるわ。双葉も春ももちろん一緒よ。今回は女子だけの旅行。たまには女の子だけでというのも悪くないわね。

私が車を出して温泉旅行へ。

温泉旅行に行くなんて竜司あたりが知ったら、連れて行けってうるさいだろうから、男連中には内緒にしてるわ。帰ってから土産話と一緒に教えるつもり。

 

蓮はゴールデンウィーク中はこっちにずっと居るって言ってたわ。ルブランの屋根裏で泊るみたいね。またみんなルブランで集まることになるでしょうね。

普段からしょっちゅう誰かしらと会ってるから、あまり新鮮味がないけれども。

先週も私の誕生日会を開いてくれてみんな集まってくれたし、蓮以外はみんな住んでる場所が近いから、ルブランに行けば誰かしらと会えるしね。

 

そういえば、祐介は8月に留学が決定したと言ってたわね。

それは少々寂しくなるけど、スマホでいつでも話せるしね。

 

 

 

【民俗伝承学科第一回現地研究会参加者募集。東京都○○市○○神社跡及び近隣調査。聞き取り調査が主になります。体力に自信がある方是非。日帰り。定員6名まで。日程5月2日7:00大学出発。主催:高畑貴志教授・鳴上悠准教授。連絡は考古学部第2資料室又は高畑貴志教授室まで】

何気なしに大学の掲示板を確認するとこんな募集が。

 

5月2日は空いてるわ。鳴上さんにいろいろ聞けるいい機会。

でも、もう定員埋まってるわよね。あの女性からの人気ぶりだと……一応聞いてみるだけ聞いてみようかな。

 

早速校内で一番古い木造の校舎に向かい、考古学部第2資料室の扉をノックをする。

「すみません」

 

「入っていいよ」

中から男性の声が返って来る。

鳴上さんの声じゃない。

 

「失礼します」

 

「なんか用かな?えー、ここの学部の教授をやってる高畑ーです」

白衣をだらしなく着崩した40前後位のひょうひょうとした印象の男性が、椅子から立ち上がり頭を掻きながら、挨拶をした。

高畑教授はこの大学ではかなり有名な教授で、若くして数々の発見や論文を記してきた生粋の考古学者。専門は日本の考古学全般。

 

「こんにちは、民族伝承学科講義を受けてます。2年の新島真です」

 

「あっ、君が法学部の新島さんか。勉強熱心だと他の教授連中からも聞ーてるよ。そんな君がこの寂れた学部に何の御用かな?」

かなり軽い感じのしゃべり方をする人で、とても偉い人には見えない。

 

「あの、5月の民俗伝承学科現地研究会の募集要項を見て、ちょっとお伺いしようと」

 

「ほう、君は民俗学に興味を?…んん?それとも君も鳴上くん目当てかい?だったらお断りだよ!」

しっしと言わんばかりに手を振って、いきなり拒絶される。

 

「ち、違います」

違わないけど、その他の女子生徒達とは違って鳴上さん自身に興味が有るとかではなくて、その、あの事件の事でも聞けたらなと。

 

「ならなんなんだい」

 

「その……まだ、興味とまではとは行かないのですけど、各地に伝わってる伝承が現代の生活にどう影響してるのかなって、気になって」

私は適当な言い訳を思いつくまま口にだす。

 

「いい!!実にいいよ新島ちゃんだっけ!!邪険にしてすまなかった!!そうなんだよ!!そういう事なんだよ!!古くからの伝承が今の現代とどう関わって、それがどう活かされているか!!そこに目を付けるなんて!!君は合格だ!!我々について来たまーえい!!」

教授は急に眼をキラキラさせて、私の腕を引っ張って無理やりその辺の椅子に座らされる。

どうやら私の回答は正解だったようね。反応が過剰だけど……

 

「………」

改めて室内を見回すと、教授が座ってるだろう机周りは乱雑だけど、第2資料室と呼ばれる高校の教室位の広さのこの部屋は、物は多いけど綺麗に整頓されていた。

 

「ん?……この部屋かい?悠…あー鳴上くんがさ、直ぐに綺麗にしちゃうんだよ。考古学ってもっとあれだ、埃っぽい方が雰囲気あるって言ってるのにさ」

私が思っている事を察し、大きくため息を吐く教授。

 

「あの、質問してもいいですか?」

 

「ああ、何でも聞きたまえ!」

 

「考古学部になぜ新しく民俗伝承学科を併設したのですか?今迄は考古学部だけだと」

 

「それ聞いちゃう?まあ、あいつのための学科だな。鳴上く……言いにくて仕方がない。もういいだろ。悠の奴の為さ」

 

「どういう事ですか?」

 

「あいつが研究っていうか、日本における古来からの伝承については、今じゃあいつの方が知識は俺より上だ。しかもあいつは単に研究だけじゃ収まらねえ。その伝承や風習を活かした街づくりや、それを残していく活動も行ってる。地元の人たちと協力してな。もう考古学っていうカビが生え切った学問の枠を完全に超えてるって事さ。

あいつは実績もあるし、即教授にしたかったんだが、上や他の教授連中がごねてな。若過ぎるとか言いやがって!…そんでとりあえず学科を作って、あいつの居場所を作ったってわけだ。……これは未来の日本人にとって必要な学問であるはずなんだが、なかなか他者に理解されねえ。それでもここまで漕ぎつけたのは、あいつの実力さ、人と人との繋がりらしいぜ。だってよ。宮内庁から直々に嘆願書がきたんだぜ!普通あり得ねえだろ?流石に俺もビビったよ。あいつがこの4年で民俗学に真摯に取り組んで築いてきた人のつながりは本物ってことだ。そんでしぶしぶ大学も動かざるを得なかったってことだ。大学のお偉方はそんな経緯や内容をまったく理解してねーけどな!」

 

「そ、そうなんですか」

……私もよく理解できないけど、凄い人みたいね鳴上さんって。この教授の個性にも十分驚いたけど。

 

「おっと、奥さん待たせてたんだった。悪いな新島ちゃん。俺出ねーと行けねーんだわ。談義は今度な。あれの参加はOKってことで、電車賃は自己負担だぞ。昼飯ぐらいは奢ってやらー。それと動きやすい恰好と飲み物ペットボトル2本な」

そう言って教授は私を資料室から出して、鍵をかけてそそくさと行ってしまった。

 

「……私、参加するとは言って無いんだけど……勝手に行く事にされてる。……まあ、いいわ」

私は高畑教授のバイタリティーというか、個性に圧倒されっぱなしだった。

 

 

 

 

5月2日民俗伝承学研究会当日 

「改めて鳴上悠です。よろしく」

挨拶をする鳴上さんは講義中とは異なり眼鏡をしていない。

講義以外の鳴上さんとは会った事が無かったかな。

イメージが少々変わるかな。私達の年代にずっと近づいた感じよね。

眼鏡をかけた姿は随分と年上に、……大人っぽい感じがしいてたわ。

 

「2年の新島真です。よろしくお願いします鳴上准教授」

 

「准教授って言われるのはちょっと慣れてないから、鳴上で」

 

「では、鳴上さん……あの、ところで参加者は私一人だけですか?」

周囲を見回しても、待ち合わせ場所の学校裏門付近には私と鳴上さんしかいない。

 

「……高畑教授が全部断っちゃって。よく君は参加を許してもらえたね」

鳴上さんは苦笑していた。何時もの事なんだろうな。きっと。

あの教授の対応じゃ、本当に行きたくても尻込みしちゃうだろうし。

 

「いえ、研究会の内容を聞きに行ったんですが、その勝手に参加OKになってしまって……肝心の高畑教授はどこに?」

 

「なるほど、教授によっぽど気にいられたんだ……その…教授は風邪で寝込んで来られないそうだ」

 

「ええ?」

 

「言いたいことはわかる。さっき教授の奥さんから電話がかかってきて…その、ごめん」

 

「いえ、病気なら仕方がないですが……」

 

「どうする?今日はやめにする?俺は行くけど……」

 

申し訳なさそうな表情を私に向ける鳴上さんを後目に考えをまとめる。

あの事件について聞けるいいチャンスね。

でも、直接話をするのが初めての年上の男性と二人っきりというのは……悪い人にはとても見えないけど。流石にまずいかしら。春に知られたら怒られそうね。

もし二人きりをいいことに、いかがわしい事をして来たら、鉄拳制裁すればいいかな。

腕っぷしには自信あるし。

 

「私は大丈夫ですよ」

 

「そうか……じゃあいこうか」

鳴上さんは笑顔を向ける。

緊張気味だったのだけど、その笑顔を見て一気にほぐれる。

……その笑顔は反則だわ。女性にモテるのは分かる気がする。

もしかして、蓮と同じで天然ジゴロ?

 

そういえば蓮って結局誰と付き合ってるのかしら……聞いても要領を得ないと言うか……。まさか二股?複数の女性と付き合ってるとか?あり得そうなのよね。蓮に限っては……。

私は勿論双葉を応援してるのだけど。

その双葉があの年増教師退治してやるとか、あの藪医者の弱みを握ってやるとか……占い師め。私が構築したソフトの方が当たる!とか、あの飲兵衛記者!未成年に酒を飲ませて何をしようとしてるんだ!とか愚痴を言っていたわね。

……年増教師ってやっぱり川上先生よね。あと藪医者は、近所のなんていうのかしら、ちょっと変わった女医さん。占い師と記者はわからないけど。やっぱり本当に複数の女性と付き合ってるのかしら、職業柄からもきっと全員年上よね。……まさかお姉ちゃんもだったりして……なーんてあり得ないわね。

 

 

電車に揺られしばらくすると、乗客もまばらになって行き、窓の外は徐々に田舎の風景に……。

今は空いた対面席に、鳴上さんと座ってる。

あの事件について聞くチャンスね。

でもどうやって聞こう?いきなり聞いたら怪しまれるわよね。鳴上さんの事を知らべさせてもらいましたなんて言ったら、ストーカーに間違えられるんじゃないかしら?

……自分の迂闊さに今更気が付いた。とても聞きづらい。

 

鳴上さんは私に話しかけるでもなく、ぼんやりと窓の外の風景を見ていた。

この沈黙は気まずい。……そう思ってるのは私だけかしら。

鳴上さんから話しかけてくれてもいい様に思うのだけど、なぜ現地研究会に参加したとか、今日の内容とか……そうすれば、私も聞き返しやすい。

そんな事を考えながら、チラリと鳴上さんの顔を伺う。

……今の鳴上さんは私とさほど変わらない年見える。実際年は3つしか離れていないからあたりまえなのだけど。

講義中の鳴上さんは実年齢よりもかなり大人に見える。眼鏡の影響も多少あるのかもしれないけども、それでも理路整然と講義する姿はとても一か月前までは同じ大学生だったとは見えないわ。なによりも自信に満ち溢れているもの。

 

「あの、鳴上さん。神社跡での調査というのは実際には何をするんですか?」

 

「そっか、……何も説明してなかった。ごめん。つい何時もの調子で……いつもは一人か高畑教授とだけだから」

……説明するのを忘れていただけのようね。意外と抜けてる所があるのかしら。

 

「はい、私はこういう活動は初めてなので、教えていただけると助かります」

厳密にいえば初めてでもないわよね。怪盗団では隠密行動をとりながら、お宝を見つける為に綿密に現地調査を行っていたのだから。

勝手は色々と違うのだろうけど、根本は一緒よね。

 

「高畑教授が見つけて来た案件で、俺も実際に行くのは初めての場所だ。今日は神社の成り立ちから、廃止までにいたる経緯の調査かな。郷土史の資料では明治にはまだ健在だったようだけど、それ以上の詳しい内容は分からずじまい。この前の講義した内容を覚えてる?明治から大正にかけて行われた神社合祀令(神社整理)について、その影響で廃止となったのだろうけどね。資料が殆どない神社だから、今回の調査の結果次第では、郷土史の穴を埋める発見があるかもしれない。頑張ろう」

 

「え?結構重要な事じゃないんですか?……私みたいな素人が関わっても良いんですか?」

 

「どうせ今まで放ったらかしになっていたんだ、そんなに重要な事じゃない。誰に迷惑かけるわけでもないし、気楽な感じでいい。ただ、この土地にこんな歴史や風習があったんだと自分達で調べて見つけたら、楽しくない?」

そう言って語る鳴上さんは楽し気ね。こういうのが好きなようね。

私はあまり歴史とかには興味はわかないけど、わからなかったことが分かるようになる事に楽しみを覚えるのには賛同するわ。

 

「わかりました。参加するからには出来る限りの事をさせてもらいます」

でも、参加するからには全力でやらなきゃね。

 

この後も、調査について幾つか話をしたのだけど、あの事件については聞けずじまい。

なかなか切っ掛けがつかめない。

そうこうしてる内に、駅に到着し、川岸の道路を歩くこと1時間。

なるほど、確かに動きやすい恰好が必要ね。ハイキングのような物ね。

 

山道に少し逸れた場所に入ると、木々が他よりも生い茂ってる場所に神社の鳥居らしきものが見えて来た。

「………当たり……だな。それ程強い気配じゃないが……高畑教授はよりによって、こんなところを第一回目の研究会に……」

鳴上さんは半分呆れたような感じで独り言ちていた。

 

当たりって何かしら?

 

鳥居の前まで到着する。5m程の木造の鳥居は傾きかけ、朱色だったものは色あせて、半分朽ちかけていた。

鳥居の奥には所々欠落した石の階段が続き、石段の頂上にももう一つ大きな鳥居が……

何となく不気味な雰囲気ね。

 

 

鳥居の前で鳴上さんは振り返り私を見据える。

「やはりか………今日はここで帰ろう」

 

「え?なぜですか?調査は良いんですか?」

 

「……ちょっとね。まだ……その早いと言うか。説明が難しいが、やめておいた方が良い」

 

「ん?鳴上さん。石段の上の鳥居の下に小さな子が……どうしてこんな場所に子供が、声を掛けないと」

石段を登り切った場所に子供の影が見えた。

影なのになぜか子供だと認識し、私は衝動的にその子を追いかけるように石段を駆けあがる。

 

「不味い!新島さん!」

 

私が鳥居をくぐり、崩れかけている石段を駆け上がると急に何かしら違和感を感じるが、子供を追いかけなければという衝動のまま、石段の上まで駆け上がる。

 

石段の上には立派な社が建っていて、しかも屋台が沢山でて、祭囃子まで聞こえてくる。

先ほどまで、そんな音や気配はまったくなかったのに。

 

そして、その屋台には、人の影が……いえ、影だけが蠢いている。

祭囃子も影が演奏している……。

しかも、石段の上の鳥居の下に私が見かけた子供の影も……影だけ……しかも、何故か私を見上げ笑っているようにも見える。

 

「……これは?シャドウ……もしかして、ここはパレス?どうして?」

このざらついた独特の空気感、まるでパレスの中のと同じ感じ………

 

その人影達が私に気が付いたかのように一斉にこちらに振り向く。

なに……これ?

 

そして、私はいつの間に、怪盗団でクイーンと呼ばれていたあの勇ましい姿に変身していた。

……どういう事?やはりここはパレスの中?……なぜ?あの事件でパレスは無くなったはずよ!どうして……これは誰のパレスなの!?

この姿……私は敵とみなされたって事?

 

人影はのそりのそりとこちらに向かって近づいてくる。

そして……化け物に変化して、私に一気に迫って来た。

 

「やっぱり!シャドウ!……まずいわ!!ヨハンナ!!」

私は反射的にヨハンナの名を叫んでいた。

ヨハンナは私の声に反応し『久し振りですね。また貴方の正義を見せつける時です』と私の心の中に返事をしながら、私の目の前に現れる。

良かったペルソナが…ヨハンナが私の声に反応してくれた!…やっぱりここはパレスの中!

 

「行くよ!ヨハンナ!!フル・スロットル」

私は大型バイクの姿をした私の半身ヨハンナにまたがり、迫りくる化け物をヨハンナの突撃で蹴散らす。

 

上空からはカラスの姿をした化け物が迫って来た。

「爆ぜろ!ヨハンナ!!」

ヨハンナの核熱魔術『マハフレイラ』で爆破を起こし吹き飛ばす。

 

久々だけど上手くやれてる。

 

化け物たちはシャドウで間違いないと思うけど、今迄見たことが無いタイプ。

力はそれほどでもないけど、数が多いわ。

状況もわからない。一度引いてパレスの外に出ないと……

それに鳴上さんも私を追って巻き込まれる可能性がある。

早く脱出しないといけないわね。

 

私は元来た道をも戻ろうと、ヨハンナに乗ったまま勢いよく鳥居をくぐり石段を飛び下りたのだけど、鳴上さんが居るはずの石段下の鳥居にたどり着けない。

それどころかいつの間に山道を走ってる?

山道には小さな石仏がところどころ並んでる。見たことが無い風景。

 

しまったわ。パレスと同じね。迷宮化してるわ。

出口を探さないと……

 

私はヨハンナで山道を駆け巡る。

 

しかし、いつの間にやら元の社の前に戻っていた。

似たような道ばかりだから、どこがどうなっているかが把握できないわ。

ナビ(双葉)がいてくれたら……

 

元の山道に戻ろうとしたのだけど……

既に遅かった。周りはシャドウだらけに。

 

囲まれた!?

このままじゃ!

 

じりじりと迫って来る。

一点突破………それしかない。

 

覚悟を決め突破を図ろうとしたその時

 

「行くぞ」

掛け声と共に、目の前のカブトムシのような化け物が4体霧散していく。

 

「え?誰?」

刀を構える男性の後姿が目の前に現れる。

多分この男性がカブトムシのような化け物を倒したのだろう。

 

 

その男性は振り返る。

「そうか…君はペルソナ使いだったのか……だから教授は」

 

「鳴上さん?」

え?なぜ……なぜ鳴上さんが?…ペルソナ使いを知ってる……しかも生身でシャドウを倒した?

 

その後、鳴上さんは刀を振るい次々と私を囲んでいたシャドウを倒していく。

私も武術(合気道)の心得があるからわかる。凄まじい技量……。

しかも、電撃を体や刀にまとわせた技も繰り出してる。……鳴上さんは何者なの?

 

あっ、私もぼーっとしてる暇は無いわ。

 

「ヨハンナ!!飛ばすよ!」

私もヨハンナと共に、シャドウを倒していく。

 

 

周りのシャドウが次々と消滅し、ようやくひと段落つく。

 

私はヨハンナを一時収めて、鳴上さんに話しかけ一気に疑問を問いかける。

「その……鳴上さんは何者ですか?ここは何ですか?パレスの中ですよね」

 

「……その姿、いやその仮面が君のペルソナの核で、先ほどのバイクがペルソナか……霊能者……いやペルソナ使い。しかもこれ程の使い手に会うのは久々だ」

 

「あの、私の話を聞いてます?」

 

「すまん。説明は後でする。新島さん手伝ってくれ」

鳴上さんはそう言って、社の方へ進んでいく。

 

「え?どういう事ですか鳴上さん?ちょっと待ってください」

鳴上さんの後を追う。

 

「今から、この異空間を形成してるだろう者に会う。戦闘になる可能性が高い。準備してくれ」

鳴上さんは歩きながら振り返り、こんな事を言って来た。

 

「だから、どういう……」

あ……もしかして、このパレスのような空間で何かを成そうとしてる……パレスの主と戦うと……

鳴上さんの落ち着き様はどう?この状況に慣れてる?……鳴上さんは何らかの特殊能力者のようね。霊能者という言葉も出てきたわ。しかも私達ペルソナ使いを知っていて、他にもペルソナ使いがいるような事も言っていたわ。

 

「……来る」

鳴上さんが社前で歩みを止めると……社の正面から白装束を着た顔色の悪い若い女性がスッと現れる。……いいえ、年の頃は中学校に入りたて前後かしら、少女と言った方が良いわ。

 

『………お菓子は持ってきたの?………貢物は?賽銭は?お祭りは?お囃子は?』

その少女は、宙に浮き……静かに私達に近づき、こんな事を聞いてきた。

 

「お菓子はある。後で社にお供えをする。君はどうしてここに?」

鳴上さんはこんな状況なのに、冷静にその少女に対応する。

 

『…………毎日、お供えするって言ってたのに……誰も来ない。ずーっとずーっと来ない!!独りぼっち!!もう、嫌なのに!!独りは!!早く父様と母様のいる下に行きたいのに!!』

少女はいきなり怒りをあらわにする。

 

「そうか、君は厄災の人身御供としてここに……誰もいないここにずっと一人で……分かった俺が天に返す」

 

少女は既に鳴上さんの言葉は聞いてない。怒りの形相で狂ったように叫びだし、次々と周りにシャドウを生み出す。

私は身構え、戦闘態勢をとる。

 

 

目の前の鳴上さんは……

 

「ペ・ル・ソ・ナ!!だいそうじょう!!」

右手に青白い炎を纏ったカードが出現し、気合いの声と共にカードを握りしめると、頭上に高僧の即身仏が現れた。

 

ぺ…ペルソナ!?

鳴上さんはペルソナ使い?間違いない。あれはペルソナ!!

 

「君の無念は分かる。……君は人身御供として死を強制され、ここに永い間縛られていたのだろう。既に居ない住人のために………だから天に返す!マハンマオン!!」

 

そのペルソナが何やら言葉を紡ぐと……その少女と、現れたシャドウが光の柱に包まれる。

間違いない。ハマ系術だわ。

 

すると、少女とシャドウは光の柱の中で徐々に薄らぎ消えて行った。

 

 

 

鳴上さんはその後も構えを解いていない……

「チェンジ!イ・ザ・ナ・ギ!!」

それどころか、ペルソナを入れ変えた!?

黒ずくめの大きな人型のペルソナが鳴上さんの目の前に現れる。

 

あの力、蓮と一緒!でも……このペルソナの力は何?先ほどのペルソナも凄い力を感じたけど、このペルソナは規格外だわ。まるで蓮のサタナエルと同じぐらいの力を感じる。

 

このペルソナ、鳴上さんの雰囲気と似ている……

 

 

社から今度は黒い泡のような物が一気に吹き出て来て、徐々に一つの塊となる。

まるで大きな黒いスライム………蓮が扱うアバドンとかいうペルソナに似てるわ……

禍々しいけど、さっきの少女よりも力を感じない。

 

 

「厄災の本体……こんなもののために、先ほどの子は……イザナギ!行く!!ジオンガ!!」

鳴上さんのペルソナイザナギが手にする大きな刀を空に掲げると、その大きなスライムに強烈な雷光が空から降り注ぐ。

 

そして……その大きなスライムは跡形も無く消滅。

 

 

 

この異空間も徐々に解けて行き、目の前にあった立派な社はなくなり、荒れ果てた土地と木々が現れる。

 

私のあの恰好も解け、元の服装に……

パレスが解けたのね。

 

 

「ふぅ、新島さん。巻き込んですまなかった」

鳴上さんは振り返り、一呼吸してから私に話しかける。その手には持っていたはずの刀は無かった。

 

「その……どういう事ですか?私は何が何だか………そのただ一つ分かったのは、鳴上さん……あなたがペルソナ使いだということだけです」

 

「君もね……流石に最初に君のあの姿を見た時は驚いた。普段のお淑やかな感じとは全く逆だったから」

 

「あ……あれは忘れてください!!」

自分で顔が真っ赤になるのが分かる……20歳にもなってあの恰好は流石に…だって仕方がないじゃない。パレスではあの恰好が普通なのだから!

 

 

この後、私は休憩する。

久々のパレスに、ペルソナを使ったことによる疲れと脱力感が辛い。

 

鳴上さんはその間、この神社跡を彼方此方と調べていた。

鳴上さんは疲れが見えない。

もしかして、鳴上さんはペルソナを使って、あのネットに載っていた事件とかを解決していたのかしら。私たち怪盗団が行っていたように……それだったら納得かも。

 

 

この後、十分休憩を取った後、駅まで歩くことになる。行きは一時間だったけど、私の足取りが遅く2時間程かかり、駅に着くころには日が落ちかけ夕方に。

 

その間に、鳴上さんにいろいろ聞いた。

やはり、鳴上さんはペルソナ使いだった。

今回の事は、江戸時代末期に何らかの厄災がこの地に起き、人身御供としてあの少女が生贄にされ、この神社が建立されたらしい。その厄災の種もごくごく小さなもので、あの様な姿になっていたが、本来放っておいても問題ないぐらいの物だったらしい。

だけど、あの少女は厄災の封印のために死を強制させられ、神社に括られていたと……

しかし、厄災から守っていたはずの住人が、時代の流れと共にこの地から去り……この神社も忘れ去られ……封印の一助であるお供えや祭りも行われなくなり……封印が綻び、括られていた彼女自身が暴走しこんな形で異界を形成したと、今回の事象と跡地調査で鳴上さんは推測していた。

 

彼女は寂しかったのだと思う。だから、異界の中で祭りやお囃子を……そして私を見つけた彼女は……私を誘ったのだと……でも私はペルソナ能力者、そういうのを感じ取って敵と認識した。

鳴上さんの話を聞き私はそう感じた……。

鳴上さんが行ったマハンマオンの光は優しかった。とても攻撃をしてる感じには見えなかった。

マハンマオンの光に溶けていく彼女の霊は……小さく微笑んでいたように見えた。

 

鳴上さんはこういう暴走までも行かないまでも、何らかの不具合を起こしてる村や町に行って、調査を行って、伝承や風習に基づき、風習を復活などの改善等に取り組んでいるらしい。

過去の風習や伝承には必ず何らかの意味があると……それが損なわれる事によって何らかの不具合がその地に起こると言っていた。

詳しくはかなり複雑らしいのだけど、簡単に言うとそういう事らしい。

 

今回のようにペルソナを使うような事は少ないケースだと……

巻き込んでしまった事を私に何度も謝っていたわ。

鳴上さんというよりも、この場所を第一回研究会に選んだ高畑教授が悪い様に思うけど。

高畑教授も鳴上さんがペルソナ使いだと言う事は十分承知していて、高畑教授自身はペルソナ使いではないそうだけど、元お寺の跡継ぎで霊能者らしい。

 

 

電車に乗り込むと、私は疲れで直ぐに寝てしまって、その後はタクシーで自宅マンションまで送ってもらった。

……鳴上さんがどうやってペルソナ能力を得たとか、鳴上さん自身の事は聞けずじまいだし、私の事は全然話は出来てない。

 

しかもペルソナとは何なのか、ますます私の中で分からなくなった。

反逆の心。私の抑圧されていた心がペルソナだと思っていたから……だからパレスの中の私の姿があんな感じに……

鳴上さんは全く姿を変えずにペルソナが使えたしね。

認知世界のパレス以外にも異空間が存在し……そこでもペルソナが使えるとか、謎が深まるばかり。

 

しかも今回の事象みたいなのは、結構あると言う事なのかしら?

私達以外にもペルソナ使いが居て……しかも霊能者と呼ばれる人も関わってて……

なかなか整理のつかない話ね。

世の中の裏側には私の知らない事が沢山あるという事だけは分かったわ。

 

 

鳴上さんはタクシーでの送り際に、再度謝りながら……

ゴールデンウィーク明けに、また話をしようと約束してくれた。

 

 

鳴上さんが人身御供にされた少女に使ったあのマハンマオンの光を思い出す。

ペルソナ……敵を倒すための力だけじゃなかった。

……あの少女は確かに微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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