何かリクエストは? と聞けば今回の話を所望されたので書きました。
リア充に爆ぜろ、爆発しろとはよく言いますが、ことタニャヴィシャに関しては、私はこう言いたい。
「溶けろ」あるいは「溶け合え」
と。
そんなサブタイトルであります。
緊張の時間が果たしてどれだけ続いただろう。
足音は消し、視線からは隠れ、ようやく……ようやくだ。
やっと辿り着けた。
まだ、安堵してはいけないが、それでも、胸を撫で下ろすくらいは許されるだろうか。
条件は全てクリアー。後は、目の前の扉を僅かに開き、その隙間から身体を滑り込ませて室内へと入るだけだ。
その後、音を立てずに扉を閉めて、晴れて私がなすべき事は終わる。
頬を汗が伝い、地面へと垂れるその瞬間。
――半歩で扉へ。勢いを殺さず、しかし最低限の幅で扉を開き、スライディング気味に部屋へと侵入。
タイミングを見計らってドアノブから放した手の勢いで、扉は静かに閉まる。
完璧だ。ミッションコンプリート。満場一致で大成功だと褒められるに違いない。
そう確信できる動きを私は成し遂げた。
「…………貴官は突然部屋に入ってきて、何故妙なポーズで天を仰いでおるのだ?」
スライディングで滑り込んだままの格好で両手を握り天へと掲げていると、部屋の主であるデグレチャフ少佐殿から声を掛けられました。
何故? 何故かと? それを聞かれになるのですか!?
当然、誰にも見られず少佐殿の部屋へと入ることが出来たからで、これすなわち誰にも邪魔されずの逢瀬が確約された事ともはや同義!
では何故この状況で喜ばないのでしょうか。喜ぶしかないように思われます。
「中々に難しい難易度のミッションを、無事に完遂出来たと自負したからであります!」
「何がミッションだ。嗜好品を用いて私の部屋にてお茶会をしよう、と言っただけだろうに」
「だけ!? だけな訳がありません! 少佐殿と一つ屋根の下でお茶会ですよ!? これはご褒美もご褒美であります!」
「まぁ、落ち着け。貴官がどのような思いでこのお茶会に来たかは知らんが、そんなテンションで最後まで付き合えるとも思えん」
「さ、最後まででありますか!!?」
「落ち着けと言っているだろうが。全く……」
ため息をつき、額に手を当てた少佐殿は、私の方へと歩み寄られて――。
ちょこんっと、私の膝の上にお座りになりました?
…………――っ////
膝から伝わる体温が、柔らかさが!
そして近づいた、というよりは密着に近い身体の距離のせいで、少佐殿から漂う匂いが――。
……ほとんど血と硝煙とコーヒーの香りですが……。
それでも、少佐殿の身体から漂うというだけで、何やら特別な香りに感じてしまいます。
「さて、ヴィーシャ。こうして座ってしまったが、床という固い場所に座り続けることは本意ではあるまい? 何も無い部屋ではあるが、流石に寝るためのベッドくらいはある。そこに座り直してはどうだ?」
意地悪そうな顔で見上げ、そんな事を私に告げる少佐殿。
と言う割りに、私の膝の上から一向に退く気配が無い事を加味すると……。
「そ、その……失礼します」
立ち上がる前に少佐殿の小さな身体を抱き抱え、持ち上げて。
どうやら正解だったらしく、甘えるように首元へと腕を回してくる少佐殿。
そのまま立ち上がり、ベッドへ移動を開始した頃――。
「貴官は優秀だな」
と耳元で囁かれまして。
膝から力が抜け、転けそうになりながらも、私は何とかベッドへと着陸します。
当然抱き抱えていた少佐殿も、私の膝の上にしっかりと着地しておられました。
「褒めるとコレだ。私に褒められたくないのかね?」
「めめめ、滅相もありません! ただ……」
「ただ?」
「囁いていただけるのが幸せすぎて……。身体から勝手に力が抜けてしまうのです……」
変わらずイタズラっぽい笑みを浮かべていた少佐殿でしたが、私がそう言うとすぐに顔を背けてしまわれました。
しかし直後。
「目を閉じろ」
少佐の伸ばした手が私の後頭部を撫で上げ、頭の角度を調整してきて――。
言われるままに目を閉じて、視界に入った最後の光景は少佐殿がこちらを見上げているお姿であり――。
私の唇に、柔らかく、小さいものが押し当てられた時は驚いてしまいましたが、少佐殿が放してくれません。
軽い困惑で呼吸が苦しくなる頃、ようやく放された唇同士に、光る筋が橋を架けて。
互いに熱を帯びた視線で、お互いの事を見つめます。
今度は向かい合い、後頭部では無く頬へと添えられた小さな手に導かれ。
再度接吻を行います。
先ほどのキスでは物足りぬ、と。
頬に添えられた手はいつの間にか抱きしめるような形へと持って行かれており……。
比べられぬほど情熱的な交わりへと昇華したその行為を貪ること、果たしてどれ程経ったでしょうか。
お互いが満たされぬ渇きを紛らわす事が出来たと思うまで重ね、その後。
私が入れたコーヒーを片手に、満足そうにチョコを頬張るデグレチャフ少佐を膝に乗せつつ、私も、デグレチャフ殿から時折『あーん』されるチョコと共に、幸せを噛み締めるのでありました。
上司と部下の関係ではありますが、体格的には今回のようなシチュも可能なはず。
……原作では有り得ないような甘えん坊ターニャとコメディチックなヴィーシャのような気もしますが、きっと恐らく多分気のせいです。