誤字脱字報告ありがとうございます。
ペルソナ4Dからかなみん登場です。
今回さらに長くなりそうだったので、前後編となります。
ゴールデンウイークに双葉と杏と春とで予定通り熱海に温泉旅行に。
昨日のあの神社跡でペルソナを使った疲れがあったけど、温泉にゆっくり浸かって疲れが取れたように思うわ。
最近の流行についてや、恋バナや男連中にたいしての愚痴など、男連中の前では話しにくい話を大いに楽しめたわ。女子だけの旅行も悪くは無いわよね。
双葉は蓮の事が好きなのに、蓮を目の前にすると素直になれないよう。
不器用に恋をしてる姿は可愛らしい。
でも、ライバルに対しては容赦しないみたいで、温泉旅行の前に蓮のスマホに何か仕掛けたようなの。ゴールデンウイーク最終日に会った蓮はクールを装っていたけど、引っ掻き傷やら痣など作って、包帯や絆創膏だらけの姿になっていたのだけど……
双葉はその後、ニカっとした笑顔で『修羅場を演出した』と私にこそっと耳打ちしたわ。
蓮に何が起こったか想像に難くないわね。双葉にも困ったものね。
でも、最終的には女性関係に少々だらしない蓮が悪いのだろうけど。
春は学業に仕事に忙しいみたいだけど、充実してると笑顔で言っていたわ。
父の死を乗り越えて、頑張る春の姿はとても眩しい。
私はお父さんが亡くなった時、ただただ泣くだけだった。
私にはお姉ちゃんが居たから……
杏は仕事は順調らしい。
でも、なんか変。
というよりも……祐介をやたら悪く言うのだけど……
これって、その逆なのかな。祐介の事を意識してるってことよね。
祐介が8月には海外留学に行くからかな。
それで余計に……
杏は自分の気持ちに整理ついていないよう。
まだ黙って見守っていた方がよさそうね。
鳴上さんに成るべくペルソナ関連の事は秘密にしてくれと言われていたけど、皆には話さないわけにはいかない。
温泉旅行の時にも話したのだけど、ゴールデンウイーク最終日、皆でルブランで集まった際にも話をした。
やっぱり皆驚いてた。
そうよね。やっぱり驚くわよね。
何よりも、ペルソナ使いが自分たち以外でも居たという事と、自分たちの中にペルソナはまだ息づいている事、パレス以外にあのような異空間が存在しペルソナが使える事に。
双葉が鳴上さんの事を調べたようなのだけど。
彼自身の経歴は普通の範疇内。かなり成績は至って優秀だという以外はね。
気になるのは、鳴上さんが高校生の時代に殺人事件が起こった町に一年間だけ居た事かな。
そこでは、殺人事件とは別に変な噂が囁かれていた。
霧がその年に限ってかなり濃かったとか。
電源を入れていないはずのテレビが真夜中の0時に勝手につくとか。
それ以外は、私がちょっと調べた鳴上さんの大学での活動内容にプラスされたような情報のみだった。
後は、女優にアイドルとマルチな活躍を見せるトップアイドルの久慈川りせと知り合いだと言う事……。そんな噂は学内でも上がった事ないけど。
……2人並んだら結構お似合いかもと想像してしまった。
皆の意見では、一度みんなで鳴上さんに会いに行こうという話になった。
私もそれが良いと思う。
鳴上さんは私達が知らないペルソナやそれに付随する世界について知ってるはずだから。
この能力の本当の意味と、世の中に蠢くシャドウやあの神を名乗った存在とかの話を聞けると思う。
ゴールデンウイークが明けたその日。
午後の講習を終え、鳴上さんが居るだろう考古学部第2資料室へ向かい、古い木造の校舎の階段に差し掛かった頃。
何かしら?
怪しい人の後姿を目撃した。
なにやらコソコソと誰かをつけているか、探しているかのような行動をしていた。
今は、第2資料室がある2階廊下の様子を階段踊り場から覗いている。
女の子のようなのだけど。
緑色のジャージを着て、長いボサボサの髪を左右で括っていて、どうやら眼鏡をかけてるよう。
そわそわキョロキョロと挙動が明らかに不審者のそれよね。
……鳴上さんのファンの子?ストーカーかしら?
声を掛けて注意した方がいいわよね。
「あなた。ここで何をしてるのかしら?」
私は怪しい行動をとる女の子の後ろから声を掛けた。
「どしぇーーー!ええ?あわわわ。あ、怪しい人じゃないですよ」
その慌てっぷりに、その言動……もはや自ら不審者を名乗っているようなものよ。
「……怪しい人って自分で言ってるじゃない」
私は呆れながらその子の手を掴む。
ん?前髪で隠れていたけど、可愛らしい顔ね……どこかで見たような。
「なななななな、怪しくないです~。ちょっと人を探してただけなんです~っ」
怪しい子は声を大にして、ジタバタしだす。
「物凄く怪しいわよ」
私は呆れるばかり。
どうしよう、この子。
うちの学校の生徒かしら?
そこに丁度、階段を上がって来る人物が。
「新島さん……それにかなみ?」
鳴上さんが階段を上がって来た。
「鳴上さんこんにちは、この子が怪しいそぶりを見せていたので……」
私は鳴上さんに今の状況を説明する。
しかし……
「ゆゆゆゆ、悠さーーーん!!探しましたよ~っ!!マンションにも居ないし、学校まで来て探したら、この女の人に捕まって~~」
女の子は鳴上さんに飛びつかんばかりに、駆け寄る。
どうやら彼女、鳴上さんの知り合いのようね。
「スマホで連絡してくれたらいいだろ?」
「あ!?……忘れてました~」
「ふぅ、どうして大学まで来た」
「悠さんのごはんを食べて癒されたかったんです~」
女の子は鳴上さんの腕に縋りつく。
何この会話?どうやらこの子は鳴上さんの随分親しい知り合いみたいだけど、恋人には全く見えないし、妹なのかしら?でも、鳴上さんは一人っ子のはず。
「鳴上さんの知り合いですか?」
「ああ、そうなんだが……とりあえずかなみ。話はこっちで…新島さんも悪い。第2資料室でいいかな」
私は第2資料室までついて行く。
かなみさんと言ったかしら、彼女は嬉しそうに鳴上さんの横にくっ付いて行く。
ファンの子がこの姿を見たらどう思うかしら……でも彼女の姿恰好では鳴上さんを狙うライバルとかには見えないでしょうけど。
「そこらへんに座って、新島さんは紅茶でいい?」
「お構いなく」
私は資料室の6人掛けの大きなテーブルの椅子に座る。
「私も紅茶で!あとごはんも!」
かなみさんは私の前に座る。
「わかった」
第2資料室の廊下を挟んだ給湯室へと鳴上さんは呆れた顔をしながら出て行った。
「自己紹介まだよね。法学部2年の新島真です。あなたはこの学校の生徒なの?」
私はごはんごはんと繰り返し鼻歌を歌ってるかなみさんに聞く。
「へ?違いますよ~。大学生に見えます?きっと賢そうなオーラがにじみ出ているですね私って!」
「じゃあ、高校生かしら?」
「ちちちち違います~っ!こう見えてもハタチです~っ!!」
「え?私と同じ年?」
とてもそうには見えない。子供っぽいというかなんていうか。
「へ?同じ年って、う~なんか大人っぽいです~。……わたしも自己紹介すべし!真下かなみです~。テレビで見た事ないですか?」
「真下かなみさん?テレビ……うーん」
聞いたことあるのだけど……どこでかしら。
「ええ?私を知らないんですか!?かなみん知らないんですか?」
「かなみの今の姿で、誰だろうと売れっ子アイドルの真下かなみだとは分からない」
鳴上さんが戻って来て紅茶を私とかなみさんの前置き、そう言ってまた直ぐに、部屋を出て行ってしまった。
「え?」
私は改めてかなみさんをまじまじと見てしまった。
……売れっ子アイドルの真下かなみって、まさかあのキラキラというかキャピキャピとした感じで若い子に人気の真下かなみ?……でも全然そんな感じが……
髪の色だって真っ黒だし。服も地味というかジャージだし、髪の毛もぼさぼさだし。メガネかけてるし。
「お肉は霜降り、動きはゆっくり、食べたら寝べし! のおっきな牛さん、“真下かなみ”です!」
かなみさんは立ち上がり、眼鏡をはずして、CMなどでおなじみの真下かなみのキャッチフレーズの振り付けを見せてくれた。
「ええ!?本物!?真下かなみ!?でも??」
お化粧はしてないけど顔もよくよく見れば真下かなみ。
胸も物凄く大きいし!本物?でもこれは流石に……私生活とTVとのギャップが凄すぎる。
いいえ、これはもしかすると、ファン等から隠れるための変装かしら?
「ようやくわかってくれましたか!?そうです。私がかなみんですっ!!」
かなみさんは大きな胸を突き出して、満足げに頷いていた。
その恰好で、そう言われてもあまり説得力がないのだけど。
久慈川りせだけでなくて、真下かなみさんも鳴上さんの友人ということのようね。
確か、二人とも同じ事務所だったような、そう言う繋がりなのかもしれないわ。
「私生活もオシャレをしたらどうだ?りせみたいに」
鳴上さんが戻って来てピラフとサラダをかなみさんの前に置く。
「私は良いんです!りせ先輩みたいに細くないですし!ファンには絶対バレないですし!!何よりも私が楽です!!普段の自分を見失わないべし!!……そして頂きますなのです!!」
……どうやら、変装とかではなくて、こういう子なのね。
しかも、あのテレビの明るいキャラクターは素のようだわ。
かなみさんは美味しそうに鳴上さんが持ってきたピラフを食べ始めていた。
「鳴上さんの手作りですか?」
「ああ、作り置きしてる。教授が食べたいと駄々をこねることが有るから。ピラフだったら冷凍出来るし便利だ。君も食べる?」
鳴上さんも料理ができるようね。
そうね。蓮も祐介も料理が出来るし、この頃は男子でも普通に料理するわね。
出来ない女子の方が多いぐらいかしら。
私達の中で料理ができないのは、双葉と竜司だけかも。
「いえ、私はお昼は済ませましたので」
そう言いつつ、私はかなみさんが美味しそうにご飯を食べてるテーブルから離れ、一つ離れた作業台のようなテーブルの席に座る。
鳴上さんもならって、私の前に座ってくれる。
「あの、本当に彼女はあの真下かなみさんなんですか?」
かなみさんにチラっと目をやり、鳴上さんに小声で聞く。
正直、今のかなみさんを見ていたら、一度は本人だと認識しても、また直ぐに疑問が浮かんできてしまうわ。
「……正真正銘本人だ。アイドルのかなみは、姿恰好は別人レベルでキャラ作りをしているが、性格は素のままだ。元(素顔)はいいから最初は清純派で売ろうとしたようだ。だが、あの性格が元でこうなったようだ」
鳴上さんは淡々と説明をする。
正真正銘本物。鳴上さんの話は今の彼女を見てると、自然と納得できてしまうわ。
「……それはそうとですね。先日の件でお伺いしたのですが、後の方が良いですか?」
再度、美味しそうにピラフを口にするかなみさんを見やってから、鳴上さんに本題を切り出す。
先日の事とはもちろん研究会のあの事件とペルソナの件。
かなみさんが居る前で話す内容ではないわ。
「いや、大丈夫だろう。内容にもよるが、かなみも俺がペルソナ使いだと知ってる。まあ、しばらくピラフに夢中になってるだろうし、この距離だと話の内容は聞こえない」
鳴上さんも苦笑気味にかなみさんに目をやっていた。
鳴上さんのかなみさんへの対応は、やっぱり妹のような感じがする。そう言うポジションみたいね。
蓮の双葉への接し方に似てる。妹ポジションから脱却しないと双葉にも目は無いかもしれないわ。
「わかりました。先日は家の前まで送って頂いてありがとうございました……」
私は一息ついてから、まずはタクシーで自宅マンション前まで送って貰った事をお礼を言う。
「いや、俺の方も巻き込んで悪かった」
「その……鳴上さん。根本的な事を聞きますが、ペルソナとは何ですか?」
「君はなんだと思う?」
鳴上さんは私の質問に対し、聞き返してきた。
「私、いえ私達の認識では、ペルソナは自身の抑圧された感情が、怒りによって顕現した存在。怒りを表現したもう一人の自分です。」
そうヨハンナは私の怒りの代弁者。許せないという心が呼び起こした私の半身。
「なるほど、怒りか……それであの勇ましい姿なのか」
「あ、あの姿は忘れてください!」
本当に恥ずかしい。あの姿を仲間以外の他の人に見られたと思うと……
「ん?カッコよかったけど?」
「恥ずかしいので……それよりも鳴上さんはどう認識してるんですか?」
「ほぼ一緒だ。だが完全にもう一人の自分だと認識している。それは自分の中に存在する嘘偽りなき存在だと。しかしペルソナは成り立ちが人によって異なる。君……いや君らは怒りによってペルソナを顕現させることが出来たのか……俺達は自分たちの抱えている弱い心をシャドウに変えられ、それを立ち向かい受け入れることでペルソナを顕現させることが出来た。俺だけは少々違ったが」
「……シャドウに変えられた?どういうことですか?」
「神が作った世界に閉じ込められ、受け入れられない自分の醜い一面をシャドウに変えられ、そのシャドウに襲われた。そして実際にそれによって命を落としたものもいる。その自分の半身と言えるシャドウと対峙し、己の弱い心を受け入れる事によりシャドウはペルソナとして転生を果たした。だからそのペルソナは自らの心を表現した姿となった」
どうやら鳴上さんと、私達のペルソナの成り立ちがかなり異なるみたい。
「私達は認知世界という場所で、人の心を弄ぶような巨大な欲望を持った人間の心の世界に入り込み、その中で自分の抑圧された心を怒りによって解放し、ペルソナが顕現したんです。結局その認知世界は、人間を弄ぶ神と名乗る存在が作りだした世界だったのですが……」
「神を名乗る存在が関わるか……しかし、君……いや君には仲間がいるだろう。絆の力を感じることが出来る。その君らは自らの意思で悪に抗うためにペルソナを解放した。……強いはずだ」
「私に仲間が居ることまで……どうしてそれを?それに絆の力とは?」
「君のペルソナからは女教皇のアルカナを感じた。仲間を思う心を感じる。君は強くて優しい」
この人さらっとこんな事を言うなんて、やっぱり天然かしら?
「そ、そうですか」
「俺の持論だが、ペルソナとは人の内面を映したもの。自身の精神を具現化したものがペルソナだ。
人によってペルソナの成り立ちや、扱いが異なる事が多い。君の場合は怒りがキーワード、俺と俺の仲間は自身の醜い、いや弱い心だ。それによってペルソナの発動条件や振るえる力が大きく変わるようだ」
「精神を具現化……鳴上さんにも仲間が、それ以外にも?」
「ああ、俺が知っているだけで20人は居る。ペルソナは一種の霊能力者だ」
「れ、霊能力者……あの、高畑教授がそうだと言ってましたが、本当にそんな人が」
霊能者ってテレビとかで見かけるうさん臭い人という印象しかないけれども……
「ペルソナ使いなんてものが存在する。霊能力者が居ても全然おかしくない」
確かにそうよね。私達がペルソナを使えること自体が、世の中ではファンタジーの世界だわ。
「ではシャドウとはなんですか?」
私は次の質問をする。
「一概には何とは言えない。人の感情が集まって具現化したものであったり、死者の行きつく過程の物であったり、それぞれだ。そのような不確定なものをひっくるめてシャドウと呼んでいるだけで、発生過程は色々だ」
そうなのね。私達が今迄パレスで敵対していたシャドウと、先日の神社跡で対峙したシャドウは何かが違っていた。
「……神や悪魔は存在するのですか?」
「存在する」
鳴上さんは力強く断言した。
「………」
「……先日のあの神社に人柱として括られたあの女の子は、いわゆる人工的に生み出された限定的な神だ」
「え?どういう?」
「この世界の理に介入できる存在が神であったり悪魔だと……神や悪魔は同列の存在であり、すべては別の存在ともいえる。人間の物差しで神や悪魔と分類しているだけの話だ。俺はそんな存在を幾つか知っている」
「あの…」
私は鳴上さんが言っていることが、なかなか理解できなかった。
でも、あの神を名乗った聖杯を思い浮かべ……何となくだけど、その意味が分かる気がした。
「あ……ごめん。まだこの話は早かったかな」
鳴上さんは申し訳なさそうな顔をしていた。
「いろいろとその、まだ、話が突拍子も無くて、よく飲み込めてはいないのですが……鳴上さんのお話は何となくですが理解できます」
私はまだ、鳴上さんの話を消化しきれなかった。
メメントスや認知世界は、あの神を名乗る聖杯が起こした現象だった。
あのような存在が他にも居てもおかしくないわ。
しかも、先日のあの神社での出来事……
「悠さ~~ん。何話してるんですか?私を仲間外れにしないでくださいよ~」
かなみさんが鳴上さんの横に椅子を持ってきて、勢いよく座る。
「かなみ。ピラフはもういいのか?」
「とりあえずは満足です~。腹半分目にすべし!ふっ~大分癒されました!」
「今日は仕事は大丈夫なのか?」
「それですっ!それなんです悠さん!!」
かなみさんは鳴上さんに顔を瑞っと近づける。
……かなり近いわ。
「……また、厄介ごとに巻き込まれたのか?」
鳴上さんはかなみさんの肩を掴み引き離してから、呆れたようにそんな事を聞いていた。
「ひどいです~。人をトラブルメーカーのように言わないでくださいよ~!」
かなみさんは口をとがらして、かわいらしく抗議しているのだけど……今でも十分トラブルメーカーだと思うわ。
「じゃあどうした」
「聞いてください~。今日の午前中、映画の宣伝で先行上映会のゲストに出たんですけど、映画が始まって40分ぐらいしたら、急に映画が止まっちゃって、しかも映画館全体が停電しちゃったんです~。復旧出来なくて……上演会は延期になっちゃんたんです~」
「ただの設備トラブルじゃないのか?」
「そこまでは良いんです!!私見ちゃったんです!!停電した瞬間に映画のスクリーンにおっきな穴が開いて!!なんか羽が生えた人がスクリーンの中に入って行ったんです!!」
きっと停電寸前のオカルト映画のワンシーンを見間違えたのじゃないかしら?
「………」
かなみさんの続きの話を聞いて鳴上さんの顔つきが変わる。
「それをスタッフの人に言っても、マネージャーさんに言っても信じてもらえなくて!!疲れてるんだ~とか言われて、せっかくだから休みなさいって帰らされたんです~!でも、私絶対見たんです~、あれは絶対いけない何かだったんです!」
普通はそう思われるわね。でも、かなみさんの表情に冗談や嘘を言っている風ではないわ。
「面白――――い!!かなみくん!!実に面白い!!」
突如として、資料室の大きな2段式のキャビネットの下の扉が勢いよく開き、興奮気味の大きな声で叫びながら人が這い出て来た。
え?なんでキャビネットから、え?……どういうこと?
「教授、キャビネットで昼寝ですか……また風邪をひきますよ。寝るなら教授室で寝てください」
鳴上さんは呆れたように、キャビネットから這い出て来た白衣姿の中年男性……高畑教授に注意をしてるけど、突っ込むところはそこかしら?もっと他にあると思うのだけど。
なぜキャビネットの中で寝ていたの?確かに人が入れるくらいの広さはあるけど、そんな狭苦しい場所にわざわざ?
まさかと思うけど、この前風邪ひいて寝込んだのは、ここで寝てたせい?
かなみさんも驚いた様子で鳴上さんにしがみついていたわ。
「いや~、あそこさ。本と資料で埋め尽くされててさ~足の踏み場のないんだわ。それにさーここのキャビネットってちょっとひんやりしてて気持ちいいんだ」
高畑教授は頭を掻きながら言い訳を言う。
そう言えば高畑教授は教務棟にある教授室を使わずに、この第二資料室にいることが多いと聞いたことがあるわ。
教授室を使わないんじゃなくて、使えない程散らかしていたのね。
教授室はそこそこ広いはずなのに……
「また奥さんに怒られますよ」
「………さあ、そんな些末な事は置いといて!かなみくん!!さっきの話詳しく話したまえ!!」
高畑教授は鳴上さんの注意を聞かなかった事にし、かなみさんに指さし仰々しい物言いをする。
「ふ~…かなみ、教授に話してやってくれ」
鳴上さん、腕にしがみついていたかなみさんに高畑教授に話すように促す。
かなみさんはゆっくりと語りだす。
かなみさんがゲストで呼ばれた映画は今話題のホラー映画ね。
劇場も、先行上映会とあって、映画の雰囲気に合わせた凝ったセットで飾り付けされていたとの事。
開始して中盤当たりで、映像の中の除霊師が呪文のような物を唱えるシーンが流れた瞬間。劇場が停電して、真っ暗になったよう。
その際、かなみさんは、羽の生えたいけない物がスクリーンに出来た穴に入って行ったと……
「悠、どう思うよ。ビンゴだろこれ。場所も丁度起きそうな場所だ」
「ですね……」
ビンゴってやっぱり、前の神社跡のような現象が起きているという事よね。
神や悪魔やシャドウが関わる現象の何かが起きてる。
「まあ、かなみちゃんが見た羽の生えた奴が何なのかはわからんが、明らかに怪しいよな。かなみちゃんは何か持ってるな~。ラッキー!!」
高畑教授はかなみさんに、ニカっとした笑顔でグッドのサインを出す。
かなみさん。高畑教授とも知り合いみたいだけど……かなみさんって、こういう事に巻き込まれることが多いと言いう事かしら?
鳴上さんと高畑教授とはそれ繋がりで知り合ったのかな?
「う~、私は全然ラッキーじゃないです~。でも悠さんのごはんが食べれたからよかったとすべし!」
「悠、とりあえず今からそこに行ってみるか。ここからも近いしな。もちろん新島ちゃんも来るだろ?」
「え?私も?」
「だって悠から聞いたけど、新島ちゃん。ペルソナ使いなんだろ?」
「あの、高畑教授は私がペルソナ使いだと知って、あの神社跡調査の研究会参加許可をしたのではないのですか?」
「ははっ、そんな事わかるわけがない!!超偶然!!俺って何かもってんなーーー!!超ラッキー―!!」
……という事は、何も知らずにあんな危険な場所に行かせたという事?もしかして、あの場所があんな危険な場所だとも認識なかったんじゃ?
かなみさんじゃないけど、アンラッキーよ。
同じペルソナ使いの鳴上さんとこうやって話し合えたのはラッキーなのかもしれないけども。
ふう。高畑教授って相当変わった人ね。もう変人レベルだわ。
天才と変人は紙一重というけど、まさにそうね。
「新島さん。教授はああ言ってるけど断ってもいいよ。無理強いはしない。でも君のような使い手が居てくれると助かる」
教授が資料室のキャビネットからゴソゴソと何かの準備をしてる最中に、鳴上さんが私に耳打ちをする。
「ここまで聞いてしまったら、行かない訳にはいかないですね」
鳴上さんにそう言われると断りにくい。何よりも私自身、興味が湧いて来たのは確かだわ。
こうして鳴上さんと高畑教授、そしてかなみさんと問題の劇場へとタクシーで向かう。
真下かなみ堂々登場
そういえば、かなみがメインのSSは見たことがないですね。