どちらがいいかを尋ねたところ、
「選べない。両方を希望」
と言われたので選択肢両方を取り入れてみました。
何気ない、何の変哲も無い、言うなれば日常の、仕事という括りに入っているであろうその景色も。
いつまでも、どこまでも続く気がすれば気が滅入るもので。
終わりが無い仕事というのは等しく絶望感を与えるもので。
「――いつまで続くのでしょうか?」
「さぁな。気になるならば尋ねてきてみてはどうだ? 最も、尋ねたところで答えてくれるとは限らんがね」
即応の名に恥じぬ働きを、文字通り遊撃というフットワークの軽さで、様々な戦場を飛び回っていた我ら二〇三魔導大隊は、我らを壊滅させんと物量で波状攻撃を仕掛けてくる連合国を相手に、片手では数えられぬほどの波を押し返しているところでした。
軽口を叩いているように聞こえるかもしれませんが、既に私も、ヴァイス中尉やグランツ中尉だけで無く、少佐殿でさえもが、残存魔力が尽きかけている状況。
防殻術式もままならず、体のあちこちに銃弾が掠った際に出来た傷や、軽度の火傷があります。
そんな絶望――そう、絶望以外の何ものでもないこんな状況において、自暴自棄にならずに冷静でいられるのは、私が全幅の信頼を寄せる少佐殿が普段通りに振る舞われているからに他なりません。
「さて、そろそろ仕事を終えて帰路につかねば、我々の残業代だけで国が頭を抱えることになるかもしれん。皆等しく消耗しているだろうが、仕事を切り上げるためにここで今まで以上に奮って貰わねばならん」
あの地獄の再教育を終えた、恐ろしく優秀な大隊の全員に聞こえるように、声を張り上げられる少佐殿。
あの小さな体のどこに、こんな大きな声を出す器官があるというのか……。
それでも、その声を聞いた大隊のメンバーは、私も含めて銃を握る手に力を込めます。
なにせ、あの少佐殿が言うのです。
これが最後だ、と。
ならば、私達が着いていかないはずが無いではありませんか。
「まずは我らを包囲しているその包囲網を突破する! 全員可能な限り高度を上げろ!! 太陽を背にし、相手の目を眩ませてでも抜けるぞ!!」
場を震わすその声に従うように、全員が表情を引き締めて一斉に急上昇を始めます。
しかし、やはり残り少ない魔力ではいつも通りの高度など取れるはずもありません。
――が、どうやら元々その事は分かっておられたようで……。
「全く、他の帝国軍には見せられない体たらくだな」
ため息混じりに、最初に失速した少佐殿は、まるで子供がいたずらがバレたときのような、誤魔化すような表情を浮かべます。
「嘆いていても仕方が無い。全員、何としても突破し、振り切り、生き残れ!!」
少佐殿が言うが早いか、即座に急降下を始め生き残るために動き出した各々。
それに続こうと身構えたとき……。
不意に、私に伸ばされた小さな手がありました。
吸い付くように、そして絡みつくように。
その伸びてきた手は、私の手に繋がってきて――。
「本当に最後かもしれん。……ヴィーシャ――着いてこい」
引っ張られ、たぐり寄せられた私の唇に、柔らかなものが押し付けられました。
目を閉じる暇も無く、視界に移るのは灰色の空と小さな敵影だった私の視界が、一瞬の内に少佐殿に独占されて……。
「あ……」
ゆっくりと離された唇に、名残惜しそうに声を出した私をニヤリと笑った少佐殿は……。
「続きは帰り着いてからだ。……死んではならんぞ?」
「はい! 命に代えても生き残ります!!」
「代えてしまってはダメだろう。……まぁ、いい」
僅かな温もりを私の手に残して、急降下を開始されました。
「大隊各員に伝達。我が大隊の興廃はこの結果次第だ! 各員、一層奮励、努力せよ!!」
その後を追うように急降下を開始した私の耳に届いたのは、力強く、頼もしい少佐殿のお声で。
「…………どこまでも、着いてきてくれ」
通信を切り、私が後ろにいることを確認して安堵の表情を見せ、私にしか届かぬ声で、そう言われました。
「もちろんです。……帰り着いたら、コーヒーを淹れますね」
「そうだな。……そうして貰おう」
*
小さな寝息、ほんの少しだけ肌寒い、まだ日が昇りきっていない朝。
傍に寝る、少佐殿の温もりを確認し、ホッとしてから起こさぬように支度をします。
豆は昨日の時点で挽いており、風味が損なわれないようにしっかりと保存済み。
進むにつれて香ばしい匂いが部屋に充満していく中、どうやら鼻に届いた様子。
小さな物音がして、少し時間が経てば――、
「おはよう、ヴィーシャ。すまないがいつものようにコーヒーを一杯」
「はい。承知しております。おはようございます。デグレチャフ少佐」
私の英雄、少佐殿が眠い目を擦りながら、そう私に告げてくるのでした。
いつもより短い気もしますが個人的にこれくらいの方が各々で想像できるのでいいかなーと。
はぁ……何でこの二人結婚しないんですかね?