白銀の百合   作:瀧音静

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好きが好きすぎて好きだから好き。
好きが暴走しまくる漫画を描かれるみやち様マジ生きる糧。



溶ける程の寒さ

 思わず漏れ出たため息は、自分の正直な気持ちなのか。

 テーブルに頬杖ついてただ漫然と時間の経過を待つ私を見て、周りは一体何というのだろうか。

 らしくない。とでも思われるか?

 

「はぁ……」

 

 再びのため息を吐いたときに、気でも紛らわそうとコーヒーでも飲もうと考えて、ため息の原因であるソレに行き着いて、やっぱりため息を漏らす。

 

「やれやれ、まだたったの一時間だというのに。――私は、一体いつからこうも孤独に弱くなってしまったのだ?」

 

 仕事で、戦場で信じることが出来るのは自分だけ。

 周りは自分の評価を下げる足枷でしかなく、そのため与えた役割は弾よけ。

 部下が手柄を立てれば素直に褒めて上に報告し、部下の信頼と上からの信頼の両方とを確立。

 成果を上げて安全な後方勤務を目指していたが、果たして最近は本当に弾よけとして考えているかどうか。

 独り言の後に続く、心の中での自問自答。

 その自問のテーマを紐解いていけば、つまるところ一人の人間にぶち当たる。

 ヴィクトーリヤ・イヴァーノヴナ・セレブリャコーフ。

 二人きりの時はヴィーシャと呼び、大隊の中で唯一プライベートでも繋がっている部下。

 何故今そんなことを考えるかと言えば、それは本来は二人きりで今の時間を過ごす予定だったわけで。

 しかし、軍の飲み会に誘われてしまい、断れるはずも無く参加することになったわけで。

 さらに言えば、自分の方には年齢からそもそも声がかかることすら無いわけで。

 会社員時代に感じていた、断れないが行きたくない飲み会の必要性に、まさか転生先でも悩まされることになろうとは。

 

「そう言えば、こちらの世界での飲み会はどの程度の時間なのだ?」

 

 自分が知っている飲み会は、店ごとに違いはあったが、おおよそ二時間程度のものだった。

 しかし、この世界がそれに準じている保証は? 確証は?

 最悪朝まで帰ってこず、帰って来たら来たで、飲み過ぎて二日酔いでまともに動けないなど、時間がもったいなさ過ぎる。

 そんな事が脳裏によぎったのが三十分前。

 そこからいつ戻ってくるか分からないヴィーシャを待ち続けているが、正直気が気じゃ無かった。

 であるならばこちらから迎えに行けばいいのだろうが、迎えに行く理由がない。

 ましてや迎えに行ったときに、もし飲み会を楽しんでいる様子であればやるせない気持ちになってしまいそうで、僅かに不安もある。

 結果、自問自答という答えの出きったもので時間を潰すしかなく、気が滅入っていたのだ。

 

「もう、いいか」

 

 何度目か、何巡目か分からない自問自答を終えたターニャは、そう呟いて立ち上がり、上着を羽織る。

 そのまま時計をちらりと確認し、早足に外へと向かった。

 ――時刻は、ヴィーシャが出かけて二時間ほど経過していた。

 

 

 ワイワイガヤガヤ、時折大きな声が聞こえてきて賑やかだが騒がしい、そんな店内で、ヴィーシャはようやく最初のお酒に口を付けていた。

 周りに勧められ、そのことごとくをのらりくらりと躱していたが、ここに来て理由が尽き、とうとう陥落してしまったのだ。

 今までのヴィーシャであれば、目の前の料理にがっつき、舌鼓を打ち、酒で喉を潤して楽しんでいただろうが、今この時のヴィーシャに関しては残念ながらそれほど楽しめていなかった。

 何故かと問われれば、即座にこう答えることだろう。

 

「少佐殿が居られません」

 

 と。

 けれども未成年である少佐殿が呼ばれることは無く、出かける前に言われた、

 

「せいぜい楽しんでこい」

 

 が皮肉以外の何ものにも聞こえません。

 けれど、私が先に抜けて場の空気が悪くなったらと思うと、迂闊に動けず……。

 結果、愛想笑いとソフトドリンクのみで時間まで切り抜けようと決意しましたが、既に私の手にはアルコールが握られていまして……。

 申し訳ありません、少佐殿。未熟な私を許して下さい……。

 決意はあっさりと瓦解して、ゆっくり静かにアルコールを喉へと迎え入れました。

 特有の香りが鼻に届き、滑り落ちる喉元から熱さが伝わってきます。

 ――はぁ。……飲んでしまった。少佐殿に一体何と言い訳しよう……。

 時間を確認してみると、既に一時間半ほど時間が経っていました。

 これだけ居れば、帰っても問題無いですよね?

 

「ん? もう帰るのか中尉? 折角の酒の席だ、もっと飲んでいかないか!?」

「お言葉は嬉しいのですが、これ以上は明日以降に差し支えまして……」

 

 退席しようと立ち上がると、即座に声を掛けられましたが、これ以上私は付き合う気はありません。

 そのまましばらく押し問答をしていると……。

 

「だから、私は将校だと言っているだろう! 軍に確認してみろ!」

「し、しかし、未成年の立ち入りは――」

 

 何やらもの凄く聞き慣れた声が。

 そちらの方を覗いてみると――少佐殿のお姿が。

 

「少佐殿!?」

「あぁ、セレブリャコーフ中尉……。探したぞ。貴官に話がある。帰るぞ」

「た、直ちに!」

「と言うわけだ、中尉を借りてくぞ。……あまりハメを外しすぎない程度にしろよ?」

 

 私に気が付いた少尉殿は、どうやら私を探していたらしく私を呼びました。

 店員も他の大隊各員もぽかんとする中、忠告とも取れる言葉を店に残っている皆に伝え、少佐殿は私の手を引いて歩き出しました。

 

 

「全くあの店員は。私が未成年だからと頑なに店に入れようとしなかった。……銀翼突撃章を置いてきたのは失敗だったな」

「あはは……」

「次回からは忘れぬようにせねばな」

 

 普段より気持ち早足で歩かれる少佐殿について歩いているとそんなことを言い出しました。

 ……あの店員の驚いた顔が脳裏にちらつきます。

 

「そ、そう言えば話とは? 本部からの緊急連絡でありますか?」

「? そんなものは無い」

「はえっ?」

「迎えに来ただけだ」

 

 足を止め、私の方へと振り向いた少佐殿が近づいてきます。

 

「一体何時だと思っている? ハメを外すのは構わないが、節度を持つことだ」

「それは……」

「私が直々に迎えに来た意味をよく考えることだ」

 

 見上げられ、凄まれながら言われ、申し訳無い気持ちが溢れてきます。

 

「……っ申し訳ありません! 中々抜け出せずこのような時間に――」

「ん? 酒の匂いがするな」

「皆さんに勧められて断り切れず……すみません」

「軍務に支障が出ない程度にならば構わんが……しかし、やつらはまだ飲むのか?」

「恐らく……。すみませんでした、少佐殿」

 

 ジト目で睨まれながら言われる少佐殿に対し、謝罪の言葉以外が出ない私。

 

「全くだ。以後気をつけたまえ――いや、お仕置きをして体に覚えさせた方がいいか?」

「おしおっ!? ///」

「夜中だぞ? あまり大きい声を出すんじゃない。――それに、何を想像したのか」

 

 お酒のせいではなく、顔が紅潮していくのが分かります。

 ナニを、想像していたなどと……。

 

「とりあえず帰るぞ。……期待しているようだ、望むお仕置きとやらをしてやらねばならんらしい」

 

 いたずらに笑い、私の手を取って走り出した少佐殿の頬も、僅かに紅潮している気がしますが、寒いせいだと思うことにしました。

 ……私と同じ理由だと嬉しいのですが。




書きたい話ばかり投稿されるので私の執筆が追いつかない。

ふ、不定期更新だから!(震え声)

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