ヤンデレに愛される最強   作:翠晶 秋

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ヤンデレとアダマンタイト

 

「おはよう」

「ええ、おはよう」

 

朝、目覚めたハクはあくびをすると、当然のように寝室に入り込んでいるフィリアに挨拶をする。

 

「ところでさ」

「何かしら、ハク?」

 

 

 

「───なんで俺は鎖で縛られてるのかな」

 

 

 

じゃらり、と水色の鎖が鳴く。

 

「あら、何かおかしいことがあったかしら?」

「おおありだわ。なんだってこんなことを」

「あの老いぼれ中年魔王がハクにお見合いとか言い出したから縛っただけよ?そうすればハクはどこにも行かないわ。ふふ、ふふふふふふ……」

「落ち着いてフィリア、老いぼれで中年は矛盾してるから」

 

暗い笑みを浮かべるフィリアにツッこんだ(のち)、ハクは「ふんっ」と力を入れる。

鎖はミシミシと悲鳴を上げるが、最強の勇者であるハクがどれだけ力を込めようと、鎖は決して壊れなかった。

 

「無駄よ。だってそれは、ハクを守るために購入したアダマンタイトの鎖だもの。いくつか不純物は混ざってるけど、さすがにハクでも壊せないわ」

「いや高い!アダマンタイトって高いから!どこでそんなお金手に入れたの!?」

「向こう三年分のお給料はつぎ込んだわね……。でも問題ないわ。お金は増えるけどハクは一つだもの。絶対に、誰にも渡さないから」

「重い!鎖も重いけど愛も重い!」 

 

心の底から「アダマンタイトなんて代物、武器に使えよ」と思うハクだったが、このアダマンタイトの鎖は意外と鎖として機能しているようで、ハクの額に始めて冷や汗が浮かぶ。

 

 

だから、関節を外す事にした。

 

 

コキャ、コキャとハクの体から音が鳴る。

ミミズの様な動きで鎖から解き放たれたハクが「ふんっ」と力を込めると、ハクの体から今度はゴキャ、という音が鳴り、間接が全て元通りとなる。

 

「よし、出れた」

「……さすがね、ハク」

「っつかさ、なんでフィリアがアダマンタイトなんて代物持ってたの?これ、だいぶ遠いところの鉱石じゃない?」

「それは……その……」

 

いいよどむフィリア。

普段言いたいことはすっぱり言うフィリアが言葉を濁すのを怪訝そうに見るハクは、

 

「……まさか」

「ぎょっ、行商なんて事は、ない、わ……?」

「……フィリア、すまん。記憶を見せろ」

「い、いやっ。やめて」

「心苦しいが……。すまん。【メモリアル】」

 

嫌がるフィリアに、魔法をかけたのだった。

 

 

 

 

「じゃあねハっくん。フィリアちゃんがここまでするなんて、ハっくんもすみに置けないね」

「フィリアは勘違いしてるだけだって。じゃな、アっくん」

 

昨晩。

冷や汗を浮かべながらそそくさと退場するアビスに、既に腹部の再生を終えたハクは「逃げんな」と視線を送りつつも見送る。

ぱたんとハクの家の扉が閉められたとき、ハクの型に手が置かれた。

 

「やっと二人きりになれたわね……」

 

言わずもがな。

 

「……でも、とても惜しいけれど、今日はもう帰るわ」

「……え?あのフィリアが?」

「どの私かしら……?とにかく、今日はなんだか疲れてしまって、早めに寝たい気分なの」

 

意外や意外、なんとあのフィリアが二人きりに状態のハクを前にして『帰る』などと。

目を見張るハク。

しかし、フィリアがそう言うのだったら引き留める訳にも行かない。

 

「お、おう。じゃあな……?」

 

ハクは首をかしげながらもフィリアを見送るのだった。

 

さて、大体の時間をハクの家で過ごしているフィリアだが、別段ハクの家に住んでいる訳ではない。

住んでいた騎士寮のある仕えていた国は既に灰塵と化しているので、現在のフィリアは宿暮らしなのである。

 

「(別に恨んでいるという訳ではないけれど)」

 

むしろ好都合であった。

ハクは負い目を感じているのか、深夜の時間帯、遅くなりすぎた場合には一晩泊めてくれるのだ。ひゃっほう。

 

「ん。閉門ギリギリの時間帯だが、こんな時間に入国か?入国理由は?」

「旅人じゃないの。この国に家があるのよ」

 

昼間の兵士とは違う、夜にシフトを入れた兵士に騎士の資格であるバッジを見せるフィリア。

 

「こっ、これはこれは。すみませんでした、お通りください」

 

騎士の資格を見た兵士の態度が豹変する。

実は騎士と兵士の資格は同じ国が認めている物であり、騎士の試験に落ちたものが兵士になるのが一般的。

 

騎士は一人居るだけで国の即戦力になり得るので、身元の明るい兵士よりも旅人の騎士の方が優遇される、なんて事はザラではないのである。

 

「ありがとう」

「いっ、いえいえ」

 

無事入国できたフィリアは宿に向かう。

そんなフィリアに、声をかける者がいた。

 

「お嬢さんお嬢さん、剣を持ってるってこたあ冒険者かなんかの人だろ?ちょっと良いものがあるんだけど、見てかないかい」

「良いもの……?」

 

この国に何日も滞在しているのか、何度か見たことのある行商がフィリアを呼んだ。

ハクから「行商は詐欺の場合があるからなるべく近づかないようにね」と釘を刺されているフィリアは暫く悩んだ後、怪しかったら買わなきゃいいか、と行商に近付いていった。

 

風呂敷を広げた行商は嬉しそうな顔をすると、風呂敷の上の商品を指差していった。

 

「えー、こちらが、伝説の剣士が持っていたと言われる剣の(つば)ですね。剣士の加護により獲得する経験値が増えるとか噂がありますが……でも、出てきたところが不明なんで偽物の場合もあります。買うのはあまりオススメしませんね」

 

今の説明だけで、フィリアはある意味で感心していた。

行商は物を売ることに躍起になっているが故、どんなものでも売れば勝ちの精神で売り込んでくる。

しかしこの行商は人が良いのか、自らの商品の欠点も申したではないか。

 

「次は、勇者の魔力を浴びて作られたと言われる、神酒(しんしゅ)ですね。これは身元が判明してますよ。なんとあの、『国殺し』の勇者ハクです」

「ぶっ」

「……どうかしました?」

「い、いえ、なんでもないわ。続けて」

 

身近な人物が物騒な二つ名を付けられている事に不覚にも吹き出してしまうフィリア。

 

「……?はあ、わかりました。では、ごほん。勇者ハクが魔族領に行く旅路で、魔力を注ぎ続けたらしいのです。魔族との交渉材料にしようとしたらしいのですが、思いの外交渉がうまく行き、要らなくなったので売り払ったそうなのです」

「そ、そう……」

 

『国殺し』と達筆な字が書かれた瓶を目にして、フィリア笑いを必死に堪える。

 

「では、次の商品を。こちらです」

「鎖、かしら?」

 

硬質的な音を立てながら商人が取り出したのは、件の鎖。

 

「こちら、不純物は少し入っていますが、アダマンタイトでできておりまして」

「アダマンタイト……?すごく貴重な鉱石じゃない。なんで鎖にしたの?」

「ええ。鉱石と鍛冶の国ににて、オリハルコンゴーレムが、討伐されたようで。オリハルコンゴーレムの武器に使われていたそうなのですよ。重さをご確認ください」

 

ほぼ鉄の鎖と同じ重さの鎖は、しかし鉄の鎖のような不純物感は感じられない。

 

「(モーニングスターの(たぐい)かしら)」

 

しかし、アダマンタイトともなると話は別。

素材としては重宝するかもしれないが、偽物の可能性もある。

自然と慎重になるというもの───

 

「これさえあれば、魔王はおろか、勇者だって拘束でき───」

「買うわ」

 

即決であった。

 

「手形でいいかしら?」

「はっ、はい。ほ、ほんとに良いんです?」

「ええ」

 

手形とは、銀行の口座からその分だけ引き落とせるという、いわば引換券のようなもの。

そしてフィリアの現職業は銀行員。それもかなり重要な立場の。

 

「……はい、これ」

 

銀行以外で手形を作るくらいの無茶は、どうとでもなるのだ!

 

 

 

 

これが、全ての真相である。

 

「あぁ~……。作ったなぁ、神酒……。つーか俺、そんな物騒な二つ名作られてたの!?あとフィリア、案の定行商から買ったのかよ!ツッコミが追い付かねえよ!」

「ご、ごめんなさい、ハク……」

「はあ、はあ……。にしても、オリハルコンゴーレムねぇ?魔王城で働いてるとこしか見たことないぞ。自然のポップなんてなおさら……。何か、悪い予兆じゃなければ良いんだけどな」

 

ベッドにくくりつけられていた鎖を外して手で弄ぶハク。

フィリアは夜中の判断力が鈍っていた自身をかなり甘い判定で戒めると同時に、考えていた。

つい最近、遠く離れた場所で新しい魔王が生まれたという情報があった。

 

伝えるべきか、いや、ハクが出るような事件でもない。

 

そう判断したフィリアは胸中にその噂を閉じ込めるのだった。

 

「……ハク」

「フィリア。即決で行商の物を買ったらダメって言ったよな。いや、フィリアの金だから良いんだけどさ」

「…………」

 

ぽん、とフィリアの頭に手をのせるハク。

 

 

「俺は、フィリアに悲しい思いはしてほしくないの」

「………………!」

 

 

震え、喜びをなんとか顔に出すまいと頑張るフィリア。

小鳥が、ちゅんちゅんと朝を知らせた。

 

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