新島真は鳴上悠と出会う。   作:ローファイト

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ご無沙汰しております。
感想ありがとうございます。

内容が長くなって今回は中編です。


真と春とおかしな二人。【中編】

私は春から先日電話で相談を受けたのだけど……まさかこんな事になるなんて思いもよらなかった。

 

春は一週間程前に、アルバイト先の喫茶店で急に知らない男性から告白を受けて、それ以降何人もの男性に結婚やら恋人にならないかとかの告白を立て続けに受けるようになったとか。

春は流石にこの状況はおかしいと思い私に相談を……

春は知らず知らずの内に男性を誘惑するような振舞をしているのか気にしていたのだけど、私はそうは思わなかった。

その話を聞いて私が真っ先に思い浮かべたのは、春が亡くなったお父さんから引き継いだ莫大な遺産を狙っての事なのかもしれないと。

私は心配になり、翌日に春のアルバイト先の喫茶店へと様子を見に行く事に。

 

私は喫茶店に着いて早々、裏路地で春が男性二人に強引に迫られている姿を目撃し、春を助けるために男性の一人を取り押さえたのだけど……、それは私の大きな勘違いだった。

私が取り押さえてしまったちょっと軽そうな感じの男性は花村陽介さん、もう一人の男性は金髪碧眼の美少年然とした口調が独特な熊田クマさん。

お二人は春のアルバイト先の常連さんで、春が男に強引に交際を迫れていた所を見かけ、助けに入り、その男を追い払ってくれた春の恩人だった。

 

私は喫茶店で花村さんと熊田さんに謝罪し、春はお二人に改めてお礼を。

お二人は私達と年はそう変わらないように見えるのだけど、社会人で長期研修の為に東京に来られ、研修先の近隣にある春の喫茶店に通う様になったとか。

花村さんは、見た目は軽そうに見えるけど、話してみると節度を持った常識人。

熊田さんは、名前は日本名だけど海外の方の様、金髪碧眼の美少年然として、私達より若く見えるわ。

言動はかなり破天荒でそれを花村さんが窘める感じ、どこか祐介と竜司の関係に似てるわね。

お二人は悪い人にとても見えない。

そんな花村さんと熊田さん、春と私との会話の中で、春が最近急に続けて告白を受けていた事について話題が上がる。

春やお二人の話から、春だけでなく、近隣でもナンパが横行し、さらにはカップルの往来が増えてるとか。

そういえば落ち着いた雰囲気だった春の喫茶店も、カップル客が増えどこか様子がおかしい。

 

私は春が告白され始めた頃、近隣で変わった事が無いか聞いたのだけど、あまり関係ないかもしれないけどという前置きで春が語った内容は、私の勘に引っかかった。

この喫茶店の裏路地の奥に、縁結びのご利益があるという古い小さなお社があって、何でも自治会長さんが、そのお社を町おこしの一環として、縁結びの神様として大々的にアピールするために、電飾を施したり、液晶画面のある大きな看板を立てたりとか、勝手に改装を行ったと。

小さいながらも厳かな雰囲気のあったそのお社の風情を著しく損なうような様相に、近所の方からは不評だとか。

私が引っかかったのはそこね。

本来、神様を奉る神社やお社などには何らかの意味があって、その場所に建立され、その姿形状もそれに合わせて作られてる。

だから、神社やお社を無闇に壊したり移動させたりすると、その土地のバランスが狂い、周囲の環境に歪みが生じ、自然災害や疫病等として現れる…それが祟りだとか呪いだとか言われるものの正体。

もちろん鳴上さんからの受け売り。

春から聞いた話は、まさしく鳴上准教授の元で教わっている民俗伝承学でいう、なんらかの歪みが起きている状態ではないかと……。

この歪みは大きくなれば、諸所の問題が起きる。

最初は違和感ない程度の些細なものだったものが、徐々に現世に影響が現れるようになり、ありえない自然現象や災害、疫病や不自然な事故等、科学では証明できない様な現象が現れる。

 

もし、そのお社の改装が原因で、この地域の雰囲気がおかしくなったというのであれば、すでに現世まで影響が出て来ていることになる。

歪みはそこそこ大きくなってる可能性が高いわ。

 

放置してしまうと、歪みは更に酷くなり、何らかの実質的な被害が出るかもしれない。

 

 

飽くまでも私の推測が当たってるのであればという前提なのだけど。

もしかすると、この前のかなみさんの映画試写会時のような異界化が起こってるのかもしれない。

何にしろ、鳴上さんに相談する方がいいわね。

とりあえずはそのお社を確認して、鳴上さんに状況説明できるようにしておきたい。

 

春に問題のお社に案内してもらおうと思ったのだけど、花村さんと熊田さんも一緒に来て下さる事に……。

 

春には事前に私の推測の話を説明するつもりだったのだけど、花村さんと熊田さんの前では憚れるわ。

こんなオカルトじみた話をこのお二人に聞いてもらうわけにはいかない。

こんな話を信じてもらえるはずが無いし、変な目で見られるのが落ちね。

それに、無闇やたらとこの話を人にするものでは無いように思うわ。

異界や本物のオカルト事件にかかわるなんて事は、普通は無いのだがから。

 

 

 

私達は春の案内により、その問題の小さなお社へと向かう。

 

「マコちゃん、ここよ」

「……え?」

春にここだと指し示された場所を見て、私は一瞬目が丸くなる。

 

「なんだこれ?趣味が悪いどころの話じゃないっての」

「わぉ!ラブラブホテルそっくしクマ!!」

「あーあ、言っちまったよ。皆までそれ言っちゃう?」

「雪ちゃんの逆ナン城を小っちゃくした感じクマね!」

「……まだ、それ引っ張ってるのかよ」

花村さんと熊田さんがそう言うのも無理はないわ。

雪ちゃんの逆ナン城が何なのかは分からないけど、私はパチンコ店の外観の様な印象も受けたわ。

そこには神社やお社にある厳かな雰囲気など一つもなく、ネオン街にも引けを取らないギラギラした何かがそこにあった。

よく見ると、こじんまりとした鳥居が小さなお社の前にあるのだけど、電飾が巻かれた上に、大きな液晶画面が取りつけられ、流れる映像にはこの神社の御利益である恋愛成就についてだけじゃなくて、ラブホテルの宣伝等まで流れ、もはや鳥居本来の役割である結界の意味もなしていない。

狭い敷地には派手な電飾や宣伝の立て看板が立ち並び、怪しいお店の割引券なども置かれ、さらには自動販売機が鳥居の両脇に置かれ、その自販機には恋愛に関するお守りとおみくじが多岐にわたって販売されていた。

小さなお社自体にも派手な電飾が掲げられ、お賽銭箱にも液晶画面が取りつけられてる。

 

「春……花村さんではないけど、これは趣味が悪すぎるわ」

「うん……自治会長さんは不動産屋とその…歓楽街のお店やラブホテルの経営もされてて……それで」

これは想像以上に酷いわ。

普通に考えても罰当たりだと思うのだけど。

やはり、これが原因で歪みが起きているのではないかしら。

早速、明日にでも鳴上さんに相談した方が良いわ。

鳴上さんにこのお社の状況説明するのにも、写真を撮った方が一目瞭然ね。

 

私はそう考え、スマホでお社全体を撮ろうとしたのだけど……。

 

『助けて……』

か細い女性……いえ、女の子の声が何処からともなく聞こえる。

明らかに春の声じゃないわ。

まさか、誰か強引なナンパをされてる人が近くに居るのかしら?

私は咄嗟にそう思って周囲を見渡しても、私たち以外誰もいない。

 

「春……今、助けてって女の人の声、聞こえなかった?」

私は春に訪ねる。

 

「え?何も聞こえなかったけど……」

春はそんな私を不思議そうに見つめながらそう返事をする。

 

『……助けて………』

 

「今も聞こえたわ、ほら」

 

「マコちゃん?何も?」

春には本当に聞こえてない様子。

 

『………助けて………』

 

「どうかした?春ちゃんと新島さん」

花村さんはそんな私達の様子に、声を掛けてくれるのだけど、どうやら花村さんにもこの声が聞こえていないみたい。

 

「………え?」

この声が聞こえるのは、私だけ?

ま、まさか、ゆ、幽霊?

私は考えたくもないのだけど、そんな事を思い浮かべてしまった。

私、幽霊は大の苦手、というか考えただけで恐怖で足が竦むのよ……。

双葉には、シャドウも幽霊やお化けみたいな物なのに、シャドーは平気で何故幽霊やお化けが怖いのかと不思議がられるけど、だってシャドウは実際に見えるし拳で何とかなるけど……幽霊やお化けは触れないし、怖いじゃない。

私は私だけに聞こえるその声に恐怖し竦んでいた。

 

「ま、まこちゃん大丈夫?」

顔色を悪くしてるだろう私を、心配そうに見つめる春。

 

 

「クマにも聞こえるクマよ、助けてって。若い女の子の声クマ♪きっときゃわいい子クマ!こうしてはいられないクマ!今から助けに行くクマよー」

熊田さんもどうやら聞こえてるよう。

熊田さんはそう言って、鳥居をくぐり小さなお社の前に立つ。

 

 

『…………助けて』

 

「この辺から聞こえたクマ!」

熊田さんは小さなお社に円を描く様に指さす。

その小さなお社はとても人が入れる大きさでは無いのだけど……

でも、確かに私もその辺で聞こえた様な気がするわ。

 

「クマ、まじかよ?俺には何も聞こえないぞ」

「私も何も……」

「………」

花村さんと春も熊田さんに続き、小さなお社に立つけど、聞こえてないみたい。

私は春の腕にしがみ付き、恐る恐る春に続く。

 

「クンクン……クンクンクンクン……クマの怪しさセンサービンビンクマ!」

熊田さんは匂いを嗅ぐ仕草をし……。

「ここクマ!!」

そして、熊田さんが指差した先には…お賽銭箱に取り付けられていた液晶ディスプレイ。

 

その瞬間、液晶ディスプレイから淡い光が漏れだし、熊田さんは指し示した指からディスプレイに吸い込まれていく。

「オヨヨヨヨヨヨ!?」

「おいおいおいマジかよ、クマ!?どうなってるって……」

花村さんは液晶ディスプレイに吸い込まれようとする熊田さんの手をとり引っ張ろうとするけど、花村さんも吸い込まれて行く。

「ええ!?クマさん!花村さん!?」

そんな花村さんの腕を掴む春も吸い込まれて行く。

 

「春!?」

そして、元々春の腕にしがみ付いていた私は、春の腕を引っ張り上げようと抵抗するも、吸い込む勢いが止まらず、私も吸い込まれてしまった。

これは……まさか………

 

 

 

 

 

「に…いじさん……新島さん……」

男の人の声……誰?

 

「ううん………」

そう言えば、さっき私はお社を調べて……

私は胡乱な記憶をたどりながら、目を開こうとする。

 

「よかった。気が付いた」

目の前には花村さんがホッとした顔で、私の顔を覗き込んでいた。

私は寝ていた?ここは?

明るい……、日が差してるのかしら?

それに背中にはデコボコとした硬い感触が伝わって来る。

地面のようね。

私は倒れてたのかしら。

 

 

「あっ!」

私はそこでようやく思い出し、勢いよく起き上がる。

お社の液晶ディスプレイに吸い込まれて……

 

「はは、俺もさっき目を覚ましたんだけどさ、こんな感じに」

花村さんはそう言って苦笑気味に周りを見渡す。

 

私も花村さんに促されるように周囲を見渡すと、そこは長閑な田園風景が何処までも広がっていた。

青々とした稲や草木は風に揺れ、柔らかい日差しの温かな光に包まれていた。

今の東京ではまず見られない風景。

見た事も無い風景なのだけど、何処か心が落ち着く。

 

「ここは……」

あの状況で、液晶ディスプレイに吸い込まれたと言う事は、ここも異界なのかしら。

そこで私はある事に気が付き、慌てて自分の姿を確認する。

今日着ていた私服姿のまま。

よかった。

勇ましいクイーンの姿でなかった事にホッと安堵の息を吐く。

あの格好を初対面の人に見られるのは流石に憚れるわ。

どういう事かしら?

状況からしてここが異界であることはまず間違いないわ。

私がクイーンの姿に変身していないのは、この異界の主からは敵とみなされていないと言う事なのかしら。

それに熊田さんと私だけに聞こえたあの『助けて』と助けを求める少女の声。

その声の主が私達をこの異界に招き入れたのかしら。

……分からない事だらけだわ。

分かっている事は、私達が今いるここが異界の可能性が高いと言う事。

………あっ!

という事は一緒に液晶ディスプレイに吸い込まれた春も巻き込まれてるわ。

 

「春!?……」

私は慌てて再度、周囲を見渡すが、春の姿は見えない。

それに熊田さんも……。

 

「俺も気を失ってたんだけど、気が付いたらここで、近くで新島さんが倒れてたのを見つけはしたんだけど、この付近で春ちゃんとクマは見当たらなかったんだよな」

まず、春と熊田さんもこの異界らしき場所に入ったと考えて間違いないわ。

そうなると春と熊田さんは私達とは違う場所に飛ばされたと考えた方が良いわね。

それにしても、こんな異常事態なのに花村さんに動揺の色は見えないわ。

世田谷の街中から急に長閑なこんな場所に立っていたのだから、普通は慌てふためくと思うのだけど、多少慣れてる私でさえ状況を把握するまで、慌てていたのに……。

もしかすると、花村さんは相当鈍感な人なのか、もしくは現実離れし過ぎて夢か何かと思っているのかもしれないわ。

 

それよりも不味いわ。ここが異界だとすると、シャドウや悪魔がいつ現れるか分からない。

春と熊田さんと一刻も早く合流しないと。

ペルソナ使いの春は自力で対処できるけど、対抗手段が無い熊田さんは……。

春と熊田さんが一緒だったらまだいいのだけど。

 

「花村さん、とりあえず春と熊田さんを探さないと」

私は花村さんに少々強めに訴えかける。

花村さんに事情を説明しても、今置かれてる状況をきっと理解してもらえない。

そうかといって、何が起きるか分からない異界で花村さん一人をここに置いて行くわけには行かない。

何よりも時間が惜しいし、春と熊田さんを一緒に探すという一点だけは、わかって頂けると思う。

 

「へ?まあ、そうなんだけどさ……いっか。とりあえずは春ちゃんが心配だ」

花村さんは少々驚いた様な表情をした後、真剣な顔に。

花村さんはあっさり了承してくれたことに、多少拍子抜け感はあったのだけど、とりあえずは、春と熊田さんを探さないと。

 

周囲は見渡す限り田園風景が続いている。

それでも、私と花村さんはとりあえず田んぼのあぜ道を進もうとする。

 

しかし、2~30歩ほど歩いたところで、突如として小さな鳥居が現れたのと同時に、その鳥居をくぐって一歩踏み込んでいた。

 

すると、当たりは一辺、目の前には先ほどまでの日差しが差す長閑な田園風景は無く、とある街並みの中に足をふみいれていた。

…別の場所に飛ばされた……みたいね。

 

私は周囲を見渡す。

瓦葺の木造長屋が連なり、無数の提灯の光が夜の街を淡く照らし、煌びやかな雰囲気を醸し出していた。

まるで江戸時代にタイムスリップしたかのような光景ね。

それも、時代劇でよく見る歓楽街……いいえ、色町と言った方がいいかしら。

ただ、街行く人々や、お店の中の人々は全て黒い影……

 

不味いわ。シャドウだわ。これだけの数、花村さんを守りながら突破するのは流石に厳しいわ。

でもまだ、私達の存在に気が付いていないか、敵とみなされていないわ。

そう思った矢先に、黒い人影は一斉にこちらを見る。

 

しまった。気が付かれた。

 

「うわっ!」

流石の花村さんもこの異様な光景に驚いたようね。

取り乱さないだけ助かるわ。

でも、何故だか花村さんは周囲を見渡すわけでもなく、シャドウ達と同じように私を見ていた。

 

「に、新島さん、その恰好!?」

花村さんは目を大きく見開いて呆けたように私を見て……恰好?

あっ、クイーンの姿に変身しているわ。

花村さんにどう説明すれば……

って、言ってる場合じゃないわ。

クイーンの姿に変身してると言う事は、シャドウに敵とみなされたと言う事。

 

シャドウが来る。

「花村さん、私の後ろに!」

私は花村さんに叫びながら戦闘態勢をとる。

 

シャドウたちは変化し、顔の無いガードマンの様な人型タイプや、顔の無い女郎の様な人型タイプ、こけしの様な姿や、提灯のお化けの様なタイプ等、今まで遭遇した事が無いようなタイプのシャドウに変身し、こちらに一斉に襲い掛かってくる。

 

 

「来て、ヨハンナ!」

私のペルソナ・ヨハンナを呼び出し、乗る。

花村さんはまだ、呆けたまま。

近づけさせてはダメだわ。

 

「ヨハンナ!広範囲攻撃よ!」

襲い掛かって来るシャドウ目掛け、核熱系スキル マハフレイラを放つ。

 

前方のシャドウ達は十数体を核熱の爆発で一気に吹き飛ばす。

 

でも数が多すぎる!

上空地上問わず周囲360度からシャドウが次々と迫って来る。

 

不味いわ。ヨハンナの一点突破しか!

花村さんを乗せてっ……

私はそう思考を巡らせ、花村さんを確認しようと一瞬振り返る。

 

でも、居るはずの花村さんが居ない……

シャドウに捕まった!?

 

そう思った矢先……

 

 

「ペルソナ!ジライヤ!!吹き飛ばせっ!!」

頭上から花村さんの叫び声が聞こえ、突如として突風が吹き荒れ、この場所を中心とした

大きな竜巻が起こる。

 

「え!?」

 

迫りくるシャドウ達を竜巻が悉く吹き飛ばす。

こ、これは風系最上級スキル、マハガルダイン!?

 

頭上を見上げると、空中に白い忍者の様な人型の存在が……あの感じはペルソナ!?

そして、私の目の前へと、ビジネススーツ姿の花村さんが軽やかに地面に着地。

「ふぅ、久々に決まった」

 

竜巻は猛威を振るい。

100体以上は居たシャドウを吹き飛ばして消滅させる。

 

「は、花村さん……ペルソナ使い」

私はそんな花村さんの後姿に声を掛ける。

間違いないわ。

花村さんはペルソナ使い。

しかも、これ程の威力のスキルを難なく行使出来る程の凄腕のペルソナ使い。

 

「という事は新島さんもペルソナ使いか。それにしてもその恰好とバイクのペルソナとかどこから突っ込んだらいいのか……」

花村さんは振り返り、私のヨハンナに跨って乗ってる姿を下から上へと見据え、一歩後ずさる。

 

「か、恰好は気にしないでください。私も好きでこの格好をしているわけじゃないので、誤解しないでください。ペルソナ能力を発現する際にはこの姿になってしまうんです」

私は早口で弁明じみた事をつい言ってしまう。

流石にこの姿を仲間以外に見られるのは、恥かしいわ。

この前は、かなみさんに散々この姿の事を言われたし。

 

「ま、まあなんていうか、ダークヒーローっぽくて、いいんじゃない?」

……これは明らかに慰めの言葉よね。

花村さんの表情を見る限り、ちょっと引いてる感じがするし。

それにしても、花村さんは鳴上さんと一緒で、そのままの姿でペルソナを扱えるのね。

羨ましいわ。

せめて、怪盗団の皆の恰好だったらまだましかしら……

でも、よく考えてみれば、杏の恰好はセクシー過ぎて流石に恥ずかしいわ。

春の恰好もコスプレみたいだし、双葉の恰好が一番ましなのかもしれないけど、あのゴーグルは流石に……。

かなみさんみたいに、アイドルの恰好は恥ずかしい……。

私のこの格好の方がまだましなのかもしれないわね。

 

少しの沈黙の後、

「まさか花村さんがペルソナ使いだなんて……」

「どこかで聞いた名だと思った。そうか相棒の……」

二人同時に話しかけたのだけど……

 

また周囲にシャドウが何処からか現れ、集まりだす。

 

「げっ、やばっ、話は後で。とりあえずここを脱出しよう新島さん」

「花村さん、私の後ろに乗ってください。突破します」

「わかった」

花村さんがヨハンナの後ろに乗ったのと同時に、私はヨハンナをフルスロットルで一気に発進させる。

 

この江戸時代の色町の様な街並みの大通りを一気に駆け抜けようとするのだけど、シャドウが次々と襲い掛かって来る。

襲い来るシャドウに、花村さんの忍者の様なペルソナがスキルや手裏剣で撃退し、花村さん自らはヨハンナの後ろに乗りながらクナイを使い、シャドウを倒していく。

 

やはり花村さんは相当強い。

ここのシャドウ、前に映画に吸い込まれた時のシャドウとは比べ物にならないぐらい強い力を持ってる。

でも、それを難なく倒していく。

その強さは、怪盗団の皆に引けを取らない。

 

 

春と熊田さんを探しながら進むのだけど、街は迷宮化し、現在地もわからない状態。

シャドウも次から次へと襲い掛かって来る。

「春と熊田さんは……」

「大丈夫だ。クマが付いてる。彼奴ならこっちを見つけてくれる。こうも次から次へと…とりあえずこの場を離れた方が良い」

「わかりました」

 

私はそう返事をし、ヨハンナを駆け脱出路を探す。

……熊田さんもたぶんペルソナ使い。花村さんのその言い様だと、探査能力に特化したペルソナ使いなのかもしれない。

重火力に優れた春が付いているし、きっと大丈夫。

とりあえずはこの場を何とかしないと。

 

暫く街中を駆け巡り、入り組んだ街の路地を抜けると木造りの大きな門が遠目で見えてくる。

たぶん、ここを抜ければ……。

 

北町と書かれた城門の様な頑丈そうな大きな門にはひときわ大きな影…シャドウが立っていた。

そのシャドウは巨大なカメに変化する。

尻尾である場所には龍の頭があり、私達を威嚇する。

かなりの威圧感を感じるわ。

きっとこれは玄武を象ったシャドウね。

中国の四神に由来する北を守護する霊獣。

大方この大門の守護者というところね。

 

「テンプレな展開って感じだなこれ、門を通るにはあいつを倒さないといけないわけね。正面突破は苦手なんだけど仕方がないか……新島さん、そのまま一気に行こう」

「わかりました。私は正面突破が得意なので、フォローお願いします」

「任された。って、外見はお淑やかそうなのに、内面は里中系なの?肉が好きすぎるとか?」

「……とりあえず、行きます」

「んじゃ、行きますか」

花村さんの里中系とか肉が好きすぎるという言動は、よく意味は分からないのだけど、何故だか少し不快感を覚える。

 

私は玄武目掛けてヨハンナを加速させる。

花村さんは再びペルソナを召喚させ、私に補助スキルを付与してくれた。

相手の動きがいつもより良く見える。

これはスクカジャ(命中率・回避率アップ)だわ。

 

私はヨハンナを急加速させ一気にジャンプし、玄武の頭部へと突撃をする。

ヨハンナで玄武の頭部へ体当たりし、私はその反動で上空を舞い、玄武の頭上に落下速度を利用し、拳を突き刺す。

花村さんはその間に、ヨハンナから更に高く上空へとジャンプし、私に攻撃を仕掛けようとしていた玄武の龍の頭に、ペルソナを突撃させていた。

 

玄武は私と花村さんの攻撃で明らかに怯む。

効果有り、チャンスね。

私は玄武から飛びのき、畳みかけるように核熱スキル、フレイダインを玄武目掛けて叩き込む。

花村さんも、それに合わせて風系上位スキルを玄武に放ってくれる。

 

玄武は私のフレイダインと花村さんのガルダインにより、爆風吹き荒れる中、力尽き、黒い霧となり消え去った。

 

かなりの手応えの相手だったのだけど、意外とあっさり倒す事が出来たわ。

これは花村さんの的確なフォローのお陰だわ。

私の攻撃のタイミングに合わせて、攻撃を重ねたり、敵の攻撃を阻止してくれたりと……、今日会ったばかりなのに、怪盗団の皆と一緒に戦ってる時の様。

花村さん……かなりできる。ただ単に強いだけの人じゃないわ。

あの立ち回り、相当の経験を積んで来たはず。

花村さんは……一体どこで。

 

「新島さん、滅茶苦茶強いし、しかも拳をシャドウに叩き込むとかドンだけ?」

私が消滅するシャドウを見ながら考えにふけていた所に、花村さんに後ろから軽い感じで話しかけられる。

 

「いえ、花村さんの的確なフォローのお陰です」

私は花村さんに向き直る。

花村さんはあれだけの戦闘の後なのに息一つ切らしていない。

 

「いや~、戦い方が誰かさんによく似てたから、フォローしやすいっていうか、そんな感じ?」

きっと花村さんも私達と同じで、仲間と一緒にペルソナでシャドウと戦っていたんだわ。

そう言えば、鳴上さんはペルソナ使いの知り合いが20人程居ると言ってたわ。

もしかすると、花村さんはそのうちの一人なのかもしれないわね。

 

「花村さんは、そのペルソナをどこで……」

「おわっ、またシャドウがこっちに来る!どんだけいるんだよ。さっさと門の外に出よう」

私が花村さんにペルソナについて聞こうとしたのだけど、シャドウの気配があちらこちらから感じる。

 

花村さんはそう言って勢いよく大門に体当たりし、大門を開けようとしたのだけど、門はビクともせず、逆に花村さんは跳ね返されて、思いっ切り後ろに転び、仰向けにひっくり返る。

「おわっ痛っ!あいてててててっ、なんで開かないんだ?お約束通り門番っぽいのを倒したのに、なんで?」

 

「花村さん、流石にこの大きさの門は開かないと……横に出入口がちゃんとありますけど……」

高さ5~6mの門を一人で開けるのは厳しいと思うわ。

大概こういう城門などの門には人が出入りするための小さな扉があるものだけど……。

花村さんは間が抜けてる所があるのかしら?

 

「ああはははっ、普通ボスみたいなのを倒したら、門が勝手に開いたりって思うじゃん」

……そう言われると、認知世界ではそんな感じだったような。

私は地面にひっくり返る花村さんに手を伸ばし、助け起こす。

 

 

私は大門の横にある人が通れるだけの小さな扉に手を掛けると、

『助けて』

また、あの声が聞こえてくる。

前よりも随分とはっきりと……。

この声は何?

誰なの?

 

この声が聞こえてから、私達は小さなお社の液晶ディスプレイに吸い込まれ、ここに。

この声の主が私達をこの異界に連れて来たの?

私達に助けを求めるために?

 

私と花村さんは大門の小さな扉を開け、扉の向こうに入る。

最初は夜の暗がりで良く見えなかったのだけど……

私達の前方で真っ暗な夜空に眩い光が一気に灯される。

 

「げっ、まじかよ」

花村さんは灯された場所を見て、そんな声を上げる。

私達の前方には巨大な城が聳え建っていた。

巨大な木造の城なのだけど、あの小さなお社と同じく、ギラギラとした電飾や、派手なデコレーションが施されていた。

まるで、ラブホテルのように……

「悪趣味だわ……」

 

すると、ラブホテル様な巨大な城の中腹に、カッと、スポットライトのように光が灯され、そこに人影が浮かんでくる。

『予の街に狼藉を働く奴らとはお前らの事か?』

まるで時代劇によく見かける様な、いかにも悪代官という風体の恰幅のいい中年男性が現れ、私達を見下げ、横柄に物を言う。

 

「うはっ、またいかにもって奴が出て来た」

「………」

あの感じ……シャドウだわ。

 

 

そして、悪代官風の恰幅のいい中年男性の横に、煌びやかな着物姿の無表情の女性が静々と現れ、その悪代官風のいやらしい笑みを湛えながら、その女性を抱き寄せる。

『この街のすべてが予の物だ。そうよな春よ』

 

「え?春ちゃん?」

「………いいえ、あれは春じゃないわ」

あの感じあの雰囲気、春を模倣した影人間ね。

という事はここは認知世界という事?

もしそうだとしたら、この世界を形成させてる人は、あの悪代官風の中年男性ということになるわ。

誰だか知らないけど、春を模倣したと言う事は春の知り合い……もしかすると春の遺産を狙ってる人なのかもしれないわ。

 

「新島さん?春ちゃんそっくりなんだけど、……という事は春ちゃんのシャドウ?」

「……違います。あの中年男性が作り上げた春を模した操り人形」

「いまいちわからないけど、春ちゃんの偽物だってことでOK?」

「そうです」

「という事は、あの悪代官っぽい人がこの世界のボスって事か……」

「多分、そうだと思います」

「あの悪代官を倒せば、万事解決って事ね」

「今は……」

花村さんは理解が早くて助かるわ。

たぶん、これに近い経験をされた事があるのだと……。

ただ、どんな経緯で認知世界のような異界化が起きたのかは知らないと、あの悪代官を倒しても解決しない可能性があるわ。

私達が戦って来きた認知世界では、相手の大切な物を盗むことによって、相手を改心させてきた。

でも、それがこの異界に通用するかは分からない。

認知世界にはあの神を名乗る聖杯の手引きによるアプリによって入る事が出来たのだけど……。もうその聖杯はない。

それにあの『助けて』という助けを求める声は、必ず何かに関係があるはず。

いずれにしても、情報が少なすぎるわ。

 

『貴様ら何をごちゃごちゃと……ん?その恰好、女の方はその手の男共に需要がありそうだな、素材もなかなか良いではないか。たっぷり稼げそうだ。あの女は捕えろ!予の花街で死ぬまで働かせてやる。男の方は殺せ!』

悪代官風の中年男性がそう叫ぶと、次々と警備服を着たシャドウが現れ、私達を囲む。

 

「いかにもってなセリフをありがとうってところだけどよ、時代背景が滅茶苦茶だ。せめて時代にあわせて、侍とか岡っ引きとかにしろよな」

花村さんは冗談交じりにそう言いながら、油断なくクナイを構え、戦闘態勢をとる。

 

「流石に厳しいですね。一度体制を整えた方が……」

そう言っている間にもシャドウが次から次へと現れる。

不味いわ。多勢に無勢な上に完全に囲まれた。

 

『ふはははははっ!!この街は予の街だ。誰も歯向かう事は許さん!』

悪代官風の中年男性が満足そうに高笑いをする。

 

 

 

このタイミングで、城壁の上に人影が……

 

「お待ちなさい!そこの貴方!」

その人影は悪代官風の中年男性に指をさす。

 

 

『誰だ!!貴様!!』

悪代官風の中年男性がお約束の言葉を。

 

 

「美少女怪盗と申します!」

つばの大きな帽子に中世ヨーロッパ貴族の女性軽装衣装をまとった美少女怪盗を名乗るノワールはポージングをしっかりと決める。

その設定、今も通すのね。

 

でも、私は別の存在に目を奪われていた。

そのノワールの横に何故か変な着ぐるみがポージングを決めていた。

 




次回は……

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