Lostbelt No.2.5 絶対■■帝国 ■■■ ~最■の男~   作:>=

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七節 天才と男とカルデア

「よう、マシュ。久しぶり。」

 

「…お久しぶりです。アルンさん。」

 

一年以上ぶりの再会を果たす二人。

本来ならばもっと爽やかなものとなる筈だが、クリプターとカルデアという二人の立場が久方ぶりの再会をギスギスした雰囲気にさせる。

 

しかしそんな雰囲気知ったことかと言わんばかりにアルンは笑顔でマシュに問いかける。

 

「それで?どうよこのスケッチの出来は。割と自信作なんだが?」

 

そういいアルンがマシュ達に見せたのは絵画だった。

どうやらこの山からの風景を描いたもののようであり、クオリティは素人にしては上々の出来の様に見える。

 

「は、はい。大変お上手だt___

マシュが素直に賛辞しようとすると、ダ・ヴィンチが横から入ってくる。

 

『何これー!?へったくそー!タッチも雑だし遠近法も適当だしバランスも滅茶苦茶!!こんなクオリティが低い絵見た事な―い!風景が可哀そーう!』

 

けちょんけちょんに駄目だしするダ・ヴィンチ。

まぁ絵描きの頂点であるダ・ヴィンチから見たらアルンの絵はお粗末なものだったのかもしれないが…

 

「あ、あの…ダ・ヴィンチちゃん…」

 

『マシュも見てよ!あの雲とか傑作!!今どきの幼稚園児でももっとマシなの描くよ!!』

 

「あの…ダ・ヴィンチちゃん…アルンさんが投身自殺しそうなのでその辺に…」

 

 

「割と自信作なのに…皆にドヤ顔したのに…しかもその相手がレオナルド・ダ・ヴィンチって……」

 

あまりのショックと恥ずかしさに蹲る。

(見た目)小学生の何気ない一言に撃沈するアルン・ベッテルハイム、25歳。

 

 

『まぁまぁあまり傷つかないでくれ給え。そんなキミに今だけの限定お得サービスをだそうじゃないか。

 

 

 

 

 

今すぐにこの異聞帯を諦めて我々に協力するのなら、ダ・ヴィンチちゃんスペシャル絵画教室を君だけの為に開いてあげても構わないけど?』

 

 

ダ・ヴィンチは通信越しに真剣な表情でアルンに停戦勧告を呼び掛ける。

 

その場にいる全員がアルンの返答を待つ。

 

 

 

そしてアルンはゆっくりと立ち上がりながら口を開く。

 

「何だそれ…最高じゃん。ちょっと迷っちゃったじゃんか。

 

 

 

まぁ、0.1秒にも満たない間だがな。」

 

アルンによるはっきりとした拒絶。その解答を聞いた藤丸達の間に緊迫した雰囲気が生まれる。

 

『そっか、それは残念だ。風変わりなキミはひょっとしたら…って思ったんだけどね。』

 

「すまんな、ダ・ヴィンチ。俺はこのドイツという国の犬と化したんだ。」

 

 

それまで口を閉ざしていた藤丸がアルンに問う。

 

「つまり貴方は私たちの敵として立ちはだかる訳ね?」

 

「その通りだ世界の救世主。用件をまだ言っていなかったな。俺は今日挨拶に来たんだ。」

 

「挨拶?」

 

「世界を救った人間がわざわざ自分の異聞帯までお越しくださったんだ。そりゃ菓子の一つでも持って媚び売るのが常識だろ?」

 

『よく言うよ。自分からおびき寄せた癖に。』

 

「まぁそういうなって。おっとそうだ。こいつは土産だ。つまらないモノだが受け取ってくれ。」

そういいアルンは懐に手を入れる素振りをする。

そしてその次の瞬間。

 

 

 

低い銃の発砲音と高い剣の金属音が同時に響き渡る。

 

 

 

「ドイツ産の鉛玉だ。」

 

「なるほど、確かにつまらないものだな。」

 

拳銃を構えたアルン。

見えない剣を構えたアルトリア。

一瞬の攻防を交えた両者が睨み合う。

 

「ありがとう、アルトリア。」

 

「お気になさらず。それよりマスター、私に指示を!」

 

「オッケー。アルトリア」

 

「おじいちゃん、命令だ」

 

 

 

「「あのマスターを倒して/潰せ」」

 

 

 

 

「了解した!」

 

そういいアルトリアはキャスターに突撃しようとする。

 

しかしその瞬間、アルトリアは自身の体に異変を感じた。

 

 

 

 

「これは!?体が…重い!?」

 

「如何されましたか!?我が王!」

 

ガウェインがアルトリアの異変に気付き駆け寄る。

 

しかしそのガウェインも途端に膝をつく。

 

「くっ!!一体何が…」

 

膝をつく二人。

その様子を見た藤丸は焦る。

 

「え!?どうしたの!?二人とも動かないよ!」

 

『…どうやら二人に重力負荷が掛かっている様だ。

 

 

恐らくあのサーヴァントの仕業だろうね。』

 

ダ・ヴィンチは通信越しにアルンの横に立つ老人をにらむ。

 

キャスターがゆっくり口を開く。

「物は動くと重くなる。動く速度が上がればその分さらに重くなる。

 

物理界の常識だよ。

 

もっとも、20世紀からの常識だがね。」

 

『…相対性理論、というヤツだね。』

 

「その通りだ。私のスキルはそれを利用したまで。君たち二人は私に向かって攻撃するべく移動した。それはもう…私が20代だったとしても到底不可能なレベルの速さでだ。

 

 

 

だが私の前ではその速さが命取りだ。君たちは、早く動けばその分重くなる。現に止まっている今は重力を感じないだろう?残念だが私との相性は最悪のようだね。」

 

キャスターがそう説明するとダ・ヴィンチが重々しく口を開く。

 

「…その相対性理論を発見した人物、それがキミのサーヴァントか。アルン君。」

 

 

「あぁその通り。紹介しよう彼が俺のサーヴァント。

 

 

 

 

20世紀最高の天才。アルベルト・アインシュタインだ」

 

 

 

「アルベルト…アインシュタイン…。」

 

「はい。現代ではその名を知らない方はいない程有名な学者です。活躍した時代も私の達の時代と近いですね。

相対性理論を始めとする数多くの理論を証明し、現代物理学の父とまで言われています。」

 

『なるほど、これは我々にとっても難敵だ。なんせ相手は私だって認める大天才だ。そんな『知の英霊』が相手となると今までのように私やホームズが『知』においてマウントをとることが困難になってしまう。』

 

ロシア異聞帯、北欧異聞帯の両異聞帯にてダ・ヴィンチやホームズの戦略、知恵、推理、発明は常にカルデアに多大な利益を生み出してきた。しかし此度の相手はそんな二人に勝るとも劣らない知力の持ち主だ。

 

 

 

「どうだ、俺のサーヴァントは?クッソ最強だろ?なんせ動けば動くほど体に負担が掛かるんだからな。」

ドヤ顔でアルトリア達を見下すアルン。

 

「くっ、確かにあのスキルは脅威だ。何か策はあるか?ガウェイン卿。」

 

「いえ、申し訳ありませんが…。ですが一つだけ分かったことが。

 

 

どうやらあのスキルは術者自身にも効いている様です。現にマスターと術者である御老人はあの場を一歩も動いていない。」

 

「…なるほど。つまり奴らも動くことはできない、ということか。」

 

どうやらアルベルト・アインシュタインのスキルは諸刃の刃の様だ。

 

 

「ふむ、そこを突かれると痛い。何せ物理現象は万人に対して平等に起こる。神にでもならない限りえこひいきなど不可能だ。」

アインシュタインは頭をポリポリと掻きながら言う。

 

「私のような老いぼれではこのように頭を掻くだけの動作でもう腕がプルプルしてしまうのだよ。」

 

 

「つまり、攻撃手段を持たないってこと?」

藤丸がそう仮説を立てるとアインシュタインはそれは違う、と首を振る。

 

 

「お嬢ちゃん、君は一つ大事なものを忘れているよ。

 

私のスキル、『相対性理論』は速度と重さという比例関係にαという係数を加えたものだ。結果、重さは速度に掛けたα分だけ重くなる。」

 

 

「う、うーん?」

決して理系ではない藤丸の頭はショートを始める。

しかしそんなことお構いなしと言わんばかりにアインシュタインは手を挙げながら続ける。

 

「しかし、その影響を受けない物が一つある。それは、『質量をもたない物質』」

 

突然、アインシュタインの背後の空間が歪み黒い空間が現れる。

 

『あれは!?疑似的なブラックホール!?』

 

「すなわち、『光』だ」

 

そう言いアインシュタインが挙げた手を振り下ろすと同時にブラックホールから光線が放出し、アルトリアの腹を貫く。

 

「ぐあっ!!」

 

「「アルトリア/さん!!!」」

 

「我が王!ご無事ですか!?」

 

「くっ!大丈夫です…これしき。」

 

 

「光に質量は無い。故に最速。これを私は特殊相対性理論と名付けた。

 

 

それ二発目だ」

 

そういい再びブラックホールからビームが放出される。

 

アルトリアはその方向などを予測して躱そうとするが

 

「体がっ…」

 

躱しきれずに足を貫かれる。

アインシュタインのスキルによって体が思うように動かないのだ。

 

「お、割といいダメージ与えられてるんじゃないか?」

 

「ここで畳みかけるが吉の様だ。もう一発いくぞ。」

 

そういいアインシュタインは再び光線を放出する構えをとる。

 

 

「アルトリア!下がって!」

 

「我が王!」

 

周りが声をかけるもアルトリアの耳には入ってこない。

彼女の意識は今『如何にあの光線を防ぐか』という問いのみに注がれている。

 

 

 

「(どうする!速さは活かせない、体も思う存分動かない。どうすれば…)」

必死で対策を練るアルトリア。

 

その時、アルトリアの頭に一人の男の言葉がよぎった。

 

 

 

『力も気合も其方が上。となれば此方の見せ場は巧さだけよ』

 

「!!!」

 

 

キィィィン

 

 

金属音が響く。

 

何が起きたのか誰一人として理解できなかった。

ただ一人を除いて

 

「なるほど。流石は騎士王様だ。」

 

「…何が起こった、マスター。」

 

ただ一人状況を把握しているアルンがアインシュタインに説明する。

 

 

「あのブリテン人は最低限の動きだけで光速のビームを剣で弾いたのさ。一切の無駄な動きはなかった。恐るべき剣技だ。」

 

最低限の動き。それはつまり、最低限の速度で対処するという事に他ならない。

 

そしてそれはアインシュタインのスキルには最適の動きだ。

なにしろ最低限の速度、ということはその体に掛かる『重さも最低限という事だ』

 

つまりアルトリアは可能な限り己の体に負荷する重さを減らして、ビームをはじいたという事だ。

 

 

「は?何だそれは。しかも光の速度だぞ?そんな簡単に対処できるはずが___」

 

「二度も食らったのだ。既にその攻撃は見切った。次はその光線を貴様の元へ打ち返して見せよう。

 

 

この重さにもじきに慣れる。もはや時間の問題だ。」

 

勇ましく剣を構えるアルトリア。どうやら形成が逆転した様だ。

 

「すごいです!アルトリアさん!」

 

 

 

 

 

「っ!流石は騎士王といった所か…ならば、君はどうだ!」

 

そういいアインシュタインは光線をガウェインの方へ放つ。

 

そして光線はガウェインに直撃しその体を貫く、そう思われたが

 

「申し訳ない御老人。太陽の出ている間、私の防御力は鋼をも上回ります。

 

少なくともこの程度の光線で傷つくことはないでしょう。」

 

「なんて!?」

 

恐るべきガウェインのゴリラっぷりに口をあんぐりと開けるアインシュタイン。

 

 

 

 

「カハハハハハ!ドンマイだなおじいちゃん!流石に決闘で騎士に勝つのは無理ゲーか。」

 

「………学者だからな所詮。戦士というのは化け物だな。私には戦いは向いていないようだ。」

 

諦めたような態度で軽口を叩くアルンとため息をつくアインシュタイン。

 

 

 

ピピピピピッ ピピピピピッ

 

 

その時、携帯の着信音の様なものが鳴った。

どうやらアルンの携帯の様だ。

 

「もしもし。あぁ、あぁ、分かった。すぐ行く。」

 

十数秒ほど会話した後電話を切ってアルンは藤丸達に向き直る。

 

 

 

「さて、いいニュースと悪いニュースがある。どっちから聞きたい?」

 

そう不気味な笑みを浮かべながら藤丸に問うアルン。

 

「…いいニュースからで。」

 

「オッケー。用事が出来ちまってな、悪いが今回はお開きだ。正直こっちもじり貧だったしそちらも無駄な戦いは嫌だろう?」

 

アルンが停戦を宣言する。それと同時にアインシュタインは己のスキルを解除する。これで全員が普通に移動することが可能となった。

 

「逃げるのか?」

 

「おう逃げるとも。これ以上やってお互い手の内晒すよりはずっとマシだ。」

 

アルトリアが挑発するもひらりと躱すアルン。

 

「それで悪いニュースだ。

 

 

そっちの陣営の名探偵…シャーロック・ホームズだったか。

 

逮捕されたってよ。」

 

『「「!!!」」』

 

それはカルデアにとって大打撃となるニュースだった。

 

「ベルリンで歩いてるところを捕まったって。

何してたんだろ?ヤクでもやってたのかな?」

 

そう笑いながら言うアルン。

 

「ッ!ホームズさんを____」

 

「『返してください』なんて言ってくれるなよ?マシュ・キリエライト。これは戦争だ。世界の救世主を相手にそんな甘ったるい事出来る訳ねーだろ。」

 

「……ホームズをどうするつもり。」

 

「まぁ取り敢えず首相官邸の地下にぶち込むわ。あ、いい事考えた

 

 

 

そこにいる人類最後のマスター、藤丸立香と交換なんてどうだ?」

 

試すような口ぶりで尋ねるアルン。

 

「ッ!」

 

『それこそ有り得ない選択だ。我々の最後の希望をみすみす死なせるわけないだろう。』

 

「カハッ、だろうな。言ってみただけだ。

 

それじゃあ俺たちは帰るわ。行くぞおじいちゃん。」

 

そういいアルンとアインシュタインは背を向けてヘリコプターに乗ろうとする。

 

「行かせると思うか?」

 

アルトリアが聖剣を構えて威圧をかけてくる。

 

「ここで貴方たちを捕まえてホームズと交換して貰うっていう手もあるよ。」

 

「残念だったな救世主。この異聞帯の王はアルン・ベッテルハイムを失っても何も損を

しない。無駄なことだ。

 

 

 

だがそれはそれとして、こうして威圧されると怖いな。ヘリも撃ち落とされそうだし。

 

仕方ない。一つ切り札を晒すとしよう。

宝具を解放せよ、アルベルト・アインシュタイン。」

 

そう命令するとアインシュタインはコクリと頷き地面に転がっていた小石を拾う。

 

 

「何をするつもりですか。まさかその小石を投げつける訳では無いでしょう。」

 

「すまんな…

 

 

その通りだ。」

 

そういいアインシュタインは石をポイッと上空へ放り投げる。

 

そして放り投げた瞬間にアルンとアインシュタインは素早くヘリコプターに乗り込みヘリを飛ばした。

 

「なっ、逃がすか!マスター、宝具をしy___

 

『それどころじゃない!マシュ宝具展開して!今すぐ!』

 

アルトリアが追撃を食らわせようとするも、ダ・ヴィンチが焦った声で緊急事態を知らせる。

 

「え?なぜd

 

『理由はすぐ分かるから!早く!』

 

石は空に美しい放物線を描き地面へと落ちてくる。

 

石が地面に触れるコンマ秒前にマシュは宝具を展開する。

 

 

「真名、凍結展開。これは多くの道、多くの願いを受けた幻想の城。

 

 

 

 

いまは脆き夢想の城!!!」

 

マシュが宝具を展開した直後

 

言葉にならないような轟音が響き渡り、それと同時に凄まじい爆風がマシュの盾を襲う。

災害が如き大爆発だ。

 

「ああああああああああああああああ!!!」

 

必死の思いで爆発から自分を、そして敬愛するマスターとそのサーヴァントを守るマシュ。

 

「マシュ!頑張って!!」

 

「あ、ぁぁ(ここで私が負けたら…先輩が…皆さんが!!!)あああああ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっわ、えぐいなこの宝具。」

 

一方ヘリコプターに乗り移ったアルン達は爆発の様子を上空から見下ろしていた。

 

「『E=mc2』。それが私の宝具だ。何、単純だ。この計算上の式を現実に移しただけ。

 

僅かな質量にも膨大なエネルギーが潜んでいる。しかしそれを表に出す事は大変難しいんだ。そんな秘められたエネルギーを直接引き出すのが私の宝具だ。

 

あの爆発程度から見るとあの小石は恐らく0.1g程かな。」

 

「…じゃあもし、1kgのダンベルを投げ捨てたりしたら?」

 

「地球が滅ぶだろう。安心してくれ、流石に制約がかかっている。

 

…それにこの宝具は私のトラウマでもある。なるべく多用は避けたい。」

 

「フフフ、そうかそうか…

 

 

 

 

 

 

 

だがそれを決めるのはマスターである私だ。」

 

 

「!?お前…」

 

アルンの雰囲気が急変し、アインシュタインは少し警戒する。

 

「アルベルト・アインシュタイン。ベルリンまでまだ時間がある。少し話をしよう。実は隠し事があるんだ。

 

 

 

 

君が自分を殺したくなるほどの秘密だ。覚悟するといい。」

 

 

 

 




戦闘描写でした。ぶっちゃけ滅茶苦茶なのは自覚してますがこればっかりは私の苦手分野で…。最後まで見てくださった方ありがとうございます。


次の投稿は相当先になると思います。
忘れたころに今回みたいにふらっと現れて一気に投稿すると思います。

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