二人きりデートって注文でしたが、そもそもこの二人いつでもどこでもデートしているのでは? と書きながら思いましたまる
「来ておいて言うのも何だが……本当にこんな場所で良かったのか?」
「はい! 是非とも少佐殿とこのような場所に来たいなと、常々思っていました」
戦場から戦場を飛び交う騒乱の中を日常と決め、それこそ息つく間もなく活躍していた大隊に、慰労のためにと突如言い渡された休暇。
あまりにも突然すぎてやることが思いつかないため、何かしたいことや行きたい場所などはあるか? とヴィーシャに尋ねてみたところ、
「では、ここから少しだけ距離がありますが、湖に行きたいであります!」
と返って来た。
ならば、と恋人よろしく手を繋いで二人でフライトし、目的の場所まで来てみると。
そこは我々の日常とはほど遠い静寂で、耳に届くのは銃声や悲鳴、断末魔といった人工的な音ではなく、風に揺れる葉や波のさざめきや鳥のさえずりという自然の音。
心が洗われる、という表現が合うかは分からないが、一種の清々しさを覚えるこの感情は、確かに来て良かったと思えるものだった。
「素敵な場所ですね」
「そうだな。……まぁ貴官と一緒ならば大抵の場所は素敵な場所へと昇華するが――」
浮かれてか、それとも油断か。
自然にスルりと私の口から滑り出たその言葉は失言となり得るだろうか?
発言して時間にすれば数十秒。しかし、その無言が痛く、どのような表情なのかと恐る恐る顔を見ると。
「……//////」
裾を握りしめて赤面するヴィーシャの顔が確認できてしまい、見ているこっちも思わず赤面してしまう。
一つ一つの動作が私に対する直撃弾なのだが、果たして彼女は気が付いているのだろうか。
「しょ、少佐殿は……ズルいです」
僅かに瞳を潤ませながら言うその姿こそがズルいと思うが、今の私は顔がにやけていると実感している。
故に、顔をこれ以上あげることが出来ない。……あげればヴィーシャに見られてしまうだろうし、それに対して反応したヴィーシャに我慢できそうにない。
静かな湖畔、町からも、戦地からも少しだけ距離がある為に許された、たった二人の――二人だけの空間。
そんな場所を二人占めにしておいて、なおも望むか。
握っていた手は次第に絡み、さほど離れていなかった二人の距離が、どちらからでも無く縮まっていく。
夕日に映し出された伸びた影は、二つが――一つに。……そしてまた、二つに。
「今のは……ご褒美でありましょうか?」
「そうだな――激励、というのはどうだ? ご褒美はこれからの活躍次第、というのは」
「こ、これからでありますか////」
「おや、何を想像したのか。顔が真っ赤だぞ、
「少佐殿こそ――」
全く、何を言っているのか。私はただ夕日に照らされているだけだろう?
私は貴官とは違うのだよ。
「……少佐殿――」
等と心の中で言い訳をしていると、不意に彼女が顔を首元に近づけてきて……。
ゆっくりと柔らかいものが押し付けられた。
「お返し、です」
いたずらっぽく笑うヴィーシャは夕日に照らされ、眩しい笑顔を向けてきて。
当事者だというのに、この甘ったるい空気に思わずむせてしまいそうになった。
先ほどまでより気温も、体温も高くなった気がするし、もうこの場の空気には耐えられん。
早急に立ち去るとしよう。
「そろそろ戻るか。直に寒くなりそうだ」
「帰り着く頃には冷えそうですね。……帰ったらコーヒーを淹れましょうか?」
「是非そうしてくれ。甘いものを摂取し過ぎたようだ。貴官のコーヒーが恋しいよ」
ブラックコーヒーでも飲めば、多少は落ち着くだろうか。
あまり変わらない気もするが……。
「ヴィーシャと……呼んで下さらないのですね……」
「誰かに聞かれでもしたらどうする。二人きりになったらちゃんと――」
「ちゃんと?」
拗ねた表情をするヴィーシャに釣られ、思わずそんなことを口走ってしまったが、果たして私は約束していただろうか。
二人きりの時はヴィーシャと呼ぶ、という約束を。
……記憶には無い。ということはたった今、このセレブリャコーフ中尉に
「あぁ、もう! 呼ぶよ! 呼ぶとも!!」
「少佐殿!!!」
やけくそ気味に約束すれば、飛行中だというのに私に抱きついてくるヴィーシャ。
全く、この場面をもし万が一見られてでもいたら、目を覆うようなお仕置きをせねばならんな。
タニャヴィシャ!!(お目々グルグル)
タニャヴィシャ!!(髪の奇跡の目)
タニャヴィシャ!!(存在X)