新島真は鳴上悠と出会う。   作:ローファイト

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長らくお待たせしました。
ずっと3分の2が仕上がったところで止まってましたが、ようやく書けました。
それでは続きをどうぞ。


真と春とおかしな二人。【終幕】

鳴上さんが何故あのタイミングでお社に現れたのか?

それは偶然では無く必然だった。

花村さんと熊田さんがこの喫茶店での待ち合わせをしていた人が鳴上さんだったの。

鳴上さんは、花村さんと熊田さんが約束の時間にも喫茶店に現れず、スマホも通じないため、暇を持て余し何気なしに喫茶店の周りを歩いていたら、このお社が目につき、興味本位に調べ始めたところに私達が突然お社から現れたと……。

 

その後、春の喫茶店の2階の個室を借りて、休憩を兼ねて今の出来事の話し合いの場を設けた。

6人掛けの席には鳴上さんと花村さん、熊田さんが横並びに、対面には春と私が座り、まずは春に鳴上さんを紹介した。

 

「春、こちらが大学で私が参加してるゼミの鳴上准教授よ」

「鳴上悠です。東都大学考古学部民俗伝承学科で研究と講師をさせてもらってます。陽介とクマとは高校時代からの友人です」

「マコちゃんからは色々お話を伺ってます。奥村春です。マコちゃんとは高校の同級生で、今は大学に通いながらここでアルバイトをしてます」

花村さんと熊田さんがペルソナを使えると知った時には、鳴上さんとは知り合いでは無いかとは思っていたのだけど、高校からの友人とは……。

もしかすると、私たちのような経験を鳴上さんや花村さん達も高校時代に……。

 

その流れで花村さんと熊田さんも改めて自己紹介をして下さる。

「俺もちゃんと自己紹介しておくか、花村陽介22歳、ジュネスの社員ってのは春ちゃんには話したことあったっけか、悠とはマブダチだ。まさか、春ちゃんの友達の新島ちゃんが悠の生徒だってのにも驚きだってのに、二人共ペルソナ使いとか、どんな偶然だっつうんだ?」

「熊田くまクマ。クマも先生とはマブダチクマ。陽介と同じジュネスの社員で、宴会部長クマ!」

「え?クマさんは部長さんなんですか?こんなにお若いのに」

「クマっ!何勝手に役職作ってんだ!春ちゃん、そんな部署なんてないから、こいつの冗談だから」

先生って、鳴上さんのことかしら?熊田さんは同級生じゃないのかしら?確かに熊田さんは若く見えるし後輩なのかしら?でも鳴上さんと同じ歳の花村さんは呼び捨てだし、謎だわ。

それと春、驚くところはそこなの?お二人がペルソナ使いだという事の方が驚きだと思うのだけど、春の天然にも困った物ね。

でも、そう言う春も19歳にしてこの喫茶店三店舗のオーナーで、しかも奥村グループの大株主で大資産家なのよね。

そっちの方が驚くと思うのだけど。

 

「改めまして、新島真です。東都大学法学部二年生です」

私も皆に倣って改めて自己紹介をする。

 

 

皆の自己紹介を終え、まずは鳴上さんが春に声をかける。

「話から推測すると、奥村さんもペルソナ使いという事でいい?」

「はい」

「私たちの仲間の一人です」

 

「新島ちゃんの名前、どこかで聞いた名前だと思ってたんだよな。それにしても悠、新島ちゃんってお淑やかそうなのに、滅茶苦茶強かったぞ」

「真ちゃんはビューティー&パワフル女王様で、春ちゃんはプリチーな美少女怪盗クマっ!」

花村さんの口ぶりだと、鳴上さんは私の事を花村さんには話していたようね。

それと熊田さん、女王様呼ばわりはやめてほしい、その、結構傷つくわ。

でも、春の美少女怪盗よりはマシなのかもしれないけど……。

 

「そういえば、二人共あの格好は?新島ちゃんは何ていうか、ペルソナはバイクだし、あんな勇ましい格好だし、春ちゃんは春ちゃんで美少女怪盗って自分で名乗ってはっちゃけてたし」

花村さんは少々引きつった笑顔で私と春に質問をする。

 

「異世界では何故かあの格好になってしまうので……その、あまり指摘して頂けないと助かります」

「え?マコちゃんは気に入らないの?」

「真ちゃんも春ちゃんも、いい感じクマよ!」

春は恥ずかしくないのかしら?流石に二十歳になってあの格好は流石に恥ずかしいわ。

ほら、花村さんも引き気味よ。熊田さんは喜んでるようだけど。

 

花村さんは何か考え込んでから、次に私達にこんな質問をする。

「春ちゃん美少女怪盗、怪盗って、もしかして春ちゃん達って、心の怪盗団だったりして?」

「え?何故それを?」

そんな声が春から漏れる。

 

「げっ?まじで?結構適当に言ったんだけどな。3年前のあの獅童の事件はド派手だったし。その春ちゃんのはっちゃけようは納得というかなんていうか」

「心の怪盗団。やはりそうか……、直斗がペルソナ使いの可能性が高いと言っていたが、新島さん達がそうだったのか」

花村さんは驚き共に苦笑気味に、鳴上さんは納得したように頷く。

鳴上さんには私が心の怪盗団だったという事をまだ話していなかった。皆で一緒に鳴上さんと会った時に話そうと思っていたから。

でも鳴上さんは、うすうす気が付いていたみたい。

 

「すみません。隠すつもりはなかったんです。鳴上さんには私達の仲間と会っていただきたくて、その時にお伝えしようとは思っていたので、その、すみません」

 

「いいや、謝らなくてもいい」

 

「そうか春ちゃんと新島ちゃんは心の怪盗団かー、確か悠がオーストラリアに留学中だったよな、あの事件。そういえばさっきの異世界で、新島ちゃんは春ちゃんの事ノワールって呼んでたし、春ちゃんは新島ちゃんの事をクイーンって呼んでたのって、怪盗のコードネームか何か?新島ちゃんが女王(クイーン)様ってあながち間違いじゃなかったって事か?」

「やっぱし、真ちゃんは女王様クマ!クイーンって呼んでいいクマか?」

し、しまったわ。

つい、あの怪盗の姿の時の春と話していたから、コードネームで呼び合ってたわ。

 

「そ、その忘れてください」

思わず両手で顔を隠す。

赤面していることが自分でも分かるぐらい顔が熱い。

……恥かしい。

 

私は赤面しながらも何故か、指の間から鳴上さんの様子を伺っていた。

 

そんな私に鳴上さんはこの一言

「ハイカラだな」

 

「あの、も、もうやめて下さい」

鳴上さんに知られたのが一番恥かしいわ。

 

「ほ~、春ちゃんは~、悪を懲らしめる美少女怪盗って設定クマね~、っということは真ちゃんは~、国を追われ王女様が復讐のために怪盗になった世紀末ブラックSM女王様って設定クマね~」

「ち、違います!」

「え?マコちゃん違うの?」

この格好ってやっぱり、世紀末なんたらや、…そのSM女王様にみえるのかしら?

それより春、なんであなたまで熊田さんの意見に同調しているのかしら?私たちは一度じっくり話し合ったほうがよさそうね。

 

「クマ!いちいち話の腰を折るなっつうの!」

 

赤面する私をよそに、鳴上さんは話しを進める。

「それより陽介、何があった?」

「ああ、それな……」

花村さんが今迄の経緯を鳴上さんに説明を始める。

途中で熊田さんがマイペースに話の腰をちょくちょく折ったり、花村さんとの相変わらずの掛け合いに発展し、そのたびに私と春が代わりに説明を続けたりと。

説明は、ここ最近この近辺での人々の様子がおかしい事から、それがこの小さな神社に自治会長がいかがわしい電飾を施してからという事、この神社の様子を見に来ると少女の声が聞こえ、電飾の液晶ディスプレイに吸い込まれ、異界に落ちた事、そこではシャドウが闊歩し、自治会長のシャドウがその世界を支配していた事、キツネ耳の少女が捕まってたり、自治会長を追い詰めたのだけど、黒いドロドロとした液体が溢れ出て飲み込まれそうになり、熊田さんのお陰で現世に脱出出来た事まで事細かく……。

 

「成る程、この近辺の人々の異変は新島さんの推測通り、あの小さなお社へ電飾を施した事が引き金となった可能性が高いだろう。おそらくお社本来の役割である封印や霊脈の維持などの霊的機能が損なわれて暴走し、その影響によって、あの近辺に訪れた人の感情の一部が著しく増減したことが原因で精神暴走に近い状態となったと考えたほうが無難だ」

鳴上さんは私達の説明を一通り聞いた後に、一呼吸置いて、こう考えをまとめられる。

この状況で不謹慎なのだけど、私は鳴上さんの話を聞きながら喜びの感情が沸き上がっていた。

これは鳴上さんに認められたという自己満足。

私はこの感情を表情に出さないようにぐっと我慢する。

 

「じゃあ悠、あの異世界は何だったんだ?シャドウも居たし」

花村さんの質問は、皆が聞きたかった事だと思う。

 

「異世界であることは間違いないが、その異世界がどういうものかは詳しく調べないと何とも言えない。お社や神社、遺跡などが関わり異世界が形成されるパターンは結構ある」

 

「結構あるのかよ!さらっと言うなよな。はぁ、前々から聞いちゃいたが、悠、お前結構ハードな生活してるよな」

 

「そうか?確かに異世界や異空間の形成は大なり小なりそこそこあるが、ペルソナを使う事態に陥ることは少ない」

鳴上さんはそういうのだけど、鳴上さんと知り合ってから異世界に関わったのはこれで3回目だわ。しかも3回ともペルソナを使う事態に。

1回目と2回目は確かに大したことはなかったのだけど、今回の異世界のシャドウはかなり力を持っていたわ。

 

「あの、いいですか?」

春は私とアイコンタクトをとってから手を挙げる。

何か話したいことがあるみたいね。

 

「どうぞ、奥村さん」

 

春は鳴上さんの同意を得て話始める。

「自治会長さんの変わりようと異世界のつくりというか雰囲気が、私たちが怪盗団で経験した認知世界のパレスに似ていたんです」

春の意見は私も強く感じていたこと。

あの江戸時代の色街の街並みに何かを守るかのような強固なお城、それに殿様の恰好をした自治会長さん。

私たちが経験したパレスのように、あの世界のつくりが自治会長さんの心を表しているかのよう。

それに自治会長さんがお宝を守るような発言もしたことも気になる。

 

「そういえば新島ちゃんも似たような経験をしたようなことを言ってたっけ、春ちゃんの偽物も見破ってたし、それってどういう場所なんだ?」

シャドウに襲われ続けていたから、花村さんにちゃんと話せてなかったわ。

 

その花村さんの質問に私が答える。

「認知世界、それは心の世界、人々の認知によって作られた世界。でも、強く歪んだ感情を持った人間はパレスという自身の欲望を表した認知世界を形成してしまうんです。ですがそれらは神を名乗る存在が人々の願いを叶えるためと称して人類の心を束縛し管理するために作られた世界だった。そして、その認知世界は人々の思いを糧に現実世界にも侵食を始めたのですが、私たちは仲間と共に何とか阻止することはできました」

 

「うわっ、新島ちゃん達もかなりハードだな」

「なんかよくわからんクマが、春ちゃんと真ちゃんは頑張ったクマね」

 

「パレスの主である人間の欲望によって歪められた認知世界は徐々に現実世界にも影響を及ぼします。そのパレスの主の本性や秘めた思いが結晶化された物を私たち怪盗団はオタカラと呼び、それを認知世界で盗むことによって、パレスの主を改心させてきました」

 

「なるほど、獅童議員の突然の告白や、オクムラフーズ社長の謝罪は君たちの改心によるものか……」

鳴上さんはこの時期、海外留学されていたと聞いていたけど、このあたりの大きなニュースは知っていらしたようね。

 

「確かにあれはインパクトデカすぎだったな。オクムラフーズってビッグバンバーガーのだよな。ん?オクムラフーズのオクムラって、まさか春ちゃんと関係があるの?」

 

「……オクムラフーズ社長の奥村邦和は私の父です」

花村さんの何気ない質問に春は一瞬言葉に詰まるが、しっかりと答える。

そう、あの事件で春は、悪行を行ってきた唯一の肉親である父親とパレスで向き合い、改心させた。

でも、その直後、春のお父さんは亡くなった。

私たちが改心を行った直ぐ後に、認知世界で人殺しを行っていた明智吾郎の手によって……。

 

「あ、そのごめん。春ちゃん」

花村さんはそんな春に、慌てて頭を下げる。

オクムラフーズ社長が既に亡くなっていることは世間でも知られている。

テレビでの謝罪中継の真っ最中に倒れたのだから、当然花村さん達も。

 

「大丈夫です。今は心の整理がつきましたので、祖父や父が遺したこの喫茶店が残ってますし、それに、まこちゃんや怪盗団のみんなもいますから」

そんな花村さんに春は笑顔で答える。

 

「およよよよ。春ちゃんは、春ちゃんは強いクマね」

「……だな」

春のその話に熊田さんは涙を飛ばし、花村さんと鳴上さんは熊田さんのその言葉にうなずく。

春の心は強い。

あの時、唯一の肉親を亡くしたというのに、直ぐに立ち直り前へと進んだ春。

私もお姉ちゃんとパレスで対峙したのだけど、もしお姉ちゃんが亡くなってしまったら、私は春のように前へと進むことが出来たのだろうか?

 

「ごめんなさい。なんか変な空気になっちゃって、ま、マコちゃん」

春は、自分の事でしんみりした空気感になってしまったことに、私へと助けを求めてきた。

 

私は強引に話に戻すために、話を続ける。

「先ほど体験した異世界がそのパレスに似ていたんです。怪盗団での経験に当てはめると、パレスの主が自治会長さんで、自治会長さんの心によって形成された認知世界が、江戸時代の夜の街並みに電飾を施したお城だと……」

 

「神を名乗る存在により形成された認知世界、確かに話を聞く限り、今回の状況と似ている点が多い。ただ、異世界の形成の仕方としては似たようなケースは結構ある」

鳴上さんは大きくうなずく。

 

「はい、実際パレスと様子が異なる点もあって、自治会長に捕まっていたキツネ耳の少女が、現実世界で私と熊田さんに助けを求めて来て……その声を聞いて、社のディスプレイに熊田さんが触れて異世界に……」

私もパレスとはなんとなく様子が違うようにも思う。

異世界に落とされる前から聞こえて来たキツネ耳の少女の助けを求める声もそう。

 

「そうクマ!モフ耳キツネ美少女が助けてってずっと言ってたクマよ!」

 

「話からすると、そのキツネ耳の娘はおそらくこの小さなお社の主、姿恰好からすると稲荷の化身だ。歯止めが効かない神社の暴走を止めたい一心で助けを求めていたのだろう。その声が感受性の高いクマや最近も異世界に関わった新島さんに届いたといったところか。さっきネットでこの神社の事を調べると今は安産祈願や恋愛成就等の神様として奉られているとあるが、おそらく元々ここは豊穣を司る稲荷神社だったと考えられる。時代と共に人々の習慣や信仰が変化し、今の形になったのだろう」

私は鳴上さんの返答に納得する。

豊穣を司る稲荷神社、異世界に飛ばされた時にはのどかな田園風景だった。

稲荷神社だった昔のこの辺りの風景だったのかもしれない。

あの声の、キツネ耳の少女がこのお社の主だった。

神社を建立した当初とは時代の流れや人々の営みによって信仰の対象が変る事が多々ある。

時代時代に流行る神様も異なったり、人々の願いが変化したりするものだから。

それでも、豊穣を司る稲荷の化身として、この地を見守ってきた。

でも、お社をあんな風にしてしまったため、暴走したのかもしれないわ。

 

今度は花村さんが鳴上さんに質問をする。

「なーるほど、そういうのがあるってことか、そんじゃ、あの自治会長から溢れ出てきた黒いドロドロの液体は、何だったんだ?」

 

「これも話から得た情報からの推測でしかないが、稲荷神社は霊脈の流れを正常にする役目も果たしていたと考えられる。あの派手な電飾によって神社の霊脈の流れをコントロールする機能が阻害されたか、若しくは暴走を促していたのだろう。そして人々の何らかの負の感情を吸収しだした。人々の負の感情のエネルギーは自治会長の精神を介して世界を形成したと考えるのが妥当だ。人々の負の感情のエネルギーは厄災の元となる類のものだ」

 

「うーん。先生!恥かしんぼ悪代官がキツネ耳美少女にナンパに失敗して振られたクマか?」

「クマ……いいから少し黙ってろって」

 

「おそらく、自治会長の精神が負のエネルギーを抑えきれなくなり、自治会長自身を飲み込み本格的に厄災と化したと考えられる」

 

「ということは、早く何とかしないと大変なことになりかねないですね」

厄災化となると、現実的な問題に発展する可能性が高いわ。

ただでさえ、付近の人々の恋愛感情が暴走気味なのに、これ以上は野放しにするのは危険だわ。

 

鳴上さんはうなずきながら、こう言ってくれた。

「早々に何とかしよう」

私の予想通り、鳴上さんはこの件の解決に乗り出してくれるようね。

 

「まあ、お前だったらそう言うだろうな」

「さすが先生クマ!」

「そんじゃ、さっそくあの異世界に乗り込んで、今度こそ、あの狐の子を助けに行くか、相棒が一緒なら、余裕っしょ」

「クマも頑張るクマ!あのプリティーガール、クマの事をきっと待ってるクマ!」

花村さんと熊田さんは解決のために今から異世界に戻る気満々のよう。

 

「いや、やめておいた方がいい。陽介たちの話から異世界の状況はかなり悪化しているだろう。既に現実世界にも影響を及ぼしはじめ厄災化している状況だ。慎重に行った方がいい。しかもさっき話したことは推測でしかない。正確に原因を突き止めるためにも先にお社やその周囲の事象を詳細に調べる必要がある」

鳴上さんはまず現実世界での調査が必要だと、確かに心の怪盗団の時も現実世界での調査が必要だった。

 

「なるほどな。そんじゃ、手分けして聞き込みか、なんだか懐かしくないか?」

 

「それも必要だが、一番厄介なのはこの件に介入する方法だ。まずはお社を管理している自治体の許可が必要となるが……」

調査にも正式な手続きが必要となる。

法学部で法律を学んでいる身としては、それを破るわけにはいかない。

このような小規模な神社やお社は自治体等が管理していたり、個人で管理しているケースもある。本来勝手に調べることはできないわ。

 

「自治会の方は私の方で任せてください。元々自治会長さんの暴走でこんなことに、なんとかします」

春は覚悟したかのように、神妙に返事をしていた。

たぶん自治会長さんの暴走を止められなかったことに責任を感じているみたい。

春のせいじゃないのに……。

 

 

 

こうして、東都大学考古学部が歴史的遺物研究と称し介入し、民族伝承学科鳴上准教授主導で、解決に向けて動き出す。

高畑教授はもちろん、ゼミ生の私も積極的に参加し活動することに。

春も現地協力者として、自治会との交渉や周囲住民との折衝などで動いてくれて、花村さんと熊田さんにも仕事の合間に手伝っていただけた。

 

調査の結果、鳴上さんの推測通り、直接的原因はお社を無茶苦茶に改装したことによって、お社の機能が正常に働かなくなり、霊脈が乱れ、負の念や気が集まり厄災化したものだった。

さらに、あの改装を私的な欲望で行った自治会長さんの負の思念が混じりあんな異世界が顕現したとのこと。

 

まずは、お社のいかがわしい電飾などを取り外し、元に戻すことから始め、さらに失われた稲荷神社としての役割を復活させるために、正しい装飾と神事を再建。

電飾の取り外しなどに関して、自治会長さんへ交渉に向かったのだけど、自治会長さんは原因不明の昏睡状態に陥り、入院していた。

鳴上さんが言うには、あの異世界で自治会長さんを飲み込んだドロドロの呪いが原因だろうと。

そこで、高畑教授が寺の住職及び霊能者のという立場をフルに活用して、自治会長さんが病床に倒れたのは、お社にあのような電飾を施した事が原因だと家族の方を説き伏せ、電飾などの改装を元に戻させた。

それどころか、綺麗に再建までさせた。

正しいことをしているのだけど、高畑教授が作り笑顔で説き伏せる姿は、なぜか如何わしい霊媒師などの霊感商法の類に見えてしまったことは内緒。

 

また、自治会や地域住民の方々に対しお社の維持管理と復活させる神事の説明や研修を行ったりもした。

 

そして、目に見えて地域の雰囲気が徐々に元に戻っていく。

それどころか、前よりも活気づいて見えるわ。

 

お社からキツネ耳の少女の助けを求める声も聞こえなくなり、異世界の気配も感じられなくなった。

 

そう、解決に至ったのだ。

わずか二週間でのスピード解決。

 

この二週間、春とはほとんど毎日顔を合わせ、高畑教授や鳴上さん、夕方には仕事終わりの花村さんや熊田さんとも何度もミーティングを重ねた。

活動してきた日々は、まるで心の怪盗団の皆で過ごしてきた時感じた充実感に似ていた。

いえ、あの時は不安や怒りなどの感情が渦巻き、何においても手探りで必死だった。

今回は自分たちに降りかかる危機的状況ではなく、しかも鳴上さんが引っ張ってくれる圧倒的な安心感が、なんとも言えない心地良さだった。

 

 

 

そして、解決したと結論付け、最後のミーティングを行った後に、皆であの小さなお社へ向かった。

お社に手を合わせると、どこからともなくあのキツネ耳の少女の声が……

『ありがとう』と。

 

これで終わったのだと。

 

 

 

 

数日後、春の喫茶店で……。

「春、あれからどう?」

「うん、すっかり元通り」

「よかったわ」

「うーん、でも前よりも雰囲気が良くなった気がする」

「そのようね」

「マコちゃんのおかげよ」

「私なんてぜんぜん、鳴上さんが解決してくれたから」

「うううん、マコちゃんが相談に乗ってくれたからよ」

私はカウンター席で春が入れてくれたコーヒーを口にする。

このレトロな雰囲気に香り立つコーヒーの匂いは何故か懐かしい気分にさせてくれる。

特にコーヒーに拘りもなかったし、思入れもないのだけど、なんとなくそんな気分。

 

目の前の春は今も一応バイト中で、喫茶店のレトロな濃茶系のロングスカートエプロン姿、今はお客さんが少ない時間帯だから、カウンター越しに私の接客を行いつつ、話し相手をしてくれている。

「マコちゃん、鳴上さんって凄いよね」

「そうね。大学卒業してすぐに准教授なんて、日本中で鳴上さんだけよ」

「そうじゃなくて、安心感というか頼りがいがあるというか、蓮も頼りがいがあったけど、あの言葉と背中の安心感が凄いの。年上の男の人ってあんな感じなのかなって思ったけど、他の男の人にはないわ」

「そうね」

「鳴上さんは大学でもそんな感じなの?」

「講義中は年齢よりも年上に見えるけど、普段は私たちとあまり変わらないし、接しやすい人よ」

「そうなの?かっこいいしモテそうだよね。……彼女とかいるのかな?」

「大学ではかなりモテるわ。ファンクラブみたいなのもあるし、でも、彼女はいないんじゃないかしら」

確かに鳴上さんはかなりモテるわ、でも彼女はいないと思う。

かなみさんは手のかかる妹みたいな感じだったし。

鳴上さんの自宅に伺った時もそうだったけど、彼女がいるような感じがしなかった。

 

「そうなんだ~」

「ん?何、春?」

「ち、違うのよ。ちょっとかっこいいなって思っただけだから」

「……あやしい」

「マコちゃん!」

確かに鳴上さんは私や春の周りには居なかったタイプの男の人よね。

怪盗団の男性陣はみんな年下だし。

安心感……。

そう感じる男性は初めてかもしれない。

 

喫茶店入口の扉のベルがカランコロンと鳴る。

「いらっしゃいませ」

「よっ、来たよ。春ちゃん、新島ちゃんも来てたの?」

「春ちゃん!真ちゃん!お待たせ~クマ、春ちゃんは相変わらずキュートクマ!真ちゃんはビューチフル!」

「こんにちは、花村さん、熊田さん」

熊田さんは相変わらずな挨拶をしつつ私の右隣に、花村さんはその熊田さんの隣の席に座る。

花村さんはアイスコーヒーを、熊田さんはソーダーフロートを春に注文する。

 

しばらくして、また扉のベルが鳴る。

「いらっしゃいませ、……あっ、鳴上さん、いらっしゃいませ!」

何故か声が上ずる春。

 

「よっ、相棒!」

「先生、いらっしゃいクマ~!」

「こんにちは、鳴上さん」

花村さんは手を上げ、熊田さんは両手を上げて振り、私は小さく会釈をする。

 

「皆も来てたのか」

鳴上さんはそう言って、席の空いてる私の左隣に座る。

そう、鳴上さんもこの喫茶店が気に入ったようで、常連客に。

 

もう季節は夏。

鳴上さんと出会って3か月が過ぎようとしていた。

 





りせちー出したいなw
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