ヤンデレに愛される最強   作:翠晶 秋

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ヤンデレがもう1人

 

国の郊外。

そこにそびえ立つは剣の一振りで全てを滅ぼした者の住まう、大きな家があった。

そこのリビングに座るは、神世すら蹂躙する勇者、民を愛する魔王、銀河を切り裂くその娘、そしてその全てを習得できる無限のポテンシャルを持つ銀行員である。

 

彼らの視線の先には、勇者を、魔王を、その娘を、銀行員を脅かす一枚の紙切れが落ちていた。

 

「今年も来たな……」

「ワシもう帰っていいかな?」

「ボクらにとって、最悪の時間だね」

「悪意の塊とはこれのことを指すのね」

「「「「第35回『めがみちゃまの試練』……」」」」

 

その大陸に移り住んだきた女神によって一年に一度開かれる祭り。

仮装パレードやモンスターショーなど、祭りの内容はそのときの女神の気分で変わる。

がしかし、その優勝者に与えられる賞品は神の名に相応しく、『願いを叶える』というもの。

今回はハクの元に手紙が届いてからすぐに全員を招集し、その場で始めて開くことになっていた。

 

「あの年増女神め……」

「今年はどんな……」

「試練を……」

「用意してくるのかしら……」

 

ハクが恐る恐る封を切る。

二つ折りにされていた紙を裏返すと、そこには『愛のダンス』と書かれていた。

なお、『ダンスのパートナーは私が決めるんでしくよろ』とも。

 

「愛のダンス……?」

「これは……難しい……」

 

しかし、優勝者が万が一、悪しき野望を抱く者だとしたら。

世界救う組は嫌でも参加をしなければならないのだ。

 

「だいたい、前日に項目が発表されるってのもおかしいだろ!」

 

といきり立つハク。

───ウソである。

この男、お題の封筒が家に届いてからすぐに封を切り、届いてから十日間、仲間達に隠した上で夜な夜なダンスの練習をしていた。

なお、優勝した際の願い事は『億の富』である。

 

「そうだよねえ。優勝しても叶えてもらう願いもないしねえ」

 

アビスはため息をついて言う。

───ウソである。

この男、ハクがこの世界に来る前から、否、この文化が創設されたその日から毎年参加し、自身が優勝した後のデモンストレーションまで行っていたのである。

なお、願いは『巨万の富』。

 

魔族領には不慮の事故(悪しき勇者の仕業)で郵便屋が襲われ、神からの手紙は紛失したらしく、アビスは今日ここで始めてお題を目にした。

富を狙う男どもが視線を交差させ、無言の圧力をぶつけ合う。

札で頰を叩く、コインの風呂に浸かる、働かなくても生きていける分の金。それらは男のロマンとして各々の心の芯の芯、原動力となっているのだ!

 

「……ほんと、男ってバカよね」

「あーあ。恥ずかしいよ。ねえフィリアちゃん、もしも優勝したら何を願う?」

「……世界平和、かしら?」

「あー、騎士っぽい!ボクも優勝したらそれにするよ」

 

仲直りしたフィリアとイヴの2人が笑い合う。

 

 

 

 

 

───全くもってウソである!!!!

 

 

 

 

 

この女ども、自室の壁にハクの盗撮写真をこれでもかと張り、毎晩一時間ほど眺めてから眠り、起きてまた一時間写真を眺めるという生活サイクルを送っている2人である。

見目麗しい少女2人は鉄の仮面を顔面に貼り付けて心の奥底ではどう相手を出し抜くかという考えしかないのだ。

なお、フィリアは宿暮らしのためコルクボードを用意するという徹底っぷり。

 

2人には願い事と、ランダムで相手を決めようとする女神を物理でねじ伏せて意中の相手と踊ることしか頭にないのである。

この2人の願い事とは……お察し。

 

「よし、なら練習でもするか?」

「「私(ボク)が相手に!」」

「んー、ワシはパスかな。あんまりダンスって得意じゃないし。ワシ、今日の所は帰るね。練習頑張ってね」

 

───くどいようだがウソである。

 

人懐こい笑顔の裏に魔王にふさわしき含み笑いを浮かべ、アビスは少年時代に自らのダンス講師をしていた女の郵便番号を思い出していた。

たとえ相手が親友であろうと、娘であろうと勝利を勝ち取るというこの意思の固さ。

これが、これこそが、魔王アビスイート・オルガナンレーゾンのやり方である!

 

「おーう。帰り道気をつけてな」

「それじゃあハク、私と踊りましょう……?」

「ずるい!ボクが先だよ!」

「いいえ、私」

「ボクは小さい頃ダンス習ったもん!」

「私だって騎士の演舞を習ったわ」

「演舞とダンスは違うじゃん!」

 

乙女2人の喧嘩を聴きながらハクは踊る場所を作るために机を片付け始める。

やがて2人が剣と魔法を使い始めた頃になって、ようやくハクは止めに入った。

説得という名の物理によって!

 

「んで、踊る人は決まったのか」

「ぜえ……ぜえ……もう動けない……」

「軟弱ね……。お姫様は動く機会がないのかしら?」

「あ、じゃあ練習相手はフィリアか。イヴ、ちょっとこれに触れろ」

「……?ハクがいっつも持ってる剣だよね。これがなにか?」

 

亜空聖剣デュランダリアをイヴに預けるハク。

すると、イヴのあざや傷が、みるみるうちに癒えていく。

 

「それ持ってると超回復するんだ。大切なものだからちゃんと持っててくれ」

「……っ!!わかった!!」

「む……ハクの大切なもの……。ちょっとずるい」

「腹筋割れてる女騎士様には無縁だね!疲れることがないから」

「わっ、割れてない……!もちもち……!」

 

もちもちはもちもちでどうかと思う。

そんな言葉を呑み込み、ハクはダンスの仕方を思い出すためにステップを踏むのであった。

 

 

 

 

「あーあー、マイクテス、マイクテス……」

 

勇者、魔王、その娘、銀行員、その他モブキャラの前で、黒髪ツインテールの幼女が声を上げる。

なお、幼女の前にはマイクなどない。もちろんのこと、ハク以外はマイクテストがどんな意味なのかを知る由もない。

 

現在場所は雲の上。女神的なパワーでゴリ押しした結果、庭の豆は天までにょっきにょきと成長し、雲は上等なカーペットのように硬すぎず柔らかすぎずな床となっていた。

 

「これより!だいさんじゅーごかい、『女神ちゃまの試練』!はじめましゅ!」

 

噛み噛みの愛嬌ある姿から開催の声が発せられ、民は沸き立つ。

沸き立つ民を哀れんだ目で見るのが、我らが勇者御一行。

フィリアは胸元に薔薇を模したブローチを付けた情熱的な真紅のドレスを、イヴは相対的に胸元に純白の百合のブローチを付けた落ち着いた色の蒼のドレスを身にまとっている。

 

「おお……娘のドレス姿とは……ワシもう死んでもいい……」

「死ぬな死ぬな、ウェディングドレスじゃないんだぞ。……それにしても、すげえダブルヒロイン感があるな」

 

そう、2人は紅と蒼、薔薇と百合という相対的な組み合わせのドレスを着つつ、フィリアは美しく、イヴは可憐にという、初代プリキュアを思わせるマッチをしていた。

これで背中合わせになって武器を構えていたら、もう少しイヴの瞳が暗かったら、さしずめ『ふたりはヤンデレ!』といったところだろうか。

 

「褒めてもらえて嬉しいな。えへへ」

「でも、これで踊る相手がハクではない可能性もあるのでしょう?……すこし、残念ね」

「ふっふっふ……甘いよ、フィリアちゃん。ちゃんとその辺の対策はしてあるから。ほら、これ見て」

 

イヴは持ってきた紙袋の中身を、フィリアに見せる。

興味本位でハクも紙袋を覗き込むと、信じられないものがハクの目に入った。

 

「イヴ、これは……」

「日本人の魂じゃないか!」

「は、ハク?」

 

ふっふっふと勝ち誇るような笑みを浮かべて、イヴは紙袋の中身を掲げる。

 

「これはね、ドレスの代わりだよ。ハクから聴いたものを再現しようと、頑張って作らせたんだ」

「ば、馬鹿な……。この手触り、この伸縮性……間違いない、これは……!」

 

 

ジャージじゃないか!

 

 

ハクの叫びに、フィリアはきょとんとし、イヴは胸を張る。

薄地なのに防御力を持ち、ダサいのにオシャレという矛盾を宿した、アーティファクト、いや、神器とも呼べる代物。

日本人の魂はこうして異世界にすらも浸透し、今ここで、1人の日本男児を涙させた。

 

「すごい、すごいぞイヴ!よく再現した!ありがとう、ありがとう……!」

「えへへ。どう?すごい?」

「ああ、満点だイヴ!すごい、すごいぞ!」

「あとでハクにもあげるね?」

「よっしゃあ!」

 

だんだんと褒められるイヴの瞳が濁っていく。

写真を集めて自室に張る時点で素質はあった。

 

───今ここに、1人のヤンデレが確立したのだった。

 

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