というわけでタニャヴィシャいちゃいちゃセットを置いておきます。
「それで? 今日は何の用だ?」
「覚えておられないのですか?」
我が優秀な副官、ヴィーシャに連れられて来たのは彼女の家。
何か用事があると言っていたのだが、これでは別に普段と変わりはしない。
だからこそ問いかけたのだが、向こうから返ってきたのも問いであり、質問に質問で返すのは感心しないとムッとして居たら、不安そうな顔で私の表情をのぞき込んできた。
一体何を覚えていないと? 何か約束をしたか? いや、他の連中ならまだしもヴィーシャとの約束を忘れることはあり得ない。
だとすると記念日? 初めて彼女の家に呼ばれた日? ――違う。
初お泊り? ……これも否だ。
ヴィーシャの誕生日……は冬であるし――うん? 誕生日?
そうか!
「私の誕生日か!」
「そうですよ。……やっぱり忘れられていたのですね」
「いや、しかし待て。私は自分の誕生日を貴官に伝えた覚えはないのだが……」
「ダキアとの戦いの前に言っておられたではありませんか」
「あー……そういえばそんなことを言った気もする」
ようやくたどり着けた答えに納得し、けれども湧き出た疑問は、即座にヴィーシャの口から回答が滑り出てきて。
自分自身ですら発言していたことを覚えていなかったというのに、全く……うちの副官は優秀過ぎるな。
「少佐殿の誕生日という事で、腕によりをかけてごちそうを作ったのでご堪能ください」
「ありがとう。最高のプレゼントだよ」
家に着き、ドアを開ければすぐさまいい匂いが鼻腔をくすぐってくる。
どうやら下ごしらえだけを済ませているらしいが、それでこの匂いとは……完成するのが待ち遠しいな。
「では少佐殿はテーブルでお待ちください。すぐに仕上げてきちゃいますので」
そう言ってエプロンを付けたヴィーシャは、キッチンの方へと歩いていく。
思えばこうしてエプロン姿のヴィーシャを見るのは久しいな。
最近は忙しくて外食ばかりだったからか。こうして見ると立派なお嫁さんじゃあないか。
「まずはコーヒーです。炒り方から練習したので満足していただけるかと」
私の事をよく理解している出来た副官は、まず私が望んでやまないものを出してくれた。
周囲に立ち込める香ばしい香り。やや茶色がかった黒い液体は、覗き込む私の姿を反射して引き込むようで。
カップを近づけ息を吸い込めば、周囲を漂う何倍もの香りに思わず酔いしれてしまいそうだ。
目で見て、鼻で味わった後、残るはいよいよ味のみ。
口に付け、ゆっくりと傾けて口内へとコーヒーを注ぎ込むと……。
やや強めの酸味と香ばしさ。後から感じる苦みの奥底に、ほんのりとした甘みが顔を出し、思わず頬が緩んでしまう。
心配そうにこちらを見てくるが安心したまえ。貴官の淹れたコーヒーが不味いはずがない。
感想を言うよりも、まずは余韻に浸りたい。
視線を上げ、上体を逸らし。ゆっくりゆっくり鼻から息を抜いて。
まだ口内に残る芳醇な香りを、最後まで楽しんだ後、
「流石はヴィーシャだ。最高の味だよ」
そう伝えれば、不安そうな泣き顔だったヴィーシャの表情に陽が差して。
満開の花のごとく輝く笑顔を見せ、料理の方へと取り掛かりに行った。
……不覚にもドキッとした。見慣れたはずの笑顔がまぶしくて。
ずっとそばで見ていたい、と。独り占めにしていたいと本気で思ってしまった。
そんな気持ちを抑えるため、私は手に持ったカップの中身を、再度口の中へと流すのだった。
*
「ふぅ。久しぶりにこんなに食べたな」
「ご満足いただけたようで何よりです」
テーブルに並べられた数々の料理。それら全てを平らげて、ヴィーシャへと感謝の言葉を。
「貴官のおかげで今年の誕生日はとてもいい一日となった。感謝するよ」
「いえいえ、このような事しか出来ませんでしたが、満足していただけて本当に良かったです」
だが、少しだけ物足りない。……そう物足りないのだ。
コーヒーを堪能し、手料理に舌鼓を打ち。
腹を満たされはしたが、物足りない。
……そうだな。
「時にヴィーシャ」
「はい、何でしょうか?」
「私は今日誕生日で、それを祝うために料理を振舞ってくれた、そうだな?」
「はい。その通りでありますが……それが何か?」
「確かに料理は美味しかったし満足したが、そうだな……プレゼントが足りない」
「プレゼント……で、では、今から買ってきて――」
「いや、いい。満腹になって睡魔が来た」
「そ、そうですか……」
ここらの前置きで十分か。勘が良ければもしかしたら気が付くかもしれないが、目の前のヴィーシャは困り顔でオロオロするばかり。
どうやら、私の意図が汲み取れていないようだ。
「しかし季節は秋口とはいえ、今日は妙に冷える。そこで……一緒に寝てくれたりなどしないか?」
「へ? ……も、もちろんです!! 少佐殿が寒さで風邪などひかないよう、私が責任を持って温めさせていただきます!!」
「では早速。……ああしかし、眠いせいで足元がおぼつかないなぁ」
「っ!? わ、私が運ばせていただきます!!」
そう言って座った私を抱きかかえてくれるヴィーシャ。
ちょうど口元に彼女の耳が来ているのを見て、少しばかり意地悪をしたくなってしまった。
「今日はありがとうな、ヴィーシャ。……はむ」
「ひゃわ!? しょ、少佐殿……何を!?」
ただ耳を甘噛みしただけだというのに、私を落としそうになるほどに驚かれ。
耳まで真っ赤にしながら抗議してくる彼女は何とも可愛らしい。
「そんな調子ではベッドでは持たんぞ? 何せ普段よりも早い就寝だ。夜は長いぞ?」
「そ、それは……////」
ベッドでは朝までイチャイチャした。
ターニャはヴィーシャといるプライベートは絶対に頬を緩めっぱなしだし、何なら今回の話みたいにヴィーシャを困らせようと色々画策すると思う。
そんなターニャに振り回されつつも、要所要所でターニャをクラッとさせる言動をするのがヴィーシャであり、そんなヴィーシャを見るたびに、「私のヴィーシャはやっぱり最高だな」と再認識するターニャが尊いんですよ。
というわけで作者の妄想に付き合っていただけたタニャヴィシャ沼の諸君は是非ともみやち様のツイッターに行ってターニャちゃんバースデーイラストをチェックするのだ。