これは俺が一ヶ月前に体験したことだ…。
★
「謎の電話?」
「はい、なのです!」
俺は秘書艦の言葉に耳を傾ける。
なんでもここ数日、俺が執務室を留守にしている時に無言電話が掛かってくるらしい。
しかしそれが有り得ないことだというのは、俺だけじゃなくて、秘書艦である彼女も知っているはずだ。
だがあまりに真剣な顔付きで、彼女が何度もそれを言うものだから、俺はとりあえず彼女の言葉に適当に合わせることにした。
そしてどこか怯えたような表情を浮かべている彼女が心配になったので、俺はその日の執務を早めに切り上げると、彼女を部屋に帰したのだ。
独りぼっちになった執務室は…どこか寂しげで、不安を煽るような感じがしてならない。
だが時計を見れば、まだ夕方といっていい時間帯。
「…ったく。電が変なこと言うから」
夕陽が差し込む窓辺。
そこから外を眺めると、陽に照らされて橙色になった海が果てしなく広がっているのが見える。
いつもは気にならないはずの海鳥の声が、どうしてかその日に限っては気に触って、耳障りだった。
窓辺から目を離す。
そして執務室をゆっくりと見渡すと、机の上に置かれた黒電話に目がいった。
「…無言電話、ね」
有り得ない話だ。
俺は受話器を手に取ると、それを耳に充てる。
充てがったところからは何も聞こえない。俺は乱暴に受話器を置いた。
それもそのはずだ…。
この黒電話は一言で言ってしまえば、飾りだ。
電話線は通っていない。一体なんのために置かれているんだろうな?
…え?これは俺が置いたんじゃないのかって?
違う違う。俺が着任した時から、これは既に執務室にあったんだよ。おそらく前任の忘れ物だと思うけど…。
そしてふと気が付いた。
夕陽が雲に隠れてしまったのか、辺りが一気に暗くなった気がする。
ジリリリリリリリ、ジリリリリリリリ…。
「…なっ!?」
鳴るはずもない黒電話が、けたたましい音を響かせる。
自分の体が強張っているのが分かった。
そして今起きている現象に、理解が追いつかなかった。
ど、どうする?
電話はずっと鳴り続けている。
…俺は、受話器を取ることにした。
「…もしもし」
繋がっていないはずの電話が鳴ったのだ。返答などあるはずもないと考えるのは、この事態に於いて誤った認識だろう。
受話器からは、さっきまでは聞こえていなかったはずのザーザーというノイズ音が聞こえてくる。
…やっぱり、何かがおかしい。
しばらくの間、俺はそのノイズ音を狂ったように聞き続けた。
すると意外にも…。それ以外は特に何も起きない。
なのでこの不可解な現象に俺は妙に落ち着いてしまった。
そして頭が冷静になってくると、俺は一つの仮説を立てた。
…なるほど。これは所謂ドッキリって奴だな?
そう考えれば納得出来るというもの。
そもそも秘書艦電が、無言電話の件を俺に報告してきたその日の内に、無言電話が掛かってきたんだ。
…出来すぎだろ?
おそらくこの電話は、明石あたりが適当に改造して、遠隔で動かしているのだろう。それでどこかに隠しカメラがあって、俺の怯える姿を撮影しているのだろう。
…ったく、下らん。
そう考えた俺は、先程まで感じていたものなど忘れて、受話器を耳から離し、置こうとした。その時だ。
「………わ…………さん」
「…あぁ?」
俺は思わず手を止める。そしてノイズ音に混じって聞こえてくる何かに耳を澄ませてしまった。
だが聞こえるのは、ノイズ音だけ。
…聞き間違えか?
俺は異音を聞き続けたせいで、耳がおかしくなったのだと思うことにして、今度こそ受話器を置こうとする。
「…私……さん」
「……ッ」
…どうやら聞き間違えじゃないようだ。
ノイズ音の中に、確かに聞こえる。
まるで機械が話しているような、無機質な声が聞こえてくる。
「…私、夕立さん。今、鎮守府の前にいるっぽい」
「…は?」
夕立…?夕立って、確か白露型駆逐艦の…?
するとガチャっという音が聞こえたので、思わず肩を竦めてしまったが、どうやら電話が切れたようだ。しばらく呆然としていたが、とりあえず受話器を置く。
「…なんなんだ?」
俺の鎮守府に夕立なんて艦娘は所属していない。
それどころか白露型は誰一人して、ここに着任していないはずだ…。
頭を捻っていると、再び電話がなった。
鳴り続ける電話に…俺は出ることにした。
「…私、夕立さん。今、食堂にいるっぽい」
「…お、おい!」
ガチャリ。
再び切られる電話。
そして間髪入れずに、電話の音が鳴り響いた。
今回は受話器を手に持ったままだったというのに…。
「…私、夕立さん。今、執務室の前にいるっぽい」
「おい!タチの悪いイタズラはよせ!!」
…ガチャ。ツーツー。
―――音が何も聞こえなくなった。
それは受話器からだけではなくて…まるで時間が止まってしまったのかと錯覚してしまう位に、部屋全体が静まり返っていた。
そして…。
着信音を鳴らさずに、ノイズ音の聞こえなくなった受話器から、体が凍りつくようなくらい冷たい声が聞こえてきた。
「…私、夕立さん。今、貴方の後ろにいるっぽい」
「う、うわああああああああああ!!!」
俺は受話器を投げ捨てる。
…ドッキリとは言え、怖すぎなんだけど!?
俺は息を荒くしながら、もうドッキリは十分だと電たちに伝えようとその場を後にしようとした。
でも俺は振り向けなかった。
なぜなら後ろに感じたのだ、誰かがいる気配を。
そして今度は受話器を通してからではない、直接俺の耳に響くようにして無機質な声が届いた。
「…私、夕立さん」
「……ぅ」
「…私、夕立さん。どうして…どうして」
「どうして捨てたっぽい?」
…ぬっ!?
「ど う し て」
「す て た の ?」
俺はゆっくりと振り向く―――
そこには充血しているのだろうか、真っ赤な色を瞳に映した少女が立っていた。
「…わたし、ゆうだちさん。どうしてすてたの?」
ジリジリと少女は歩み寄ってくる。
「捨てるわけないんだよなぁ…」
「夕立と言えば、駆逐艦の中でもトップクラスの火力を有している艦娘だよね?しかも魚雷を持たせれば、まず夜戦での活躍は間違いないよね?まぁ~、耐久性はちょっと心配なところもあるけど、それはどの駆逐艦にも言えることだよね?また対空対潜もこなせるし、その機動力も申し分ないよね?駆逐艦だから燃費もいいよね?後これ一番大事だけど、可愛いよね?」
「…ぽ、ぽいッ!?」
★
今でこそ彼女は、俺の鎮守府に無くてはならない存在だ。
次の題材について。お気軽にお答え下さい。多分ご存知だと思いますけど、完全にネタで書いてるのでガチホラーとか求められても、作者の力量では到底書けませんので悪しからず。作品投稿いつになるかは未定です。思ってたのと違う…っていうのはご容赦下さい。ちなみに回答の○×○は艦娘が主人公の場合もありますし、艦娘自体が怪異になる場合もあります。
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