Lostbelt No.2.5 絶対■■帝国 ■■■ ~最■の男~ 作:>=
城の一室に備え付けられたベランダ。そこで外の風景を感慨深く見つめるのはクリプター、アルン・ベッテルハイム。
そこへ歩み寄る一人の低身長の男。
「異聞帯の北西部にて反応がありました。カルデアが異聞帯潜入に成功したようです。」
「そうか。無事やって来てくれたか。会議であんなにドヤ顔したのに失敗したら恥ずかしいったらありゃしない。」
「兵を出して直ちに殲滅いたしましょうか?すでに準備はできております。」
「おいおい、それは一番の愚策だぞ?何万もの英霊を従え、何億もの敵を倒し、何兆もの命を救ってきたホンモノのヒーロー。そんなもので殺せるはずがないだろ。」
「ですが、戦力も整っていない今が好機では__」
「そんなもん、何とかしてしまうのが本物だ。第一兵たちは俺が近くにいないと本領を発揮できないじゃん。下手に戦力さらしてこっちの正体バレたらそれこそ興ざめだ。折角向こうはこっちの情報が皆無なんだ。そこをうまく利用したい。
ネタバレはフィナーレの直前が一番盛り上がる。」
「…承知しました。それでは失礼します。」
そう言い男は去る。
「あの女狐もすぐやってくるだろう。それまでに片付けなければならない課題が山ほどあってマジ萎える。君たちに会えるのはそれが終わってからだ。それまではこの異聞帯を好きに観光していてくれ。カルデア諸君。」
「よし、無事着陸成功!みんな、着いたよ!」
「あの先輩、大丈夫ですか?」
所変わって場所はシャドウボーダー。無事異聞帯に侵入出来たことを伝えるダヴィンチだが、船員はみんな虚数潜航による酔いでやられている。
マシュが今にも死にそうなマスター、藤丸立夏に心配そうに声をかける。
「う、うん大丈夫。ありがとうマシュ。」
「大丈夫なわけがあるか!何回やっても慣れんわこんなの!というかこれを後五回はやらなきゃいけ___
「ミスターゴルドルフ。それはこの異聞帯を無事に攻略出来たらの話です。まずはこの異聞帯から生還することに全力を注がなくては。」
「う、うむそうだな。それでは藤丸立香。着陸して早々だが、任務を与える。まずは外へ出て辺りを捜索してくれ給え。ただ、ボーダーから離れることは許可しない。まずは民間人との接触を図ること。いいな?」
「わ、私も同行します!先輩!」
「うん!ありがとうマシュ。それじゃあ行こうか。」
「二人とも、気を付けるんだよ。前回みたいに着陸して即戦闘、という事も十分あり得るからね。」
ダヴィンチの忠告を頭に入れ、二人はハッチ前へ移動する。
「前回も前々回も雪がすごい場所だったけど今回はどんな所だろうね?」
「はい、出来れば適応しやすい場所がいいですね。」
『安心してくれ給え。外気温、摂氏23度。湿度30%。微風。外に異常な魔力反応無し。
今までの異聞帯とは違い普通の環境だ。』
「本当ですか!先輩良かったですね!」
「そうだね。じゃあ行こっか!」
そういい二人は開けられたハッチをくぐり外を出る。
すると
「「「「ブゥゥゥゥ!」」」」
「「…へ?」」」
「「「「ブゥゥゥゥゥゥゥ!!」」」」
「こ、これは…豚、ですか?」
「豚、だよね?」
そこにいたのは十頭を超える数の豚だった。
シャドウボーダー周辺を取り囲む豚たちに困惑の表情を見せるマシュと藤丸。
「ええと…ここは牧場って事でいいのでしょうか?」
「うん…流石に豚が支配する異聞帯ってのは無いと思うし…。」
アホな発想と思うかもしれないが彼女達はロシア異聞帯にてヤガという狼男の様な生物が支配する世界を見ているので完全に否定できないのも仕方がない。
彼女らが困惑していると突然一人の少年の声が聞こえる
「おーいうるせぇぞ!さっき飯やっただろ…ってハァァァァ!?」
恐らくこの豚の世話をしているであろう少年が驚きの声を上げる。
いきなり自分の家の牧場に巨大な黒い戦車のような物体が現れればそりゃそうなる。
「ななな何だこりゃ!?戦争か!?宣戦布告とか聞いてねぇぞ俺!」
混乱する少年。
「あ、先輩。丁度あの方に話を聞いてみましょう!」
「う、うん。…すごく説得するのに苦労しそうだけど。
あのー、すみませーん!」
「あぁ!?って誰だテメェら!?敵か!?どこの国のモンだオラ!!」
そういいいきなり少年は懐から拳銃を取り出し藤丸に向ける。
「え、ちょ、ちょっと待ってください!いきなりどうしたんですか!?」
「何で子供が拳銃なんて持ってるのー!?」
「子供だろうが俺はれっきとしたゲルマン人だ!敵に立ち向かわずしてどうする!」
「敵って…我々に敵対意識はありません!落ち着いてください!」
「黙れ!じ___
少年が引き金を引こうとしたその瞬間。少年の持つ拳銃が宙を舞った。
舞った拳銃が地に落ちることはなく、一人の男の手の上にて着地する。
「全く、エレメンタリースク―ルに通う様な歳の少年が持っていいモノじゃない。この国の法律はどうなっているのか、心配でたまらないよ。」
「「ホームズ!」さん」
得意のバリツで少年の身に余る凶器を蹴り飛ばしたホームズはその拳銃を手で遊ばせながら困ったように呟く。
「やぁミス藤丸。どうやら危ない状況だったようだから出しゃばらせてもらったよ。といってもミスキリエライトがいたのなら不要な真似だったかな?」
「い、いえ!そんなことは…」
「フフ。さて、少しは冷静になってくれたかな?」
そういいホームズは少年の方へ視線を戻す
「チッ、てめーらが俺の_____
「クゥルルルァァ!!!アイクゥゥゥ!!てめぇ仕事ほっぽり出して何してやがる!!!
って何だコリャ!!!」
緊迫な雰囲気を壊したの一人の老人の怒声だった。雷鳴の様な声を響かせて銃を片手に民家を飛び出し、二秒でシャドウ・ボーダーに腰を抜かす老人。
まるで先ほどの少年ことアイクのようだ。
「お、おい!アイク!なんだこりゃ!?説明しろ!」
「ジジイ!敵国の襲撃だぞ!!早く連絡を!」
「は?敵襲だぁ!?」
信じられない、というように目を見開く老人。
「私たちに敵意はありません!武器を下ろしてください!」
懸命に説得しようとする藤丸達。
「…」
じーっと三人を見る老人。
「おいジジイ!さっさとそのMP40あいつらにブチかませって言っt___
「この馬鹿野郎!!!」
「痛ってぇぇ!!!」
老人はこともあろうかアイクの頭に向かってその機関銃を思いっきり叩きつけた。
「おめぇって奴は本当に話を聞かねぇな!あともうちょっとでお陀仏だぞ!」
「どういうことだよ!アイツらが俺らを__
「もういいお前は一旦部屋へ帰れ。当分出てくんじゃねぇぞ。」
「はぁ意味わかん__
「いいな?」
「うっ、分かったよ。」
始めは反抗したアイクだが老人の圧力に押され大人しく民家へ戻る。
「いやぁ。すまんね嬢ちゃん達。あいつはどうも話を勘違いしていけねぇ」
「い、いえ。丸く収まってよかったです。」
「孫が迷惑かけた。詫びといっちゃあ何だが、一杯やろうや。うちのビールはうまいぞぉ?」
「いやー私たち未成年だから__
「是非ともご一緒させていただきたい。」
「ってホームズ!?」
未成年に酒を飲ませようとするホームズに対し軽蔑の視線を向ける藤丸だが
「何を勘違いしているのだね?彼はどうやら話が通じる男に見える。ならば質問するには絶好の男だ。この機会を逃せばこの異聞帯の情報を得ることができなくなってしまう。」
「え、ああそういう。」
理由あっての行動なのに犯罪者扱いされるホームズに同情したいところだが、薬物に手を出しているような人間なので警戒されるのも仕方ないっちゃあ仕方ない。
「それじゃ着いてきな」
「すまない、あと2人程連れてきても構わないかな?」
「あぁ?そのでっけえ潜水艦の中にいる訳か。全然構わねぇよ。」
老人の許可を得たので、藤丸達はダ・ヴィンチとゴルドルフも連れて老人の民家の中へ入っていった。
家の中へ入った一行はリビングルームへ案内される。彼らが席に座ったことを確認した老人は「んじゃあ酒とつまみ持ってくらぁ。」と言い、キッチンへと向かった。
5人だけになった彼らは小声で会話を始める。
「まずはご老人の誘いに甘えてこの席を楽しませてもらうとしよう。いきなり質問責めにするとご老人の折角の厚意が台無しだ。」
「それはいいけど…ホームズただお酒が飲みたかったわけじゃないよね?」
「全く、少しは信用してくれたまえMs藤丸。アルコールは人を饒舌にさせる。情報収集にはもってこいの武器と思うのだが。」
「そうですね。お酒は飲めるかどうかわかりませんが…おつまみの方も楽しみですね!」
「その点は期待してもいいと思うよ!なんせここはソーセージの名産地として有名だからね。」
「ダヴィンチちゃん、ここの場所が分かったのですか?」
「あぁ分かったとも。ここは西ヨーロッパ、現代のポーランドの北側に位置する場所だ。正確にはポーランドとドイツの境目あたりかな?」
「ポーランド、か。」
「ええと、ポーランドで有名な人物っていうと……」
「ショパンやコペルニクス等が挙げられますが、どれも異聞帯の王とは思えませんね。」
「この国がポーランドと決まったわけじゃないよ。ここの隣国のドイツやそのまた隣国のフランスの可能性だってあるんだ。時代によって国境は違うからね」
「なるほど!ドイツやフランスだったら強い影響力を持つ王は山ほど挙げられるな!有名どころだと、カール大帝やルイ14世などか。」
五人が様々な可能性を考えている間に老人が戻ってくる。
「よぉし!準備はできたぞ!楽しみにしてくれ、家よりうまいソ-セージを作る奴はこのあたりにはいねぇよ。」
「おぉ!それは期待できそうだ!」
「よっしゃあ!んじゃあ、いっちょ乾杯といくか!」
そういい6人は飲み会を始める。
と言っても実際に飲んでいたのはホームズ、ゴルドルフ、老人の三名であり、残りの女たちは未成年な為つまみを齧っているだけである。
さて、一時間近く飲み続け酔いが回った三人。最も、ゴルドルフは開始数分で倒れてしまったが。
藤丸立香は質問タイムへ移ろうとする。
「ええと、そういえばこの家はお爺さんとお孫さんだけなんですか?」
「……あぁ。俺のかみさんは60数年前に死んだ。こっから東の国の兵に殺された。
アイクの両親は10数年前にに死んだ。こっから西の国の兵に殺された。」
「あ…ごめんなさい。」
嫌な記憶を思い出させてしまったことに謝る藤丸。
「いや、構わねぇ。アイクは生まれてから実の親の顔を見ていねぇ。ただ、自分の親父、お袋が敵国の兵に殺されたという事実は知ってる。俺が教えたからな。」
「なるほど、それから彼はよそ者に敏感になってしまったということか。」
「あぁ。さっきのことを許してくれとは言わねぇが、アイツの事も分かってやってくれ。」
「あぁもちろんさ。幸い誰もケガしていないわけだし、こうしてご馳走までしてもらったんだ。礼を言う事はあっても攻める要素などありはしないさ。」
「あぁすまねぇな。そういえばあんたら旅の途中なんだろ?だったらここら辺の事で分からない事もあるだろ。俺に分かることがあれば何でも聞いてくれ。」
「(やりましたね先輩!この異聞帯の事についてもっと分かるかもしれません。)」
「(そうだね)ええとそれじゃあ、この国の中心って何処ですか?」
「おう、ベルリンだな。こっから車で一時間ってとこだな。」
そうだ。お前ら何なら今からベルリン行くか?車で送っててやるよ。」
「え、いいの!?」
いきなりこの国の王がいるであろう場所に案内してくれると言われ、喜ぶ藤丸。
「あぁ構わねぇ。折角この国に来たんならベルリンに行かなきゃな。んじゃ車用意してくるから外で待っててくれ。」
そういい老人は部屋を出る
「こんなに世話を掛けてしまってよいのでしょうか?」
「そうだな。なぜここまで親切なのかは分からないが。
Ms藤丸。このままベルリンへ行くべきだろうか?敵の本拠地に戦力もないまま侵入することになるが。」
「騒ぎを立てずに夜までに帰れば大丈夫だと思う。」
「そうか、分かった。ゴルドルフ氏はすっかり潰れてしまったので同行は難しそうだな。」
「そうだね!私もこの辺りの霊脈とかその他色々をリサーチするからボーダーに残ろうかな。」
「分かりました。それでは私と先輩とホームズさんの三人で行ってきます。何かあれば通信をください。」
「了解。キミたちこそ気を付けてくれよ。キミたちがこれから行くのは紛れもない敵のアジトだ。捕まったってなにも不思議じゃない。」
「分かったよ。ダヴィンチちゃん。」
そういい三人は外へ出て老人が用意する車へ乗った。
ダ・ヴィンチはゴルドルフを連れてシャドウ・ボーダーに戻った。
車内で外の景色を見ていると、マシュがとあることに気づく。
「先輩、そういえばこの異聞帯でも空想樹は見当たりませんね。」
「確かに、あのすみません。ここら辺ですっごく巨大な大樹を見たことはありますか?」
藤丸がダメ元で老人に尋ねる
「ん?それってあの黒くて空まで届いているあのでっけぇ柱の事か?何だあれ樹だったのか。」
「はぁ…やっぱり無いですか…
って見たんですか!?」
「お、おう。見たぞ。割と最近の話だな。いきなり地面からグワーッって柱が飛び出してきてよ、村のやつ全員が家から飛び出して口をあんぐり開けて見てたな。」
「ど、何処でですか!?」
「確か北の方だったな。って言ってももう無いぞ多分。一日経ったら急に消えやがったあの柱。いやーあんな事は80数年生きていて初めてだったな。」
「なるほど、北欧の時と同じように既に隠蔽されたようだ。」
「それでも痕跡は残ってるかもしれない!一回そっち側へ行って調べy___
「そいつはやめときな嬢ちゃん。」
それまで陽気だった老人の態度が一変し、無表情になる。
「え、何故ですか?」
「北側へ向かうのは勧めねぇってことだ。体を向けることさえ躊躇う所だ。あそこにはな、『悪魔』がいるんだよ。」
「ほぅ、それはどういうことかな。ミスター。我々とs___
ホームズがその件について追及しようとすると、老人は再び大きな笑みを浮かべて大声を出した。
「さぁて、そろそろベルリンだぜ!さぁ窓開けて目に焼き付けな。ここが我らが誇る世界最高の都市だ!」
シリアスな雰囲気を吹き飛ばすように声を張らせた老人に少し驚きながらもマシュと藤丸は車の窓を開ける。
「「うわぁぁぁ!凄い!」」
そこにあったのは超巨大なビル棟、整備された道路、そして溢れんばかりの活気だった。
ビルは見上げると首が痛くなる程の高さであり、そんなビルが密集している。
ビルたちが光を求めてより高くあらんとするその光景はまさに都会のジャングル。
一つ抜きんでたそれは神々しく光を反射させる。
広く、そしてフラットなコンクリートの上を走るのは数多くの車。その数多い車の全てが美しいデザインをしており、性能面でも騒音も立てずに静かにエレガントに走っている。街中を走る全ての車が高級車のようだ。
そんな最先端でまさに『都会』といった輝きを見せる車道とビル棟。その両端には緑あふれる歩道が目を癒す。これ程の発展都市なのに所謂『都会の喧騒』というものを全く感じなかったのはこの木々が連なる歩道が一役買っているに違いない。
その歩道では市民が会話を弾ませる。歩道の脇では芸をやってみせる者や歌を歌う者、楽器を演奏する者などがおり、人だかりを作る。ゴミ等も無く清潔な街で市民の民度の高さも伺える。そして何より、彼ら全員の顔には笑みがあった。
これはまるで
「汎人類史、いや…下手したらそれよりも栄えている?」
「おうよ!ここより栄えてる都市なんぞ地球上にはありゃしねぇよ!何たって世界の中心だからな、ここは。」
「ねぇねぇマシュ!あの車凄いよ!あんなの見たことない!」
「はい!どれもこれも本当にビックリするものばかりです。」
「確かにこれは大変興味をそそられるな。汎人類史でも中々見ないレベルだ。この国の指導者の手腕の高さが伺える。」
「盛り上がっているところすまねぇが、こんな狭い車の中じゃあベルリンを測りきることは出来ねぇぜ。分かったらさっさと降りな。夜になったら拾ってやるよ。」
そういい老人は車を止めてドアを開ける。
「はい!本当にわざわざありがとうございます!」
マシュたちは車を降りて老人に礼を言った。
「おう!たっぷり堪能しな、我らが『ドイツ』の首都をな!」
「「「!!!」」」
そういい老人は車を走らせ、三人の前から去っていく。
「…ドイツって言ってたね。」
「はい、これでフランスという線も無くなりました。」
「だがそれでも選択肢が多いことに変わりはない。ドイツと一言で言っても様々な時代に存在する。ゲルマン人の民族移動から始まり、フランク王国や神聖ローマ帝国などの中セにおけるドイツ、プロイセン王国などの近世におけるドイツ、そしてWWⅡの発端であるドイツ第三帝国…」
ドイツの歴史について語るホームズだが途中で言い淀む。
「ホームズさん?」
「いや…何でもないよ。とにかくそれでも候補である国及び王は大勢だ。」
「そ、そうですね。この潜入捜査で出来る限り候補を絞れればよいのですが。」
「街頭調査とかどう?顔も割れてないだろうし、直接聞いた方が得られるものも大きいと思うよ。」
「それはいいですね!やってみましょう!」
「そうだな。それは二人でやった方がいいだろう。私は別行動をとらせてもらう。」
「え、ホームズさんはどうするんですか?」
「私は住宅街の方を探ろうと思う。恐らくここはオフィス街だ。ここから数キロ離れた場所に住宅街がある。私はそこへ行って彼らの生活スタイルから推理していこうと思う。」
そういいホームズはタクシーを拾って去っていく。
「あ…行ってしまいましたね。」
「まぁホームズだから大丈夫だよ。調査においては超一流だしね。私たちも始めよっか。」
そうして二人は街頭調査を開始した。