久々にラブコメ()書いたわぁ。
「――ん?」
些細な変化……いや、下手をすれば気が付かなかったかもしれないそれは、しかしハッキリと私は認識した。
ヴィーシャの淹れてくれたコーヒーの些細な変化を、である。
「お口に……合いませんでしたか?」
おずおずと、不安そうに尋ねてくる出来る部下は、私が「不味い」と吐き捨て、飲まないとでも考えたのだろうか?
「いや――うまい。ただ、いつもと違うと思ってな。……焙煎か? それとも抽出方法か?」
さして変化も起こらぬだろうに、角度を変えて液面を眺めてみたり、香りを今一度鼻腔に入れ、楽しんでみたり。
まるでワインでも飲んでいるかのような振る舞いは、しかしソレと変わらないほどの楽しみを私に与えてくれているという証明。
「今日は焙煎の方を変えてみました……」
「なるほど……」
そう聞くと香りがいつもより香ばしい感じがするし、僅かながらに酸味が強い気がしなくもない。
けれども前述の通り些細な変化であり、また、変化しない部分も存在するわけで。
「ふぅ――――ありがたいな」
変わらぬ『美味しい』という事実を受け止め、そして――自分のために焙煎を変えてみたりと工夫を凝らしてくれる彼女の存在を思って、無意識に出た幸せのため息と言葉。
「その……少佐殿? どういった意味でしょうか?」
「出来る部下を持てて助かる、という意味だ」
わざと部下と口にして、照れ隠しをしてみたが、そもそも褒めていることには変わりない。
けれどもいつも通りのヴィーシャ呼びでない事が彼女の不安を煽ったか。
「ひょっとして、不要な世話でしたでしょうか?」
今にも泣き出しそうな表情で、声を震わせ尋ねられると、真っ先に罪悪感がこみ上げてくる。
「そんなわけがないだろう。そもそも『うまい』と言ったはずだ。私はコーヒーに対しては絶対に嘘は付かんぞ?」
「で、ですが……」
まだ納得しないか。あまり言うのは恥ずかしくて遠慮したいところなのだが……いや、部下を労うのも上司の務め。その労い方を間違えたのならば自分で責任を取らねばなるまい。
「一度しか言わんからよく聞け。普段のコーヒーも美味いが今日のコーヒーもうまい。手間暇をかけて淹れてくれたのが分かる以上、その事を感謝しないはずがないだろう? だから……その――、これからもこういったコーヒーを淹れてくれ」
意を決して言い始めた時とは対照的に、恥ずかしさで尻すぼみ的に小さくなった私の声に、豪雨中に太陽が顔を出したが如く晴れた笑顔になったヴィーシャは、
「分かりました! 私はこれからも少佐殿の為にコーヒーを淹れ続けるであります!」
敬礼までして声高らかに宣言した。
……
たったその五文字に、どれ程の思いを込めているのだろうか。
どちらかの愛想が尽きるまで? 死により分かたれるまで? それとも――添い遂げるまで?
期待は、願望は、思いは、願いは。
この時だけはお互いの思考が同じなのだと確信がある。
終わりまで――最後まで、だろう? ヴィーシャ。
勝手に甘ったるくなってしまったその場の空気を中和するため、コーヒーを一口含んでみれば。
彼女が、私のためを思って淹れた。その事実からか、味が柔らかく、丸くなっているような気さえする。
いつも以上に舌で転がし、空気を鼻へと抜けさせて香りを楽しみ、ゆっくりと味わって飲み下せば……。
「少佐殿――幸せそうですね」
などと笑みを向けられてしまい……。
「幸せそう……か。――似合っているだろう? 大切な存在とかけがえのない時間を共に過ごし、好きな物を楽しんでいる姿は」
口から出てきたのはガムシロップなどでは表現できないほどの甘い言葉。
そもそも彼女は、表情なのか、取り巻く空気なのかを言及していない。
言及していないだけでどちらも正解なのではあるが、それにしても先の言葉は自分ながらに思い出して恥ずかしくなる。
顔を見られぬようにと背け、コーヒーを口に含むと――、
「少佐殿。……私も――私も、今この瞬間が最高に幸せであります」
なんて言葉が飛んできて、思わず吹き出しそうになった。
不意打ちも甚だしく、思わずむせてしまったぞ。
「だ、大丈夫ですか?」
「ゲホッ! だ……誰のせいだと!」
背中を撫でられる感触も、呼吸音さえ聞こえそうな顔の位置も。
そして、彼女の思いやり、優しさに溢れた私に接する態度も。
全部が全部甘くて、心地良くて、温かくて。
今の私の口に合うのは、惜しいがヴィーシャの淹れてくれたコーヒーでは無いようだ。
全く、ヴィーシャといるといいように振り回されている気がするよ。
「少佐ど――んむっ!?」
私がコーヒーよりも優先して求めたのは、柔らかく、甘く……そして温かいものだった、とだけ伝えておこう。
いいか? ラブコメ書きの諸君よく聞け!
ラブコメで一番大事なのはなぁ! 『日常』なんだよ!
イベントがなんだ! ハプニングがなんだ! 『日常』が割合的に一番多いはずだろうが!
だったら! だったら! 日常の一コマだけで火を噴くほど甘い場面を書いて下さいお願いします僕そう言うの大好物なんです。
とある物書きの手記より、抜粋